平成21年度要求額:198百万円
(平成20年度予算額:123百万円)
事業開始年度:平成19年度
事業達成年度:平成22年度
発達障害のある幼児への早期発見・早期支援を実施するための効果的な方策等を研究し、教育、医療、保健、福祉等の関係機関と連携した支援体制を整備することを通じ、障害のある幼児への支援の充実を図る。
学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、高機能自閉症等の発達障害については、平成14年度に文部科学省において実施した全国実態調査において、小・中学校の通常学級に約6.3パーセント程度在籍している可能性が示された。その後、平成17年4月に、従来の障害種による制度の谷間で必要な支援が受けられなかった発達障害者に対し、必要な支援が受けられるよう、議員立法により発達障害者支援法が施行された。発達障害者支援法には、特に発達障害のある幼児児童生徒への早期発見・早期支援の重要性及び障害の状況に応じた適切な教育的支援を行うことが国及び地方公共団体の責務であると規定されている。
それらを受けて、平成19年4月には、改正学校教育法により、幼稚園・小・中学校・高等学校等全ての学校において、発達障害を含め障害のある幼児児童生徒への適切な教育を行うよう規定され、全ての学校における特別支援教育の体制整備を、国として対応すべき喫緊の課題として推進しているところである。
特に幼児期については、保護者と教育、保健、医療、福祉等多岐にわたる関係機関が緊密な連携の下に対応する必要があり、その連携方策や効果的な支援方法について実践研究を行うため本事業が開始された。
平成19年度は17地域、平成20年度は10地域を指定して事業を実施しているが、教育相談の実施等により、保護者の不安を受け止め早期発見につなぐことができた、市町村部局と教育委員会の組織を連携型に改編したことで、窓口が一本化されて確実に支援につなげることができたなどといった成果が得られている一方、早期発見には日頃から集団の中で幼児を観察している幼稚園教諭や保育士の資質向上が不可欠である、障害を持たない子どもの保護者の理解・啓発が必要、関係機関の連携を確保するツールである個別の教育支援計画の作成ノウハウの確立などの課題も報告されており、今後の研究において、それらの有効な対応方法の報告が期待される。
「発達障害者支援法」に明記された発達障害者への早期発見・早期支援の取組を行うため、教育委員会及び教育関係機関が、医療、保健、福祉等の関係機関と連携し、発達障害の早期発見並びに発達障害のある幼児及びその保護者に対する相談、指導、助言等の早期支援を行うことによって、早期からの総合的な支援の在り方について実践的な研究を実施する。(平成19年度~22年度)
当事業におけるモデル地域については2年間を上限に研究を実施することとしており、事業が終了した地域から順次取り組み事例を全国の自治体へ普及させる。
平成19年度の指定地域の報告書等から明らかとなったように、ライフステージを通じた一貫した支援が可能となるよう、関係機関が緊密に連携をし、さらに個人情報等にも配慮した個別の教育支援計画の作成方法や就学時に幼稚園等から小学校へ情報を円滑に引き継ぐ方法等について、さらに検討が必要であるため、平成21年度については、以上のような課題に重点を置いて事業を実施する。
全国のモデルとなるような多様な先行事例を可能な限り収集し全国へ普及する。
モデル地域において、支援を必要としている幼児(いわゆる「気になる子」を含む)に対する支援体制を整備する。
各モデル地域から提出される事業報告書において把握する。
達成目標2‐11‐1において「幼稚園から高等学校までを通じて、発達障害を含む障害のある子ども一人一人の教育的ニーズを把握し適切な支援を行うため、体制整備等を推進する」と記述されており、本事業の拡充は必要不可欠である。
発達障害は主に社会性や他人とのコミュニケーション等に非常に困難が生じる障害であり、外見だけでは障害の有無がわかりにくいという特徴を持つが、幼児期に発見をしてその障害の状況等に応じた適切な療育を行うことで、将来社会生活や集団にうまく適応できると言われている。しかし、適切な支援がされず周囲の理解が得られないと、いじめの対象となったり不登校等の二次障害を引き起こし、思春期にはその対応がさらに困難になる事例もあると言われており、一人一人の教育的ニーズを把握した早期発見・早期支援が重要であるが、そのためには、教育、福祉、医療、保健等の多岐に渡る関係機関が緊密に連携した体制整備が必要である。よって、当事業は施策目標の実現に結びつくものである。
発達障害については、近年認識されてきたこともあり、有効な支援方法や障害の判断基準については研究途上にある。よって、まず支援等に関する基本的な方向性(モデル)を国が示すことは最も重要な役割であると考える。また、発達障害の早期発見・早期支援のためには、教育、福祉、医療、保健等の多岐にわたる関係機関が緊密に連携し、支援体制を整備する必要があるが、そのためにはそれぞれの政策分野を担っている自治体の首長部局、教育委員会が連携することが必須であるため、当事業は民間や地方ではなく国が主導すべき本来業務であると考える。
○高等学校における発達障害支援モデル事業(初等中等教育局特別支援教育課)
高等学校における発達障害のある生徒に対する効果的な支援策について、実践研究を行う。
発達障害については、ライフステージに応じた一貫した支援が必要である。当事業と関連事業については、発達障害を持つ子どもを対象としていることでは関連があり、同じ達成目標に位置付けられるが、対象が幼児と高等学校の生徒で異なっており、それぞれの事業の持つ研究課題も異なっている。
記載事項(抜粋)
第3章 今後5年間に総合的かつ計画的に取り組むべき施策
(3)基本的方向ごとの施策
基本的方向2 個性を尊重しつつ能力を伸ばし,個人として,社会の一員として生きる基盤を育てる
6 特別なニーズに対応した教育を推進する
改正教育基本法第4条第2項において,障害のある者への教育上の支援について新たに規定された。障害のある幼児児童生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するという視点に立ち,幼児児童生徒一人一人の教育的ニーズを把握し,その持てる力を高め,生活や学習上の困難を改善又は克服するため,適切な指導及び必要な支援を行う特別支援教育を推進する。あわせて,外国人児童生徒など,特別なニーズを有する者に対応した教育を推進する。
【施策】
◇ 特別支援教育の推進
幼稚園から高等学校までを通じて,発達障害を含む障害のある子ども一人一人の教育的ニーズを把握し適切な支援を行うため,特に,特別支援教育支援員の配置を促すとともに,小・中学校に在籍する障害のある児童生徒に対して「個別の指導計画」等が作成されるよう促すなど,体制整備を推進する。
また,特別支援学校については,外部専門家の活用を含めた教員の専門性の向上や就職率の改善のための取組への支援を推進する。あわせて,障害のある子どもと障害のない子どもとの相互理解を深めるための活動を推進する。
特別支援学校の在籍児童生徒等の増加に伴う大規模化等に対する地方公共団体等の取組を支援する。
記載事項(抜粋)
(特別支援教育、幼児教育の振興等)
発達障害を含む障害のある子どもたち一人ひとりの教育的ニーズに応じた特別支援教育や、海外子女、外国人児童生徒の教育を推進します。
記載事項(抜粋)
4 教育・育成
○ 基本方針
発達障害を含む障害のある子ども一人一人のニーズに応じた一貫した支援を行うために、各関係機関等の連携によりすべての学校における特別支援教育の体制整備を進めるとともに、特別支援教育に携わる教員の専門性の向上等により、特別支援教育の更なる充実を推進する。
また、障害のある社会人等に対しても、ニーズに応じた学習の機会を提供していくことにより、着実な支援の推進を図る。
(以下略)
記載事項(抜粋)
第4章 持続的で安心できる社会の実現
2.教育再生
【具体的な手段】
(1)学力向上の取組
2 分かりやすく、魅力のある授業
教科書の質量両面での充実、国語、英語などの充実、社会の要請に対応した教育内容・教科再編、全教室でITを授業に活用、発達障害児など特別な支援の必要な子どものための教員・支援員の適正配置や外部専門家の活用などすべての子ども一人ひとりに応じた教育。
記載事項(抜粋)
第5章 安心できる社会保障制度、質の高い国民生活の構築
1.国民生活を支える社会保障制度の在り方等
【具体的な手段】
(2)重要課題への対応
4 福祉施策や健康対策等の推進
障害者の生活支援や就労支援・雇用促進等を進めるとともに、障害者自立支援法について、障害児支援の在り方など制度全般にわたる抜本的な見直しを行う。
また、発達障害児・者に対する支援や精神障害者の地域移行を推進する。
記載事項(抜粋)
1,学力向上にあらゆる手立てで取り組む‐ゆとり教育見直しの具体策‐
提言2 全ての子供にとって分かりやすく、魅力ある授業にする
記載事項(抜粋)
3.戦略の具体的内容
第1部.国民自らがそれぞれの立場に応じて行う健康国家
1.子どもを守り育てる健康対策(子どもの健康力)
(2)発達障害児等を支援する体制の構築
記載事項(抜粋)
3 未来を担う「子どもたち」を守り育てる社会
《3 育児不安を抱える家庭等すべての家庭への支援》
〈障害児支援・発達障害者支援等の充実〉
障害の早期発見・支援、卒業後の就労や地域生活向けた支援、障害児施設の在り方などについて見直し
平成19年度から全ての学校において、発達障害を含む障害のある幼児児童生徒への教育を行うよう、学校教育法の改正を行い、各学校における特別支援教育体制の整備を推進していることもあり、現場においても次第に発達障害に対する理解が進んできていると認識している。また、平成19年度に当事業において指定したモデル地域においても、発達障害に対する理解が高まるにつれ、教育相談等の活用や個別の教育支援計画の作成が増え、早期発見・早期支援につながっているとの報告がある。よって、目標は達成できると見込まれる。
発達障害については、外見上障害の有無が見えにくいこともあり、日常的に接している保護者や幼稚園教諭等が何らかの違和感や不安を感じ教育相談等を利用することで、医療機関や専門家への誘導が可能となり、支援の必要性が判断出来るという実態がある。
よって、障害の有無や支援の必要性を判断するためのきっかけとして、教育相談等は重要であり、それが充実することによって、一人でも多くの子ども達を支援に結びつける事ができる。
また、支援が必要な幼児一人一人の支援ニーズを把握するための個別の教育支援計画の作成については、まさに上位目標を達成するための手段である。
本事業の予算規模は198百万円である。
(諸謝金)69百万円、(委員等旅費)81百万円、(教職員研修費)49百万円
本事業は、発達障害のある幼児一人一人のニーズに応じた適切な支援を行うことを目標としており、そのための体制整備や関係機関の連携ツールである個別の教育支援計画を作成するためのノウハウを確立し、その良事例を全国に普及することが目的である。
指定地域については、原則2年間を上限に研究を実施することとしており、平成20年度までに20地域を指定した。達成年度までに、40地域を指定することを目指している。
体制整備については次第に研究が進んできたところだが、今後はきめ細かな質の高い支援方策を確立する必要があるため、個別の教育支援計画の作成ノウハウ等について重点的に研究し、その成果を普及することは、全国約1,800の市町村の期待するところであり、当事業の効果は大きいと考える。
市町村においては、それぞれ活用できる資源も地理的条件も異なっているため、本事業のインプットは必要最低限であるが、当事業の波及効果により、全国約1,800市町村の支援体制の整備に資する点を勘案すると、非常に効率的であり、インプットとアウトプットの関係は適切と考えられる。
発達障害については、その診断方法や支援方法について研究の途上にあるため、支援に関する基本的な方向性や標準的なモデルを研究して示すことは、国としての本来業務であると認識している。よって全地方公共団体への委嘱や一部の団体等への委託での実施はなじまない。
本事業は、全都道府県・市町村へ募集をかけ、専門家による審査会を経て指定地域を採択するため、公平性は十分担保している。
発達障害者支援法や学校教育法の改正などの必要な制度改正を終え、現場における発達障害のある幼児への支援についての実践は始まったばかりであり、まさに喫緊の課題であるとともに、支援の困難性から一刻も早く効果的な支援体制・支援手法の確立が望まれている。また、早期発見・早期支援をすることで、その後の成長過程における支援の度合いが軽減するなどの効果が期待出来ることからも、本事業は国が率先して取り組むべき政策であると考えられる。
21年度概算要求に反映する。
評価結果は妥当。ただし、より具体的な目標を設定するよう検討する。
当事業は発達障害の子どもに対する早期発見・早期支援について、各市町村(モデル地域)における人材や資源等がそれぞれに異なる中、実践研究を行いながら総合的な支援体制を整備するための方策を検討していただき、国として他の地域の参考に資するような優良事例(モデル)を収集するための事業である。よって、より具体的な目標を現時点では定めることは上記趣旨に鑑みるとできない。
モデル事業が終了し、優良事例をもとに国として基本的な方向性を示した段階で、より具体的な目標設定が可能であると認識している。
大臣官房政策課評価室
-- 登録:平成21年以前 --