資料2 ESDの推進にあたっての課題の整理及び推進方策についての論点ペーパー(案)

1.これまでのESDの成果

○教育振興基本計画及び学習指導要領等を踏まえ、持続可能な社会の構築の視点も重視した教育が推進されてきている。
○例えば、総合的な学習の時間等を通じて、地域の自然や伝統文化などの身近な題材を取り上げ、教科横断的にESDが進められている。
○また、「エネルギー」等のテーマを定め、教科を横断して単元内容につながりを持たせる指導を行うことで、生徒に、「知の統合」を促すような取組もなされている。
○さらに、ESDの実践を通じて学校間の交流、地域とのつながり、生徒間のつながり等が広がることで、子供たちの学びが深まり、また、自分たちの課題を解決していこうとする意識が高まり、自己有用感が育成された等、子供の意識の変容が見られたとの報告もある。
○ESDの実践にあたっては、教科間・教員間の連携が重要であるため、ESDの取り組む多くの学校で、教科・領域を越えた横断的・総合的指導を進めるための年間計画やESDカレンダー等に基づき、計画的にESDが展開されている。
○ESDの推進拠点として位置づけられているユネスコスクールは913校まで増加し、また、2県を除き、全ての都道府県にユネスコスクール加盟校が見られるまでになった。さらに、市の設置する全ての学校がユネスコスクールに加盟している東京都多摩市・福岡県大牟田市等では、市ぐるみで面的な広がりをもってESDが進められている。
○教育委員会及び大学が中心となり、ユネスコ協会及び企業等の協力を得つつ、ESDの推進拠点であるユネスコスクールとともに形成する全国10か所のコンソーシアムに対して財政支援を行った(「グローバル人材の育成に向けたESDの推進事業」)。
○また、学校、公民館、NGO等の地域の多様な団体が、協議会等のかたちでゆるやかに連携しながら、地域ぐるみで、地域に根ざしたESDの取組が進められている。(岡山市等)また、こうした取組の中には、国際連合大学が国際的に展開しているRCEに認定されているものも複数ある。
○NGO、NPO、企業等による、地域の特性に合った多様なESDの実践が多数行われている。
○ASP UnivNetが形成され、大学によるユネスコスクールの支援の体制が構築された。(平成27年5月現在17の大学が加盟)

2.ESDの取組の推進に関する課題

(1)学校現場での取組の推進に関する課題

 「国連ESDの10年」を通じて、ESDは、特にユネスコスクールを中心として取組が推進されてきたが、持続可能な社会の構築は、社会全体で取り組むべき課題であり、ユネスコスクールに限らず、全ての学校において取り組むべきものである。一方で、より広く学校現場でESDを推進するには以下のような課題がある。

○ESDの概念が抽象的であり、また、環境、平和、国際理解、人権等、多岐にわたる分野を包含するものであることから、一般的に十分に理解を得られているとは言えない
○ESDが、既存の教科等で学んだ知識を総合的に活用し、課題の解決に向けて生徒が自ら考え、行動することを促すものであり、教科間のつながりや地域の人とのつながりを大切にするものであるという趣旨が十分に理解されず、付加的なものとしてとらえられることが多い。
学校現場でどのような学習活動を行えば良いのかについての十分な情報がなかったり適切なカリキュラムの編成上の工夫がなされていなかったりするために、体系的・継続的な学習がなされず、ESD的な活動を行っているにもかかわらず、ESDの目指す資質・能力の育成につながらないことも多い。
○ESDに熱心な教員がいても、異動等によりその取組が継続されなかったり、校内における理解が十分に得られず、教科横断的な取組が困難となるなど、必ずしもESDが学校内で組織的に実施されていない
○学校現場での効果的なESDの実践のためには、教職員の意識・指導力の向上が不可欠であるが、ESDに関する教員研修が十分ではない

 

(2)ユネスコスクールでの取組の推進に関する課題

 ESDは、全ての学校において実践されるべきものであるが、特にユネスコスクールにおいては、これまでの経験・実績も踏まえ、ESDの実践に関するモデル校となるよう、更なる活動の活性化及び質の向上をはかることが求められる。

○ユネスコスクールにおいて、これまでも優れた実践が行われてきているが、こうした実践事例を効果的に発信できる場がない
○ユネスコスクールは国内におけるESDの推進拠点であり、今後も、更なるESD活動の質の確保が必要である
○海外との学校間交流をする際に、海外の学校を見つけるための仲介役が必要。また、通訳・翻訳などの語学的なサポート、交流の際に必要な設備が必要。
○活動の質を上げるための企業等との連携が必要だが、コネクションがない
○各地域のユネスコスクールが協働して活動を行う際に、活動の経費、教職員の旅費等の支援が必要。
○ユネスコスクールでの学校間交流について、どのような交流を望んでいる学校かがわからないため、お互いのニーズが合う学校が見つかりにくい。
他のユネスコスクールとの連携を通じて、具体的にどのような活動をしたらよいかがわからない。
○ユネスコスクールのうち公式ウェブサイトを利用した学校が53.6%にとどまっており、公式ウェブサイトの活用率が低い

 

(3)大学におけるESD推進の課題

 ASP UnivNetが形成された一方で、ESDの実践について大学からより実質的な支援を期待する声もある。さらに、地球規模の課題が複雑化・高度化する中で、その解決に向けて大学に期待される役割は大きく、大学自身がESDを実践することが必要である。

○大学での各専門分野での学びの前提として、地球規模の課題の解決に向けた分野横断的・統合的なアプローチの必要性を理解してもらうことが必要である。
○ESDの実践に関し、必ずしも大学と学校との連携が構築されていない。
○ユネスコスクールのうちASP UnivNetの支援や協力を受けた学校が23.6%にとどまっており、必ずしも十分にその役割を果たしているとは言えない。
○ユネスコスクールからは、学校での学習活動を行うにあたっての語学面、設備面での支援に加え、各学校の特色を生かしたより効果的なユネスコスクール活動の進め方についての指導・助言や、学習プログラム作りや理論と実践を結び付けた評価方法等についての助言等、より実質的な支援を求める声もある。
○ESDを取り入れた教員養成を行う大学はまだ限定的であり、ASP UnivNetに加盟する大学を中心として、大学間の連携が一層図られる必要がある。
○サステナビリティ・サイエンスに取り組む研究者や大学、国連大学のRCEなどとの連携がまだ十分とはいえない。 

 

(4)地域におけるESD推進の課題

 地域ぐるみでESDを推進する地域が複数あるものの、地域間の取組状況の差が大きい。地球規模の課題の解決に向けて、地域レベルでの取組は不可欠であり、また、学校がESDを実践するにあたっても地域との連携は不可欠であることから、より多くの地域でESDに取り組んでもらうための方策を検討することが必要である。

○学校、NGO、企業、社会教育施設等がそれぞれに行っているESDの取組をつなげるための情報等が十分でないため、多様な主体間での連携が必ずしも容易でない。
○地域におけるESDの取組を持続可能なものにしていくために必要な若者の参加が十分でない。
○地域でESDを担い得る人材が限られている。  

 

(5)国際的なESDの推進に係る課題

 昨年11月に日本で開催された「ESDに関するユネスコ世界会議」において、「国連ESDの10年」の後継プログラムとしてのグローバル・アクション・プログラム(GAP)の開始が正式に発表された。また、本年9月の国連総会で採択される予定のポスト2015年開発アジェンダの教育に関するターゲットにESDが含まれる見込みである。これらを受け、今後、ESDの提唱国である日本として、国際的なESDの推進にどのように貢献していくのかを検討する必要がある。
 

○GAP信託基金等、ユネスコの枠組みを通じて、グローバルなESD事業を実施し、引き続き国際的なESDの推進においてリーダーシップを発揮することが必要。
○ドイツ等のESD先進国との協調・連携方策の検討が必要。
○ポスト2015年開発アジェンダの教育に関する目標にESDが盛り込まれるよう、引き続き日本としてもその重要性を発信するとともに、今後の国際的なインディケーターの策定に貢献することが必要。

 

3.ESDの推進方策の検討の方向性

 上記(1)~(5)に挙げられた課題は、相互に関連していることも踏まえ、以下の推進方策を検討してはどうか。

○全ての学校におけるESDの実践を推進するため、ESDの実践の具体的な学習活動やその準備の進め方等のイメージを示すESD実践の手引き(仮称)を作成すること。
○学校現場におけるESD実践の改善等につながるような大学と学校との連携を強化すること。
○ESDは地域の特性に合ったテーマを題材とし、地域ぐるみで実践することが効果的であることから、学校と地域との連携促進を促進すること。
○ユネスコスクール間の交流を促進し、各ユネスコスクールの活動の更なる質の向上を図るため、国内外のユネスコスクールの具体的なESDの取組に関する情報共有を効果的に行うこと。
○日本のユネスコスクールが、ユネスコの行う様々な国際交流事業に参加しやすくなるよう、積極的な情報提供を行う等、支援を行うこと。
○ユネスコスクールの優れたESDの取組への財政的な支援の可能性を含め、ユネスコスクールのうち、他のユネスコスクールやユネスコスクール以外の学校のモデル校となり得る学校を育成すること。
○大学におけるESDの実践を促進すること。
○地域の多様なステークホルダー間の連携を促進し、地域ぐるみのESDの実践を促進すること。
○地域での取組への若者の参画を促進すること。
○教員をはじめとするESD実践者への研修の充実を図ること。
○GAPの5つの優先行動分野を踏まえ、国際的なESDの推進に向けて日本が引き続きリーダーシップを発揮できるよう、GAP信託基金を活用するとともに、日本における取組と国際的な事業との連携を図ること。また、この際、ドイツ等、他のESD先進国との連携を図ること。
○ポスト2015開発目標のESDに関する指標の策定の議論に寄与するため、国内においても議論を開始すること。

4.ESD推進に関する具体的な方策の検討

(1)学校現場での取組について

○主に学校現場におけるESDの実践の円滑化を図るため、ESDに関する実践の手引き(仮称)を作成する。その際、学校現場における多様なESDの実践を促すために、具体的な学習活動の例を、その準備のプロセスも含め示すものであるという作成のねらいを明確にするとともに、教員や、地域におけるコーディネーター等の研修等での活用等、具体的にどのような場面で使用するのかも合わせて検討することが必要である。
○手引きには、ESDを通じて、学校において具体的にどのような資質・能力を育成するかをより具体的に示す。
○また、ESDのねらいを、学校現場での実践用によりわかりやすく設定するとともに、ESDを実践することの意義、実践することにより得られる効果を明確にする。
○また、育成した資質・能力やテーマに応じて、具体的な学習活動の事例を紹介する。この際、どのようにして単元を作っていくか等、実践の準備プロセスも含めて示すこと等で、日常の実践と乖離したものとならないように留意することが必要である。
○教員同士が、手引き(仮称)を参考にして行ったESDの実践や、使用した教材等をウェブサイト上で共有し、相互に活用できるような場の提供も合わせて検討することが必要である。
指導方法、学習評価、指導体制等についても重要であることから、現在の中央教育審議会における初等中等教育における教育課程の基準等の在り方についての議論の結論を踏まえ、必要に応じて、更なる充実を図る。
○また、手引きの作成に際しては、以下の点に留意する。
 ・ESDは特定の教科等においてのみ実践されるものではなく、学校全体のカリキュラムを通じて実践されるべきものであること。
 ・ESDは、地域の特性に合った課題について実践することが効果的であり、学校が主体的に行うものであり、また、内容・形態において多様であること。

(2)学校と大学の連携強化方策の検討

○ASP UnivNetの自主性に留意しつつ、加盟大学を中心に、学校と大学の連携を強化し、学校におけるESDの実践に関する大学による支援の在り方等についてASP UnivNet内で議論を開始することが必要。
○また、ESD実践の手引き(仮称)作成後は、ASP UnivNetの加盟大学を中心として、この手引きを用いた学校における優れた実践の支援に取り組んでいくことが必要。
○「グローバル人材の育成に向けたESDの推進事業」で形成されたコンソーシアムにおいて、ユネスコスクールをはじめとする学校に対して行われている大学による支援を検証し、その成果を踏まえることが必要。

(3)学校と地域との連携方策の検討

○「グローバル人材の育成に向けたESDの推進事業」で形成されたコンソーシアムにおいて、ユネスコスクールをはじめとする学校と地域がどのように連携しているかを検証し、その成果を踏まえることが必要。
○特に、地域ぐるみのESDの取組における自治体や教育委員会の役割についての検証が必要。
○例えば岡山市や多摩市では、それぞれ専従のコーディネーターや指導主事等、学校と地域との連携をコーディネートする役割を担っている。こうした学校と地域をつなぐコーディネーターの発掘/育成が必要。なお、この際、学校と地域をつなぐためにはどのようなスキル・知識が必要であるかを明確にすることが必要である。
○社会教育主事や公民館職員などのESDに対する理解を深めるとともに、これらの地域におけるコーディネーターとの連携を図ることで、学校と社会教育現場との連携を促進することが必要。
○地域においてESDの実践者の取組を支援するNGO等、コーディネーターの役割を果たしている団体や個人に学校現場のニーズをより具体的に伝えることが必要。例えば教員と地域の関係者が一緒に参加するような研修の実施も効果的ではないか。

(4)ユネスコスクールの活動支援方策の検討

○ユネスコスクールについては、引き続きその数を拡充していくと同時に、ユネスコスクールへの趣旨や、加盟することの意義について再確認し、その活動の活性化及び質の確保を行うことが必要。
○ユネスコスクールの活動の活性化、質の確保のためには、ユネスコスクールのネットワークとしての性質を生かし、ユネスコスクール間での情報交換、優良事例の共有等を日常的、継続的に、かつ効果的に行うことが必要であり、このためには、ユネスコスクール公式ウェブサイトがより効果的な情報発信を行い、ユネスコスクール同士の交流の場となるように工夫することが必要。
○特に、ユネスコスクール公式ウェブサイトについては、学校間の実践の共有がより効果的に行えるよう、情報提供の在り方を見直すとともに、こうした共有がユネスコスクール以外の学校ともできるように工夫をすることが必要。
○また、ユネスコスクールの自主的な取組として、ユネスコスクール全国協議会(仮称)の設立を検討することが必要である。
○さらに、現在は一年に一回、優良事例を紹介するイベントとしてユネスコスクール全国大会を開催しているが、これをユネスコスクールの教員を中心とした参加型の研修にする等、より活発な議論を行うことで相互の活動の改善につながるような場として見直しを行う。
○ユネスコスクールが、ESDの推進拠点としての役割を強化できるよう、コンソーシアム事業を拡充し、採択事例を全国に確保するとともに、これまでの事業の成果を検証し、広く普及を行う。
○例えばESD実践の手引き(仮称)を用いた優れた活動や、地域を巻き込んでの優れた活動を行い、他のユネスコスクールの活動に対するモデルとなり得るようなユネスコスクールの活動への財政的な支援の枠組みを検討することが必要。

(5)大学によるESDの実践を促進するための方策

○大学での各専門分野での学びの前提として、分野横断的・統合的なアプローチの必要性を理解するために大学においてESDを実践する必要がある。一部の大学においては既にESDの実践がされていることから、大学におけるESD実践の優良事例を収集・共有することが必要。
○ASP UnivNetの加盟大学による他大学へのESDの普及活動を行うことができないか検討することが必要。
○ASP UnivNetに加盟する大学が、各県、市町村の教育委員会と連携して、地域に根ざしたテーマや課題を中心とした教員研修を実施することが必要。
○ASP UnivNetに加盟する大学の教員等を中心として、ESDの実践研究を深めることが必要。

(6)地域での取組を促進するための方策

○地域における多様な主体間の連携が促進されるよう、情報共有の在り方を検討することが必要。
○環境省が、環境教育・学習の実践者に対し、各地域の特性やニーズに応じた柔軟な支援が行える体制の整備を検討しているが、こうした取組とも連携をしながら、環境教育の分野にかかわらず、地域での多様なESDの実践をつなぐネットワークを形成することが必要。
○地域でのESDの取組の持続可能性を確保する観点から、地域におけるESDの取組への若者の参画を促進することが必要であり、ESDの分野において引き続きユースフォーラムを開催することが必要。
○また、こうした若者が継続してESDに関する情報共有・発信等を行えるよう、ESDに取り組む若者のネットワークを構築することが必要。

(7)教員への研修の在り方

○ESD実践の手引き(仮称)を用いて教員の指導力向上のための研修を行うことが必要。ESDを実践するに当たっては学校全体での取組が必要であり、研修は管理職を含め、全ての教員が受講することが望まれる。
○研修方法については、次世代型教育推進センターとも連携しながら、より効果的な研修方法を確立することが必要。
○既存の研修の中で、ESDを事例として取り上げることが可能なものを検討することが必要。例えば、独立行政法人教員研修センターや、都道府県(又は政令指定都市)教育委員会が実施している総合的な学習の時間や環境教育等に関する教員研修の中で取り上げることができないか。
○研修への参加促進のための方策を検討することが必要。
○例えば地域の関係者も一体となって学校におけるESDに関する学習活動を効果的に企画できるよう、教員と地域の関係者が一緒に参加するような研修の実施を検討することが必要。

(8)国際的なESDの推進のための方策

○GAPの五つの優先行動分野「政策的支援」「機関包括型アプローチ」「教育者」「ユース」「地域コミュニティー」に重点的に取り組むため、ユネスコに拠出しているGAP信託基金を活用し、ユネスコを通じて、加盟国を対象としたESD事業の一層の推進が必要。特に、ユースの分野においては、日本の若者も積極的に参加できるよう、情報提供の在り方等を工夫することが必要。
○世界中のESDの実践者にとってより良い取組に挑戦する動機付けとなり、また優れた取組を世界中に広める機会を作るため、ユネスコ/日本ESD賞を引き続き日本政府として支援することが必要。さらに、ユネスコ/日本ESD賞において表彰された先進的なESDの取組を日本におけるESDの取組の参考にする等、国内のESDの実践の向上にもつなげていくことが必要。
○「国連ESDの10年」の提唱国として、今後も世界におけるESDを推進するために、ドイツ等のESD先進国との協調・連携方策を検討することが必要。例えば、日本のユネスコスクールとの二国間での交流の促進等が考えられる。
○ポスト2015年開発アジェンダの教育に関する目標にESDが盛り込まれるよう、引き続き日本としてもその重要性を発信するとともに、今後の国際的なインディケーターの策定に貢献することが必要。

 

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