防災に関するユネスコへの緊急提言-今回のスマトラ沖大地震及び津波への対応に際して-

 平成16年末のインドネシア・スマトラ島沖大地震及び津波の大災害を受け、国際的な防災の取り組みにおいて、ユネスコが国際社会において積極的な役割を果たすべきとの認識のもと、平成17年2月21日に開催された第116回日本ユネスコ国内委員会での議論を経て、日本ユネスコ国内委員会として、ユネスコに対して緊急提言を行いました。



2005年3月1日
日本ユネスコ国内委員会

防災に関するユネスコへの緊急提言
-今回のスマトラ沖大地震及び津波への対応に際して-


 津波、地震、台風、洪水、干ばつ等の自然災害は、世界各地で深刻な被害をもたらしている。特に、昨年末に起こったインドネシア・スマトラ島沖大地震及び津波では、30万人近い死者、行方不明者が出たとされ、100万人以上とも言われる被災者が、食料、飲料水、医薬品等の不足、非衛生な環境といった過酷な状況での生活を強いられている。
 国際社会では、国連等の呼びかけにより、各国から総額50億ドル以上の支援が表明され、緊急支援活動が行われているが、今後は、短期的な支援のみならず、中長期的な視点から防災対策を講じることが重要である。
 こうした状況に鑑み、国際的な防災の取り組み、とりわけ津波への対応においてユネスコが国際社会において積極的な役割を果たすべきとの認識のもと、日本ユネスコ国内委員会として、ユネスコに対し緊急提言を行う。


防災教育

 スマトラ島沖大地震及び津波の被災地域では、津波についての知識を欠いていたため、大災害につながったといえる。ユネスコは、人々の自然災害に関する知識が、被害の軽減に資するという認識の下、防災における教育の果たす役割を重視し、以下の取組を検討すべきである。

1. 各国が、災害発生のしくみ及び災害の怖さを教える教材や防災教育マニュアル等を作成するために支援を行うこと。(その際、各国及び地域の災害の実情に配慮する必要がある)

2. 世界各地で発生した自然災害の歴史を人類で共有するために、災害の記録をアーカイブ化すること。

3. 本年1月から開始された「国連持続可能な開発のための教育の10年」において、防災に関連した事業に十分な配慮を払うこと。


防災システム

 今回の地震・津波では、被害が大きくなった一因に警戒網の不備が挙げられている。予報・警報及び情報伝達網の整備を図る時には、国際機関間の調整と放送メディアの役割が重要であることから、ユネスコには以下の取組が求められる。

1. 世界各地のテレビ・ラジオ局が協力し、警報放送のノウハウを共有できるよう、各国メディア間の連携を促進する触媒としての役割を担うこと。

2. 各国際機関が協調して迅速に対策を講じることができるよう、ユネスコとして、所管する政府間海洋学委員会(IOC)や国際水文学計画(IHP)が、国際防災戦略(ISDR)やその他の国際機関と協力体制を強化すること。



復興計画

 今回の被災地であるアジア太平洋地域は、自然災害を受けてもエコロジカルに対応していく文化、すなわち台風や津波といった災害で破壊されても、再び材料を森や林から持ってきて以前と同じ状態に復元するという、いわば「循環の文化」という特色を有する地域だったが、近年のグローバル化により「蓄積の文化」に変化しつつある。文化を所管するユネスコは、各国が復興計画を策定する際には以下の取組を検討すべきである。

1. 対立する民族・宗教が被災地域に存在する場合には、復興の過程で、「文化・文明間の対話」をモデルとして、相互理解を促す取組を行うこと。

2. 復興の過程において、地域の文化形態の特徴とその変化に十分に配慮した、復興支援・防災活動が行われるよう各国政府を促すこと。


我が国には、地震、津波、台風等数多くの自然災害の経験を踏まえた様々な取組が存在する。日本ユネスコ国内委員会としては、我が国が培ってきた防災に関する経験を踏まえ、当面、ユネスコを通じて、防災教育に係る教材の開発作成、防災意識の普及のためのシンポジウム開催等への支援を行うこととする。