教科書の改善について(報告)(案)

-目次-

はじめに

1. 教科書改善に当たっての基本的な方向性 

 1 教育基本法で示す目標等を踏まえた教科書改善

  •  教育基本法や学校教育法の改正で明確に示された教育の理念や目標を達成し、新学習指導要領の総則に示された教育課程編成の一般方針や各教科の目標・内容等を適切に反映した教科書の作成
  •  教育基本法、学校教育法、新学習指導要領についての周知を十分に行い、教科書発行者における教科書の著作・編集の改善を推進するとともに、教科用図書検定基準等の改善を図る。

 2 知識・技能の習得、活用、探究に対応するための教科書の質・量両面での格段の充実

  •  個々の児童生徒の理解に応じ、きめ細やかな指導ができるよう、補充的な学習や発展的な学習に関する内容の充実
  •  幅広い教養・豊かな情操と道徳心、伝統と文化を尊重する態度などの教育基本法、学校教育法に示された目的・目標等の達成に資するための内容や話題・題材の充実
  •  基礎的・基本的な知識・技能が着実に習得されるよう、既に学習した内容の系統的な反復学習や、練習問題などによる繰り返し学習に関する記述の充実
  •  知識・技能を活用する学習活動が取り入れられるよう、観察・実験やレポートの作成に関する記述の充実
  •  児童生徒の学ぶ意欲を高め、探究する力をはぐくむよう、他教科の関連する内容も取り入れ、学習内容が実生活・実社会に関連付けられるような記述や話題・題材の 充実
  •  課題解決の喜びを得るような練習問題や、なぜ学ぶのかという目的意識を取り入れた話題・題材の充実

 3 多面的・多角的な考察に資する公正・中立でバランスのとれた教科書記述

  •  教育基本法において示された教育の目標等や学校教育法に示された義務教育の目標、目的を達成するため、教師が自信と確信を持って児童生徒の思考力・判断力・表現力等を育成することに資する、公正・中立でバランスのとれた教科書記述がより一層求められる
  •  一面的・断定的でない多面的・多角的な考察に資するよう、公正・中立でバランスのとれた話題・題材の選定や記述がなされることも重要

 4 教科書記述の正確性の確保

  •  教科書の著作、編集、検定の過程において、教科の主たる教材としての正確性が一層確保される仕組みや、申請段階において客観的に明白な誤記・誤植等をなくすための仕組みを整備することが必要である。
  •  発行後においても、客観的に明白な誤記・誤植等が速やかに修正され周知されるような取組を推進することが求められる。

 5 児童生徒が意欲的に学習に取り組むための、教科書編集上の配慮・工夫の促進

  •  学習指導要領の改訂による授業時数増にも対応し、新学習指導要領に示す内容を不足なく、丁寧にかつ分かりやすく記述した上で、個々の児童生徒の理解の程度に応じて発展的な学習やつまずきやすい内容の繰り返し学習、補充的な学習を指導しやすいような教科書構成上の配慮・工夫。また、小学校と中学校の学習内容の円滑な接続への配慮・工夫
  •  記述すべてを教えるのではなく、発展的な学習など個々の児童生徒の理解の程度に応じて学習する内容について、編集上の区分の徹底
  •  児童生徒が興味関心を持って読み進められるよう、話題や題材の創意工夫
  •  児童生徒が家庭でも主体的に自学自習できるよう、丁寧な記述、練習問題、文章量の充実。また、児童生徒が学びやすいよう、学習内容を踏まえた教科書の体様への適切な配慮
  •  本文記述との適切な関連付けがなされたイラスト・写真などの活用。一方でこれらの多用によって児童生徒の想像力が阻害されないような配慮
  •  障害の有無にかかわらず、すべての児童生徒にとって学習しやすいレイアウト等の適切な配慮の研究

 6 教科書検定の信頼性を一層高めるための検定手続きの改善

  •  申請図書に対し、審議会や教科書調査官がどのように関与し、結果としてどのような過程によって検定意見が付され、合否判定がなされたかなど審議結果に至る一連のプロセスを一層透明化する
  •  検定手続きの透明性の向上に当たっては、静ひつな環境における専門的かつ自由闊達な審議の確保との十分な両立を図る
  •  審議に当たって特に慎重な判断を要する事項を審議会が選定し、より専門性の高い重点的な審議を行う

2. 教科書改善の具体的方策

 1 教科用図書検定基準等の改善

 (1)教育基本法で示す目標等を踏まえた教科書改善

-基本的な方向性1-

検定基準改善の視点1
 教育基本法、学校教育法、学習指導要領に示す教育の目標の達成に資する「よりよい教科書」への改善を図るための基準の見直し。

【見直しの内容】

  •  教育の目標達成に資する主たる教材
  •  教育基本法等との関係
  •  学習指導要領との関係
  •  検定基準の構成の整理
  •  検定申請時の添付書類の整備
(2)知識・技能の習得、活用、探究に対応するための教科書の質・量両面での格段の充実

-基本的な方向性2- 

検定基準改善の視点2
 教科書発行者の創意工夫により、記述内容が質・量ともに格段に充実するための基準の見直し。
 国語や英語の題材の充実など、学習指導要領に即した各教科固有の基準の見直し。

【見直しの内容】
(各教科共通の条件)

  •  「発展的な学習内容」等の充実
  •  補充的な学習や繰り返し学習等の充実
  •  他教科と関連する記述等の充実
  •  図書の内容の厳選を求める規定の見直し
  •  安全に関する取扱いの充実

(各教科固有の条件)

  •  漢字の指導の取扱いの充実
  •  国語科における漢字の繰り返し学習対応の改善
  •  文語文の歌詞の取扱いにおける改善
  •  国語科及び外国語科の教材の充実
  •  算数的活動・数学的活動への配慮
  •  理科における日常生活や社会との関連への配慮
  •  理科における安全に関する基準の充実
(3)多面的・多角的な考察に資する公正・中立でバランスのとれた教科書記述

-基本的な方向性3-

検定基準改善の視点3
 教科書の記述内容、話題・題材等の扱いについて、教育基本法等に示された目的・目標等を達成するため、児童生徒が特定の事項、事象、分野に偏ることなく、バランスよく客観的な見方や考え方を身に付けることができるよう、公正性・中立性をより一層確保するための基準の見直し。

【見直しの内容】
(各教科共通の条件)

  •  選択・扱いの公正を求める規定のより適切な適用
  •  政治・宗教の扱いの公正
  •  特定の個人・団体・企業などの扱いの公正
  •  引用資料の扱いの公正

(各教科固有の条件)

  •  社会科における未確定な時事的事象の扱いや引用資料の扱いの公正
(4)教科書記述の正確性の確保

-基本的な方向性4-

検定基準改善の視点4
 誤記・誤植等がない正確な記述と実質的な記述内容の審査を確保するための基準の見直し。

【見直しの内容】

  •  客観的に明白な誤記・誤植等に関する基準の区分及び当該誤記・誤植等の数の公表
  •  責任ある発行体制の確保

2 教科書発行者における著作・編集の在り方の改善等

児童生徒が意欲的に学習に取り組むための、教科書編集上の配慮・工夫の促進
-基本的な方向性5-

【求められる取組】

  •  教育基本法で示された目標等や学習指導要領の趣旨等を適切に反映した教科書の著作・編集
  •  授業時数の増加の趣旨を踏まえた教科書上の配慮・工夫
  •  公正・中立でバランスのとれた話題・題材の選定や記述
  •  正確な教科書記述を実現するための取組
  •  適切な体裁の工夫やイラスト・写真等の使用
  •  中学校理科の分冊形態
  •  すべての児童生徒にとって学習しやすいレイアウト等の適切な配慮の研究
  •  文部科学省における取組
  •  公正かつ適切な教科書採択

3 教科書検定手続きの改善

教科書検定の信頼性を一層高めるための検定手続きの改善-基本的な方向性6-

  1.  教科書検定手続きの透明性の一層の向上

    【見直しの内容】
    (透明性の一層の向上)

    •  検定における審査過程の一層の公開
    •  部会、小委員会における議事の概要の作成・公表
    •  委員分属の公表

    (静ひつな環境の確保)

    •  審査過程における申請図書等の適切な情報管理
  2.  専門的見地からのきめ細やかな審議の確保

    【見直しの内容】

    •  より専門的できめ細やかな審査を行う場合の審議の方法
    •  検定意見の伝達方法等
  3.  文部科学大臣と審議会の関係及び審議会委員や教科書調査官の役割・選任の改善等

    【見直しの内容】

    •  文部科学大臣と審議会の関係及び教科書調査官の役割
    •  審議会委員の役割・選任
    •  教科書調査官の選任及び職歴等の公表等

おわりに


はじめに

                              
  •  平成18年12月、教育基本法が制定から約60年ぶりに改正され、新しい時代の教育の基本理念が明示された。
      また、平成19年6月には、この教育基本法改正を受けて学校教育法が改正され、新たに義務教育の目標が規定されるとともに、各学校段階の目的・目標規定についても改正が行われた。
      さらに、平成20年3月には、これらの法改正等を踏まえ、基礎的・基本的な知識・技能の習得を基盤とした、思考力・判断力・表現力等の育成、学習意欲の向上や学習習慣の確立、豊かな心や健やかな体の育成のための指導の充実等を基本的な考え方として、小・中学校の学習指導要領が改訂され、小学校では平成23年度から、中学校では平成24年度から新しい教育課程が実施される。
  •  教科書は、法律により学校での使用が義務付けられている主たる教材であるとともに、児童生徒が家庭に持ち帰り学習に活用する上で重要な役割を果たしているものである。
      教育の理念・目標や新しい学習指導要領の内容等は、最終的には教科書に記述されることによって、初めて目に見える形で実現されるものであり、新しい教育課程の実現のためには、これらをどのように教科書に反映していくかが極めて重要である。
  •  今後、新しい教育課程の実施に向けた教科書の著作・編集や教科書検定が行われていく中で、新たな教科書がより一層児童生徒にとって理解しやすく、教師にとって教えやすいものとなるよう、著作・編集・検定等の各段階における改善方策を検討することが求められている。
      すなわち、教科書の著作・編集に係る民間の創意工夫を活用しつつ検定により適切な教科書を確保するという我が国の教科書検定制度の趣旨を一層生かし、教科書検定の審査基準(教科用図書検定基準)や教科書検定手続きの改善を図っていくことが必要となっている。
  •  このような状況の中、本審議会に対し、本年2月28日、文部科学大臣から、「教科書検定手続きの改善方策」及び「新しい教育課程の実施に対応した教科書の改善方策」の二つの事項の審議要請が行われた。本審議会においてはこれを 受け、総括部会の下に各審議要請事項ごとにワーキンググループを設置し、両ワーキンググループとも12月11日までに10回の会議を開催し、検討を行ってきた。その間、社団法人教科書協会、全国連合小学校長会、全日本中学校長協会、社団法人日本PTA全国協議会等の関係団体からヒアリングや文書による意見聴取を行い、その際示された意見等も参考にしたところである。
  •  検討に当たっては、まず今後の教科書の著作・編集及び教科書検定に求められる「教科書改善に当たっての基本的な方向性」を整理した上で、それらを踏まえて、教科用図書検定基準等の改善、教科書発行者における著作・編集の在り方の改善等、教科書検定手続きの改善に関して、具体的な改善方策の提言を行うこととした。
  •  この度、その検討結果が、「教科書の改善について」としてまとまったので、文部科学大臣に対して報告を行うものである。

1. 教科書改善に当たっての基本的な方向性

  •  教科書は、児童生徒が共通して使用する主たる教材であり、学校はもとより家庭での学習においても重要な役割を果たしている。教科書の内容を改善充実することは、教育の機会均等を保障し、児童生徒が基礎的・基本的な知識・技能を確実に身に付け、それらを活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等をはぐくむことに大いに資するものである。
  •  新しい教育課程の実施に向けて教科書が変わろうとするこの時機において、教育基本法や学校教育法が示す理念や目標等を適切に踏まえるとともに、新しい学習指導要領の趣旨・内容が的確に反映された質・量ともに充実した教科書としていくことが強く求められる。
  •  中央教育審議会答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について」(平成20年1月17日)において提言されたように、繰り返し学習や知識・技能を活用する学習、発展的な学習に自ら取り組み、知識・技能の定着や思考を深めることを促すような工夫が凝らされた、読み応えのある教科書が提供されることが重要である。
     また、児童生徒の心身の発達段階を考慮し、適切な教育的配慮の下、公正・中立かつ正確な内容となっていることも引き続き求められる。
  •  このような考え方の下、本審議会においては、今後の教科書の著作・編集及び教科書検定に求められるものを、「教科書改善に当たっての基本的な方向性」として、次の六つの項目に整理した。
  1.  教育基本法で示す目標等を踏まえた教科書改善
  2.  知識・技能の習得、活用、探究に対応するための教科書の質・量両面での格段の充実
  3.  多面的・多角的な考察に資する公正・中立でバランスのとれた教科書記述
  4.  教科書記述の正確性の確保
  5.  児童生徒が意欲的に学習に取り組むための、教科書編集上の配慮・工夫の促進
  6.  教科書検定の信頼性を一層高めるための検定手続きの改善

 以下、それぞれの項目について具体的な内容を示すこととする。

1 教育基本法で示す目標等を踏まえた教科書改善

 
  •  教育基本法の改正により、教育の目標として、新たに幅広い知識と教養を身に付け、豊かな情操と道徳心を培うことなどが規定された。また、学校教育法の改正により、新たに義務教育の目標が規定された。
  •  これらの改正を踏まえ、「生きる力」を育成することなどを基本的な考え方として、学習指導要領が改訂された。新しい学習指導要領の総則においては、各学校において、教育基本法及び学校教育法に従い、適切な教育課程を編成するものとし、これらに掲げる目標を達成するよう教育を行うということが示された。
  •  今後の教科書の改善に当たっては、教科書がこれらの目的・目標を適切に反映したものとなるよう、以下のような取組が必要である。
  •  教育基本法や学校教育法の改正で明確に示された教育の理念や目標を達成し、新学習指導要領の総則に示された教育課程編成の一般方針や各教科の目標・内容等を適切に反映した教科書が提供されることが必要である。
  •  教育基本法、学校教育法、新学習指導要領についての周知を十分に行い、教科書発行者における教科書の著作・編集の改善を推進するとともに、教科用図書検定基準等を改善する必要がある。

2 知識・技能の習得、活用、探究に対応するための教科書の質・量両面での格段の充実

  •  今般改正された学校教育法においては、義務教育の目標達成のため「生涯にわたり学習する基盤が培われるよう、基礎的な知識及び技能を習得させるとともに、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくみ、主体的に学習に取り組む態度を養うことに、特に意を用いなければならない」ことが新たに規定された(第30条第2項)。
      また、新しい学習指導要領においては、この学校教育法の規定も踏まえつつ、児童生徒に基礎的・基本的な知識・技能を習得させるとともに、思考力・判断力・表現力等を育成し、学習意欲の向上や学習習慣の確立を図るということが基本理念として示された。
  •  これらを反映し、知識・技能の習得、活用、探究に対応した教科書の改善が図られるよう、以下のような事項について、質・量両面における記述の格段の充実を図っていくことが必要である。
  •  個々の児童生徒の理解に応じ、きめ細やかな指導ができるよう、補充的な学習や発展的な学習に関する内容の充実
  •  幅広い教養・豊かな情操と道徳心、伝統と文化を尊重する態度などの教育基本法、学校教育法に示された目的・目標等の達成に資するための内容や話題・題材の充実
  •  基礎的・基本的な知識・技能が着実に習得されるよう、既に学習した内容の系統的な反復学習や、練習問題などによる繰り返し学習に関する記述の充実
  •  知識・技能を活用する学習活動が取り入れられるよう、観察・実験やレポートの作成に関する記述の充実
  •  児童生徒の学ぶ意欲を高め、探究する力をはぐくむよう、他教科の関連する内容も取り入れ、学習内容が実生活・実社会に関連付けられるような記述や話題・題材の充実
  •  課題解決の喜びを得るような練習問題や、なぜ学ぶのかという目的意識を取り入れた話題・題材の充実

3 多面的・多角的な考察に資する公正・中立でバランスのとれた教科書記述

  •  教科書の著作・編集に当たっては、教科書が本来、児童生徒のための図書であって、著者の学術研究の発表の手段ではないことが十分認識され、内容が一面的な見解に偏っていないか、広く受容されている内容となっているかなどについて十分な吟味・検証がなされなければならない。
      特に、多様な説があるものや学説等が確立されていないものなどについては、様々な角度の視点からの記述などにより一層公正性・中立性に留意し、児童生徒の多面的・多角的な思考に資するような記述となるよう配慮する必要があり、以下の観点の改善が求められる。
  •  これからの教科書については、教育基本法において示された教育の目標等や学校教育法に示された義務教育の目標、目的を達成するため、教師が自信と確信を持って児童生徒の思考力・判断力・表現力等を育成することに資する、公正・中立でバランスのとれた記述がより一層求められる。
  •  また、一面的・断定的でない多面的・多角的な考察に資するよう、公正・中立でバランスのとれた話題・題材の選定や記述がなされることも重要である。

4 教科書記述の正確性の確保

  •  教科書は児童生徒が学習する上で極めて重要な役割を担う教材であるということに鑑み、その記述に際しては、誤記、誤植、誤字、脱字等があってはならず、教科書の著作・編集・検定の各段階における以下のような改善が必要である。
  •  教科書の著作、編集、検定の過程において、教科の主たる教材としての正確性が一層確保される仕組みや、申請段階において客観的に明白な誤記・誤植等をなくすための仕組みを整備することが必要である。
  •  発行後においても、客観的に明白な誤記・誤植等が速やかに修正され周知されるような取組を推進することが求められる。

5 児童生徒が意欲的に学習に取り組むための、教科書編集上の配慮・工夫の促進

  •  児童生徒が一層意欲的に学習に取り組むようにするためには、1から4で示した方向性を踏まえて記述内容の質・量の充実を図るとともに、全体的な構成、レイアウト等の面における教科書編集上の配慮・工夫も必要であり、教科書発行者における以下のような取組が求められる。
  •  学習指導要領の改訂による授業時数増にも対応し、新学習指導要領に示す内容を不足なく、丁寧にかつ分かりやすく記述した上で、個々の児童生徒の理解の程度に応じて発展的な学習やつまずきやすい内容の繰り返し学習、補充的な学習を指導しやすいような教科書構成上の配慮・工夫。また、小学校と中学校の学習内容の円滑な接続への配慮・工夫
  •  記述すべてを教えるのではなく、発展的な学習など個々の児童生徒の理解の程度に応じて学習する内容について、編集上の区分の徹底
  •  児童生徒が興味関心を持って読み進められるよう、話題や題材の創意工夫
  •  児童生徒が家庭でも主体的に自学自習できるよう、丁寧な記述、練習問題、文章量の充実。また、児童生徒が学びやすいよう、学習内容を踏まえた教科書の体様への適切な配慮
  •  本文記述との適切な関連付けがなされたイラスト・写真などの活用。一方でこれらの多用によって児童生徒の想像力が阻害されないような配慮
  •  障害の有無にかかわらず、すべての児童生徒にとって学習しやすいレイアウト等の適切な配慮の研究

6 教科書検定の信頼性を一層高めるための検定手続きの改善

  •  我が国の教科書制度は、著作・編集に係る民間の創意工夫を生かしながら、教科書検定により適切な教科書を確保するという仕組みであり、教科書の改善のためには、教科書検定の手続き自体の改善を進めることが重要である。
  •  この教科書検定手続きについては、平成18年度の高等学校日本史教科書の検定の一連の過程において、いわゆる沖縄戦に係る記述に関し、審議の透明性の向上やより専門的な見地からの審議の必要性など、様々な事項が指摘された。   教科書検定手続きは、静ひつな環境の中で、委員ら専門家の知見によって、公正・中立に専門的・学術的な審議がなされることが必要であり、その確保を前提とした上で、国民の信頼を高めていく観点から、手続きの透明性を可能な限り向上させることが求められている。
  •  具体的には、以下のような観点で教科書検定手続きの改善を図る必要がある。
  •  申請図書に対し、審議会や教科書調査官がどのように関与し、結果としてどのような過程によって検定意見が付され、合否判定がなされたかなど審議結果に至る一連のプロセスを一層透明化する
  •  検定手続きの透明性の向上に当たっては、静ひつな環境における専門的かつ自由闊達(かつたつ)な審議の確保との十分な両立を図る
  •  審議に当たって特に慎重な判断を要する事項を審議会が選定し、より専門性の高い重点的な審議を行う

2. 教科書改善の具体的方策

  •  1.で示した、「教科書改善に当たっての基本的な方向性」を踏まえ、「1 教科用図書検定基準等の改善」、「2 教科書発行者における著作・編集の在り方の改善等」、「3 教科書検定手続きの改善」の各事項について、具体的な改善方策を示すこととする。
      なお、「1 教科用図書検定基準等の改善」については、「基本的な方向性」の1から4に対応するものであり、「2 教科書発行者における著作・編集の在り方の改善等」は、「基本的な方向性」の1から4、とりわけ5に対応するものであり、「3 教科書検定手続きの改善」は、「基本的な方向性」の6に対応するものである。
教科書改善に当たっての基本的な方向性
  1.  教育基本法で示す目標等を踏まえた教科書改善
  2.  知識・技能の習得、活用、探究に対応するための教科書の質・量両面での格段の充実
  3.  多面的・多角的な考察に資する公正・中立でバランスのとれた教科書記述
  4.  教科書記述の正確性の確保
  5.  児童生徒が意欲的に学習に取り組むための、教科書編集上の配慮・工夫の促進
  6.  教科書検定の信頼性を一層高めるための検定手続きの改善

1 教科用図書検定基準等の改善

  •  教科用図書検定基準※1(以下「検定基準」という。)は、検定における教科書の審査が適正かつ公正に行われるよう、文部科学大臣によりあらかじめ告示されている審査の基準であり、教科用図書検定調査審議会において、これに基づき教科書の記述内容についての審査が行われる※2
      検定基準は検定の審査基準であるが、各教科書の著作・編集は、この検定基準に示されている規定を考慮しながら行われることとなるため、その見直しの内容は、教科書の改善に大きく影響するものである。
  •  この検定基準について、「教科書改善に当たっての基本的な方向性」の1から4を踏まえ、以下の視点から見直しを行うことを提言する。
      なお、今回は、小・中学校学習指導要領の改訂を踏まえ、義務教育諸学校教科用図書検定基準について提言するものとする。
視点
  1.  教育基本法、学校教育法、学習指導要領に示す教育の目標の達成に資する「よりよい教科書」への改善を図るための基準の見直し。
  2.  教科書発行者の創意工夫により、記述内容が質・量ともに格段に充実するための基準の見直し。国語や英語の題材の充実など、学習指導要領に即した各教科固有の基準の見直し。
  3.  教科書の記述内容、話題・題材等の扱いについて、教育基本法等に示された目的・目標等を達成するため、児童生徒が特定の事項、事象、分野に偏ることなく、バランスよく客観的な見方や考え方を身に付けることができるよう、公正性・中立性をより一層確保するための基準の見直し。
  4.  誤記・誤植等がない正確な記述と実質的な記述内容の審査を確保するための基準の見直し。

※1 教科書検定における基準として、義務教育諸学校教科用図書検定基準(平成11年1月25日文部省告示第15号)及び高等学校教科用図書検定基準(平成11年4月16日文部省告示第96号)が定められている。
※2 教科書検定においては、各教科書発行者から検定申請された教科書(申請図書)について、教科用図書検定調査審議会において、この検定基準に照らして適切か否かの審査が行われ、その結果に基づき文部科学大臣が合否の決定を行っている。また、同審議会において、この検定基準に照らして、必要な修正を行った後に再度審査を行うことが適当であると判断した申請図書については、文部科学大臣は合否の決定を留保した上で、修正等を求める「検定意見」を教科書発行者に対して通知する。


(1)教育基本法で示す目標等を踏まえた教科書改善-基本的な方向性1-
  •  教育基本法や学校教育法の改正で明確に示された教育の理念や目標を達成し、新学習指導要領の総則に示された教育課程編成の一般方針や各教科の目標・内容等を適切に反映した教科書の作成
  •  教育基本法、学校教育法、新学習指導要領についての周知を十分に行い、教科書発行者における教科書の著作・編集の改善を推進するとともに、教科用図書検定基準等の改善を図る。

  •  教育を取り巻く状況の変化等を踏まえ改正された教育基本法においては、知・徳・体の調和がとれ、生涯にわたって自己実現を目指す自立した人間、公共の精神を尊び、国家・社会の形成に主体的に参画する国民、及び我が国の伝統と文化を基盤として国際社会を生きる日本人の育成を目指し、従来から規定されていた個人の価値の尊重、正義と責任などに加え、新たに、公共の精神、生命や自然を尊重する態度、伝統や文化を尊重し、我が国と郷土を愛するとともに、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うことなどが規定された(第2条)。
  •  教育基本法の改正を踏まえ、学校教育法において、公共の精神に基づき主体的に社会の形成に参画する態度を養うことなどが、義務教育の目標として規定された(第21条)。
  •  新しい学習指導要領では、これらの改正を踏まえ、「総則」の「教育課程編成の一般方針」において、①教育基本法改正等で明確となった教育の理念を踏まえ「生きる力」を育成すること、②基礎的・基本的な知識・技能の習得と思考力・判断力・表現力等の育成を図るとともに、主体的に学習に取り組む態度を養うこと、③道徳教育や体育などの充実により、豊かな心や健やかな体を育成することが示された。
  •  このような教育基本法で示す目標等を適切に反映した教科書の改善を進めることが必要であり、このため、以下の視点で検定基準の見直しを行う。
検定基準改善の視点1
 教育基本法、学校教育法、学習指導要領に示す教育の目標の達成に資する「よりよい教科書」への改善を図るための基準の見直し。

【見直しの内容】

(教育の目標達成に資する主たる教材)
◇ 教科書が、知・徳・体の調和がとれ、生涯にわたって自己実現を目指す自立した人間、公共の精神を尊び、国家・社会の形成に主体的に参画する国民、及び我が国の伝統と文化を基盤として国際社会を生きる日本人の育成を目指す教育基本法に示す教育の目標並びに学校教育法及び学習指導要領に示す目標を達成するための主たる教材であることを検定基準の総則において明記する。
教育基本法(平成18年12月22日法律第120号)
 (教育の目標)
第2条 教育は、その目的を実現するため、学問の自由を尊重しつつ、次に掲げる目標を達成するよう行われるものとする。
一 幅広い知識と教養を身に付け、真理を求める態度を養い、豊かな情操と道徳心を培うとともに、健やかな身体を養うこと。
二 個人の価値を尊重して、その能力を伸ばし、創造性を培い、自主及び自律の精神を養うとともに、職業及び生活との関連を重視し、勤労を重んずる態度を養うこと。
三 正義と責任、男女の平等、自他の敬愛と協力を重んずるとともに、公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと。
四 生命を尊び、自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度を養うこと。
五 伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。
 (教育基本法等との関係)

◇ 教育基本法に示す教育の目的、目標(第1条、第2条、第5条※1)や学校教育法に示す義務教育の目標(第21条※2)に一致していることを検定基準上明確化する。

 (学習指導要領との関係)

◇ 学習指導要領総則に示す教育課程編成の一般方針や各教科の目標、内容等※3に一致していることを検定基準上明確化する。

(検定基準の構成の整理)

◇ 検定基準の「各教科共通の条件」の分類(「1 範囲及び程度」「2 選択・扱い及び組織・分量」「3 正確性及び表記・表現」)※4について、審査の観点をより分かりやすくするよう、例えば、「1」及び「2」の観点について、関係法令との関係、記述内容として取り上げる範囲を示した事項、記述内容の配列や取扱い方に関する配慮を示した事項などの事項に分けて、規定を整理する。

 (検定申請時の添付書類の整備)

☆ 上記の検定基準の見直しに即して、学習指導要領との対照を示す書類に加え、教育基本法等の目的・目標との対照を示す書類も添付書類とするよう、検定申請時の提出書類※5の整備を行う。


※1 教育基本法(平成18年12月22日法律第120号)
  (教育の目的)
  第1条 教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。
  (教育の目標) 
第2条 教育は、その目的を実現するため、学問の自由を尊重しつつ、次に掲げる目標を達成するよう行われるものとする。

幅広い知識と教養を身に付け、真理を求める態度を養い、豊かな情操と道徳心を培うとともに、健やかな身体を養うこと。
個人の価値を尊重して、その能力を伸ばし、創造性を培い、自主及び自律の精神を養うとともに、職業及び生活との関連を重視し、勤労を重んずる態度を養うこと。
正義と責任、男女の平等、自他の敬愛と協力を重んずるとともに、公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと。
生命を尊び、自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度を養うこと。
伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。

 (義務教育)
第5条第2項 義務教育として行われる普通教育は、各個人の有する能力を伸ばしつつ社会において自立的に生きる基礎を培い、また、国家及び社会の形成者として必要とされる基本的な資質を養うことを目的として行われるものとする。

※2 学校教育法(昭和22年3月31日法律第26号/一部改正:平成19年6月27日法律第96号)
 第21条 義務教育として行われる普通教育は、教育基本法(平成十八年法律第百二十号)第5条第2項に規定する目的を実現するため、次に掲げる目標を達成するよう行われるものとする。

学校内外における社会的活動を促進し、自主、自律及び協同の精神、規範意識、公正な判断力並びに公共の精神に基づき主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと。
学校内外における自然体験活動を促進し、生命及び自然を尊重する精神並びに環境の保全に寄与する態度を養うこと。
我が国と郷土の現状と歴史について、正しい理解に導き、伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する態度を養うとともに、進んで外国の文化の理解を通じて、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。
家族と家庭の役割、生活に必要な衣、食、住、情報、産業その他の事項について基礎的な理解と技能を養うこと。
読書に親しませ、生活に必要な国語を正しく理解し、使用する基礎的な能力を養うこと。
生活に必要な数量的な関係を正しく理解し、処理する基礎的な能力を養うこと。
生活にかかわる自然現象について、観察及び実験を通じて、科学的に理解し、処理する基礎的な能力を養うこと。
健康、安全で幸福な生活のために必要な習慣を養うとともに、運動を通じて体力を養い、心身の調和的発達を図ること。
生活を明るく豊かにする音楽、美術、文芸その他の芸術について基礎的な理解と技能を養うこと。
職業についての基礎的な知識と技能、勤労を重んずる態度及び個性に応じて将来の進路を選択する能力を養うこと。
 

※3 小学校学習指導要領(平成20年3月28日文部科学省告示第27号) 〔第1章 総則 第1 教育課程編成の一般方針(抜粋)〕

  1.  各学校においては、教育基本法及び学校教育法その他の法令並びにこの章以下に示すところに従い、児童の人間として調和のとれた育成を目指し、地域や学校の実態及び児童の心身の発達の段階や特性を十分考慮して、適切な教育課程を編成するものとし、これらに掲げる目標を達成するよう教育を行うものとする。
     学校の教育活動を進めるに当たっては、各学校において、児童に生きる力をはぐくむことを目指し、創意工夫を生かした特色ある教育活動を展開する中で、基礎的・基本的な知識及び技能を確実に習得させ、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくむとともに、主体的に学習に取り組む態度を養い、個性を生かす教育の充実に努めなければならない。その際、児童の発達の段階を考慮して、児童の言語活動を充実するとともに、家庭との連携を図りながら、児童の学習習慣が確立するよう配慮しなければならない。
  2.  学校における道徳教育は、道徳の時間を要として学校の教育活動全体を通じて行うものであり、道徳の時間はもとより、各教科、外国語活動、総合的な学習の時間及び特別活動のそれぞれの特質に応じて、児童の発達の段階を考慮して、適切な指導を行わなければならない。
     道徳教育は、教育基本法及び学校教育法に定められた教育の根本精神に基づき、人間尊重の精神と生命に対する畏(い)敬の念を家庭、学校、その他社会における具体的な生活の中に生かし、豊かな心をもち、伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛し、個性豊かな文化の創造を図るとともに、公共の精神を尊び、民主的な社会及び国家の発展に努め、他国を尊重し、国際社会の平和と発展や環境の保全に貢献し未来を拓(ひら)く主体性のある日本人を育成するため、その基盤としての道徳性を養うことを目標とする。

※4 検定基準の全体的な構成は、検定審査の基本方針である「総則」のほか、「各教科共通の条件」及び「各教科固有の条件」について、「範囲及び程度」、「選択・扱い及び組織・分量」及び「正確性及び表記・表現」の三つの観点ごとに、具体的な規定が定められている。

※5 現在提出を求めている添付書類として、編集上特に意を用いた点や特色を記す「編修趣意書」や学習指導要領の「内容」と申請図書の内容との対比を記す「学習指導要領との対照表」などがある。


(2)知識・技能の習得、活用、探究に対応するための教科書の質・量両面での格段の充実-基本的な方向性2-
  •  個々の児童生徒の理解に応じ、きめ細やかな指導ができるよう、補充的な学習や発展的な学習に関する内容の充実
  •  幅広い教養・豊かな情操と道徳心、伝統と文化を尊重する態度などの教育基本法、学校教育法に示された目的・目標等の達成に資するための内容や話題・題材の充実
  •  基礎的・基本的な知識・技能が着実に習得されるよう、既に学習した内容の系統的な反復学習や、練習問題などによる繰り返し学習に関する記述の充実
  •  知識・技能を活用する学習活動が取り入れられるよう、観察・実験やレポートの作成に関する記述の充実
  •  児童生徒の学ぶ意欲を高め、探究する力をはぐくむよう、他教科の関連する内容も取り入れ、学習内容が実生活・実社会に関連付けられるような記述や話題・題材の充実
  •  課題解決の喜びを得るような練習問題や、なぜ学ぶのかという目的意識を取り入れた話題・題材の充実

  •  教科書において、児童生徒が基礎的・基本的な知識・技能を確実に身に付け、それらを活用して課題を解決するのに必要な思考力・判断力・表現力等をはぐくむことができるよう、質・量両面の充実が求められる。教科書の充実に当たっては、個々の児童生徒の理解に応じたきめ細やかな指導の充実を図ることが重要であることから、補充的な学習や発展的な学習に関する内容の充実とともに、実生活や実社会に関連付ける学習内容の充実などが求められる。
  •  現行の検定基準においては、例えば、「発展的な学習内容」※1を記述する際の留意点等に関する規定や他の教科の内容との重複に関する規定などを始めとして、教科書の著作・編集において抑制的に働く側面がある規定がある。教科書発行者の創意工夫により、教科書の内容が質・量ともに充実されるよう、これらを見直す必要がある。
  •  また、新しい学習指導要領においては、国語科において、我が国において伝承されてきた言語文化に親しむ観点から、また、外国語科において、外国語学習に対する関心や意欲を高める、外国語で発信し得る内容の充実を図るなどの観点から、教材選定の留意事項が示された。これを踏まえた題材の選択に係る検定基準の見直しなど、各教科固有の基準を見直すことも必要である。

※1 「発展的な学習内容」とは、児童生徒の理解をより深め、興味・関心に応じた学習を拡げる等の観点から、学習指導要領において当該学年の学習内容とされていない内容等について教科書上の記述を行うものであり、現行の検定基準においては、「発展的な学習内容」を記述する際の留意点等が規定されている。
 この規定においては、記述に当たっては本文以外で記述することや「発展的な学習内容」以外と区分すること、学習指導要領に示されていないことを明示すること等が定められている。さらに、分量については、検定基準上適切であることとされ、実際の検定においては運用上、義務教育については教科書全体の1割程度、高等学校については教科書全体の2割程度までとされている。


検定基準改善の視点2
 教科書発行者の創意工夫により、記述内容が質・量ともに格段に充実するための基準の見直し。
 国語や英語の題材の充実など、学習指導要領に即した各教科固有の基準の見直し。

【見直しの内容】

各教科共通の条件
(「発展的な学習内容」等の充実)

◇ 「発展的な学習内容」について、個々の児童生徒の理解に応じたきめ細かな指導が充実するよう、現行の検定基準における記述上の例外的な扱いを見直し、その位置付けを明記する。これに伴い、「記述に当たっては本文以外で記述する」とする規定を見直すとともに、分量について「適切であること」と規定され、運用上、義務教育については教科書全体の1割程度、高等学校については2割程度までとされていることについて、量的な上限を設けないこととするよう、見直す。
 ただし、「発展的な学習内容」については、学習指導要領の総則や各教科等の目標、内容の趣旨を逸脱せず、主たる学習内容との適切な関連を有していることが、引き続き必要である。

◇ 現行の検定基準において、「発展的な学習内容」に関する記述は他の記述とは明確に区分され、すべての児童生徒が一律に学習するものではないということを示すこととされていることについては、今後も同様とし、著作・編集において一層徹底する。

☆ 「発展的な学習内容」に関する記述は、学習指導要領に示された内容ではなく、すべての児童生徒が一律に学習するものではないことから、入学者選抜における学力検査の問題作成に当たって、出題範囲としないよう十分留意することなどを関係者に求めていく必要がある。

(補充的な学習や繰り返し学習等の充実)

◇ 「補充的な学習」や「繰り返し学習」等については、例えば、中学校数学科において「負の四則計算」を学習する際に、小学校算数科の「小数・分数の四則計算」を取り上げることなどが考えられる。今後、このような記述の充実が図られるよう、「程度が低すぎるところはないこと」、「他の教科の内容と不必要に重複しているところはないこと」という、抑制的に働く側面のある規定を見直す。

(他教科と関連する記述等の充実)

◇ 他教科の関連する内容を取り入れながら、実生活・実社会と関連付けられるような記述や話題・題材の工夫・充実が図られるよう、「他の教科・内容と不必要に重複しているところはないこと」という規定を見直す。

(図書の内容の厳選を求める規定の見直し)

◇ 図書の内容について「厳選されて」いることを求める規定については、教科書発行者の創意工夫により記述の充実が図られるよう、見直す。

(安全に関する取扱いの充実)

◇ 教科書における安全面の取扱いに関し、「図書の内容に心身の安全について必要な配慮を欠いているなどはないこと」という規定について、教科書において、今後とも実験・実習における事故の防止等安全面について十分な配慮が求められる※1 ことから、検定基準において必要な見直しを行う。

各教科固有の条件
(漢字の指導の取扱いの充実)

◇ 漢字の指導が充実するよう、小学校の国語科の教科書における漢字の扱いに関して「当該学年の配当漢字以外を使用できる場合について固有名詞などに限定する規定」を見直し、振り仮名を付すなど必要な配慮を行った上で※2 、当該学年に配当された漢字以外の漢字を使用できることを検定基準上明確化する。
  また、国語科以外の教科においても、国語科に準じた扱いができるよう、検定基準を見直す。

(国語科における漢字の繰り返し学習対応の改善)

◇ 児童生徒が漢字を確実に書き、使うことができるようになるため※3、中学校の教科書における漢字の扱いに関して、「中学校3学年間を通して『学年別漢字配当表』において小学校の第6学年に配当されている漢字を学習することができるよう必要な配慮を求める規定」を見直し、漢字の繰り返し学習がより充実されるよう、必要な配慮を行うことについて、検定基準上明確化する。

(文語文の歌詞の取扱いにおける改善)

◇ 小学校音楽科における文語文の歌詞について、現代仮名遣いを用いることとしている検定基準を見直し、教科書発行者の判断により文語文も記述できるよう、当該規定を削除する。

(国語科及び外国語科の教材の充実)

◇ 学習指導要領に示された教材選定に当たっての留意事項に基づき、国語科及び外国語科の題材の充実が図られるよう、検定基準上明確化する。

 
  •  新しい学習指導要領においては、国語科において、我が国において伝承されてきた言語文化に親しむ観点※ から、教材選定に当たっての留意事項が示された。その中では教材を取り上げる際に配慮する観点として、自然や美しいものに感動する心を育てるのに役立つこと、我が国の伝統や文化に対する理解と愛情を育てることなどが示された※4 。具体的な題材としては、日本の伝統や文化、自然や四季に関する題材、生命を尊重し、他人を思いやるなどの道徳的心情を豊かにする題材などを取り上げることへの配慮が望まれる。
  •  また、外国語科において、コミュニケーション能力の基礎となる4技能(「聞く」「話す」「読む」「書く」)が総合的に育成されることに資するため※5 、外国語学習に対する関心や意欲を高め、外国語で発信しうる内容の充実を図る観点から、教材選定に当たっての留意事項が示された※6 。その中では伝統文化や自然科学なども含め、教材を取り上げる際に配慮する観点として、外国や我が国の生活や文化についての理解を深めるとともに、言語や文化に対する関心を高め、これらを尊重する態度を育てるのに役立つことなどが示された。具体的な題材としては、実際に英語を使用している人々が見たり聞いたりしている新聞やスピーチ、いわゆる名演説などの様々なものの見方や考え方などに関する題材、昔から伝えられてきた伝統的な作品などを取り上げることへの配慮が望まれる。
(算数的活動・数学的活動への配慮)

◇ 算数科及び数学科においては、算数的活動・数学的活動が、基礎的・基本的な知識・技能を確実に身に付けるとともに、数学的な思考力・表現力を高めたり、算数・数学を学ぶことの楽しさや意義を実感したりするために、重要な役割を果たすものである※7 ことから、教科書において、算数的活動・数学的活動を取り上げることについて適切な配慮を行うよう、検定基準上明記する。

(理科における日常生活や社会との関連への配慮)

◇ 新しい学習指導要領においては、理科において、科学を学ぶことの意義や有用性の実感、科学への関心を高める観点※8 から、日常生活や社会との関連を重視した内容の充実が図られた※9 ことから、教科書において適切な配慮が行われるよう、検定基準に規定を追加する。

(理科における安全に関する基準の充実)

◇ 理科においては、実験等に関する指導の充実に伴い、これまで以上に安全に関する配慮が求められることから、安全面についてより一層適切な配慮が行われるよう、安全に関する規定を検定基準に追加する。


※1 小学校学習指導要領 〔第1章 総則  第1 教育課程編成の一般方針〕  3 学校における体育・健康に関する指導は、児童の発達の段階を考慮して、学校の教育活動全体を通じて適切に行うものとする。特に、学校における食育の推進並びに体力の向上に関する指導、安全に関する指導及び心身の健康の保持増進に関する指導については、体育科の時間はもとより、家庭科、特別活動などにおいてもそれぞれの特質に応じて適切に行うよう努めることとする。また、それらの指導を通して、家庭や地域社会との連携を図りながら、日常生活において適切な体育・健康に関する活動の実践を促し、生涯を通じて健康・安全で活力ある生活を送るための基礎が培われるよう配慮しなければならない。

※2 中央教育審議会答申(平成20年1月17日) 〔8.各教科・科目等の内容  (2) 小学校、中学校及び高等学校 1. 国語〕
(2.)改善の具体的事項

(小学校)
  •  日常生活に必要な基礎的な国語の能力を身に付けることができるよう、次のような改善を図る
    (ウ) 漢字の指導については、日常生活や他教科等の学習における使用や、読書活動の充実に資するため、上の学年に配当されている漢字や学年別漢字配当表以外の常用漢字についても、必要に応じて振り仮名を用いるなど、児童が読む機会を多くもつようにする。
     また、日常生活において確実に使えることを重視し、実際の文章や表記の中で繰り返し学習させるなど、児童の習得の実態に応じた指導を充実する。
(中学校)
  •  小学校までに培われた国語の能力を更に伸ばし、社会生活に必要な国語の能力の基礎を身に付けることができるよう、次のような改善を図る。
    (ウ)漢字の指導については、社会生活や他教科等の学習における使用や、読書活動の充実に資するため、常用漢字の大体を読めるようにするとともに、学年別漢字配当表に配当された漢字を使い慣れるようにする。
     また、社会生活において確実に使えることを重視し、生徒の習得の実態に応じた指導を充実する。

※3 中央教育審議会答申 〔7.教育内容に関する主な改善事項   (3) 伝統や文化に関する教育の充実〕   ○ このため、伝統や文化の理解についても、発達の段階を踏まえ、各教科等で積極的に指導がなされるよう充実することが必要である。
 まず、国語は、長い歴史の中で形成されてきた我が国の文化の基盤を成すものであり、また、文化そのものである。国語の一つ一つの言葉には、我々の先人の情感や感動が集積されており、伝統的な文化を理解・継承し、新しい文化を創造・発展させるためには、国語は欠くことのできないものである。
 このような観点から、具体的には8.で示すが、(1)で示したとおり国語科では、小学校の低・中学年から、古典などの暗唱により言葉の美しさやリズムを体感させた上で、我が国において長く親しまれている和歌・物語・俳諧、漢詩・漢文などの古典や物語、詩、伝記、民話などの近代以降の作品に触れ、理解を深めることが重要である。
〔8.各教科・科目等の内容   (2) 小学校、中学校及び高等学校  1. 国語〕
(2.)改善の具体的事項
(小学校)

  •  日常生活に必要な基礎的な国語の能力を身に付けることができるよう、次のような改善を図る。
    (ケ) 教材については、我が国において継承されてきた言語文化に親しむことができるよう、長く親しまれている和歌・物語・俳諧、漢詩・漢文などの古典や、物語、詩、伝記、民話などの近代以降の作品を取り上げるようにする。

(中学校)

  •  小学校までに培われた国語の能力を更に伸ばし、社会生活に必要な国語の能力の基礎を身に付けることができるよう、次のような改善を図る。
    (ク) 教材については、我が国において継承されてきた言語文化に親しむことができるよう、長く読まれている古典や近代以降の代表的な作品を取り上げるようにする。

※4 小学校学習指導要領 〔第2章 各教科  第1節 国語  第3 指導計画の作成と内容の取扱い〕
 3 教材については、次の事項に留意するものとする。
 (2) 教材は、次のような観点に配慮して取り上げること。

ア 国語に対する関心を高め、国語を尊重する態度を育てるのに役立つこと。
イ 伝え合う力、思考力や想像力及び言語感覚を養うのに役立つこと。
ウ 公正かつ適切に判断する能力や態度を育てるのに役立つこと。
エ 科学的、論理的な見方や考え方をする態度を育て、視野を広げるのに役立つこと。
オ 生活を明るくし、強く正しく生きる意志を育てるのに役立つこと。
カ 生命を尊重し、他人を思いやる心を育てるのに役立つこと。
キ 自然を愛し、美しいものに感動する心を育てるのに役立つこと。
ク 我が国の伝統と文化に対する理解と愛情を育てるのに役立つこと。
ケ 日本人としての自覚をもって国を愛し、国家、社会の発展を願う態度を育てるのに役立つこと。
コ 世界の風土や文化などを理解し、国際協調の精神を養うのに役立つこと。

 ※ 中学校学習指導要領においても、同趣旨の規定あり。

※5 中央教育審議会答申 〔8.各教科・科目等の内容   (2) 小学校、中学校及び高等学校  11. 外国語〕
(1.)改善の基本方針

  •  外国語科については、その課題を踏まえ、「聞くこと」や「読むこと」を通じて得た知識等について、自らの体験や考えなどと結び付けながら活用し、「話すこと」や「書くこと」を通じて発信することが可能となるよう、中学校・高等学校を通じて、4技能を総合的に育成する指導を充実するよう改善を図る。
  •  指導に用いられる教材の題材や内容については、外国語学習に対する関心や意欲を高め、外国語で発信しうる内容の充実を図る等の観点を踏まえ、4技能を総合的に育成するための活動に資するものとなるよう改善を図る。

※6 中学校学習指導要領(平成20年3月28日文部科学省告示第28号)〔第2章 各教科 第9節 外国語 第2 各言語の目標及び内容等〕
  英語
  3 指導計画の作成と内容の取扱い
   (2) 教材は、聞くこと、話すこと、読むこと、書くことなどのコミュニケーション能力を総合的に育成するため、実際の言語の使用場面や言語の働きに十分配慮したものを取り上げるものとする。その際、英語を使用している人々を中心とする世界の人々及び日本人の日常生活、風俗習慣、物語、地理、歴史、伝統文化や自然科学などに関するものの中から、生徒の発達の段階及び興味・関心に即して適切な題材を変化をもたせて取り上げるものとし、次の観点に配慮する必要がある。
    ア 多様なものの見方や考え方を理解し、公正な判断力を養い豊かな心情を育てるのに役立つこと。
    イ 外国や我が国の生活や文化についての理解を深めるとともに、言語や文化に対する関心を高め、これらを尊重する態度を育てるのに役立つこと。
    ウ 広い視野から国際理解を深め、国際社会に生きる日本人としての自覚を高めるとともに、国際協調の精神を養うのに役立つこと。

※7 中央教育審議会答申 〔8.各教科・科目等の内容   (2) 小学校、中学校及び高等学校  3. 算数、数学〕
 (1.)改善の基本方針
   ○ 算数的活動・数学的活動は、基礎的・基本的な知識・技能を確実に身に付けるとともに、数学的な思考力・表現力を高めたり、算数・数学を学ぶことの楽しさや意義を実感したりするために、重要な役割を果たすものである。算数的活動・数学的活動を生かした指導を一層充実し、また、言語活動や体験活動を重視した指導が行われるようにするために、小・中学校では各学年の内容において、算数的活動・数学的活動を具体的に示すようにするとともに、高等学校では、必履修科目や多くの生徒の選択が見込まれる科目に「課題学習」を位置付ける。

※8 中央教育審議会答申 〔8.各教科・科目等の内容  (2) 小学校、中学校及び高等学校  4. 理科〕
  (1.)改善の基本方針
    ○ 理科を学ぶことの意義や有用性を実感する機会をもたせ、科学への関心を高める観点から、実社会・実生活との関連を重視する内容を充実する方向で改善を図る。

※9 小学校学習指導要領 〔第2章 各教科 第4節 理科 第3 指導計画の作成と内容の取扱い〕
  2 第2の内容の取扱いについては、次の事項に配慮するものとする。
    (3) 個々の児童が主体的に問題解決活動を進めるとともに、学習の成果と日常生活との関連を図り、自然の事物・現象について実感を伴って理解できるようにすること。
    中学校学習指導要領 〔第2章 第4節 理科 3 指導計画の作成と内容の取扱い〕
  2 各分野の内容の指導については、次の事項に配慮するものとする。
    (3) 科学技術が日常生活や社会を豊かにしていることや安全性の向上に役立っていることに触れること。また、理科で学習することが様々な職業などと関係していることにも触れること。


(3)多面的・多角的な考察に資する公正・中立でバランスのとれた教科書記述 -基本的な方向性3-
  •  教育基本法において示された教育の目標等や学校教育法に示された義務教育の目標、 目的を達成するため、教師が自信と確信を持って児童生徒の思考力・判断力・表現力等 を育成することに資する、公正・中立でバランスのとれた教科書記述がより一層求めら れる
  •  一面的・断定的でない多面的・多角的な考察に資するよう、公正・中立でバランスの とれた話題・題材の選定や記述がなされることも重要
  •  教科書における記述内容や話題・題材等の扱いについては、児童生徒の多面的・多角的な考察に資するよう、公正・中立でバランスのとれたものとなっていることが必要である。
  •  教育基本法の改正により、公共の精神、生命や自然を尊重する態度、伝統や文化を尊重し、我が国と郷土を愛するとともに、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うことなどの教育の目標が示され、また、学校教育法の改正において、公共の精神に基づき主体的に社会の形成に参画する態度を養うこと、伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する態度を養うことなどの義務教育の目標が示された。
  •  教科書においては、教育基本法や学校教育法で示された目的や目標を達成するため、児童生徒の思考力・判断力・表現力等を育成することに資する、公正・中立でバランスのとれた記述がより一層求められる。
  •  学習指導要領では、総則において、道徳教育の目標等の教育課程編成の一般方針が示されるとともに、各教科の目標が示されている。例えば、小学校社会科の目標として、「我が国の国土と歴史に対する理解と愛情を育て、国際社会に生きる平和で民主的な国家・社会の形成者として必要な公民的資質の基礎を養う」ことが、また、中学校社会科の目標として、「多面的・多角的に考察し、我が国の国土と歴史に対する理解と愛情を深め、公民としての基礎的教養を培い、国際社会に生きる平和で民主的な国家・社会の形成者として必要な公民的資質の基礎を養う」ことが示されている。これらの方針や目標を踏まえながら、児童生徒が特定の事項、事象、分野に偏ることなく、バランスよく客観的な見方や考え方を身に付けることができるよう、教科書記述においても一層公正・中立でバランスのとれた記述となるようにしていくことが求められる。
  •  教科書検定においては、教育基本法や学校教育法で示された目標等や学習指導要領総則の方針や各教科の目標等を念頭に、より公正性・中立性を確保する観点から、適切に対応することが必要である。
  •  これらのことを踏まえ、以下の視点に基づき検定基準の見直しを行うとともに、運用の改善を図る。
検定基準改善の視点3
 教科書の記述内容、話題・題材等の扱いについて、教育基本法等に示された目的・目標等を達成するため、児童生徒が特定の事項、事象、分野に偏ることなく、バランスよく客観的な見方や考え方を身に付けることができるよう、公正性・中立性をより一層確保するための基準の見直し。

【見直しの内容】

各教科共通の条件
(選択・扱いの公正を求める規定のより適切な適用)

◇ 教科書の内容が公正・中立であり、バランスがとれたものとなっているかを審査する規定として、「話題・題材の選択・扱いの調和に関する規定」、「事柄や見解の取扱いに配慮等を求めた規定」が設けられている。これらの規定について、教育基本法において示された教育の目的・目標等や学校教育法に示された義務教育の目標を達成するため、教科書記述がより一層公正・中立でバランスのとれたものとなるよう、著者の一面的な見解を断定的に記述していたり、定説とされる学説が確定していない場合に複数ある学説の中の一つの説のみを断定的に記述していたりするなどの場合に、当該規定を適用していくことが必要である。

(政治・宗教の扱いの公正)
◇ 政治・宗教に関する扱いに関する現行の検定基準において、教育基本法第14条(政治教育)及び第15条(宗教教育)※1に照らし、適切かつ公正な扱いがなされるよう検定基準上明確化する。

(特定の個人・団体・企業などの扱いの公正)
◇ 「特定の個人・団体などの権利・利益を侵害するおそれのあるところはないことを求める規定」について、「特定の企業・商品などの宣伝・非難に関する規定」との整合性に留意し、特定の個人・団体の活動に関する記述が、政治的・宗教的な観点から公正な扱いとなるよう、規定を整備する。

(引用資料の扱いの公正)
◇ 「引用する資料等は信頼性のあるものが選択されることを求める規定」について、より一層公正な扱いで適切な資料等が選択されるよう、検定基準を見直す。

各教科固有の条件
(社会科における未確定な時事的事象の扱いや引用資料の扱いの公正)
◇ 社会科の「未確定な時事的事象について断定的に記述しているところはないことを求める規定」について、一面的な見解を十分な配慮なく取り上げないことについても明確化する。

◇ 社会科の「著作物、史料などを引用する場合には、評価の定まったものや信頼度の高いものを用いることを求める規定」については、より一層公正な扱いで適切なものが選択されるよう、検定基準を見直す。


※1 教育基本法
   (政治教育)
  第14条 良識ある公民として必要な政治的教養は、教育上尊重されなければならない。
  2 法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない。
   (宗教教育)
  第15条 宗教に関する寛容の態度、宗教に関する一般的な教養及び宗教の社会生活における地位は、教育上尊重されなければならない。
  2 国及び地方公共団体が設置する学校は、特定の宗教のための宗教教育その他宗教的活動をしてはならない。


(4)教科書記述の正確性の確保-基本的な方向性4-
  •  教科書の著作、編集、検定の過程において、教科の主たる教材としての正確性が一層確保される仕組みや、申請段階において客観的に明白な誤記・誤植等をなくすための仕組みを整備することが必要である。
  •  発行後においても、客観的に明白な誤記・誤植等が速やかに修正され周知されるような取組を推進することが求められる。
  •  教科書記述における正確性の確保については、現行の検定基準における、「図書の内容に、誤りや不正確なところ、相互に矛盾しているところはないこと」という規定に基づき、記述に客観的に明白な誤記・誤植等がある場合や、それ以外の不正確な内容がある場合などについて、検定の審査が行われているが、客観的に明白な誤記・誤植等に関する審査に多くの時間が割かれている面がある。
  •  今後、検定における実質的な審査を確保するとともに、教科書の内容が、客観的に明白な誤記・誤植等のない正確な記述となるよう、以下のような視点に基づき検定基準の見直しを行う。また、申請図書の段階における完成度をより向上させる観点から、検定手続きの面においても方策を講じる。
検定基準改善の視点4
 誤記・誤植等がない正確な記述と実質的な記述内容の審査を確保するための基準の見直し。

【見直しの内容】

(客観的に明白な誤記・誤植等に関する基準の区分及び当該誤記・誤植等の数の公表)
◇ 現行の検定基準における正確性に関する規定について、客観的に明白な誤記・誤植等を区分して規定するよう見直すとともに、当該誤記・誤植等については、審議会での審議において、他の不正確な内容等にかかる審議と分けて審議を行い、専門的な審議が十分に確保できるよう検定手続きを見直す。また、客観的に明白な誤記・誤植等と判断された箇所数を検定手続き終了後、公表する。

(責任ある発行体制の確保)
☆ 著作・編集段階における校正体制の強化を図る観点から、校正体制・校正回数等を明示した書類を検定申請時の添付書類に追加する。

☆ 責任ある教科書の著作・編集を求めるため、著作者・監修者の具体的な担当箇所・役割等を教科書においても明記することを発行者に促すこととする。

◎ なお、(1)から(4)で見直しを提言した事項のほか、用語や記号、計量単位の表記の方法など、技術的に文言を調整する必要がある規定について、適切な見直しを行うこととする。

2 教科書発行者における著作・編集の在り方の改善等

児童生徒が意欲的に学習に取り組むための、教科書編集上の配慮・工夫の促進
                          -基本的な方向性5-

  •  学習指導要領の改訂による授業時数増にも対応し、新学習指導要領に示す内容を不足なく、丁寧にかつ分かりやすく記述した上で、個々の児童生徒の理解の程度に応じて発展的な学習やつまずきやすい内容の繰り返し学習、補充的な学習を指導しやすいような教科書構成上の配慮・工夫。また、小学校と中学校の学習内容の円滑な接続への配慮・ 工夫
  •  記述すべてを教えるのではなく、発展的な学習など個々の児童生徒の理解の程度に応じて学習する内容について、編集上の区分の徹底
  •  児童生徒が興味関心を持って読み進められるよう、話題や題材の創意工夫
  •  児童生徒が家庭でも主体的に自学自習できるよう、丁寧な記述、練習問題、文章量の充実。また、児童生徒が学びやすいよう、学習内容を踏まえた教科書の体様への適切な配慮
  •  本文記述との適切な関連付けがなされたイラスト・写真などの活用。一方でこれらの多用によって児童生徒の想像力が阻害されないような配慮
  •  障害の有無にかかわらず、すべての児童生徒にとって学習しやすいレイアウト等の適切な配慮の研究
  •  我が国の教科書制度は、民間の教科書発行者の創意工夫を生かした著作・編集を基本としており、今後より良い教科書が作成されるためには、教科書発行者自身による創意工夫や適切な取組が大きな役割を持つこととなる。
  •  教科書発行者においては、「教科書改善に当たっての基本的な方向性」の1から4を踏まえ、教科書の質・量両面での充実を図っていくことが必要である。
  •  また特に、教科書編集上の配慮・工夫に関する観点を示した「教科書改善に当たっての基本的な方向性」の5を踏まえ、著作・編集に当たり、以下のような具体的な取組を進めることが求められる。
  •  文部科学省においては、教科書の著作・編集上に必要な配慮・工夫事項について、教科書発行者に対し周知徹底を図るとともに、改善モデル事業や調査研究を行うことが必要である。
  •  教育委員会等における教科書の採択においては、教育基本法等の改正や新しい学習指導要領の趣旨を踏まえた「教科書改善に当たっての基本的な方向性」を参考にし、十分かつ綿密な調査研究を行い、適切な教科書を採択することが求められる。

【求められる取組】

(教育基本法で示された目標等や学習指導要領の趣旨等を適切に反映した教科書の著作・編集)

◇ 教科書発行者は、今後の教科書の著作・編集に当たり、教育基本法や学校教育法の改正で明確に示された教育の理念や目標、新しい学習指導要領に示された各教科の目標、内容等を正確に理解することが求められる。また、学習指導要領の記述の意味や解釈などの詳細を説明した「解説」についても十分に理解し、これを活用して、教科書記述に反映していくことが求められる。
 文部科学省においては、教育基本法等の改正や新しい学習指導要領の趣旨などが、教科書発行者に正しく理解されるよう、教科書発行者への説明会等を適宜実施するなど、関係者への周知を図る必要がある。

(授業時数の増加の趣旨を踏まえた教科書上の配慮・工夫)
◇ 学習指導要領の改訂により、授業時数が増えた教科があるが、授業時数の増加の趣旨は、基礎的・基本的な知識・技能の確実な習得や、小学校と中学校の学習内容の円滑な接続を図るという点にあるということを十分に踏まえ、つまずきやすい内容の繰り返し学習、補充的な学習を指導しやすい配慮・工夫を行うなど、児童生徒が、より一層意欲的に学習に取り組むことができるよう、著作・編集に当たることが求められる。

(公正・中立でバランスのとれた話題・題材の選定や記述)
◇ 教科書発行者は、教科書が本来的に児童生徒のための図書であって、著者の学術研究の発表の手段ではないことを十分認識するとともに、 教科書の著作・編集に当たっては、内容が一面的・断定的な見解に偏っていないか、広く受容されているかなどについて、十分な吟味・検証を加えなければならない。
  特に、多様な説がある内容について記述する場合は、様々な視点からの記述を行うことなどにより、一層公正性・中立性に留意し、児童生徒の多面的・多角的な思考に資するものとする必要がある。

(正確な教科書記述を実現するための取組)
◇ 客観的に明白な誤記・誤植等のない正確な教科書記述は、教科書の作成に当たって最も意を用いなければならない事項の一つであり、教科書発行者は、この点については、例えば徹底した校正を行うことができる体制を整えて対応するなど、これまで以上に自覚を持って教科書の著作・編集に当たる必要がある。
  また、教科書発行者を対象とした教科書編集に関する研修会については、更なる充実が期待される。

◇ 現在、教科書の内容に誤りが発見された場合には、誤りを速やかに修正した上で、当該教科書を使用している学校等に周知することとな っている※1が、今後も教科書発行者においては、確実な周知が行われるよう取り組むとともに、文部科学省においてもこれらに対応する取組を進めることが求められる。

(適切な体裁の工夫やイラスト・写真等の使用)
◇ 教科書の大判化、カラー頁やグラビア頁の使用など体裁を工夫することや、挿絵・イラスト・マンガ・写真等の資料を使用することにつ いては、児童生徒の学習意欲を刺激したり、教科書の記述内容を理解する上で有効である面がある一方、児童生徒の理解に本当に役立っているのか、かえって児童生徒の想像の範囲を限定することになり弊害があるのではないかなどの指摘もなされている。
  こうしたことから、教科書発行者は、体裁上の工夫をより適切なも のとするとともに、挿絵・イラスト・マンガ・写真等の使用に際して は、児童生徒が学習する上で効果的であるかなどについて十分考慮す ることが求められる。

(中学校理科の分冊形態)
◇ 現在の中学校理科の教科書の分冊形態については、学習する内容が 第1分野及び第2分野に分けられていることに対応した分冊の形態と なっているが、新しい学習指導要領においては、学年ごとの学習内容が示されたことから、教科書の分冊形態を学年ごとの分冊となるようにする必要がある。

(すべての児童生徒にとって学習しやすいレイアウト等の適切な配慮の研究)
◇ 本年6月、教育の機会均等の趣旨にのっとり、障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等※2の普及の促進等を図り、もって障害 その他の特性の有無にかかわらず児童及び生徒が十分な教育を受けることができる学校教育の推進に資することを目的として、「障害のある 児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律」が成立し、9月に施行された。
  教科書発行者は、この法律の趣旨を踏まえ、今後の教科書の作成に当たっては、障害その他の特性の有無にかかわらずできる限り多くの児童生徒が支障なく学習することができるよう、紙面のレイアウトや配色、図や写真の使用方法、ルビの取扱いや紙質など、教科書の体裁や体様等について適切な配慮を行うことが必要である。

(文部科学省における取組)
◇ 文部科学省においても、児童生徒が意欲的に学習に取り組むようにするために、全体的な構成、レイアウト等の教科書編集上に必要な配慮・工夫事項について、教科書発行者に対する通知や説明会等により周知徹底を図るとともに、教科書発行者の配慮・工夫を促すため、必要な改善モデル事業や調査研究を行い、その成果を教科書発行者に周知することなどが必要である。

(公正かつ適切な教科書採択)
◇ 教育委員会等が行う教科書の採択は、実際に児童生徒の手に渡り、授業等で使用される教科書を決定するという面で重要である。
  そのため、新しい教科書の採択に当たっては、各採択権者の権限と責任の下、それぞれの地域の児童生徒にとって最も適した教科書を採択するという観点から、教科書の装丁や見映えではなく、内容を考慮した、十分かつ綿密な調査研究を公正かつ適正に行った上で、児童生徒にとってより適切な教科書を採択していくことが求められる。
  その際、教育基本法等の改正や新しい学習指導要領の趣旨を踏まえた「教科書改善に当たっての基本的な方向性」を参考にし、十分な調査研究が行われ、適切な採択がなされることが必要である。
  文部科学省としても、教育委員会等において、十分かつ綿密な調査研究の下、公正かつ適正な教科書採択がなされるよう、採択の一層の改善方策について、更に検討を進めていくことが必要である。


※1 教科用図書検定規則(平成元年4月4日文部省令第20号) 〔第3章 検定済図書の訂正〕
 (検定済図書の訂正の手続)
 第14条
3 前条第1項若しくは第2項の承認を受けた者又は同条第3項の訂正を行った者は、その図書の供給が既に完了しているときは、速やかに当該訂正の内容を、その図書を現に使用している学校の校長に通知しなければならない。
 教科用図書検定規則実施細則 〔第3 検定済図書の訂正(規則第14条関係)〕
 (4)訂正内容の通知
 訂正の承認を受けた発行者又は届出により訂正を行った発行者は、図書の供給が既に完了しているときは、速やかに訂正の内容を、その図書を現に使用している学校の校長並びに当該学校を所管する教育委員会及び当該学校の存する都道府県の教育委員会に通知するとともに、訂正内容のうち誤記、誤植、脱字又は誤った事実の記載に係るものについては、この通知に加え、インターネットの利用その他適切な方法による訂正内容の周知に努めなければならない。

※2 障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律(平成20年6月18日法律第81号)
(定義)
  第2条 この法律において「教科用特定図書等」とは、視覚障害のある児童及び生徒の学習の用に供するため文字、図形等を拡大して検定教科用図書等を複製した図書(以下「教科用拡大図書」という。)、点字により検定教科用図書等を複製した図書その他障害のある児童及び生徒の学習の用に供するため作成した教材であって検定教科用図書等に代えて使用し得るものをいう。


3 教科書検定手続きの改善

教科書検定の信頼性を一層高めるための検定手続きの改善-基本的な方向性6-

  •  申請図書に対し、審議会や教科書調査官がどのように関与し、結果としてどのような過程によって検定意見が付され、合否判定がなされたかなど審議結果に至る一連のプロセスを一層透明化する
  •  検定手続きの透明性の向上に当たっては、静ひつな環境における専門的かつ自由闊達な審議の確保との十分な両立を図る
  •  審議に当たって特に慎重な判断を要する事項を審議会が選定し、より専門性の高い重点的な審議を行う
  •  教科書検定においては、申請者から検定申請された申請図書について、教科用図書検定調査審議会において、教科書として適切か否かの審査が行われ、その結果に基づき文部科学大臣が合否の決定を行っている。
      また、同審議会において、必要な修正を行った後に再度審査を行うことが適当であると判断した申請図書については、文部科学大臣は合否の判定を留保した上で、修正等を求める検定意見を文書により申請者に対して通知する。
      なお、申請者は、不合格の決定に際しては反論書を、検定意見に対しては意見申立書を提出することができる。
  •  検定に係る審議会の審議は、検定申請された図書を対象として行政処分の前提となる審査を行うものであり、静ひつな環境の下で、公正・中立で専門的・学術的な審議が確保されることが重要であるが、同時に透明性の向上などの面については更なる改善が求められている。
  •  これらを踏まえ、以下のような事項について具体的な見直しを行い、教科書検定に対する国民の信頼を一層確保するために、教科書検定手続きの改善を図ることが必要である。

(参考)教科書検定の流れ

1. 教科書検定手続きの透明性の一層の向上
  •  教科書検定に対する国民の信頼性を一層高めるためには、検定手続きの透明性を一層向上させることが必要である。
     このため、教科書検定において、審議会や教科書調査官がどのような形で関与し、審議会において、どのような過程によって検定意見を付すこととされたのかなどの一連のプロセスを透明化することが必要である。他方、検定に係る審議会の審議は行政処分の前提となる審査であり、静ひつな環境の下で、より公正・中立で専門的・学術的な審議が確保されることとのバランスをとることに十分配慮し、以下のような取組を行う必要がある。

【見直しの内容】

透明性の一層の向上
(検定における審査過程の一層の公開)

◇ 検定審査の過程における様々な資料のうち、申請者からの申請図書、申請者に対して示された検定意見書、検定意見を受けた申請者からの修正表、最終的な検定決定後の見本等については、文部科学省が検定審査終了後に実施する検定結果の公開事業※1 において既に公開されている。 今後、現在は公開対象とされていない、教科書調査官が作成する検定意見書の原案である調査意見書や、審議会に付議する判定案等の資料について、検定結果の公開事業において新たに公開することとし、規則※2 上も明確化する。

(部会、小委員会における議事の概要の作成・公表)
◇ 検定は、各教科ごとに実施されることから、審議会には各教科ごとの部会が置かれ、さらに部会によっては各科目ごとの小委員会が置かれる構成となっている。検定における実質的な審議は、これらの部会や小委員会において行われている。
 今後、それぞれの部会、小委員会について、開催日、出席委員、付議事項、決定事項、議事の概略を記載した議事概要を作成し、申請されたすべての図書に係る検定審査が終了した後に公表※3 することとする。
 なお、本審議会は行政処分の前提となる審査を行うものであり、外部からの圧力がなく静ひつな環境の下、委員が自らの識見に基づき、専門的・学術的に審議するとともに、委員が自由闊達に議論することを通して合意形成を図っていくことが重要である。
 このため、審議における個々の意見のやりとりを発言者の氏名も含めて作成し、公表することや会議自体を公開することについては、このような審議に支障が生ずるおそれがあることから、行わないことが適当である。

(委員分属の公表※4
◇ 審議会の各委員が、どの部会や小委員会に属しているのかを示す委員分属を公表することについては、今回の議論の中で、公表した場合、外部からの圧力が生じ、静ひつな環境において、委員が自由闊達な議論を行い合意形成を図るという審議を確保する上で支障が生じるのではないか、という意見もあったが、検定に対する信頼性をより一層高める観点も考慮し、検定審査が終了した後に公表することとする。

静ひつな環境の確保
(審査過程における申請図書等の適切な情報管理)
◇ 現在、本審議会における検定に関する調査審議に支障があると認めるときは、調査審議の一時停止等の措置を講じることができることとなっている※5 が、どのような場合に調査審議に支障があると認めるかについては、方針が明確になっていない。
 このため、申請図書等の情報が検定審査終了前に流出し、調査審議に支障があると認めた場合には、審議会運営規則に従い、部会や小委員会の判断に基づき、審議会として一時停止等の措置をとることについて運用上明確化を図る。

◇ 現在、申請者は、検定審査が終了するまで、申請図書等の内容について、当該申請者以外の者の知るところとならないよう適切に管理することとされている※6 が、検定審査が終了した図書に関する訂正申請※7 の内容については、申請者の情報管理について、現行の関係規定上、必ずしも明らかでない。
 このため、申請者は、申請図書等の内容だけでなく、検定済図書の訂正申請の内容についても適切な情報管理を行うことを規定上明確化する。

2.専門的見地からのきめ細やかな審議の確保
  •  教科書検定においては、各分野の専門的な知見を有する教科用図書検定調査審議会の委員によって、専門的・学術的な審議が行われているが、検定に関係して、特に慎重な判断が必要な事項などについては、これまでも外部の専門家を活用するなど、より専門的できめ細やかな審議を行うなどの対応※8がなされてきた。
     検定においては今後とも、審議会の委員による審議を行うことが基本であるが、特に慎重な判断が必要な事項については、これまでの対応なども参考に、外部の専門家などを活用し、より専門的できめ細やかな審議を行う。
     また、検定におけるきめ細やかな対応という面では、検定意見の伝達に当たっても、検定意見の趣旨が申請者に正確に理解されることが求められる。
     このため、以下の取組が必要である。

【見直しの内容】

(より専門的できめ細やかな審査を行う場合の審議の方法)
◇ 例えば、「高度な専門性を要する新たな記述の審査」、「学説が複数ある記述に意見を付す審査」などについては、検定の審議において、特に慎重な判断を要することが予想されるが、このような事項を審議する場合においては、教科・科目ごとの審議を行う部会、小委員会において、検定審査の初期の段階において、より専門的な審議を行うかどうかを判断する。
 また、これらの事項については、必要に応じて、部会や小委員会の判断に基づき、関連する分野の専門委員を任命することや、外部の専門家からの意見聴取等を行うなど、より専門的できめ細やかな審議を行うよう審査の運用改善を図る。

(検定意見の伝達方法等)
◇ 検定意見については、現在、申請者に対して文書(検定意見書)により通知※9している。また、検定意見を通知する時に申請者の希望に応じて口頭による補足説明を行っている。
 これについては、申請者に検定意見の趣旨等が正確に伝わらず、適切な修正がなされないことがあるとの指摘がある。
 このため、検定意見の趣旨や理由、背景にある考え方等が、申請者に対しできる限り正確に伝えられるよう、特に慎重な判断を要する事項などは、必要に応じ検定意見書をさらに分かりやすく記述することや、検定意見の通知から時間的余裕をもって補足説明の場を設けるなど、より丁寧に検定意見が伝達されるよう運用改善を図る。


※1 検定結果の公開事業
 教科書に対する関心に応え、教科書への信頼を確保するとともに、教科書検定へのより一層の理解に資するため、検定結果に関連する各種資料を公開展示の形で一般の閲覧に供する事業。
 教科用図書検定規則等に基づき、平成3年度(平成2年度の検定に係る図書)から、毎年4月下旬から7月下旬頃にかけて実施されており、現在では全国8カ所において、申請図書、検定意見書、修正表、見本等が公開されている。

※2 教科用図書検定規則 〔第4章 雑則〕
   (申請図書の公開)
  第17条 文部科学大臣は、検定審査終了後、別に定めることろにより、申請図書を公開することができる。
  教科用図書検定規則実施細則 〔第5 申請図書の公開(規則第17条関係)〕
   1. 申請図書は、検定審査終了後初等中等教育局教科書課長の指定する場所と日時において閲覧することができる。

※3 教科用図書検定調査審議会の議事内容の公開について(平成13年1月15日教科用図書検定調査審議会決定)

  1.  会議は非公開とする。
     <理由>
     本審議会は、主として、検定申請された図書を対象として行政処分の前提となる審査を行うものであるが、会議を公開した場合、委員の自由闊達な論議を通じて合意形成を図っていく上で支障が生じるおそれがある。
  2.  議事録については、原則として公開する。ただし、行政処分の前提となる審査については、議事録、議事要旨ともに公開しない。
    議事録は、匿名とし、会議終了後、事務局案を作成し出席委員・臨時委員に確認した上で公開する。
     <理由>
     検定申請された図書を対象として行政処分の前提となる審査を行う会議の議事録又は議事要旨を公開した場合、委員の自由な意見交換が制約され、円滑な運営が妨げられるおそれがあり、検定を公正、円滑に実施する上で支障が生ずる。
  3.  上記方針は、平成13年1月15日以降の会議から適用する。

議事録等の公開の状況
 教科用図書検定調査審議会の総会については、「教科用図書検定調査審議会の議事内容の公開について(平成13年1月15日同審議会決定)」により、発言者を匿名とした議事の概要を記載した文書を作成し、文部科学省のホームページにおいて公開している。
 また、部会、小委員会については、期日、会場、出席委員、検定申請に係る各図書の合否の判定等の内容が記載された文書を作成しているが、議事の内容が記載された文書は作成していない。

※4 委員の公表の現状
 教科用図書検定調査審議会の各委員の氏名及び職名については、委員発令時に、文部科学省のホームページにおいて公表している。
 また、各委員の分属については、検定結果の報告が行われる総会の参考資料として、部会の委員分属を公表しているが、小委員会については公表していない。

※5 教科用図書検定調査審議会運営規則(昭和31年11月30日教科用図書検定調査審議会決定)
 (議事)
 第3条
 3 会長は、調査審議に支障があると認めるときは、調査審議の一時停止その他必要な措置を講ずることができる。

※6 教科用図書検定規則実施細則 〔第5 申請図書の公開(規則第17条関係)〕
 2. 申請者は、申請図書の検定審査が終了するまでは、当該申請図書並びに当該申請図書の審査に関し文部科学大臣に提出した文書及び文部科学大臣から通知された文書について、その内容が当該申請者以外の者の知るところとならないよう適切に管理しなければならない。

※7 検定済図書の訂正申請
 検定審査が終了した合格図書について、その後に誤記、誤植、脱字若しくは誤った事実の記載又は客観的事情の変更に伴い明白に誤りとなった事実の記載、学習を進める上に支障となる記載、更新を行うことが適切な事実の記載等が発見された場合に、文部科学大臣の承認を受けて教科書発行者が必要な訂正を行う制度(教科用図書検定規則第13条)。

※8 これまでの対応の例

  •  平成18年度検定高等学校日本史教科書の沖縄における集団自決に関する訂正申請を受け、日本史小委員会において、専門的見地から慎重かつ丁寧に調査審議を行った。その際、外部の専門家(9人:沖縄戦、沖縄史、軍事史等の専門家)から文書により意見を聴取した。
  •  平成12年度検定中学校歴史教科書に関して、中国、韓国からの修正要求に対し、専門家(18人:教科用図書検定調査審議会第2部会歴史小委員会のうち修正事項に関する委員、及び外部の歴史学者)の意見を聴取した。

※9 教科用図書検定規則実施細則 〔第2 申請図書の審査手続〕
 1 検定意見の通知(規則第7条関係)
   検定意見の通知は、別紙様式2の「検定意見書」を交付することにより行う。


3.文部科学大臣と審議会の関係及び審議会委員や教科書調査官の役割・選任の改善等
  •  検定制度に対する国民の信頼性を向上させるため、教科書検定の一連の過程において、どのような者が、どのような権限を有し、どのような役割を担っているのかについて、明確にしていくことが求められている。
     このため、具体的には、文部科学大臣と審議会の関係や審議会委員の役割と選任、教科書調査官の役割と選任について、以下のような取組が必要である。

【見直しの内容】

(文部科学大臣と審議会の関係及び教科書調査官の役割)
◇ 文部科学大臣と審議会との関係については、審議会における教育的・学術的に公正・中立な審議の結果に基づいて、文部科学大臣が決定を行うという教科書検定制度の基本を検定に携わる者が十分認識し、引き続き、以下のとおり対応することが必要である。

  •  ※1 申請図書について、文部科学大臣が審議会に諮問し、審議会における調査審議を経て、審議会からの報告に基づき検定意見 を付す。
  •  検定意見に従った修正案について、審議会の答申に基づき検 定の決定をする。

◇ 教科書調査官は、その職務について文部科学省組織規則第22条第3項において「検定申請のあった教科用図書の調査にあたる」と規定※2 されており、検定審査において、申請図書の調査を行い、検定意見書の原案である調査意見書を作成するなどの役割を担っている。
 現在、検定における教科書調査官の職務は、教科用図書検定審査要項(教科用図書検定調査審議会決定)に示されている※3ところであるが、審議会に資料を提出するため、必要な専門的調査を行うなど、審議会の調査審議における教科書調査官の具体的役割・職務について、規則上明確にすることが求められる。

(審議会委員の役割・選任)
◇ 現在、教科用図書検定調査審議会委員の選任については、各年度において検定が実施される学校種なども勘案しつつ、各分野ごとのバランスにも配慮しながら、学識経験に優れた候補者の中から選任し、文部科学大臣が任命している。
 教科用図書検定調査審議会の委員については、児童生徒が使用する教科書を審査することから、専門的な知見だけでなく、教育関係法規等への理解、児童生徒の発達段階や教育現場の状況などについても十分に精通していることが求められる。
 このような点も踏まえ、本審議会の委員の選任に当たっては引き続き、学識経験に優れた委員を幅広く選任することが必要である。またあわせて、指導や教科書の使用実態に詳しい学校現場の経験豊かな人材の活用についても引き続き配慮することとする。

(教科書調査官の選任及び職歴等の公表等)
◇ 現在、教科書調査官の選任は、国家公務員法及び人事院規則に基づき、競争試験ではなく選考基準に基づく選考により採用を行うことができるとされている※4 。
 これを踏まえ、教科書調査官の選考については「教科書調査官選考基準※5」に基づき採用を行っている。 教科書調査官の選任に当たっては、その職務内容にかんがみ、今後とも、高度に専門的な学識を有することや、視野が広く初等中等教育に関し理解と見識を有すること、関係法令に精通していることなどの観点から、能力・適性を総合的に判断し、幅広い観点から職務に見合った適切な人材を確保することが必要である。
 なお、教科書調査官の選考については、公募により選考を行う必要があるのではないかという指摘があるが、これについては、公募により幅広く適材を確保できる面がある一方で、教科書調査官は、高度に学術的な知識・能力や公正・中立に判断する資質を有することなどの観点から、総合的に人物を見極めることが必要であり、公募を行った場合、そのような人材を確実に確保できるかどうかという点からも慎重な対応が必要である。

◇ 現行の「教科書調査官選考基準」は、昭和44年に定められたものであり、例えば年齢要件については、「原則として35歳以上55歳未満」とされているなど、今日的な状況にそぐわない面があるため、それらを含め、より幅広く適材を確保する観点から、必要な見直しを行うこととする。

◇ 行政の適正・公正な遂行に対する国民の信頼を得るためには、検定の業務に携わった者が、どのような者であるかを国民に対して明らかにすることが重要であることから、教科書調査官の氏名や職歴などの情報について公表することとする。


※1 学校教育法
  第34条 小学校においては、文部科学大臣の検定を経た教科用図書又は文部科学省が著作の名義を有する教科用図書を使用しなければならない。
  2 前項の教科用図書以外の図書その他の教材で、有益適切なものは、これを使用することができる。
  3 第1項の検定の申請に係る教科用図書に関し調査審議させるための審議会等(国家行政組織法(昭和23年法律第120号)第8条に規定する機関をいう。以下同じ。)については、政令で定める。
学校教育法施行令
 (法第34条第3項の審議会等)
第41条 法第34条第3項(法第49条、第62条、第70条第1項及び第82条において準用する場合を含む。)に規定する審議会等は、教科用図書検定調査審議会とする。
文部科学省組織令
 (教科用図書検定調査審議会)
第87条 教科用図書検定調査審議会は、学校教育法の規定に基づきその権限に属させられた事項を処理する。
2 前項に定めるもののほか、教科用図書検定調査審議会に関し必要な事項については、教科用図書検定調査審議会令(昭和25年政令第140号)の定めるところによる。
教科用図書検定規則   〔第2章 検定手続〕
 (申請図書の審査) 第7条 文部科学大臣は、申請図書について、検定の決定又は検定審査不合格の決定を行い、その旨を申請者に通知するものとする。ただし、必要な修正を行った後に再度審査を行うことが適当である場合には、決定を留保して検定意見を申請者に通知するものとする。

※2 文部科学省組織規則
   (企画官、教科書調査官及び視学官)
 第22条 初等中等教育局に、企画官2人、教科書調査官57人及び視学官13人を置く。
 3 教科書調査官は、命を受けて、検定申請のあった教科用図書の調査に当たる。
 4 教科書調査官のうち文部科学大臣が指名する者14人を、担当する教科を定めて主任教科書調査官とし、主任教科書調査官は、命を受けて、その担当する教科について、教科書調査官の職務の連絡調整に当たる。

※3 教科書調査官の職務(教科用図書検定審査要項 平成13年1月15日教科用図書検定調査審議会決定)(抜粋)
 ○ 教科書調査官は、自らの調査の結果に基づき、以下のような資料を作成。

  •  合格又は不合格の判定案。
  •  検定意見書の原案である調査意見書。
  •  検定審査不合格となるべき理由書の案。
  •  反論の認否の判定案。
  •  意見申立の意見の認否の判定案。

※4 国家公務員法(昭和22年10月21日法律第120号)
 (採用の方法)
第36条 職員の採用は、競争試験によるものとする。ただし、人事院規則で定める場合には、競争試験以外の能力の実証に基づく試験(以下「選考」という。)の方法によることを妨げない。
人事院規則8-12(職員の任免)(昭和27年5月23日人事院規則8-12)
 (選考の方法)
第44条 選考は、選考される者の当該官職の職務遂行の能力の有無を選考の基準に適合しているかどうかに基づいて判定するものとし、人事院が定める場合にあつては、その定める方法を用いるものとするほか、必要に応じ、経歴評定、実地試験、筆記試験その他の方法を用いるものとする。

※5 教科書調査官選考基準(昭和44年4月1日施行 初等中等教育局長決定)
 教科書調査官となることのできる者は、次の各号に該当する者とする。

  1.  大学の学部を卒業した者又はこれと同等以上の学力があると認められる者。ただし、音楽、美術、職業、家庭などの特殊の教科を担当する者については、旧制の高等学校若しくは専門学校を卒業した者又はこれと同等以上の学力があると認められる者。
  2.  大学若しくは高等専門学校又は旧制の高等学校若しくは専門学校において、教授又は助教授の経歴がある者又は経歴、業績等からみて調査官として担当すべき事項に関し、これらと同程度の専門の学識があると認められる者。
  3.  初等中等教育に関し、理解と識見を有する者。
  4.  視野が広く、かつ、人格が高潔で円満である者。
  5.  思想が穏健中性で、身体健全である者。
  6.  原則として年齢35才以上55才未満の者。
  7.  現に発行されている教科用図書及びその教師用指導書の著者、編集に従事していない者、その他教科書発行者と密接な関係のない者。

おわりに

  •  本報告書においては、教育基本法や学校教育法が示す理念や目標等、新しい学習指導要領の趣旨・内容が的確に反映された、質・量ともに充実した教科書となるよう改善方策を提言するとともに、教科書検定に対する国民の信頼を一層確保するための教科書検定手続きに関する改善方策を提言した。
     文部科学省においては、この提言を受けて、速やかに検定基準や検定規則等の諸規定を改正するなどの対応を行い、新しい教育課程の実施に対応した平成21年度以降の教科書検定が適切に行われることを求めたい。
  •  教科書発行者においては、新しい教育課程に向けて教科書が切り替わるこの時機に、教科書の作成に携わる者の意識を変えて、新たな視点で教科書の著作・編集に取り組むことを望みたい。
  •  本審議会においても、この報告書で示された方向性や改善方策を踏まえ、従前以上に、公正・中立で専門的・学術的な審議を実施し、適正な検定審査を行っていくこととする。
  •  また、多くの教員や保護者の間に定着している、「児童生徒は、教科書に記述されている内容をすべて学習しなければならない」とする、従来型の教科書観については、「個々の児童生徒の理解の程度に応じて指導を充実する」、「児童生徒が興味関心を持って読み進められる」、「児童生徒が家庭でも主体的に自学自習ができる」といった観点から、教科書に対する考え方を転換していくことも求められる。
     このため、文部科学省や教科書発行者においても、従来型の教科書観から、このような考え方へ転換が図られるよう、教育委員会、教員、保護者等に対し周知に努め、一層の理解を促すことが必要である。

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初等中等教育局 教科書課