産学官連携推進委員会(第9回) 議事録

1.日時

平成13年10月10日(水曜日) 17時~19時

2.場所

文部科学省 別館 大会議室

3.出席者

委員

 末松(主査)、伊藤、川崎、岸、清水、白川、田中、田村、丹野、安井、吉田

文部科学省

 田審議官、加藤研究環境・産業連携課長、磯谷技術移転推進室長、杉野大学改革推進室長、村田大学改革官、柴田技術移転推進室長補佐  ほか

4.議事録

「国立大学法人」(仮称)における産学官連携の在り方について

  • 資料1に基づき事務局から説明した後、その内容に関する質疑が行われた。
     その内容は以下のとおり。

【委員】
 この内容は非常に良いと思われるが、実際にベンチャーのスタートアップというのは、かなり厳しい。私の友人がベンチャーキャピタルを作っているが、どう計算しても絶対に儲からないので、2年間無給でやってくれという話になるということであった。スタートアップのときにどのような手当てをするかということを考えて、ファンドが動き出して、ロイヤリティが入ってくれば何の問題もないが、2年から3年のスタートアップ期間というのは絶対に赤字が出る。産学官協同で、例えば大企業と共同研究をして、それでロイヤリティを取るということであれば全然問題はないが、ベンチャーの場合にはロイヤリティが入ってこない。ストックオプションで金を取るという話になっても、リターンを取れるまでの期間は収入がないので、それをどう予算措置するのかということになるかと思われる。リスクが高いので、借り入れをするというのも非常に問題がある。それから、もう一点、権利に関して組織管理をするというのはよいが、ベンチャー型でやったらどうしてもやはり研究者自身がストックオプションで回収すべきである。公務員型になるか、非公務員型になるかというのは、かなりクリティカルな問題である。公務員倫理法では未上場株は買えないし、ストックオプション権の行使ができないのでそれをどうするのか。例えばTLOがストックオプション権を管理して、収益が出た場合に研究者に対して配分するという方法も可能であるかもしれないが、公務員倫理法というのは、大きな障害になり得ると思われる。
 この仕組みは実際に実践するときの話について言及しているが、法律に書くのかどうかは別問題として、長期ベンチャー休業というサバティカル制度は、結局その人が独立して仕事をして成功をしたら向こうへ行って、失敗したら戻って来れるという一種の身分保障をしている。その身分保障というのも、どこまでしたらいいかというのは現実問題として非常に難しいと思われる。
 それから前にも話したが、大学にファンド(基金)を置いて運用する場合、どのように運用するか非常に難しい。私も大学の後援会のファンドの運営委員をさせられているが、これが自分の金であればもっとうまく運用するが、他人の金なので結局一番安全で儲からない方法にしか運用できない。ファンド運用のリスクを誰が、どう分担するのかということが明確でないと、結局担当が誰になっても、危ないからやめときましょうかという話になって動かない。大体ベンチャーをやるというのはリスクがものすごく大きいわけであり、そのリスク評価を仮にベンチャーキャピタルが行って、それに対してインキュべーティングの段階での投資をするにしても、リスク運営の仕方についてあらかじめ経験をつんでおかないと、変なことをやってクビになったらかなわないと思い、誰も手を出さなくなる。

【主査】
 ベンチャーに対していくつかの指摘があり、どういう身分制度になるかということに強く基づいているという指摘があった。

【委員】
 我々ベンチャーを創った者から見ると、ここに書いてあることは大変よくわかる。ここに書いてあるすべてのことはもっともなことであるが、これをいかに加速するかということについて大学の先生方で本当にわかっている方はあまりいないのではないか。平沼プランの1,000社を創るとかいろいろあるが、どう考えてもこのような状況では無理である。しかし、これに近づける方法として、税制を改革することがあると思う。例えば、この間シンガポールの使節団が来ていろいろと話をしたところ、シンガポールの大学がベンチャーを創りやすくするために何をやったかというと、会社を創るには、日本では1,000万円必要であるが、向こうは2ドルでできるようにした。もしこうしたことを加速するのであれば、そのような制度的なことから攻めないとできないのではないか、しかし、それは日本では非常に難しいのではないかということを聞いている。何で日本は1,000万円なかったらできないのかと経済産業省の方に聞いても、うまくはぐらかされてしまう。例えば100万円ぐらいで何かできるとかいう制度、それからベンチャーを創り、それに投資すると、その投資額を税額控除できるなどいろいろな税制の措置があると思われる。そうした制度が加わらないと、多分日本のTLOやベンチャーは加速しないと思う。そうしたところからメスを入れてはどうか。例えばアメリカの友達がたくさん会社を創っており、ほとんどがかなり偉い重役になっているが、それでも初めのスタートアップは非常に安い資金で行っていた。それが彼らが半分以上持っていた持ち株がドンドン上がっていった。日本では1,000万円の大半を教官が持てというのはまず無理であり、そういう意味で何かベンチャーを創るにしても、税制、あるいは会社の創立のいろんな規則などに少しメスを入れられれば、加速できることになる。こうしたことは全部無理と思っている人が多いので、どんなにいいことを提言してもなかなか実現できないと思われる。文部科学省がよく努力していることはわかるが、そういう制度面でのアクセスが何かないとできないと思う。是非考えてほしい

【主査】
 この問題は独立行政法人化というよりは、もっとバックグランドの大事なところの税制、あるいは会社の制度論といった問題であり、先ほどこの資料の中で知財法のことが述べられていた。実はもう一つあり、個人が寄附しても年間の収入の4分の1までしか非課税にはならないということがある。そうした税制上の問題、あるいは会社を創ったときの税制上の問題、それから会社を創る制度上の問題等についても是非検討してほしい。

【委員】
 この資料は大変よく書かれているが、立ち上がりのときにこれを全部並べると、ちょっと立ち上がらないのではないかという危惧があるので、まず優先順位をつけ、次に具体的にどうするのかということについて一定の指摘が必要ではないか。そうした観点から見ると、私は一番大事なのは3ページの5.、立ち上げのとき、あるいはそれから動くときも意思決定機関がまずないとできないのではないかという気がする。産学連携は教育研究とは別個であるので、組織がこれについての意思決定と命令権というものを、企業と契約するときに責任を持ってサインする者に一任することがスタートになるのではないか。
 これも全般の感じであるが、どんどん産学連携の企業からの申し込みがあり続けるというステディー(安定した)な状態を念頭に置いて書かれていると思われるが、そのためには営業をまずやらなければいけない。特に立ち上がりのときには営業活動が必要である。2ページ目1.にある「リエゾン機能」などそうした組織、事務局が動かなければならない。私が前にも公務員型かどうかということを問題にしたのは、公務員で営業活動をできるのかという疑問があったからである。
 それと、先ほど税制について言及があったが、我々私学においても、こうしたことをやるときに困るのは、基本的には労働法に関係しているが、学長といえども任免権を持っておらず、クビにすることができないということである。これは公務員の場合、可能であるが、悪いことをしていない人は、変な言い方になるが、何も仕事をしないからという理由だけではクビにはならない。この点はアメリカとも異なる。前に韓国の梨花女子大の学長が来られたときに、「韓国ではできるのか」と質問したところ、「最近できるようになった」と答えられた。こうしたことができなければ、職員が積極的にやれるような姿勢にはならないので、非常に根本的な問題を含んでいる。日本のそうした制度が変わるのかどうかはわからないが、そこまで行きつく可能性があるということを述べておく。

【主査】
 要するにマネジメントがきちっと独立してできる仕組みにしてほしいということだと思われる。そして、それは、任命権というか、クビにできる制度にしないと活性化はできない、企業との連携が十分できがたいのではないかという発想だと思われる。したい。

【委員】
 TLOを立ち上げた次のステップとして、インキュベーションをスタートアップ、いわゆるベンチャー立ち上げを行うための組織がある。TLOを立ち上げた際にテイクオフするときのエンジンとして一番イフェクティブ(効果的)だったのは、日本テクノマートからの人材派遣であった。こうした人材なくしてはとても立ち上がらない。これと全く同じことがベンチャー支援でも言える。自助努力で、そのリーダーになる方を集めるということは、大学でも可能である。それと、そのネットワークを使って良い人材を、会社でいえば部長クラスを、まず勤務している会社をやめさせて張りつけるという作業をしなければならないが、これは今のTLOのファンドではとても追いつかない。ここが力の入れどころだと思う。飛行機でも滑走して、上に上がるまでに大体燃料の半分ぐらいを使うわけであるので、どこにエネルギーを使うかというのは、国の施策を練る皆さんの重要な課題だと思われる。立ち上げ時にエネルギーをつぎ込んでくれれば、人材もいるし、しっかりした種もあるので、あとは細々とした、例えば組織有にして極めてやりやすくするなど、ここに書かれたことで何とか動くのではないかという感覚を、少しオプティミスティック(楽観的)ではあるが、持っている。一番のポイントは、初期に有効な投資をしてもらうことが一番イフェクティブだということである。

【主査】
 初期に有効な投資をすべきであるという話である。法人化の問題と直接関係しないかもしれないが、法人化の周りの問題として取り上げてほしい。

【委員】
 TLOの事業の採算を考えたときに、もちろん立ち上がりも大変であるが、通常の場合、ロイヤリティを得るような形になっても、おそらくほとんどが単体では赤字である。そうした認識から出発する必要があるのではないか。アメリカのTLOの実態を見ても、黒字のところはかなりまれなケースであり、むしろ赤字のところが多い。そうしたことを考えると、大学の費用の中に産学連携のためのコストといったものを、当然国の経費で予算措置をすることにより確保しておく必要があるのではないか。良い人材を集めるにしろ何をするにしろ、財政的な裏付けがどうしても必要である。
 それと3ページ目の4.のところに出資の可能性というところがあり、外部機関への出資とか、人材の派遣というのは当然であるが、実際に大学発ベンチャーに対する出資というのも、初期段階では必要なケースがあり得ると思われる。もちろん民間のベンチャーキャピタルのほうで当然投資をしてもらうという大前提があるが、なかなか日本のベンチャーは立ち上がりにお金が出ないのが実態である。ストックオプションなどのケースは当然であるが、もう少し、実際の出資も含めた広い意味でのエクイティを持てるようにしてほしい。当然自分の大学に関係している者など限定付きでいいので、なるべく広く対応できるようにしてほしい。
 最後に利益相反についてであるが、これから産学連携をどんどん進めていくと、やはり利益相反の問題が、これは私学でも同じであるが、より以上に国の機関ということで逆に世の中の批判の対象になると思われる。特に、ある特定の企業と共同研究、あるいは共同の事業開発みたいなものをやるようなときに、ほかの企業からなぜ自分の企業を仲間に入れてもらえないのかと言われることがあるため、これはまた別途の委員会での議論が必要かと思われるが、産学連携の入り口の公平性というか、ある一定の期間、いろいろな企業に大学と特定の共同研究をできるようにする門戸開放が必要である。
 従来の産学連携の場合、大学の先生と企業との個人的な関係で自然に共同研究が結びつく、あるいは寄附金を受ける中で話が進んでいったと思われるが、おそらくこれからはなぜ自分の企業が参加できなかったのかという疑問なり批判が出てくると思われるので、大学の研究成果は法人のものであるとしても、国のものというか、最終的には国民のものであるという議論が当然あるのではないか。やはり入り口の門戸開放については是非留意してほしい。

【事務局】
 一つだけ確認させてほしいが、今の大学発ベンチャーに直接出資できるようにすべきだという話については、私もいろいろな方の意見を聞いているが、むしろアメリカの例でも大学発ベンチャーに大学自身が直接出資するというのはそれ程なく、範囲を広げること自体は別に構わないかもしれないが、実際は先ほど指摘のあったように本来は民間のベンチャーキャピタリストがやるべきである。もし仮に、大学発ベンチャーに国立大学法人が自ら出資できるという穴を開けるときに逆にどういう点に気を付けなければいけないのか、本当にそれがふさわしいのかどうかということについて、何か意見や示唆があれば、それをいただいて勉強したい。

【委員】
 まさに今、事務局から話があったように、大学が自ら、特に国立大学がベンチャー企業に出資をするかどうかについては、やはり慎重な対応が必要である。ただ、現実にそれがないとベンチャーが立ち上がらないという問題がある。ストックオプションというのは当然それを行使する可能性があるので、行使した段階で、やはり株主になる。あるいはストックオプションのまま誰かに譲渡するということもあるが、これらについては一定の金額の制限なり、出資のシェアとか、そうした点で一定の歯止めが必要かと思われる。ただし、金額の制限なり、出資のシェアの上限という枠の中でそうした可能性もなるべく柔軟に考えてほしい。

【委員】
 数年前のデータであるが、アメリカの場合は大体8割がアーリーシードであるのに対して、日本は結局8割がレーターステージである。日本には、アーリーステージ、あるいはシードに投資するという考えを持っているところ自身がないと言ってもいい。1,000社創るなら、社になっていないと投資してもらえない現状であるので、ともかく社を創るということも一つの発想だと思われる。ただ、その場合、ともかく社になれば損益計算書もあるし、取引先もあるので、それなりにベンチャーキャピタルというのは評価する方法があるが、シードの場合は評価の方法がない。本当はないわけではないが、ともかく日本のベンチャーキャピタリストでそれを評価しようという人たちは現実にはあまりいない。逆に言うともっとレーターステージに近いところで投資できるところはたくさんあるので、まだそんな何もわからないところに投資する必要性は全然ない。ですから、少なくとも、評価できるような社になるところまで投資するというインキュベーター的な指導、インベストメント(出資)ができるような仕組みはあったほうがいいと思われる。民間でも難しいことが大学でできるかということになると、悲観的になってしまうが、そういう仕組みがないと結局絵に描いた餅にしかならない。
 黒字にならなくてもいいので、何もないというのはやはり投資する人がなかなかいないということである。少なくとも製品があるとか、販売するための仕組みを考えることができる会社について、どこにその弱点があるのか見極め、それを補強して投資をすることがベンチャーキャピタルの仕事である。それが全部ないと言われたら、あまりやる人はいない。デルさんは10ドルぐらいで会社を創ったそうであるが、まずは仕組みを作って、そこから何か仕事ができるように形を作る。そうした意味では最初に1,000万を出資できるような仕組みというのは是非必要である。

【委員】
 今の話について質問があるがよろしいか。今その仕組みをつくっている最中であり、我々はTLO自体を大学のインフラストラクチャーと位置付けた上で、今度はベンチャー企業のインキュベーションまでやろうというシナリオを書いている。その際に、TLO、裏返せば大学が、ベンチャーをやるときのインセンティブは何か、なぜそれをやるのかということがある。社会のためというのもいいが、TLOはライセンシングによるロイヤリティにおいては基本的には赤字であり、財務的なインセンティブにはならない。結局唯一の希望は、かなりプラットフォーム的な大規模な基礎研究を行っており、研究費も相当かけているものについては、かなり大きなプラットフォーム的な産業になる可能性があるということである。そうしたときに、やはり一番のインセンティブはエクイティを確保するということである。こうした投資することを禁止されると何のインセンティブもない。我々の場合は財団法人であるので投資ができず、エクイティが持てないため、どうしようもない。よって、サブシディアリティー(子会社)に法人を創って、そこから大学へ還元できるルートにするといった工夫をせざるを得ないという考えでよろしいか。個人の発明者、あるいは起業者のインセンティブを守らなければいけないかもしれないが、組織でやろうとしているときには、組織のインセンティブというのが一番重要なポイントだと思う。

【委員】
 そのとおりである。昔、京都でそうした相互支援機構を創ろうとしたときもやはり財団と株式会社のベンチャーキャピタルとが両方必要であった。財団というのは財団の財産を保全しなければいけないため、どうしても直接投資することができないということであれば、株式会社が管理会社となり、投資事業組合を創り、その投資事業組合から投資するという形をとらざるを得ないのではないか。

【委員】
 外のキャピタルが投資しようと思わないような事業はどっちみち成功しない。成功しないものを組織がやったら、これは自己否定になってしまう。

【委員】
 ただ、先ほど述べたように審査で投資するためには、まず会社になっていなければならない。ともかく会社を創ろうということが必要である。それをどう創るかということは難しいところである。

【主査】
 まず、間接的な投資になるかもしれないが、産学連携をちゃんとやってもらうための経費を大学の中に入れておき、間接的に支援するということを述べていたと思われる。直接投資することができないとすれば、そうしたことをきちんとしてほしい。
 それから2番目はエクイティが出せるようにしてほしいという指摘があった。まず会社を創ることが大事であり、立ち上げ初期は赤字なので、エクイティで将来に可能性が持てるようにしておかなければ、ベンチャーは創れないという指摘であった。
 それから3番目としては、利益相反というか、大学は国民のためのものであるから、企業に公平に門戸を開放する施策をとらなければいけないという指摘があった。

【委員】
 銀行と同じように、普通はベンチャーキャピタルとして、例えば複数の社に投資をすることがよくあり、その際、リードインべスターというものを必ず置く。そこがコンサルタンティングをして、必要な経営資源を投資先に追加していくという仕事をする。そうしたリードインべスターが、キャピタルがシーズから大きくなる発展段階において重要な役割を果たす。こうしたものができるようにしておかないと、公平、公平と言って、誰が責任を持つかわからないようになったら、それもまた困ることになる。

【委員】
 私が先ほど公平と述べたのは、門戸開放というか、まず最初の機会を公平に与えて、その中で一番良い条件のオファーがあった方を取得すべきではないかということである。取得した後はビジネスなので、当然限定的にやっていくことになる。最初の入り口のところが従来、特定の企業と大学との関係が続いてきていると思われるので、そこを開放することが、産学連携の一番重要な、特に国立大学の場合のポイントではないかということで、述べた次第である。

【事務局】
 質問を一つだけして、先生方の意見を伺いたい。
 今の議論で例えば産学連携を進めていくことは非常に大事であり、大学の重要な業務活動の一つとして位置付けて行っていくとあり、これはこれでいいと思われるが、他方で、エクイティの問題やリターンの問題など、行う以上は組織にとってインセンティブがなければ駄目であるという指摘があり、これもよくわかる。企業化が成功して、どんどんリターンが入ってきたり、あるものが大企業になって、そのエクイティを権利化して、またどさっと何か入ってくるということになればもちろんいいが、必ずしも全部が成功するわけではない。例えば、日本の法人化した国立大学が皆さん産学連携に取り組むためにいろいろな仕組みを創ったとしても、儲からずうまくいかない場合もある。つまり、自分たちが産学連携にかけたコストをちゃんと回収できないということは十分あり得る。回収できなければもうやめていいという具合に判断するのか、それとも、社会的存在として知を生み出すことが大学の役割であり、それを何らかの形で社会に還元していくことが非常に重要な役割であるので、たとえ赤字であっても基本的に続けるべきであるのか。その点で、基本的には大学というのは社会との関係において何なのかということについて、ちゃんとした考え方がないとまずいのではないかと思う。
 非常にざっくばらんに言えば、儲かる仕組みをどうするかということを今議論しているように思われるが、儲からない場合はどう考えればいいのか。そこら辺について常々どうなのかと思っているので、何か意見なり、大学の使命としてこうあるべきだというのがあれば、教えていただきたい。

【主査】
 産学連携の投入したコストがリターンできないときにどうするのか、それはもうやめてしまうのか、あるいはそれは当たり前だと開き直るのか、という今の問いは非常に大事なところだと思われる。
 もう一つ大事なことは、企業を創ってリターンがあったか、あるいは産学連携でロイヤリティが入ってきたかということ以外に、そうしたプロセスの中で産学連携によって企業からいろいろなドネーション(寄附金)や委託業務なによる別種類の収入があるので、総計してどうなるのかということも考えなければいけないと思われる。その辺について委員の皆さんはいかがお考えであるか。

【委員】
 やはり1つの大学単位でものを全部考えていくと、今の質問が出ると思われる。もしTLOというのは別にA大学の先生だけで構成するとは考えないで、A大学のB先生とC大学のD先生という個人の有志が集まってTLOを創った場合、例えばそのTLOの一種の事務局をA大学でやってもらうこともあり得る。その際、構成メンバーはA大学の先生以外の人がいるということを、これからの地方の国立大学は当然考えなければならない。そうなれば、大学という機能とTLOで活躍する先生の任務が分かれることになり、A大学はたまたま預かっているだけという形になるので、今の私と公との問題について、もう少し楽な捌き方ができるような気がする。

【委員】
 大学の経営から考えれば、リエゾン活動やTLOの活動というのは基本的に赤字である。したがって、これは損したから、どこかから持ってくるかといった変なドンブリ勘定をするわけにはいかないので、人件費も含めて何千万使うということをちゃんと予算化して、その予算の範囲内でやるようにしなければならない。しかし、リエゾン活動をやることによって、外部から研究費などが入ってきても、その資金はそのような運営の会計には入らず、先生方の研究費に回すので、そうした点ではものすごくプラスになる部分があるが、大学の運営としてはもともと共通経費として割り当てられたものしか使えない。それだけでは大学もたまらないので、オーバーヘッドで1割や2割ぐらい還元してもらうということを、我々の大学でも行っている。アメリカの大学でもいろいろ聞いたが、基本的にはTLOもリエゾン活動も大学の必要な仕事であり、このための予算は最初からあり、その範囲内で行っているということであった。これで、今の問いに対する答えになるかどうかわからないが。

【委員】
 財政学をやっている人間から言えば、マーケットでペイするものはマーケットでやればいいし、ペイしないものは税金で行えばいいだけの話である。TLOという組織自身がその大学において公共材的機能、つまりインフラの機能を果たしているということであれば、そのコストとして、今指摘があった予算化による支払いの仕方もある。それは政策の問題であり、ただその事業自身がペイしないものは別にやる必要はないわけであり、ペイする可能性があるからこそやっている。例えばTLOだけでなく、先ほどから議論になっている投資機能を持っていて赤字になってうまくいかないということであれば、これもまたマーケットで負けたということであり、審査機能が低かったのであるからマーケットで淘汰されるのはやむを得ないことだと思われる。逆に言うと倒産するときの仕組みというのもちゃんと考えておく必要があるのではないか。投資したらエグジット(退場)するというのも当たり前だし、結婚したら離婚するというのも当たり前であると思って、実際みんないろいろな仕組みを考えている。例えばアメリカの労働法契約は随分複雑なことを行うのにどうしてできるのか、私は学生時代に疑問を持っていた。なぜ彼らがあんなに上手にできるかというと、文房具屋に行ったら様式が売ってあるからである。一番最後のところで、問題が起こったときにどの裁判所で争うかという空欄があって、そこに裁判所の名前を書けばいいようになっている。ベンチャーというのはそうした世界の話である。

【委員】
 前回の配布資料の中に若干そういう記述があり、我々のリエゾンのほかの先生方とその資料を見て、これはまずいなと言われていたのが今の部分にちょうど当たる。経済的にうまくいかないTLOをある程度救済するというようなことが少し書かれてあったが、やはりTLOというのは、今指摘があったように、採算が成り立たないところを底辺からみんなでボトムアップするような世界ではないと思われる。そういう意味で、ちょうど今日のこの案の中には四つの業務のうちの契約とリエゾンというのがファンダメンタルに重要であるとされており、TLO業務その他については少し分けて書いてあるようなまとめ方だと思われる。TLOというのは、ある程度大きくないと機能できないのではないかというのが、私が実際にTLOに携わって得た感想である。例えば、アメリカのMITを見ると、ディフェンスの研究所のものまで含めてライセンシング事業など全部MITにあるTLOが1個で行っている。アメリカで学内にTLOが何個もあるという事例は、あまり知らないが、大きい大学ではまずないと思われる。TLOというのは、かなり複雑かつ専門的な知識を必要とする業務であり、金をなるべく払わないようにする相手に対して、いかに払わせるか闘わなければならないので、かなり層を厚くして体勢をしっかりする必要がある。小さなTLOが群雄割拠するのはいかがなものかと思われる。
 それから、もう一つは、この資料は国立大学法人におけるということになっているが、国立大学法人の判断でできるであろう内容として書かれているが、いろいろと書いてしまうと、何となくこうしなくてはならないというふうになって、自由度がなくなるのではないかという気がする。国立大学法人が、例えば今のTLOを持つとか持たないとか言うことについては持てないということもあり得る。そうした中で、例えば4ページの3)の2つ目「大学の判断により」ということは、これは法人になったらできるという意味で書かれていると理解している。当然、共通経費は産学連携の基盤整備や推進組織の活動に法人は当てられるようになると思っている。そういう意味での指摘として、2ページの下から二つ目に、現在のTLOがどういう形になるかということについて、法人化後の国立大学と委託関係等により事業を続ける方法を「検討すべきである」と資料に書いてあるが、先ほどの事務局の説明では「取り得る」と述べた。私は事業を続ける方法を検討すべきであるということであれば、「検討する方向に皆さん動きなさい」という指導ではないかと思うが、もし「取り得る」ということであれば、両方自由にできるという書き方などで自由度の選択肢を示すなどの方針をはっきりさせる必要があると感じた。

【委員】
 先ほど問われた、大学として投入コストのリターンができないときは、やめてしまうのかという話についてであるが、産学連携というのは、大学が存在するための一つの戦略に過ぎないという一面が確かにあるように思える。しかし、大学の存在意義として、非常に幅広い多様性みたいなものがあり、社会における固定軸みたいなものを創り、ある種の価値観に対するX軸、Y軸、Z軸みたいなものを示し、移ろいやすい世の中の流れに逆らって存在するという点もあると思われる。その多様性を確保するということを考えれば、少なくとも工学などの学問をやっている人間にとっては、やはり産学連携をある程度以上に維持しないことには、その多様性が維持できないため、ある意味で必須の要素と言える。例えば、新規の産業を創ってみせるということも多分その延長線上にあって、大学における一つの多様性の極限として新しい産業を創るということを社会が我々に要求しているのであれば、社会的なニーズに対する多様性のある大学の一つの責務として、それを行い、そのために大学がある程度の損をしても投資をするのは当然ではないかと思われる。
 今の話から離れるが、皆さんの議論を伺い、この文章を読みながら、本来この枠組みが決めるべきことは一体何なんだろうと考えたとき、具体的にこういうものが足りない、ああいうものが足りない、具体的にどうしなければならないということもあるが、一応ここの場として最低限確保しておくべきことは、本当にやる気のある大学であれば動けるという枠組みを作っておけばいいということではないか。要するにそれなりの制度みたいなものを確保しておいて、やる気を阻害しないというだけの保証をしておけばいいのであり、それ以上の工夫は各大学に任せるというスタンスでいいのではないかと思う。そういう意味で読めば、十分できているのではないか。

【委員】
 細かい質問であるが、3ページの6.のところの人材育成と採用に関して、先ほど事務局のほうからコーディネーター人材育成プログラムを今作成中だということを聞いたが、それをどのような形で作り、実施するのか、その辺の具体的な流れを少し知りたい。

【事務局】
 具体的な名称で言うと、「目利き人材養成プログラム」という目利き人材養成の事業について科学技術振興事業団(JST)のほうで予算化されており、今年度はそのプログラムを作っていくことになる。実際に間に合えば、研修事業を今年度中にスタートさせ、5年間で700人の目利き人材を養成するという計画である。これは前回の会議でも紹介したが、具体的にはJSTの中だけではもちろんできないので、TLO協議会を通じてTLOや共同研究センターと協力しながら検討しているという状況である。まだ具体的な姿までは進んでいない。

【主査】
 まだこれから意見をいただきたいが、いろいろな話を今伺っていると、TLOはある程度大きくなければ機能しないという指摘や、大学が持っている多様性の一環として産学連携ができるようにしておかないと研究者としては困るし、あるいは大学が役割を果たせないので、赤字の問題ではないという指摘があった。こうした話を伺っていると、結局大学がしてははいけないことだけを明記して、それ以外のことは何をやってもいいんだということであるのが本当は望ましく思える。つまり、大学というのは多様性が保証されていなければ、社会に対する責任が果たせないところであるので、いくつかそうしてはいけないという事項以外は何でも行えるという大学ができると未来の日本の社会に対して一番活力が出てくるのではないかと思う。そうしたやっていけないというもののキーワードが、今までにいくつか出てきていると思われる。やはり大学というものである限り、ある程度公であるが、そこから先は細かいことは言わない、一方では教育は果たさなければいけない、新しい知識を生み出すということを忘れてはいけないなど幾つかのやってはいけないことがあり、あとは自由にやってほしいということになると面白い。

【委員】
 先ほどの問いの答えになるかどうかわからないが、もともと基本戦略として科学技術基本計画から始まり、大学に社会還元を、ショー・ザ・フラッグではないが、見える形でやるということがあった。私が現役であった頃、欧米の大学にしょっちゅう行っていたが、決して日本の大学は産業に貢献していないとは全く認識していなかった。ただ、それはあくまでもサイエンティストのレベルであって、マネジメントのレベルで考えると実質上、個人レベルですべてやっていた話であるので、見える形で大学自身が貢献してはいなかった。私は、産学連携はこうした反省から出発した事業であると思う。それで、当大学のローカルな話で恐縮であるが、私がそうした産学連携の次の世代を考える懇談会の主査を務めていたときに出た問題点として、産業界の立場からは産業化するためには発明も大事であるが、それが知的所有権化されていなければ駄目であるという話があった。こうした指摘に対して、大学側は国有特許を出しているとしか言えなかったが、基本的には個人有がほとんどであるので、個人有の特許をどのようにマネージするかという具体的な問題を考えていく必要がある。例えば、当大学のように7割ぐらい工学系の先生がいるところで、そういうマネジメントの体制を持っていないこと自体が、企業側から見て、そこが不足であると指摘されている。それに対して、どうやってアプローチしていくかという具体策になると、特許を出願してライセンシングするプロセスだけで成り立つ企業はあり得ない。その技術を実施して、製品を作って儲ける文化は大学にはないので、どういうふうにして成り立たせていくかということを考えざるを得ない。
 また、ベンチャー企業の方がそんなに目利きができ、この技術はすぐ金になるとかならないとか判断できるくらいだったら日本の産業なんてとっくに浮き上がっていることになるが、そうした力がないので、ある程度の形まで大学から見せざるを得ない。学者の理詰めでいくと、それがベンチャー創出であるということになる。そこで財務的な問題になり、つぶれるところはつぶしていいかと言われれば、日本のTLOは全部つぶれてしまう。研究費を1銭も使わずに自由な企業があったら、そんなものはすぐつぶれてしまう。よって、これは国策としてサイクルが回るまで何とかするということがこの議論だと私は認識している。逆に言えば、大学によっては工学部がない大学もあるので、そうしたところは別にTLOを作らなくてもいいし、現実に、ある程度の規模がないとほとんどできない。当大学は教授、助教授で700人いるが、多分教員が100人や200人しかいないところは、ほとんど無理であるというのが私の認識である。そうした小規模のところについては、先ほどの多様性の問題であるが、教育と同じに成り立つようアライアンス(提携)を組んだりして努力しているというのが現状ではないか。
 一律に何か組織を創って、さっとやったらうまくいくということはあり得ないので、イギリスでもアメリカでも最初は政府が出資型の特許のBTGなどを作っていたが、結局はそれはワークせず、大学それぞれの個性に合った研究大学のマネジメント機構を作るという個々の問題に還元されたと、私は理解している。

【委員】
 先ほども言ったように、このベンチャーのために予算を組むとすれば、例えば5年間だけ時限を切って、TLOを立ち上げて、それでできなかったらマネジメント能力がないと見なせるので、能力のない人にお金をつけるのは一番よくないことであるから、やめればいいと思う。ただし、一種の誘致産業であるので、誘致産業は保護するということが一つの理由としてあるが、枠組みだけ作ってほうっておいたらできるかと言えば、それはかなり難しい。やはりちゃんとした給料を出して、有能な人を集めてやらない限り無理ではないか。

【主査】
 私は、もう一つ視点があると思う。こういうことをしたいと今たくさん出てきているが、そうしたことは今後もいくらでも出てくるので、先ほど述べたように、こうしたことはしてはいけないということを示すための一つの方法として、やはり大学の役割である教育や公共的役割などがちゃんと担保されて活動しているかという評価を行い、それに合うものは何をやってもいいというところまで踏み込めれば、非常に明快になり、それを妨げるものは大学にはふさわしくないという言い方ができるのではないか。

【委員】
 先ほど、ほかの委員からも指摘があったが、国立大学の社会的な責務ということで、研究成果の社会還元が求められている。そうした意味では私自身は例えば大学の中でそれを積極的にやりたい人が自由にやればということよりも、逆に大学人として義務があるのではないかと思う。国民の立場で言えば、税金を使う以上、大学の先生自らやるかどうかは別にしても、大学の研究成果を世に出す義務があるのではないか。
 そうした観点から考えれば、当然産学連携というのは、大学の必要経費としてしっかり認めるべきである。これが成果を生んだときに、大学に還元される仕組みというのは従来なかったが、そこはちゃんと還元できる仕組みをエクイティの保有などでできるよう措置すべきではないかと思う。
 おそらくTLOについては、先ほど仮に5年の期限をつけるとあったが、5年たっても私は黒字になるところはほとんどないと思う。実際、今ロイヤリティ自体が3%とかその程度の金額であるので、売り上げ自体が相当ないといけないし、技術移転をしても実際に売り上げに結びつくのはそのうちのごく一部である。そう考えると、とてもTLOの人件費をロイヤリティで賄うというのはまずほとんど難しいと考えてスタートするしかない。TLO自体が単独で採算が取れるかどうかを考えても、数年たってもどこもみんな赤字ではないか。もちろん一部黒字のところは当然あると思われるが、それは間接経費やオーバーヘッドを取るなどのいろいろな仕組みを導入しながらやっていった結果であり、ロイヤリティだけではとても賄えないというのが実態ではないか。
 しかし、賄えないからといって、それをやめては大学から技術は出てこなくなる。TLOは、公正なルールや透明なルールに基づき大学から社会に技術移転をするための仕組みであるので、当然効率性の観点から複数の大学がグループでやるということも必要だと思うが、そうした技術移転機能は少なくとも理工系の大学であれば、すべての大学で持つべきではないかと思う。

【主査】
 企業の方からこうした意見が出てくると、非常に心強い。今、産学連携ということだけで考えているので、TLOとか、企業を生み出すとかということがプラスかマイナスかということになっているが、実は研究費についての問題が別途ある。目的研究もあれば、基礎研究もあり、それらもいつか何かを生み出していくが、それに対しては誰もそれがプラスなのかマイナスなのかという議論をしていない。やはり産学連携が大学の一つの重要な任務であるという指摘であれば、当然それは研究費をプラスマイナスということを度外視して、ある程度は使っていいということになるのではないか。

【委員】
 私は今の委員の意見にはネガティブである。一つや二つというのはちょっと失礼な言い方であるが、特許を民間企業に技術移転したから社会還元であり、そんなちっぽけな役割が大学の役割であれば、私は大学の存在そのものが意味がないような気がする。立派に教育して社会で要求される人材を送り出すととともに、最先端のどこでもやれない研究をやっていくという、知の創造とその後継者をどう養っていくか、時代を担う人材をどう養っていくかというのが大学の第一の責務であり、それが十分に果たされていれば社会還元というのは、いかがわしいまやかしの議論ではないかと実は思っている。
 それからもう一つ、アメリカの全大学がTLOをやっているわけでもないし、イギリスの全大学がTLOをやっているわけでもない。それから、これは聞いた話であるが、サッチャーさんのときに大学が大きくなければいけないということで、小さい大学には研究費の割り当てを減らすという施策を実際に一部で行った。その後、各国を入れてのレビュー(評価)を行ったところ、たしか北のほうにある小さいローカルのユニバーシティーが地元のニーズに合わせた講座を作った結果、そこから卒業した人が地域の広い意味でのリーダーとして地域を発展させたので、その大学の機能評価は3から一遍に5になって、翌年から国から来る費用の配分が多くなった。ロンドン大学というところは有名であるが、そこよりもパフォーマンスが良かったという評価を受けたという話があった。
 先ほど別の委員から指摘があったことを、もっと強調して言えば、「産学官連携とTLOで生きる大学というのが旗だ」という大学があってもいいし、「うちは全くTLOなんて関心がありません。やりたくない。ただし社会が要求する最優秀のエリートを出すというのが旗だ」という大学があってもいい、といった大学の多様性を前提にした議論をしないと、危ないのではないかと思う。この制度ができて答申が出たら、みんな横並びでこれを一生懸命やらなければいけないということになって、高々2学部しかない大学までがこうしたことををやり始めたら、それはおかしいのではないかと思う。ましてアメリカのように人材のモビリティ(流動性)がない社会の中で、そこだけでやるというのは、極めておかしいことになるのではないかという心配がある。

【主査】
 ただ今の指摘は非常に重要である。ただ先ほどからの議論において、大学というのは非常に多様な知の創造から産学連携、あるいは社会リターンまで全部含めてやっており、その中での産学連携の位置付けということが共通事項としてあったと思う。
 それから今指摘のあった、小規模な大学がかえって効率が良いという例は、当然たくさんあり、世界的に有名な医科大学などがそうである。これは多様性の中での議論であるが、私はどちらかと言えば、「やれ」ということよりも「やってはいけない」ということを指摘したほうがいいのではないかと思う。

【委員】
 よく学会のほうでも話題になるが、どの先生に行けばいいという質問がよくあり、学校の宝とされているものが非常に見えにくいということがある。この産学官連携の在り方や活動、TLOの活動が、ある意味で、外部への窓口になると思われるので、黒字だとか赤字とか短期的なものでやめるというよりは、どれだけ外部に対する窓口として機能しているのかという業績による判断が必要である。「あの先生がやっている。きっといつか咲くかもしれないが、非常に基礎的な研究が長い」といったことも含めて、一つの判断材料になるという意味で、外部にとって見やすい窓口の役割をもう一回見直したほうがいいのではないか。そういう意味で、技術や人材育成が、見える形で出ていくことを一つの窓口として考えると、ある期間を決めて産官学の活動のチェックをするという仕組みが必要ではないかと思われる。

【主査】
 社会から見たとき、大学の一つの窓口がTLO機能ではないかという指摘であり、これはおそらく国立大学などでは、共同研究センターというものが、各大学でできており、地方においては、大学をのぞき込む上での重要な窓口として活躍していると思われる。

【委員】
 独立行政法人におけるTLOについて述べたい。
 まず、私は、もともと東大の先端研にいたとき、CASTIというTLOの第1号を立ち上げた際のセンター長だったので、その設立に頑張っていたが、あの頃を思い出すと、まさにイケイケバンバンで楽しかったし、ある種の安心があった。どうせ大学の人間だからやりたくないやつはやるわけないんだから、やりたいやつがやるだけだから心配ないという気持ちが随分あったと思う。横並びでやれということになるのではないかということに対する心配ももちろんよくわかるが、十分わがままな人間が集まっているので、あまりそこは心配する必要はないと思われる。しかし、CASTIを実際立ち上げての感想としては、先端研が大きく絡んでいるときはうまく機能していなかった。現在は、ある程度先端研が大きく引いて、外部から社長を連れてきてたので、もしかするとこれはうまくいくかなと期待している。教授なんかが手を出しているうちはどうせモノにならないということで、当時は一生懸命引け、引けということを言っていたが、随分抵抗にも遭った。その後、TLOはもう限界があるということで、ASTECなんていうものを作ったが、こちらのほうはまだ先が見えなくて、それほどうまくいくのかなと思っているところである。
 今度は独立行政法人に移って、これも大いにやりたいと思って手をつけたが、結論から言えば、ある程度公費を投入しても産学官連携はやったほうがいいだろうと思う。それはなぜかと言えば、大学と企業というのは割と行き来があるが、一番ないのが旧国立研究所と企業である。この一番の原因は、昔はお金が企業から入らなかったということである。入れようにも、入れるとその分予算の収支のために、もとある予算を返さなくてはならないので、特に縁が遠かったという事実がある。ただ、私のいるところも名前に技術のつく研究所であったので、当然もっと親しくないといけないということが一つと、大事な研究の種が枯渇してしまうのではないかという心配がある。そうしたことを含めてトータルでTLOについて考えると、何としてもこれはペイするということからいえば、ほとんど絶望的ではあったが、大いにやるべしということで、まず走ることにした。ところが、440人の研究所で本当に持ちこたえられるかというと非常に苦しいということがわかってきた。そのため、今は、外にTLOを作るのではなく、内部に展開室というものを作り、2人ほど人材を雇用して、積極的にやるという体制にある。内部に作ると中の事務の人と一緒にいろいろやれるメリットがある。そのスケールメリットからいうと、産総研は認定TLOを持てたが、我々はちょっと持てないという結論に達するまで4カ月ぐらいかかった。やはりトータルで見ると、一番大事なことは、独立行政法人が外とのコンタクトを多くするということである。それから2番目に、民間資金をロイヤリティとしてではなく、研究費として導入すると、メリットが大きいということである。一番大事なのは、研究テーマというかディスカッションの場を広げるための窓口であるので、先ほど指摘のあった、企業との入り口という表現は非常に適格な言い方ではないかと思う。
 結局、スケールメリットの問題で、内部に技術移転組織をとりあえず作ったが、もっといい特許が出て、お金が入るようになったら外にTLOを作りたいという魅力を全然感じていないわけではない。
 それから、産学官連携は非常に大事であるが、大学はちょっと産学官で踊っているような意識をみんなが少し持っているので、これは大いに気をつけなければいけないと思うし、やるべき人がやるのをストップすることだけはしないようにしてほしい。それからやはりやったらプラスになるという評価がある時代になってほしいというのが間違いなく皆さんが持っている共通の認識ではないかと思う。
 主査の言われる、やってはいけないことを列挙するということは面白いと思うが、これで一番苦労している。やってはいけないことを明示するということは、前にも話したが、今までやっていることをやってはいけないということにはなかなかならない。そうなると独法になったらやれることがいっぱいあるが、今までやったことのままでは駄目であるとはどこにも書いていないため、みんな古いままでやることになる。そのため、一人でこれもできる、あれもしているとわめいているのがいるだけという事態になってしまう。これは一番頭が痛いことであり、産学官とか利益相反とかいろいろな意味から、確かにやっていけないことだけ列挙して自由におやりなさいというのは良いことであるが、今度は違う意味で、やってはいけないと書いていないから前と同じでいいと言われることで苦労している。これは今の議論とはかみ合わない部分もあるとは思われるが、意外に大事な点であり、前と同じでいいということは、せっかく得た自由を使わないで終わるということに近づくことであり、非常に苦労しているということを、少し違う観点から付け加えたい。

【主査】
 TLOが外とのコンタクトとのモチベーション、研究テーマ発掘等にも大いに役に立つという指摘は非常に大事である。これは大学の中でも十分言えることである。今、産学連携の議論をしているが、その中で大学というのは産学連携だけではないという指摘がある。国立研究所もそうである。産学連携だけではなく、非常に長い研究も必要であるし、基礎的な研究も必要であるといった、たくさんあるスペクトルの中の一つとして産学連携がある。しかし産学連携が限定されてしまうと、それに近いことをやっている人は大変制限を受けたように思うこともあるし、やはり研究が活発化されないという意味で、できるだけたくさんできるような環境を作る必要がある。そのためには、ある程度の資金を投入しなければいけないということを皆さん一様に言っていたと思う。本日は、非常に根源的な議論をしてもらったが、これらの議論について国立大学法人に関する調査検討を取りまとめている立場から、何かコメントをいただければ大変ありがたい。

【事務局】
 本日はいろいろと勉強をさせていただいた。特にコメントというのはないが、大学にとって産学連携というのはどういうことなのかという観点でいろいろと議論をしていただいたが、国民の税金を投入して運営を行う大学における法人化された場合の産学連携の在り方という観点から言えば、おそらく国立大学法人のためだけに産学官連携を行うということではなく、特に地方においては地域の公私立大学とどう連携していくのか、あるいは場合によってはどうリードし、更に支援していくのかといった役割も多分期待されているのではないかと思われる。

【主査】
 企業だけではなく、国公私を含めた大学間連携というのも非常に大事であるという大切な指摘をいただいた。本日はこれ以上多分ここで議論することは難しいと思われるが、何かお感じの点については文書でいただきたい。

【委員】
 皆さんが言われることは非常によくわかるが、前回も述べたことであるが、我々は今TLOに対していろいろな試みを行っており、頑張るところは頑張っているので、とにかくほうっておいてくれというのが大阪の雰囲気である。いろいろと難しい問題があるが、好きなことをさせていただければ、我々は頑張れるので、是非ともフィードバックがあまりかからないようなポジティブフィードバックといった形にしていただければありがたいと思う。

【事務局】
 私が質問したことについて、いろいろと意見を賜わりありがとうございました。最近は、産学官連携に対して、経済の調子が悪いため、新産業の創出といったことと直接的にリンクをさせた、ある種の圧力がある。これから国立大学は法人化により少し変わっていくわけであるが、やはり大きな意味での大学の本来の役割とか責任をどういう具合にきっちりとらえるかということがより大事であり、それの位置付けがまずある。そうであれば、赤字とか何とか関係なく、やはり最低こういうことはきちんと大学の役割としてしなければいけない、それをやるためには必要最小限度のインフラは整備しなければいけない、そのためには国もその部分はサポートしなければいけないということが、ある程度言えるのではないか。そこから先の話として、ファイナンスのマネージャーか何か知らないが、そうした人たちの才覚によって更にたくさん儲かったりとか、儲からなかったりするということがあるが、そこは何か選択性というか、やる気があればどうぞやってくださいという世界ではないかと思われる。そこをあまり混ぜないで整理していただければ、先ほど議論に出ていたが、何かこういうペーパーの中にあったら何でもかんでもみんなでやらなければいけないような強迫観念を大学側が持つことはないのではないか。こういうことは最低やったほうがいいという大学運営の重要項目として取り組んでもらい、そこから先はどうぞお好きなようにという具合になるのではないかと思いながら、先ほどからのいろいろな意見を承った次第である。したがって、もし先生方の賛同が得られるのであれば、これをまとめていく過程で産学官連携というものと本来の大学の役割というものをきちんと整理した上で、こんなことをやりなさいという具合にまとめていただければいいのではないかと思われる。

【主査】
 ただ今指摘してもらった大学の役割というものと、その中における産学連携の位置付けを明快にした上で、全部がそういうことをやるわけではないが、多様性の一つであり、社会に対する大学の重要な任務の一つであることを前提に置いて、こういう分野についてはこういうことが必要ではないか、こういうことができるのではないかというようなことにだんだん集約をしていただければありがたいと思う。

5.今後の予定

 次回は10月末に開催する予定とし、各委員との日程調整の上、事務局から改めて連絡することとされた。

お問合せ先

研究振興局研究環境・産業連携課技術移転推進室

(研究振興局研究環境・産業連携課技術移転推進室)