日本ユネスコ国内委員会総会(第141回)議事録

1.日時

平成29年9月12日(火曜日)16時00分~18時00分

2.場所

東海大学校友会館 阿蘇・朝日の間

3.出席者(敬称略)

〔委員〕
安西祐一郎(会長)、古賀信行(副会長)、濵口道成(副会長)
青野由利、秋永名美、安達久美子、安達仁美、阿部宏史、有里泰徳、礒田博子、井手明子、猪口邦子、植松光夫、宇佐美誠、及川幸彦、相賀昌宏、大西英男、岡田保良、長有紀枝、加藤淳子、河内順子、小林真理、小長谷有紀、今みどり、西園寺裕夫、島谷弘幸、高尾初江、寺本充、中西正人、西尾章治郎、細谷龍平、平野英治、見上一幸、山田卓郎

〔欠席・委任〕
青山周平、伊東信一郎、稲葉カヨ、翁百合、岡田元子、小此木八郎、黒田玲子、小林栄三、杉村美紀、妹島和世、立川康人、那谷屋正義、野村浩子、羽田正、日比谷潤子、平松直巳、早川信夫、福岡資磨、松代隆子、横山恵里子、吉見俊哉

〔外務省〕
宮川学 文化交流審議官

〔文部科学省〕
林芳正 文部科学大臣

〔文化庁〕
中村崇志 文化庁文化財部記念物課 専門官

〔事務局〕
松浦晃一郎 日本ユネスコ国内委員会特別顧問(前ユネスコ事務局長)、川端和明 日本ユネスコ国内委員会事務総長(文部科学省国際統括官)、小林洋介 日本ユネスコ国内委員会事務次長(文部科学省国際統括官付国際戦略企画官)、その他関係官

4.議事


【安西会長】 本日は,御多忙の中お集まりいただきまして,誠にありがとうございます。定刻でございますので,始めさせていただきますが,その前にまず,事務局から定足数の確認をお願いいたします。
【鈴木補佐】 本日,現在御出席の委員の皆様が32名でいらっしゃいます。委員の過半数を満たしておりますので,定足数を満たしております。
【安西会長】 ありがとうございました。ただいま,事務局から定足数は満たされているという報告がありましたので,第141回日本ユネスコ国内委員会を開催させていただきます。
日本ユネスコ国内委員会の規程に基づきまして,本日の総会は,一部の議題を除いて,傍聴の希望者に対して公開をさせていただきます。また,御発言につきましては,非公開部分を除きまして,そのまま議事録に掲載されて,ホームページ等で公開されますので,御理解いただきますようお願い申し上げます。
本日の会議には,大変御多忙の中を林文部科学大臣に御出席いただいております。
また,本日は,外務省の関係官に出席を求めております。また,松浦日本ユネスコ国内委員会特別顧問にもお越しいただいております。
開会に際しまして,大変悲しいお知らせでございますけれども,平成25年から日本ユネスコ国内委員会の委員をお務めいただいております早川信夫日本放送協会の解説委員が,去る8月29日に逝去されました。急なことでございましたけれども,早川委員には7月31日にも教育小委員会に御出席いただき,活発に御議論に御参加いただいたところでございました。謹んで御冥福をお祈り申し上げますとともに,皆様とともに黙とうを捧げたいと存じます。
皆様,御起立お願いできますでしょうか。よろしくお願いいたします。黙とう。
(黙とう)
【安西会長】 ありがとうございました。
それでは,林文部科学大臣から御挨拶を是非いただければと思います。よろしくお願いいたします。
【林大臣】 御紹介を賜りました文部科学大臣の林芳正でございます。第141回日本ユネスコ国内委員会の開会に当たりまして一言御挨拶を申し上げます。
まず安西会長,古賀,濵口両副会長,また委員の皆様,お顔見知りの方も随分いらっしゃいますが,御多忙のところ,今日もお集まりいただきまして,また,日ごろから我が国のユネスコの活動に対しまして御助言,御協力を頂いておりますこと厚くお礼を申し上げたいと思います。
ユネスコは私から申し上げるまでもなく,唯一の教育,科学,文化を所管する国連の専門機関でございまして,多くの分野でその専門性を発揮していただいております。今年の6月に祖母・傾・大崩とみなかみがユネスコエコパークに登録をされましたし,7月には世界遺産委員会が開催され,「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」が登録をされたことは,大変記憶に新しいところでございます。今年,国会の事情が許せば私も行ってまいろうと思いますが,10月末からパリで総会が行われます。そこでは,次期2か年予算に関する審議に合わせまして,新たな事務局長も承認されることになっておりますので,いろいろなところでユネスコの政治化が懸念される声もある中,大変に大事な局面であろうかと思っております。
また,一方でこの先進国を含んだSDGs,Sustainable Development Goalsに関しましては,ユネスコも積極的に貢献しているところでございますが,この持続可能な社会構築の重要性に鑑みまして,政府においても,昨年12月に安倍総理を本部長といたしますSDGs推進本部におきましてこのSDGs実施指針を決定し,具体的な施策の実施に取り組んでおります。
またさらに,我が国が提唱し,これまで取り組んでまいりましたESD,持続可能な開発のための教育につきましても,SDGsの全体の達成に欠かせないものとして,SDGsのターゲットのうちの1つでもあると同時に,全体にとっても大変大きな意味を持つものと考えております。
本日は,この総会への対応,また専門分野,現場の実践,こういうものも踏まえて,今後のユネスコの在り方,SDGsの達成に向けて,我が国がユネスコを通じて果たすべき役割等々につきまして,大所高所から奇譚のない御意見を頂戴できれば幸いに存ずるところでございます。よろしくお願いいたしまして,私からの御挨拶とさせていただきます。ありがとうございました。
【安西会長】 ありがとうございました。林大臣は本当に御多忙の中をおいでいただきまして,すばらしい御挨拶を頂きましたが,この後次の御予定がありますので,ここで退席されます。どうもありがとうございました。
【林大臣】 ありがとうございました。よろしくお願いいたします。
(林大臣退席)
【安西会長】 報道関係者の皆様におかれましては,写真撮影はここまでとさせていただきますので,御了承ください。よろしくお願いいたします。
審議の前に,本年2月24日に開催されました前回の国内委員会総会以降,事務局に異動がありましたので,事務局から報告をお願いいたします。
【鈴木補佐】 はい,御報告いたします。4月1日付で,文部科学省国際統括官に川端和明が着任しております。
【川端国際統括官】 川端でございます。よろしくお願いいたします。
【鈴木補佐】 8月1日付で,文部科学戦略官に池原充洋が着任しております。
【池原文部科学戦略官】 池原でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
【鈴木補佐】 4月1日付で,文部科学省大臣官房国際課長に里見朋香が着任しております。
【里見国際課長】 里見でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
【鈴木補佐】 以上です。
【安西会長】 ありがとうございました。
それでは,議題に入らせていただきます。議題の1は報告事項でございますが,我が国におけるユネスコ活動の状況についてでございます。前回の国内委員会総会以降の活動状況について,関係委員又は事務局から報告していただきます。よろしくお願いいたします。
まず,7月31日に開催されました第135回教育小委員会につきまして,教育小委員長の見上委員から御報告をお願いいたします。
【見上委員】 はい。第135回教育小委員会を7月31日に開催いたしましたので,私の方から報告させていただきます。
本委員会では,ESDを実践している関係者向けの教育小委員会からのメッセージを取りまとめました。
【安西会長】 資料1ですね。
【見上委員】 資料1でございます。資料1を御覧いただきたいと思います。続きまして,資料1のマル1 ,マル2 につきましても後ほど御覧いただきたいと存じます。
これは,SDGsの策定,ユネスコスクールの現状,新学習指導要領等の公示等を踏まえ,ESD実践者の方からしばしば御質問を頂く内容につきまして,教育小委員会としての考え方をお示しし,ESDに安心して取り組んでいただけるようにという観点から,3つございますが,まず1つ目は,SDGsの達成に貢献するESD。2つ目が,これからのユネスコスクール。3つ目が,教育の質の向上へのESDの貢献という3点について取りまとめたものでございます。
資料1のマル1 の方を御覧いただきまして,説明を続けさせていただきます。SDGsの達成に貢献するESDという観点から申し上げますと,ESDをより一層推進することがSDGsの達成に直接,間接につながっていること。2つ目が,それを踏まえた上で,SDGsが掲げる17の目標をESDの取組に取り入れ,今後のESDの推進に役立てていきたいこと。また,具体的な活動の際にはSDGsを見据えつつ,学校や地域で足元の課題解決を大事にしていくことが重要であること。この3つについて示してございます。
それから,めくっていただきまして,これからのユネスコスクールにつきましては,各学校がユネスコスクールのネットワークを最大限に活用し,主体的に国内外のユネスコスクールと交流することで,これまでに蓄積された様々な好事例の共有を進めていきたい旨が述べられております。
次の3のところですが,教育の質の向上へのESDの貢献では,これまでもESDの実践は教育課程,学習スタイルの変革に貢献してきました。2つ目としては,2017年3月に公示されました小中学校学習指導要領において,全体の内容に係る前文及び総則において「持続可能な社会の創り手」の育成が掲げられており,各教科においても関連する内容が盛り込まれております。3つ目は,教育小委員会としては,これは持続可能な社会の担い手を作る教育であるESDが,新学習指導要領全体において基盤となる理念として組み込まれたと理解しているといった内容になっております。今後必要に応じて是非,委員の皆様方にも御活用いただきたく存じます。本資料は総会後にESDポータルに掲載を予定しております。
また,委員会ではこのほか,資料1の議事次第にございますとおり,ESDの推進,ユネスコスクール等に関連した進捗状況について,事務局や関連委員から報告を頂き,議論を行いました。特に,ESDの新学習指導要領等との関連については,今回の改定により持続可能な社会の担い手を創る教育であるESDが,新学習指導要領全体において基盤となる理念として組み込まれたと理解していること,本日の資料1のマル2 は新しい学習指導要領等からポイントを抜粋した部分でございますが,これを用いて事務局より紹介いただいたところでございます。
また,ユネスコの教育関係のその他の事業について,特にユネスコチェア事業,ユネスコ学習都市事業について報告があり,ユネスコチェア事業については,阿部委員から,岡山大学での取り組みを御紹介いただきました。以上でございます。
【安西会長】 ありがとうございました。御質問,御意見等につきましては,御報告を全て頂いてからお願いできればと思います。
それでは次に,SDGs推進特別分科会報告につきまして,同分科会の委員長の濵口委員から御報告をお願いいたします。資料2でございます。
【濵口副会長】 SDGs推進特別分科会の審議の経過につきまして,分科会を代表して私から御報告させていただきます。
昨年の5月に安倍総理を本部長,全閣僚を構成員とするSDGs推進本部が設置され,SDGsへの国内の関心が高まる中,日本ユネスコ国内委員会では,昨年の7月に本分科会を運営小委員会のもとに設置いたしました。本分科会はユネスコ活動を通じた我が国としての国内外における持続可能な開発目標,SDGsの実現に向けて,推進方策を検討することを目的としており,現在までに3回開催しております。会議にはSDGs推進特別分科会の委員に加え,毎回オブザーバーとして多くの国内委員会の先生方にも御出席いただいており,SDGsに関する様々な御意見を頂いております。今までの会議を通じて,委員の先生方から発言を頂きました主な点を紹介させていただきます。
まず,SDGsは,開発途上国だけでなく,先進国も含む国際社会全体の国際開発目標であります。同時に,比較的多くの開発に関する世界的な課題を抱えている開発途上国への支援についても重点的に取り組んでいくことが重要であると考えます。我が国がこれまで主導してきたESDは,SDG4,教育に限らずSDGsの全てのゴールに関係するものであります。我が国が今まで積み上げてきましたESDの知見を生かしながら,ESDに関わる取り組みを更に推進することで,SDGsの各ゴールの達成に貢献をしていくべきであると考えます。
海洋などの包括的なアプローチを求められる分野において,SDGsの各課題の解決のためには,各国と連携して取り組むことが重要であり,まず世界的な研究人材の育成が必要であると考えます。
さらに,SDGsの達成への貢献のためには,世界遺産制度の運用が,「国際的に協力・支援して,人類共通の遺産を保護し,次世代に継承する」という本来の趣旨に立ち返ったものとなることが重要であると考えます。
これらの趣旨の御意見を多数頂いております。引き続き本分科会ではユネスコ活動を通じたSDGsの国内外での推進の在り方について積極的に検討を進め,より効果的な取り組みの実施のために提言をしてまいりたいと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。
【安西会長】 ありがとうございました。
本日は,これまで国内委員会総会で御紹介する機会があまりなかった事業につきましても,関係委員の皆様から御紹介を頂くことにしております。まず,ユネスコの高等教育分野の活動でありますユネスコチェア事業について,阿部委員から御説明をお願いしたいと思います。
【阿部委員】 失礼いたします。岡山大学の阿部と申します。先ほど見上委員からも少し触れていただきましたが,岡山大学では2007年4月にESD推進を目的として,ユネスコチェアの設置認可を受けております。私は責任者として運営に関わってきました経緯がございますので,この場をお借りして資料3に基づきまして,ユニツイン/ユネスコチェア事業について簡単に説明させていただきます。
まず,資料3に書いておりますように,正式名称はユニツイン/ユネスコチェアプログラムと申しまして,知の交流と共有を通じて,高等教育機関,それから研究機関の能力向上を目的とするプログラムです。高等教育機関の国際的な連携・協働を促進することにより,人的・物的資源のシンクタンクとして,また教育・研究機関,地域コミュニティー,政策立案者間の橋渡し的存在としての役割を担うことを目指すものです。ユネスコが1992年に創設しておりまして,事業形態のところに書いてございますが,一つはユニツインと呼ばれる国際的な大学間ネットワーク組織を認定するもので,2017年6月現在で44ネットワークがあります。
もう一つは,大学等の機関の中に拠点講座として設置するユネスコチェアと呼ばれるものです。2017年6月現在で690講座が世界で認可されております。認可手続に当たりましては,ユネスコ国内委員会を通じて,大学等の組織が申請いたしまして,ユネスコの審査を経て,ユネスコと覚書を締結することにより設置認可が発効するというものです。資料に概要を書いてございますが,ユネスコチェアにつきましては4年ごとの更新,ユニツインにつきましては6年間の協定ということで,この期間を超える場合には再度協定を結ぶことになります。
3のプロジェクトの機能ですが,プログラムの責任者をそれぞれの機関で置きまして,資料に書いておりますユネスコチェアホルダー,それからユニツインのネットワーク・コーディネーターの責任の下で,資料に7点ほど挙げております様々な教育研究事業,あるいは国際交流事業を実施するというものです。
2ページ目を御覧いただきまして,日本の現状ですけれども,ユニツインにつきましては,そこに書いております京都大学,広島大学等の事業,ユネスコチェアにつきましては,埼玉大学,立命館大学,私の岡山大学,筑波大学等の事業がございます。それに加えまして,現在,神戸大学,京都大学,島根大学から設置認可が申請され,現在手続中になっております。それから平成29年度の設置申請中として,長岡技術科学大学のものがございます。
ユネスコチェアの3番目に書いております,岡山大学の事業ですが,先ほど申し上げましたように2007年4月にユネスコから設置認可を受けまして,ESDの推進を目的とした事業を展開しております。岡山大学のユネスコチェア申請のきっかけは,2005年に「国連ESDの10年」が始まった際に,岡山地域が国連大学のESD推進拠点であるRCEに世界最初の7か所の一つとして認定を受け,岡山大学もRCE岡山の参加機関として,具体的な形で地域のESD推進に貢献していきたいと考えたことです。設置認可後は地域のESD関連組織と協力しながら,RCE岡山の中で様々なESD取り組みを推進してまいりました。また,大学の中でも,環境学の分野を中心として,ESDを取り入れたカリキュラム開発ですとか,人材育成,国内外のESD関連機関との連携を進めております。
また,学内では2010年に教育学部が中心となりまして,ESD協働推進室を設置し,ユネスコチェアとともに,国内大学で組織するユネスコスクール支援大学間ネットワークに参加して,ユネスコスクールの支援や,教員養成へのESD導入を進めています。
ユネスコチェア,それからユニツインの大きなメリットとしては,1ページ目の下のあたりに書いておりますが,ユネスコという名称を使用して,国際的に事業を展開できることで,特に岡山大学のような地方大学の場合,国際的な知名度という面で課題がございますので,ユネスコの名前が使用できることは,非常に大きなメリットがあります。
それから,私どものユネスコチェアは,ESD推進を目的としており,ESDの主導機関がユネスコでございますので,国際的な事業展開では,非常に大きなメリットがあったと感じております。
以上,簡単ですけれども紹介させていただきました。
【安西会長】 ありがとうございました。
それでは続きまして,6月にパリのユネスコ本部で開催されました第29回政府間海洋学委員会総会につきまして,植松委員から御説明お願いいたします。
【植松委員】 ありがとうございます。植松でございます。資料4と資料11の9ページ,カラーの写真も入っていますのでそれを御覧いただいて,ユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)の活動について御報告させていただきます。
IOCは海洋科学研究,海洋観測システム開発,津波防災,人材育成,海洋法条約,こういった,いろいろな事項について議論しております。現在,148か国加盟しております。もともと,1954年の第8回ユネスコ総会で,後に東大総長になられた茅誠司先生が海洋問題特別委員会の設置を提案され,1960年第11回ユネスコ総会でIOC設立が決定された,いわば,日本が生みの親という,深く関わっている経緯がある委員会でございます。
また,皆さん御存じかと思いますが,日本はユネスコの分担金の支出においても最大のスポンサーです。IOCに対しても資金支出を行っておりますが,IOCの執行予算というのはユネスコの全体の予算のなんと2%,年間約1,000万ドル,少ないながらもよく頑張っているというふうに評価しております。
本年4月21日から23日まで中国の青島でIOCの西太平洋地域小委員会,WESTPACと呼んでおりますが,22か国からなる第11回政府間会合が開催されました。この役員選挙の結果,3名のWESTPAC副議長の一人として安藤健太郎IOC分科会調査委員が選出されました。日本が副議長に選出されるというのは実に7年ぶりという状況です。それに先立ちましてWESTPACサイエンス・コンファレンスが開かれまして,19か国,800名を超す参加がありました。そのセレモニーにおいて小松輝久横浜商科大学教授がWESTPAC Outstanding Scientist Awardを受賞されました。
これが終わってからパリのユネスコ本部で,6月20日に第50回IOC執行理事会が,21から29日まで第29回IOC総会が開催されました。総会では,国連,持続可能な国際海洋科学の10年の提案,これは我が国も強く支持する表明をいたしました。また,6月上旬にニューヨークで行われました持続可能な開発目標(SDG)14実施支援国連会議,オーシャン・コンファレンスと呼びますが,その成果などについても議論を行いました。ユネスコ執行理事国選挙でアジア太平洋地域,グループⅣから,我が国を含む9か国が,そして5つの地域のグループから合計で39か国選出されました。日本はずっと執行理事国としてIOCをリーディングしております。
特にこの総会で,資料の4に書かれておりますが,御報告したいのは,世界を変えるための17の目標のうち,目標14,SDG14,海の豊かさを守ろうというものがあります。英語でいいますとLIFE BELOW WATER,素晴らしい翻訳だというふうに思いますが,これは持続可能な開発のために海洋及び海洋資源を保護し,持続的に利用するというようなものであります。SDG14には数多くのターゲットがございます。その中で,全てをユネスコやIOCができるわけではなく,中心になって進めるというのは,科学的な知識の増進,研究能力の開発,そして科学技術の移転を行うというようなことです。
実際に大気中の二酸化炭素が増えて温暖化が進む,海水温が上がる,北極海の氷が溶け始めて海流が変わったりする,気候も皆さん御存じのように,極端な気象現象が出現し始めました。ところが,増え続ける二酸化炭素の約3割,これは海が吸収しております。これはすばらしいと思うのですが,逆にうまい話だけではなくて,二酸化炭素がどんどん海水中に溶けると,海水自体はほぼpH8なのですが,pHが下がります。コーラ飲料とかシャンパンですとpH2ぐらいですけれども,海洋の場合,pH7.8とほんの少し下がるだけで海洋の生物に影響が出始めます。いずれにしても,この海洋酸性化というのは,非常に大きな課題なのですが,二酸化炭素の大気へ出ていく量を減らす,こういう根本的な温暖化対策以外,解決法がない状態です。
また,海のマイクロプラスチックの汚染というのが心配され始めております。プラスチックは分解せずに腐りません。ペットボトルやビニール袋もそうですが,化粧品,私には縁がないのですが,そういったものに含まれている小さな粒子,歯磨粉に入っている微粒子,あるいはペットボトルのリサイクルで使われていますフリースというのがございますが,これが洗濯時にその繊維が流れ出て,最後は海に運ばれて溜まってしまうというようなことがあります。こういった身近な環境改善をすることで地球環境を守る,こういう教育も非常に重要ではないかというふうに考えております。
このような地球規模の変化をつかまえる,捉える海洋観測というのは非常に重要ですし,この強化が望まれています。また,それを計測する海洋技術の開発,それもまた,先進国だけではなしに,発展途上国にその技術を移転するということも非常に重要なわけであります。さらに,こういった課題だけではなしに,海洋科学研究の人材育成,これはユネスコの理念にもありますように,不可欠なものだというふうに思います。幸い,今年度,政府開発援助ユネスコ活動費補助金を頂きまして,現在,IOC WESTPACの地域海洋学トレーニング・リサーチセンター,この活動を試みるということと,ネットワークの構築を現在,試行をしているところです。このトレーニングセンターをユネスコIOCに認められるためには,センターとして人材育成活動を5年間継続させる予算と人材を確保する必要があります。中国,インドネシアは既に活動しておりますし,タイ,ベトナムも準備中です。日本も後れず,日本からのユネスコの信託基金JFIT,ほかにも企業など皆様から支援を受けて,人材育成を含むような事業を展開したいと考えております。
なお,次回の第51回IOC執行理事会は来年7月2日から6日にわたってパリで開催されます。以上です。
【安西会長】 ありがとうございました。
それでは次に,ユネスコエコパークへの登録について,礒田委員から御説明お願いいたします。
【礒田委員】 ユネスコエコパークに関して,MAB計画分科会を代表しまして御報告いたします,礒田でございます。
資料の5を御覧ください。ユネスコエコパーク,昨年9月,我が国からユネスコに推薦しておりました祖母・傾・大崩,こちら大分県と宮崎県になります。また,みなかみ,こちらは群馬県と新潟県になりますが,こちらの登録について,平成29年6月12日から6月15日までパリで開催されました第29回人間と生物圏,こちらMan and the Biosphere reservesということでMABと申し上げますが,MAB計画国際調整理事会におきまして審議が行われ,ユネスコエコパークへの登録が決定いたしました。
別添の3-1を御覧ください。こちらに祖母・傾・大崩の解説がございます。こちらのエコパークは,大分と宮崎両県にまたがる祖母・傾・大崩山系を中心に,こちらを源流とする大野川水系,五ヶ瀬川水系流域の6市町をエリアとしております。地域共通の文化的背景である祖母山の信仰等に代表される土地固有の多彩な民俗芸能が各地で継承されておりまして,自然への畏敬の念が地域の文化として根付いております。
次に,別添の3-2を御覧ください。みなかみユネスコエコパーク,こちらは群馬県の最北端に位置するみなかみ町全域を中心に隣接する新潟県の一部で構成されておりまして,日本を代表する大河川である利根川の最上流域に位置し,人口・経済において世界最大規模である東京都市圏の約8割,3,000万人の生命と暮らしを支える水の最初の一滴を生み出しております。
別添1の概要にございますように,ユネスコエコパークは,1.保全機能,2.経済と社会の発展,3.学術的研究支援という3つの機能を持ち合わせて,自然と人間社会の共生を目的とした取り組みを向上させながら,継続的に展開させていくことが必要な事業でございます。ユネスコエコパークに登録された地域は,ユネスコエコパークの世界ネットワークの一員として,自然と人間社会との共生に関する地域の特色ある取り組みを国際的に発信するとともに,世界の各ユネスコエコパークの特色ある取り組みを学び,地域の取り組みをより一層推進することが期待されております。
今回新しく登録が決定した2地域を含め,日本には現在,ユネスコエコパークに登録されている地域が9地域ございます。各エコパークが国内,国外のユネスコエコパークとの交流を通じて持続可能な地域の取り組みを更に推進していくことを期待しております。以上でございます。
【安西会長】 ありがとうございました。
それでは次に,「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」世界文化遺産の登録の件でございます。文化庁記念物課の中村専門官に御説明をお願いいたします。
【中村専門官】 失礼いたします。文化庁記念物課の中村でございます。
資料6に基づきまして,「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」の世界文化遺産登録について御説明をさせていただきます。本年7月にポーランド,クラクフで開催されました世界遺産委員会におきまして,我が国から世界文化遺産へ推薦を行っている本資産に関して,8つの構成資産全てを世界遺産一覧表へ記載することが決定されました。
右肩に参考1と書かれている資料をごらんください。福岡県宗像市と福津市に位置します本資産につきましては,沖ノ島を崇拝する文化的伝統が古代東アジアにおける活発な対外交流が進んだ時期に発展し,海上の安全を願う生きた伝統と明白に関連して今日まで継承されてきたことを物語る希有な物証として推薦をされてございます。
沖ノ島には,4世紀から9世紀の間の古代祭祀の変遷を示す考古遺跡がほぼ手つかずの状況で現代まで残されてきたものであり,沖ノ島と周辺の3つの岩礁を含む宗像大社沖津宮を構成資産としております。また,沖津宮,中津宮,辺津宮は宗像大社という信仰の場として現在まで続いてございます。地図で見ますと,5.と6.にございます大島にある宗像大社沖津宮遙拝所,宗像大社中津宮が構成資産として記載をされてございます。
こうした信仰を担い育んだ宗像市の存在を物語る資産が,新原・奴山古墳群として,8番の福津市に所在する古墳群として記載をされてございます。また,7.の宗像大社辺津宮につきましても,宗像市の所在しているものも記載をされてございます。
平成29年5月のイコモス勧告の中では,沖ノ島と周辺の3つの岩礁について記載をすることが適当というような評価を世界遺産委員会の諮問機関であるイコモスから受けておりましたが,世界遺産委員会の場での委員国の議論の中では,8つの構成資産が文化的・歴史的に結びついた一体のものであり,本資産の価値を理解するために全ての構成資産が必要であるといった議論を経て,全ての構成資産が登録される結果に至ったものでございます。
参考の2にございます,「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」の世界文化遺産登録を経まして,自然遺産を含めまして我が国で21件目の世界遺産が誕生いたしました。これまでに登録された17件の世界文化遺産を含めまして,文化庁におきましては,適切な文化財の保全に取り組むこと,また来年の世界遺産委員会で審議を予定されてございます「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の世界遺産登録に向けても,地元自治体,関係機関と協力をいたしまして,万全を記していきたいと考えてございます。報告は以上でございます。
【安西会長】 ありがとうございました。それではこの議題1の御報告の最後といたしまして,事務局からユネスコ関係予算に関する概算要求について説明いただきます。
【小林国際戦略企画官】 それでは,資料の7を御覧いただければと思います。ユネスコにおきましては,持続可能な開発目標,SDGsの採択を受けまして,ユネスコの次期事業予算案におきまして,SDGsへの貢献を意識した構成とするなど,その達成に向けてあらゆる分野で積極的な取り組みを行っております。また,我が国におきましては,経済財政運営と改革の基本方針,骨太の方針2017の中で,SDGs実施指針に基づく国内施策や国際協力を含めた総合的な取り組みについて記載されているなど,政府を挙げての取り組みが求められております。これらを踏まえまして,文部科学省ではこれまで行ってきましたユネスコ関係の事業のうち,ユネスコへの信託基金,それから政府開発援助ユネスコ活動費補助金,それからグローバル人材の育成に向けたESDの推進事業,この3つの事業をSDGsへの貢献という観点から整理拡充し,平成30年度概算要求を行っております。
まず,資料の左にございますユネスコへの信託基金につきましては,地域事務所において実績のある教育・科学の個別分野の事業に加えまして,それらの事業の成果をSDGs達成に向けて体系的に行う事業や,分野間の連携を通じてSDGs達成に寄与する事業を実施するため,信託基金の拡充を図っております。
次にその真ん中の部分でございますけれども,大学などの研究機関やNPO法人などの民間団体が,開発途上国との交流,協力により行うユネスコ関係事業を対象としてきた政府開発援助ユネスコ活動費補助金につきまして,SDGsのゴール達成に資する事業を対象とするとともに,SDGsの理念を踏まえ,開発途上国のみならず,先進国を含む全ての国,地域との連携を対象とするなど,拡充を図っております。
更に一番右の部分でございますけれども,地域におけるコンソーシアム形成を通じて,ESDの実践,普及及び国内外におけるユネスコスクール間の交流等を促進してきたESDコンソーシアム事業につきまして,ESDのさらなる進化を図り,持続可能な地域づくりの担い手を育成することで,地域におけるSDGs達成を教育の面から支えることを目的に,事業の拡充を図っております。
このように,文部科学省におきましても,国内外のユネスコ活動への支援を通じてSDGsの17のゴール達成に積極的に貢献していきたいと考えております。以上でございます。
【安西会長】 ありがとうございました。
それでは,頂きました報告事項につきまして,御質問,御意見のある方は挙手をお願いいたします。
それでは河内委員お願いいたします。
【河内委員】 徳島ユネスコ協会の河内です。よろしくお願いします。
議題の6の世界文化遺産についてですが,2019年に百舌鳥古墳群が推薦候補に挙がっていると聞いておりますけれども,暫定リスト残っている今後の審議案件が7件,推薦候補になりますと,残りが6件ということになり暫定リスト入りを待っているところもたくさんあると聞いております。この追加や,改定計画がおありでしたら教えていただければと思います。
【安西会長】 ありがとうございます。河内委員の御質問については,それでは中村専門官お願いいたします。
【中村専門官】 御質問ありがとうございます。文化庁記念物課の中村でございます。
暫定一覧表に既に記載されている遺産の数につきましては,河内先生の御紹介いただいたとおりでございますが,この暫定一覧表に更に新たに何かを追加していくというような点につきましては,現在文化庁の中でも検討中ということになってございます。実際には文化審議会の中の世界文化遺産部会での審議も経た上で考えていきたいと考えているところでございます。
【安西会長】 よろしいでしょうか。それでは西尾委員お願いいたします。
【西尾委員】 SDGsのことですけれども,先ほど来,この委員会では,教育,科学,文化という観点からのSDGsへの達成に向けてのいろいろなことを議論してきましたが,もう一方で,例えば日本工学アカデミーでは,科学技術イノベーションという観点からSDGsをどう実現していくかということを進められており,その活動は世界的にも特徴あるものとして評価されております。国内ではそのようなさまざまな活動が今,展開されています。そこで,いわゆる産官学の連携等も含めた観点からどう進めるか,国の方でどういう活動が国内でなされているのかというところを,どこかで明確に目に見えるような形でまとめられているのか。その辺りについて何か情報はあるのでしょうか。
【安西会長】 ありがとうございました。
【川端国際統括官】 私も詳細は存じませんが,先ほど紹介しましたように,SDGsのように広範な概念で政府全体,特に安倍政権は熱心に取り組んでおり,本部も作っており,政府全体で,各省関連する施策を取りまとめ,実施指針も作っております。この場はどうしても教育中心になりますけれども,政府全体としては,文部科学省が中心というわけでもなく,もっと大きな立場でいろいろな施策が講じられています。特にイノベーションについては濱口副会長が音頭をとって非常に熱心に活動されていると文部科学省でも承知しております。
【安西会長】 よろしいでしょうか。長委員お願いいたします。
【長委員】 ありがとうございます。教育小委員会と,それから最後にその他で御報告いただいた資料7についてなのですが,SDGsの4番目の質の高い教育をみんなにの点です。在日外国人の子弟であるとか,あるいは不法滞在している人たちの子供たちで,日本にいても学校に行けない子たちがいることがいろいろな問題になっているかと思うのですが,このSDGsとの関係でそうした,日本国内の外国人子弟の教育などについて何か取り組みや,SDGsとの関係で捉えるような動きがあるのか否かについてお伺いしたいと思います。
【安西会長】 事務局お願いいたします。
【小林国際戦略企画官】 ありがとうございます在日外国人の子弟の教育について,今のところまだ,SDGsの視点から捉えた検討内容というのはございませんでしたので,今後,今頂いた御指摘も踏まえて考えていきたいと思います。
【安西会長】 よろしいでしょうか。ほかにはございませんでしょうか。
よろしければ,次の議題に移らせていただきます。どうもありがとうございました。
それでは,議題2に入らせていただきまして,議題2は,第39回ユネスコ総会への対応についてということでありますが,今年の10月から11月にかけてパリのユネスコ本部でユネスコ総会が開催されます。それへの対応ということでありますが,ユネスコ活動に関する法律第6条第1項及び第2項に基づきまして,林文部科学大臣と河野外務大臣から日本ユネスコ国内委員会会長に対しまして,第39回ユネスコ総会への対応について諮問がありました。
まず,事務局からこの総会について及び答申案について,説明をお願いいたします。
【小林国際戦略企画官】 はい。それでは資料の10を御覧いただければと思います。そこにございますとおり,本年はユネスコの最高意思決定機関として2年に1度開催されるユネスコ総会の開催年となっております。今回の総会では,新事務局長の承認とともに,ユネスコの2018年から2021年の事業の予算案に関する審議が行われます。
このユネスコ総会における議事につきましては,ユネスコ活動に関する法律第6条の第1項におきまして,国内委員会は関係各大臣の諮問に応じて調査審議し,関係各大臣に建議するとあり,このたび,外務大臣及び文部科学大臣から国内委員会会長に対し,第39回ユネスコ総会に向けた対応について諮問されております。
これに対しまして,先ほどの濱口副会長からの御報告にもございましたSDGs推進特別分科会における議論も踏まえまして,資料の9-マル2 ,それから9-マル3 のとおり,事務局において答申の案を作成いたしましたので御説明をさせていただきます。御説明に際しまして,資料9の1に骨子がございますので,こちらを御覧いただければと思います。
外務大臣からは,ユネスコ総会における基本的方針等に関する諮問が行われております。これに対し,その下に答申の骨子(案)ということが書いてございますけれども,2018年から2021年の事業予算案におきましては,SDGsへの貢献も踏まえまして,事業の精選,重点化を進めることを求めております。また,ユネスコの新事務局長の承認に向けましては,昨今のユネスコの政治化の流れを止めることができる決断力や,ユネスコの本来あるべき姿を取り戻すためのリーダーシップを求めております。
次にその下の,文部科学大臣からの諮問に対しましては,答申(案)といたしまして,ユネスコの各事業について,SDGsへの達成の度合いを踏まえた検討が重要であるとした上で,分野ごとの取り組みについて記載しております。まず,2の教育分野につきましては,SDGs達成に向けてESDが一層重要であるとした上で,2019年に予定されておりますESDに関するグローバル・アクション・プログラムの見直しに際しましては,SDGsの達成期限である2030年を見据えた戦略の策定を求めております。
次に3の,自然科学,人文科学分野につきましては,各事業がSDGs達成に関わるどのターゲットに関して寄与するかを示した上で,サスティナビリティ・サイエンスの考えのもとで,分野を横断して事業間の連携を図ることが重要としております。
次に4の文化分野に関しましては,引き続き文化遺産の保護に努めるとともに,SDGsの基本理念である平和な社会構築に向けて,文化的表現の多様性の尊重等が果たすべき役割が重要であると述べております。
次に5のコミュニケーション・情報分野に関しましては,記録に関する保存とアクセスの推進が重要であるとした上で,「世界の記憶」事業が加盟国間の友好と相互理解の促進という本来目的を実現するものとして,加盟国間の対話によって発展していくことを求めております。
最後に6の普及分野に関しましては,我が国で今年民間ユネスコ活動が70周年を迎えたことを紹介するとともに,民間ユネスコ活動には自由な発想が不可欠であり,今後もユネスコが民間ユネスコ活動の総意に基づく活動を支えていくことを求めております。
以上のとおり,第39回ユネスコ総会に向けては,SDGs達成に向けてユネスコが果たすべき役割の重要性も踏まえ,答申を作成しております。以上でございます。
【安西会長】 ありがとうございました。
それではただいまの事務局の説明を踏まえて,御質問,御意見いただければと思います。これらの答申(案)につきましては,この総会で御承認を頂くということになりますので,その前に御意見をいただければと思います。西園寺委員お願いいたします。
【西園寺委員】 またかと思われるかと思うのですが,この文部科学大臣答申の今御説明の,文化分野の中で,4番目に,文化的表現の多様性の尊重,そして自己の文化をうんぬんとあります。これはまさに文化多様性の必要性ということをこちらから言っているわけです。それに対して,まだ日本は文化多様性条約を批准していないということになりますと,言行不一致というふうに言われかねないわけですから,これは私は何回もしつこく言うのを義務と思って言っておりますが,今日は外務省の方もおいでになっておられるので,是非この批准に向けて,いろいろな形で努力をしていただきたいということを申し上げたいと思います。
【安西会長】 ありがとうございました。今の件については事務局いかがでしょうか。
【小林国際戦略企画官】 ありがとうございます。御指摘のとおり,現在我が国においては,この文化多様性条約については締結をしていないわけでございまして,この締結の検討に当たっては,この条約の解釈の問題であるとか,我が国の文化政策の整合性とか,そういったいろいろな観点への考慮が必要と考えておりまして,この答申は答申として,こういう精神は非常に重視しつつも,この条約の締結の部分についてはやはり,外務省あるいは在外公館との連携を密にしつつ,我が国にとっての締結の意義等といったところの留意点を明確にした上で検討していきたいと考えております。
【安西会長】 外務省はいかがでしょうか。
【宮川国際文化交流審議官】 ありがとうございます。外務省といたしましても,累次にわたり御指摘いただいている点,それから日本が諸外国との関係を強化していく上で日々情勢が変わっている点もよく踏まえて,十分に検討させていただきたいと思います。ありがとうございます。
【安西会長】 よろしいですか。
【松浦特別顧問】 この2005年条約については,いつも西園寺委員から御提起あって非常にうれしく思うのですが,全く私も同意見で,まさに私がユネスコの事務局長時代,2005年にアメリカ対EUで政治的に非常にもめた案件で,そのとき,日本政府もいろいろ検討されたと思うのですが,賛成投票をしております。ですから,今御指摘があったように一連の問題は本来,2005年のその賛成投票をするときに検討されたものと考えます。もう12年前ですから,そのときに踏み切ったはずなのですが,残念ながら恐らくいろいろなほかに優先する条約案件の批准があるということもあるかと私は想像していますけれども,これは私も是非批准していただきいと,この場でも何度も申し上げているところでございます。
ただもう一つ申し上げたいのは,この場でも大分前に申し上げましたことです。私どもは6条約体制と呼んでいますけれども,もう一つ日本が批准していないのが,水中文化遺産条約です。最近日本でも,日本の領海の外の接続水域における,船の中にある文化遺産の探求,さらにはその保存に関心が持たれているようですから,これは主としてまさに領海の外の接続水域における水中の文化遺産保護を目標にしていますので,これも是非合わせて検討していただければと思います。
【安西会長】 ありがとうございました。この件は前から何度も御意見を頂いていることでございます。文部科学省,外務省におかれましても,是非検討を進めていただければと思います。ありがとうございました。細谷委員お願いいたします。
【細谷委員】 ありがとうございます。西園寺委員の御意見,私もサポートさせていただきます。文化多様性条約の交渉に直接携わっていた経緯もありまして,その立場から私も同条約に批准することの重要性を強く感じております。
さて私からは,総会への対応について,二,三点かいつまんで述べさせていただきたいと思います。
ドキュメントに書いてありますように,日本はいまやユネスコに対する実質最大の財政貢献国になっております。アメリカの拠出は当面,特にトランプ政権下ではまず望めない状況になっていると思います。それ自体は不幸な事態ですが,その結果今のユネスコにとっては日本がとにかく一番重い国になっております。日本が総会でどう発言するかということが実は一番注目されているわけです。それだけに,今度の総会で日本が何を主張するか,ユネスコ全体のための戦略ビジョンをどう示すかが問われます。もちろん日本自身の関心事項もあります。それらをまず主張することは当然ですけれども,この一番重い国としてユネスコ全体で今何が起きているかということに対する日本の見識を示すことが,ある意味でより大事だと考えます。その観点からこの答申の骨子を読ませていただきました。特にSDGsを軸にいろいろな議論を展開されているのは非常に良いと思います。他方で,もう少し日本として主張すべきこともあるのではないかとの感想を持ちました。
今回の総会は39C/5の議論が中心になると思いますけれども,もともとそのベースは中期戦略37C/4です。これを読み返してみると,C/4というのはいかにも総花的な文書だという印象を皆さんも共通して持たれるのではないかと思います。これは致し方ないことで,200か国近くの加盟国がコンセンサスで作るものですから,総花的になるのはどうしようもないのですが,しかしよく見ると非常に重層的な構造になっています。包括目標は何でもカバーできるという,まさに包括的な内容ながら,それから更に二重,三重構造になっていて,一番下に戦略目標が9つあって,これも全部合わせればほぼ何でも読み込めるというような内容になっています。しかし,真ん中にグローバル・プライオリティーというのを2つ挙げています。これは以前からそうなのですが,アフリカとジェンダーです。これは全ての加盟国のコンセンサスになっていることですので,この2つのグローバル・プライオリティーに沿い,日本としてこの機会に今少し考察をして言えることがきっとあると感じます。これは事務局で更に御検討いただくことですので,細かいことは申し上げません。アフリカとジェンダーというのは,簡単に言いますと,ほかの国際機関の中でもユネスコが特に比較優位を持っている分野だと言えると思います。そういう意味で,非常に大事ですし,それから当然,選択と集中が求められている御時世ですから,それにも沿う形になります。
それから最後に,政治化という問題についても一言申し上げたいと思います。あえて言えばアフリカとかジェンダーの問題というのはどちらかというと過度な政治化からは事業を乖離させる方向に持っていける議論ではないかとも感じます。政治化の問題は答申案の中でも言及されているとおり,今のユネスコにとって最近の情勢を受けた大変な問題になっております。ただ,認識すべきは政治化というのはユネスコにおいても完全に避けては通れない問題です。ユネスコも政府間機関ですから,文化や教育,科学を扱っていても,どうしても政治的な側面が出てくる。これはある意味で当然のことですし,最近始まったことでもありません。もちろん,本来のユネスコの役割が阻害されるような形で政治問題が過度に起きることは是非とも避けなければいけない。
ある意味で当然のことを申し上げますけれども,第一に大事なのはメンバーとしての関係国自身の節度ある対応が当然求められます。第二に,今度新しい事務局長が選出されますから,やはり事務局長の役割が非常に大事です。答申案に書いてありますように,決断力が求められるというのは,そういう言い方もあろうかと思いますけれども,いろいろな問題が政治化する要因を常にはらんでいますから,普段の事務局の運営を担う責任者である事務局長がそれをどう予測し,どう予防するかといった才覚と,問題はどうしても起きますから起きた場合のハンドリングを適切にできる判断力と政治力が求められるわけです。事務局におりました立場から所感を申し上げますとそういうことになろうかと思います。以上でございます。
【安西会長】 ありがとうございました。この件は,今の御意見については,事務局から何かございましたらお願いいたします。
【川端国際統括官】 ありがとうございました。しっかり酌ませていただきまして,会長共々文章については御相談させていただきます。
【松浦特別顧問】 今の細谷委員が言われた1つの,グローバルな問題,ユネスコのプライオリティーについて,この機会に日本の考えを述べるというのは,これは非常に重要な点です。特にアフリカについて触れるというのは重要です。
先ほど来,話題になっていないので申し上げますけれども,今度の総会ではもちろん,一番大きいのは新しい事務局長の選挙ですけれども,もう一つ重要な選挙があります。執行委員会の選挙で,日本が今度立候補しています。私は9月の第一週,パリに1週間おりまして,ユネスコの関係者といろいろ話をしましたけれど,今,激戦です。
私は日本が当選してほしいし,するだろうとは思ってはいますけれども,やはりそのことも念頭に置いて,しっかり今回の総会で日本として発言していただきたい。つまり日本の考えを述べるというのももちろん重要です。しかしやはり,ユネスコ全体の問題について,日本がどう考えるか,先ほど細谷委員からの御指摘,例えばアフリカというのは,私も10年間アフリカ・プライオリティーに非常に力を入れました。アフリカというのは非常に重要な票田です。ですから,他方ではその執行委員会でアフリカの票を取ろうとしながら,日本の大臣の発言で一言もアフリカに触れないというのは,私は考え直していただきたいと考えております。
先ほど,文化の多様性,重要性を言いながら条約を批准していないということも御指摘ありましたように,その他の選挙もありますけれど,中でも日本にとって重要なのは,やはり執行委員会の選挙です。日本は今まで1回も落選しておらず,先ほど来,非常にポジティブな話があって非常に嬉しく思っているのですが,ユネスコ本部ということではやはり日本の最近の対応に対する不満,特に分担金,拠出金をなかなかすぐ払わないということで,アメリカが一番もちろん基本的な問題を呈しているのですけれども,その次にやはり日本の問題が水面下では非常にネガティブに捉えられていると感じます。やはりそこを,そういうポジティブな面を是非今回強調していただいて,執行委員会の選挙で,ぎりぎりではなくて,堂々としっかり票を取っていただきたいと思います。
【安西会長】 ありがとうございました。他にございませんでしょうか。今の件でも結構です。長委員お願いいたします。
【長委員】 すみません,関連して分担金の質問なのですけれども,これはユネスコへの分担金は国連の分担金の比率がそのまま適用されると考えてよろしいのでしょうか。日本が支払いを渋っているというお話が今,松浦特別顧問からありましたが,国連の分担金,中国が昨年からドイツ,フランス,イギリスを抜いて3位になり,アメリカ,日本,中国の最近の比率を見ましたら日本が9.68で,中国が7.92で,次にはもう逆転するかもしれないというようなときに,日本が支払いを渋ると,大変なことになるなというのを思った次第です。
【安西会長】 事務局お願いいたします。
【川端国際統括官】 支払金の分担は,今おっしゃられた面もありますし,総合的な判断が必要なことでもあろうと思っていますので,いろいろなことを考えながら検討していきたいと思います。
【安西会長】 宮川国際文化交流審議官,お願いいたします。
【宮川文化交流審議官】 若干補足させていただきますが,私も実は先週パリに出張いたしまして,今回頂いている答申にもございますように,ユネスコが直面する制度改善の問題等含め,政治化の流れを止めるためのリーダーシップ等々,諸々の点を関係者と意見交換してまいりました。分担金の問題についても,御指摘の点は十分理解いたしますし,今後ユネスコが一層本来の設立の趣旨と目的を推進できるよう積極的に日本としても取り組んでいきたいと思っております。そういう中で分担金の話も極めて重視して取り組んでまいります。
【松浦特別顧問】 今,御質問があった分担金率は,御指摘のようにニューヨークで3年に1回,各国のGDP及び人口比較によって算出されます。本来であれば中国はGDPも日本のもう2倍になっていますから,単にGDPだけであれば分担金率も倍になるべきですけれど,必ずしもGDP比にならないで,人口でそれが削減されるというのが分担金率の計算の仕方です。それで,ニューヨークで決めたのが国連システム全体に当たるものです。御指摘のように,アメリカは2011年以来払っていませんから,実質的にはユネスコで日本がナンバーワンで,中国が更に今度逆転する可能性があります。次の3年間で,中国がアメリカに次いで2位ですけれど,実質的には1位になって,日本がその次という形が考えられます。
【安西会長】 今,いろいろ頂いている御意見につきましては,反映できる部分は反映したいと思いますけれど,事務局と相談させていただきます。先ほどの,昨今のユネスコの政治化の流れを止めることのできる決断力と書いてありますのは,個人的な見方でございますけれども,相当そういう流れがあるということを,それを考えた上での書き方ではないかというふうに思います。
これは恐らく戦後間もなくこの国内委員会が発足いたしましてから,その当初はユネスコに対する期待,いろいろなことでもって日本の国際化が戦後期待されていた,国内でもそういう希望があった時代に,この国内委員会が出発をした,その経緯,歴史を持ってのことだというふうに理解しておりますけれども,できれば事務局等々におかれましては,なるべく国内委員会の委員に,できるだけ情報を流していただければと思っております。
今日の議題の1でいろいろな御報告を頂いておりますのも,以前にはこれほど御報告を頂くということはなかったように思うのですけれども,それはこちらでお願いをして,このようにさせていただいております。それだけではなくて,やはりユネスコの全体の現状,あるいは今後のこと等々につきましても,できれば御報告を頂くようにすれば,国内委員会の委員の皆様に御理解をしていただけるようになるのではないかと思っております。個人的な見解で恐縮でございますけれども,事務局等々にもよろしくお願いを申し上げます。
猪口委員お願いいたします。
【猪口委員】 すみません,猪口ですが,遅れてきて発言することになりまして誠に申し訳ありませんが,ユネスコ全体のグローバルな観点という御発言もあり,それについて私も感じることがありますので,述べさせていただきます。
日本から見た課題というのはかなり先見的で,世界にとっても参考になるものだと思いますけれども,今世界で何が本当にユネスコの観点から見て対応しなければならないか,また各国連の機関が対応しなければならないかということを考えますと,たくさんございます。私はよく3つのPと言っておりますが,1つはやっぱりポピュリズム,それは政治の流れと関係があるのですけれども,やっぱりポピュリズムとどう対応するのか,対峙していくのか,見識あるところに着地できるような対応を促す,そういう実力というのはどこから生まれるのか,やはりこれは教育の浸透,教養の深さ,そういうことによってポピュリズムをやっぱり抑制していくという,共通の大きな深い課題があるように思います。そういうことを実際にユネスコ総会で御議論されるかどうかは別として,やっぱりグローバルに重要なことだと思っております。
それから,先に3つのPを言ってしまいますと,プロテクショニズムといいますか,保護主義で自分だけよければいいとか,近隣窮乏化政策のようなものは,これは経済の面かもしれませんが,国際社会原理としてこれを是正しなければなりません。それからもう一つは,プリベンションですけれども,21世紀は大きなリスクを抱えている時代ですから,物事は事前に,未然に防いでいかなければならない。対処するというのではなくて,プリベントするという,こういう新たな思想の流れを作る。そういう意味では,「今日よりいいアースへの学び」といった,私たちの学校の方から打ち出してきている,そういうサスティナビリティーについての考え方というのは,それに資することであろうと思います。
今の中で一番伝えたかったのはやはり,ポピュリズムにどう横断的にボーダーを越えて対応するのかということです。そしてそれとの関係では,分断といいますか,ディスラプション,これは非常に横断的な大きな課題であると,いろいろな国際会議に行くと言われます。それをどうブリッジできるのか,そういった教育とか,教育を受けた人の役割とか,そして外交的にはマルチラテラリズム,こういう多国間主義という,この灯火をどう発展させるのかが,先ほどおっしゃった拠出金もそうですけれども,我が国はそういう立場から発信して,多国間主義を掲げていく,アップホールドする立場に立たなければならず,我が国は大西洋社会とは違ってアジア太平洋の方から,別の文明圏,文化圏から来て一緒にやっているわけですから,いろいろな意味でのディスラプションを乗り越えてここまで来ています。ですから,手本としてディスラプションにどう対応できるかという発言をすべきであるし,そしてポピュリズムを回避しながら,それを回避できる人間の育成というものはどういう教育と文化経験をもたらすべきかといった,そういう全体の課題についてもユネスコ総会で発言してもらえたら嬉しいなと思います。アフリカとジェンダーのことはフルサポートいたしますけれども,同時に今そのようなことを申し上げさせていただきました。
【安西会長】 ありがとうございました。ほかに,よろしいでしょうか。
それでは,この答申(案)の件についてはここまでにさせていただきますけれども,大変貴重な御意見を多々頂いております。総会での対応につきましては,是非しっかり受けとめていただいて,検討いただくようにお願いを申し上げます。やはり,日本として毅然とした態度で臨んでいただきたいというふうに思っております。是非よろしくお願いを申し上げます。
それではこの2つの答申(案)につきまして,頂いた御意見を踏まえて細かい文言の修正につきましては,会長の私の方へ一任ということでよろしいでしょうか。
ありがとうございました。それでは一任ということにさせていただきます。その上で,この件につきましては,ユネスコ総会に向けて,文部科学大臣及び外務大臣に答申をさせていただきます。ありがとうございました。
それでは議題3にまいります。議題3,日本ユネスコ国内委員会の構成について。この議題は国内委員会委員の人事に関する事項を審議いたします。したがって,会議の議事は非公開とさせていただきます。委員また事務局関係者以外の傍聴の皆様並びに報道関係者の皆様には,恐縮でございますけれども御退席くださいますようお願いいたします。
(傍聴者等退席)
以降の議事録は非公開

―― 了 ――


 

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