産学官連携推進委員会(第24回) 議事録

1.日時

平成16年2月26日(木曜日) 10時~12時

2.場所

文部科学省 10F 2会議室

3.出席者

委員

 末松(主査)、川崎、生駒、市川、伊藤、小野田、岸、小林、清水、白川、田中、田村、平井、堀場

文部科学省

 石川研究振興局長、丸山研究振興局審議官、井上科学技術・学術政策局次長
 田中研究環境・産業連携課長、小山技術移転推進室長、
 佐々木技術移転推進室長補佐、金子研究環境・産業連携課長補佐 ほか

オブザーバー

 南特許庁技術調査課長、佐藤社会生産性本部技術経営研究センター事務局長

4.議事録

○ 「「試験・研究の例外」に関する審議会での検討状況」について

  • 資料1に基づき、特許発明の円滑な使用に係る諸問題について特許庁の南課長から説明があった後、委員による自由討論が行われた。
    その内容は以下のとおり。
    (◎・・・主査 ○・・・委員 △・・・事務局 □・・・説明者)

主査 大変重要な問題、しかも、最近の話題を豊富にご紹介をいただきました。また、試験・研究、試験的な研究の例外処置の実例と重要性をご指摘いただいたわけでございます。これにつきましてどうぞご意見を賜りたいと思います。

委員 この問題には素人ですので、非常に形式的な質問で恐縮です。大きな問題からまいりますと、試験・研究機関というのは試験・研究を業としているわけですね。そうすると、試験・研究機関における試験・研究というのは、特許法の「業として」に当たるのか当たらないのか、どういう解釈でございましょうか。

説明者 試験研究機関であっても、その試験の中で第三者の特許権を利用するようなケース、これについてはその権利範囲に当たる、特許侵害になり得るということでございます。ただ、当然その第三者の特許権をよりよいものに改良するための研究開発、これは69条1項に当たりますので、そこはどういう目的で使われたかということによるかと思います。厳密には正確ではないんですが、一番わかりやすい例でいきますと、顕微鏡や電子顕微鏡等の専ら試験・研究のために使うような器材があるかと思います。当然それについてもだれかが特許権を持っているわけでございますけども、試験・研究に使うからそれは特許権の範囲に及ばないとしてしまうと、それらについて特許権を取るメリットが何もなくなってしまうわけでございます。したがって、当然ながらだれかが特許権を持っている器材を試験・研究で利用する場合、それは当然特許権者に何らかのロイヤリティを払う必要がある、ということになるわけでございます。

委員 仮にそれが当たるか当たらないかということの問題の次に、許諾を得るかという問題が起こると思います。許諾を得るためには特許の内容が、そこでの試験・研究とどういう関係を持っているかということを開示しなければいけないわけですね。ということは、試験・研究を行う側にとってみると、自らが行おうとしていることを公開してしまうわけです。これは研究上非常に差し支えのある話になってきます。そう考えますと、許諾を得ると言いますが、実はやってしまった後でその訴訟が起こる以外には表には出てこないと、こう考えてよろしいのでしょうか。

説明者 非常に微妙なケースでございますけども、当然そういうやり方というのも現実にはあり得るかと思います。ただ、やってしまった後で権利侵害で訴えられた場合、当然差しとめ請求等があります。仮に差しとめされてしまうと継続してその研究がもうできなくなってしまうわけですね。そのリスクもあります。したがって、基本的には公開といいますか、特許権者に自分が何をしようとしているかというのがわかってしまうというデメリットも確かにありますが、そこの利害得失を考えた上でライセンス交渉に入る、ということではないかと思います。これは大学に限らず、民間は実際にそのようにしているわけで、相手の権利が欲しい場合には、当然秘密保持契約を結びながらライセンス交渉をするわけです。ですから、これはそれほど特殊なといいますか、試験・研究機関という問題でもなく、民間でも皆さんそのうようにしておられることではないかと思います。

主査 どうもありがとうございます。これは非常に微妙な問題になっていくと思います。

委員 企業の場合は、試験・研究なり、新しいプロジェクトを行うときに知財のチェックを行い、それで大丈夫だ、あるいは外部に必要な権利があれば買うなどの対応を行うと思うのです。一方大学で研究をするときに、産業界に近い研究の場合は別かもしれませんけれども、少なくとも基礎的な研究を行うときにそういうチェックをするということは、海外でもあまりやられていないと思うのですね。ましてや日本はまだほとんどそういう習慣はありません。それに対して法律的にこういう形で「試験・研究は」という網をかけられますと、国立大学法人としては法に背くことはできませんから、先ほどのように、まずはやっておいてということは公には言えないことになるのではないかと思うのです。特に資料1のDuke大学の例はたまたま研究分野が近いので調べましたけれども、かなり特別な例で、とても産業に使えるようなものではない研究施設を取り押さえているわけです。これを一般的に適用するというのは、どうかと思います。アメリカは訴訟等ではエキセントリックな国であって、それに近い法律をわが国でつくるということは、十分気をつけていただかないと、大学の研究ができなくなるのではないかというような気がしております。

主査 今の件は非常に大事ですね。よく「十分文献を調べてから研究したい」と言う学生がいます。しかし私は、「研究はやってしまってある程度成果が出てから、だれかが発表したかしてないか調べたほうがいいのではないか」と言うのです。つまり、そういう論理を一方では使わないと、イノベーションなんかできないわけですね。ですから、全部調べてからということになると、もう先ほどの委員のおっしゃるように大変なことになります。ここは非常に重要ポイントだと思いますが、いかがお考えでしょうか。

説明者 順番としては逆になりますが、先ほどご説明したとおり、アメリカの例は非常に特殊なといいますか、極めて狭く運用されておりますので、日本としては決してそのような運用をするつもりもありません。また、最終的には裁判所の運用ですけども、ヨーロッパとほぼ等々か、ヨーロッパよりさらに広い解釈が、日本では一般的になされているということではないかと思います。大学において研究を行う前の調査というのは必ずしも十分ではないといいますか、体制ができていないというのを我々、重々承知しているわけですが、これは権利侵害にならないようにするための調査というよりは、むしろ重複研究を避けたり、非常に効率的な研究を行うための事前調査、というふうにとらえていただいたほうがいいのではないかと思います。そういった調査をすることによって、結果的に他人がだれも権利を持っていないようなところに研究開発投資をするといいますか、資源を投入するということでより効率的な研究が行われるわけでございますし、結果的に他人の権利を侵害するケースというのはなくなると思います。あるいは研究過程で必ずだれかの特許権を使わないとできないケースというのは当然ありますから、そういったケースについてはきちんとライセンスで解決していただく、ということではないかと思います。そういう意味で今後各大学の知財本部等立ち上げられるかと思いますけれども、研究に際しての事前調査は、効率的な研究を行う上でも、これからぜひとも進めていっていただきたいと思います。

委員 1つ、先ほど電子顕微鏡の例をお挙げになったんですが、市販品として、例えば試薬であるとか、赤外クロマトであるとか、いろいろなものがあります。それはもう大学側が研究の目的のために購入した段階で、特許権者に対するロイヤリティはどこかの段階で支払われているわけです。そういう意味でいうと、あまり計測機器関係とか材料には問題はなく、市販されてないものを使う場合だけに限定されるのではないでしょうか。

説明者 そういう意味で、先ほど電子顕微鏡の例を申し上げたときに正確ではないと表現したのですが、物の特許の場合には、当然それを購入されればその時点でその権利は消尽するということになりますから、決して権利侵害にはなりません。問題となるのは、例えば方法の特許があり得ます。そうすると、簡単な例としては、普通の顕微鏡で何かを拡大して見る場合に何らかの方法の特許が存在していて、その装置を別に器械を購入しなくても自分でつくれるということで、実際に実験室の中で自分でつくって使っていたというような場合ですね。これはその顕微鏡を使うたびに権利侵害になります。先ほどの電子顕微鏡・顕微鏡等の例は、正確に言うとそういうケースになります。

委員 大学の中で特許を扱っていると、侵害訴訟は一番怖い話なのです。それで最初のころ私は、アメリカが一番怖いということで、何校かの大学のTLOの方に大学を対象とした訴訟に関してお話を聞いたのです。いつも出てくる例は、このDuke大学のものだけで、それぞれ例が極めて少ないと言われているのですが、これは本当なのかどうか。現実としては、専門家の立場でもそれほど神経質にならないのかどうか。ルールはルールだけど、訴訟というのは相手がいなければ訴訟にならないわけです。大学からではなくて、向こうからこなければ訴訟は起こらない。大学を指して起きるこういう事件というのは、アメリカでは相当あるんでしょうか。

説明者 今の委員がおっしゃられたような事件は、正直言ってあまりありません。それは多分、先ほど説明の中で申しましたように、基本的にアメリカに限らず、大学を訴えるメリットは本当にどれほどあるか、ということになるかと思います。悪意を持ってその研究を止めたいというようなケースは別として、通常ですと、損害買収請求してもそれほど実損はないわけですから、そういう意味でケースとしては極めて少ないと思います。あり得るとすれば、通常の研究というよりは、特にバイオ関係とか、その後産業に結びつきやすいような分野の訴訟のリスクは他の分野と比べると高いとは思いますけれども、それ以外の分野は現実的にはあまり起こり得ないのではないか、と考えています。

委員 少々問題をずらしてしまうかもしれませんが、アカデミアの皆様が研究を実施している際、普通特許調査はされませんよね。確かにおっしゃるとおり、権利を出すような段階で調べたり等はありますけれども、むしろ調査しない方が当たり前だと思うのですが、どうでしょうか。今の日本のアカデミア文化は変わったかもしれませんので、お伺いしたいです。また、分野によっても違いますけれども、特許の事実ですね。これはサイエンティフィックに言うと対象としない。ですから、自分が研究をした、何かを見つけて論文を書く、そのとき先行してその事実を書いた特許があってもほとんど無視されてペーパーとして書かれて、また、それが学会でも認められて走っていく。私のいる化学の分野では山ほどその例はあるわけですね。その辺の問題は、アカデミアの世界では、今まではあまり厳しく議論をされてなかったのです。このこともこの問題と非常に関連が深い、と思います。やはり研究に際しては特許も文献情報と同じように、ペーパーの情報と同じようにとらえて調査をするということをやるべきではないかなと、そういう習慣をつけるべきではないかな、と感じました。

主査 そうですね。この点も非常に重要です。私も昔、古賀先生から特許というのは国が承認した唯一の論文だと言われて、特許を出すとか、特許を活用するということの重要性を認識させられた経験があります。今おっしゃったことは当てはまるかもしれないと思います。

委員 この問題、どういう立場でお話しするか非常に難しいのですが、個人的には浜松医大の事件も非常によく知っています。また、アメリカの事例もよくわかっているのですが、とりあえず、まず法律家の話と、弁護士と話をしても、資料1にある特許庁のご指摘というのはまさしく事実そのものであると思うし、これはこのとおりそのまま受けとめていいと思います。次に、法律関係者と少し離れて考えた場合に、この問題をどうとらえるかということなのですけれども。まず、法律の世界は事実を確定して、それから規範を確定して、これを当てはめるという思考過程をとるのですね。事実の部分ですけども、これは大学の中における活動をどうとらえるかということなのです。行動というか、一体大学や国研で何をやっているか、その事実の問題をどうとらえるかということなのですね。ここが非常にバラエティがある。例えば、ここにあるような技術そのものの進歩を純粋に目的として、ある特許技術を研究するということもあると思います。よりよいレーザーをつくろうとか、これはまさしくあると思います。それから次に、大学であれば、ある技術を講義で使って学生に見せるとか、これもあると思いますね。それから、逆に全然違うパターンで、企業から依頼を受けて、ある技術、ある機械のテストをしてお金をいただくとか、あるいはある生産をしてテストマーケットでつくってお金をいただくとか、非常にコマーシャルに近い部分、これもあると思います。このように大学の活動って非常にレンジが広いんですね。これは全部まとめてとらえるのは非常に難しいです。むしろ、どういうものがあるかというのを丁寧に検証して、それごとに考えるべきだと思うのですね、事実の問題としては。次に、規範の問題なのですが、これは69条は、ここに資料1にありますように、判例がとにかくありません。ということは、裁判所上では基本的に規範はないのです。これは一種ガイドラインというか、考え方の指標にはなのんですが、判例上は一切規範がないのですね。こういう場合に裁判官はどう考えるかというと、ある問題が起きた場合にどういうふうに解決するのが望ましいかという落としどころを探すのが裁判官の仕事ですので、例えば特許の持つ独占力と、それから、それ以外の利益、これらを対比させて落としどころを探すわけですね、裁判官というのは。となると、例えば仮に講義の現場である特許発明のベクターを使って遺伝子組みかえ実験をやったと。これ、特許侵害ですね、一応。形式的には侵害になりますね。で、これを果して裁判所が扱った場合に特許侵害と認めるかどうか。確かに69条の学説には入らないかもしれないと。講義だって業かもしれないし、それはそのベクターの改良を目的としてないと。入るかもしれない。しかし、例えばアメリカの著作権にフェアユース(許諾なく使用できる例外)とかという考え方もありますね。やはりその法律にはどこかグレーなところがあるのですよね、そこには手を出してはいけないというグレーな部分が。だから、特許の独占力と残るアンタイトラスト(不正競争防止法)、その利益バランスの中でどこかにフェアユース的なところが出てくる可能性はあるのですね。これは実際に事件が起きるまでわかりません。ただ、裁判所がもしかしたらそういう規範を見つけるかもしれないですね。そうなれば、ある大学の実施行為についてはもしかしたら特許権が及ばないかもしれない。しかし、及ぶかもしれない。問題は、法律関係者としてはそういうグレーな部分というのをいかに探して、分析して規範をつくっていく努力をするかというのが大事かと思うのです。ちなみに実際の実務を言うと、これは弁護士の世界にまた戻りますけども、通常はライセンス交渉ではアカデミックパーパス(学術目的)とか、ノンプロフィット(非営利)の場合には必ずディスカウントが入ります。あるいはロイヤリティフリーになることが多いですね。だから、実際はもうここであるんですよ、そういうフェアユース的なところが。浜松医大のケースを考えると、これは一番最初に挙げた大学の行動パターンのうち、最もコマーシャル(商用)に近い部分に実は判別される可能性があるんですね。企業から委託を受けて、あるマテリアル(有体物)の実験を大学でして、その結果を企業に返しているという事実がありますので、かなりコマーシャルに近いですね。外部研究機関の色彩が強かったと。だから、あのケースはあれで正しいかもしれないと。しかし、それがすべての大学の行為に当てはまるかどうか、これは実際、わからないのです。以上が私の個人的な感想です。法曹の一員としては、将来これを課題として、やはりもう少し研究したいなと思っております。

主査 これは、まだたくさんご意見があるかと存じますが、何か最後に一言という方がいらっしゃいますでしょうか。ただいまのご意見を伺っておりますと、研究を始めるときにその研究課題について、課題自体もその間に調べる必要がある。しかし、研究当初は研究課題自体がはっきりしないことがあるわけですね。研究というのはどんどんどんどん転がっていきますから、どっちへ展開していくかわからない。そうすると、どこで特許を侵害するかというようなことはやってみて結果でないとわからないことが非常に多いと思うのですね。そういうことを皆さん大変心配をしておられて、特許庁のご説明も大学はあまりそういうことにかかわることは少ないのではないか、特にヨーロッパ型よりもう少し広いような解釈でいくべきではないかというご指摘をいただいておりますと、例えば資料1の2ページの一番下のところに、大学等における試験・研究も「業として」の実施であるとされる可能性が高いということになります。こうなりますと、今のお言葉とは少し反するような気がしますので、この辺は適切な表現を期待してもよろしいんでしょうか。

説明者 おそらく「業として」の実施に当たる可能性を問われれば、私は大学の行為は99%かそれ以上入ると思います。ただ、先ほどの委員がおっしゃったように、実際にそれが事件としてどう解釈されるか、侵害事件とされるかどうかについては、そこは正直言ってグレーですから。そういう意味で、そもそも大学の試験・研究は業ではないんだと言ってしまうと、逆にそれは危険だと思うのです。皆さんどんどんこれは研究だと言って、業じゃないと言うと、そもそも資料1の2ページの絵でいう右側に入ってしまいますから、何をやってもいいんですということになってしまいます。

主査 ですから、その絵の右側に入るという可能性もあるという印象を私は受けまして。今のお答えからすると、可能性が高い、ということではないと思うのですね。ですから、ここで主張するつもりはありませんけど、そういう印象であったということを、お受けとめいただけてよろしいでしょうか。

説明者 はい。そこは正直言って、まだ判例もないことですから明確ではありませんが、そこは検討させていただきます。

主査 どうぞよろしくお願いいたします。どうもありがとうございます。それでは、この問題は非常に重要なことで、まだ大変関心が多く、今後も引き続き検討が必要かと存じますけれども、時間の都合がございますので、ここで次の課題に移らせていただきたいと思います。特許庁の方、どうもありがとうございました。

○ 「21世紀型産学官連携手法の構築に係るモデルプログラム・知的財産の管理・活用の具体的在り方」について

  • 資料2に基づき、「21世紀型産学官連携手法の構築に係るモデルプログラム:知的財産の管理・活用の具体的在り方」について伊藤委員から説明があった後、委員による自由討論が行われた。
    その内容は以下のとおり。

主査 こういった非常に重要なことを今、東北大で進めておられるわけでございますが、これにつきましてご意見をいただけますでしょうか。先ず私からいくつか、よろしゅうございますでしょうか。米国の仮出願制度というのは、よく我々が論文を非常に急いでどこかへ出したいときに、論文を見せて、弁理士の方にこれで特許を出してくれという場合がはよくありますね。それに近いことをもっとそのままで出願してしまうということですね、弁理士を通さないで。

委員 いや、弁理士は通します。

主査 一応通して、仮出願で、仮に出しておくと。

委員 資料2に書いてあるのは仮本出願といいますか、簡易本出願です。出願自体は、日本の特許庁に関しては本出願と同じであります。ですから、そのできぐあいがよければそのまま本出願のまま走れると思いますけれども、今の委員がおっしゃいましたように、2週間後に発表があるという。それで、今まで気がつかなかったけれどぜひ特許に出したいというようなことはよくありますので、その段階で知財部が相談を受けたときにも対応できる制度としてです。

主査 補助的な制度ということですね。これは特許庁の方もいらっしゃいますので、こういうのをぜひ。

説明者 少し補足をさせていただきますと、アメリカの仮出願制度なのですけれども、確かに論文をそのまま出せるというと若干誤解を生じるかなと思っています。アメリカの場合は通常に行われる本出願と基本的には同じ記載要件がかかりますので、日本で出されているような英文の論文をそのまま出願して1年後に本出願に切りかえた場合でも、場合によっては無効になるといいますか、拒絶になる可能性もあります。そこは同じものを出せると思われると、若干誤解があるかなと思います。これに対して、今回ここで提案されております日本版の仮出願というのは、今の大学ですと、出願する前に論文を出してしまったというケースがあって、それを救済するためにこの30条という制度がありまして。事前に届け出を出されて特許庁長官が承認するような場で、大学あるいは学会、そういったところで公表されたものについては、6カ月以内に特許出願すれば、その発表した期日をもって拒絶されないという制度でございます。これは世界中で制度が違っている関係で、日本でそのような学会発表をして、この後ヨーロッパに出願すると、それは救済されなくて、学会で発表した事実でアウトになってしまうんですね。したがって、我々としては極力この30条適用というのは使わないようにしていただきたいということなのです。けれどもそうした場合に、実際に特許出願するというのは皆さん確かに大変だということで、日本に国内優先権制度というのがございます。とりえあえず、まず論文を発表する前に、それこそ論文の形でいいですから、とりあえず特許出願をしていただくと。それで、1年以内にその明細書をきちっと実験結果を追加するなり、明細書を完備していただいて、1年後に本出願に移っていただければ、とりあえず本出願の段階で新たに加えたものについては、出願日はその時点になりますが、先ほどの論文に書かれている内容の部分については、仮出願の出願日がそのまま適用されるので、むしろアメリカよりも使いやすい制度ではないかということで、大学向けにはPRをたくさんさせていただいているところでございます。

主査 どうもありがとうございます、ご配慮いただきまして。

委員 大変先進的な報告書をつくっていただいてありがたいのですが、現場のほうのことから申しますと、無理な要望かもしれませんが、表題の中に「構築に係るモデルプログラム」とありますので、例えばこれだけのことを完璧にやろうとすると、どのぐらいのスタッフや予算が要るのか。あるいはスタッフだけではだめで知財の専門家が必要であるとか、そういうイメージが沸くような報告書にしていただけると、非常に助かります。といいますのは、関西で知財本部の採択を受けている大学でも、大変な事務量で、到底回り切らないというようなことを聞きますので。それと、知財本部の採択を受けていない大学でも、どうしたらいいのか、やることはわかっているけれども、スタッフの点で最低どれだけを確保してやればいいのか、あるいはあげられている項目の中で最低何をやればまず大丈夫なのか、たくさんの問題をかかえています。TLOに関係しておりますと、そういう大学から、うちで何とか組織らしいものはつくった形にするけども、実務はTLOで全部やってくださいといった話が出てきたりします。現場の話としては、理念は結構ですが、どうやって回すかという点に非常に問題を抱えております。その点、どの辺まで言及なさっているのか、少しお聞きしたいと思います。

委員 ほとんど同じ質問しようとしていました。どういう感じで、タイムテーブルをどのように組んで問題解決しようかというのが今、一番我々困っているところなのです。ほとんど先ほどの委員と同じ質問だったので、よろしくお願いします。

主査 それらは今後の宿題かと思いますので、特に……。

委員 少なくとも今のお答えはこの委員会報告には全く書かれておりません。それから、多分このモデル事業は、最初から応募要項にもあるとおり、各大学が、それぞれこれまでの人材とインフラを使いながら新たな機関をつくってやってください、ということだったと思います。私どもの大学はそういうつもりで動いていますので、TLOがきちんとやるところと知財部がやるところ、それから、今までの地域共同研究センターのリエゾンがやるところというのを分担する形になっています。文部科学省で各大学での知財部の陣容の調査をされておられます。したがって、どういうふうにというのは一概に申し上げられない、というのが今の答えです。

主査 その辺の事情をできれば、規模とか、いろんな要素によって違うけれども、何か少し記入していただければ大変ありがたい。あるいは時間的な問題も含めましててですね。

事務局 各大学でどんな組織で実際やられるのかと、あるいはやろうとされているのかというのを調査しておりまして、各知的財産本部の体制でありますとか、組織がどんな規模なのかというのは事務局で現在、調査をしております。あまりおくれると意味がないので、適切かつ、なるべく早いタイミングで皆さんに使っていただけるように公開したいと思っております。それをごらんいただいて、この大学ではこんな規模でこんなことをやっているのだな、ということが広く分かるように、していきたいと思っています。

主査 最後に何か質問ごいますか。では、私から一つだけ質問を。最近、大学とある特定の企業との包括協定が報告おります。その場合のメリット・デメリットがあるのではないかと思うのですが、そのデメリットというのは、あまり密になるとほかの企業が逆に阻害されるというような、そういう点は多分言及されているかと思いますので、今後ひとつ、その辺のご記述もお願いしたいと思います。

委員 今おっしゃられたことは報告書にもご意見をいただいております。ご指摘のような包括協定の問題点から、もうなるべく包括という名はないほうがいいのではないかと私自身は思っております。専門家からもそういうご指摘をいただいております。

主査 ぜひその点よろしくお願いいたします。それでは、この件はここまでにしたいと思います。報告書ができるということを我々は大いに期待を申し上げておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

○ 「我が国における技術系プロフェッショナル人材のキャリア開発とキャリアパスの在り方に関する基礎調査」について

  • 資料3に基づき、「我が国における技術系プロフェッショナル人材のキャリア開発とキャリアパスの在り方に関する基礎調査」につい社会経済生産性本部技術経営研究センターの佐藤事務局長から説明があった後、委員による自由討論が行われた。
    その内容は以下のとおり。

主査 時間の関係もありますので、大変恐縮ですが、1、2件でご質問をお願いしたいのですが。

委員 日本の場合の悪いくせはハウツーになってしまうんですね。MOTというのはほんとうにハウツーなのでしょうかという疑問があります。ハウツー教育をやっても、それはそこまでの知識にしかならないので、むしろキャリアパスという観点からMOTを考えていくということは、どうやってセルフビルディングしていくかということを課題として取り上げ、検討していただいたらどうかと思うのです。むしろ入り口、どうやったら自分で勉強できていくかという入り口を提示すると。あとはキャリアの中で自分で自由に自学しなさいと。できない人は置いておけばいいわけですね。特にMOTでのキャリアパスをという、最後のところの提示というのは、MOTのコースを受けたからというレッテルを張られると中身はなくても大丈夫という、そういう現実に合わない世界ができるのはやめた方がいいのではないかと思うので、その辺は十分注意をしていただいたらありがたいのですが。

主査 どうもありがとうございます。それでは、ほかに質問はございますでしょうか。ございませんようでしたら、この件についてはここまでにしたいと思います。事務局長、ありがとうございました。御礼申し上げます。

○ 「知的クラスター創成事業本格実施への移行候補地域の決定」について

  • 資料4に基づき、「知的クラスター創成事業本格実施への移行候補地域の決定」について事務局から説明があった。

○ 「イノベーション・ジャパン2004」について

  • 資料5に基づき、「イノベーション・ジャパン2004」について事務局から説明があった。

○ 「その他」について

  • 資料6に基づき、「国立大学法人等の特許等に係る費用の取扱いに関する経過措置」について事務局から説明があった後、委員による自由討論が行われた。
    その内容は以下のとおり。

主査 この件につきまして何かご質問ございますでしょうか。これは、今まで国が全部持っていた特許は各大学に帰属すると考えてよいのですか。それとも、大学が希望すれば、ですか。

事務局 いえ。これは現在、国有財産管理台帳で一括して財産が管理されておりますので、それは包括的に指定をされて、今、大学で管理しているものが丸ごと移管される予定ということになっております。

主査 わかりました。

事務局 移管された後、それはもう大学法人有の権利でございますので、あるいは放棄するとか、売却するとか、個々に判断はあり得るのかと思いますけれども、この4月1日の時点で国から法人に一端すべて承継されるという状況でございます。

主査 それは相当膨大な数になりませんか。

事務局 はい。全国で今、台帳ベースで千数百件ということになるかと思います。大学ごとにしてみれば、数十件の範囲が多いのではないかと思いますけれども。

主査 わかりました。どうもありがとうございました。そうしますと、本日の議題は一度これで終わりましたけど、せっかくお集まりいただき、まだ若干時間がございますので、特に最初の特許の試験、大学の試験・研究に関する特例等に関してはまだご意見がおありの方がいらっしゃるのではないかと思いますが、何か特にご発言はありますでしょうか。

委員 文科省の方に何かせよということでないのですが事実だけ申しますと、私は4月1日からある県立大学に行くのです。それで履歴書を提出せよというときに、今現在兼業している取締役を退職するという一行を書きなさい、ということになっております。県立大学とか、地方自治体というのは兼業規定の改正が全然進んでないということが判明いたしました。そういう事実がありますので、何とかされないと、産学連携が地方の公立大学では進まないのではないかと思います。

主査 これは多分、まさに残されている問題です。産学連携は私立大学が先行して、国立大学が次に、それで最後には県立大学が残るという状況を、非常に端的に表しています。ここで議論する話ではないかもしませんけれども、私もそれは、非常にわかる話です。公立大はそういう部分は厳重に処理されている。

事務局 回答になるかどうか分かりませんが、もちろん設置主体ごとの判断はあるわけですけれども、せっかくこの委員会でもご議論いただいたような産学官連携の取り組みは動いてきておりますし、国ではこうやってやりますので、設置主体(自治体等)もぜひご配慮くださいというようなことは、私どももいろんな機会で引き続き訴えかけていこうと考えております。先生ご指摘の点もまた、詳しく承らせていただきます。

委員 市長とか知事とか、そういう人がその気で判断すればやれることですよね。

委員 それはそうなんですけど、法律的に全然だめなのです。

委員 だめですか。

委員 公立大学の教員等は地方公務員法であって、教育公務員特例法の適用がないんですね。

主査 県の判断では直せないんですか。

委員 京都では、京都府立大学の事例がありまして。そこの先生が二、三の大学と会社をつくってやりたいといったのです。しかし事務局がそんなことは分からないと言って反対しまして。それで私は、国ができているのに府ができないのはおかしいと知事に話をしました。その後の詳しい経緯は分からないのですが、その先生から一件落着しましたという手紙が来たので、多分うまくいったと私は確信しているのです。

主査 知事の判断で、という事例でございますね。

委員 地方自治法等でいけない、ということになっているのですか。

事務局 おそらく勤務条件等を自治体ごとの取決めで、条例等の県の規則で決まっているかと思いますので。

委員 知事が判断すればいいわけですよね。

事務局 はい。まあ、条例ではっきりだめと書いてなくて、運用であれば知事の決断でできる部分もあるのかもしれません。そこは県によって違うと思います。

主査 私も多分そこは、おっしゃるとおりだと思いますけど。

委員 別件でもよろしいですか。先ほどらご紹介いただいたモデルプログラムの委員会報告ですけれども。逆に言うとこれは、大学のある意味での固有の事情も非常によく書かれているので、これがすべて整うかどうかは別にして、ぜひこの種の報告、ある意味では情報を産業界にも知ってもらうということがすごく効果的ではないかなと思います。お互いに相手を知るということは非常に大事だと思いますので、この報告書の活用にそのことにちょっとお目配りいただけたらと思いますので、よろしくお願いします。

主査 これは大学だけではなく産業界にも一つ、経団連等を通して周知をお願いしたいと思いますね。

委員 今日のテーマでなくてもよろしいですか。

主査 どうぞ。

委員 一つ非常に大きな問題があると思うのは、産学連携をしていろんなところで発表すると、おもしろそうなテーマに、いわゆるベンチャーキャピタルが入ってくるのです。このベンチャーキャピタルというのは、ほんとうにピンからキリまでありまして。ヤクザまがいのベンチャーキャピタルもあるのですね。私が聞いた実例が一つありまして。ある方が一つの大学とずうっと産学連携をやってまいりまして、いよいよ会社設立のところまでいって、いよいよ登記をしようといったときです。その先生がおかしなベンチャーキャピタルにひっかかって、一晩で洗脳みたいなことをされたのです。そのベンチャーキャピタルが、先生がすべての権利を取れずに、企業が入り込んだら、全部権利を取られてしまいますと言いいました。あくる日から、先生が変わってしまいましてね。それで、ベンチャーキャピタルから5億でも10億でも出すから自分で研究所をつくりなさいとか言われて、先生はその気になってやってしまったのです。すると結局、そんな金は出なかった。その技術は非常によかったんですが、とにかくどうしようもないことになってしまいました。したがいまして、産学連携もいいし内容もいいのに、そういうベンチャーキャピタルにだまされている人が随分たくさんあるのではないかと思うのです。これは、単なる一例ですが。ですから、先生方に一体投資とは何であるかということをきちんと分からせるべきではないかと。先生にとっては、借入金も、投資も、文部省からやってくる科研費も、補助金も全部一緒なのです。要するに、金が入ったら自分の物で、出ていったら他人の物、という意識でしてね、資本とは何ぞや、借入金とは何ぞやということ自体ご存じないのですね。その知識のないところへ、おかしなベンチャーキャピタル等が入ってきて煽り立てると、一気に舞い上がってしまうんですね。ですから産学連携するときに、少なくとも先生方を、会社をつくるときには会社というのはどういうものなのかということを分からせなければ。それから、少なくとも貸方と借方と、それから、損益計算書というのはこういうものであると。必ず原価の中に自分を含めると。先生は国から給料をもらっていますから、働く人の給料を入れるとおかしいという意識があるのです。自分はただだという感じなんですね。働いている人も、ただ。電気代も大学の電気だから、ただ。そういうことでとにかく、原価計算を知っていただくまででも大変なのですね。そんな先生ばっかりでもちろんないのですが、えてして今までずっと研究だけされていた方で、内容は非常にいいのですが、事業になるときに大変な問題が起こりがちです。先生にもぜひ基本的な問題だけは勉強していただけるように、ぜひ何かのところでご提示してもらえば大変ありがたいと思います。

主査 どうもありがとうございます。そのようなことは、これからも沢山起こりそうな予感がいたします。特にベンチャー、あるいはインキュベーターといったところでは原価計算といいますか、会社というものの運営に関するきちんとした正確な理解がないと、とんでもないことになるし、だまされるし、取られてしまう、ということが起こる。そのようなことを、どういう形で注意喚起したいいのでしょう。この点を事務局、あるいは伊藤先生の報告書に。

事務局 1つには、今委託している研究プログラムのうち一つで、小樽商科大学に委託しているものがございます。先ほどの東北大学と同じようにですね。それは大学発ベンチャーのマニュアル的なものを考えてくれないかということで、その大学の先生がやったときの創設の手続とか、実際の経理のあり方とかですね。実際ベンチャーですから、店を畳むときも当然あり得るわけでして。そのときに法的紛争を残さずに、いかに再チャレンジを可能としつつ整理をつけるかというのは、実際の手続面をもう少し周知できないかということで、資料を検討してもらっております。あるいはそういったところでご参考にしていただけるものが出てくるかもしれないと思っております。

主査 どうもありがとうございます。

事務局 それと、我々でもいろいろベンチャー支援というのをJST、あるいは我々自身もやっているわけですけれども、そのときに申し上げるのは、研究者の方々、大学の先生ですね、いい技術を持っておられるんですけれども、そういう方とだれが経営するのかという点です。経営者と研究者が同じ場合というのはほとんどなくて、別の方がきちんと経営をやるということをぜひ実現してくださいというようなことをほんとうに頻繁に、応募の要領だとか、そういうところでもきっちり書いております。提案の審査のときにもだれがその経営をマネージするのか、ベンチャー支援ですから、3年ぐらいでベンチャーを立ち上げられるわけですけれども、その間にどういう経営がベンチャー企業のスタートアップのときに向けてやるのかということをきちっと書いてくださいと。そんなことを言って、極力研究者の人たちが自分で経営するなんて思わないでくださいね、ということは言っております。先ほどの委員がおっしゃったようなことは、決して稀ではないのかもしれませんけども、今後あまりそういうことが起こらないように、いろんな機会でお話を申し上げたいと思っています。

主査 どうもありがとうございます。

委員 今ほどの話にもありましたけど、金融がよくわからない大学の先生が多いというのはあるのですが、逆に、技術がわからない金融者がごまんといるということでございます。一部ベンチャーキャピタルの中には技術系出身の方もほんの少数はいらっしゃいますけども、銀行系、それから銀行系のキャピタルの中には技術系の人がいても、それはほとんどリスク管理であるとか、デリバティブであるとか、そういった証券化絡みのところにいて、技術系の会社とつき合うところの人材というのがやっぱりいないと。したがいまして、技術系の会社から、リレーショナルバンキングということで、地方で技術を持った会社を支援しようということが決まっても、技術の分かる人材がいないということで、技術のある会社から話があっても、どこと取引があるのですかとか、販売実績はどうですかとか、そういった形の話しかできない状況があります。そこはMOTということでないのでしょうけれど、技術系の人材のキャリアパスとして、こういった金融というのも実は非常にニーズがあるんだといったところを、個人的な感想ですけども持ちました。

主査 どうもありがとうございます。それは非常に重要なというか、いつも議論になっている点だと思います。

委員 済みません。先ほどから少し話題になっている大学の先生がチームを組んでバウンドのこと、経営がという話が出ていたと思うのですが、ベンチャー学会も実は3年ぐらい前から理科系の先生に向けて、そういう勉強会といいますか、アナウンスすると反応が非常になかったのが現状だったのです。最近はぼつぼつ関心を持っていただいて、セミナーを開くと集まっていただくこともあるのです。大分変わってきたのかなと思って、学会の場合はそういうのをこつこつやっていくことなのかな、と思っているのです。あと、産官学のところでいろいろな意見が出た中で一つ出てなかったのが、学術団体、学会との関係でいろいろと産官学というのは、特に日本は理科系なんかは技術開発とかを行われてきたと思うので、学会との関係における産官学のあり方とか進め方というのは、もう一度周りのものを参考にしながら、今後のあり方というところでその視点を一点いただきたいなと思いましたので、少々つけ加えさせていただきました。

主査 どうもありがとうございます。一番最後に、私は学会における産官学連携というのは、今までの日本において非常にすばらしい業績を上げた例だったと思っております。そういうこともぜひ今後取り上げていただきたいと思いますし、これは、大事なご意見として承っておきたいと思います。

5.今後の日程

 次回については今後日程調整を行う旨、事務局より連絡があった。

お問合せ先

研究振興局研究環境・産業連携課技術移転推進室

(研究振興局研究環境・産業連携課技術移転推進室)