参考資料3 「地域における障害者スポーツの普及促進について」(中間整理)

参考資料3

地域における障害者スポーツの普及促進について(中間整理)

平成27年8月28日
地域における障害者スポーツ普及促進に関する有識者会議

1.はじめに

(障害者スポーツを取り巻く環境の変化)
○ 2020年東京パラリンピック競技大会(平成32(2020)年8月25日~9月6日)まで5年となった。
東京パラリンピック競技大会を一過性のスポーツイベントに終わらせるのではなく、東京大会を契機として、障害者への理解が一層進み、障害者が身近な地域においてスポーツに親しむことができる社会の実現に向けて、今、障害者スポーツの普及促進の取組が求められている。

○ 障害者スポーツについては、平成23(2011)年8月に施行された「スポーツ基本法」において、障害者の自主的かつ積極的なスポーツを推進するとの基本理念が掲げられ、平成24(2012)年3月に文部科学大臣により策定された「スポーツ基本計画」において、障害等を問わず、広く人々がスポーツに参画できる環境を整備することが基本的な政策課題とされている。

○ また、近年、パラリンピックをはじめとする障害者スポーツにおける競技性が著しく向上していることなどを踏まえ、平成26(2014)年4月1日より、障害者スポーツに関する事業のうち、スポーツ振興の観点から行われるものについては、厚生労働省から文部科学省に移管され、文部科学省では、スポーツ政策の一環として、障害者スポーツの普及促進と競技力向上の両面から施策の充実が図られている。

○ さらに、平成27(2015)年10月1日には、関係省庁の司令塔的な役割を果たす「スポーツ庁」が設置されることとなっている。
スポーツ庁では、厚生労働省におけるスポーツやレクリエーションを活用したリハビリテーションや社会参加を促進する施策についても連携・協働して取り組み、障害者スポーツを通じた健康長寿社会や共生社会の構築等に向けた新たな施策を推進することが期待されている。

(有識者会議について)
○ このように障害者スポーツを取り巻く環境が大きく変化する中、平成27年度文部科学省委託事業「地域における障害者のスポーツ参加促進に関する実践研究」では、国は、各都道府県・指定都市が実施する実践研究の実施状況の進行管理を行うとともに、今後の地域における障害者スポーツの普及促進の方向性について検討を行うこととされている。
このため、国は、平成27(2015)年5月「地域における障害者スポーツ普及促進に関する有識者会議」(以下「有識者会議」という。)の開催を決定した。

○ 有識者会議においては、各都道府県・指定都市が実施する実践研究の進行管理に先立ち、平成27(2015)年6月から、地方公共団体やNPO法人からのヒアリングも含め3回にわたり、障害者スポーツに関して深い識見を有する有識者をはじめとする各委員から、障害者スポーツの普及促進に関する全般的な意見や普及促進のための取組方策について提案を頂いたところである。
本中間整理は、これら委員からの意見を整理して、とりまとめたものである。

(中間整理について)
○ 中間整理では、障害者スポーツの普及促進について、まず、障害者スポーツの普及促進に関する全般的な意見について整理し、次に、障害者スポーツの普及促進のための取組方策に関する意見について、(1)障害児のスポーツ活動の推進、(2)障害者のスポーツ活動の推進、(3)障害者と健常者が一緒に行うスポーツ活動の推進、(4)障害者スポーツに対する理解促進、(5)障害者スポーツの推進体制の整備等の5つに分類して整理した。
このうち、(1)~(3)の活動を推進する上で、「障害者スポーツを知る・親しむ」、「指導者の養成・研修」、「連携・つなぐ役割」が共通する重要な取組であることが明らかになり、そのためには、人材・財源・情報も含め、誰が主体となりこれらの取組を行うのか、また、(4)障害者スポーツの理解促進を含め、(5)障害者スポーツを推進していく体制として、誰、あるいはどの組織がその地域の障害者スポーツをマネジメントし、コーディネートしていく役割を担うことが適切なのかについて、特に議論を深めることが必要とされた。

○ この点については、今後の有識者会議において、障害者スポーツの普及促進における国・地方公共団体・学校・スポーツ団体・企業等の役割の議論を行う中で、更に深めていくこととする。

2.障害者スポーツの普及促進に関する全般的な意見

○ スポーツは、体を動かすという人間の本源的な欲求に応えるとともに、楽しさ・喜びをもたらし、心身の健全な発達を促し、人々との交流やコミュニケーションを促進するなど、生涯を通じて幸福で豊かな生活を営む基盤である。
こうしたスポーツの持つ価値や意義は、年齢や性別、障害等を問わず、全ての人々に享受されるものであり、障害者においても、等しく共有されるものである。

○ 障害者スポーツは、障害のある人が行うスポーツであり、障害者が、スポーツを通じて自らの可能性にチャレンジしたり、仲間との交流やコミュニケーションを深めることは、生活の質を高め、人生をより豊かにしてくれるものである。

○ 障害者スポーツは、障害のある人の特性に応じた配慮や工夫が必要であり、障害の種類や程度に応じたクラス分けを行い、ルールや用具、運動の仕方を変更して、あるいは新たに考案して実施するところに特徴がある。
このため、障害者スポーツ実践のノウハウは、障害者はもとより、一般のルールや用具の下にスポーツを行うことが困難な子供や高齢者等のスポーツへの汎用も可能となる。
また、近年、車いすダンス、ブラインドサッカー、車いすカーリングなど障害のある人とない人が一緒に行うスポーツが普及しているように、障害者スポーツは、障害のある人もない人も共に実践できるスポーツとしての可能性が期待されている。

○ このような特性を有する障害者スポーツを推進することは、障害者の生きがいや生活の質の向上、自立や社会参加の促進といった効果のみならず、少子高齢化や人口減少が進む我が国において、スポーツに苦手意識を有する子供や高齢者等にもスポーツへの参画を促し、障害者と健常者が一緒になりスポーツ活動を実施しやすくなるなどの効果もあり、このことは、地域社会の活性化、健康長寿社会や共生社会の構築といった我が国の発展にも貢献するものである。

○ しかしながら、障害者スポーツを実施するに当たっては、例えば、障害を理解したスポーツの指導者・審判や障害特性に応じた用具が必要であり、また視覚障害者、聴覚障害者、重度障害者等の情報の取得が困難な者や車いす利用者などがスポーツ活動の場に行くまでのアクセスの確保や介助者の確保に係る費用が必要であるなど、こうした条件の有無により、障害者のスポーツへの参加が左右される場合がある。

○ 現在、成人の障害者の週1回以上のスポーツ実施率は18.2%であり、成人一般の週1回以上のスポーツ実施率40.4%に比較して低い状況にある。また、パラリンピックの認知度は98.2%あるにもかかわらず、パラリンピック以外の障害者スポーツの直接観戦経験のある者は4.7%にすぎないといった調査結果もある 。
さらに、現在、公益財団法人日本障がい者スポーツ協会に登録・準登録している62の障害者スポーツの競技団体のうち、法人格を有している団体は32団体となっている。

○ このような障害者スポーツの現状をみると、障害者が身近にスポーツを行う環境は十分には整っておらず、とりわけ、障害者スポーツを支え、推進する団体や組織は脆弱な状況にある。
このような中、地域において障害者スポーツを普及していくためには、ソフト・ハード・ヒューマンの様々な面からの取組が必要である。
このための具体的な方策については、以下「3.障害者スポーツの普及促進のための取組方策に関する意見(P6)」に記述している。

○  これらの具体的方策に取り組む上で重要な点は、各都道府県・市区町村における障害者スポーツの行政主管課や障害者スポーツの団体だけで取組を進めていくのではなく、国は、障害者のスポーツ施策を一元化したことを踏まえ、各都道府県・市区町村において、人材・財源・情報の集約・活用の観点から、障害者スポーツの行政主管課や障害者スポーツ協会をはじめとする障害者スポーツ関係団体・施設が障害者スポーツ推進の中核になりつつ、学校、教育委員会、スポーツ・レクリエーション関係団体、福祉関係団体、医療関係団体等が連携・協働体制を構築し、それぞれが有する人材や資源を有効に活用しながら推進していくことが必要であると考える。

3.障害者スポーツの普及促進のための取組方策に関する意見

(1)障害児のスポーツ活動の推進

(障害者スポーツを知る・親しむ)
○ 幼児期における運動・スポーツ経験がその後のスポーツ活動に大きな影響を与えることから、障害の有無にかかわらず、幼児期から家庭や地域などあらゆる場や機会をとらえて、多様な運動・スポーツに親しみ、スポーツは楽しいという意識を高めていくことが重要である。

○ 特に、障害児が早い時期に障害者スポーツを「知る」ことが重要であり、障害者スポーツに出会う場を創出することも重要である。
例えば、自らの障害と向き合いながら無限の可能性に挑戦するパラリンピアンが学校等で障害児と直接話すとともに、一緒にスポーツを体験し、高度なパフォーマンスを見せることは、障害児がパラリンピアンに憧れを抱き、障害者スポーツに興味や関心を持つきっかけとなる 。
同様に、障害児が地域で障害者スポーツを実践している卒業生に接することは、障害児が、日常のスポーツ活動にイメージを持ち、スポーツ活動への参加の動機づけになるものと考えられる。
また、例えば、学校の社会科見学や体育・保健体育等の授業において、全国に114か所ある障害者スポーツ施設 を効果的に活用することにより、障害者スポーツを直接体験し、障害者スポーツに興味・関心を持ち、さらにはスポーツ活動の場などへのアクセス方法を認識することなどが考えられる。

○ 障害児を受け入れているスポーツ少年団や障害児を主な対象にしているスポーツ少年団など、障害児のスポーツ活動を推進しているスポーツ少年団が一部見受けられるが、全国的な広がりになっていないため、このような活動を行うスポーツ少年団を増やす取組が期待される。

○ 障害児のスポーツ用途の車いすなどは高価であり、障害児がスポーツを開始したいと思っても、用具の問題で始められないとの声が聞かれる。
国は、障害児が身近な地域でスポーツに親しめるよう、地域のスポーツ施設等に障害児の発達段階に応じた用具が設置されるような支援をすることが望まれる。

(指導者の養成・研修)
○ 障害児が障害者スポーツを知る上で、学校教員の役割は非常に大きい。都道府県教育委員会等においては、例えば、現職教員に対して、初任者研修や免許状更新講習などにおいて、障害者スポーツに対する知識や理解を促すことが期待される。

○ 障害児の障害特性を理解した体育・保健体育の指導ができる教員の養成・確保が必要であり、少なくとも体育教員を養成する大学においては、障害者スポーツに関する科目の位置付けの検討が期待される。
 
○ 通常の学級に在籍する障害児や特別支援学級に在籍する障害児が、通常の学級での体育・保健体育の授業に参加する際、集団活動が難しい場合が見られる。教員が集団活動にあって個別的な対応も含めた授業を構成し、適切な指導ができるよう、国は、障害のある子供とない子供が共に学べる実践プログラムを研究開発することが望まれる。

○  また、特別支援学校等における体育・運動部活動は重要であり、教員の専門知識・ノウハウの習得は必要である。特別支援学校等の教員に対しては、障害者スポーツ指導者の資格の取得を促すことが期待されるが、当面、障害者スポーツ指導者等の派遣による対応も考えられる。

(連携・つなぐ役割)
○ スクールバスで学校に通う障害児は、学校では体育等で活動ができても居住する地域では一緒に運動・スポーツを実施する仲間がいないなどの現状にある 。他の学校等に在籍する障害児や地域住民との合同活動や、地域のスポーツイベントなどへの参加を促すなど、障害児を地域におけるスポーツ活動につなぐ人材の育成・確保が重要である。

○ 全国に約5万人いるスポーツ推進委員 は、スポーツの実技指導はもとより、行政と地域住民との間を連絡調整するコーディネーターの役割を担っており、国は、障害者スポーツ指導者資格の取得を奨励することや、資質向上のための研修会を支援するなどして、スポーツ推進委員が、学校と地域など、関係者、関係団体をつなぐ役割を担うことが期待される。

(その他)
○ 学校施設のバリアフリー化が十分ではないため、エレベーター、スロープ、多目的トイレ等の施設・設備の整備を進めることが期待される 。

(2)障害者のスポーツ活動の推進

(障害者スポーツを知る・親しむ)
○ 障害者スポーツ大会の開催は、障害者のスポーツ参加の拡大、指導者やボランティアの養成・活用の上で重要な役割を担っている。
また、地域における日常的な障害者スポーツの交流会や体験会等の実施は、障害者がスポーツ活動を継続していく上で重要である。

○ 障害者スポーツの用具は、高価なものが多く、障害者がスポーツを始めたいと思っても、用具の問題で始められないとの声が聞かれる。
国は、障害者が身近な地域でスポーツに親しめるよう、地域のスポーツ施設等に障害者スポーツの用具が設置されるような支援をすることが望まれる。

○ 市区町村や学校区単位で日常的にスポーツを楽しめるようにするためには、学校施設が重要な活動拠点の一つであると考えられるが、学校施設の利用に当たっては、例えば、車いすの使用により体育館の床が傷つく、休日の校舎管理の困難さ、学校開放時間の制限等のような課題があり、地方公共団体においては、現場の負担にならない方策を検討する必要がある。

○ 特別支援学校の学校開放率は、特別支援学校を除く公立学校に比べると低い状況にある 。特別支援学校は、障害者にとって、身近であり、安心して安全にスポーツができる拠点になり得るため、国は、特別支援学校の負担とならない範囲で放課後や休日にも在校生・卒業生・地域住民等が気軽にスポーツ活動に参加できるような取組を促進する必要がある。

○ 国立障害者リハビリテーションセンターにおいては、競技団体が国際競技大会へ出場するための事前の強化合宿などが行われており、障害者がそれらの活動を見学することも障害者スポーツを始めるきっかけになると考えられる。

(指導者の養成・研修)
○ 障害者が個人のニーズやライフステージに応じたスポーツ活動を実施することが重要であり、そのためには、障害の種類や程度を踏まえた指導者や支援者の養成・確保が急務である。

○ 2020年東京パラリンピック競技大会も見据え、関係する障害者スポーツ団体においては、障害者スポーツ指導者の養成の拡充を図り、特に教員、スポーツ推進委員、障害者スポーツを担当する行政職員等を対象とした養成講習会を開催することや、障害者スポーツ指導者資格保有者に対する資質向上のための研修の充実に取り組むことが必要である。

○ 現在、月に1回以上活動している障害者スポーツ指導者は34.3%であり、活動する場がない、活動の場に関する情報が少ない等の課題がある 。
障害者スポーツ団体においては、障害者スポーツに関する指導者をWeb上の人材バンクに登録し、指導者を派遣する取組などを行っている例があり 、指導者を活用し、運営する側と指導を必要としている側とのマッチングを図る上でも、効果のある取組と考えられる。

(連携・つなぐ役割)
○ 平成20(2008)年に全国障害者スポーツ大会における精神障害者のバレーボール競技が導入され、平成25(2013)年に精神障害領域における全国的な統一団体((特非)日本ソーシャルフットボール協会)が初めて発足されるなど、近年、地域におけるスポーツ活動として、精神障害者のスポーツが発展している。
精神障害者は、病院や社会復帰に向けた施設での活動からスポーツに接する機会があることや地域社会での受入れが重要であることから、精神障害者のスポーツの普及に向けては、医療機関や精神保健福祉機関、スポーツ関係団体等が連携・協働して取り組むことが特に重要である 。

○ 例えば、国立障害者リハビリテーションセンターでは、リハビリテーションのメニューの一つに早期からスポーツを取り入れることにより、その後のスポーツ活動につなげている事例があることから、スポーツ活動の継続につなげるため、理学療法士や作業療法士、義肢装具士等との連携も重要である。

○ 障害者が、学校卒業後もスポーツ活動を継続していく上で、運動部活動から地域のスポーツ活動などへの流れをつくることが重要であり、そのためには、学校と地域の連携や、そのつなぎの役割を担う人材の検討が必要である。

(その他)
○ 2012年ロンドンパラリンピック競技大会を開催したイギリスにおいても、障害者差別禁止法(2004年改正)等を機に、障害者の地域スポーツ施設への利用を活性化させた経緯がある。
我が国においても、平成28(2016)年4月から「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」が施行されることを踏まえ、受入れ側の意識の醸成や、安全確保を含め地域スポーツ施設における障害者の利用拡充への取組が期待される 。

(3)障害者と健常者が一緒に行うスポーツ活動の推進

(障害者スポーツを知る・親しむ)
○ 障害者スポーツは、個人の心身の状況や、体力に応じて障害者と健常者が一緒になり活動することができるものであり、高齢化が進む我が国において、ますます重要になると考えられる。
障害者スポーツの持続的な発展のためには、健常者が障害者を単に支援するのではなく、障害者と健常者がスポーツの種目などのルールや用具を工夫して、一緒にスポーツを創り、楽しめるクラブやサークル等の多様な活動を行うことが重要である。

○ 例えば、スペシャルオリンピックス日本 においては、知的障害がある人(アスリート)とない人(パートナー)がコーチの指導のもと、共にチームメイトとしてスポーツに取り組むプログラム「ユニファイドスポーツ」などがあり、今後の障害者スポーツの普及・啓発においては重要な考え方であると思われる。

○ 障害者と健常者が一緒になって行えるスポーツとして、例えば、フライングディスク、ボッチャ、卓球バレー、風船バレーボール等があり、これらの競技用具は比較的安価に手に入るため、関係する障害者スポーツ団体や地域のスポーツ施設等において整備されることが期待される。

(指導者の養成・確保・活用)
○ 障害者と健常者が一緒に楽しむことができる場を創るのは、必ずしも容易ではなく、障害者スポーツ団体は、指導者やスタッフといったスポーツ活動の場面での人材や、関係者・関係団体間をつなぎ、連絡調整の役割を担うコーディネーターの人材を養成・確保する必要がある。
国は、こうした人材の養成・確保のノウハウをまとめたマニュアルや手引き が活用されるよう促すとともに、地域の求めに応じて研修の機会を設けることが望まれる。

(連携・つなぐ役割)
○ 今後、総合型地域スポーツクラブ (以下「総合型クラブ」という。)は、障害者のスポーツ活動支援など、多様なニーズや地域課題に応える新たな取組や形態により、発展させていくことが重要とされている が、現在、障害者が参加している総合型クラブの割合は、30.6%となっている。
国は、総合型クラブが地域の障害者スポーツの場としても活用されるよう、障害者スポーツ導入のためのガイドブック の普及や特別支援学校等との連携を促すことが期待される。

○ 障害者と健常者が一緒に楽しむことができる多様な場を創出するためには、地域の実践の場において、スポーツ、教育、福祉等の分野の関係者の連携による取組が重要である。
例えば、行政、学校、スポーツ団体、障害者福祉団体、スポーツ推進委員等の代表者から構成される「実行委員会」を設置するなどして、連携の取組を一層広めることが必要である 。
  
(4)障害者スポーツに対する理解促進

(理解・啓発)
○ 障害者スポーツを理解促進するためには、障害者スポーツ大会の開催前に、近隣の学校や障害者関連施設等で車いすなどの「体験」をしたり、オリンピアン、パラリンピアンなどのアスリートから直接話を聞く機会を設けたり、大会当日、競技やクラス分けをわかりやすく解説したハンドブックの配布やアナウンサーによる説明の実施などが効果があると考えられる。

○ 学校において、障害者スポーツを体験した子供は、保護者にその体験を語ることにより、保護者が障害者スポーツに興味や関心を抱き、保護者が子供を障害者のスポーツ大会に連れて行くようになることも考えられる。障害者スポーツへの理解・普及を進めるためには、子供から大人へ、そして大人から子供へといった相互作用を意識した取組が重要である。

○ マラソン大会に車いすマラソンの部門を設けたり、陸上競技大会に障害者の部門を設けるなど、健常者の大会に障害者の大会を組み込む工夫をすることにより、障害者スポーツの理解促進につながると考えられる。

○ オリンピアン、パラリンピアンなどのアスリートが、イベント等で地域住民への周知活動を行うことにより、マスメディアによる報道が多くなり、それにより障害者スポーツに対する国民の理解が促進されるという好循環が生まれるため、こうした取組は有効であると考えられる。

(広報)
○ スポーツ大会の動画・ネット配信やスポーツ教室やイベント参加者による体験談をSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)等で発信することは有効な広報になると考えられるが、多くの人がアクセスするための情報発信の工夫や興味を持たせるための仕掛けづくりが必要となる。

○ 障害者のスポーツ教室等の情報が掲載されているインターネットのサイト の例は、広報の手段として有効であるが、こうした情報は、障害者スポーツ関係団体のサイトのみならず、一般のスポーツ関係団体のサイトにおいても掲載されることが、障害者スポーツを広報する上で有効と考えられる。

(その他)
○  企業が障害者スポーツを理解し普及促進することは、企業の社会的責任(CSR)の推進の観点から重要であり、企業のイメージ向上や障害者の就労支援などにもつながるものと考えられる。

(5)障害者スポーツの推進体制の整備等

(推進体制)
○ 現在、多くの地方公共団体においては、障害福祉部局で障害者スポーツを所管 しているが、障害者スポーツを地域全域に普及するためには、人材、ノウハウ、施設等を有するスポーツ部局や、公立学校を所管する教育委員会その他の関係部局、関係者・関係団体等との連携・協働による取組が不可欠である。
平成27年度の文部科学省の事業18については、国がスポーツ部局と障害福祉部局の連携に基づき、その他関係部局や関係者・関係団体の連携・協働を働きかける内容となっているが、今後、先進事例として発展させ、各都道府県・市区町村において常設の体制が整備されることが望ましい。

○ 現在、各都道府県・指定都市の障害者スポーツ協会においては、スポーツ団体や福祉団体等の職員が兼任するなどして対応しているが、障害者スポーツの普及促進を図る上で専任の職員が確保されることが期待される。

○ 地域において障害者スポーツを推進するためには、競技別・障害種別に組織されている障害者スポーツの競技団体の基盤強化は不可欠であるが、障害者スポーツの競技団体は、事務局体制や運営資金など活動の基盤が脆弱である。
国及び地方公共団体は、公益財団法人日本障がい者スポーツ協会や都道府県・指定都市の障害者スポーツ協会等とも連携して、障害者スポーツの競技団体によるガバナンス強化と基盤強化に向けた方策を検討することが期待される。

○ 障害者スポーツの推進体制を構築するためには、各地域の実践の場において、行政、学校、スポーツ団体、障害者福祉団体、企業等、障害者スポーツに携わる組織間を連絡調整する役割を担う「障害者スポーツコーディネーター(仮称)」のような人材が必要である。

(ボランティア)
○ 障害者スポーツにおけるボランティアを必要とする側の意向とボランティアをしたい個人・団体・企業の側の意向とのマッチング等の課題など、先進事例の収集や調査が必要である 。

○ 障害者スポーツ指導者資格を取得する前段階として、4時間程度のカリキュラムによる講習会で「障害者スポーツサポーター」を養成している例 があり、障害者スポーツの支援を気軽に始めたいと思っている者にとっては効果的な取組であることから、各地でもこうした取組が行われることが期待される。

(その他)
○ 障害者スポーツは、障害の種類や程度に応じて極めて多様であり、対象者のニーズも同様であることから、国は、障害者スポーツに関する基礎的な調査研究から最新のスポーツ医・科学の研究成果を活用した取組を奨励し、その成果を蓄積することが必要である。

4.おわりに

○ 今後、有識者会議において、地域における障害者スポーツの現状と課題、障害者スポーツを普及促進する意義、国・地方公共団体・学校・スポーツ団体・企業等の役割等に基づき、今後の基本的方向性等についての議論を継続的に実施し、平成27年度末までに、「最終とりまとめ」を行っていくこととする。

○ 国、地方公共団体、学校、スポーツ団体、福祉団体、企業等の障害者スポーツの関係団体や関係者におかれては、この中間整理を参考にし、障害者スポーツの普及促進に向けて検討を行い、必要な取組が進められることを期待する。


お問合せ先

スポーツ庁健康スポーツ課障害者スポーツ振興室

(スポーツ庁健康スポーツ課障害者スポーツ振興室)

-- 登録:平成28年02月 --