3.各事業の評価

(e)社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラム

1.事業の概要

(1)事業目的

 本事業は,社会人の「学び直し」のニーズに対応するため,大学・短期大学・高等専門学校(以下「大学等」という。)における教育研究資源を活用した,社会人の再就職やキャリアアップ等に資する優れた実践的教育プログラムの開発・普及を進めるとともに,平成19年度の学校教育法改正により制度化された履修証明制度の定着促進,平成20年度から制度化されたジョブ・カード制度の中核の一つとして位置付けられた実践型教育プログラムの開発・普及を図り,再チャレンジを可能とする柔軟で多様な社会の実現に向けた高等教育機会の充実を目的とするものである。

(2)事業に至る経緯

 近年,ニート・フリーター等の若年者雇用問題,正規・非正規雇用の格差問題,団塊の世代の大量退職問題等が生じている。こうしたことを背景として,政府の再チャレンジ推進会議が取りまとめた「再チャレンジ可能な仕組みの構築(中間取りまとめ)」においては,多様な機会が与えられ,何度でも再チャレンジができる社会,学び方等が多様で複線化した社会の仕組が必要であるとされ,大学等における社会人の「学び直し」の推進が打ち出されるなど,大学等の教育研究資源を活用した学習機会の提供の必要性が指摘されている。
 また,日本の中長期的な高等教育の将来像及びその実現に向け取り組むべき施策を示した「我が国の高等教育の将来像」においても,少子高齢化の進展等にともない女性や高齢者が就労する機会が一層増大することも予想されるなか,幅広い学習ニーズに応えて,必要なときにいつでも学習できる環境と多様なメニューを提供すること,また,多様化・複雑化していく人材需要に対して,各高等教育機関が,競争的環境の中で創意工夫を凝らして,社会人の再教育を充実させること等によって対応していくことが基本であるとされている。
 このようなことを背景に,国公私立大学等における教育研究資源を活用した,社会人の再就職やキャリアアップ等に資する優れた実践的教育プログラムの開発・普及を進めるため平成19年度から「社会人の学び直しニーズ対応教育推進プラン」を実施している。

(3)事業概要

 本事業は,「再チャレンジ(社会人の学び直し)」という観点から,大学等においてその教育研究資源を活用して,以下に掲げる内容の教育プログラムの開発・実施を行う委託事業である。(平成20年度予算額1,960百万円(平成19年度予算額1,760百万円))

  • 1) 社会人(現に職業を有する者に加え,子育て等により就業を中断した女性,ニート,フリーター,高齢者等も含む。)を対象とした教育プログラムであること
  • 2) 関係団体(経済団体,職能団体や地方公共団体の労働関係部局など)との連携等により,社会のニーズを十分に踏まえ,再チャレンジ(再就職やキャリアアップ等)に役立つ教育プログラムであること
  • 3) 単なる公開講座ではなく,学び直しのために体系的に構築され,かつ,短期(1年未満)で修了できる教育プログラムであること
  • 4) 大学等における教育・研究資源を活かした教育プログラムであること
  • 5) 一定の能力を身に付けたことについて大学等が証明し,その履修証明の社会的な通用性を高める努力を大学等が行うこと

 この事業の選定に当たっては,有識者・専門家等で構成される「大学・専修学校等における再チャレンジ支援推進プラン委員会」及び「社会人学び直しニーズ対応教育推進プログラム部会」を組織し,第3者による公正な審査を行っている。
 さらに,選定された取組については,他の大学等における取組の参考となるよう,ホームページでの公開等により,広く社会に情報提供を行っている。
 平成19年度においては,国公私立大学等を通じて総計315件の申請があり,126件の優れた取組を選定した。

社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラム

2.必要性,有効性,効率性

(1)必要性

 教育基本法(平成18年12月),学校教育法(平成19年6月)が改正され,大学等が,その教育研究成果を社会に提供し,社会の発展に寄与することが重要な責務であることが法律上明確化され,大学等においては,正規の学生に対する教育と並んで増加しつつある社会人等の多様な学習ニーズ(図5−1−1及び2「生涯学習に関する世論調査」《内閣府,調査時期:平成20年5月,有効回答数:1,837》)に応えていくことも重要な役割の一つとなっている。
 また,「再チャレンジ支援総合プラン」においても,「国民ひとりひとりがその能力や持ち味を十分発揮し,努力が報われる公正な社会を構築していくことが,国政の重要課題」,「このため多様な機会が与えられ,失敗しても何度でも再チャレンジできる社会,学び方が多様で複線化した社会の仕組みが必要」,「人生の各段階における学び方について選択肢を多様化するため社会人の学び直しの機会の拡大を推進する」こととされている。
 さらに,平成19年度に学校教育法等の改正においては,大学等において学位以外の教育プログラムとして120時間以上の体系的な教育プログラムを提供し,修了者にその履修を証明する「履修証明制度」が発足し,大学等は新たな教育プログラムとして社会の学習ニーズに応えていくことが求められている。
 あわせて,社会人が大学等で実践的な教育を受け,履修証明を得て,職業キャリア形成に活用する「ジョブ・カード」が平成20年度に制度化されたところであり,国として,大学等における教育研究資源を活用した短期かつ実践的な教育プログラムの開発・提供を支援することが求められている。
 現在,我が国の場合,社会人が大学で学ぶ場合,正規学位プログラム以外では,公開講座か科目等履修生といった形態がほとんどであるが,短期間で体系的なプログラムという新しい社会人の学びの形態を創出していく必要がある。

【本事業に関係する提言等】

  • 我が国の高等教育の将来像(平成17年1月28日:中央教育審議会)
  • 経済成長戦略大綱(平成18年6月26日:経済財政諮問会議)
  • 再チャレンジ支援総合プラン(平成18年12月25日:「多様な機会のある社会」推進会議)
  • 成長力底上げ戦略(平成19年2月15日:成長力底上げ戦略構想チーム)
  • 成長力加速プログラム(平成19年4月25日:経済財政諮問会議)
  • イノベーション25(平成19年6月1日:閣議決定)
  • 経済財政改革の基本方針2007(平成19年6月19日:閣議決定)
  • 「ジョブ・カード構想委員会」最終報告(平成19年12月12日:ジョブ・カード構想委員会)

図5−1−1(生涯学習に対する今後の動向)

図5−1−2(生涯学習の機会についての要望)

(2)有効性

 本事業は競争的環境のもと選定を行う(約110校想定)ことによって,国公私立大学等において,教育研究資源を活用した,社会人の再就職やキャリアアップ等に資する優れた教育プログラムの開発・普及が図られることを目標としている。
 平成19年度においては,246大学325件の申請中126件の優れた学び直しニーズに対応する取組を選定(選定率38.8パーセント)した。さらに,ホームページ等を通じて広く社会への情報提供を行っており,各大学等においてそれぞれのニーズを踏まえた取組が進むことが期待される。また,学習成果が再就職やキャリアアップの動機につながるなど社会的な通用制を保つことが期待される。
 平成20年度においては,30件程度の取組を選定することとしており,社会人の学び直しニーズに対応する教育プログラムの開発・普及が更に進むことが期待されると伴に平成19年度の学校教育法により新たに制度化された履修証明制度や平成20年度に創設されたジョブ・カード制度の中核の一つとして位置付けられた実践型教育プログラムのモデルケースとなることが期待される。

(3)効率性

 本事業は,「再チャレンジ支援総合プラン」において示された,人生の各段階における学び方の選択肢を多様化することを目的としており,このため,高等教育機関としての大学等の教育研究資源を活用した,実践的な短期の教育プログラムの開発・実施を行うことは,学び方の多様な選択肢を増やすという観点から適切なものである。
 本事業は,大学等の教育研究資源を活用した,単なる公開講座ではなく,また,正規の学位プログラムでもない新たな社会人の学習形態の教育プログラムを開発・実施するものであり,地方公共団体や民間委託などにはなじまないものである。

3.施策の効果及び貢献度(ロジック・モデルとの関係)

表5−1:「社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラム」平成19年度申請・選定状況

区分 人社系 理工農系 医療系
単独申請 大学 応募件数 126 56 48 230
選定件数 55 22 19 96
国立 応募件数 30 38 19 87
選定件数 15 15 7 37
公立 応募件数 8 0 9 17
選定件数 3 0 6 9
私立 応募件数 88 18 20 126
選定件数 37 7 6 50
短期大学 応募件数 39 4 4 47
選定件数 7 2 1 10
国立 応募件数 0 0 0 0
選定件数 0 0 0 0
公立 応募件数 8 0 0 8
選定件数 2 0 0 2
私立 応募件数 31 4 4 39
選定件数 5 2 1 8
高等専門学校 応募件数 1 24 0 25
選定件数 0 12 0 12
国立 応募件数 1 22 0 23
選定件数 0 11 0 11
公立 応募件数 0 0 0 0
選定件数 0 0 0 0
私立 応募件数 0 2 0 2
選定件数 0 1 0 1
小計 応募件数 166 84 52 302
選定件数 62 36 20 118
国立 応募件数 31 60 19 110
選定件数 15 26 7 48
公立 応募件数 16 0 9 25
選定件数 5 0 6 11
私立 応募件数 119 24 24 167
選定件数 42 10 7 59
共同申請 応募件数 7 2 4 13
選定件数 4 1 3 8
合計 応募件数 173 86 56 315
選定件数 66 37 23 126

 本テーマについて,平成19年度の各国公私立大学等からの申請・選定状況は表5−1の通りとなっており,本事業の実施による以下の効果があがっており,併せて学校教育法に定められた大学等の社会貢献機能の強化に寄与している。

  • 1) 平成19年度に選定した事業においては,現職社会人のキャリアアップ,子育て等で就業を中断した者の再就職,無職・無業者の新規就業支援,起業家支援など,多様な社会人に対する体系的な短期教育プログラムの開発が進んでいる(図5-2:平成19年度「社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラム」選定大学等の企画提案書より分析)。これにより,単なる公開講座ではなく,また,正規の学位プログラムでもない新たな社会人の学習形態が126件開発されつつあり,「再チャレンジ支援総合プラン」において示された,人生の各段階における学び方の選択肢を多様化するため,社会人の学び直しの機会拡大に寄与するものと考えている。
  • 2) 「大学における教育内容等の改革状況調査」(図5-3,5-4:実施時期:平成19年度,実施対象:国公私立大学,回答率:100パーセント)によれば,平成18年度において学生以外の者を対象とした教育課程を設けている大学は221校であった。このうち,修了者に対して証明書の交付を行っている大学は143校となっているが,これらの多くは,学生向けに開講している授業を聴講した社会人等に対し受講証明書を交付したり,公開講座に証明書を発行するといったものであり,数十時間以上の時間をかけて体系的に専門的知識や能力を身につけさせるような形態のものはほとんどない状況である。したがって,本事業において選定された126大学が先進例となり,大学における履修証明プログラムの数的な増加はもちろんのこと,質的な充実が見込まれる。
  • 3) 選定に当たっては,国公私立並びに大学・短期大学・高等専門学校それぞれ設置者並びに学校種に偏ることなく,選定件数に対し2.5倍の申請があり,競争的な環境の整備や資源配分の効率化が図られ,多様な社会人の学び直しニーズに応えうる教育プログラムの開発・普及に関する取組を選定することができた。また,選定された大学等以外においても,申請課程で地域の産業界等関係者との協議や学内での検討により,平成19年度の学校教育法改正により大学等の目的として新たに規定された教育研究成果の提供等による社会貢献に資する社会ニーズの把握や学内の意識改革,教育内容改善が図られている。

図5−2:「社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラム」選定プロジェクト対象目的別類型

図5−3:学生以外の者を対象とした教育課程を設けている大学

図5−4:うち教育課程修了者に対し証明書の交付を行っている大学

4.成果事例

平成19年度選定取組概要

大学等名
広島修道大学
取組名称
「地元ニーズを踏まえた『就職氷河期世代』の再教育・就職プログラム」開発・実施
取組概要
就職氷河期にあたる若年者の離職者・フリーター等を対象に,「学部講義」,「資格講座」,「チャレンジ講座」,「公開講座・講演会」の4講座を柱とし,キャリアアドバイザーによるコンサルティングを併せて行う。これにより,基本的な知識やスキルを再修得させ,就職のためのスキルアップ教育を行う。
  受講状況 修了者の進路状況
受講者 修了者 正規社員 非正規社員 自己啓発 就職活動中
子育て等により職業を中断した者 3 2 1 1 0 0
ニート・フリーター 21 15 5 2 3 5
その他(離職して6月以内の者) 8 6 2 3 1 0
合計 32 23 8 6 4 5
  • 受講中に就職が決定したためプログラム途中で辞退した者5名

5.まとめ

(1)評価のまとめ

 「再チャレンジ支援総合プラン」や「「経済財政改革の基本方針2007」といった提言等を踏まえ,社会人の「学び直し」のニーズに対応するため,大学等における教育研究資源を活用した,優れた実践的教育プログラムの開発・普及を進めるとともに,履修証明制度の定着促進,実践型教育プログラムの開発・普及を図り,再チャレンジを可能とする柔軟で多様な社会の実現に向けた高等教育機会の充実するため,平成19年度から「社会人の学び直しニーズ対応教育推進プラン」を実施している。
 平成19年度は246大学325件の申請中126件の優れた取組を選定し,当初想定通りの事業展開が図られている。また,選定件数に対し2.5倍の申請があり,競争的な環境の整備や資源配分の効率化が図られている。
 平成20年度においては,30件程度の取組を選定することとしており,社会人の学び直しニーズに対応する教育プログラムの開発・普及が更に進むことが期待されるとともに履修証明制度や実践型教育プログラムのモデルケースとなることが期待される。

(2)今後の課題等について(評価結果の今後への反映等)

 平成20年度から履修証明制度が新たに発足しており,大学等においては正規学位プログラムにおける履修年限にこだわらない柔軟な履修形態を創出していくことが求められている。とりわけ,産業界等のニーズを踏まえた高度な人材について,大学の教育研究資源を活用して,例えば数ヶ月間〜1年程度の一定の期間のプログラムを関連業界等とも連携して実施するような取組など,より一層発展した社会人等の学習形態を創出していくことが課題となっている。
 また,本事業については,各取組の支援期間終了後,最終的にどのような実績及び成果が得られたのか,その実施状況を把握し併せて成果等の情報を取りまとめ普及を図ることとしている。

-- 登録:平成21年以前 --