資料1 持続可能な開発のための教育実施計画案(ESD国内実施計画案)について

我が国における「持続可能な開発のための教育(ESD)に関する

グローバル・アクション・プログラム」実施計画(案)
(ESD国内実施計画2015‐2019)

持続可能な開発のための教育に関する関係省庁連絡会議

1. 序
(1)ESDの意義
 「持続可能な開発のための教育」(ESD,Education for Sustainable Development)は、人類が将来の世代にわたり恵み豊かな生活を確保できるよう、気候変動、生物多様性の喪失、資源の枯渇、貧困の拡大等、人類の開発活動に起因する現代社会における様々な問題を、各人が自らの問題として捉え、身近なところから取り組むことで、それらの問題の解決につながる新たな価値観や行動を生み出し、もって持続可能な社会を実現していくことを目指して行う学習・教育活動である。
 上記に掲げた様々な問題は相互に複雑かつ密接につながり、地球的な規模で生じているものであって、一部の者の取組だけで解決することは不可能である。将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、今日の世代のニーズを満たすような開発(持続可能な開発)を行う社会を実現するためには、すべての人が、人と人、人と社会、そして人と自然とのつながりをよく理解しようと努め、上記に掲げた様々な問題を解決するためにはどのような取組が必要かを自ら考えるような価値観や行動が必要である。そのような観点から、我が国は、持続可能な開発のための「教育」の重要性を国際社会において主張してきたところである。
 大規模な台風やハリケーン、干ばつなどの異常気象、溶けつつある極地や氷河の氷、異変が生じている生態系等、これらの現象のなかには、我々人間の生命や財産を脅かしたり、生物を絶滅の危機にさらしたりするものも決して少なくない。持続可能な開発のためには、地球上で暮らす我々一人ひとりが、環境問題や開発問題等の理解を深め、日常生活や経済活動の場で、自らの行動を変革する必要があり、ESDの重要性はより一層高まりつつあるといえる。

(2)「国連持続可能な開発のための教育の10年」の取組とその成果及び課題
(イ)DESDにおける我が国の取組
 持続可能な開発を実現するためには「教育」が鍵となるとの考えに基づく我が国の提唱により、2005年から2014年までの10年間を「国連持続可能な開発のための教育の10年(DESD,Decade of Education for Sustainable Development)」とすることが2002年の第57回国連総会において満場一致で決議された。
 DESDは、持続可能な開発の原則、価値観、実践を、教育と学習のあらゆる側面に組み込んでいくことを全体目標とし、また、誰もが教育から恩恵を受ける機会を有し、持続可能な未来の構築と現実的な社会転換のために必要な価値観や行動、ライフスタイルを学習する機会を有することを基本的ビジョンとしていた。
 これを受けて、「我が国における『国連持続可能な開発のための教育の10年』実施計画」を策定し(2006年3月30日「国連持続可能な開発のための教育の10年」関係省庁連絡会議決定)、これに基づき、持続可能な社会を担う「個人の育成」と、ESDを推進する主体の「ネットワーク化」を目指して取組を進めてきたところである。

(ロ)DESDの成果及び課題
 DESDにおける我が国の取組は学校教育や社会教育の現場等様々な場面で大きな進展をもたらし、それらの成果については「ジャパン・レポート」としてとりまとめた(2014年10月「国連持続可能な開発のための教育の10年」関係省庁連絡会議)ところである。また、同年11月には、我が国をはじめ世界各国における国連DESDの活動を振り返るとともに、2015年以降のESD推進方策について議論し、ESDの更なる発展を目指す「ESDに関するユネスコ世界会議」を開催し、「あいち・なごや宣言」が採択された。さらに、持続可能な社会づくりにおける公民館・CLC(Community Learning Centre)のビジョンの実現に向けた提言として「岡山コミットメント(約束)2014」が策定された。(2014年10月「ESD推進のための公民館―CLC国際会議」)他方、これらの取組を通じて今後のESDへの取組に向けた課題として、ESDの取組の成果が一定範囲の生産者や消費者の行動の変化、一部の地域社会での変革に留まっているという課題や、取組が行われていても更なる支援が求められている地域があるという課題も見えてきたところである。また、ESDの重要性を提唱した我が国がその取組を国際的に発信することも今後の課題である。
 今後のESDのさらなる推進を図るに当たっては、これらの課題を意識し、ESDを広める(浸透させる)取組、ESDを深める(実践力を高める)取組、ESDを国際的に浸透・充実させる取組、に力を入れるべきである。

(3)持続可能な開発のための教育(ESD)に関するグローバル・アクション・プログラム(GAP)と「あいち・なごや宣言」
(イ)グローバル・アクション・プログラム(GAP)の策定
 2013年のユネスコ総会及び2014年の国連総会において、DESDの後継プログラムとして、「持続可能な開発のための教育(ESD)に関するグローバル・アクション・プログラム」(GAP, Global Action Program)が採択された。GAPでは、2.(1)において後述する5つの優先行動分野を策定し、これらの下に全ての関係ステークホルダー(利害関係者)が活動を展開することが求められている。

(ロ)あいち・なごや宣言
 2014年11月10日から12日まで開催された「ESDに関するユネスコ世界会議」において、「あいち・なごや宣言」が採択され、GAPの開始が正式に発表された。
 同宣言のポイントは次のとおりである。
  ・GAPの5つの優先行動分野におけるモニタリング及び評価の方法を強化すること。
  ・若者を重要なステークホルダーと位置付けること
  ・ユネスコ加盟国政府が教育政策とカリキュラムがどの程度ESDの目標を達成しているかを評価し、教育、訓練、職能開発に十分にESDを取り入れること
  ・GAPの5つの優先行動分野に沿った政策を実行に移す(又は実施する)ために十分な資源を配分、集結すること
  ・ユネスコ世界会議の成果を、ポスト2015年開発アジェンダ に反映させること
 また、同宣言は、全てのステークホルダーとユネスコ加盟各国に対し、2015年以降、GAPの枠組みに沿ってESDを推進することを求めている。

 上記を踏まえ、我が国はこれからの時代を切り開く鍵となるESDの重要性を再認識し、一層強化していくことが求められている。なお、GAPは、国際、地域、準地域、国家、準国家、国内の地方レベルで実施されることを期待し、全ての関係ステークホルダーに、五つの優先行動分野の下に活動を発展させることを推奨している。
 したがって、我が国において、ESDをより一層推進していくために、NPO/NGO、教育機関、企業等、各ステークホルダーで構成する「持続可能な開発のための教育円卓会議」(以下、ESD円卓会議)」において、ESDの推進方策について意見交換を行いながら、本実施計画を実施する。

2. 基本的考え方
(1) 優先行動分野の推進
 本実施計画では、GAPにおいて示された以下の5つの優先行動分野の下での各ステークホルダーの取組を中心とした計画を示すこととする。
 1)政策的支援(ESDに対する政策的支援)
 2)機関包括型アプローチ(ESDへの包括的取組)
 3)教育者(ESDを実践する教育者の育成)
 4)ユース(ESDへの若者の参加の支援)
 5)地域コミュニティ(ESDへの地域コミュニティの参加の促進)

(2)ステークホルダーへの期待
 GAPにおいては、政府、国際機関、NGO・NPO・公益法人、企業、メディア、学校、個人など、関係する全てのステークホルダーに行動が求められている。「全ての」ステークホルダーがESDに取り組むことは、ESDの推進にとって必要であり、中でも、あいち・なごや宣言においても述べられているとおりユースをキーとなるステークホルダーとして位置付けることが重要となっている。
 また、各ステークホルダー間の連携を図ることが、取組の実効性を確保する上で重要であり、そのために多様なステークホルダー等から構成される円卓会議を活用することや、各ステークホルダーが情報を共有し相互に必要な情報を提供できる場を設定することも有効である。
 国は、各ステークホルダーの自発的な取組を尊重しつつ、国全体として取組が浸透し、実践力が高まり、世界に発信していけるよう施策を講じることが必要である。

(3)国際アジェンダへのESDの反映
 「あいち・なごや宣言」においては、ユネスコ加盟国政府に、ESDをポスト2015年開発アジェンダに反映、強化させることが求められている。2015年はポスト2015年開発アジェンダや、EFAダカール行動枠組の後継行動枠組等が策定される重要な年であり、我が国としてもESDの理念を踏まえて対応するものとする。

3. 優先行動分野ごとの実施計画
 以下においては、GAPで示された5つの優先行動分野の概要と、これに沿った各ステークホルダーの主な取組例を記述する。なお、本実施計画はESD関係省庁連絡会議決定の形式をとるため、記述は各ステークホルダーを支える政府の取組が中心となっているが、ESDの推進においてはNPOをはじめとする政府以外の各ステークホルダーの取組こそが中心であることは言うまでもない。

1)政策的支援(ESDに対する政策的支援)
 本優先行動分野においては、ESDを教育その他の政策に反映させるための取組が求められており、政策立案者、市民社会組織が主なステークホルダーとして想定される。
 各省の主な取組は以下のとおりである。

・学校におけるESDの普及及び実践力の向上<文科省>
・健全育成のための体験活動推進事業の実施<文科省>
・ポスト2015年開発アジェンダ政府間交渉へのESDのインプット<外務省・文科省>
・GAP信託基金の拠出<文科省>
・ユネスコ/日本ESD賞による表彰<文科省>
・ESD先進国との協調・連携方策の検討<文科省>
・全国的なESD支援のためのネットワーク機能の体制整備<文科省・環境省>
・環境人材育成コンソーシアムとの連携<環境省>
・地方公共団体環境教育担当者会議の実施<環境省>
・国連大学との連携<環境省>
・日中韓環境教育ネットワーク(TEEN)の継続<環境省>
・ASEAN+3、関係諸国等との連携<環境省>
・化学物質と環境に関する政策対話の開催<環境省>
・水環境保全活動の啓発<環境省>
・生物多様性国家戦略の推進<環境省>
・食育推進基本計画の推進<内閣府>
・エネルギー・環境・リサイクル施策の広報<経済産業省>
・社会・環境貢献緑地評価システム(SEGES)の普及・活用<国土交通省>
・子どもの水辺再発見プロジェクトの推進<国土交通省、文科省、環境省>
・学校教育における河川環境教育及び防災教育の資料作成・活用<国土交通省>
・子ども農山漁村交流プロジェクトの実施<総務省・文科省・農水省>
・森林環境教育の推進<農水省>
・木づかい運動・木育の推進<農水省>
・「国連生物多様性の10年」の推進<環境省>
・生物多様性の推進(生物多様性民間参画ガイドライン、グリーンウェイブ)<環境省>
・エコツーリズムの推進<環境省>
・生物多様性情報システムの運営<環境省>
・アジア防災センターを通じた地域防災協力の強化<内閣府>
・ESDを踏まえたODAの実施<外務省>

 これらは以下に述べる優先行動分野2)~5)における各ステークホルダーによる取組を総合的に支える性格のものである。

2)機関包括型アプローチ(ESDへの包括的取組)
 本優先行動分野においては、これまでのESDの活動に多く見られたような、一部の教員、一部の学校、学校施設の一部分に限られた形ではなく、より包括的な取組が求められる。フォーマル教育、ノンフォーマル教育等のあらゆる種別の教育にも拡大し、持続可能な開発に則したキャンパスや施設管理等、全てのレベルと場において包括的にESDが促進されることが理想的である。
 主なステークホルダーからのコミットメントとしては、例えば国内外の学校同士を結びつける国際交流支援の取組や、教育機関の構成員(学生、教員等)に向けたESDのカリキュラム開発の取組などがある。
 各ステークホルダーの取組を支える各省の主な取組は、以下のとおりである。

・学校における教科・教員間の連携の強化<文科省>
・ユネスコスクールの活動の活性化に向けた支援<文科省>
・ASPUnivNetを通じた学校と大学との連携強化<文科省>
・環境を考慮した学校施設(エコスクール)の整備推進に関するパイロット・モデル事業の実施<文科省>
・ESD環境教育プログラムの作成・実証<環境省>
・自然公園等利用ふれあい推進事業の実施<環境省>
・日本の国立公園と世界遺産を活かした地域活性化推進事業の実施<環境省>
・学校給食から発生する廃棄物の3R(リデュース・リユース・リサイクル)の促進<環境省>

3)教育者(ESDを実践する教育者の育成)
 本優先行動分野においては、ESDのための学習のファシリテーターとなるよう教育者の能力を育成する取組が求められており、主なステークホルダーとしてESDを実行する教育者、教育者を養成する者、大学教員が想定される。
 主なステークホルダーからのコミットメントとしては、例えば、国内外のユネスコスクールネットワークに参加する学校間の交流やワークショップの開催等を通じた教員能力の向上などがある。
 各ステークホルダーの取組を支える各省の主な取組は、以下のとおりである。

・学校の管理職や教員を対象とした研修の検討<文科省>
・教員と地域の関係者が一緒に参加する研修の検討<文科省>
・ASPUnivNetに加盟する大学による地域での教員研修<文科省>
・初等中等教育教職員招へい事業の実施<文科省>
・人権教育開発事業の実施<文科省>
・環境カウンセラーの活用<環境省>
・水俣病発生地域次世代育成支援事業の実施<環境省>
・ESDの実践者を指導する者の育成<環境省>
・環境教育・学習資料等の収集・提供及び教材の作成<環境省>
・教職員・環境活動リーダーを養成する研修の実施<文科省・環境省>
・エコツーリズム総合推進事業の実施<環境省>
・都市公園における環境教育・環境学習の推進<国土交通省>
・国営公園における環境教育・環境学習の推進<国土交通省>

4)ユース(ESDへの若者の参加の支援)
 本優先行動分野においては、ユースの参加を支援する取組が求められており、主なステークホルダーとして、18歳~35歳のユース、マスメディアや活動家を含むユースによる組織が想定される。
 主なステークホルダーからのコミットメントとしては、例えば地域のユネスコスクールの子供・若者がESDボランティア活動へ参加することへの支援などがある。
 各ステークホルダーの取組を支える各省の主な取組は、以下のとおりである。

・ユースフォーラムの開催等、国内外の若者がESD推進に参画する取組の支援<文科省>
・社会総がかりで行う高校生留学促進事業の実施<文科省>
・体験活動推進プロジェクト等の充実<文科省>
・青少年の国際交流の推進<文科省>

5)地域コミュニティ(ESDへの地域コミュニティの参加の促進)
 本優先行動分野においては、ESDを通じた地域レベルでの持続可能な開発の解決策の探求を加速する取組が求められており、主なステークホルダーとして、公的諸機関、地域教育関係者、企業、市民社会、NGO/NPO、個人、地域メディアが想定される。
 主なステークホルダーからのコミットメントとしては、例えば、ESDに関する地域の拠点(RCE)の規模の拡大や、地域の学校、公民館等の施設におけるESDの推進などがある。
 各ステークホルダーの取組を支える各省の主な取組は、以下のとおりである。

・ESDコンソーシアム事業の拡充<文科省>
・伝統文化親子教室事業の実施<文科省>
・地域のESD活動の相互連携の推進<環境省>
・家庭における環境教育の普及促進<環境省>
・地域活性化に向けた協働取組の加速化事業の実施<環境省>
・地球環境パートナーシッププラザの運営<環境省>
・地球環境パートナーシップオフィスの運営<環境省>
・自治体主導による低炭素・循環・自然共生地域の創出<環境省>
・「環境首都水俣」創造事業の実施<環境省>
・海辺の環境教育の推進<国土交通省>
・地球環境問題に関する知識の普及啓発<国土交通省>
・防災気象情報等に関する知識の普及啓発<国土交通省>
・海洋環境保全教室の開催<国土交通省>

4. 点検・見直し・評価
 以下においては国内実施計画に基づく各ステークホルダーの取組の点検・見直しについて記述するが、政府以外のステークホルダー、特にNPOの取組は、その性質上国が評価主体となることが適切でなく、ESD円卓会議等において、適宜点検・見直しの具体的あり方を議論することが望ましい。

(1) 毎年の取組状況の点検・見直し
 本国内実施計画の着実な実行を確保するため、毎年、取組状況の点検・見直しを行う。その際、NGO/NPO、公益法人、企業、メディア、学校、個人など、関係する全てのステークホルダーが、五つの優先行動分野の下に活動を発展させることが推奨されていることから、本国内実施計画に基づく取組の点検・見直しについては、関係ステークホルダー各自が自主的・主体的に行うことが望ましい。
 また、政府においては、ESD円卓会議の議論を踏まえ、ESD関係省庁連絡会議において本国内実施計画に基づく施策の進捗状況を点検・見直しに努めるものとする。

(2) 最終年における評価
 GAPは2015年から2019年までの5年間を実施期間とする行動計画であり、各ステークホルダーはその5年を通した取組について2019年に総括的なレビューを行う必要がある。
 2019年にはGAP自体がレビューされ、必要に応じて優先行動分野の変更もあり得るとされている。最終年における評価は、こうしたGAPの見直しの動きも踏まえながら、2020年以降のESDの更なる効果的な推進につながるよう実施する。
 なお、GAPの実施期間中においても、国内の環境、経済、社会の情勢の変化や国際的潮流の動向等を注視し、必要に応じて本実施計画の見直しを検討するものとする。

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