第5期先端計測分析技術・機器開発小委員会(第8回) 議事録

1.日時

平成22年11月4日(木曜日)14時~16時50分

2.場所

文部科学省 13F1~3会議室

3.議題

  1. 総合科学技術会議アクション・プランへの貢献方策の検討
  2. 知的創造プラットフォームの構築について
  3. 産学イノベーション加速事業【先端計測分析技術・機器開発】の平成22年度採択結果について(報告)
  4. その他

4.出席者

委員

石田委員、上野委員、長我部委員、小原委員、志水委員、杉浦委員、
竹内委員、田中委員、二瓶委員、原委員、松尾委員、森川委員、
山科委員

文部科学省

池田研究環境・産業連携課長、能見新技術革新室長、寺崎研究環境・産業連携課課長補佐

オブザーバー

澤田独立行政法人科学技術振興機構開発総括  
安藤独立行政法人科学技術振興機構先端計測技術推進部長
佐藤独立行政法人科学技術振興機構研究開発戦略センター フェロー
丸山独立行政法人科学技術振興機構研究開発戦略センター フェロー

5.議事録

【主査】
 定刻になりましたので、本日の委員会を始めさせていただきたいと思います。議事に先立ちまして、事務局から配布資料の確認をお願いいたします。

  <事務局より配布資料の確認>

(1)総合科学技術会議アクション・プランへの貢献方策の検討

【主査】
 それでは、議事に入らせていただきたいと思います。最初の議題は総合科学技術会議アクション・プランへの貢献方策の検討でございます。本日と次回で5名の先生方からご講演頂き意見交換を行う予定です。

 議論に入る前に事務局から資料1に沿ってご説明いただきたいと思います。よろしくお願いします。

 <事務局から資料1の説明>

【主査】
 それでは、京都大学産官学連携本部の小久見先生から、「産学イノベーション加速事業 先端計測分析技術・機器開発-蓄電池技術-」と題してご講演いただきます。

京都大学産学官連携本部 小久見特任教授

【説明者】
 電池は、酸化還元反応を利用して電気の充放電を行います。電池といいますのは、酸化剤と還元剤が反応するときに放出されるエネルギーをイオンと電子を仲立ちにして、反応を分離してエネルギーを熱にすることなく外部回路を通して電気エネルギーに変換しようというものです。
 したがって、還元剤、酸化剤の量に応じてしか電力を取り出すことができません。当然、質量作用の法則が成り立つものです。そういうものですから、実は、電池の進歩というのは、なかなか遅い。
 現在、リチウムイオン電池が、ここに示していますように、Cというのがシリンドリカルで円筒型、Pがプリズマティックで角型ですが、ほかの電池に比べると、非常に高いエネルギー密度を示し、注目を集めています。
 ただ、リチウムイオン電池は高い性能を示しますが、エネルギー密度に限界があります。重量当たりで270から300Wh/kgというのが限界であろうと言われており、それを超すためにはポスト・リチウムイオン電池の開発が必要になってきます。まだ、ポスト・リチウムイオン電池がどういうものであるか、具体的には見えてきていないのが現状です。
 リチウムイオン電池は、2010年推定で、パナソニック・三洋電機が世界トップであろうというようなことですが、韓国、中国が急速に力をつけてきています。
 電池産業の競争力を上げていくには、材料開発を含めた幅広い基礎研究が必要です。優れた測定技術がなければ、地に足のついた基礎研究にはなかなかならない。測定技術が非常に大切であると思っております。
 電池の性能にはエネルギー密度以外に、パワー密度というものがあります。これはどれだけのパワーを取り出せるかということ。それから、寿命ですね。電池において難しいのは、充電状態にある電池というのは使ってなくても一番厳しい条件に置かれているということです。

 それから、コスト・資源。これは当然、安くなければならないということです。 このような性能の前提として、安全性、信頼性というものがやはり必須です。

 リチウムイオン電池ですが、正極はリチウム含有コバルト酸化物が多く、マイナス極が炭素材料、グラファイトが多い。負極と正極との間で充電反応を進行させるというのは、正極にあるリチウムイオンを電解液を介してこちら(負極グラファイト)に移すというのもので、放電反応はその逆です。
 このようなタイプの電池をロッキングチェア型の電池といいます。電解液のところには痕跡を残さないというのが理想的な電池形です。電解液の量を、ただ単にリチウムイオンが通過するだけなので、幾らでも減らせるということでエネルギー密度を上げやすいということになります。もちろんプラス極、マイナス極の性質によっても、エネルギー密度が上がります。
 リチウムイオン電池材料の研究は、固体科学の方の研究者が多いのですが、反応というのがあんまりわかっていない。世界でもあまりやっているところが無かったのですが、最近は力を入れるようになってきております。
 反応がわからないことには、高性能化、新材料の効率的な開発はなかなか難しい。やはり反応を解明することが必要です。

 リチウムイオン電池の中の反応ですが、いろいろなステージに反応が分かれます。電池は、数ミクロンの活物質粒子を、結着剤と導電材を混ぜ合わせて、数ミクロンのアルミ、あるいは銅の箔の上に塗っていくものです。20から150ミクロンぐらいの厚さに塗っていきます。そういう電極で反応が進行しますが、大きなスケールで言いますと、電池全体の中での反応、物資輸送も含めた反応がどうなっているのか。それから、この厚さ方向にどうなっているのか。あるいは、1つの起電物質、我々活物質と呼んでおりますが、それがどのように反応していくのか。電解液中のリチウムイオンの分布がどうなっているのか。すべてわからなければいけないのですが、あまりよくわかっていない。電池の中を見る手法があまりない。

 それから、観察のスケールですが、活物質の表面、一次粒子の表面で見ますと、ナノメートルのオーダーのところの反応が大切になってきますし、また、電池全体の反応といいますと、ミリメートルのオーダーで、あるいはセンチメートルのオーダーでわからなければならないというようなことです。
 放電反応というのはグラファイトの中にあるリチウムが外に飛び出して、電解液の中を動いて、リチウム・コバルト・オキサイドの中に飛び込んで、中に拡散していく。
 こういう反応経路を研究する人が少なく、私達が取り組んできたのですが、リチウムイオンが溶媒の衣を脱ぐところが律速であることがわかってきました。これは理論といいますか、頭の中で考えるだけのことで、実際にはリチウムイオンの動く様子等を見た人がほとんどおりません。
 層状化合物ですと、エッジ面が活性面になるのですが、エッジ面といいますのは、当然原子オーダーででこぼこです。このでこぼこな表面を持つ固体と電解質(普通は液の場合が多い)とが接している。リチウムイオンが移動するためには液の中でのリチウムのいるサイトと活物質の中のリチウムのサイトの間でリチウムイオンがジャンプします。そのジャンプ距離が2オングストローム程度以下にならないことには反応が起こらないと思います。実際の電池ではおそらくこの程度の、10ピコから100ピコメートルのオーダーで反応が起こるかどうか、どの程度速いかというようなことを知りたいのですが、これをこういうようなオーダーで見る方法というのが全然なくて、電池をつくる人がいろいろとやってみて良い・悪いを判断しているのが現状です。

 これは我々が工業分析化学にいるときにやり始めたものですが、グラファイトのかわりにHOPGを使いまして、それをSTMでその場で観察しました。これは世界で初めての成果なのです。HOPGの表面にステップエッジがありますが、ここにリチウムが入っていくと、ごく初期過程では1ナノメートルぐらいの高さの丘状構造ができます。この丘状構造が後で説明するように、表面を安定化させる被膜のもとになるものです。これは溶媒和したリチウムイオンが入っていき、その溶媒が還元的に分解されて、旨い具合に安定化被膜をつくるということです。それをSTMで実際に見た結果です。これはエチレンカーボネート系の電解液を使いますとこういうことが起こります。ところが、プロピレンカーボネートにしますと、これが全然起こらずにどんどんステップエッジからグラフェン層がはがれていきます。いつまでたってもリチウムイオンが入らない、充電できないということになります。
 実は、被膜ができると申し上げたのですが、我々、この被膜をソリッド・エレクトロライト・インターフェース(SEI)と呼んでいますが、AFMを見ますと、こういうような外側の部分のようなものが見えます。ところが、この部分を何回もプローブの先端でスウィープを、20回ぐらい繰り返すと、ここの真ん中に示すような像が見えてくる。
 どうもステップエッジに生成しているこの白く見えているものがキーとなっている被膜のようであって、その外側(上側)にある、これは40ナノメートルぐらいの高さなんですが、そういうものはどうも役に立たない、邪魔になるだけのもの、劣化させるだけのもののようです。だから、ほんとうはここにあるものを調べたいのです。それがSEIと言われるものの本質だと思いますが、ほとんどの研究がこの上側のものを見ています。そのためSEIの実態があんまりよくわからない。この中に埋もれているこれを見るというようなこと。この上側を見るのだけでも大変なのですが、なかなかこの下側を見る手法がないということです。
 先ほど説明しましたように、EC-DECの場合には溶媒和したリチウムイオンが入っていき、それがリチウム基準で、0.6ボルト以下の電位になると、この一緒に入った溶媒が分解して、分解生成物がうまくリチウムイオン導電性の被膜をつくり、それ以上は溶媒和リチウムイオンの侵入を抑えます。すなわち、うまくリチウムが脱溶媒して、グラファイトの層間に入るようになります。PCにしますと、その大きさが少し違うということだけで、どんどんエクスフォリエーションが起こってしまって、いつまでたっても、この反応がとまらなく、充電できないということになるわけです。

 SEIの本質、先ほど少し説明したものです。この図は、これは我々のSEIモデルなのですか、無機化合物がポーラスに被膜をつくって、その間に有機リチウムの被膜ができている。この有機リチウムの被膜の中をリチウムが通って、出たり入ったりするのだろうということがわかってきていす。しかし、ここの構造や組成は、XPSとか、そういうもので見られているんですが、よく判っていない。この部分、肝心の脱溶媒したリチウムを出し入れする部分というのは、XPSの雰囲気に持っていく過程で分解するおそれがあり、あんまりよくわかっていないのです。我々、熱分解GCMASで調べた結果、オリゴマーができていることを見出しています。しかし、まだそんなによくはわかっていない。
 これがわかりますと、前もって表面上に安定な被膜をつくっておくことができます。そうするとリチウムイオン電池の寿命が伸びることになります。それから、リチウムイオン電池の負極というのが安全性に対して重要で、電池内で異常な反応を起こすトリガーにもなりますが、それを抑える道筋が開けることにもなります。このように、SEIがどういうものかということは非常に大事です。しかし、あんまりわかっていない。非常に難しい。SEIは60℃ぐらいで分解するというようなことも言われておりますから、なかなか分析手法がない。その厚さが多分10ナノとか、数ナノですから、なかなか解析が難しい。例えばTOF・MASを改良するとかすると、できるだけin situに近い形で見ることかできるかもしれません。また、増強ラマン、プローブ・エンハンス・ラマンのような手法もあろうかと思います。もう少しエリアセレクティブなNMRができますと、SEIの解析に使えるかもしれないと思っております。一方で、電池というのは反応している生ものですから、なかなかそれを正確に捉えるのが難しい系です。

 これは我々の結果をまとめたものですが、リチウムイオンが電解液の中を拡散、移動してきて、それが脱溶媒してジャンプインする、過程が律速段階です。固体の中にリチウムが入ってくると当然電子がカレントコレクター、集電体から固体の中に注入され、電気的中性が保たれます。また、カチオンが入ってくと、当然、ホスト格子の原子間距離が変わります。グラファイトの場合には、ステージで厚さ方向、層間の間隔が変化するということになります。その変化が速いのか遅いのか。これはあまりわかっておりません。これもエックス線回折などでは全体を見てしまうので、なかなかどういうような変化をしているものかというのが見えないのです。
 例えばグラファイトの場合には、こういうステージ構造をとりますが、こういうぐあいにリチウムイオンの入っている層の間に、3つグラフェンレイヤーがありますと、これはステージ3といいます。その状態に対してもっとリチウムを入れていきますと、グラフェン層が2層のステージ2ができます。3から2ができるというのは難しいですね。これはドーマス・エロルドモデルがうまく説明しております。このモデルでは、リチウムが左から入ってきて、右のほうに、奥のほうに入っていく動きの中で、入っていくだけではなく、その反対方向にも、入り口方向にも動くであろうということで説明できます。そうしますと、こういうtransitionの領域を考えますと、3から2に移るのが説明できます。
 もしも右に動くと同時に左に動くということが起こるなら、リチウムイオンの動きが非常に速いということを暗示していますね。ところが、リチウムイオンの動きがどれぐらいかということはあまりよくわかってない。といいますのは、普通拡散係数を測ろうとしますと、入り口とか出口、この逆でもいいのですが、その付近の構造(あるいは相)を変化させてしまいます。構造(あるいは相)を変化させながらはかりますと、それは真の拡散係数ではない。むしろここに示すようなフェーズフロント(相境界)の移動速度を測っているのかもしれない。そういうことがあまり意識されていない研究が非常に多いのが現状です。
 我々はそれを、これも分析化学を担当しているころにやったのですが、HOPGを使い、エッジ面をin situにレーザーラマンで見ながら、リチウムを出し入れする実験をやってやりました。ここでステージ構造変化がラマンスペクトルで検出できます。だんだん電位をマイナスにしていきますと、こういうぐあいにスペクトルが変化してきます。ここには書いておりませんが、例えばここでリチウムを入れるのをやめてしまいますと、表面のリチウムがずっと中に入っていってしまいますから、またこちら側に時間がかかって戻っていきます。ステージが戻っていくという可逆性というのが見えてきます。

 それから、これはリチウム・コバルト・オキサイドのようなものでも同じことになります。こういう層間にあるリチウムを抜いていきますと、当然ここの真ん中にあるコバルトと頂点にある酸素との距離が変わります。層間距離も当然変わります。そういう変化が起こりますが、これも拡散と層変化、その辺のところが、固体構造の変化のダイナミクスというのが、今のところわかっていない。この変化はリチウムイオン電池のパワーとか耐久性を決める因子になります。
 例えばこれからリチウムを引き抜いて、こう変化しますが、早く抜きますと、ここの表面近くだけを抜いてしまうことになります。そうしますと、この結晶構造は崩れてしまいます。そうなると、劣化を招きます。だから、どれだけの速度で引き抜いて大丈夫なのかというようなこと。それは拡散と相変化の速度にかかっていますが、今までのところ、ここら辺のところは殆ど判っていません。
 我々、相変化を実際にTEMの中で電池を組んで見てやろうというようなこともやりました。いまだにやっていますが、まだ成功しておりません。TEMの試料台のここで電池を組みます。電池というのは、電流を流すことによって反応を起こさせることができます。したがって、真空中でも何でも電解質さえ耐えることができればそれで反応させられます。我々、ポリマー電解質を使ってやろうとしていました。ところが、電池を組んで、TEMの中に入れて、電子線を当てますと、ポリマーが40分ぐらいで分解してしまいます。電子線にやられてしまいます。それで今のところ失敗しています。今は固体電解質を使って実際の電池の中を見ようというようなことをやっております。これはα・モリブデンオキサイドなのですが、こういう構造をしております。ここにリチウムが入ると、こことこことの間隔が開きます。どういうぐあいに開いていくのかというのを実際に見たかったのです。それで、それをin-situで、先端から斜めに開いていくのかどうかというのを見たかったのです。モリブデンを使ったというのは、リチウムイオンが入ったときの格子間隔の開きが大きいからです。in-situにはまだできておりません。ウィスカーを使ってやってやりますと、2つの層間が開きますが、ここに示しますように端から端まで2つ開いたものがランダムに分布しています。ということは、ぽんと入ったら、すっと動いてしまうことを示しています。それで、途中でとまったものはない。ということは、この2次元の相変化はものすごく速いということを示しています。だから、相変化、リチウムが出入りするときの相変化というのは、ある程度までじっともとの相を保っていて、あるとき突然ぽんと変わるのではないかというようなことを考えております。しかし、いまだにこれで実証できておりません。
 それで、リチウムイオン電池の反応を理解するためにはどういうことをやらないといけないかといいますと、先ほど説明したこの界面でどういうことが起こっているのか。界面構造、あるいはSEIの構造、リチウムイオンが跳ぶところ、そういうところがわからなければいけないし、また、この固体側の動く最表面の辺がどういうぐあいに変化するのか。そのこともわからなければいけないわけです。当然、この固相の中での反応がどうなるのか。ここはショットキーバリアを越えて電子が飛ぶところですが、そこら辺のところは、あまり手をつけていない。ここら辺のところは、例えば固体NMRとか、中性子を使った手法というのが非常に有効です。SPring-8のようなビームラインも有効ですし、TEMとかポジトロンを用いた解析とか、そういうものもトライしようとの動きがあります。非常に有効な方法になるのではないかと思っております。
 それから、ここの界面につきましてはなかなか難しい課題です。我々、SPMを用いてやってきましたが、ラマンで、もっとラマンの感度を上げることができましたら、この界面が見えるかもしれません。電解液がある系ですから、FT-IRはなかなか難しい。ラマンを高感度化することが良いと考えています。プローブ・エンハンス・ラマンのようなものも有力でしょう。それから、うまく界面だけを見るNMRとか、そういうような手法が何かあればいいなと思っているのですが、なかなかうまい方法がありません。
 もちろん、電解質の中でのリチウムイオンの移動というのもまだそんなにわかっているとは言えない。例えば、イオニックリキッドなんかも研究されておりますが、どのようにリチウムイオンが動くのかというようなこと。溶媒(媒体)とどの程度のインターラクションをしながら動いていくのか。そこら辺のところもあんまりよくわかっていない。
 観測スケールとしては、やはり小さいところはオングストロームぐらいのところから、最初に言いましたように、数百ミクロンぐらい、あるいはミリのオーダーまで見なければいけない。

 それから、時間分解能ですが、多分リチウムイオンのこういう移動というのは、そんなには早くはないので、相変化とか、そういう過程を見るのであれば、多分マイクロ秒ぐらいのオーダーであればいいのではないかと思っております。ピコ秒のような反応というのはそんなにはないのではないかと思っております。ただ、空間分解能は非常に必要であるというようなことです。

 もう一つ、リチウムイオン電池には限界があります。といいますのは、リチウムイオン電池には、リチウムイオンをアコモデートするホストがいるわけですね。このホストを幾ら軽く小さくしても、やはり限界があります。それに比べますと、旧来の電池、私はリザーバ型の電池と呼んでいるのですが、これは鉛蓄電池のように、充電状態のものが反応して放電状態になって、生成物が電池の中にリザーブされているというような電池です。充電のときにはもとに戻るわけですね。そういうような反応をするもの。これはうまくつくってやれば、エネルギー密度を上げることができます。旧来の鉛蓄電池とか銀電池、ナトリウム硫黄電池とか、レドックスフロー電池でも。このような電池では、固体から固体ができる反応、また、できた固体が時間の経過とともに変化していくというようなことがあります。このタイプの電池の歴史は長いのですが、全然わかっていないというのが現状ではないかと思っております。もう一度現在の科学技術で日を当ててみることが必要ではないかと思っております。

 例えば、リチウム金属を負極にする電池というのは、非常にエネルギー密度が高くなって、高性能の電池になる可能性があるのですが、リチウム金属は還元力が強いので、有機電解液と接しますと、必ず分解生成物が表面にでき、被膜になります。この被膜を介して充電、放電をすることになりますが、充電するときに、こういうぐあいにデンドリティックにリチウムが析出します。これを放電しますと、根本から放電することがあります。そうしますと、集電体から離れた、反応しない極めて微小な、ミクロン以下のリチウム金属が残ることになります。これはdead lithiumと言っておりますが、これは極めて活性が高く、何かのショックのときに電解液と反応を始めます。そうしたら熱が出ます。この熱でさらに反応が加速される。結局、ここら辺も全部反応してしまうということになります。これは安全性にとって致命的です。一度日本でもリチウム金属を使う電池が発売されたのですが、つくったカナダの会社は日本での事故のために倒産いたしました。この問題が解決できていい方法が見つかればリチウム金属が使え、高性能の電池ができます。

 これはリチウム金属だけでなく、マグネシウムとか、アルミニウムとか、亜鉛とか、そういう金属でも同じ問題があります。非常に大きな、昔からの問題ですが、その課題解決はほとんど進んでいないというのが現状です。

 これは先ほど少し説明しました、現在我々の拠点でやっているSPring-8のビーム光を使った高度解析技術開発ですが、現在のところ、我々ここら辺のところまで空間分解能、それから時間分解能ができるところまで実際やっております。ビームラインを建設中ですし、中性子を利用するということでもJ-PARCにビームラインを建設中です。ただ、SPring-8のビームラインはまだましですが、中性子を利用する分野は研究者が非常に少なくて困っています。いろいろなところの先生方にご協力をいただいているのですが、今後どのように発展させればよいのか。非常に有力な武器であるから、発展させたいのですが、進め方に難渋しているというのが現状です。

 

【主査】
 どうもありがとうございました。それではご質問、ご意見、お願いいたします。

【委員等】
 リチウムイオン電池の、コバルトの磁性変化等について、何か研究はされているのでしょうか。

【説明者】
 コバルトは3価と4価の間で磁性が変化します。リチウム・コバルト・オキサイドもリチウム・ニッケル・オキサイドも同じ構造をとるので、研究はされています。最近盛んになりつつあります。リチウム・コバルト・オキサイドの場合には比較的ましですが、ニッケルの場合には4価ができますと、酸素解離をしやすくなり、安全性に大きな問題が生じる。

【委員等】
 価数が変わるということで、磁性の方はマイクロプローブ的なことができますね、

【説明者】
 中身をマイクロプローブというのは難しい。できればよいのですが。それで、SPring-8でやろうとしています。

【委員等】
 リチウムイオン電池はまだまだ性能が行き着いていなく、こういったことをクリアしていけば、もっと性能が伸びるはずであるという理解でよろしいでしょうか。
 また、リチウムを突き詰めることと、ほかを探すこと、この辺りのコンペティション状況はいかがでしょうか。

【説明者】
 リチウムイオン電池といいますのは、ロッキングチェア型の電池と申し上げたのですが、これは反応がものすごくシンプルなのですね。だから、いろいろなメリットがあります。本来、非常にタフな電池になるはずなのです。ところが、負極の表面とかの問題があり、限界がわからないのが現状です。
 それともう一つは、負極も正極も、リチウム・コバルト・オキサイドとグラファイトと書いていますが、ものすごく組み合わせが多いのです。例えば、遷移金属の酸化物とか硫化物というのは、リチウムと組み合わせたらすべて正極の活物質になるはず。ところが、全然反応しないものと反応するものがある。そこら辺がなぜ違うのかということがわかれば、いい正極材料を設計できる。私は、1つは相変化の速度が大事なんだと思っているんですが、まだ実証できていない。いろいろな組み合わせがありますので、目的に応じて使い分ければいいと。

【委員等】
 リチウムイオン電池の実用上で、発熱、爆発等の危険があると思いますが、未反応のリチウムをいかに防ぐことができるか解明されれば、かなり有望なのでしょうか。

【説明者】
 多分dead lithiumができなくするということは、デンドリティックデポジションを抑えるということだと思います。それができれば、リチウムメタルが使えますから、エネルギー密度がかなり上がります。ただ、今のところその方法がない。最近、リチウム空気電池等が言われておりますが、この問題は全く置いたままです。

【委員等】
 リチウムイオンがその溶媒の衣を脱いでカーボンに入るのが律速だということですが、この反応がもっと早くなれば、エネルギー密度等、性能が大幅に上がるということでしょうか。

【説明者】
 エネルギー密度は上がらず、パワーが上がります。速くする方法、律速を逃れる方法は多分あると思います。1つは固体の活物質と固体の電解質との界面では活性化エネルギーは低い。これがヒントだと思っています。ただ、固体-固体の接合では、活物質のほうは体積変化しますから、原子オーダーで接触を保つというのがなかなか難しい。界面をうまく制御するとよい。

【委員等】
 格子の再配列反応という温度効果で、温度を変化させたときに反応速度はどのような挙動を示すのでしょうか。

【説明者】
 実は、格子の変化というのがまだ何もわかっていません。
例えば金属で、マルテンサイト変態、ノンディフュージョン変態等、速い反応もある。それと構造とがどのような関係になるのか、全くやられておりません。新しい分野だと思います。

【委員等】
 もう一つ、温度を上げれば速く成長が進むのか。片側が真空であって、電解液はなかったときにどのような反応になるのでしょうか。

【説明者】
 デンドライトの問題、リチウムの融点は184度程度。温度をもっと上げてやれば、シンタリングを起こして、こういう成長は起こらないと思うのですが、温度を上げると、電解液と激しく反応してしまう。できた表面の被膜というのは60度ぐらいで分解すると思う。この被膜もLiFとか、Li2OとかLi2CO3ができているのだ、それが大事なんだというような意見が世界で大勢なんですが、私は違うと思っています。これらの物質は完全にインシュレーターです。

【委員等】
 片側に電解液がなければ、デンドライト成長はなくて、抑制される等、何かそういうことがありますでしょうか。

【説明者】
 例えば、リチウム、アルミ、ウッドメタル等の合金を使う研究が昔からありますが、そういう系であれば、デンドライトはできない。だから、うまく表面層にだけそういうものを作っておくことができれば、中まで反応しない。ある程度反応したら、表面にとどまっているというようなものがあれば、うまくいくと思います。
 それから、日本の研究者によりますと、リチウムが伸びてくるのは中から外に伸びてくるもので、析出していくものではないという人もいます。電解液に何か添加物を入れて抑制しようという研究は多いんですが。圧力をかけると、デンドライト生成が少し抑えられるというような研究は昔からありますが、なぜかということはわかっておりません。

【委員等】
 関連して、電解液を入れたまま、例えば難しいと思いますが光電子分光のようなことも行う予定があるのでしょか。界面での電子状態を見るのに光電子分光はすごく有効だと思うのですが。

【説明者】
 光電子分光のところは電解液では難しく、まだそこまで進んでおりません。
 リチウムイオン電池の解析手法は、例えばNMRにしましても、反応したら磁性を持ってくるようなものは、回転速度を上げてやると、それがだんだん緩和されますが、今は未だ十分に回転数を上げる技術がない。
表面のラマンであれば、プローブ・エンハンス・ラマンが有効だと思うんですが、まだ完成していない。

【主査】
 どうもありがとうございました。それでは、議題の2番に進めさせていただきたいと思います。

(2)知的創造プラットフォームの構築について

【主査】
 まず資料3について説明させて頂きます。
 タイトルとして研究基盤強化とイノベーション創出のための知的創造プラットフォーム構築というタイトルをつけましたが、現在、第4期の科学技術基本計画の議論が進んでおります。議論の中で、研究基盤強化ということが非常に明確に出ています。研究基盤強化の中には基礎研究の強化という部分と、私どもが今議論している知的基盤と呼ばれる分野等を含む本当の意味での基盤という部分が含まれています。いずれにしましても、研究基盤を強化することは重要だということが盛り込まれております。
 一方、イノベーション創出の重要性というのは、現政権の経済活性化のためのプランが基本になっており、グリーンとライフのイノベーションがターゲットとなっています。そのような意味で、この両者に共通するプラットフォームをつくるということについては、小委員会の報告書の中で提案されたことです。このため再度、方向性をもう一度確認しながら、プラットフォーム構築に関してご議論頂きたいという考えです。

 スライドの2番では、知的創造プラットフォーム、これは報告書にも書きましたとおり、科学技術イノベーション政策に貢献するための効果的で強力な先端的計測分析技術・機器の戦略的研究開発基盤であり、幅広いステークホルダーから構成される機能発現・便益共用・情報(価値)共有システムであるというように表現されています。このプラットフォームは、課題解決を目指すプロジェクト型研究開発プラットフォームとは違って、多くのプロジェクトを支える共通基盤型研究開発プラットフォームである。これが大変重要なポイントの1つであります。

 3枚目のパワーポイントは、それでは、プロジェクト型研究開発プラットフォームというのは何かということの説明になります。その後、3枚の絵で示してありますが、プロジェクト型研究開発プラットフォームとは、課題解決を目指すプロジェクト研究を効果的に運営するため、種々のステークホルダーから構成されるものであり、例えば、欧州テクノロジー・プラットフォームなどが一つの典型的な例であります。
 現在、欧州テクノロジー・プラットフォームというのは非常にたくさんつくられていて、かなり議論も進んでいます。その概要については、当初は民間主導で研究開発組合的に構成されたものであったのですが、現在、課題が増え、34の技術分野にそれぞれプラットフォームがつくられていいます。それで、現在の役割は、欧州研究開発フレームワーク計画として、EU全体の大きなプランで、かなりの予算が実際に動いているものであり、それを各技術分野でその計画を策定するための検討材料を提供するというのが第1の役割であります。したがって、フレームワーク計画に非常に大きな影響を与えるということですが、実際にこの34のプラットフォームの中で大きな予算をつけて動き出したのはまだ数件で、ほとんどがプランづくりの前段階、途中の段階であるというような状態であります。
 それにしましても、EUの各国の政府の、あるいは国の利益とEU全体のプロジェクトを進めるという各技術分野でもさまざまなニュアンスがあるわけですが、それを各国の政府が動かないといけませんから、その間を仲立ちするという役割が、かなり大きな役割であるというように考えてもいいのではないかと思います。

 スライド5につきまして、現在の目的は、これは全体の目的でありますが、欧州の産業競争力を高めること。それから、欧州の共通の研究開発目標を定める。もちろん整合性のある開発に取り組む。3番目、人的及び財政的な研究開発資源の結集を図る。合意が得られないとうまく動かないわけで、先ほど申し上げたように、うまくいっているのはまだ数件であるということになるわけです。4番目、研究開発の成果の速やかな商業化を図る。5番目、透明性や開放性の確保を重視し、特定の団体、産業の利益に偏らないということ。6番目、技術革新に対し障害となるさまざまな規制を明らかにし、政策決定者の協力しつつ、それらを克服する。このあたりが、実はEUを構成する各国の内部事情の調整を図りながら進めるという、欧州テクノロジー・プラットフォームのいわば構造上の一番大事な、制約でもあるわけですが、それを克服することが非常に重要な目的であるということになります。

 一方、ここで考える知的創造プラットフォームは、基礎研究から応用、実用化までの縦のつながりと種々の分野の間をつなぐ横のつながり、それを創出する連携の場をつくることが目的であります。これは多く議論されているイノベーションの基本構造ですが、知の創造。種の創造と育成、それから価値の創造までの効果的な接合を前提とした研究開発を推進することが目的です。それから、産学官の緊密な連携を保ち、異質な専門家集団の出会いと交流の場を維持するためのネットワーク機能の導入。これも重要な構成要素です。

 そのようなことで、次の2枚は報告書のそのままでありますが、機能と役割として、研究推進マネジメント機能、調査機能、広報・ネットワーク機能、研究成果の社会還元機能、人材育成機能、このような機能を実現したいということになります。

 これをまとめて、大事な点は、イノベーション創出のためには強力な共通基盤型研究開発プラットフォーム、ここではそれを知的創造プラットフォームと呼んでおりますが、その構築が必要である。それから、整備された知的創造プラットフォームの上に、選び抜かれた分野融合型研究プロジェクトを構築する体制が有効であり、かつ適切であろう。それから、創造的な研究を支える知的創造基盤分野の研究は、比較的少ない予算で大きな成果が得られるので、予算効率が高い研究分野である。これは実は非常に重要なポイントで、政府予算の編成を考える上では常にこの点は主張していかないといけない、そう考えております。

 その下に中国の紹介がありますが、昨年9月、中国科学院北京生命科学研究所というライフサイエンスに絞ったイノベーションセンターをつくったという報道がなされました。このことは、私どものプランをある意味で先取りしたプランであるため、強く意識せざるを得ないと思っていますが、中国の生物学者が特色ある研究成果を出すためには、研究機器の海外依存からの脱却が一層重要であるという主張は、私どもの主張と同じであります。
 また、ライフサイエンス機器・技術イノベーションセンターの役割として6項目挙げられておりますが、まず第1項目は、先端的、基礎的、戦略的科学研究に立脚し、ライフサイエンス機器の独自開発を図る。2番目が、北京生命科学大型機器センターの重要機器をベースに、大型機器の潜在能力を引き出す。

 3番目が、在北京の関連研究所からの機器開発を受託し、革新的研究開発を行う。次が、既存技術を強化し、精密機器の設計、加工等の専門技術プラットフォームと技術イノベーションチームを構成する。ここに専門技術プラットフォームという言葉遣いがあります。プラットフォームという言葉は、非常に幅広く使われておりますので、いろいろなイメージで使われておりますが、専門技術プラットフォームという考え方で、このイノベーションセンターの1つの基盤技術供給サイドを確保しよう、そういうことのようであります。
 それから、科学機器の品質向上を図るための交流会を実施する。最後は、機器の研究開発チームの責任者は百人計画並みの待遇をする。内容はよくわかりませんが、かなりいいお給料を払いますよということを言っているわけで、かなり本気でライフサイエンス分野を世界ナンバーワンに向かって研究体制を強化するという意思が見られます。

 ここまではイントロですが、最後のページの3枚がプラットフォーム構築の手順案となります。この内容をごらんいただいて、意見交換をお願いしたいと考えています。

 まず1枚目は、機能と組織の具体化。ここに挙げてある機能をどのように組織として担保するかということですが、たたき台として申し上げれば、まず事業のマネジメントについては本小委員会。それから、研究推進については、JSTの先端計測分析技術・機器開発担当。3番目に成果・社会還元の共用の促進については、これもJSTにご協力いただき、具体的な運営組織をつくるということを考えてはいかがでしょうか。次に調査機能については、CRDSのご協力をいただければというプランです。残るネットワークマネジメント、人材育成、についてもご議論をお願いしたいと考えています。

 次に2枚目は、どういう手順、優先順位でものを考えるかと言えば、来年度、まず、ネットワークをつくり上げることが第一であろう。次に、共用促進。これは先ほどの概算要求資料にも出ておりますが、これを立ち上げるということが現実的であり、かつ大事なことであり、まずはこちらから考えてはいかかが。そのほかはオープンですが、23年度だけで全部ができるのかということを念頭に年次計画と書いてあります。

 最後に3枚目については、ネットワークあるいはプラットフォームのステークホルダーについて記載しています。装置・技術の開発者、装置・技術のユーザー、マネジメントの関係者(行政、学会、シンクタンク、コンサルタントなど)と書きましたが、このようなイメージでいろいろなお立場のメンバーがいると言えます。次にメディアの関係者及びその他。このようなステークホルダーを具体化し、その方たちのコアとなる組織あるいはメンバー、キーパーソン、そういうものを念頭に置いて、ネットワーク構築をスタートさせるということでございます。このような内容でご意見をいただければと思います。 

【委員等】
 ネットワークの構築と利用促進というのが当面対応する内容ではないかと思います。ネットワークについては、具体的なものがありましたが、共用促進については、具体的なイメージがなにかありますでしょうか。

【主査】
 現在、共用ナビという、既にある1つのネットワークですが、文部科学省で実施しております先端研究施設共用促進事業というのがございまして、年間の予算規模は15億ぐらいです。既に全国で37機関になります。
 先端計測でできたプロトタイプ機器を、その仕組みの中で既に2~3件でしょうか、動かしています。実際に使っていただくということによって、先端計測事業で製作したプロトタイプ機が、世の中のために役立つような仕組みをつくり上げてはいかがか。

【委員等】
 共用のネットワークづくりについては、ナノネット等との有機的なつながりを示すことが必要では。計測という横のネットワークと縦糸のプロジェクト型とのリンクをうまく組む必要があり、そこのマネジメントをどこが担うのか意識的に考えておく必要があります。

【主査】
 これらの共用システムに加えて、本事業の中で、先端計測の成果をもっと活用するための支援をする。機器の有用性について、プラットフォームの中でユーザーに認知してもらうような仕組みを構築すれば、活用が促進されるのではないでしょうか。

【委員等】
 共用促進に関連して、機器を稼働したりする人材等、どのような方々を想定されているのでしょうか。

【主査】
 先ほどご紹介しました既に動いている共用促進事業では、大学の例で言えば、そこの主体となるところが研究用に既に使っているわけですね。その方たちに一般的に共用サービスに労力を提供していただく人材を雇い上げる経費を提供いたします。それから、コーディネーターの方たちの人件費も提供するというような考え方です。そのあたりで、ミニマムの経費を査定した上で提供するというのが共用促進。先端計測の場合も機器をつくり上げた人たちがいらっしゃいます。しかし、その方たちは、自分たちの目的、あるいは学内の共用とか、いろいろな立場がございます。それに加えて、広く共用に供しようとすれば、当然それだけの負担が増えますので、その経費をこちら側から供給するという必要が出てまいります。

【委員等】
 雇い上げられた方々が、単にお手伝いではなく、その人たちにとってのいいキャリアになって、その後のその方々の人生が開けるような、フォローアップも考慮頂ければと思います。

【主査】
 ご指摘の通りです。例えばポスドクの方がサービスに50%の時間を提供するといたしますと、かなりの負担になりますね。しかしながら、自分の研究もできるという構造をきちっと保たないといけません。これは実は、人材育成の1つのプロセスにもなります。そのあたりがきちっとした考え方で全体をつくりませんと、共用の作業ばかりでご自分のキャリアにうまくつながらないなんていうケースが出るのは絶対に避けなければいけません。
 人材育成機能というのはいろいろな形があり、これも1つのやり方だと思います。

【委員等】
 装置の共同利用は今後鋭意推進していくべき事業だと考える。これまでも、いろいろなところで共同利用というのがあったと思いますが、日本の場合、共同利用という仕組みがうまく活用されていないケースがかなり多いと思う。それは共同利用すべき装置を持つ側が、それを抱え込んでオープンにしない、あるいは自分の研究目的に合致した利用者だけを優先してしまう、という傾向があるためだろうと考えられる。こうした傾向を改善して、共同利用を根付かせるためには、装置の提供者と利用する側との間に第3者的な立場のコーデイネーターを務める機能を介在させることがぜひ必要だと考える。コーデイネーターには、JSTのような機関でも良いし、専門的な知識を持った団体等に委嘱しても良いと思う。

【主査】
 ありがとうございます。ご指摘のとおり、全体をスムーズに立ち上げて、関係者が皆メリットを享受できるような仕組みにしませんと長続きしませんし、事業としてそういう機能をあわせ持つということがおそらく今まであまりなかったんだと思うんです。ですから、文部科学省の共用促進事業は非常に大事な事業で、かなり新しい目論見ですが、徐々に成果を上げつつある。それをお手本にして、先端計測に関しても成果活用を促進できないか、ポイントの1つでございます。
 それから、もっと幅広く、プラットフォームそのものは、先ほどナノネットの話もありましたけれども、既に部分的に機能しているネットワークもあるわけですね。そういうところと大きなリンクを張って、このプラットフォームに参加していただける方たちにとって、より魅力のある全体像を築き上げなければいけないだろうし、それができれば、従来型の分野的にローカルなネットワークではなくて、もっと広いネットワークに持っていけるのではないかというような考え方でございます。

【委員等】
 小委員会で行う知的プラットフォームでは、産学官でいかに新しいモノをつくるためのチームをつくるかというネットワークが必要になるのではないでしょうか。

【主査】
 ご指摘の通りです。それをきちっと実現していくために幾つかの先行した事業として、今共用が話題になっているのはそういう意味かと思います。

【委員等】
 共用は大事な役割になりますが、最先端の30人の研究者との関わり、MEMSとの関係や、その他先端的な加工分野などを包含するのか。日本全体としての共用の戦略は、内閣府も含めた形でつくっていく必要があるのではないか。このようなことも検討してはいかがかと思います。

【主査】
 ありがとうございます。ご指摘のように、ものづくり、加工の分野も、これは同じなんですね。そういう加工も含めた知的基盤に将来なるだろうと思っています。ただ、最初から全部風呂敷を広げるのではなく、まずは計測分析という分野でこういうものがきちっと動けば、加工分野、ものづくり等のネットワークが次第にリンクされ、日本の独自技術が集約されていく。このようなことが、本当の知的創造基盤だと考えております。

【委員等】
 どこかにボトムアップ的、自主的な部分が生かせるような要素が必要かと思います。ちょうど今上野さんからおっしゃられました、私は30人の1人ですので、最初から何を考えていたかといいますと、みんなが集まる場をつくる。既に築かれている技術・成果等を受け継ぎ発展させるような場をサポートするような枠組み・意義付けができれば賛同を得られるのではないかと思います。

【主査】
 ありがとうございます。ご指摘のとおり、場の重要性というのは、一斉に表に出てまいりました。おっしゃいますように、ボトムアップのベクトルというのは既にいろいろあるということだと思います。ですから、ボトムアップのベクトルをきちっととらえるような枠組みをまず構築して、それの具体的な部分をつくっていって、大きな枠組みにつなげていく。そういうプロセスが、確実にゴールまでたどりつくための方策ではないかと思います。

【委員等】
 今回のプラットフォームをつくることは大変意義があることだと思います。目的の中で、産学官連携の開発から製品化までの縦のつながりいいと思いますが、横のつながりを異業種も含めて幅広く行うためには、テーマ性が求められるのではないかと思います。
 また、欧州プラットフォームのように、産学官連携で技術革新を妨げる規制の克服に努めることは重要かと思います。これにより、企業の参加意欲が高まることが期待されるかと思います。

【主査】
 ご指摘の通りで、大変大事な項目であると思います。ある種の政策立案プロセスの一つの要素を提供するような働きで、ネットワーク構築により問題が顕在化していき、それをどこかにフィードバック、フィードフォワードする局面が出てくるだろうと思います。

【委員等】
 標準化に向けたものも、本プラットフォームの中で提供できると、企業のモチベーションにつながると思います。産官学が個々の取組では困難なことを本プラットフォームで目指すことを目的にいれると良いのではないでしょうか。

【委員等】
 小さな大学でも意欲があって、アイデアがあれば参画できるようなものが必要であると思います。

【委員等】
 文部科学省内でも産学連携、学術国際、高等教育の枠を超えた横断的な連携をして頂きたいと思っています。
 大学の設備は老朽化しており、以前のように維持費がついていません。そういうところをプラットフォームで補っていただくことができれば非常にありがたいと思います。

【事務局】
 具体的にプラットフォームの中でどう位置づけていくかは、これから検討する必要がありますが、当課で事務局を担当している産学官連携推進小委員会でも同じような議論が出ており、連携しながら考えていきたいと思います。

【委員等】
 機器の利用により得られた情報の共有を含めたプラットフォーム構築が重要ではないかと思います。

【主査】
 ユニークな装置ができれば、そこから得られるデータというのは、これまたユニークですから、共用をさらに広める仕組みというのは必ず必要です。

【委員等】
 先端計測機器としてプラットフォームというのを考えると、基本的なのは、基盤となる技術を普遍化することで技術の標準を獲得し、そこから出る周辺技術の差別化を図るということ。おそらくこれからの先端計測機器は、そういうシステムインテグレーションということをとらない限りは世界に太刀打ちできないのではないか、危機感が非常にあります。
 一番いい例がソフトであって、ソフトの基盤になっているのは全部オープンソース化したで、それを組み合わせながら、その中に各社がそれぞれの知恵を絞った、差別化を図ったような新しいソフトが入ってきています。そういうふうにしていかなかったら、先端計測機器とか、製造業というのは多分世界についていけない。先端計測機器の立場に立つと、そういう意味での基礎的なブロック的なものをどううまく構築していって、それをみんなが自由に使えるか。それを使いこなせるような若い世代が育っていく必要があります。
 プラットフォームをベースにした上で、どのような新しい機能を持った先端計測機器を組み上げていくかということだったら、かなりのスピードアップが期待されるかもしれない。
 ですから、先端計測機器の現場を見ている人にとって、指標となる、具体的なイメージを掲示していただくよう、小委員会でもう少し詰めていただけたらと思います。
 もう一つは、技術の継承というのは教育にとって大変重要です。先端計測機器にとっては、シニアの方々がもつ技術を大学の若い学生たちにどう継承するか、ネットワークの出口、共用も含めて、少し考えていただくと、より人材育成に繋がっていくのではと考えています。

【主査】
 おそらく既に世の中にそういう目論見を持って活動されている方がいらっしゃるんだと思います。そういう方もこのプラットフォームには参画していただきたいと思っております。そうすると、幅が広がると思います。一番のポイントは、我々ですら知らない、そういうアクティビティーを、まずは先端計測分析機器という分野でまとめ上げていくということができれば、それはまさに、プラットフォーム議論のモデルになるのではと考えております。
 本日のご議論を踏まえて、ご意見等を事務局にお寄せいただけきたいと思います。この時点の議論というのは大変重要で、様々な要素、考えるべきポイントをなるべく幅広く集めて、それをもとに再度検討していきたいと思います。
 それでは、次の議題に移ります。

(3)産学イノベーション加速事業【先端計測分析技術・機器開発】の平成22年度採択結果について(報告)

【説明者】
 まず最初のほうの資料でございますが、これは今年度の採択の決定につきまして8月20日にプレス発表したものでございます。それで、おかげさまで240件という応募がございまして、昨年度とそう落ち込んでいないという状況でございまして、最終トータル29件の件数、課題を選定いたしました。
 今回、要素技術プログラムが150件と、かなり応募件数がございました。最終的に15件の採択をしております。機器開発につきましては、昨年度設定していただいたレーザーを使った分析システム、それから、三次元構造の可視化とか、そういったようなところで募集いたしまして、最終的に機器開発につきましては5件の採択ということ。それから、それ以外にソフトウエアにつきましても3件の採択。実証・実用化、これは15件の応募がありまして、6件ということで、採択の率としては非常に高いということでございますが、そういう状況でございました。応募者の概要はここにセクターごとに数字が出ておりますけれども、大学、特に国立大学の応募が多かったということでございます。

 それから、最後の14ページは、採択したものを大ざっぱな形で分けたものでございまして、全体としまして29件のうちライフサイエンス系が9件ですけれども、一番多かったナノテク材料関係のテーマが15件ということで、以下このような形で構成しているというものでございます。

 もう一つの資料でございますけれども、特にこれからまた23年度の機器開発プログラムの領域の設定ということがあろうかと思いますし、実は昨年度も機器開発プログラムの提案したものにつきまして多少分析しましたので、去年と今年を比較したというものでございます。

 2枚目、3枚目が過去の状況でございまして、過去7年間に領域を特定したものについては採択率が平均しますと12.5%。それから、領域を設定せずに自由に応募していただいたものの採択率が10.5%ということで、ほぼ同じような採択率になっているかと思っております。

 今年の特徴ということで、次の4ページ、5ページに少し書いておりますけれども、レーザー関係の領域につきましては10件の応募がありまして、1件採択がなされております。

 昨年度との応募の比較でございますけれども、次のページの7と書いてあるところ、円グラフが2つあり、下が昨年分析したもので、上が今年のものでございます。傾向的には、分析とか計測の手法については、上と下、じっと見ていただきますと、1番が分光分析が大体、それから、電子顕微鏡とか、マイクロ化学分析とか、光学顕微鏡とか、こういったような順番になっておりまして、次の8ページのところが活用はどうかということで少し見てみたものなんですけれども、これもちょっと見にくいんですけれども、22年度については、昨年度もそうなんですが、医療診断というのがトップになっておりました。そのほか、界面の物性とか、細胞を見るとか、環境の計測とか、そういったような順番になっておりました。

 最後のまとめということで、今回、もともと応募を本来は実証・実用化へ応募すべきであったというような点があったり、あるいは本来は機器開発プログラムに応募すべきと思われるようなものが要素技術に申請されたとか、そういったようなことがありまして、この辺、今後、募集説明会等でプログラムの趣旨をきちんと説明していくことが今後の課題と考えています。

【委員等】
 ネガティブな印象を受けますので、ポジティブな面に光を当てて分析頂いた方がよいと考えます。例えば、実証・実用化プログラムでは、他省庁で上がってきた課題もアプライしてきていますから、そういうものを実証・実用化に持っていくという意味ではほかにないものです。ソフトウェアプログラムの共通プラットフォームソフト開発も画期的だと思います。どのような新しい展開を目指しているのか等、そういう視点でも検討して頂きたいと考えています。

【主査】
 ありがとうございました。機器開発プログラムの解析、これは大事でありますけど、ほかのプログラムの要素技術なんかも同じように検討していただけるとありがたいですね。将来の全体の運営の方向決めに役に立つ形でご提案いただけると幸いです。

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研究振興局基盤研究課