教科用図書検定調査審議会の建議等(抜粋)

新しい教育課程の実施に対応した教科書の改善について(建議)(抄)
(平成10年11月13日)

第1部 これからの教科書に求められるもの

2 これからの教科書に求められる内容・記述の在り方

(1)正確かつ公正で、適切な教育的配慮が施されたものであること。

 教科書は、教科の主たる教材として、児童生徒に対し、個人として、また、国家・社会の一員として社会生活を営む上で必要な基礎的・基本的な内容の学習を確保し、かつ、心身の発達過程にある児童生徒に提供される図書である。したがって、その内容は、児童生徒の心身の発達段階を考慮し、適切な教育的配慮の下、正確かつ公正なものでなければならない。児童生徒自らが主体的に学習することを重視した教育への転換を図っていくことを考えるとき、このような観点は一層重視されなければならないと考える。
 このため、教科書の著作・編集に携わる者は、教科書が、児童生徒のための図書であり、自己の学術研究の発表の手段ではないことを改めて認識し、正確で適切な内容であるか、一面的な見解に偏らず、広く受容されている内容となっているか、公正な内容となっているか、児童生徒の既習の知識や理解力、批判力等に即したものとなっているかなどの観点から、十分な吟味がなされなければならない。

(2)基礎・基本の確実な習得を助けるものであること。

 今回の教育課程の基準の改善においては、完全学校週5日制の下で、創意工夫を生かしたゆとりのある教育活動を展開し、児童生徒に自ら学び自ら考える力などの「生きる力」を育成することを重視する観点から、教育内容を厳選し、基礎・基本の確実な習得を図ることが特に強く求められている。
 教科書は、この教育課程の基準に基づいて作成された教科の主たる教材であり、この教育内容の厳選の趣旨を踏まえた教科書の作成が強く求められるのは当然である。教科書に盛り込まれる内容は、枝葉末節の知識を扱うのではなく、学習指導要領に定める教科の目標、内容等に基づき、その後の学習や生活に必要なものとなっているか、児童生徒の心身の発達段階に即して適当か、真に継承していくべき内容であるかなどの観点から、絶えず十分な吟味がなされ、基礎的・基本的な内容となるものでなければならない。

(3)学び方、考え方の習得が図られるものであること。

 激しい変化が予想される社会においては、いかに社会が変化しようと、自分で課題を見つけ、自ら学び自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力を育成することが特に重要である。
 このような視点に立って教科書の内容を考えるとき、これからの教科書は、知識、技能の網羅的な詰め込みに陥ることなく、「何を学べばいいのか」といった学習のねらいや目標、「いかにして学ぶのか」といった学習の仕方が児童生徒にしっかりと認識され、児童生徒自らが学習の方法を工夫し、考えるきっかけとなり、また、それらを助けるものとなることが必要である。
 教科書については、学習の結果として得られる知識の記載に偏りがちで網羅的・羅列的であるとの指摘もある。上記のような観点から、計画の立て方、調べ方、観察や実験の仕方、話し合いや報告の仕方といった学習活動の過程が分かり、児童生徒自らが工夫し、考えることができるような教材の構成となるように配慮し、学習する内容の理解に至る過程が重視されるべきである。

(4)児童生徒にとって分かりやすく、ていねいなものであること。

 児童生徒の主体的に学習する意欲を高め、自ら学び自ら考える力など「生きる力」の育成に資するものとなるためには、教科書が、学習意欲を喚起し、学習の課題や方法を示すものとして、また、学習内容を整理し、理解させるものとして、児童生徒の学習の確かなよりどころとなるものでなければならない。
 教科書は、予習の場面、授業における導入・展開・まとめの場面、自学自習や復習の場面といった様々な場面において効果的に使用されるべきものである。そのためには、児童生徒が自分で読み、つまずくことなくその筋道が理解でき、自分で考え、自分なりの疑問や結論を引き出せるようなものとなり、また、授業での学習内容を確実に理解し、習得するために、学習内容を整理、点検することができるものでなければならない。
 このためには、教科書の著作・編集に携わる者は、教科書が初めて学ぶ児童生徒のための図書であることを改めて認識し、より分かりやすく、よりていねいで、また、児童生徒の思考過程や感性に合ったものとなるようにすることが必要である。例えば、主語・述語は明確で、文章の長さは適切であるか、文章は児童生徒の思考過程に即しているか、論理的な飛躍はないか、言葉の意味は理解できるものになっているかなどの観点から、十分な吟味がなされるべきである。

(5)心に響く美しいものであること。

 現代の子どもたちは、テレビなど様々なメディアに絶えず接し、まさに映像文化、視聴覚文化の中で育った世代であると言える。それに伴って活字による言語表現への接触は少なくなりつつあり、基本的に文章を中心とした教科書は、児童生徒にとって活字に触れる貴重な機会でもある。
 活字による言語表現は、論理的、抽象的な思考力、想像力、情操を育てる上で欠かせないものである。このような文章記述の真の価値、意義を深め、豊かな人間性や社会性、国際社会に生きる日本人としての自覚を育成するものとなるよう、より児童生徒の心に響く教材を選択するなどにより教科書の内容を適切に構成する必要がある。また、教科書の文章は、論理的に構成され、知的好奇心に訴え、美しい表現でなければならない。
 また、教科書における写真・挿絵・図表などの視覚に訴える表現は、児童生徒に現実にはなかなか捉えがたい事物、現象を分かりやすく描き出し、児童生徒の知的好奇心を喚起し、学習意欲を高め、また、豊かな感性を育てる上で大きな役割を果たすものである。先に述べたように、教科書は、基本的には文章を中心としたものではあるが、これら視覚的表現の利点を生かし、文章表現との一層の有機的連携を図ることが求められる。したがって、写真、挿絵、図表などの掲載に当たっては、学習内容と深く関わるものであるか、学習効果を高めるものであるかといった観点から入念な配慮を施しつつ、児童生徒の心身の発達段階に応じた積極的な工夫がなされるべきである。

(6)知識・技能が生活において生かされるよう配慮されていること。

 教科書を基礎的・基本的な内容に厳選すると、ともすれば、抽象的な内容に陥り、児童生徒が実生活で見聞し、体験することから遊離しがちとなる。学習内容を実生活と密接に関連させることは、児童生徒の学習意欲を喚起し、身近な課題を学習し解決していこうとする態度や能力を育成する上で極めて有効であり、自ら学び自ら考える力を育成する上で意義が大きいと言える。特に、児童生徒の社会体験や自然体験が不足している現状などを考えるとき、その意義は一層重要であると考える。
 このことについては、教師の指導の在り方に負うところが大きいと思われるが、教科書においても、例えば、取り上げる事例や教材などを児童生徒にとって身近な例に求めたり、教科書に掲載された内容が、実生活を見直し、実生活へ活用できる基礎となるような工夫を図ることなどにより、習得した知識や技能が実生活において生かされ、総合的に働くようにする配慮がなされるべきである。

 本審議会としては、教科書の著作・編集に当たって、以上のような観点が生かされ、質の高い教科書が作成されることを強く望むものである。また、今後とも教科書の質的改善に関する調査研究が進み、教科書の著作・編集の向上に資するものとなることを期待するものである。

教科書制度の改善について(検討のまとめ)(抄)
(平成14年7月31日)

第1部 教科書検定の改善について

1 教科書に「発展的な学習内容」等の記述を可能とすることについて

(1)現状及び基本的な考え方について
  •  教科書は、すべての児童生徒が共通して使用する教材であり、学習指導要領に示された各教科・科目、学年、分野、言語(以下「各教科等」という。)の内容を児童生徒に確実に定着させるものとなっていることが必要である。平成10年11月の本審議会建議「新しい教育課程の実施に対応した教科書の改善について」においても、14年度から実施される新しい学習指導要領の趣旨を踏まえつつ、教科書に求められる内容・記述の在り方として、枝葉末節の知識を扱うのではなく、学習指導要領に定める教科の内容等に基づき、基礎・基本の確実な定着を助けるものであること、知識、技能の詰め込みに陥ることなく、「何を学べばいいのか」、「いかにして学ぶのか」など、学び方、考え方の習得が図られるものであることなどの指摘を行った。
     同建議を踏まえ、文部科学省において、義務教育諸学校教科用図書検定基準及び高等学校教科用図書検定基準を改正し、平成12年度以降、改正後の検定基準により検定を実施しているが、こうした教科書の在り方に関する基本的な考え方は今後とも重要であると考える。
  •  一方、新しい学習指導要領では、すべての児童生徒が共通に学ぶ内容を厳選し、これによって生まれる時間的・精神的なゆとりを活用して、これまで以上に児童生徒一人一人の理解や習熟の程度に応じた教育を行うことが可能となっている。本年1月に文部科学省から示された「確かな学力向上のための2002アピール『学びのすすめ』」においても、各学校においては、学習指導要領の内容を十分理解している児童生徒に対し、学習指導要領の内容のみにとどまらず、理解をより深めるなどの発展的な学習に取り組ませ、一人一人の個性等に応じて児童生徒の力をより伸ばす取組を一層充実させることが求められている。
  •  これらの発展的な学習の指導については、従来から、各学校の判断により、適宜、適切な副教材を活用するなどして実施されているが、本審議会における審議や関係団体等から寄せられた意見の中では、新しい学習指導要領の下、教科書においても、学習指導要領に示された内容以外の記述も認めるべきではないかとの指摘がなされている。
     他方、義務教育、特に小学校段階において、学習指導要領に示された内容以外の内容を教科書に記述することについては、基礎・基本の確実な定着を図るという教科書の基本的な性格を踏まえ、慎重な意見も出されている。
  •  本審議会において、教科書の基本的な性格や様々な指摘等を踏まえて検討した結果、教科書に、児童生徒の理解をより深めたり、興味・関心に応じて学習を拡げたりする観点から、学習指導要領の各教科等の内容に示された内容以外の記述を行うことが基本的に認められていない現在の検定基準のままでは、今後の新しい学習指導要領の趣旨を踏まえた特色ある学校教育活動を展開する上で、必ずしも十分な対応を行うことが難しい面もあると考えた。このため、学習指導要領の各教科等の内容に示されていない内容について、記述上の留意点等一定の条件を設けた上で、教科書に記述することを可能とすることが、多様な教科書を求めていく上で適当であるとの結論を得た(これらの教科書に記述を可能とする学習指導要領に示されていない内容としては、(2)に述べるように、学習指導要領に示された学習内容を更に深める発展的な内容や、興味・関心に応じて拡張的に取り上げる内容など多様なものが考えられることから、以下においては、これらを「『発展的な学習内容』等」と記述することとする。)。
  •  なお、これらの「発展的な学習内容」等については、当然のことながら、各教科書に一律に記述することが求められるものではなく、教科書本来の目的である学習指導要領に示された内容を確実に定着させるための創意工夫が施された上で、記述され得るものである。

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