産学官連携推進委員会(第26回) 議事録

1.日時

平成16年6月23日(水曜日) 10時~12時

2.場所

文部科学省 10階 2、3会議室

3.出席者

委員

 末松(主査)、生駒、伊藤、小野田、岸、北村、小林、清水、白川、田村、平井、堀場、安井

文部科学省

 結城文部科学審議官、田中研究環境・産業連携課長、伊藤技術移転推進室長、笹川技術移転推進室長補佐、鎌田研究環境・産業連携課長補佐 ほか

4.議事録

  • 議事に入る前に大学発ベンチャーの利益相反にかかる報道について事務局から報告があった後、委員による自由討論が行われた。
    その内容は以下のとおり。

(◎・・・主査 ○・・・委員 △・・・事務局)

委員
 あたかも未公開株を持つこと自体が悪いような、大きな報道があることに対して、何らかの見解をはっきり示された方がいいような気がします。もう一つ、エクイティ(株式の持分)を持っている人が臨床試験をやるということ、これはいいんでしょうか。現在は法律として認められているのでしょうか。

事務局
 現在、その部分について特段禁止はされていません。厚生労働省等の方でもいろいろガイドライン等定めておりますが、厚生労働省のガイドラインでも、その部分を気にするような視点はございません。

委員
 では、このような報道は全く無知に基づいた行動であると、こう思ってよろしいわけですか。

事務局
 報道の根拠は、例えばアメリカでは禁止されているんだと、そういう記事も載っているわけですけれども、それは正確ではありません。アメリカは各大学がそれぞれのポリシーを決めていて、確かに禁止をしているというところもあります。ただ、アメリカの医学大学全体のガイドラインにあたるものは、それは基本的にヒューマンサブジェクト(人対象)に対しての研究をする人は、株を持つということは好ましくないんだ、と。しかしながら、その研究者でなければできない、あるいは大学から起業した会社のように、特別の技術を持ってやるような企業の場合には、往々にしてその人でなければできない研究が多いのではないか。その場合には、利益相反の委員会等の大学の委員会をきちんと通した上でやるということが適切なのではないかとされています。そういう幾つもの構えになった仕組が、アメリカでは実施をされているということです。文部科学省としても、その記事が出た直後に、いろいろ報道から問い合わせをいただきまして、我々としては違法性はなく、特にベンチャー関係の方々が未公開株を持つということは、普通にあるのではないか、ということを申し上げております。利益相反の考え方というのは、マネージメントをどうするのかということを、各大学できちんとやることが大事なのであって、持つこと持たないこと自体が良いとか悪いとか、そういうことは全然ありませんよ、と伝えております。一部の記事には、その旨を言及していただいているところです。

主査
 こういう未公開株を大学の先生が持つということは、もう一つの「夢」になっているわけですね。それに、ちょうどベンチャーをスタートしようというときにこういうことが起こりますと、みんな萎縮してしまって、せっかくこういう議論をしても、起業が先へ進まないのではないかという恐れもあります。ただいまのような、やはりこれは持っていて良いのですよという見解等を、何らかの形で外にちゃんと公開することは非常に重要ではないか。それが大学人の励みになることだと思いますので、ひとつよろしくお願いしたいです。

委員
 この会議は公開の会議ですよね。ですから、あえて発言します。新聞社が一方で産学連携を推進して、一方でああいう記事を書くという、その不見識さが非常に問題だと思います。あえて一言、新聞社に対する発言として発言させていただきます。

委員
 私は、文科省としてはっきりした見解を、もう少し明確に出してほしいですね。記者に聞かれたからそれに答えて、それもこんな小さい記事の最後のところに書いてあることで満足しているのは、おかしいと思います。ですから、我々も大学発ベンチャーをいろいろやってきましたけれども、先生にお願いにして株を引き受けてもらって、いわば運命共同体の出資者になってもらった末に、しかし一部の新聞では上場して儲けた、では、損したらどう、この会社がつぶれたらどうなるんですか、新聞記事にならないんですか。必ずベンチャーで儲かるとは限らないし、大体ベンチャーは儲からない方がずうっと多い。そのとき、先生がなけなしのお金を出して投資した。上場どころか、会社がつぶれた。そのとき新聞はどう書いてくれるのですか。「よくやった」というのか、それとも「こんなことで株を買ったから、損したのだ」というのか。この辺は絶対はっきりしてもらわなければ。これから産学連携を先生方も一緒にやると言ってくれているのに、こんなことで、ただ「けしからん」という犬の遠吠えをあげているだけでは、絶対にいけないと思いますね。

主査
 利益相反が存在する理由は、こういう誤解を受けるようなことが起こったときに、組織としてルールに従って、大学を守ることにあると思います。先ほどの委員もおっしゃいますように、ちゃんとした見解を出してほしいと思いますので、審議会でひとつ……

委員
 メディアの側の人間なものですから、言い訳ということではないのですけれども。背景には、こういう問題があって、利益相反ということが議論されているということが念頭にない記者が、恐らく大半を占める実態があると思います。それと、世の中の反映かなと思いますが、ムードとして一部の人間が利益を得るということに対する嫉妬心が背景にあるのではないしょうか。そういう情報が記者のいるところに届く、そういう実態があると、これは推測ですが、では、メディアはどうすればいいかということになる。そういう大きな世の中の流れ等を、できるだけ多くの記者が意識しながら仕事に当たるということが重要なのでしょう。けれど要望としては、早い段階で当局なり大学なりに、明確に取材者に対して意思表示というか、物事の説明をはっきりした形でお示しいただくのが、とりあえずはいいのではないかと思います。

委員
 今までのご発言に、私は全く賛成で、特につけ加えることはないんですが、1点だけ言わせていただきたいと思います。この問題は利益相反の中でも特殊な問題でして、いわゆる一般的な利益相反の問題ではないのです。臨床試験という問題、あるいは臨床研究という問題が絡んでいますので、若干特殊な分野だと思います。既に、この委員会のワーキンググループで報告書が出されまして、その中にワンパラグラフがあります。臨床に関する利益相反については、今後も研究を深めていきましょうという提言がなされております。これは私個人の見解ですが、そこの提言を生かして、今回のことを契機に、何らかの形で臨床に対する方々が安心して産学連携を進めることができるように、ガイドラインをつくるか、あるいは研究を行うだけでもいいのかもしれませんけれども、ディスカッションする場をつくっていくとか、そういった前向きな場を、ぜひつくっていただきたい。この問題は、厚生労働省の側の臨床試験に関するガイドライン等と、非常に隣接する分野であるのですね。ですから、その両者の関係がどうなっているのかとか、それも実は非常に難しい問題でございます。だから、ぜひ、その辺の議論を進めていきたいなと考えておりますので、ご配慮いただければと思います。

委員
 私どもも利益相反のマネジメントにつきましては、基本的な考え方を示して、各大学において実施の部分、具体的に取り組んでいただくという形で考えるという基本的なラインは、国立大学の法人化をふまえ、変わってはおりません。さはさりながら、さまざまな情報について、各大学は十分にアクセスや収集ができないというような問題もあるのではないかと、若干、私どもも反省をしているところでございます。委員の先生方からのいろいろなご意見から、アメリカでも、まさにこの問題はいろいろ議論がなされていると伺っております。そういう情報も踏まえ、大いに情報を提供していきたいと思っております。また、先ほどの委員の方からご提案のありました議論の場ですが、そのような場で、私どもも積極的に情報を提供していきながら、しっかりとした利益相反マネジメントの体制さえ整えれば、むしろ安心して、さまざまな活動に従事できるのですよ、というような体制づくりに努めていきたいと思っております。

主査
 皆様方のご意見は、こういう産学連携をやろう、法人化が行われて、やろうという矢先に、水をかけるような状況が生じているけれども、そういうことに対しては、しっかり各大学、あるいは、できれば当局としても、見解をはっきり述べていただきたいということですね。そして、皆さんがディスカレッジ(妨げる)されないようにお願いしたいと存じます。どうもありがとうございました。

○ 「最近の産学官連携の動向」について

  • 資料1、2に基づき、「知的財産推進計画2004」及び「知的財産戦略について」事務局から説明があった後、委員による自由討論が行われた。
    その内容は以下のとおり。

委員
 大学の知的財産の活用、TLO事業に関与している人間として、資料1-2の8項目は極めて重要なことをまとめていただいていると思います。特に大学の中ですぐ起こる問題として、2番目の研究者の流動性と知的財産の問題、これにはかなり頻繁に直面します。大学同士の競争を主体にするという考え方をすると、プリミティブ(稚拙)なルールですと、この流動性をどうしても阻害してしまう。特に若い助教授クラスの方が移るときに、種として特許を出して、それから育てていくというプロセスで移動することが結構多い。そのときに、大学が個々の競争としてだけとらえてルールをつくると、どうしても大学の特許だということが主体になってくる。アメリカでも、その話がかなり顕在化していて、向こうの場合は、むしろ流動性が過剰なくらいですからいいのですが、日本の場合は流動性を促すというのは、日本の大学では重要だと思いますので、これはぜひ、何らかの形で、アライアンス(提携)として知財本部を持っている、あるいはTLOを持っているようなところが、ルールとしてお互いに研究者を支援していくということをやらないと、なかなか自動的にはいかないというふうに、現場では実感しております。

主査
 私も全く同感でございます。流動性を増すということと、一方では知的財産をつくろうという環境をつくり上げたところで人や知的財産が動いてしまうというようなことは、大変矛盾した話になります。当然大学は引きとめたいと思うでしょうし、当然のことですね。ですから、その辺の兼ね合い、あるいは動いてしまった後に、いや、前の大学のものをどういうふうに使っていくかということに関しては、はっきりルール化しておくべきことかと思っています。あるいは前の大学でやった種を持っていって特許をとる、これはいろいろ国際間でも問題が起こることでもありますので、企業間でも起こるのではないかと思うのです。企業を移ったときに、同じようなことが起こる。その辺は共通のルールかと思いますが。

委員
 特に学生の参画した場合の発明の取扱いは、教育機関全部横通しで同じルールでやっていただいた方が、本当は教育のためにはいいのではないかなと感じております。この辺、一度整理して教えていただけると助かります。1つは、既に学生たちにいろいろな知的財産の教育を行うというのは、学部の段階でもいろいろやりますね。そういうときにも、そういうことを、皆さん、学生たちというのは意外と関心を持っているのではないか、そんなことを思いながら、なるべく学生との間のトラブルは、大学というのは教育機関ですから、極力避けられるように、きっちり準備されておかれることは必須かと思いまして、ちょっとお伺いいたしました。

事務局
 今の点につきまして、場合によって先生方の方からお答えいただいた方がいいかと思いますが、全般的な状況について、事務局の方から一言申し上げさせていただきます。現在、知的財産ポリシーの中で、学生がかかわった発明に関しても、大学で一定のルールを決めてございます。基本的には、いわゆる雇用関係、契約関係にあるような院生、学生については、教官と同じような形で、そこで生み出された発明は職務発明ということで、機関に帰属する。ただ、そうではない学生については、特許法にいうところの職務発明には該当しないので、それを強制的に大学に一たん帰属するということはできないという形が、基本的なスキームになってございます。では、生まれた後どうするかという部分について、あらかじめ考え方を示して、学生に周知をしておくということが大変重要になります。研究に参加する学生などについて、十分説明をして、ここで何か新しい特許等が生まれた場合には、生まれた段階でまた大学と契約をすることになるが、大学に帰属する、譲渡できるような形で考えておいてくれということを、あらかじめ学生の方にはお知らせしていく。ですから、発明をしたときの届け出の義務だけは学生に課して、届け出た後、では、それをどうするかという部分は、強制的ではなく、話し合いの中で決めていくという形でございます。雇用関係を結べない学生については、そういう形が多くの大学でとられているところではないかと思っております。

事務局
 この点については、今もご説明した「知的財産推進計画2004」の中でも、きちんと留意すべき点であると認識されております。産業界と大学がいろいろな研究をするときに、知的財産権の帰属の考え方が大学の職員と学生では違うのだということにきちんと留意して柔軟な契約を結びなさいという、そういう指摘もしております。我々としてもそれらの指摘をきちんと踏まえて考えていきたいと思っております。

委員
 非常に重要な点ですので、本質的なところを一言申し上げます。学生が発明した場合に、学生が発明した後で譲渡契約をして、大学が承継する。これが一番いいんです。法的に全く問題はありません。ただ、学生が発明した後の契約というのは、事務上の問題で非常にやりにくいので、若干、その契約の時期を早めたいとおっしゃる方が多いですよね。どこまで早められるかというのは結構問題があるのですが、法的な観点からいって、ここまでは大丈夫だと思われるのは、あるプロジェクトがあって、そこに参加することを学生が表明した場合に、秘密保持等とあわせて知財の取り決めをするという形です。したがって、この特定のプロジェクトで発明したものについては、学生は大学にこれを譲渡しますというのは多分可能ではないかと、私は考えております。さらに少し早めたいという方がありまして、この場合は、学生が大学に入るとき、あるいは研究室に入るときに、もう一筆とって、研究室の中で生まれた知財については全部大学に譲渡します、というのがあるのですね。これはある種、予約承継に近いものですので、法的な効力は非常に不確かだと思います。このタイプをとった場合は、事務的な取扱いは非常に楽なのですが、将来、あれは予約承継みたいなものであるか、あるいは不法契約と呼ばれますが、定型的な契約で本人の意思が反映されていないという法的な理屈で、これは否定される可能性があるのですね。現在の大学の運用は、最初に挙げた形をとっているのは非常に少なくて、2番目と3番目を採用している例が多いのですね。私自身は3番目の例はなるべくとらないようにと言っておるのですが、実際はそれを採用している大学があります。この辺はきちんと議論して、ある程度大学間におけるコンセンサスをつくっておいた方がいいと思いますし、そうすることが将来的な紛争の予防につながると考えております。

主査
 学生のことは、研究室に入るときに一括して契約してしまうのか、プロジェクト単位で契約するのか、あるいは個別に発明が出たところで契約するのか、それぞれの大学で考えるべきだというよりは、むしろ、もっと一般的にルールとして決めた方がいいのではないかという考えですね。この辺は大学の関係者が大勢いらっしゃいますし、ご意見はありませんでしょうか。

委員
 学生と一緒に実際のベンチャーをやっている立場から申しますと、先ほどの委員がおっしゃったように、私も取った時点で学生と一緒に契約をしております。そうすると何ら問題はありません。ですけれども、先ほどの委員もおっしゃいましたように、研究室に入る前に契約するとか、そういうのはちょっとやりにくい。学生たちの実際の心情を見て、余りよくないようです。ですから、我々はできた時点で学生と契約するという形をとっております。そうしますと何ら問題はありませんので、その方向が一番いいのではないかと思っております。

主査
 知的財産に学生が絡む問題は非常に重要だと思いますが、外に何かご意見はありますか。

委員
 この手続については、学生に対するインセンティブの確保のため、ルールとして、学内の通常の研究者と同じ手続で大学に委譲する場合には、通常の研究者と全く対等に扱うということを徹底しているというところを、申し添えておきます。

主査
 これは、研究員等も同じだということですね。この場合学生は、職員、研究員というか、一時研究員ですか。

委員
 私どものところでは、職員であろうと研究員あろうと学生であろうと、取扱いは発明に対する寄与度によって違うのであって、身分によっては、一切区別はしないということにしております。

主査
 これは、今後ご議論をいただくことかと思いますし、これは研究室や研究テーマのあり方によって、随分議論の仕方が変わってくると思います。このプロジェクトについてはこの学生は入れないとかいうややこしい事態や、研究のテーマごとに判断基準が変わっていくとか、あるいはこの研究の場合はこの考えをあてはめるけれども、こっちはあてはめないとか、ややこしい問題にだんだんなっていくと思います。ですから、そうならない仕組を最初からつくっておくと、誰でもとはいかないかもしれませんが、ある程度の目安にはなる。昔アメリカの研究所にいたときに、この男が入れない部屋というのが決まって、研究所の入り口に書いてあったことがあります。この部屋に入れないとか、そういうことをちゃんと明示してあるんですね。ああいうようなことにだんだんなっていくのかなというふうに思います。

委員
 実はこの問題はいろいろな研究会で検討したのですが、学生と研究者の関係はそれぞれの個性に基づいているのでので、結局大学の指導体制としては原則ルールを示すことしかできない。原則を命令する立場の先生に提示して、要はそこで対等なんですということで、後は個々の問題で第三者が判定せざるを得ない。そのように明文化できない部分が多いので、明文化しないということで結論している大学が多いのです。ただ、そろそろ事例を積み重ねて、第三者機関でどういう処理をしたら一番合理的かを検討することが必要ではないかというのが、現場の方の考え方です。先生によっては、自分が学生の全部、全人格ふくめて指導しているんだとおっしゃる方もいますし、逆に学生とは全く対等だと思って指導されている方もいますし、それぞれ理由はあるのですから、一概に紙に書いてルールにすると言っても、なかなかできない。ただし放置しておく問題ではないので、どこかで吸い上げて検討すべきだと、現場では感じております。

主査
 紙に書きにくいことですが、紙に書けないとその程度のつき合いしかしてもらえないということになりますから、最終的には紙に書かざるを得ないと思います。その辺の進め方をどうするかということだと思います。

委員
 どこでご検討いただくのがいいかわからないのですが、デジタルコンテンツの著作権に関係するのかもわからないのですが、最近大学の研究所等を見学に行くと、すごくいいベンチャーができる種がいっぱいあるのですね。それは何かというと、ナレッジ(※(米印)知識)の部分なんです。要するに、IP化はされないし、デジタルコンテンツでもないけれども、その後ろには非常に膨大なデータベースやそれをつくるナレッジの部分に、ベンチャーの種はすごくあるなというのを見てきました。これは科研費によって蓄積されたものとか、あるいはRR(主要5分野の研究開発委託事業=文部科学省が実施している委託研究事業)等の結果等、いろいろな形による膨大なものがあるのです。それはここでいう知的財産になるのか。要するにどういうふうに取扱うのかなという気がしています。それをどこかでご議論いただきたいんですが。

事務局
 ナレッジにはいろいろなとらえ方があるかと思いますが、その1つとしてノウハウという形でとらえている部分につきましては、基本的には機関帰属されるのだと。

委員
 ノウハウが機関帰属するのですか?

事務局
 はい。データベースの部分も、先ほど申し上げましたように機関帰属される。とらえ方が非常に難しいのですが、特許のように申請をするという行為になると、無形だけれども確実に特許の1つであるというとらえ方ができるんです。ノウハウや著作物、データベースもそうなのです。なかなかとらえにくいという面があるものですから、原則機関帰属といいながら、実際にはそこをどうするかという部分は大変難しい問題です。しかし、一定のこういうものは大学に届け出てくださいという届け出基準を持つ大学が増え始めております。その届け出をもらったからと言って、そのまま特許と同じように、発明審査委員会や知財本部の審査委員会で、これは大学の帰属にしましょうとか、このノウハウが経済的な価値を生んだ場合には、ロイヤリティの配分を行うとか、ノウハウを生みだした方に一定割合還元します、という形になるわけではありません。ただノウハウをどうとらえるのかという部分については、考え方は申し上げたとおりなんですけれども、大学で苦労されている部分ではないかな、と思っております。

委員
 ノウハウというのは、大体は個人の頭の中にあります。そこで一生懸命訓練された学生さんがベンチャーつくって、その手法を用いて新しいデジタルコンテンツでビジネスをやった。そういう場合は機関が関与できるというのは少し無理がある。そういうケースが、これからは非常に出てくると思うし、アメリカでは結構そうですよね。

委員
 これは実例ですが、ある私立大学で、大学の中に蓄積されたノウハウをベースにし、それをライセンスして、ベンチャーをつくっているところはあります。ノウハウの場合は、確かに概念が不明確なので特定は難しいのですけれども、やってできないことはないと思うのです。だからノウハウ・ライセンス、ノウハウというご指摘がありましたけれども、その形でできると思います。ただ1つ問題があるのは、ノウハウは機関帰属だということを余り強く言い始めますと、大学の先生方の頭の中は全部大学のものですよ、と言うのとイコールになってしまうのです。そうなった瞬間に、先ほどの委員が懸念されていた流動性は全くなくなって、「大学を出るときは頭の中を全部置いていってください」という、そういう恐ろしい話になりますので、この辺は非常に難しい。届け出て処理するかどうか、それはテクニックですけれども、その辺には非常に微妙な部分があります。

委員
 ノウハウが機関帰属というのは、許容できる概念でしょうか。例えば私のいたアメリカの会社の例を言いますと、日常業務で得たナレッジは自由に使ってよい、そこまでは会社は制限できないという立場です。会社の秘密情報はもちろん外に漏らしたらいけないのですが、個人獲得した知識は使ってよい。例えば経営の手法に関する知識などはご自由に使ってよいという取り決めなのです。そこは非常にはっきり切り分けているのです。TIがこういうことをやっている、とは言ってはいけないわけです。そこから得た手法は、これは個人のものですから、ご自由にお使いくださいという契約なのです。日本ではすべて大学に帰属させて安全サイドを取っているようにすればよいという考えがあるようですが、それはやはり個人の行動を縛りすぎることになりますから、もっとはっきり切り分けておいたほうが良いと思います。

主査
 難しい問題で、どこからどこまでがという切り分けがまずあって、それから先の委員がおっしゃるようなことと、できそうなこととの間で、いろいろ認識も違っていくのだと思います。これはそういうことを含めてご議論をいただきたいと思います。

委員
 1つの例ですが、外国の方とそれをやりましたら、いろいろ問題が起きたことがあります。やはりこちらの問題で、一緒にやる人と、アドバイザーと秘密契約を結びたいという方が1人ならず出てくるのです。それから、外部の人の理論やノウハウが盗まれるとか、いろいろ出てきております。これが日本人には全然出てこないし、ポスドクで採用されたときには絶対に出ないですね。これこれの人の下で働くというのが非常に明確ですから。しかし独立してやらせていたら、たくさん出てきました。オフィシャルには特許は絶対に機関所属であって、それは学生だろうがポスドクだろうが、独立研究というのをつくってしまったのですから、みんな同じなんです。そこは非常によく守るんですけれども、雇い方によってこんなに違うという一つのおもしろい問題だと思います。参考にしてください。

委員
 まだ知財本部ができて半年ぐらいなので、これを言い出すのは時期尚早かな、とは思うのですが。知財本部協議会をお預かりしていて、いろいろ悲鳴が聞こえてくるので、ここでちょっと発言させていただきたいのです。資料1-2の第4番目「知的財産活動に関する費用の確保」、これは非常に重要な問題で、各大学それぞれ非常に工夫しているのです。確かに、先ほどの資料2の18ページに解決の手段もいろいろ書いてあるのですが、これをオンタイムで大学が決定して、TLO活動を消すことなく機関帰属に、という大変な大改革に乗り出していく現実を見ると、ここは非常に重要な問題です。現在全く問題がないというふうに考えておられたら、現実を見ていないと私は思います。非常に湾曲な言い方をしているのは、皆さんご苦労されていて、しかも法人化となれば、いわば社長がいるんだからそのままやれ、とおっしゃると思うのですけれども、現実はそういうふうにいかないというのが、ここ3カ月ぐらいの現実です。これは、例えば半年でも何でも、TLOというのはずうっと業務をやっていて、これが中断してしまいますと、今までのTLOの行動が全く無意味になる可能性もあるということです。ぜひ、この辺の現実を逐次吸い上げて、それの対策をやっていくというのは、この問題についての時間感覚が非常にリアルタイムですので、ぜひ注目していただきたい。全然問題ないというところは、まずないと思います。

主査
 今ほどの委員のお話は次の課題に絡むかもしれませんし、先ほどの委員がおっしゃっておられるような、本当にきちんと、自分である考えを持って来た人を雇用したような場合に、どういうふうにその人が自由に活躍できるようにしていくか、ということも、今後極めて重要になっていくと思います。ひとつ議論の中に入れておいていただければありがたいと思います。

委員
 秘密契約は、我々、外部との問題だと思っていたのですが、内部の問題だというのが、こんなに現実的になるとは思っていなかったのです。

主査
 そこは、さっきの学生の問題とも同じですね。

委員
 そうなんです。少々出遅れてしまったのですけれども。

主査
 学生が特許をどうするかということについては、入れるか入れないかという問題がどうしても起こってしまう。あるいは特別研究員というか、そういう人も入れるか入れないかという問題がある。これから特に国際的な問題になってきますと、要するにアメリカなんかですと、クオリファイされた(資格のある)人間と、そうでない人とでは違いますよね。そういう概念がだんだん大学に入ってくる。今まではそれはご法度でしたけれども、これからは、そういうことをご法度扱いできないような気がいたします。

○ 「大学知的財産本部整備事業」について

  • 資料3に基づき、「知的財産本部の整備状況」等について事務局から説明があった後、委員による自由討論が行われた。
    その内容は以下のとおり。

主査
 知財本部をつくっていただいて、その後の状況も大変克明に調べておられております。採択するときも、いろいろ中間で1回評価をすべきではないかという意見が、確かにございました。どうぞ、ご意見をいただければ。

委員
 知財本部のあり方ですけれども、東大と東北大、ここに書いてある形と少し違いますね。東北大の方は、基本的なルールの策定を行う。東大の方はかなり細かいことまでやるという感じなのですが、長期的には、2つの形があるのはややこしいという考えが多分あると思うのです。文科省は今いろいろな形で援助して、これを活性化しようとしている段階なのですけれども、だんだん一元化してしまっても構わないという考えもあるのでしょうか。

事務局
 これは、まさに様々なあり方の中で、その他の私立大学でいえばそもそもTLOも学内にあるわけでございますので、そういう形で有機的・一体的な活動を行っているという例も既にございます。この方が、我が大学はうまくいく、ということであれば、そういう道も当然あろうかと思っております。ただその一方で、TLOの活動というのは、これまでの国立大学の感覚からすると営業活動のような部分が多く、大学が、得手不得手でいえば、比較的不得手だった部分もあるかと思っております。また、大学の組織の中に入りますと、人事ローテーション等いろいろございまして、そういう事情で独立性や機動性が担保されるかどうかというような部分も踏まえながら、大学内において、中に入れた方がいいのか、外に出した方がいいのか、この後の5年間の中で、まさにその1つのモデルを構築していただけばありがたいと思っております。

事務局
 法人化したとはいえ、実際はまだ国立大学と言っているのですね。公的な性格が強いわけですので、ある程度業務の制限というものも、実際にはございます。いろいろな活動をやっていくときに、そういう制限が足かせになるときが、実際はあるようでございまして。そういう場合には、TLOを活かしながらやっていこうということが結構多くあります。TLOがこれまで築いてこられた経験や、技術のいろいろなノウハウは大切なものですから、ぜひ活かしていただきたいということを、私どもはいろいろな大学にお話ししております。そして、どういう選択肢をその大学が一番とるかということを、それぞれの大学で考えいただいている最中でございます。

主査
 この辺は、確かに非常に大きい問題だと思います。一元化するかしないかというのは。

委員
 先ほど議論されたことに絡めてですが、資料3-2の最後の2つの欄を見ますと、利益相反に絡む進展が少々遅過ぎるように思います。ワーキンググループのリーダーをやらせていただいて、利益相反の検討をさせていただきましたが、本当に社会的な問題への説明や社会的責任を果たすには、利益相反のポリシー及びマネジメントシステムの確立が、やはり必須でございます。このあたりを、もう少し推進するような方策を、ぜひお進めしていただきたい。また資料3-2の中でちょっと不思議なのは、例えば九州工大のように、ポリシーがまだなのに先にマネジメントができているというものです。この辺は、少し調査をしていただきたいと思います。

主査
 今の委員がおっしゃるように、利益相反ということをとにかくきちんとやらないと先に進まないということは、ぜひ各大学に反映させていただきたいと思います。

委員
 事務局の説明にあった、発明対価としてライセンス収入の3分の1ぐらいをもらうのは多過ぎるという企業の意見に対する反論は、むしろ違っているのです、現在進行中の訴訟では、自社で得た営業利益は除外し、ライセンス料だけを対象にして、その10%が正当な対価であるという判決が地裁と高裁で出ています。最高裁まで行っても、おそらく10%程度に落ち着くでしょう。日亜化学関係の中村さんの例は、事情をよく見れば、ライセンスしていないのですが、もしライセンスしたら、ライセンス料はいくらになり、その何割というので計算しています。あれは少々異例ですが、判例として出そうなのは、10%というところかなと思います。だから3分の1は、いずれにしろ高いわけです。その論理がどこにあるかよくわからないので、今いろいろと考えているのですが。

事務局
 ありがとうございました。不勉強でございました。ただその一方で、大学関係者の方も3分の1というのが妥当かどうかというのは、学内でいろいろ議論されたと思うのです。職務発明と申しましても、ご指摘のとおり企業の場合は製品開発のミッションのもと、研究者はそれに従事没頭して、ある程度大まかなミッションは、企業から与えられている。それに対して大学の場合は、むしろ自由な研究者の発意をベースにしているという部分で、職務発明ではあるのだけれども、職務命令でこれを生み出したわけではないという面もあるのかなと思っております。そういう特殊性を踏まえて、30%が妥当かどうかというのは、もう少し議論があるのかなと思います。

主査
 諸外国で、そういう例もあったと。特にアメリカなんかには結構ありますか?

事務局
 はい。

委員
 個人でやったら100%ですね。会社の場合は経費が要るんだから10%くらい。だから、その間が妥当かなという感じがしています。いずれにしても理屈が要るのだろうと思うのですね。

委員
 私が聞くのは、共同研究契約等に基づいて、同じ研究を同じテーマで大学と企業が行う場合です。先ほど事務局は「発意」とおっしゃいましたが、自由な発意というよりは共同研究という枠組みがあって、同じテーマを大学と企業の両方で一生懸命やっているわけですよ。それで、かたや企業の方は非常に低い。10%というのは、それは今、確かにおっしゃったようにあるんですが、実際に今動いているたくさんの企業の職場発明規定の対価はもっと低い、非常に低いのです。なのに、かたや大学の方は30%というのがあって、これはどうなっているんだという話は、確かによく聞きます。私も、理由がよくわからないのです。

主査
 この辺は、確かに企業のように物すごいお金をつぎ込んでいるところと、大学はつぎこんでいないとは言いませんけれども、そうではないところが、インセンティブを大いに助長しようという時代の議論で、いずれだんだんそうなっていく。しかし、京都大学のように、もっとたくさんも実施料を得たら50%ぐらい還元しますよというところが出てくる。これも1つのインセンティブかと思いますが、今ほどのご意見のように、産業界から見たときに少々高過ぎる、特に共同研究における違和感の調整も必要かと思いますので。

委員
 今の点なのですが、企業の側からすると、相当費用をかけてやっているにもかかわらず、部分的に発明者に対して非常に高い対価がいくのはどうかということが、やはりあるようです。大学と企業とは違うとは思うのですが、資料の知財本部の調査結果にも出ていましたけれども、技術の評価というものがまだ確立していなくて、それにかかるコストをどう考えるかということが、はっきりしない中での議論なのですね。その辺をもう少し、経済産業省もおやりになるようですけれども、きちんと議論していく過程で、だんだん集積してくるのではないかな、と思っております。そのために、我々も、いろいろやっているのですが、ロイヤリティみたいな形できちっと出てくればいいのですけれども、取引事例が非常に少ないというところがあって、なかなか難しい。さっきのまとめにもありましたけれども、技術評価と流動化というのは表裏一体の面があると思っております。今国会では信託業法が継続審議になってしまったようですけれども、ああいう整備を通じて技術の流動化を促進し、それで世の中の評価をきちんとしていく。その中で、それぞれどういうふうに配慮していくかというのが、だんだんと定まってくるのではないかと思います。

主査
 確かに、技術をちゃんと使ってもらうという流動化といいますか、その辺を重点的にやっていただきたいと思います。

委員
 今話題になっており、先ほど配られた資料3-2の表を見ていても少し気になったところなのですが、利益相反のポリシーの件です。ここはそれぞれ議論されてはいると思うのですが、これが議論だけで終わることが多いのですけれども、これをどうマネジメントするかということが、一番の問題だと思います。新聞の問題もまさにそこなのではないかなと思っています。マネジメント、人材の問題もあると思うのですが、この表を見ていても、割とポリシーは「◎」、つまり整備されている。かなり、全体では策定または準備中だという要素がすごくあるのですが、この辺は早目に詰められた方がいいのではないかなという気がしますので、さらにチェックが必要なのかなと思います。

主査
 皆さんのご意見は、とにかく利益相反は、きちんと早く対応すること、ということですね。責任相反も絡み、絡むから、利益相反もなかなかまとめにくいのだとは思いますが。

委員
 利益相反の話で、実は非常に気にしていることがありまして。先ほどの、一連の新聞記事のお話です。あれは読みようによっては違う読み方ができると、私は感じているのです。要するに、こういうふうにルールがなっていますから、これはルール違反ではありません、それを問いかけているのではないというケースがあるのだと思います。ルール自体が、もうちょっと高次なエシックス(倫理)の感覚からいって、おかしいのではないですかということです。特に臨床の問題なんかは、そういうフィーリングが背景には相当大きいのではないか。これは我々、1つルールをつくったとしても、より高次なエシックスの感覚というものを相当しっかりと持って物事に対処していかないと、ある意味では社会の反発を買うことがあるのかなと、そんな思いを常に頭の半分に持ち続けることが大事なのではないかなと、思います。ご参考までに発言いたしました。

主査
 研究も同じですけれども、いつも自分がやっていることに疑問を持つというか、世の中は常に動きますし、これはいいかどうかということをいつも反省しなければならないのではないか。一度決めたからいいというようなものではなくて、絶えず考え直していかなければならないのじゃないかという、大変身につまされるご発言でした。先ほどご発言のあったもう一つの課題は、知財本部とTLOを一体化するのか、あるいはそのままにするのか、分けておくのかというようなことです。先ほど法人化されたといっても、まだ国立大学法人ですから、そういう状況の中でどうか。なかなか分けられないというか、一体できないという課題があるのだということだと思いますので。

委員
 今の国立大学とTLOは、TLOの数の方がずうっと少ないわけで、一概に一体化ということが、まずできないという状況だと思うのです。けれども、ど今の知財本部整備事業の5年間というのが、私にはちょうどいいテスト期間かと思います。私のイメージは、できれば一体化して動かした方が効率がよろしいのではないかなと。要するに、研究者に効率がいいということは、余分な経費を払わなければ研究者に入ってくるリターンもそれだけ多くなるわけですから、なるべくむだな組織にはしたくないという考え方です。それから、私の調べた海外でも、外の機関になったり、それがある段階になると中に入って、外の機関は、また独立して自分でやり始めているところもあります。多分、社会と大学との関係の中でどっちが一番いいのか、地域との問題も出てくるのではないかなと思います。現状は、組織は違っても、ミッションは非常によく似た仕事を大学の知財部とTLOはやるわけですから、いかにそこの間の壁をなくして、日常的には一緒に仕事をしながら、例えば株式会社で便利なことは、A社にはある割合でロイヤリティを請求して、B社には全然違うロイヤリティを請求するということに対して、大学の知財本部にどうしてそうなんだと問われたときに、大学の知財本部は答えなくていいわけです。それは会社が決めましたということで、TLOがやっていますという形になりますので。それでTLOを株式会社として自由な経済概念で、大きな会社と小さい会社で同じロイヤリティということはあり得ないだろうし、いろいろ自由度があるだろうというようなことが、よく議論はされています。ですから、そのよさを活かしながら、実態的には内部と一緒にできるTLOというのがあまり多くない現状では、これまで広域ということで随分やってこられたこともありますので、それがこれからの数年間の事業の間でどうやって成長していくかということを見ながら、かつ大学自体の内部の組織変わっていくでしょうし、人間も考え方も、教官も変わってくる。多分、一番変わってくるだろうと思うのは、産業界なのではないかなと思っていますので、その対応を知財本部、大学がきちんとやって、産業界にも信頼していただける関係をいかに構築していくかというのが、今重要なのではないかなと思っています。

委員
 今の問題に関しては、私どもの場合には、国立大学の法人化の前に、当然こういう法人化の動きが出てくるだろうということで設定していたものですから、5年間経験を積んだ外部のTLOの職員が、そのまま知財本部の、いわゆる兼任という形で全部中へ入って、そのルールの下に活動するということで、いわゆるライセンシングの一番難しいハンズオン(引継ぎ)ができるかできなかというのをかなり危惧していたんですが、非常にスムーズに行きます。ですから、それは大学の決定権で十分、二重身分をとるということは全く問題なくできるはずですし、後は先ほど事務局がおっしゃっていた人事ループと経理の迅速性ですね。決定が非常に遅いとこのビジネスはつぶれますので、ある期間はそういう工夫で、いい面の二重性でしのいでいくというのは現実に可能だと思います。むしろ、そういうふうにしないと、先ほどの経費の面もありまして、なかなか即時性が保てない。これはビジネスですから、昨日決めたことはきょうやらないと、1週間後では全くだめなのです。そういうタイムドメイン(時間領域)を共有する工夫しないと、なかなか口で言うほど、TLOと知財本部の合体というのはやさしくないと思います。

委員
 TLOと一言で言いましても、それぞれマネーも違えば構成人員も違います。京都の場合は広域で関西TLOというのがありまして、しかし京都大学等、自分のところで逆にTLOをつくるという動きもありまして、なかなか一律にTLOと大学の知財本部というものが、簡単にすみ分けして、「君はこっちをやりたまえ。私はこっちをやる」というほど大別できるものではないのではないかなというのは、京都・関西の場合を見ていると思っています。

主査
 やはりこれはケース・バイ・ケースで、やりやすい方向を探っていくという、これは諸外国も大体そうだと思いますね。やり方は分かれている。あるいは日本ですと、知財本部は大学の中にある、TLOは外にあるということがありますけれども、両方とも一緒になって外にあるとか、中にあるとか、いろいろなバリエーションがあるかと思いますので、当分は実績が上がるような方向でご検討いただくと。

委員
 しばらく試行錯誤があって、あるところへだんだんと落ちついていく。今、余りルール化してしまうというのは得策ではないように思うのですけれども。

主査
 そうですね。両方とも仲良くやってほしいということですね。

委員
 全くそういうことです。

委員
 事務局に確認です。先ほど国立大学法人の場合には、運営交付金とライセンスで得た収入は別扱いというお話でしたが、ライセンス以外、例えば産学共同研究でお金をたくさんもらった場合には運営交付金が減らされるんですか。

事務局
 減らされないようにしております。

委員
 大丈夫ですか。

事務局
 はい。

委員
 確認を、記録にお願いしたいと思います(笑い)。

主査
 いいご指摘、ありがとうございます。

事務局
 実は、学長クラスの方々からもそういうご心配の声をいただいたものですから、ちょうど先週行いました国立大学の学長会議の方で、私どもの配付資料に、そこを明記して紙に残し、各学長の方々にもご説明させていただいたところでございます。今後ともそういう努力を続けてまいりたいと思います。

主査
 審議官からも、ひとつよくご周知を願いたいところです。これは学長だけではなく、一般の教授や、事務的な管理業務には携わらない人もちゃんとそれを知っていないと、やると損じゃないかとか思っているのではいけない。16万人全員が理解できるような、そういう方向でご指導をいただきたいと思います。

委員
 私は、今日、「知的財産推進計画2004」を見て初めてこの言葉に接したんですが、19ページに「スーパー産学官連携本部」というのが書いてあるんですね。最近、スーパーTLOというのがあって、TLOの中で非常に頑張っているところをさらに応援し、そのスーパーTLOを使って、例えばバイオ等の特定分野についてどんどんサークレット(連携化)を進めるとか、あるいは他のTLOを助けるという事業がございますが、ここにはスーパー知財本部とございます。これを見て思ったのですけれども、最近的財本部について、各大学とも頑張ってやっているとは思うのですが、特にモデル事業の選に漏れた大学等でかなり苦労されている大学があると思うのです。現実問題として、5年経過時点で知財本部をつくり切れなかった、あるいはつくったけれども、なかなかうまく回っていないという知財本部がでてくる可能性があると思うのです。そういう場合に、スーパー産学官連携本部をぜひ利用して、他の大学からの知財本部機能の受託を行うということもあっていいと思うのです。全部が全部整備するのは難しいですから、この大学はあの部分を頑張っているので、そこに委託して知財本部機能を移しますというのも、場合によってあってもいいかもしれないと思うのです。ですから、スーパー知財本部は少し議論を煮詰めた方がいいのではないかなという気がしております。次に、利益相反の話に戻りますが、私が最近少々懸念している点として、利益相反という考え方は非常に難しく、なかなか正解がないということがあります。どれが正しくてどれが悪いとは言いにくいのですが、利益相反を扱う中で、そこの案件に出てくる金額の高低を見て、利益相反の問題の程度をはかろうとする発想が見られるときがあるのです。つまり、たくさん儲けた教官は利益相反的に黒に近いとか、これは要注意であるとか、少ない場合には比較的白に近いとか、そういう考え方をされる場合があるのですね。これは個人的な見解ですけれども、そういうのは正しくないのではないかなと思います。金額の高低とバイアス(偏見)の可能性、あるいはバイアスをかけたと言われかねない状況というのは、これはリンクしていません。一生懸命まじめに仕事をされ、研究されている先生が、たまたまあるベンチャーがうまくいってかなりな金額を手にする。これは別にあってよいことですし、全然まずいわけではないのです。逆にバイアスをかけられたかもしれない状況で、比較的金額の少ない利益を手にされる方もおられるかもしれない。だから、金額の高低で物事をはかるのは非常によくないと思うのです。そういうことをPRしていかないといけないかなと、非常に思います。これもあったことなのですが、未公開株とか、エクイティ(株式の保有)に対する偏見がベースにあると思うのですけれども、例えば未公開株あるいはエクイティを保有している業界には共同研究を認めない、というようなことが実際に行われていたと聞いております。これは非常にまずいですよね。利益相反というのはマネジメントですので、問題や事実を確認して、どう管理するかということだと思うのです。これを特定の状況だけをベースに禁止というのは、非常によろしくないと思います。ですから、何が正しいか非常に言いにくいのですが、いろいろな誤解がまだまだ日本国各地にあると思いますので、ぜひそういう誤解を一つ一つ解消していってもらいたいな、と思います。

主査
 たくさん利益を得た者はけしからんというのは、大学の先生だけではないのですよね。要するに、世の中全部そうなのですよ。誰かがぼろ儲けしているというと、何か悪いことしてるんじゃないかとか、脱税しているんじゃないかとか、そういう妬みやそねみはありますから。ですからベンチャーでも成功すると、「あいつはもともと怪しかった」とか、そんな世界なんですよ。それをまた新聞が大げさに書き立てるというのが、最悪の状態です。これはやっぱり世直しのレベルでしなければいけないことです。基本的にベンチャーとは何ぞやということをわかっていない。本当にある仕事を社会に出したいと思ったら、それはもう寝食を忘れて、お金の問題等のことは、その先生も考えていないんです。自分もお金を出し、周りからも集めてきて起業して、それが成功したら、当然その人の収入になってしかるべきなのに、それが利益相反と騒がれてしまう。それは悪い人も世の中にはいるけれども、わずかな悪い人のために、本当にまじめにやって、これから新しく、いいものをつくろうという先生方に水をさすのは罪悪だと思います。本当にもう少ししっかり考えて、大学あるいは文科省で、はっきり声明を出してほしい。そういうことではだめなのだと。日本はこれから、これでやっていくのだというふうことをしてもらわないと。我々は本当に、あの一連の新聞報道以来、よほど嫌になりました。先生もみんな萎縮してますよ。今までやってきた努力は、だれも証明しない。うちのところにも記者が来ました。いろいろ言いましたが、こういう過激な発言は一言も新聞に載せてくれない。新聞記者に正しいことを言ったからいいというのは間違いで、はっきり声明を出さないといけないと、私は思いますね。

委員
 全く同感です。ある新聞はそれに関連して、「IPO(株式上場)によって法外な利益を得ている」と書いた文章があったのです。これは、いかにジャーナリストの意識が低いかということかと思います。もう一つ、私は利益相反はポリシーではなく、ルールだと思うのです。ポリシーでグレーゾーンを残してはいけないです。ルールをつくるべきであって、ポリシーと書いてあるのは、非常にあいまいなのです。ここはやっていい、ここはやってはいけないということをきちんと決めるべきだと、私は思います。

主査
 一連のご発言は、産学連携は進める、ベンチャーをつくる、あるいはエクイティを得る、というようなことに関して非常に基本的な問題なのですね。今まで国立大学というのは、私的な企業と1対1でやってはいけないという長い伝統があって、それが現在なくなったわけですが、世の中は依然としてその基準で見ているということに対して、そうではなくなったんだということを、何かの形で、こういう機会にはっきり声明を出していただく必要があるのではないかと思います。

事務局
 どういう形態が一番いいのかということも含めて、きちんと対応をさせていただきたいと思います。

委員
 この世の中の世相というもの、日本人の考え方とかいうことに関係するので、私が代表して何か言える立場でもないのですけれども、明らかに今、世の中は変わっているのだと思います。例えば、スポーツ選手は非常な幸運と能力とに恵まれて高給をとるから別にいいんだよ、という見方をみんなする。それと同じようなことが、知的な活動の分野であってもいいのではないかと。そういうのがすばらしいのだよ、という方向に世の中を変えていかなければいけない、というのが、こういう分野に必要なことです。しかし、それが世の中には全然浸透していないし、ましてメディアにも浸透していない、ということなんだろうと思います。けれども、ではどうするかということになれば、事あるごとに、いろいろなところで、そういうことを明確にしていくということの積み重ねが必要なのかなと思います。メディアの反省というと、きりがなくありますので、私からは申し上げにくいんですけれども、そういうことも、いずれ多くのメディアの人間にもわかってくるのではないかと思いますけれども。

主査
 どうもありがとうございました。先ほどの委員がおっしゃいましたように、世の中にはスポーツ選手などは高額の方がいいという認識があるわけで、そんな話は毎日出てきます。やはり知的世界にもそういうことは絡んでおりまして、当然であるという習慣をつくっていかないといけない。あるいは産業創成というのはそういうことなんだということを、わかっていただくという努力を続けていっていただきたい。事務局の方に「何とかやります」とおっしゃっていただきましたので、この議題はここまでにさせていただきたいと思います。

○ 「その他」について

  • 資料4、5に基づき、「第3回産学官連携推進会議(京都)の結果報告」等について事務局から説明があった後、委員による自由討論が行われた。
    その内容は以下のとおり。

主査
 ただいまの京都の会議あるいは新しいイノベーション・ジャパン等につきまして、何かご質問、ご意見等ございますでしょうか。

委員
 資料4の1ページについて、補足させていただきます。4つの分科会のうち、4の「科学技術関係人材の育成・活用」に私は属しておりましたのですけれども、資料4に書いてありますのは、半分の部分だけですので補足します。資料4には、産学官連携というファンクションに対して、役に立つ大事な人たちをどう育てるか、端的にいいますと、知的財産のプロの方であるとか、MOTのスペシャリストであるとか、そういう、従来にはなかった人の育成のことが書いてあります。けれどももう一つ、それと同じ比重で、別の視点での議論をたくさんいたしました。それは産学官連携で力をあわせて、どうやって若者を育てるか。人を育てるか。そういう、教育のまさにメーンストリートに対して、産学官がどういう力をあわせるか、そういう議論をかなりいたしました。その点を補足させていただきます。

主査
 そうですね、人材育成は大学だけではなくて、産業界の協力、特に博士課程の教育などはまさしく産業界の協力がないと、とても育てられないということかと思います。

5.今後の日程

 次回については今後日程調整を行う旨、事務局より連絡があった。

お問合せ先

研究振興局研究環境・産業連携課技術移転推進室

(研究振興局研究環境・産業連携課技術移転推進室)