芸術家の地位に関する勧告

芸術家の地位に関する勧告(仮訳)

1980年10月27日 第21回ユネスコ総会採択

 国際連合教育科学文化機関の総会は、1980年9月23日から10月28日までベオグラードにおいてその第21回会期として会合し、
 国際連合教育科学文化機関憲章第一条の規定によれば、この機関の目的は、国際連合憲章が世界の諸人民に対して人種、性、言語又は宗教の差別なく確認している正義、法の支配、人権及び基本的自由に対する普遍的な尊重を助長するために教育、科学及び文化を通じて諸国の間の協力を促進することによって、平和及び安全に貢献することであることを想起し、
 世界人権宣言の規定、特に本勧告附属に引用された同宣言第22条、第23条、第24条、第25条、第27条及び第28条を想起し、
 国際連合の経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約、特に本勧告附属に引用された同規約第6条及び第15条の規定を想起するとともに、これらの権利の最大限の実現を保障する観点から、文化の保護、発展及び普及のために必要な措置を講ずる必要性を想起し、
 第10回ユネスコ総会で採択された、国際文化協力の諸原則に関する宣言、特に本勧告附属に引用された同宣言第3条及び第4条、並びに、第19回ユネスコ総会で採択された、大衆の文化生活への参加及び寄与を促進する勧告を想起し、
 最も広く定義された芸術が、生活の不可欠な部分であること、かつ、そうあるべきであることを認め、また芸術的表現の自由を助長する精神的風土のみならず創造的才能の発揮を促進する物質的条件の醸成、維持に努めることは各国政府にとつて必要かつ適切であることを認め、
 すべての芸術家が、上述の両憲章、宣言、条約及び勧告に含まれた社会的保障と保険の規定により効果的に恩恵を受ける権利を有することを認め、
 芸術家が、生活と社会の発展のために重要な役割を果たしていること、並びに彼等が、その創造的インスピレーションと表現の自由を享有しつつ、社会の発展に貢献する機会及び、他の市民と同様、社会においてその責任を果たす機会が与えられるべきことを考慮し、
 さらに、社会の文化的、技術的、経済的、社会的及び政治的発展が、芸術家の地位に影響を及ぼしていること、また、その結果として、世界の社会的進歩を考慮しつつ、芸術家の地位に関し再検討する必要があることを認め、
 芸術家が、本人の希望によって文化的な労働に積極的に従事する者であると認められる権利を有すること、及びその結果として、当該芸術家の専門に固有な条件を考慮しつつ、労働者の地位に属するすべての法的、社会的及び経済的便益を享受する権利を有することを確認し、
 さらに、芸術家の文化的発展への貢献を考慮しつつ、被雇用と自営とにかかわらず、芸術家の社会保障、労働条件、課税条件を改善することが必要であることを確認し、
 国内的にも国際的にも普遍的に認められている、文化的独自性の保存と増進の重要性及び伝統的芸術を継承し、国民の民俗伝承文化を解釈演出している芸術家がこの分野で果たしている役割の重要性を想起し、
 芸術の生気と活力が、なかでも個人及び全体としての芸術家の安寧に依存していることを認識し、
 芸術家の権利を含む労働者の一般的権利を認めた国際労働機関の条約及び勧告、特に本勧告附録に記載された条約及び勧告を想起し、
 しかしながら、国際労働機関のいくつかの基準は、芸術活動の特殊な条件の故に、芸術家又はそのなかの特定の範疇を除外することを許したり、又は明文にて排除していること、及びその結果として、当該基準の適用範囲を拡大し、また他の基準によってこれを補う必要があることに留意し、
 さらに、文化的な労働に積極的に従事する者としての芸術家の地位を認めることは、決して芸術家の創造、表現及び伝達の自由をそこなうものであつてはならず、逆に、彼等の威信と尊厳を確認するものでなければならないことを考慮し、
 芸術家がその才能を発展させ、開花させるために必要な条件並びに芸術家が地域社会や国における文化政策や文化発展活動の計画と実施及び生活の質の向上のために果たしうるその役割にふさわしい条件を整える見地から、特にその人権、経済的及び社会的環境並びに雇用条件に関連し、多くの加盟国において芸術家が置かれている不安定な状況を是正するため、当局による対応が必要かつ緊要なものになりつつあることを確信し、
 芸術が教育において重要な役割を果たすこと、また芸術家が、その作品によって、すべての人々、とりわけ青年の世界に対する認識に影響を及ぼしうることを考慮し、
 芸術家が、集団として共通の利益について考慮し、もし必要があればこれを擁護することができなければならず、従ってそのためには、芸術家が専門的職種として認められ、労働組合又は専門的職能団体を結成する権利を有するべきであることを考慮し、
 芸術の発展、芸術の尊重及び芸術教育の振興が、主に芸術家の創造性に依存していることを考慮し、
 芸術活動の複雑な性格とその様式の多様性を認識するとともに、特に、芸術家の生活条件と才能開発のため、作品、実演及びこれらの使用に対する精神的、物質的権利を保護し、これらの保護を拡大し、強化することの重要性を認め、
 文化政策の立案と実施については広く国民及び芸術家の意見に出来るだけ配慮するよう努め、この目的のために、彼等に対して効果的な行動のための手だてを提供するよう努めることの必要性を考慮し、
 現代の芸術作品は公共の場で発表されること、及びその公共の場は関係芸術家の意見に配慮して設計されるべきであることを考慮し、
 従って、公共の場が交流のための要件を満たし、かつ公衆とその環境との新しい有意義な関係の確立に効果的に寄与するように美学的指針を設定するために、建築家、施行者及び芸術家の密接な協力がなければならないことを考慮し、
 芸術家が才能を開発することが期待されているそれぞれの国及び地域社会において芸術家をとりまく環境が多様であること、並びにそこで制作される芸術作品に与えられる価値もそれぞれ異なることを勘案し、
 しかしながら、そのような差異にもかかわらず、すべての国で、芸術家の地位に関し同様に関心をよせる問題が生じており、もし、この勧告が意図するように、この問題についての解決策を発見し、芸術家の地位を向上しようとするのであれば、共通の意思と知的刺激が必要であることを確信し、
 本勧告附録に記載されている著作権や芸術的所有権に関する現行の国際条約の諸規定(特に万国著作権条約及び文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約の諸規定)、実演家の権利の保護に関する現行の国際条約の諸規定、本総会の決議の諸規定、ユネスコの文化政策政府間会議によって採択された勧告の諸規定並びに国際労働機関で採択された条約及び勧告の諸規定に留意し、
 この会期の第31議題として、芸術家の地位に関する提案を審議し、
 第20回会期において、この問題を加盟国に対する勧告の対象とすべきであると決定して、1980年10月27日にこの勧告を採択する。
 総会は、加盟国が、この勧告に定める原則及び基準を自国の領域内において、実施するため、各国の法制上の慣行及び当該問題の性質に従い、必要とされる立法措置その他の措置をとることにより、以下の諸規定を適用することを勧告する。
 連邦制又は非単一政府制をとる国々に対しては、総会は、この勧告中の規定のうち、その実施が、個々の州、地方、郡その他地域的、政治的下部組織の法的管轄に属しているもの(連邦の法制によって立法措置を講ずることが義務づけられていない。)については、連邦政府が、そのような州、地方又は郡に対して、上述の規走について通知し、その実施を勧めるよう勧告する。
 総会は、加盟国が芸術家の地位の改善及び文化生活と発展への芸術家の参加の促進に寄与する立場にある当局、機関及び組織にこの勧告を周知せしめることを勧告する。
 総会は、加盟国が、この勧告を有効ならしめるためにとつた措置につき、総会が定める期日までに及び様式で、総会に報告するよう勧告する。

I 定義

この勧告の適用上
1 「芸術家」とは、芸術作品を創造し、表現し又は改造を行い、その芸術的創造を自己の生活の本質的部分とみなし、これを通じ芸術と文化の発展に貢献し、かつ、雇用関係や団体関係があると否とを問わず、芸術家として認知され、又は認知されることを希望するすべての者を意味するものとする。
2 「地位」とは、一方では、上記のように定義される芸術家が社会において果たすことを期待されている役割の重要性に基づき、芸術家に払われる敬意を意味し、他方では、芸術家が享受すべき自由及び諸権利(精神的、経済的及び社会的権利を含む。)特に収入及び社会保障に関する諸権利の認知を意味する。

II 適用範囲

この勧告は、I1項に定義するすべての芸術家に、その従事する芸術の分野、形態のいかんを問わず適用される。これには就中すべての創造的芸術家、万国著作権条約及び文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約に規定するすべての著作者並びに実演家、レコード製作者及び放送事業者の保護に関するローマ条約に規定する実演家及び演出家を含むものとする。

III 指導原則

1 加盟国は、芸術が各種の社会における文化的独自性と精神的遺産を反映し、保存し、かつ、豊かにするものであり、普遍的な表現、交流の方式であり、また倫理的、文化的又は宗教的な差異の中における共通のものとして万人に人間社会への帰属感をもたらすものであることを認識し、従ってこれらの目的のために、すべての人々が芸術に接することができることを確保すべきである。
2 加盟国は、特にマスメディアと教育制度によって行われる諸活動を含む文化の発展と余暇の文化的活用のために芸術家が果たす役割を強調するために企画されたすべての活動を奨励すべきである。
3 加盟国は、芸術の生活における重要な役割また個人及び社会の発展に対する重要な役割を認識し、それゆえに芸術家とその創造の自由を保護し、擁護し、支援する責務を有する。加盟国は、このために、特に芸術家がその使命を全うするために不可欠なより大きな自由を確保するための、また、芸術家の自己の仕事の成果を享受する権利を認めることにより彼等の地位を向上させるための措置を採用するなど、芸術的創造性と才能の開花を鼓舞するためのあらゆる必要な措置を講ずるべきである。加盟国はあらゆる適切な方法により生活の質に関する決定に芸術家がより多く参加することを確保するよう努力すべきである。加盟国は、芸術活動がより公正で人間的な社会を築き平和で精神的に豊かな環境において共存するための諸国民による全世界的発展の諸努力の中で、果たすべき役割を有していることを可能なあらゆる方法により明らかにし確認すべきである。
4 加盟国は、芸術家が彼等が選択する労働組合及び専門的職能団体を設立し、かつ希望すればこれらの団体に加入する自由及び権利を有することを、必要があれば適切な法的措置により、確保すべきであり、また芸術家を代表する団体が、芸術家の専門的訓練を含む文化政策や雇用政策の策定及び芸術家の労働条件の確定に参加できるようにすべきである。
5 あらゆる適切なレベルの国家計画一般、また、特に文化の分野の計画において、加盟国は、とりわけ文化、教育、雇用に係る諸政策の緊密な調整により、芸術家を支援し、芸術家に物質的、精神的援助を与えるための政策を明確にし、かつ、世論に対し、そのような政策の正当性と必要性を周知せしめるようにすべきである。このため、教育においては芸術作品に対する公衆の鑑賞力を生み出すよう芸術に対する認識を助長することにしかるべき重点を置くべきである。著作権法制(追及権が著作権の一部になつていない場合はこれも含める。)、及び隣接権法制の下で芸術家に与えられるべき諸権利が損われることなく、芸術家は公正な条件を享受すべきであり、かつ、芸術家の仕事にはそれにふさわしい公的配慮が与えられるべきである。芸術家の労働条件及び雇用条件は芸術家が希望すれば芸術的活動に専念できる機会を与えるようなものであるべきである。
6 表現及び伝達の自由は、すべての芸術活動にとつて基本的な前提条件であるので、加盟国は、この点につき人権に関する国際的、国内的規定によって定められている保護が芸術家に確実に与えられるべきことを確保しなければならない。
7 各国の文化的及び総合的発展における芸術活動及び創造の役割にかんがみ、加盟国は、芸術家が芸術活動を行う場である地域社会の生活に、個人として、又は彼等の団体若しくは労働組合を通じて、十分に参加できるような条件を整備すべきである。加盟国は、芸術家を地方及び国の文化政策の策定に関与させることにより、世界の一般的進歩及び地域社会に対する芸術家の重要な貢献を強調すべきである。
8 加盟国は、すべての個人が、人種、膚の色、性別、言語、宗教、政治的またはその他の信条、国籍若しくは社会的出身、経済的地位、又は出生に拘りなく、芸術的才能の完全な発展と発揮のために必要な技能を修得し、かつ、発展させ、雇用を得、その職務を遂行するための公平な機会を得られることを確保すべきである。

IV 芸術家の適性と訓練

1 加盟国は、学校におけるそして若年からの、芸術的創造に対する敬意並びに芸術的適性の発見及び発展を強化するためのあらゆる措置を奨励すべきであり、また、芸術的創造性を効果的に鼓舞するためには、傑出した作品を創造するための人材の適切な専門的訓練が必要であることに留意すべきである。この目的のため、加盟国は次のことをなすべきである。
(a)芸術的才能と適性を鼓舞するための教育を提供するために必要な措置を講ずること。
(b)芸術家と連携して、教育において芸術的感性の発達に対してしかるべく重点を置き、教育があらゆる形態の芸術的表現に対する公衆の感受性の訓練に役立つものとなるよう、芸術家と協力してあらゆる適切な措置を講ずること。
(c)可能であればいつでも、特定の芸術分野についての教育を開設し、又は発展させるためのあらゆる適切な措置を講ずること。
(d)奨学金の授与、教育のための有給休暇等の誘因を与えることにより、芸術家が、その専門分野又は関連する専門分野についての知識を最新のものとし、専門的技能を向上させ、創造性を鼓舞するような交際を得、又は、他の芸術分野との接触を得たり仕事をするための再教育を受けられる機会が得られるよう努めるべきこと。これらの目的のために加盟国は適切な便宜を供与し、またすでに供与されている便宜については、必要に応じてこれを改善し発展することを確保すること。
(e)芸術家の特殊な雇用状況を考慮し、また必要ならば芸術家が他の分野に参加できるようにするため、調整された総合的な職業指導及び訓練の方針と計画を作成し推進すること。
(f)最も広い意味における文化遺産の修復、保存及び活用に対する芸術家の参加を鼓舞し、また芸術家に彼等の知識や芸術的技能を後世に伝える手段を提供すること。
(g)美術工芸の訓練における知識伝授の伝統的方法、特に地域社会における種々の奥義伝授の慣行の重要性を認識し、これらを保護し奨励するためのあらゆる適切な措置を講ずること。
(h)芸術教育が生きた芸術の実践と切り離されるべきでないことを認識し、この観点から、文化施設、劇場、アトリエ、ラジオ・テレビ放送事業団体等が訓練及び修業において重要な役割を果たすように芸術教育を再編成することを確保すること。
(i)婦人の創造性を開発すること並びに芸術活動の種々の分野における婦人の役割の増進に努めている団体及び機関を奨励することに特別の関心を払うこと。
(j)芸術前生活及び芸術の実践が国際的側面を有していることを認識し、従って芸術活動に従事する人々が、他の文化と活発で巾広い触れ合いを保ちうるようなあらゆる手段、特に旅行や学習の助成金を提供すること。
(k)自国の芸術家の自発的才能の発展並びに労働条件及び雇用条件が損われないことを確保しつつ、芸術家による自由な国際的移動を推進し、希望する国で芸術活動を行う自由を妨げぬようにするためのあらゆる適切な措置を講ずること。
(l)伝統的芸術家の必要とするものに特別の関心を払うこと。とくに、地方の伝統の発展に資するため伝統的芸術家の国内外の旅行を容易にすること。
2 可能な限り、しかも芸術家及び教育者の自由と独立を損うことなく、加盟国は、芸術家がその訓練中に、伝統文化及び民族文化を含む、その属する地域社会の文化的独自性を自覚し、その独自性と文化の確立と復興に貢献するよう主導的役割を果たし、またはこれを支持すべきである。

V 社会的地位

 加盟国は、革新と研究を含む芸術活動を、地域社会に対する貢献として認識し、芸術家の地位を向上させ保護すべきである。加盟国は、芸術家に対し、その活動が十分に発展するために必要な尊敬を享受することを可能にし、芸術家に文化的労働に積極的に従事する者としてふさわしい経済的保護を与えるべきである。このため加盟国は、次のことをなすべきである。
1 各々の文化的環境に最もよく適合する形で芸術家に公的承認を与え、また芸術家にふさわしい名誉を与えるための制度が未だ存在しないか、不適当である場合にはこれを設けること。
2 芸術家が、人権に関する国際的、国内的規定に定められた権利と保護の恩恵を受けることを確保すること。
3 芸術家が、雇用、生活及び労働の条件に関し、国内的、国際的規定によって類似の活動を行っている集団に対し与えられている諸権利と同じ諸権利を享受できるようにし、また、自営の芸術家も所得や社会保障に関する保護を妥当な範囲内で享受できるようにするために必要な措置を講ずるよう努めること。
4 現行の諸条約、特に文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約、万国著作権条約並びに実演家、レコード製作者及び放送事業者の保護に関するローマ条約の規定に基づく、芸術家の権利の国際的保護の重要性を認識し、かつ、これらの条約の適用分野、範囲及び効果を拡大するために必要な措置を講ずること。特に、これらの諸条約に未加入の加盟国の場合にはこれらの条約に加入する可能性を考慮すること。
5 芸術家の労働組合及び専門的職能団体が、その構成員の利益を代表し、これを擁護する権利を認め、また彼等に芸術活動を鼓舞し、その保護と発展を確保するための適切な手段について公共当局に意見を述べる機会を与えること。

VI 芸術家の雇用、労働及び生活の条件―専門的職能団体及び労働組合

1 芸術家の抱える問題を打開するに必要な精神的及び物質的援助を与えることにより、社会における芸術家の地位を高める必要性を認識して、加盟国が以下のような措置を講ずることを勧奨する。
(a)芸術家の経歴の初期に、特に彼等が芸術に専念しようとしている最初の時期における彼等に対する援助の措置について考慮すること。
(b)芸術家のそれぞれの自己の分野における雇用を促進すること。特に、公共支出の一定割合を芸術作品に振り向けること。
(c)芸術家の有給の活動の機会を増大させるために、発展との関連で芸術活動を促進し、かつ、芸術活動の成果に対する公的及び民間の需要を高めること。就中芸術団体に対する補助、個々の芸術家に対する委託、地方若しくは、国家レベルでの芸術的行事の計画又は芸術基金の創設を通じて行うこと。
(d)芸術家の創造性、適性並びに表現及び伝達の自由を損うことなく、芸術家に与えられうる有給の職をあきらかにすること、特に、
 (i)芸術家に、国及び地方レベルでの教育及び社会的サービスの関連分野並びに図書館、博物館、学会及びその他の公的機関において就業の機会を与えること。
 (ii)外国文学の翻訳活動全般に対する詩人及び作家の参加を増加させること。
(e)芸術の普及及び芸術家と大衆の交流の促進に資するために必要な施設(博物館、コンサート・ホール、劇場及びその他の集会場)の発展を奨励すること。
(f)雇用政策又は公共の雇用サービスの枠組みの中において、芸術家の就職を助けるための有効な機関を創設する可能性及び本勧告附録に記載した国際労働機関の有料職業紹介所に関する条約(改正)(第96号)に加入する可能性について検討すること。
2 芸術的創造性、文化的発展並びに雇用条件の向上及び改善を奨励するための一般的政策の関連において、加盟国は、可能であり、実際的であり、かつ、芸術家の利益になる場合には以下のような措置を講ずるよう勧奨される。
(a)種々の活動を行っている人々の集団のために採用されている基準を芸術家に対し適用することを奨励し、かつ、容易にすること。また、芸術家がこれらの類似のグループに与えられている労働条件に関するすべての権利を享受することを確保すること。
(b)国際労働機関の基準、特に次の事項に関連した基準によって定められた労働条件及び雇用条件に関する法的保護を芸術家にも適用する方法を探究すること。
 (i)労働時間、週休及び有給休暇(あらゆる活動分野において適用されるが特に実演家については、公演時間とともに旅行及びリハーサルに要する時間も考慮に入れる。)
 (ii)生命、健康及び労働環境の保護
(c)芸術家がその活動を行う建物に関し、芸術活動の利益のために芸術家の建物の改造に関する規定を執行する場合には、建築遺産と環境の保存及び安全と健康に関する規定の遵守を確保するほか、芸術家に特有の諸問題に配慮すること。
(d)その芸術活動の性質又は芸術家の雇用上の地位に係る原因によって、本条2(b)(i)に掲げる事項の基準が遵守され得ないときは、できれば芸術家やその雇用者を代表する団体と協議のうえ、必要があれば、芸術家のための適切な形態による補償の規定を設けること。
(e)延払い賃金又は歩合制の形での利益分配方式が収入及び社会保障に関しての芸術家の諸権利を損うおそれがあることを認識し、そのような場合には、これらの諸権利を保護するため適切な措置を講ずること。
3 児童芸術家に対し、特別な配慮を与えるため、加盟国は、児童の権利に関する国際連合宣言の諸規定を考慮することを勧奨される。
4 雇用条件及び労働条件の保護における専門的職能団体及び労働組合の役割を認識し、加盟国は次のような適切な措置を講ずるよう勧奨される。
(a)本勧告附録に記載する国際労働条約に定められている結社の自由、団結権及び団体交渉権に関する基準を遵守し、また遵守されることを確保するとともに、かつ、これらの基準及びその基礎となった一般原則を芸術家に適用することを確保すること。
(b)まだその種の団体が存在していない専門分野については、その自由な設立を奨励すること。
(c)その種のすべての国内的又は国際的な団体が、その結社の自由に対する権利を損うことなく、その役割を十分に果たすことができるようにすること。
5 加盟国は、各々の文化環境に応じ、被雇用の又は自営の芸術家に対し、他の被雇用の又は自営の集団にそれぞれ通常与えられているのと同様の社会的保護を与えるべく努めるよう勧奨される。同様に、芸術家の扶養家族に対しても適切な社会的保護を及ぼすよう措置すべきである。加盟国が社会保障制度を採用し、改善し又は補足するについては、芸術家の雇用は断続的であること及び多くの芸術家は所得に顕著な変動があること(しかしながら、これによって芸術家が作品を創造し、発表し、普及する自由は制限されない。)によって特徴付けられる芸術活動の特殊な性格に留意すべきである。その意味から、加盟国は、芸術家のための社会保障の資金につき特別な措置(例えば公共当局若しくは芸術家のサービス又は作品を売買したり利用する私企業による資金供出という新しい方式を採用することなど。)を採用することを考慮するよう勧奨される。
6 概して、芸術家の地位に関する国内的、国際的規定が、技術の一般的進歩、マスコミュニケーションの媒体の発達、芸術作品や実演の機械による複製手段の発達、公衆の教育、及び文化産業の果たす決定的役割に遅れをとつていることを認識し、加盟国は、必要であれば、次のような適切な措置を講ずるよう勧奨される、すなわち、
(a)芸術家がその作品の頒布と商業的利用に見合つた報酬を受けることを確保するとともに、作品が無許可で利用、改変又は頒布されることのないよう芸術家がその作品を管理できるようにすること。
(b)新しい伝達手段と新しい複製手段及び文化産業が技術的に発達したことに関連して受けた何らかの損害に対し、芸術家の精神的、物質的な排他的権利を保障するための制度を可能な程度に設けること。これは特に、サーカス、演芸家、人形劇人を含む実演家の権利を確立することを意味する。その際、ローマ条約の規定について配慮するとともに、有線放送及びビデオグラムの導入によって生じた問題については、1979年のローマ条約に関する政府間委員会によって採択された勧告の規定について配慮することが適切であろう。
(c)新しい伝達手段と新しい複製手段及び文化産業が技術的に発達した結果として芸術家が被る不利益を補償すること(たとえば、芸術家の作品の宣伝や普及に便宜をはかつたりポストを設けたりすることによって行う)。
(d)技術変革の恩恵を受けている文化産業(ラジオ・テレビの事業者や機械による複製を行う事業者を含む。)が、芸術的創造を奨励し鼓舞するために部分的な役割を果たすことを確保すること(たとえば新しい雇用の機会を与えること、作品の宣伝や普及を行うこと、著作権使用料等を支払うこと、又はその芸術家にとり公正と認められる手段を講ずることによって行う)。
(e)新しい技術のために芸術家の雇用や就業機会が損われているときは、芸術家やその団体を支援すること。
7 (a)芸術家の収入が不安定であり、また急激に変動すること、芸術活動の特殊な性格、及び多くの芸術的職業の場合はその職業に従事できる期間が人生の比較的短い期間にすぎないという事実を確信して、加盟国は、特定の分野の芸術家に対し、年令でなく職歴の長さに応じて年金を受ける権利を与え、また、各国の税制において、芸術家の仕事や活動の特殊性を考慮するよう勧奨される。
(b)また、特定の分野の芸術家(たとえばバレエダンサー、舞踊家、声楽家)については、その健康を維持しその芸術活動の期間を延長するため、加盟国は、活動不能の場合だけでなく、病気予防の目的のためにも、彼等に適切な医療上の保護を与えるよう、また芸術的職業に特有の健康上の問題につき研究を行う可能性を考慮するよう勧奨される。
(c)また、芸術作品は消費物資とも投資の対象ともみなされるべきでないという事実に留意し、加盟国は、芸術作品又は芸術的実演にその創作、普及又は最初の売却時において課す間接税を軽減する(これは芸術家又は芸術の発展のために資する。)可能性について考慮するよう勧奨される。
8 芸術作品の国際交流及び芸術家同志の触れ合いの重要性の増大、並びにこれらを奨励することの必要性に鑑み、加盟国は、個別に又は集団で、自国文化の発展を損うことなく、以下のような措置を講ずるよう勧奨される。
(a)柔軟な通関手続及び輸入関税の減免等によって(特に一時的輸入について行う。)、その種の芸術作品のより自由な交流に助力すること。
(b)各国の芸術家の訪問にしかるべき注意を払いつつ、芸術家の外国への旅行及び国際交流を奨励する措置をとること。

VII 文化政策及び参加

 本勧告のIII7及びV5項に基づき、加盟国はその文化政策の立案及び実施において、ユネスコの大衆の文化生活への参加及び寄与を促進する勧告の精神に基づき一般大衆の意見を慎重に考慮するとともに、芸術家及び彼等を代表する専門職能団体、労働組合の意見を慎重に考慮するよう適当な措置を講ずることに努力すべきである。このため加盟国は、特に次の事項を達成することを目的とする措置につき芸術家及び彼等の団体を議論、決定及びその後の実施に参加させるために必要な措置を講ずるよう勧奨される。
(a)社会における芸術家の地位の向上。例えば、芸術家の雇用、労働及び生活の条件、公共当局による芸術的活動のための物質的及び精神的援助、並びに芸術家の専門的訓練に関する措置。
(b)地域社会における文化、芸術の振興。例えば、文化の発展、文化遺産(民俗文化や伝統的芸術家によるその他の活動を含む。)の保護及び効果的な公開、文化的独自性の認識、環境問題及び余暇の利用についての事項、並びに文化、芸術の教育において占める位置に関する措置。
(c)国際的文化協力の奨励。例えば、作品の普及及び翻訳、作品及び人物の交流、並びに地域的又は国際的な文化的行事の開催に関する措置。

VIII 本勧告の利用及び適用

1 加盟国は、芸術家の地位に関し、この勧告の目的と関連する活動を行うあらゆる国内的、周際的組織、特にユネスコ国内委員会、国内の及び国際的な芸術家団体、国際労働事務局、並びに世界知的所有権機関との協力のもとに、各々の国の施策を拡大し、補充する努力をすべきである。
2 加盟国は、最も適当な手段により、上述の芸術家を代表する団体の活動を支援し、かつ、芸術家がこの勧告に定められた規定の恩恵を受け、ここに述べられている地位の承認を受けられるようにするため、これらの団体の専門的協力を得るべきである。

IX 既存の権益

 芸術家が特定の事項につきこの勧告で与えられる以上に有利な地位を享受している場合は、この勧告の規定は、いかなる場合でもすでに獲得されている権益を減じるために援用されてはならず、また、直接的であると間接的であるとを問わずこの権益に影響を及ぼしてはならない。

附属

A 世界人権宣言

第22条
 すべて人は、社会の一員として、社会保障を受ける権利を有し、かつ、国家的努力及び国際的協力により、また、各国の組織及び資源に応じて、自己の尊厳と自己の人格の自由な発展とに欠くことのできない経済的、社会的及び文化的権利を実現する権利を有する。
第23条
1 すべて人は、勤労し、職業を自由に選択し、公正かつ有利な勤労条件を確保し、及び失業に対する保護を受ける権利を有する。
2 すべて人は、いかなる差別をも受けることなく、同等の勤労に対し、同等の報酬を受ける権利を有する。
3 勤労する者は、すべて、自己及び家族に対して人間の尊厳にふさわしい生活を保障する公正かつ有利な報酬を受け、かつ、必要な場合には、他の社会的保護手段によって補充を受けることができる。
4 すべて人は、自己の利益を保護するために労働組合を組織し、及びこれに参加する権利を有する。
第24条
 すべて人は、労働時間の合理的な制限及び定期的な有給休暇を含む休息及び余暇をもつ権利を有する。
第25条
1 すべて人は、衣食住、医療及び必要な社会的施設等により、自己及び家族の健康及び福祉に十分な生活水準を保持する権利並びに失業、疾病、心身障害、配偶者の死亡、老齢その他不可抗力による生活不能の場合は、保障を受ける権利を有する。
2 母と子とは、特別の保護及び援助を受ける権利を有する。すべての児童は、嫡出であると否とを問わず、同じ社会的保護を受ける。
第27条
1 すべて人は、自由に社会の文化生活に参加し、芸術を鑑賞し、及び科学の進歩とその恩恵とにあずかる権利を有する。
2 すべて人は、その創作した科学的、文学的又は美術的作品から生ずる精神的及び物質的利益を保護される権利を有する。
第28条
すべて人は、この宣言に掲げる権利及び自由が完全に実現される社会的及び国際的秩序に対する権利を有する。

B 経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約

第6条
1 この規約の締約国は、労働の権利を認めるものとし、この権利を保障するため適当な措置をとる。この権利には、すべての者が自由に選択し又は承諾する労働によって生計を立てる機会を得る権利を含む。
2 この規約の締約国が1の権利の完全な実現を達成するためとる措置には、個人に対して基本的な政治的及び経済的自由を保障する条件の下で着実な経済的、社会的及び文化的発展を実現し並びに完全かつ生産的な雇用を達成するための技術及び職業の指導及び訓練に関する計画、政策及び方法を含む。
第15条
1 この規約の締約国は、すべての者の次の権利を認める。
(a)文化的な生活に参加する権利
(b)科学の進歩及びその利用による利益を享受する権利
(c)自己の科学的、文学的又は芸術的作品により生ずる精神的及び物質的利益が保護されることを享受する権利
2 この規約の締約国が1の権利の完全な実現を達成するためにとる措置には、科学及び文化の保存、発展及び普及に必要な措置を含む。
3 この規約の締約国は、科学研究及び創作活動に不可欠な自由を尊重することを約束する。
4 この規約の締約国は、科学及び文化の分野における国際的な連絡及び協力を奨励し及び発展させることによって得られる利益を認める。

C 国際文化協力の諸原則に関する宣言

第3条
国際文化協力は、教育、科学および文化に関する知的・創造的活動のすべての面に及ばなければならない。
第4条
各種形態の国際文化協力の諸目的は、2国間のものでも多数国間のものでも、また地域的なものでも全世界的なものでも、次に掲げるものでなければならない。
(1)知識を普及し、才能を刺激し、および文化を豊かにすること。
(2)諸人民の間の平和な関係と友情を発展させ、および相互の生活様式の理解を深めること。
(3)この宣言の前文にある国際連合の諸宣言に述べられている諸原則の適用に貢献すること。
(4)あらゆる人が、知識に近づき、すべての人民の文芸を享受し、世界のすべてのところにおける科学の発達とそれによってもたらされる利益にあずかり、および、文化生活を豊かにすることに貢献することができるようにすること。
(5)世界のあらゆるところにおける人間の精神的・物質的生活の水準を向上させること。

附録

労働者一般または特に芸術家に関する国際文書その他
A 大衆の文化生活への参加及び寄与を促進する勧告(第19回総会採択、1976年11月26日、ナイロビ)
B 国際連合の市民的及び政治的権利に関する国際規約(国際連合、1966年12月16日、ニューヨーク)
C 児童の権利に関する国際連合宣言(国際連合、1959年11月20日、ニューヨーク)
D 国際労働機関の国際労働総会により採択された条約及び勧告

1 芸術家を含むすべての労働者に適用される文書
  結社の自由及び団結権保護条約(第87号)  1948年
  団結権及び団体交渉権条約(第98号)  1949年
  差別待遇(雇用及び職業)条約(第111号)  1958年

2 社会保障についての文書(一般的に適用されるものであるが締約国に適用範囲の制限を許しているもの)
  社会保障(最低基準)条約(第102号)  1952年
  母性保護条約(改正)(第103号)  1952年
  均等待遇(社会保障)条約(第118号)  1962年
  業務災害給付条約(第121号)  1964年
  障害、老齢及び遺族給付条約(第128号)  1967年
  医療及び疾病給付条約(第130号)  1969年

3 一般労働者、特定の部門の労働者又は特定の職種の労働者に適用されるもので原則として雇用された芸術家に適用されるもの(場合によっては締約国が批准に際し、付した適用範囲についての制限に従う。)
(a)雇用及び人的資源開発
  職業安定組織条約(第88号)  1948年
  職業安定組織勧告(第83号)  1948年
  有料職業紹介所条約(改正)(第96号)  1949年
  雇用政策条約(第122号)  1964年
  雇用政策勧告(第122号)  1964年
  人的資源開発条約(第142号)  1975年
  人的資源開発勧告(第150号)  1975年
(b)労使関係
  労働協約勧告(第91号)  1951年
  任意調停及び任意仲裁勧告(第92号)  1951年
  企業における協力勧告(第94 号)  1952年
  協議(産業的及び全国的規模)勧告(第113号)  1960年
  企業内コミュニケーション勧告 第129 号)  1967年
  苦情審査勧告(第130号)  1967年
(c)労働条件
  賃金保護条約(第95号)  1949年
  同一報酬条約(第100号)  1951年
  同一報酬勧告(第90号)  1951年
  雇用終了勧告(第119号)  1963年
  労働時間短縮勧告(第116号)  1962年
  週休(商業及び事務所)条約(第106号)  1957年
  有給休暇条約(改正)(第132号)  1970年
  有給教育休暇条約(第140号)  1974年
  有給教育休暇勧告(第148号)  1974年
  年少者健康検査(非工業的業務)条約(第78号)  1946年
  年少者健康検査勧告(第79号)  1946年
  年少者夜業(非工業的業務)条約(第79号)  1946年
  年少者夜業(非工業的業務)勧告(第80号)  1946年
  労働監督条約(第81号)  1947年
  労働監督勧告(第81号)  1947年
  労働者健康保護勧告(第97号)  1953年
  職業衛生機関勧告(第112号)  1959年
  衛生(商業及び事務所)条約(第120号)  1964年
  職業がん条約(第139号)  1974年
  職業がん勧告(第147号)  1974年
  作業環境(空気汚染、騒音及び振動)条約(第148号)  1977年
  作業環境(空気汚染、騒音及び振動)勧告(第156号)  1977年
  最低年齢条約(第138号)  1973年
(d)移民労働者
  移民労働者条約(改正)(第97号)  1949年
  移民労働者勧告(第86号)  1949年
  移民労働者(補足規定)条約(第143号)  1975年
  移民労働者勧告(第151号)  1975年

E 国際労働機関、国際連合教育科学文化機関、世界知的所有権機関
  実演家、レコード製作者及び放送事業者の保護に関する条約(1961年)
  実演家、レコード製作者及び放送事業者の保護の模範法(1974年)
  第7回ローマ条約政府間委員会で採択された実演家、レコード製作者及び放送事業者の保護に関する勧告(1979年)

F 国際連合教育科学文化機関及び世界知的所有権機関によって作成された著作権条約万国著作権条約(国際連合教育科学文化機関)(1952年。1971年改正)
  文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約(世界知的所有権機関)(1971年)

 以上は、国際連合教育科学文化機関の総会が、ベオグラードで開催されて1980年10月28日に閉会を宣言されたその第21回会期において、正当に採択した勧告の真正な本文である。

 以上の証拠として、我々は、署名した。

 総会議長
 イヴォ・マルガン
 事務局長
 アマドゥ=マハタール・ムボウ

お問合せ先

国際統括官付