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はじめに

 宇宙開発で用いるロケットや人工衛星は、高い性能の要求を実現すると同時に、打上げ時の大きな振動、音響、加速度、宇宙空間における過酷な熱・放射線環境に耐えることが求められ、打上げ後の修理は極めて困難であるなど、極めて厳しい条件を満足するものでなければならない。そのようなことから、宇宙開発は、一国の科学技術の総合力を象徴すると言うことができる。

 我が国においては、糸川博士のペンシルロケットから始まった宇宙開発は、1970年に我が国初の人工衛星「おおすみ」の打上げに成功し、現在まで30年余りを経て、技術的に国際水準に比肩する大型ロケットH-2、H-2Aを打ち上げるまでに至った。他の宇宙開発先進国に比べ予算、人員において小規模な取組みにより短期間のうちにここまでの技術を獲得するに至ったことは、科学技術創造立国を掲げる我が国にとって誇りにできることである。しかしながら、その一方で、近年、相次いで事故・トラブルに見舞われたことは、信頼性の向上が我が国の宇宙開発にとって重大な課題として残っていることを示している。

 宇宙開発委員会においては、平成6年のきく6号(ETS-VI)以降、連続して発生した事故・トラブルを踏まえ、宇宙開発基本問題懇談会を開催し、一連の事故・トラブルは、日本の宇宙開発システムが急激な環境の変化とそれに伴う方向転換に十分適応できなかったことに起因することを指摘し、人的資源、信頼性向上、産業界との適切な役割分担など様々な角度からの提言を盛り込んだ報告書を平成11年5月にとりまとめた。

 しかしながら、平成11年11月、H-2ロケット8号機の打上げに失敗し、宇宙開発の基本的手段であるロケットの打上げに連続して失敗したことを重く受け止め、宇宙開発委員会は我が国の宇宙開発体制の立て直しに向け、特別会合を開催し、宇宙開発事業団(当時)の組織・体制のみならず、産業界の製造現場における品質保証、検査等の在り方にも踏み込んで、信頼性確保の方策について様々な改革の具体的方策を示すとともに、宇宙開発関係者に対し、あらゆるプロセスにおいて、妥協なき真摯な取組みを不断に行うことを強く求める旨、平成12年5月、報告書としてとりまとめた。

 上記2つの報告書の提言を踏まえ、宇宙関係機関は提言の実行に努め、H-2Aロケットについては、平成13年8月に試験機1号機の打上げに成功して以来、5機連続して打上げに成功するとともに、平成15年10月、宇宙3機関が統合して宇宙航空研究開発機構(以下「JAXA(ジャクサ)」という)が設立されるなど、我が国宇宙開発も再び軌道に乗り始めたかに見えた。

 その矢先の平成15年10月、環境観測技術衛星「みどり2」が打上げ後約10ヶ月で運用異常となり機能全損、翌月のH-2Aロケット6号機による情報収集衛星2号機の打上げ失敗と、これまでの取組みについて、その成果が上がっていたのかどうかが問われている。

 こうした状況に鑑み、製造企業を含めたJAXA(ジャクサ)の業務の進め方について、これまでに宇宙開発委員会が行ってきた提言等をフォローアップし、潜在的な問題が残っていないか再検証をするため、本特別会合が設置された。

 本特別会合では、これまでの提言等のフォローアップ、H-2Aロケット6号機の打上げ失敗における背景的な要因分析等を行い、信頼性確保のためにさらに取り組むべきと考えられる課題について提言することとした。特に、信頼性向上のために速やかに実施すべき改革については、製造企業も含めた責任体制の潜在的弱さを克服するための方策、JAXA(ジャクサ)の体制強化の方向性の2点に絞り、具体的な方策を提言することとした。



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