産学官連携推進委員会(第13回) 議事録

1.日時

平成14年5月21日(火曜日) 15時~17時

2.場所

文部科学省 別館 大会議室

3.出席者

委員

 末松(主査)、小野田、川合、北村、小林、清水、白川、田中、田村

文部科学省

 遠藤研究振興局長、坂田審議官、加藤研究環境・産業連携課長、磯谷技術移転推進室長、佐々木技術移転推進室長補佐、吉住研究環境・産業連携課専門官 ほか

4.議事録

大学等における知的財産の創造と活用に関する戦略的取組について

  • 資料5に基づき事務局から説明した後、その内容に関する質疑が行われた。

その内容は以下のとおり。
(◎・・・主査 ○・・・委員 △・・・事務局)

委員 事務局から説明があった資料の具体的方策のところにある、法人化前の国立大学と法人化後の姿というところについて、法人化後の姿に関してはもう今までの議論で大学が一元管理するという方向が出ており、法人化前から法人につなぐところにある種の工夫が必要だということで、こういう形が出されたと思われる。TLO事業を今立ち上げている立場からいうと、私の関与している大学では、研究大学における知的マネジメントの一環として、このTLO業務を大学のインフラととらえて法人化後を目指している。法人化前の早急の対応ということで、大学の特許部みたいなものを作ったらどうかという提案であるが、特許の取得とファイリングとライセンシングというつながった形を分断して、特許を出すほうとそれを売るほうと分離した形で事業を行おうとすると、摩擦が起こり、それに携わる人間のインセンティブが失われる可能性がある。むしろ、法人化を2年後と考えれば、それぞれの大学の環境に分けて、今から約3年か5年の中期的な計画とそのゴールをタイムドメイン(時間割)というか時系列的に考えたほうがよい。TLOを初めから株式会社でやったところと、最初から中に作ろうと思ったところとの間には大分隔たりがあると思われる。また、ライセンシングと特許ファイリングにおいて、この研究成果を特許化するかどうかという議論には、必ずライセンスしようというモチベーションが働いている。それが全く違った部署で決められて、こういう特許を取ったから、これを売ってこいとTLOが言われることになると、そのライセンシングに対するドライビングホース(動機)が働かない。また、日本の企業の特殊性もあり、リエゾン活動をパッケージしないとライセンシングは難しい。先ほどの資料に書いてあった共同研究を推進するという点にほとんどの企業の方の興味が集まっており、それと別にしてただ特許をファイルしただけではほとんどライセンシングできないと言っても過言ではない。そうした意味から、特許部だけ作ると、売りに行くほうは非常にやりにくくなるという印象がある。

事務局 御指摘のとおり、まずTLOとの関係でいくと、特許部という言葉は悪いかもしれないので、知的財産創出支援部でもいいが、そことTLOはかなり密接な連携が必要である。例えば、できるかどうか検討しなければいけないが、業務委託契約のようなものを結び、今のうちから国立大学とTLOと、何らかの形で組織として連携して、一体的にTLOの職員の方と大学側の窓口になっている方がファイリングのときからライセンスの決定のところまで共同で携わるということも考えられる。ライセンスの決定のところだけはTLOに任せると考えたほうがいいが、ファイリングの決定についてもTLOに同じ委員会に出てもらうというような何か思い切ったやり方をする必要があると思われる。この提案の経緯としては、TLOだけに任せた閉じられた世界ではうまくいかない部分もあるのではないかという考えが根底にある。大学にはノウハウがないので、大学のほうに民間の方の知恵が直接入るような形にしておき、TLOと大学が一緒になって特許支援あるいは活用ができる体制を組むことができるように、3年間、5年間と期限を区切った上で支援できる体制が必要ではないかと思う。もう一つ、御指摘があったようにリエゾン機能とのリンクは必要であり、契約機能等との連携は是非検討したい。

主査 特許をどう活用するかということと、特許をどう取るかということはリンクしているので、そこを一括して行うということは是非考えてほしい。

委員 実際、あと2年を切る形で法人化が予定されている。その2年間の間に臨時に担当を大学に作るということではなく、2年後のあるべき姿をイメージして、そうした組織の整備を始めていかないと、指摘があった矛盾が起こると思われる。今年の8月から9月に大学のほうでは中期計画を出すなど、法人化に向けた作業が始まっており、決して法人化後と法人化前の組織とが独立してあるのではなく、明らかに法人化後のイメージが今から明確に出てくる。先ほどの指摘にあった、内部に対立があるような形ではなく、法人化後の一番理想的な形につながるような形でこの特許担当部があればいいのではないかと思われるし、中期計画を出すときもいろいろと参考になるので、その辺に配慮してほしい。

主査 2年先に法人化になることを前提で、その間国立大学としていろいろな不都合があれば便宜的に処理していくという方向で進めていった方がよいということには同感である。

委員 長らく企業で知的財産を所管をしていた立場から、実務や知的財産の費用対効果について多少意見を述べたい。まず大部分の企業の知的財産部は、中にいる人間は特許のプロフェッショナルよりも契約のプロフェッショナルのほうが多い。仕事の業務として圧倒的に契約に関することが多い。特許を出願するだけであれば、本社にいなくてもOBか何かのネットワークを作れば、いくらだって出願のためのサポーターはそろえることができる。一番大事なのは契約あるいは係争問題への対処である。そういう人材が主として、この記述の中には見られない。これから法人化後あるいは法人化前でもよろしいが、大学という一つの組織体に必要なのは、そういう特許だけというよりもリエゾンのプロフェッショナルである。リエゾンの中には契約という大変大きな機能があり、そこで特許の取得と係わってくる。特許取得だけのためのサポーターについては、別に正規の大学職員として置かなくても支援を得ることは比較的可能であるので、まずはコアになることを考えてほしい。あと、問題は費用対効果についてであるが、企業では、とにかく利用することを目的に研究開発をして可能な限り知的財産権を取得しているが、実際にそれを活用するパーセンテージは極めて低い。それでもやはり出しておかないといけないという方針で、なるべく一応は出願するという建て前でいる。ただし、権利化するときに多少お金が要るので、その点については検討するし、また、外国出願のときにはさらにもう一回絞り込みをする。その点では費用対効果の戦略が必要である。具体的にいえば、知的財産権に係る費用は年間平均、固定費として30億円ぐらいであり、収入が100億ぐらいである。大抵日本の大手の企業は黒字である。なぜ黒字なのかといえば、特許を売ったわけではなく、技術を売ったためである。買う方にとっては、何かの技術だけの特許よりも、それにまつわるすべての技術を買い取ることによってビジネスがスピードアップする。つまり、先ほど指摘があったように、特許だけ売ろうとしてもなかなか売れないわけであり、共同研究という形で技術の外側が手に入って初めて意味がある。特許だけ買うということは、権利の関係で邪魔になっているときであり、買うことによって邪魔をなくすだけである。取った特許をどう生かすかということは、まさに共同研究などの研究機能がセットでないといけない。これはベンチャーを作るときも同じである。その辺の仕事のやり方がTLOのある意味で一番難しい、かつ大事なところになるのではないかと思う。我々企業はそこでかなりの収入を得ているが、それはあくまでも一つの大きな工場ごとの技術パッケージで売っており、そうした技術パッケージでないと売れなくなっている。それから、現在、企業は海外に生産立地で進出しており、合弁法人を作ったりして海外で生産を行っている。そのお金を日本の国内に持ってくるには、ライセンスフィー(実施料収入)という形で持ってくるしか方法がない。そうした背景があるため、比較的日本の企業は知的財産権の収入がものすごく大きくなっていると思われる。

主査 今、企業の例も述べていただいたが、各大学ごとにスタンスが随分違うと思われる。いずれにしても、産学連携の戦略が中心にあり、その戦略と外部との契約、あるいはどういう特許を出していくかということが非常に大事である。おそらく事務局としては、その意味を込めて特許部ということを考えているのではないかと思う。その内容において、特許を出すだけではなく、外部といかにして連携をしていくか、あるいはどういう体制で外部と連携していくかということが非常に大事である。特許部だけで成功したとか成功しないということではなく、それを中心に置いた産学連携の受託について、共同研究あるいは委任権利金みたいな形でどういうふうに入っていくかということである。そこをどうやって活性化するかが一番問題である。MITなども特許収入というのは微々たるものであるが、産学連携による研究費が、その何十倍も入ってきている。そこをどうやって行うか、認識するかということが非常に大事であると思われる。

委員 この資料の具体的方策の欄に「知的財産確保に係る大学・研究者の意識向上」「大学、TLO等の産学官連携コーディネーター人材等の養成」ということが記載されている。今まさに大学の中で、先生方の間で産学連携に対する意識の個人差、温度差がある。共同研究をすぐ行うような人と、全く実用ではないと決められないが、かなり原理的なことを研究している人とがおり、両者の間にはかなりの温度差がある。そうした中で、先生方自身が気づいていない知的財産が取れるような研究内容がかなり多くある。法人化の前後とか関係なしに、そうした温度差がかなりまだあるので、ここにある意識向上に向けた取組についてもっと組織的に模索してほしい。もちろん各大学の事情に応じていろいろ考えられるが、共同研究にすぐには直結しない研究分野がかなりあるので、そこのところを何とか意識向上のために対処するような検討をお願いしたい。

主査 今の指摘は、もっと広い立場からの発言であるが、非常に大事である。自分はあまり関係ないと思って研究しているようなことも、実は大変大きな特許のネタになっていることが多いし、本人は気がついていないことが多くある。そこを大学の知的財産戦略部みたいなところが本人に気付かせて、特許取得を支援するということは有効であると思われる。

委員 大学の中には特許を何百も取っている先生もいるし、全くゼロの先生もいる。特許部というものには、そういう先生方を組織的にエンカレッジするという機能も入れてほしい。そのためには、しっかりしたコーディネーターがかなり必要になると思われる。

委員 我々のところは、おそらく、知財権を担保にした融資というものを行っている、日本で唯一の金融機関と思われる。知財権というものを担保にとったとしても、それ自体が実際に担保として価値があるかどうかというのは別の問題である。これまでに、200件近く融資をしてきたが、そのうちベンチャー企業が多く、倒れる企業も多い。その際に、特許権等を担保にとっているが、残念なことにほとんど価値を生まない。また価値を生む場合にも、その特許権を使用している人、あるいは持っている人に買い戻してもらうという形でしか価値が出てこない。今のところ日本の知財権というのは、ほとんど無担保に近い形である。資金を得るためには、投資をしてくれそうな人にこういう情報があるということをどれだけ知らしめるかが重要である。この特許は実は、こういうところで活用できるというようなことがより広く知らしめられれば、それを買おうという人の可能性も広がり、知財権自体の価値を高めていくことになる。大学の特許部の構想については、こうした広報にも使えるのではないか。金融の観点から見ると、その特許が実際にどれだけの価値になるのか、もしそのベンチャー企業がうまくいかないときには、どれだけのものを生むのかというところがポイントになる。知らしめるというネットワーキングの基礎についても何か方策を考えてもらえれば、知財権そのものの価値が上がって、資金もより回るようになるということがあり得るのではないかと思われる。

委員 私も国立大学に特許部を作るということについては大賛成である。我々は広域型のTLOをやっており、たくさんの大学と関係がある。その際に、どこに話をすればよいのか、どこが窓口なのか全然わからないことがあった。そのため、各大学の先生個人からこういう特許を出願したいという申し出を受けて、この特許がものになるかどうかを考えて、先生個人と話し合ってきている。そうした窓口となるような特許部を作ってもらえれば非常にありがたい。ただ、今のような状態でいきなり作っても、おそらく機能しないのではないか。経験もないので、結局「待ち」の姿勢になり、自分から何かをやろうとしないのではないか。一つの方策としては、アメリカのように、ものすごい高給で、意識の高い優秀な人材をそこに投入して、1年から2、3年は頑張ってもらうという形をとれば、最初苦労があるが、いずれものになって、立ち上がっていくと思われる。そういう点から考えれば、コーディネーターとかライセンサーといった人材がものすごく大事であるということになる。これはTLO側、大学側の両方に大事である。また、日本テクノマートの研修会において、コーディネーター育成のための講座の講師を依頼されて話をしたりしているが、企業の知財部のOBの方とか、技術のOBの方や若い人などが熱心に聞きにきている。しかし、その講義を聞いただけでコーディネーターになれるわけではなく、結局は現場研修を要望することになる。ベンチャーでも何でもいいから、私はお金もうけには関係なく、ボランティアでもいいからそういう仕事をやってみたいという理由で、TLOで研修させてくれということもあり得る。そういう人が10人も来て、その辺でうろうろされていては、座る場所もないし、ライセンサーに一々ついていけばいいが、大学に行って、ただ座っていても何もならないので仕事が機能しない。そうした問題を解決するには、資金が必要である。1人研修をやるためには一体どれくらいの費用が要るかを算出して、それを継続的に行い、コーディネーターを育成していってはどうか。この両方について具体的なプランニングをしてもらい、資金投下をしてもらえば立ち上がっていくのではないかと思う。

主査 コーディネーター育成、あるいは人材がなければ何も動かない。外国の大学の例でいうと、企業の社長を辞めた人が、それ相応の報酬で、大学の外郭団体に来て、企業との連携戦略を行っていることが随分ある。給料が高くなることを覚悟の上で、2人分、3人分の給料をつぎ込むということをする必要があると思われる。結局これは全部戦略性に絡むことなので、戦略性を持った人材と、その教育の設定並びに資金支援ということになる。

委員 我々のTLOでは、大体200件ぐらい2年間で特許を出願して、そのうち40件ぐらいライセンシングできている。そのほとんどは20人ぐらいいるコーディネーターが先生方との信頼関係をうまく築いたことによる。ただ、それに相応した給料の支払いができていない。立ち上がりのときは飛行機でも何でも一番エネルギーを食うときであるので、政府の施策という面から、こうした人材の供給というものを上から押しつけるのではなく、組織が必要としている人材を自分で探させて獲得させるための財政基盤の支援が必要であると思われる。もう一つ、教官と営業の両方に携わった経験からいうと、日本の大学に共通する文化として、教官の権限が強過ぎて組織でマネージ(管理)できないということがあると思われる。教官の決定がすべてであり、何でも覆されてしまうことがある。例えば、外の産業界の方との信頼関係で成り立っている案件について、教官のごり押しでせっかくいいところまで来たのを全部御破算にされてしまってはもうどうしようもない。こうしたことが現状にある。私が先ほど時系列的に進めたほうがいいといったのは、そういう文化は時間をかけて変えていくしかないからである。TLOのポテンシャルがある程度大きくなり、教官から信頼できる組織にならない限り、教官もついわがままを言いたくなるわけである。ところが、2年半でもある程度実績を作ると、教官の方々が非常に協力的になってきた。そういう意味で、自動的に何々課という組織を作って人材をそろえれば、そこからすぐに教官との信頼関係が生まれるわけがないので、時間が必要であるため考えてほしいと述べただけである。もちろん、教官の方が全員しっかりとした認識を持って、コーディネーターもそれに足り得る人材である組織であれば、一、二の三で変えてもいいが、それは現実には非常に難しい。信頼関係は実践の中で培っていくしかない。 実績なしで机の上だけでやった組織というのは動かないということが実体験からの考えである。

委員 大学の特許部という名前は問題があると思われるが、そういう窓口を作ることには賛成である。学会のほうにもよく問い合わせがあり、窓口が明確になることは非常にいいことである。また、先ほどから取り上げられているコーディネーターやリエゾンができる人材を是非そういうところに配置してほしい。何人かの学生等から特許の出願についての問い合わせなどが、我々の事務局に相談に訪れることが多くなった。非常にもったいないことなので、こういう部などができれば非常に便利である。今のところ問題解決型の問い合わせがきたときの対応が全然できていない。いいと思って利用した制度が問題ばかり起こしているという状況があるので、是非その辺について対応できる人の育成とともに、そういう人をそこに張りつけることをお願いしたい。
委員 やはり特許の出願維持には大変な費用がかかる。この問題については。よく考えておかなければいけない。大学の発明を出願しなければ、すべて公知になってしまうので、特許権として確保しておく必要がある。たまたま事務局から海外出願についての話があったが、日本の大学が日本国の特許を取得して海外出願をしなかったら、大変なことになる。要するに日本の企業は抑圧するが、海外はフリーにやらせるということに論理的にはなってしまう。我々企業が海外に特許出願をするときにその点は非常に注意を払っており、無駄な出願はせずに、出願が必要な国を選択して行う。また、これはプロフェッショナル(専門的)なことであるので、例えば日本の大学の海外特許出願のために多少支援できるメカニズムを国が作ったほうが効率的ではないかと思われる。そのためには、特許事務所などを上手にラインアップして、海外の現地の弁理士とのネットワークなどを整備してサポートできる仕組みを是非考えてほしい。

主査 これも一種の世界戦略であるので、一大学で完結できるのか、あるいはある部分には国が支援をしていかなければいけないのではないかといろいろな議論があると思われる。それから、その気がない先生に、これは特許に該当しますよということを指摘することもある。また、もう一つ心配なのは、今、特許にたまたま多少気がある集団を相手にしているわけであるが、国として考えると、すごく大きな普遍性の高い特許が出なければいけない。それは、やはりじっくり研究投資をして、いわゆる基礎研究というか、失敗を覚悟でやってもらうといった視点がどこかにあり、そこから多様性を導き出すということである。多様性の中にきらっと光るすごいものがときどき出てくるという視点も持たなければならない。一方では何が出るかわからない、予測ができない分野に対して、あまり産業化ということを言わないでどんどん金を投入し、他方では、出そうなところはほんとうに効率的にそれをうまくコーディネーター等の介入によって連携に持っていくといった、二重の視点を是非大学の中に持っていかなければいけない。「知」の創造と活用に関しては、画期的なものは全く相手にされないところから出てくるという視点と、何でも引っかかりそうなところは全部アレンジして、うまく産業界と結びつけていくという視点の二重の視点を是非お願いしたい。

委員 資料の一番上の部分がおそらく指摘があったところではないかと思う。発明の日の講演で、基礎研究、基本特許が足りないということを特許庁長官も大分訴えており、私もそれには賛成である。研究者の立場から少しコメントさせていただきたいのは、仮にそういう基本特許のようなもの、もしくは少し役に立ちそうなものを自分で得たとしても、実際それがほんとうに製品になったり、産業化するまでに道は遠いということである。一つは、シーズがあればすぐお金になるわけではなく、そこまでかなり時間がかかることであり、もう一つは、何かベンチャーのような形で研究成果を知っている人自らが汗を流すことをしなければいけないということである。その二つのところを大学における特許活用の促進ということで簡潔に書いてあるが、やはり大学発ベンチャーの促進など少し明確な形で何かメッセージを強く送ったほうがいいのではないか。ベンチャーについては随分今いろいろな施策が出ているが、それでもベンチャーに積極的でない方もいれば、そうでない方もいるので、ここは促進してほしい。
それから、もう一つはインキュベーションに関しては、私が最近気がつくのは大学の中だけで研究してきた相当いいシーズでも、ほんとうの産業にどう結びつくかが見えないときがあるということである。これはいろいろな問題があるかもしれないが、各企業に大学人がブランチ(支店)のようなものを設けて行くこともフェアな立場でできれば、シーズの活用に有効であるので、その辺まで突っ込んだ表現をしていただければよいと思う。

主査 今の発言は非常に大事である。研究から実際の企業化までを考えると、移り始めるフェーズについては比較的今までの議論でカバーしているが、その一番基となる議論である、ものになるかどうかわからないということがある。研究者がこれは何かものになるかもしれないということを考え始めていても、画期的な仕事であればあるほど10年、20年かかったりする。そのような研究は一体どう評価するのか。やはり、それを20年ぐらい長い時間をかけて育てなければ、日本が世界をリードできる産業分野というのは作れないわけである。そうした研究は産業界も最初の10年ぐらいはあまり相手にしない。その辺を実は文部科学省から助けていただいたという、私自身の個人的な経験がある。少し時間がたって認知が進めば、今度は産業界は共同研究という形でそれを助け始める。産業化には、産業界が全面的に動くという段階、その前には、産業界が自分は動かずに共同研究等で大学に研究支援をする段階があり、さらにその前には、研究者が自分でもしかするとものになるのではということを考えながら研究をしており、国しか助けようがない段階がある。そうした三つぐらいのフェーズがあると思われるが、それを区別して支援していくことも、この「知」の創出に関係するものとして是非お願いしたい。

委員 今、委員から指摘があったことは現実にTLOなどで起きている。ある先生がTLOにおもしろい特許を持って来た際、これは基本特許になり得ると判断してライセンシングで企業に持っていったが、その企業が取り上げるには産業化までものすごい過程があるという理由で、断られたことがある。大学としてはこれ以上費用の点、労力の点でもう対処できないということになり、その特許は店ざらしになっている、非常にもったいないと思うが、現行のシステムではそれ以上は動かせない。何かそういう事態に乗り出していって、インキュベーションをやるようなシステムを作らないと、いい特許が店ざらしになってしまう。

主査 今の指摘は、いずれは産学連携になじむが、初期の段階では絶対になじまないものである。当初は企業から関心をもたれないが、10年もすれば関心をもたれるようになるので、そこまでをしっかり支援するシステムが必要であり、それは国の支援しかないと思う。その後は、産業界にだんだん移っていくというタイムシークエンスを是非作っていただき、国、国と企業、それから企業と研究者という流れの観点が非常に大事である。視点を30年ぐらいに先に置く必要があり、どのフェーズを今ここで考えるかというフェーズ分けも是非お願いしたい。そうしなければ、リーディング産業が育たない。世界のリーディング産業というものは、多分20年ぐらい研究者が雌伏をしていた期間がないと絶対リーディングできるものにはならない。それを何とか育てていくということを、特に大学の研究と産業界の連携ということと関係するので、その辺も強調してほしい。

委員 産学官連携や「知」の創出をエンカレッジするために原稿を書くとき、いつも人材の育成ということが気になり、そのことについて書くことがある。具体的に何をやればいいのかということについて、いま一つ現場に伝わっていないということもあるので、 例えば法科大学院的なところで知財を強化してもらうということは、比較的わかりやすい。また、企業で経験のある方が現場自体をよく知っているので、そうした方に人材育成に参画していただくということもある程度わかる。ただ、それだけでは足りないのであれば、その他に教育課程の中に何か組み込まなければいけないのかなど、今後どうすればよいのかということについて、もっと具体的に説明してもらうと、世の中にはわかりやすいのではないか。

主査 人材育成とみんな簡単に言うが、一体どういう人材を育成したいのか、そのためにはどういう教育システムでどういう内容で教育するのかという疑問は正しく一番のキーになる。特にコーディネーターの人材育成ということを考えれば、一体どういう教育が必要なのか、あるいはどのような指導者を連れてくればよいのかということについて教えてほしい。

委員 企業では知的財産部と大抵言うが、そこにいるキャリアの人というのは、大体3種類に分かれると思われる。第一の種類は法学部の出身の人間、いわゆる法務に詳しい人材である。これらの人材は交渉や係争に携わっているが、知的財産部の中で知的財産にかかわる作業をやっているために、必然的に技術の内容、それぞれの企業の特徴ある技術についてどんどん詳しくなっていってしまうということがある。それから次に、純粋の研究職の方たちがしかるべきタイミングで知的財産部のほうにトランスレーション(異動)されて、まずは出願業務ぐらいから始めて、どんどん経験を積んでいき、しかるべきタイミングで弁理士の試験も通ってしまうといった、出願型のプロフェッショナル人材がある。当然そういう方たちは権利範囲などについては詳しいので、多少の侵害や何かのことにももちろん携わるが、相手の法務関係者との1対1のぎりぎりしたやりとりは厳しいかもしれない。第三のタイプが、入社当初から知的財産をやりたいという、何とも言えないはっきりしない人材である。22歳くらいの年でそう思う人というのは、大体はっきりしない人材である。そうした人の中には技術系の人、社会系の人といるが、最初から特許をやりたいということで、最初から実地で勉強させている。いずれにしても非常に経験要素が高くて、机の上で習うことはほとんどないということである。私でも何の経験もないが、嫌というほど出願しており、嫌というほど侵害の案件などを扱っているので、知的財産の仕事はできると思う。弁理士の資格も何もないが、そのかわり経験だけは山ほどある。

主査 経験要素が高いということを考えると、例えば外国の例のように、既に社長さんなど実務を経験したような人をお連れして、その方にふさわしい給料を支払って人材育成に携わってもらうことが必要ではないか。大学という特殊性を加味してやってもらうということの意義は非常に大きいし、そうした人材はそんなに少ないわけではないと思うので、そういう場を提供し、有能な人を遊ばせないということも必要ではないか。

委員 日本に何人の弁理士が必要なのかという調査が必要だと思われる。これは作り過ぎると、また問題になるので、慎重に考えていかなければならない。特許協会は日本で多分ほとんど800社か1,000社近い企業をラインアップして、特許庁とかなりいいコネクションを持ってやっている純粋民間団体である。そうしたところとある程度接点を持って、有資格者の問題を議論されたほうがよろしいのではないか。

委員 当大学出身の弁理士は国内でも一番多く、東京近辺に住んでいるので、ある種のシンジケートが既に作れているので、アウトソーシングで済むため、大学内部にそうした人材を抱え込んでいない。コーディネーターと発明者と弁理士も含めた体制というのは、地域によって異なる。地域に2人しか弁理士がいないというところもあり、そういうところはそうした体制を作ることはほとんど不可能である。一般論では言えないが、今の日本の産業のかなりのところでアウトソーシングをする体制ができているが、大学やTLOのポテンシャルがまだ低いので、1対1のコーポレート(協力)には信頼を置いていないというのが現状である。確かに論文を書くことと特許を書くことは全く違ったスキル(技術)であり、論文のように正直に書くと、特許としてはほとんど価値がなくなってしまうので、そこをどのようにして切り分けるかというところの議論に、今入っているところである。今までは企業の知財部の方は大学をほとんど相手にしなかったが、現在は本気で話そうとしているので、いいチャンスだと思う。
主査 地域によって弁理士と接触できないということは、私も以前経験したことがある。情報ネットワークみたいなもので必要なときに必要なところとすぐにつなげるという意味でのインフラストラクチャーの整備も必要ではないか。確かに大都市近辺というのは弁理士の数は多いが、それ以外のところでは全くいないところもある。そうした人との情報技術を活用したネットワークの作成、利用と同時に、ある論文に対して、それに関連する特許などをネットワークで探す機能の充実をお願いしたい。アメリカなどでは、今それが非常に発達しつつある。論文一つを探すと、そこからどういう関連特許があって、さらにどういう研究者がどれくらいということまでわかるような仕組みが開発されつつある。そういうこともインフラ整備の一つとしてお願いしたい。

委員 イギリスはそういった意味では非常に参考にすべきところがある。ちょうどイギリス自体も教育をどうするのか、大学と産業をどうするのかということについて悩んでいる最中である。今のネットワーキングの話でいえば、AURIR(アソシエーション・オブ・ユニバーシティー・リサーチ・アンド・インダストリー・リエゾン)というものがある。イギリスでのTLOに当たるILO(インダストリー・リエゾン・オフィス)はAURIRの一部分である。各ILOは小規模であり、各自で優秀な人を雇うとコストがかかるため、全国規模のネットワーキングの組織を作っている。その組織にはILOの人だけでなく、産業界の人たちも準メンバーのような形で入っている。個々のTLOやILOでは資金負担が大変で優秀なスタッフは雇えないが、全体で行えば、アウトソーシングとして有名なコンサルティング会社が使えたりできる。 これまでアメリカと違ってイギリスは、産業界に対しては人材の供給というのが主であり、オックスフォードやケンブリッジでは基礎研究を中心にしていた。教育のほうになかなか財政支出が回らない中で、各大学が個別にやっていくためにどうしていったらいいのかということで、大学組織として産業界といかにして結びつくかということを、現在悩みながら検討しているところである。イギリスでも大学の教官が非常に力を持っているので、これまでは個人がライセンスの形で企業と結びついていたが、それをどうやって組織へ戻すかということのために、個別の契約で利益相反について必ず教授とは結ぶように政府のほうで支援するなど模索している最中なので、一つの参考になるかとは思われる。

主査 イギリスの方というのは非常にいろいろな分野で先端的なことをやっている。インターネットなどはイギリスが元である。バーナーズ・リー氏(wwwの生みの親)は「普遍性」を強調していた。彼は独創性という言い方はしなかった。独創性というのは、何が独創性であるのかわからないからである。普遍性と言われれば、確かにこれは非常に独創的でもあり、誰もが使えるという意味で企業にも関係してくる。普遍的な考え方であり、普遍的に使うということで、普遍性という言い方をすると、産学官連携の議論も全部入ってくる。単に知識を生み出すというだけではなくて、普遍性のために何かやっていくという意味で、普遍性を追求するような大学人というのも非常に必要である。先ほど長い期間をかけて一つの分野ができるということを言ったが、みんな普遍性を求めているのだろうと思われる。それは一見、いわゆる自然科学分野的な意味での知を創造していないように見えるかもしれないが、後から見れば、それは非常に大きなある広がりで社会に広がっていくということがありえる。そういうことを評価するようにしていかないと非常に困るので、「普遍性」と「先導性」といった言葉もどこかに書いてもらう必要があると思われる。

委員 産学連携の現状までの議論について、特に先ほどのインキュベーションなどを考えると、日本にこれだけたくさんある特に自然科学系の学会というのは一体どういう立場なのかということがある。学会によっては、大企業と大学の先生ばかりという学会もあるが、中にはたくさんの中小企業が入っている学会などがある。そうした学会は論文を発表したらおしまいというところが多いが、最近は私が関係している学会でも産学連携をやるという動きがあり、特別委員会を作った。大部分の学会はは専門学会であるので、ある専門分野のインキュベーションについて学会が活用できないか検討してみてはどうか。

主査 学会が産学連携に及ぼしている役割というのを一回洗い直してみたらどうかという意見は非常に重要である。

委員 実はそのことは、第2期科学技術基本計画にあちらこちらに積極的に書いてもらったことである。業界や技術分野によって、学会には大変温度差がある。一応理工系、エンジニアリング系の学協会は日本工学会という形で100を超える学協会ネットワークを作っている。今、具体的に進んでいるのは、一つはJABEEと言われる工学教育認定である。これは学協会連合体としてやっている。今立ち上げようとしているのは、CPD(コンティニューイング・プロフェッショナル・ディベロップメンツ、「継続教育」)である。これもやはり学協会の力を通じて産学連携をベースに進んでいる。産学連携の土壌のもとに技術戦略を策定するということについては技術分野によって温度差があり、積極的に別の組織も作り、産学連携についてのテーマを国にプロポーザルをして推進し、受け皿になっているというところがあれば、全然やっていないところもある。しかし、結局はお金がないため、知恵を使わせる以上のことはなかなか難しいというのが実態ではないかと思われる。文部科学省自身が所管している専門学協会はかなり多いと思うので、そういう動きをサポートしてもらえれば大変いい動きが出てくるのではないか。

主査 これは一度、学協会の公認の立場からの調査をされるといいかもしれない。

事務局 所管課と相談はしてみるが、例えば分野別にいろいろなプロジェクトを立ち上げたりするとき、そうしたところからいろいろ意見をいただいたり、サポート体制はどういうのがいいのかということについては検討してみる価値はあると思われる。

主査 日本のように月例の研究会をきちんと開いている学会活動というのは、世界でもほとんど例がない。同じ分野で毎月やっていく学会が日本の産学連携を推進してきたのではないかと思われる。学会については確かに非常に盲点であった。月例でやっている学会というのは世界にはなく、その点で日本は優れていると思われるので、是非その点は検討してほしい。

委員 最近、私のところにいろいろな投資の方が相談に来ることが大変多くある。その経験から感じた一番深刻な問題は、この特許は将来使えるかという将来の見通しである。それで、私が非常に心配しているのは、この特許を出すことを進めるのはいいが、役に立たない特許がだめな論文みたいにどんどん出てくることである。よりいい特許をビジネスに結びつけるということについての視点も大学の人が持ったほうがいいのではないかと思う。

主査 今の指摘は、先ほどの戦略と非常に関係しており、特許を出すのに値するかどうかというセレクションの問題である。瑣末な特許ではなくて、大事な特許を選び出して、しかもそうなるようにアレンジして出すということがポイントだと思われる。

5. 今後の日程

 次回の開催日時については、各委員との日程調整の上、事務局から改めて連絡することとされた。

お問合せ先

研究振興局研究環境・産業連携課技術移転推進室

(研究振興局研究環境・産業連携課技術移転推進室)