産学官連携推進委員会(第14回) 議事録

1.日時

平成14年12月3日(火曜日) 10時~12時

2.場所

虎ノ門パストラル ペーシュ

3.出席者

委員

 末松(主査)、生駒、市川、伊藤、川合、川崎、岸、北村、小林、清水、田村、平井、堀場、安井、吉田

文部科学省

 石川研究振興局長、坂田審議官、小山技術移転推進室長、佐々木技術移転推進室長補佐 ほか

4.議事録

(1)知的財産ワーキング・グループ報告書について

  • 資料1について伊藤委員から説明した後、その内容に関する質疑が行われた。

 その内容は以下のとおり。
 (◎・・・主査 ○・・・委員 △・・・事務局)

委員 きちんと整理されて大変結構だと思うが、一つ伺いたいことがある。これは大学のポリシーに任せてもいいことかもしれないが、政策として人材の流動性を高める努力がある一方で、知的財産権を機関帰属にしたときに、その発明者が機関を移動したときにどうなるかという問題があるのではないか。また、その対応策は二つあると思われる。一つは発明者に権利を移転すること、二つ目としては権利は移転しないものの、機関を移動した発明者に対して引き続いて利益配分を行うという考え方があると思うが、それを実際に大学のポリシーに任せてしまうと、流動性を阻害する方向で働く可能性が十分ある。したがって、その辺は全体として押さえておいたほうがいいのではないか。

委員 その点については、直接は検討していない。知的財産ワーキング・グループ(以下「知財WG」という。)の中では意見が出ていないが、アメリカなどの場合、流動性が我が国よりはるかに高くて、かつすべて機関帰属であるという例はたくさんあるので、日本においても矛盾なく運用できるようになるのではないかと思われる。今の話はこの報告の中で検討したほうがよろしいということか。

委員 知的財産権の帰属と発明者の機関移動との間に起こる問題をこの報告書の中にある枠組みに取り入れるかどうかは今後の検討課題であるが、報告書に書く書かないに関係なく、この枠組みの中に入れておく必要があるのではないか。大学に自由裁量で一任した場合、少なくとも政府の他の政策と、ある意味では矛盾しかねない状況が起こるということである。

主査 大変重要なポイントだと思われるので、可能であればぜひその中に、流動性と機関帰属の関係を検討すべきという項目を入れておいていただきたい。

委員 取得までと管理までについては十分書かれていると思うが、企業あるいはベンチャーが一番求めているのは、いわゆるエクスクルーシブ・ライト(排他的権利)を与えられるかどうかという独占契約である。例えば、外国のベンチャー企業の場合、間違いなく排他的権利を要求する。日本企業の場合、大学には公的な性格があるので優先期間を8年なら8年は認めるが、その間に実施しなければ他へ実施権を渡すということを契約の中で定めている。技術や特許として流布するためには、やはり公的研究機関であろうと何であろうと、独占権を付与してその社に全責任をとってやっていただくという割り切りが必要ではないか。この報告書の中でそうした割り切りについて述べていただければ、独立行政法人になった従来の国研においても、その他の研究助成している機関が保有している特許等についても、その点が明確になり、言い方は悪いが、もっと特許が売れるようになるのではないか。

委員 基本的には、大学は実施機関ではないので、専用実施権を付与するということは大学が持つ大きな権利の一つだと思う。その権利を使うことについては、いろいろなケースがあるので、大学のポリシーに任せたほうがいいと思われる。専用実施権でない場合もあり得るので、専用実施権と書いてしまうと全部専用実施権になってしまう。

委員 公的なものはすべて平等という悪平等主義で進めると、結局、やりたい意欲を持っている企業の方がいても、独占権をもらえないから産学連携に資金をかけられないという面があることになる。そうした意味で、やはり専用実施権の付与を含めた広範に流通しやすい体制を各大学で考えるべきとか、専用実施権の付与を認めた書きぶりにしていただきたい。

委員 今のような表現はよろしいかと思われる。

主査 全部専用実施権を設定することは必要ないが、例えばできるというフレキシビリティー(融通性)を与える表現でよいのではないか。

委員 非常に広範な問題を含んで、きちっとまとめられているが、ある意味では知的財産を超えて、大学の使命まで踏み込んで書いている。最初に前提として、大学の使命は研究、教育、社会貢献であると極めてスムーズに言われているが、社会貢献を第三の柱として本当に立てていいかどうかということは、私自身非常に長いこと考えていた問題である。考え続けた結果、やはり直接的な社会貢献ではなくて、「研究、教育の成果を社会還元することによる社会貢献」というふうに縛らないといけないのではないかと最近思うようになった。具体的な例を挙げれば、地雷除去のNPOがあり、大学の先生が直に現地へ行って、これは大学の使命だから行うということが許されるのか。地雷除去の技術開発をすることによって貢献することはもちろんいいことだと思われる。ここに書かれているのは明らかに研究成果を基にする社会貢献に限定されていると思われる。今の世の中の傾向は、みんな教育、研究、社会貢献の三本柱で進んでおり、それ自体についてあまり深く考えていない。この問題はもっと議論をしないといけない。私は、研究、教育を通しての成果を還元することによる社会貢献ということで縛りたいと思っている。大学の使命についてはどこで検討すべきなのかわからないが、今の三本柱の考えは非常に危険な思想である。
このほか、大学に知的財産を譲渡することはよいが、これは教官採用のときに採用条件でサインアップするような事項なのか。知財WGに書いてある具体策を一体どうやってインプリメント(実行)するかということについて事務局にも伺いたい。また、譲渡したはいいとして、発明者に対しての権利関係はどうするのか。これは機関ごとにポリシーの中で決めるのか。要するに、発明者が研究機関を辞職して、発明した成果を基にスピンオフしたいときに、その研究成果に関して優先実施権や優先付与権を求めることが当然あり得ると思われるが、そうした問題についてどう対応するのか。
 それから、大学が実施権者にならないと言われたが、大学法人が子会社を作って、そこで実施させるということも将来的にあり得るのではないか。以上三点について教えていただきたい。

主査 今の第三の使命に関する発言については、私も全く同感である。また第三の使命という言葉自体に異論を唱えている方がたくさんいることは存じているので、その辺の表現を少し検討させていただきたい。それから、第二、第三の質問については、事務局から答えていただいたほうがよろしいのではないか。

事務局 この報告書においては、広い意味での大学の個性、特色をいろいろな場面で浮き立たせることの一環として知的財産の管理があるとしている。その大前提として、産学官連携をそもそもやるかやらないかというところも含めて、その大学の個性、特色であるとしている。その意味では、人材の流動促進により発明者が大学を出たときに、その大学が知的財産について発明者とどのような権利関係を結ぶのかということについても、大学の自由度をかなりの程度保障するスキームにならなければならないと思われる。この報告書の中身については、さらにこの委員会でも御議論が続けられることと思うが、この基本的考え方を基にまずは各大学でポリシーを含めて、自分の大学の個性、特色を改めて見直していただく過程で出てくる具体的な課題、先ほど委員から指摘のあった人材の移動に関する取り扱いをどうするのか等についてどこで検討するのかということも含めて考える必要があると思う。つまり、いろいろなポリシーのモデルについて、従前どおりの着想で文部科学省がモデルとして示して、これでございますということではよろしくないと思われる。

委員 趣旨がわかっていない答である

事務局 教官採用のときの機関帰属の問題や、スピンオフしたときに発明者がしかるべき対価というか、発明したことに対する貢献度に見合うものをきちんと元の大学からもらえるかという質問についてであるが、私は、今回まとめていただいた知財WGの考え方の基本は、やはり発明した者に対してきちんと還元するということであると理解している。したがって、発明された先生が、他の大学や研究所に移られる、あるいは自ら起業されたときに、発明者としてのしかるべき対価といったものを大学のポリシーとしてしっかり確立する必要があると考えられる。これから各大学には独自に産学連携に関するポリシーを実行する全学的なマネジメント体制を作っていただきたいし、我が省もそれをしっかりサポートしていくつもりである。それから、教官採用と機関帰属の問題をどうするのかということについては各大学のポリシーによって対応することになるので、就業規則にそういったことを書くことが適当かどうかわからないが、そのような対応もあり得るかもしれない。ただ、大学の知的財産ポリシーの中で機関所有を前提としてルールを作ったとしても、自発的に協力する教官もいれば、他方で、原始的には権利は自分にあるから一切協力できないという先生もいるかもしれない。その点についてはできるだけ大学の方針に協力していただけるようなスキームを、各大学の学長のリーダーシップの下で是非作っていただきたいということが基本的な考え方である。それから、先ほど委員から指摘のあった「大学の第三の使命」についてであるが、あくまで研究・教育が本来のミッション(使命)としてあり、その成果を使って、いわゆる社会還元、社会貢献をするということが基本だと思われる。そうした観点から、第三の使命という書き方がいいかどうかについては議論があるかもしれない。これからだんだん大学がそうした社会貢献を意識して活動していくことになれば、研究・教育から離れることはないとしても、大学の持つポテンシャル(潜在能力)に対する周辺地域からの要請に応えた活動が増えてくることは十分あり得ると思われる。その意味で、先ほど委員が言われた、「研究・教育の成果の社会還元」よりも幅広いものが出てくる可能性はあり得るのではないかと個人的に思う。

委員 私が申し上げたのはそういうことではなく、むしろ法律上の問題、法務上、規程の問題でどのように考えているのかということである。

主査 この報告書はあくまで大学が機関として特許を持っていいということを言っており、全部持てと言っているわけではないと理解している。しかも、それは特許をできるだけ広く活用してもらうためにこういうことを言っているのであり、その趣旨を受けて、今後、各大学において、委員が指摘されたようなことを踏まえて実施に踏み切るべきだということが要旨ではないか。

委員 しかし、何か法律か規程を改正する必要があるような気がする。

委員 機関所属にするという大方針があって、法人化によって各大学が独自のポリシーを持てるということは、大学自身が一つの企業というか、一つのある自主的な動きができるようになるということである。そのため、先ほど指摘があった大学の使命も、大学によっては本当に研究・教育だけをやるというところもあれば、産業に資するようなところまで行うというところも出てくると思われる。そこは一元化することができないので、各大学のポリシーによるということでいいと私は思う。ただ、大学の教員にとっての一番の問題は、そうした動きの中における評価をはっきりしてほしいということである。これからは採用されるとき、おそらく契約のようなものにおいて、この大学のこのポリシーではこうなんだということを示すことがなければ、非常に大きな混乱が起こると思われる。その意味で先ほど委員から指摘があった明文化等もう少しきちんとした形を示すことが、これから非常に強く望まれるのではないか。

主査 今、委員が言われたことは機関有の大前提だと思う。それは各大学でこれからお決めになるということで、多分、遠慮して書かれていないと思われるが、そうしたことを大いにやるべきではないかということをどこかに書かれたほうがいいのではないか。

委員 この報告書に基づき次のステップとして官庁がどういうアクションをとるかということである。職務発明の規定についてなど、法改正や規程改正が必要ではないか。法人化の中で定めるのか、あるいは全部それを投げてしまって、個人契約で対処するのか。

事務局 事務局としては、職務発明を規定している特許法第35条を中心に、この機関帰属の転換のために何か法令をいじる必要は特にないと考えている。

委員 第三の使命というところについてであるが、私の考えでは、第三というと3番目で、アディショナル(付属的)なものであるような感じをものすごく受ける。確かに教育も大事であり、学術研究も大事であるが、社会貢献を直接するということも大事であり、やはり大学は三つの使命を持っていると思う。現にスタンフォードやMITのプロフェッサーのアンケートがあるが、プライオリティー(優先事項)の1番は社会貢献であり、90%の回答が出ている。それに対して、日本の大学においては大体20%ぐらいしかない。この意識の低さがおかしいから問題として取り上げられているのではないか。1番、2番で3番目もあるよという感じではなく、大学の使命は教育、学術研究と同じレベルで社会貢献があるという表現をしてほしい。

主査 第三の使命というよりは、「もう一つの使命」と言ったほうがいいかもしれない。

委員 このポリシーが具体的にどう大学で働くかということをイメージした場合、基本的に二つのパターンがあると思う。一つは、大学で生まれた発明の中で、本当にマーケッタビリティー(市場性)があるもの、例えば、100発明があって、そのうち3とか5ぐらいのそういったものを大学が拾い上げて、マーケティングして利潤を上げていくというパターンである。もう一つは、そうではなく、薄く広く100あれば95ぐらいの発明を吸い上げて、権利化していくというパターンである。私が思うには、やはり大学が取り扱うべき発明と、教官が持っていたほうがいい発明というのをきちんと理解した上で、それをどのようなスキームの中で使っていくかということを踏まえてポリシーを作らなければいけない。ところが、この報告書を拝読すると、どうしても後者のほう、つまりなるべく100に近いものを大学に帰属させるという方向に見えがちである。なぜこういうことを言うかといえば、大学の事務方の人と話をすると、向こうは原則機関有と書いてあれば、それを100%機関有と解釈するからである。原則があれば例外があるのは当然であるが、その例外の存在をあまり認識しない。そのように大学の方に読まれてしまうと非常に困るので、両方のパターンがあるということをもう少し明確にされたほうがいいのではないか。

委員 知財WGでも今のような問題は議論に出たが、特許に関しては原則機関有といっても、今言われたように100%になるということは逆に難しいという理解である。この方針で文部科学省もはっきり言っているが、罰則も何もつけるものではない規則で、ガイドライン的なものでしかない。各大学の取組に任せるという考え方であり、いずれは委員が言われたような、個人有と機関有の両方がまざった形で実際の運用をされていくことになると思う。ただ、16年4月から突如ぴたっと切り替わるということ自体が不可思議な話であるので、やはりいろいろなぎくしゃくがありながら、一番安定した、日本的ないい形に達するための一つの道筋になるのではないかということが知財WGの意見である。

主査 まだたくさん意見はあるかと思うが、この報告書は機関有についてこうした場で議論されたものの最初であるので、これについて議論がなければおかしいし、全部十分に、あらゆる細部にわたって詰められたものではないということは当然であり、細部にわたって詰めても合意が得られるかどうかはまだわからないということである。しかし、非常に重要な一歩を出された提言として、皆様方の今の御意見を十分に取り上げながら、かつ精神としては特許をできるだけ活用していただくということを前提に、この報告書は活用すべきであるということで、一応この場はおさめさせていただきたい。

(2)利益相反ワーキング・グループ報告書について

  • 資料2について安井委員から説明した後、その内容に関する質疑が行われた。

 その内容は以下のとおり。
 (◎・・・主査 ○・・・委員 △・・・事務局)

委員 マネジメントシステムをしっかり作り、そこにおいてマネジメントポリシーをはっきりさせるという基本路線については大賛成である。問題は、そのポリシーをどうインプリメントするか、あるいはエンフォース(強制)するかということである。教科書的で恐縮であるが、個人をあるポリシーに従わせるには三つの方法がある。
 この報告書で念頭に置かれている方法は、学内規則による方法だと思われる。この方法がもつ性質のもとで、法の下で万人は平等、公平でなければならないから規則は全員に係るものになる。一方、大学はその中の部局によっても、あるいは各人の任務によっても非常に多様性がある。その多様性を許容しながら規則を決めようとすれば、規則は非常に緩いものになる。このことをどう処置するかが問題となる。
 エンフォースする二番目の方法は契約である。一人一人、あるいはグループごとに契約をして、その中で利益相反に関連することを含めて書き込むということである。
 三番目の方法は倫理であるが、我が国ではあまり倫理に頼れないと思われる。戦後教育においては、子供の頃からしっかりした倫理教育は全然なされていないからである。まず宗教教育を否定して、それから倫理教育を否定したため、その世代が成長した現在、社会のいろいろなところで事件が起こっている。倫理とは規則にならない部分をいうのであって、国家公務員倫理法というものは語義自体が矛盾している。倫理を法にしてしまうということは、それ自体は法であって倫理ではない。
 申し上げたいことは、倫理を除いた、あとの二つの方法を組みあわせて使うということを、手段としてどこかに書いておいていただきたいということである。我が国の組織というのは常に規則を決めて、その中に押し込み、さらに何か具合が悪いことが起これば、またそのための規則を作るということを繰り返してきている。結果として非常に堅くなって全体が動かなくなる。そうならないように、規則の柔軟性を契約の面で確保できるようにしていただきたい。同時に、社会が大学に対して感じていること、あるいは国が大学に対して背負わせている責務も均一とは言えないと思う。教育だけやっているところもあっていいし、教育プラス研究でもいいし、教育、研究、それから利益相反が係るような事業をやっているところもあってもいい。また、利益相反に関してもいろいろな深さがあると思われる。
 大学についての社会が認める最低限のルールを決めた上で、それ以上になれば大学の自主性に任せて、ただし常に全部公開しておいて、国民の目にさらされているというシステムが必要である、といったことを書き込んでいただければありがたい。

委員 利益相反ワーキング・グループ(以下「利益相反WG」という。)としても、規則というのはおそらく大学によって変わって構わないが、大学の自律性を重んじたマネジメントシステムを最大限尊重したいという考え方である。一番望ましい方法は、倫理的にうまくいくことではないかと思う。いずれにしても、その規則を社会に示すことによって社会からの見方、アピアランスをしっかりしたものにしようという程度の規則は、最低限必要だという認識である。

委員 金銭問題というのは非常に難しいと思われる。私は、ある兼業を許可してもらってかなり高い報酬をもらっている。これは大学においては高給であるが、その兼業先の同僚とは同じ給料である。つまり、大学を基準にすると高いが、兼業先の職を基準にすれば同等となる。したがって、その人の報酬が社会的な報酬と同等ということになると、どうすればいいのかということについては書きようがないと思われる。

委員 今の利益相反という切り口で考えて、実際の日々起こる問題を整理してみようとすると、非常に発散傾向にあって、なかなか収斂しない。これは多分、産と学という、ある意味で仮想のつながりを一元的に考えてしまうとどうもそうなってしまうが、産学の間にはまだいろいろな中間組織があって、いろいろな形で関与していて、そこにうまく流し込むと、対峙した利益相反がいくらか和らぐのではないか。抽象的であるが、産学連携をうまくやるためには産と学があるだけではなくて、その間にかなりの部品が必要だという実感がある。特にベンチャー育成に踏み込んだ場合、大学内でそれなりのネットワークを作って、それをセーフティー(安全)にインキュベート(孵化)するという形もあるが、本当に日本の社会構造がそうできるようになっているかといえば、かなり難しい部分が出てきて、かなり知識を汲み上げないと利益相反の核心としてどこをつけばいいのか、その場その場で判断しなければならない場面がたくさん出てくるわけである。では、大学のマネジメント機構で、副学長がそれを全部判断できるかというと、判断の基準になるものがない限り、アドホック(特例的)に考えざるを得なくなってしまう。その意味で、利益相反に関する明確な答えについては、多分、今の説明でかなり言葉を選んで言われたことが現場の話だと思われる。それで、産と学の対峙した形だけでなくて、両者がうまくやっていくための核として当然、大学のしっかりしたマネジメント機構と、産業のそれに対する対応、それをうまくつなげていくためのいろいろな附属的なものがやはり存在しているということをどこかに書いておかなければ、いたずらに対極的にAかBかというセレクション(選択)をしても、現場ではA、B以外の選択肢がたくさん出てくるので、その辺のことを利益相反と表現したほうが現実的である。技術移転においては、必ずそこに利益相反や責務相反が起きるので、それをやわらげるような社会的なものが必要なのではないかということを、この報告書で書いていただければ、現場の人間は単にAかBかの選択ではなくて、やはりある程度自由な、社会の構造に合わせた方法をとり得るという選択もできるのではないかと思うので、その辺のところをお願いしたい。

委員 2点ほど伺いたい。一つは、国立大学法人化後における非公務員型の大学教官にどのような責務があって、細部の枠組み作りの中で何をこれから決めようとしているのかということである。あと、大学の独自性に任せて、就業規則なり、そうした大学独自に決めるところと全体的な枠組みの仕分けというのがよくわかっていないところもあるが、おそらく利益相反については、各大学の考え方のみでは済まないところがあるのではないかという気がする。それが1点である。二つ目は、この報告書は考え方の整理として非常によくできていると思うが、新聞等で近年の不祥事を調べてみたりすると、おおむね研究助成、研究資金の受け入れやその扱いによるというものが大半である。公的な、国が出すような研究助成や研究資金については、おおむねは大学経由で研究者に行っているのかもしれないが、民間と結ぶ場合に、大学教官が個人として契約していて、それを大学が知らないということが結構あり、そうしたことが時々警察ざたになったりしているわけである。大学のそれぞれの考え方があって、一律に杓子定規にはやれないのかもしれないが、利益相反については何でもかんでも大学に届け出ろ、大学経由にしろということはおそらく難しいだろうと思われる。そうすると、大学の先生の判断に任せる部分があって、当局も知らない間にいろいろな金の流れを含めるそうしたものがあるということになる。そうしたものと今回の報告書との関係について、世の中に誤解を与えないようにしたほうがいいと思うが、そうした観点が必要ではないか。

委員 まず、最初の法人化に関しては、全体の枠組みがどうなるかということについては私がお答えするべきではないと思うので、2番目の質問だけお答えしたい。結局、不祥事になっているのは、法律違反、法令違反の案件であり、この報告書で取り扱う話ではない。したがって、ここで何を言いたいかといえば、大学教官個人として、これはちょっと危ないかな、グレーかなと思ったら、届けることによって自分の身を安全にしなさいというリコメンデーション(勧告)であるということである。法律違反であることを知った上での確信犯である人については相手にするものでない。

委員 よく日本の研究者が留学をされるとか、共同研究で外国の研究機関へ行かれるといった場合、そこで必ず一筆、契約書にサインをさせられるわけである。その中に知財権の問題も、それからこの利益相反の問題も包含した形の雇用契約があるわけである。ところが、国立大学の場合、公に定められた就業規則に相当する公務員の服務規定があって、何も個人的には雇用契約をせずに一般則を適用されることになっているのに慣れているわけである。今の就業規則等と書いてあるところで結構であるが、就業規則、雇用契約、服務契約等の個人が主体性を持って結ぶべき労働契約といった契約行為があるということも例示として入れておいたほうがいいのではないか。そうすれば、規則はかなりルーズでも、例えば30時間労働の問題も個人の雇用契約の中でうたえばいいというように個人の契約によって特殊なケースにきちんと対応できるのではないか。あまり公につくる規則に依存するのは、変な倫理規定になってしまいやしないかと思う。

委員 私が以前勤めた会社は企業倫理では日本においていつもナンバーワンにランクされており、コンフリクト・オブ・インタレストに対しては非常に気を使っている。ただ、考え方がちょっと利益相反WGのものとは違っており、我々の考え方は、法定があって、グレーゾーンでよくわからない部分でも、このルールを守っていれば絶対に法律には違反しないと社内規則で規定する。グレーをグレーのままにしてマネジメントを任せるというのは、利益相反ルールではない。したがって、その会社の規則は、お歳暮、お中元は何がなんでも返しなさい等極めて具体的である。利益相反ルールは極めて具体的で、次々にケース・バイ・ケースでもって積み重ねていくものである。これを守っていれば絶対大丈夫だよというものを作るのが利益相反ルールであるということを申し上げたい。

委員 これからも勉強させていただくが、やはりおそらく企業の立場と、国立大学法人の立場とは随分違うのではないかと思われる。

委員 独立行政法人は限りなく企業に近いものではないか。

委員 おっしゃるとおりであるが、歴史的な流れとして時間、継時的にも、どこに行くかというところをまず探りながらではないかと思っている。

委員 法人化後は、結局、教官等は服務規程にサインしなければ、特許の譲渡の問題においても効力をはっきりしなくなると聞いている。審議会に何時間出ていいのか、あるいは休講は1回もやってはいけないけれども審議会は出ていいといったことについても、こうしたルールを使ってサインさせないと動かないと思われる。今は、そこの部分がまさにグレーのままでほったらかしである。審議会ばっかり出てきて休講する先生等については、やはり給料を減らすなり何なりをしなくてはいけないのではないか。私は企業にいるときは審議会ばかり出ていたので、あなたは全然働いていないじゃないかとえらく怒られた。どの部分で自分が給料をもらっているかということを常に考えながら仕事をしなくてはいけない。

委員 おっしゃるとおりであるが、先ほど御提案された、ここまではシロであるというところをきっちり記述するということをあえてやらなかったのは、今現在が過渡期にあるためである。

委員 過渡期は関係ないのではないか。やればできることであり、ただやらないだけではないか。

委員 利益相反WGもそうだと思うが、私自身も利益相反では基本的にルールを作れないと認識している。具体的に言えば、例えばある大学の先生がある企業と関係を持つ中でライセンスをされ、エクスクルーシブ・ライセンスをしたとする。次に、そこの取締役などボード・メンバーになり、さらに、今度はその会社のエクイティーを持つといった、いろいろなフェーズ(段階)がある。今のは非常にシンプルな例であるが、利益相反というのは非常に複雑な、いろいろな行動がパターンとしてかかわってくる。そうした中で、これはやってはいけない、例えばA大学は絶対に取締役になってはいけないとか、絶対にライセンス・エクスクルーシブはいけないとか、絶対この組み合わせはいけないということをルールにして本当にいいのかという問題がある。お歳暮等についてはルールで規定してもいいが、そうした規範には基本的に先生の行為にバイアス(偏見)を感じさせない行為がたくさんある一方、どこかでバイアスが出てくる可能性もあるので、一律に決められない部分が必ずあるわけである。そこをどのようにしてハンドリングしていくかというマネジメントの仕組みが、一応、利益相反の共通している部分であり、ここは最もルールや規則や契約になじまない部分だと私は思っている。

委員 そこは違う。利益相反はまさに利益相反そのものである。今言われたことは、取締役になる、ならないということをその前に規定しようと思っているからできないのである。利益を相反してはいけないというルールは作れる。取締役になってはいけないといった外形標準的なもので規範を作るわけではない。つまり、利益を相反しなければ取締役になったっていいわけである。利益相反が起こる事例をできるだけ具体的に絞って、項目に加えていくことにすればよい。

委員 利益を相反しなければいいということになると、利益相反=クロだという考え方か。

委員 利益相反=クロである。

委員 その考え方を利益相反WGではとらなかったわけである。

委員 しかし、利益相反ルールとはそういうものではないか。

委員 産学連携というものを行っていく過程において、ごく普通の状況として現れてくるものが利益相反と考えており、それを最初からクロだと規定することによって産学連携が進まなくなることを逆に恐れたのである。

委員 先ほど言った取締役になってはいけないということはそうであるが、それはあくまでも、取締役になった上で、自分の本元との間に利益相反があるような行為をしてはいけないという決め方である。

委員 ただ、それはやはりいろいろ程度があって、グレーであるのではないか。

委員 ルールはきれいにきちんと書けるはずである。ただ、それを適用するときはグレーになるわけである。

委員 今言われたクロの意味であるが、利益相反の世界では要するに本務に関してバイアスがかかっているということである。

委員 それは、例えば、休講はしてはいけませんといったことではないか。休講しない範囲内でいくらやってもいいよという決め方があるのではないか。それが責務相反ではないか。

委員 責務相反の中では、もちろん勤務時間の割り振りをするので可能である。

委員 割り振りといった形式ではなくて、実際に休講してはいけないということである。今は割り振りで対処しているが、私はそれではいけないと思う。要するに、形式ではなくて中身で規定しなさいということを言いたい。

主査 これは非常に重要な議論であるが、大学の非常に多様なファンクション(機能)のためにまだ詰め切れていないところがある。しかし、今まで日本の歴史の中で、産学連携に関しては不当にいろいろ批判されたことがあったため、安心して産学連携に従事できるように、大学がある種の規定を持つ、それに従っていれば個人は非難されないという仕組みを最小限作ろうということが今回の報告の趣旨であると思われる。そこから先に、今議論されているようないろいろな問題が出てくると思う。

委員 その考え方には賛成である。

委員 私は利益相反についてのルールを明確にする考え方に賛成である。ただ、現状でそこら辺がまだはっきりしないため、ここでの報告はこのように書かれているのであり、最終的にはやはり契約なり、それから各大学によってかなりはっきりした形に進むべきであるといったことは少なくとも書いておく必要があるのではないか。

委員 利益相反WGに属した者として言わせていただく。説明されなかった点で、報告書の24ページ以降に事例集があるが、これが先ほどからの委員の質問に対する答になると思われる。この中に責務相反まで入れて、こういうことが起こりやすいという中で幾つかのクライテリア(判断基準)があるので、委員が言われることは十分わかるが、各大学の産学連携の密度の濃さによって、ここに挙がっている、例えば24から25ページの事例を参考に、どこまでを書き込むかということをそれぞれの大学にお考えいただくようにしておけばよろしいのではないか。

委員 ある人が兼業をやった場合には利益相反であるが、ある人が兼業をやったときにはむしろ利益相乗になることもあるのではないか。相手先のベンチャー企業に行って、自分の研究を発展させて、それが研究室にフィードバックされる、そこへ学生をトレーニングで連れていって研究をさせるといったことはむしろ利益相乗になると思われる。それを踏まえると、なかなかルールをつくるのは難しいのではないか。

委員 今、委員が言われたとおり、状況によって、例えば株式を持つ持たないで変わってくると思うので、その辺のところはやはり一律的にはなかなか難しいという認識がある。実際にベンチャーをいろいろ支援した際、金融機関としての利益相反、責務相反的なところが出たときも、個別の契約によって、この場合はいい、この場合は悪いというように対処したこともあるので、一律のルールというのはなかなか難しいと思われる。

委員 私もベンチャーの関係で先生方によくお会いするが、温度差が非常にあるということを感じる。この報告書がただ机の上に置かれずに、一人でも多くの先生が読んでくれることを一番望んでいる。

主査 まだたくさんの御意見がおありだろうし、さらに精緻にしていくための非常に有効なアドバイスがたくさんあるかと思われるが、一応時間が超過したということと、また、今回、こうした提言が初めてであり、これが完璧であることはないため、いろいろな形で議論が進んでいくと思われるので、委員の皆様方には、今後大所高所からこの件についていろいろなアドバイスをいただきたいということをお願いして、今回はこの報告書を承ったということにさせていただきたい。本日だけでたくさんのいろいろな意見をいただいたので、それをできる限り取り込んでいくという方向でよろしいか。

委員 当委員会は産学官連携推進委員会であるが、今までの議論はすべて産と学の間だけのものである。したがって、私は、官と学の間の連携というのはこの場の仕事でないかどうか、委任業務に入っているかどうかということを確認しておきたい。もし、入っているのであれば、かなり深刻な問題がたくさんあるので、議論していただきたい。例えば、いま、官側すなわち国立の研究所が独立行政法人になった結果として、国立大学との連携が非常にとりにくくなっているということがある。さらに国立大学が非公務員型の国立大学法人になり、人の移動の際に、公務員型と非公務員型の間を行き来することとなれば、制度的にも難しい面が出てくる。さらに、環境のような総合的に国として推進しなければいけない研究分野において、官側である国立研究機関同士はわりあい連携がとれるが、その中から大学における研究が抜け落ちてしまっている。したがって、官と学の間の連携の問題がたくさんあり、それが日本の研究資源を無駄遣いしていると私は思うので、その点を審議していただきたい。もし時間もなく、委任業務でないとすれば、別に審議する場を作っていただきたい。

委員 今の利益相反に関しては独立行政法人では非常にはっきりしており、やってはいけないことを明記しているほかは特にない。グレーとかではなく、これをやったら危ないよということを明白にして、好き勝手にやらせるためのものだと理解している。それともう一つは、今、委員が言われたように、特に非公務員型と公務員型のために人材の流動がやりにくい時代になっているというところである。当委員会はあくまでも産と学の話が主だと思って今日は発言を控えていたが、またそれについては是非発言させていただきたい。

主査 この委員会はあくまで産学官である。
委員 そうであるが、ほとんど産と学なので少し入りにくい。

主査 今回の報告は、特に大学に関していろいろなことがあったということから集中的に報告があったと思うので、そこは誤解のないようにお願いしたい。

事務局 二つのワーキング・グループで議論していただいたことをベースに、それを委員会レベルで追加的にいろいろ議論していただくことを基本にはしているが、今の委員の問題提言は大変重要だと思われる。本来、そうしたことが議論されてしかるべきだとも思う。日程はかなり窮屈であるので、その範囲でどれだけのことができるかという問題もあり、公務員型、非公務員型の問題は最も基本的で重要な問題であるため、それをここでやることが適当かどうかということもあるが、ただ、連携をどうやってとっていくかということは大変重要であるので、日程の範囲で、かつ、この報告書をベースに議論を展開する範囲で議論していただくことは一向に構わないと思われる。

5.今後の日程

 次回は1月中旬に開催する予定とし、各委員との日程調整の上、事務局から改めて連絡することとされた。

お問合せ先

研究振興局研究環境・産業連携課技術移転推進室

(研究振興局研究環境・産業連携課技術移転推進室)