4.GCOM−W1プロジェクトの事前評価結果

(1)プロジェクトの目的(プロジェクトの意義の確認)・目標・開発方針

 GCOMは、「我が国の地球観測における衛星開発計画及びデータ利用の進め方について」において示された基本方針及び衛星開発計画に基づき、以下を目的として計画されている。

 気候変動が喫緊の課題として議論されている今日、国際協力で長期的に地球全体の水循環を観測することは有意義であり、これら「開発研究」移行時に設定された目的は「開発」移行時としても適切である。
 上記の目的に対応した目標は、3期で達成する最終的な目標とGCOM−W1の目標に分けられ、専門家やユーザとの議論を踏まえ、具体的な数値目標として、観測プロダクトの精度及びデータ配信時間等が設定されている。これらの目標の数値設定については、ユーザー側の要望を取り入れる努力がなされており適切である。ただし、観測可能な対象物理量が多岐にわたることがマイクロ波放射計の特質でもあり、多分野の研究者の協力を得て、AMSR2(高性能マイクロ放射計2)の能力を最大限に発揮することを目指した、精度検証作業が行われることを期待したい。
 本目標を達成するための開発方針としては、長期継続的な観測を実現するために、信頼性の確保が最も重要であると位置付けている。このため、衛星バスについては、既存技術を最大限に活用し、クリティカルな単一故障点を排除して信頼性向上を図っている。また、GCOM−Cとの共通性を考慮して設計することにより約80パーセントのバス系機器の共通化を実現し、また、10パーセント程度の開発費の削減をおこなうこととしている。この方針は、シリーズ化を図ってバス技術の向上および衛星バスの信頼性向上を目指す方式となっており適切である。また、観測センサについては、従来の実績を基に改良を加え、改良部分についてはフロントローディングとして開発移行前に試作試験を実施する方針となっている。これは衛星開発全体へのリスクを最小限にすることを考慮しており適切である。
 今後、GCOM−Cと併せ、6機の同種の衛星の開発・製作の機会が見込まれるが、まず第一期のGCOM−W1とC1について共通化を考慮することで、信頼性の向上、コスト低減、開発期間の短縮、人材育成等を図っている。第二期以降の衛星との共通点に関しては、第一期衛星の実績、技術の進展等を踏まえて検討することとしている。これらの取り組みは妥当であるが、このGCOMプロジェクトは極めて長期にわたりシリーズとして実施されるミッションなので、技術や体制に関する改善への検討を適時的確に実施することを要望したい。
 なお、今後に向けた助言は以下のとおりである。

判定:妥当

(2)システム選定及び基本設計要求

 衛星バスについては、機器毎の技術成熟度の分析結果に基づいてフライト実績や開発実績のある技術を採用している。また、信頼性向上のため、太陽電池パドルを2翼、電源系を2系統とし、ミッションの喪失に繋がるクリティカルな単一故障点を冗長化しているが、AMSR2反射鏡への衛星筐体の映りこみ等によるデータへの影響を回避している。さらに、GCOM−C1との共通化を考慮して互換性を有する設計としている。また、マイクロ波散乱計等を搭載可能な設計とし、今後も第二期衛星以降への搭載について、NASA(ナサ)/NOAAと調整を継続する計画としている。主要観測システムであるAMSR2については、AMSR−Eの観測を継承することにかんがみ、AMSR−Eと同一の昇交点地方時や観測周波数とすることとしている。またAMSR、AMSR−Eで開発実績のある機器・技術を活用すると共に、校正精度の向上や信頼性向上を図り、高温校正源の熱制御や受信部における7.3GHz(ギガヘルツ)受信機の採用等の設計変更を実施している。これら設計変更におけるクリティカルな要素については、フロントローディングとして設計解析や試作評価を実施し、実現性を確認している。
 これらの取り組みについては、既存技術の活用が十分なされると共に性能向上や信頼性向上の配慮がなされ適切である。但し、AMSR−Eの経年変化による動作不良の例や諸外国におけるミッション機器の単一故障点での不具合による機能全損等の例を踏まえ、信頼性の確保に更に十分な配慮をすることを要望したい。
 地上システムについては、コマンド立案・コマンド運用・追跡・測距・衛星の状態監視などの機能を持つ追跡管制システム、ミッション機器の観測計画立案・ミッションデータのダウンリンク・データ処理・データプロダクトのアーカイブ・ユーザサービスなどの機能を持つミッション運用系システム、処理アルゴリズム・校正検証・応用研究の機能を持つ利用研究系システムで構成されている。いずれもこれまでの衛星で実績のある設備・技術を活用した上で、一部機能を一元化することで衛星運用の簡素化や信頼性向上を図ることとしており適切である。
 なお、今後に向けた助言は以下のとおりである。

判定:妥当

(3)開発計画(資金計画、スケジュール、実施体制等)

 資金計画については、信頼性確保を考慮し、開発研究段階で低コスト化を検討した結果、衛星開発費において約1割の費用削減を達成している。今後は客観的、定量的なコスト管理、スケジュール管理を実施する計画としている。この約20億円の低減努力はフライト実績、開発実績のある技術を最大限採用し、開発に関わるコストを削減したものであり評価できる。
 スケジュールについては打上げ年度が1年遅れる計画となっているが、GCOM−W1の運用時期にはAMSR2と同等以上の性能のマイクロ波放射計を運用する計画が諸外国にはなく、依然優位性が保たれている。現計画ではAMSR−Eを搭載しているAQUA衛星と空白期間が生じる計画となっており、プロジェクトとして設定した開発スケジュールから遅れることの無いように注力することが肝要である。
 実施体制については、JAXA(ジャクサ)内に宇宙利用や国際協力等との横断的な体制を設定し、GCOMプロジェクトマネージャの統括の下に利用機関・研究者との調整、共同・協力体制の構築を行うこととしている。また、GCOM総合委員会が利用機関・研究者の要求をとりまとめるとともに、外部研究者が参加するサイエンスチームの活動を統括することで、JAXA(ジャクサ)と緊密な連携をとり、長期的かつ専門的な体制を構築する。東京大学、JAXA(ジャクサ)及び独立行政法人海洋研究開発機構がデータ統合・解析システムを構築し、GCOMのデータを利用する。プライムとなる衛星システム開発企業は、JAXA(ジャクサ)が設定する開発仕様に基づき、衛星システムの設計・製造・試験等を行い、JAXA(ジャクサ)が観測センサを別途開発し、システム担当企業に支給することとしている。この実施体制については、役割と責任の範囲など一層の明確化が進められている点は評価できる。今後データ利用について外部との連携体制を図るということで、大いに期待したい。また、GCOM−C1に係る検討と並行して開発することが想定されるが、現段階においてGCOM−C1までを視野に入れた開発体制に関する諸検討をより深めておくことが肝要である。
 なお、今後に向けた助言は、以下のとおりである。

判定:概ね妥当

(4)リスク管理

 リスク管理については「GCOMプロジェクトリスク管理計画書」をまとめ、これに基づき管理をおこなうこととしている。開発研究移行段階で識別された、信頼性や性能についてのリスクは、冗長設計とすることや影響する箇所の設計変更等を実施することで、フロントローディングによりリスクを低減することができている。現時点で想定されるリスクとしては、受信局不具合やロケット打上げ失敗等が挙げられるが、ダメージが最小となるような対策を検討している。
 今後の開発段階で新たに出現するであろう問題点についても、できるだけ早期に発見できるように、第三者によるレビュー体制も活用し、計画されているリスク管理を実行することが望まれる。
なお、今後に向けた助言は、以下のとおりである。

判定:概ね妥当

(5)総合評価

 GCOM−W1プロジェクトは、我々の生存基盤として不可欠な気候や水循環に関わる物理量を全球規模で長期継続的に観測するシステムを構築しようとするものであり、気象予報、漁業情報提供、海路情報管理等の現業分野への貢献が期待されることも踏まえると、極めて大きな意義を有している。
 今回の事前評価では、GCOM−W1プロジェクトの目的・目標・開発方針、システム選定及び基本設計要求、開発計画、及びリスク管理等について審議をおこなった。その結果、GCOM−W1プロジェクトについては、現時点で「開発」に移行することは妥当であると判断した。
 なお、GCOM−Wプロジェクトは10年以上の長期観測を実現するため3期のシリーズを計画しているが、適切なタイミングでの成果のまとめ、その成果を踏まえた更なる改善の実施、ノウハウや失敗例も含めた技術継承等について意見が提出された。また、GCOM−C1を視野に入れた実施体制の検討や、AMSR−Eの経験を踏まえた入念な検証試験の重要性についても指摘があった。JAXA(ジャクサ)においては、これらの助言について今後適切な対応がなされることを望む。

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