産学官連携推進委員会(第3回) 議事録

1.日時

平成13年6月13日(水曜日) 14時~16時

2.場所

文部科学省 別館 第1会議室

3.出席者

委員

 末松(主査)、市川、伊藤、小野田、川合、川崎、岸、清水、白川、田中、丹野、平井、古川、堀場、安井

文部科学省

 坂田審議官、中西研究環境・産業連携課長、磯谷技術移転推進室長、柴田技術移転推進室長補佐 ほか

4.議事録

(1)大学・国研発ベンチャーの支援・育成について

(2)産学官連携を支える組織の強化と人材の育成について

(3)経済・社会ニーズに対応した大学等の研究開発の推進強化
 資料1‐1、2‐1、3‐1、参考資料1、2、3に基づき事務局から説明した後、その内容に関する質疑が行われた。
 その内容は以下のとおり。

【主査】
 まず最初に、「大学等の研究成果の効果的な社会還元について」という課題に関して議論していただきたい。

【委員】
 資料1‐1の前に、いわゆる遠山プラン、参考資料2について意見を言ってよいか。

【主査】
 そこからがスタートであるので、意見があればいただきたい。

【委員】
 参考資料2を見ると、2番、3番については異論のないところだと思う。1番にある大学の再編・統合に関しては、教員養成系についてはよく分からないが、その次にある「単科大(医科大)」について非常に気になる。例えば、非常に小さな医科系の大学の典型としてアメリカにロックフェラー大学という、元研究所に大学院を合わせた大学がある。そこはNIHが一人当たりに入れている金額について全米トップの大学である。医科系以外の大学、例えばカルテック(カリフォルニア工科大学)も非常に小さな大学であるが、論文当たりのサイテーション(引用数)はプリンストン大学と1、2を争っており、一人当たりのサイテーション(引用数)については現在でもまだトップのはずである。そのような小さくとも良い大学が米国にはある。大きく統合すると必ずしも良くない面というのが日本の場合も出てくる。朝日新聞の大学ランキングという本を見たら、日本の場合も、教員一人当たりの論文数については、総合大学でないところ、いわゆる単科大学がトップにあったと記憶している。したがって、単科大であるといったくくりではなく、大小を問わず、例えば一人当たりの論文数やサイテーション等が下がった大学を統合の対象にしてはどうか。極端なことを言えば、伝統のある立派な大学であろうとも、アクティビティーの落ちたところは再編・統合の対象にするといった方向で進めてほしい。
 資料1‐1の内容については、国立大学の場合、現在の公務員の身分のままで行うようでは駄目である。なぜ駄目かと言えば、例えば兼業にしろ休職にせよ、国家公務員法あるいは教特法という原則の下で、その運用を弾力化するという進め方は、結局は役人が介入する段階を増やすことになる。すなわち、国としてそのような特例を認めるという手続が必要であるため、大学の場合、大学で認めてもらい、文科省に行き、それから人事院へなどという、その研究分野について専門的な知識がないところに承認してもらう必要がある。したがって、国立大学は非公務員型にすべきであり、それは絶好の機会である法人化の際に一気に行うべきである。それについて、遠山プランで暗に示しているかもしれないが、はっきり書かれていない。国家公務員のままだと、そのような兼業・休職の不便さだけでなく、大学が経営主体として仕事をするときの意識も全然違ってくる。公務員のままだと、人件費が国から来ることにより、大学の経営主体にとっては人はただであるため無駄遣いをする。現在の無駄遣いの典型として、本来ならば事務職員がやるべき雑用を先生方がやっていることがある。なぜこうした無駄遣いが起こるかというと、経営主体が自分の責任において契約して雇っているわけではないので、いくら無駄遣いしても痛くもかゆくもないためである。
 その次の、全体として大学の中にベンチャーを創るためのメカニズムを組み込んでいくという方向性については賛成である。しかし、そこでの認識について、日本の大学発あるいは国研発ベンチャーには三つの「ない」があると考えられる。
 第一に経営のプロがい「ない」。経営のプロがいないという意味は、経営のプロを育てればできてくるという問題ではなく、日本の文化的背景にいないという意味である。すなわち、日本の経営においては、普遍的な経営手法を身に付ければ経営のプロになれるわけではない。日本では、その業界、その企業といった各々の内部規範に基づきものを動かしていく能力を身につけた人でなければ経営ができない。日本で、本当に経営のプロがいるのは、そのような文化と断絶した世界、すなわち法律だけがものをいう破産企業の管財人などである。これらは、ややこしい行動規範、文化的背景を考慮せずに法律に基づいて執行できるためである。つまり、日本にはプロが育っていないのではなく、プロができる土壌がない。
 二番目の「ない」が、アメリカ流に言えばエンジェルがい「ない」ということである。いわゆるシンクタンク、総研などエンジェル的なことをやっているところ、それから金融機関でエンジェル的なことを指向しているところと話してみると、それらの機関は1件1件でリターンを確保しようとしている。アメリカのエンジェルというか、ベンチャービジネスを支援しているところは、ともかく100のうち一つ当たればいいという観念でやっている。ところが、日本では上司の方がそういった視点と権限で判断を下さず、判断を下におろしている。下におろすと、結局1件1件でちゃんと稼げることがその人の業績につながることになる。これを何とかしなければいけない。また、日本の社会に普遍的な行動規範がないため、一人の起業家個人としては信用せず、どこかの大きな立派な組織にくっついているから信用するという構造がある。
 三番目の「ない」は、顧客がい「ない」ということである。前回の委員会での話にもあったが、顧客が一つ一つのベンチャーの製品の性能だけに着目して判断するのではなく、その人との付き合いとか、我が企業あるいは我が研究所との利害関係等を考える。会計検査院が1件1件調べるという制度もかかわってくる。そうした慣習・制度によって買い手は買うか買わないかを判断するため、顧客がなかなか生まれない。
 この三つの「ない」に対して、TLOは現在のところ非力である。率直に言うと、例えば、エンジェルに対して担保を保証したり、顧客に対して保証できるような力のあるTLOは存在していないのではないか。もしあればお許しいただきたい。そうすると、問題は一体どうやってこの三つの「ない」の背景にある文化的要素を克服するかということになる。それは、成功例が参考になる。成功例として、戦前の理研、現在ならばソニーの社内ベンチャーがある。ソニーに限らず、社内ベンチャーは成功率が非常に高い。社内ベンチャーの場合には、先ほどの三つの「ない」を克服することができる。要するに、社内の行動規範で経営ができる、ソニーならソニーという組織に属している人ということで外部からも信用される、さらに、ソニーならソニーという名前で顧客確保ができる、ということである。したがって、大学発ベンチャーにとって必要なのは、そのベンチャーを担保するものとして、大学内あるいは大学外に非常に力のある場を持つことである。そのような意味では、独法化を機会に大学が自らの資金力でベンチャーを担保することができる構造を目標として進めてほしい。

【委員】
 今、日本で大学発ベンチャーというものを一生懸命作ろうという動きがあるが、相当の障害がある。その一つの活路として大学発企業内ベンチャーがある。いわゆる既存の企業内ベンチャーで、技術は大学発というパターンで考えていくと相当数が可能である。ただ一方では、既存の企業の中でも、特に若手などにおいては、経営センス等が決して十分ではない。その点では、既存企業において、そのような人材育成を、個々の企業だけで行わず、共通のインフラで支援するという仕組みが有効ではないかと思う。多くの大手企業はどんどん分社化が進んでいるし、その一つの究極の姿として社内ベンチャー的な形が相当の数、衛星のように散らばっていてもいいのではないか。

【委員】
 私がいつもこの産学官の議論をするときに言及することであるが、大学の本体というのは基本的には高等教育の場であると同時に最高水準の知識を生み出し伝承していく場所でもあるということである。その二つの場をどう調和するかという点がいつも抜けるため、大学の話になると、あらゆる制度が中途半端なものになるのではないか。このことについて是非考えていただきたいというのが第一点である。
 二番目は、ベンチャーというのは、東京でこそベンチャー、ベンチャーと言うが、地方に行けば、これは山師と言われる。大学は山師をするのかという、社会的に受け入れられない風潮があることを認識してほしい。その山師が正しいことをどう社会に定着させるかという視点がないと、地方の大学を考えたときには、非常に違和感がある。片仮名でベンチャーと言うとすごくきれいであるが、訳せば山師である。
 そのような意味では、積極的にやる一つの方法として、冒頭の意見にあった非国家公務員型をとり、大学の教授を中心とする一つの講座なりグループなりが、自分たちの行っていることについてだれからでもアクセスができるよう、企業的なセンスのホームページを作るための予算を設け、各大学の各講座ごとに全部ホームページを有するようにし、大学で何が行われているかについて社会から見えるようにすることが挙げられる。
 ニーズがシーズを探すという制度面の方策よりも、まずこの大学で何が行われているかということを企業や何かやろうとする人たちが探せるようにすればいいのではないか。
 それともう一つは、東大の本郷辺りを見ればすぐ分かるが、最先端の大学の周りにはいつの間にかああいう機器メーカーや試薬メーカーというのが群生する。日本の今の大学にいわゆる大学を中心とする企業城下町ができないことの根本原因を、産学連携以前の問題として議論すべきではないか。

【委員】
 前回の委員会のときにも議論があったが、資料の1‐1の4ページにある、アメリカの大学等発ベンチャー企業設立数279社に対して日本が26社であるということは非常に少ないという例であり、ドイツは650社と非常に増えているということの一つの根拠になっている。まず、その279というのは一見多そうであるが、よく考えてみると、大学からたった200幾つしかできていないということは、決してすごく多いというわけではない。結論を言うと、結局やりたい人ができるようなシステムを作ることが非常に重要なポイントだと思う。
 一方、資料3‐1について、これは大学にいる人たちなどが見ると、大学ではあまり実用化される例が少ないから、最初からそのような目的の研究意識を持たせろとか、更に科学技術振興事業団で具体的に締めつけるようにするという発想が非常に強い。これを非常に端的な言葉で表すと、大学のいわば学徒動員ではないか。日本は過去に学徒動員で失敗した例があるので、嫌がる人に無理矢理やらせることは、むしろ問題ではないか。それよりは、先ほどの意見にあったように、なぜ大学の活動が周囲にちゃんと認知されていないのか、その辺の仕組みを直すと同時に、成功例を作るためのインセンティブを増やす仕組みを作ることが一番良いのではないか。
 最後の結論として、前回でもあったように、この4ページを見ると、ドイツが650と急激に伸ばしたのは大変面白いケースである。どうもこれはアメとムチの両方らしいが、私の希望としては、できればなぜドイツで増えたのか、もう一回システムのおさらいをして、インセンティブの方でうまく垣根を下げていくような方向になれば非常に良い。

【委員】
 我々の方でも今、大学発ベンチャーの支援ファンドの企画をしているが、先ほどからの話にあるように、確かにこの分野については、日本の社会風土の現状を踏まえると非常に難しいことは痛感している。ただ、最近、大学の意識も相当変わってきているし、特に若い研究者あるいは大手企業に勤めている研究者の中でも、企業が経営資源の選択と集中を行う中で、独立志向が高まりつつあるという大きな流れを痛切に感じている。時間はかかるかもしれないが、現状の海外に比べるとあまりにもギャップが大きすぎるという悲観的な様相から変わり始めつつあるのではないか。冒頭に大学改革の遠山プランの話があったが、本当に国が積極的に取り組むのであれば、大学発ベンチャーはそんなに無理な話ではない。ただし、焦るとまずいと思う。マネジメントできる人材は結構民間企業にも相当数いる。そのような人材の活躍の余地は今後相当出てくると思うので、大学発ベンチャーについては前向きに考えて進めてほしい。

【委員】
 今の話の応援演説をやることになるが、大学で新産業創成という目的のために一歩一歩動いている者の実感としては、以前と比べると、確実に若い人たちのベンチャーに対する関心は非常に強くなってきている。ただ、現状では、このまま地獄へ道連れということになるので、ちゃんと大学側あるいは社会がその準備をすべきであることを理解しなければならない。この委員会はそのための会議だと認識しているので、とにかく前向きに検討しつつ、いろいろな問題点を見つけていくという進め方以外にないのではないか。

【委員】
 私たちの大学では、最近、ベンチャーを起こした先生が4人出ている。その中の1例、2例でもいいが、どうして先生方がベンチャーをやり出したのかということについて話したい。一つは、マイロクシステム、ナノテクノロジー関係のベンチャーの話であるが、私たちの大学の「びわこ・くさつキャンパス」ではかなり産学連携が根付いており、大学と各企業の間のネットワークというか交流が日常的になってきている。そこで、数名の先生のグループがコンソーシアムを作り、企業にこういうテーマで研究組合を作るので入らないとダイレクトメールを送ると40数社が一挙に集まる。そこで行ういろいろなテーマの内容はベンチャーと言ってもいいようなものであり、企業から、そのコンソーシアムでこういうものを作れないかという製作依頼がくる。私たちの大学では一貫してマイクロマシンなどのデバイスが作れるので、これはもうベンチャーとして会社にした方が能率が良いということになり、その先生がこの4月に大学に届出をして、ベンチャーを組織した。今、資料で提案されている内容は、そこまでやる必要があるのか、少しずれているのではと思うところがある。先ほどからの議論にあるが、資金をどうするかについては、このベンチャーの場合は、その先生がこういうことをやりたいんだということをコンソーシアムの企業あるいは周辺の先生方に言うと、株式会社に必要な1,000万の資金なんかあっと言う間に何も苦労せずに集まった。日本では個人は金持ちであるので、先生方はその程度の金はいつでも出せるということがある。
 他に既に一人、今年の1月、2月ぐらいに、情報系の先生がベンチャーを起こしている。大学の方では何かガイドラインを作らないと駄目だと言っているが、一向に出来ていない。出来るまで待てというわけにはいかないので、既成事実が先行している。今後ベンチャーをやりたいという先生方がどんどん出てくる傾向にある。
 そのような例を見ると、一つのキャンパス内でそのような機運が出て、企業との交流が盛んになれば、そんなに無理をしなくともベンチャーは出てくるのではないか。

【委員】
 私はTLOの顧問弁護士もやっており、同時に外部のベンチャー企業、バイオベンチャーとかITベンチャーの方の顧問もやっているので、現場の目から見て、資料1‐1について指摘したい。
 まず第一点目であるが、1の問題意識のところに特許等の取得促進というのがある。特許をどんどん持とう、出そうということであるが、特に怖いのは、ここに出ている数値目標である。数が増えるということ自体はすばらしいが、気を付けないと、よくTLOで使っている言葉でいうところの「不良在庫」が増える可能性がある。特許というものは、取るのにお金がかかり、もちろん持っているのにもお金がかかる。そのため、極めて真剣に慎重に選択して出願し、それを利用する必要がある。数を取ればいいものではない。リエゾン機能、あるいはマーケティング機能、TLOの持っている情報を利用して、これはライセンスできるという確信を得てから特許を取るようにするということが非常に重要である。特許等の取得促進自体は正しい戦略だと思うが、特許を取ろうとする前に是非一度TLOとかリエゾンに相談・確認してから出願するようにしてもらいたい。
 二点目であるが、実際にベンチャーあるいは技術移転をする際に、技術の成熟度と企業側のニーズのギャップが大きい。それに対応するためにはインキュベーター機能が非常に重要なので、この2ページの2にある「インキュベーター機能の付加」は非常に大事である。ただ、非常に難しいのは、実はある組織がインキュベーター機能を果たすということは、その組織はリスクをとる必要があるということである。インキュベーションというのは、例えば10個インキュベーションをかけて、1個成功するかどうかわからず、9個は必ず失敗すると思っていいぐらいのものである。ゆえに、リスクをとる経験がある、あるいはリスク管理の経験があるところがやらないと、うまくいかないと思われる。例えば、私が国立大学などと折衝していてよく聞く言葉が、「申しわけないが、これは前例がない」である。前例がない新しいことをやれる、つまりリスクがとれる組織に是非こういうインキュベーションをやってほしい。あるいは既存の組織内でそのような教育を行い、リスクを負うという認識を徹底してもらいたい。
 三点目は、同2ページの3にある兼業についてだが、国家公務員法第104条は是非活用してほしい。ここに書いてないが、104条による兼業の場合でも、是非エクイティの付与が可能になるような報酬体系の弾力化を認めてもらいたい。それから、社外取締役兼業についてであるが、やはり社外取締役の責任は重い。私もあるIT企業の社外取締役をやっているが、いつ訴えられてもいいように覚悟してやっている。むしろ、サイエンティフィック・アドバイザリー・ボードみたいな、経営責任は取らないが、企業の技術的な方向性については100%責任をとるという形のボードを作って、その役職で知の代表たる諸先生方には企業で活躍してもらいたい。そうしたシステムも是非検討してもらいたい。

【主査】
 次の「産学官連携を支える組織の強化と人材の育成」について、意見をいただきたい。

【委員】
 これは直接かかわりがあるので、一番最初に発言させてほしい。まず、このペーパーの3の検討方向の1のところであるが、そこに書いてあるとおり、TLOとリエゾン機能は大学の研究マネジメントの非常に重要な部分だと認識している。しかし、大学によってそれぞれシチュエーションが非常に異なるので、これを実行するに当たっては、大学にいろいろな決定の自由度を与えてもらいたい。実際にある形でもう既に商売を始めてしまっているところが、お客を前にして以前と全く違うことを言い出すと継続性がなくなってしまう。
 もう一点は、これは私たちの組織独特のことで申し訳ないが、TLO機能の強化という項が次のページにある。ベンチャー育成等のフェーズに入ったときに非常に重要なのは、下のTLO機能の強化の1番目でなくて2番目の「商法改正の動向を踏まえつつ」というところである。株式会社の場合はまだ良いが、財団法人でやるときにはこれは非常に重要であり、現在ではエクイティは実際に持てない。こういうものを早急に、例外規定でいいので、ある種のアクションができるような法制を是非お願いしたい。

【委員】
 人材育成の問題で発言したい。特に、人材育成で目利き人材を5年間で700人作るということであるが、人数はともかくとして、一体だれがこの目利き人材の先生になるのか。この目利きというのも、「この技術はすばらしい」という単なる技術の目利きであれば既に何人もいると思う。ここでいう目利きとはあくまで、この技術をビジネスに持ち上げて、いわゆる利益が出るような企業に仕立て上げるという目利きでなければならない。そのような人材を作る先生は一体だれがなるのかということが分からなければ、いくらカリキュラムを作っても何の役にも立たない。この点について一体どうするのか。今ベンチャーで一番問題になっているのは目利きである。目利きさえしっかりしていれば、金は必要ない。金はもう余り余って腐るほどある。ただ、目利きができないために、恐ろしくてそれに金を出せない。企業と共同の研究グループで「あいつはなかなかしっかりしている」ということで個別に金を出す人はいるが、そんなもので20や30、あるいは50や100個大学からベンチャーが出たということで、これだけの人間が騒ぐことではない。ほっといても100や200は出てくる。問題は何千人、何万人、しかも日本の雇用はこれからどんどんとリストラされて人材が出る。そうした何十万の人間を吸収することができる新しい企業が生まれることが大事であるので、20や30の企業が出たから喜んでも何の意味もない。そうすると、700人や1,000人の目利きは絶対必要である。しかし、その目利きをどうやって作るのかということをもうちょっと考えなければいけない。だれが教えるのかについては、これはもう日本人では足りないと思う。アメリカの優秀なファンドマネジャーを1億や2億で20~30人呼んできて、その人に日本人を5人、10人つけて学ばせることを3年、5年契約で行って初めて、そこそこの目利きが出ると思う。もちろん、今、証券会社とか銀行にも目利きらしき人はいるが、残念なことにその人は事業をしたことがない。みんな人がやっているのを見て、指導しているだけである。本当に自分が血の小便を出して家も屋敷も全部担保に入れて、これを失敗すれば夜逃げしかない、明日はもう一家離散だという目に遭った人が本当にベンチャーのすごさというのを知っている。そのような人たちが指導しなければ、そんな甘いものではないということは分からない。そのようなことがやはり問題なので、私はこの目利きの心配をしている。
 もう一つは、いろいろな施策。参考資料の1を見ると、これだけのメニューがあったら何も言うことはない。しかし、これは仏つくって魂入れずであり、一体だれがこれをするのか。競馬場を作ったけど、馬がいない。いくら競馬で調教師をつけてやったって、走る馬がいなかったら駄目である。アントレプレナーをどうやって育てるのかということがこの裏にある。これは、もう小学校、中学校ぐらいから、あなたの人生にはいろいろな生き方があり、その中の一つとしてベンチャービジネスがあるということから教育しなければならない。ベンチャーの講座に出ている大学の3回生とか4回生とかにアンケートしてみると、30何%の人が「折あらばベンチャーをしたい」と言っているが、現実にやっているのは一人ぐらいしかいない。それはやはり社会全体の認識がまだ、ベンチャーを山師であると見ているためである。「かわいそうに、勤めるところがないからベンチャーをするんだ」というベンチャーの位置付けがまだある。ただ、ベンチャーという存在はギャンブルだと思う。これを事業と置いたら、もう駄目である。10のうち一つ成功したらいいんだということを世の中に認識してもらわなければならない。日本は昔から七転び八起きという言葉があるが、商売においては、七転び八起きどころか、一転びアウトである。それを直さない限りアントレプレナーは生まれない。これに関連する法律の問題や社会の理解もあるだろう。しかし、私の業界でアメリカのベンチャーの現状について調べたら、10年間一度も事故なしに最初から続いた企業は何と30%しかない。あとの70%は2回から8回倒産している。日本が今のままでいけば、一転びアウトなのでアメリカの30%の件数に達すればよいことになる。アントレプレナーをどう育てるか、そして目利きをどうするかということを是非もう少しここに具体的に入れてもらいたい。

【委員】
 今のことに関してであるが、もう一つ目利きについて加えてほしいことがある。私の周りで幾つかベンチャー、あるいは企業としてできるような非常に最先端の技術を研究している方がいるが、その方はベンチャーについて非常に消極的でいる。目利き以前に、そのような人たちを引き上げるような専門家のネットワークを具体的にどう作るかということを加えてほしい。今言われたのは、会社を一人で作るという元気のいい人だけを対象としているが、元気のない人でも非常に有望なものがあるので、それを引き上げる組織的なチームというか、そのようなアドバイザーを派遣してもらうようなシステムを是非作ってほしい。

【委員】
 今の話にちょっと近いが、実を言うと、先日、研究所の教授たちが何人か集まって、我々はベンチャーを作れるかという議論をしたが、研究費が有り余っているので、外へ飛び出す理由がないという話が出た。場合によるとやはり貧乏させないと駄目なのかもしれないというのがまず一つである。これは冗談として、もう一つは、自分で確かに責任を持ってファンドを集めることはあるが、全額集めてこいと言われるときつい。半分ぐらいは自己責任でやるということでどうだろうか。例えば3年間休職してやるとしても、事務所を借りていきなりやるのはきついから、学内インキュベーターがあれば助かる。必要な施策は大体全部このペーパーの中にそろっているので、ここまでくるとやらないのが嘘かなという状況になる。一番最初に述べた金持ち過ぎるということがどうなるかは別として、3年間に1個ぐらい休職してやってみて、それで駄目であれば戻ることが許されるのであればやってみるかという意見が割合多かったのが現状である。

【委員】
 人から組織の強化の方の話に戻るが、前向きに考えていくときに、大学側で現在準備できる制度はできるだけ準備することが、いろいろな人にいろいろな機会を増やすために絶対必要である。バイドール法は国有特許の有効活用というのが引き金だった。これまでのたくさんある国有特許をどうやって有効に活用していくか、あるいは現在取ろうとしている国有特許をどうやって活用していくかということを含めて考えると、国有特許の管理・維持ができて、その費用がかからない認定TLOができれば、TLOの活動が非常に促進されることは間違いない。是非TLO機能の強化の部分に、認定TLOの促進をきちんとうたって、それに向かって一日も早く実現してほしい。
 それから、インキュベーションの話が何度か出ているが、ナノテクなどソフト以外のものでインフラストラクチャーが必要なものを立ち上げるときには、学内のインフラを使ってよいという話があった。その辺が資料に見え隠れしているが、見え隠れではなくて、できるだけはっきりと、きちんとした契約の下にできるという方向でオーソライズしてほしい。

【委員】
 この数年で確実にこういうものを何とかしたらという意味では、意識改革は少しできてきたのではないか。ただ、区別しておかなければいけないのは、成果を中心として外部のだれかがベンチャーを立ち上げる話と、研究者自身がやる話とでは非常に大きな相違があるということである。前者は、余り危ない話ではない。オキサイドというベンチャーで私たちの組織の研究者が外へ出ているが、やはり研究者というのは基本的になかなか起業には向かおうとしない。先ほど言われたとおり、お金があるのにわざわざする必要があるのかという考えが非常に強い。今の24兆円まで研究費を出すという動きと相反している。一生懸命研究する人はどんどん研究にいってしまうことを認識しておかなければならない。
 それともう一つ、もしこれが失敗したらというのは、ものすごく大きいインパクトがある。失敗したら、それ見ろという人がたくさん出てくる可能性が高い。七転び八起きどころか、やはり非常に難しい位置にあることを認識しながらやる必要がある。
 あとは、一番最初のところに戻って、参考資料の1、2、3のどこに国家公務員型なのかそうでないのか書いてあるのか一生懸命読み取ろうとしたが、分からなかった。一方、国立研究所は、蛇足だが、間違いなく独法化でプラスの面がたくさん現れている。しかし、大学が国家公務員型かどうかというのは最大の関心事なので、産学連携等とリンクしながら、その一番大事な点を考えてほしい。

【委員】
 全く同じことを指摘したい。あくまでもメインストリートは外部の人間がやるべきで、研究者あるいは大学の教員が自ら経営者になるというのは例外中の例外だと確信する。確かにドイツでは、約600くらいの大学発ベンチャーが最近立ち上がっている。私の知っている範囲では、その技術ソースはかなりのパーセンテージで大学もしくは国立の研究所から出ている。ただし、経営者として大学人が移ったのは本当にレアケースだと聞いている。そこには一つのプロフェッショナルの分業体制がある。その辺を念頭に置き、先ほどの指摘にあった目利き人材の育成をどうするかが最大のキーだと思う。

【委員】
 私は、昨年まで公務員だったが、今は山師になってしまった。失敗すると株主の皆さんにはペテン師と言われるかもしれない。先ほどの話にあった、大学の中でベンチャーをやるのか、あるいは外でやるのかということについては、随分大きな違いがある。実際にアメリカの先生などでも、中で実際に自分からやった方はかなり苦しんでいる人が多いし、両立するのもかなり難しいという感じを受ける。そのような場合に休職する制度があるが、実際に休職して、失敗して戻れるかというと、なかなか難しいのではないか。いったん始めると、やはり従業員の家族も背負っていかなくてはいけないし、世間的な使命というものがあるので、休職して公務員でちょっとベンチャーをやって失敗しても許されるということはまずあり得ない。リスクをとってでもそこに何か目指すものがあるという人が自然とベンチャーを起こすと思う。ここの資料にもあるように、非常によく起業支援の制度が整備されている。これだけ環境が整っていてもベンチャーが起きてこないのは、やはりマインドの問題なのではないか。世の中豊かになってお金もあるからベンチャーを起こさないという話は非常におかしいと思う。むしろ裕福であればあるほど、自分のやった研究の成果を是非世の中に広めたいといった使命感があるのではないか。そのような考えにつながらない教育が非常に問題である。
 金の問題であるが、やはりお金は非常にたくさん集まる。先ほどの議論は自己資金というか、最初の開設資金についてだと思うが、5,000万から1億円ぐらいのお金は、知人関係とか、あるいは近くのキャピタルの方からすぐ集まる。その後、会社を大きくする上で5億、10億というお金が必要になったとき、いろいろなキャピタルの方が話に来るが、本当にそれに自分でお金を出すかどうかという判断が日本のキャピタルにはできない。同じような質問を毎回毎回されて、本当にそのキャピタルの人と時間を過ごすのが無駄に感じることがある。特に銀行系のキャピタルの人はその判断ができない。むしろ証券系のキャピタルの人のほうがちょっと山っ気がある。いずれにしろそのキャピタルと付き合うことは、キャピタルゲインをねらうことにいきつく。それもまた会社の運営の一つではあるが、事業とキャピタルはまたちょっと違うので、私みたいな素人が事業を始めると、キャピタルとの付き合い方などについては最終的には倫理観につながっていくのではないか。また、先ほどの目利きをどう育てるかということは非常に重要である。

【事務局】
 今までの話の中で、大学発ベンチャーとはどういうものなのかということについて議論が幾つか出た。日本で行った調査における大学発ベンチャーの定義としては、特許による技術移転によって起業したケース、それ以外のノウハウ等の移転で起業したケース、それから人が移って起業したケース、それから大学にファンドがあるケースの四つを用いている。教官の有志の拠出に民間のベンチャーキャピタルが追加してファンドを作る場合が多々あるが、そうしたアカデミックファンドの出資した会社がベンチャーを起こしたケースやベンチャーを起こすに当たって出資したケース等全部を大学発ベンチャーとしている。また、アメリカやドイツ、イギリスのベンチャー企業の統計はそれぞれ定義が異なるので単純比較はできない。技術移転型も立派な大学発ベンチャーであると考えている。
 もう一つ、公務員型か非公務員型かという話題があったが、この議論については、別の会議において今年度末に結論がでる予定なので、そちらに議論をゆだねることとして、我々は大切なことを着実にやる。非公務員型という結論が得られれば、わざわざ制度改正をしなくてもいいことが多くなるが、非公務員型の独法がやらなければいけないことはやはりここに書いてあることと同じになると思われる。ただ、独法になるまで、実際にいろいろな法手続等があり、何年か先になるので、それまで何もしないわけにはいかないので、必要なことはやるということで整理している。

【主査】
 つなぎで行うという面が多少あることを十分念頭にいれて議論していただきたい。次に資料3‐1の「経済・社会ニーズに対応した大学等の研究開発の推進」について意見をいただきたい。

【委員】
 資料3‐1を読むと、学生の立場からの視点が抜けていると思う。特に博士課程の学生をどう取り扱うかということは、恐らくこの議論の根幹をなすのではないか。具体的には、博士課程の学生への給料の支払は、民間等との共同研究費あるいは受託研究費から可能かどうか知らないが、中小企業を対象に考えた場合、研究の現場を企業側にして博士課程の学生をその研究で雇っているようなときには、それでもいいぐらいのことをどこかに書いてもらいたい。
 先ほどは誤解を招いたかもしれないが、金持ちという話は個人的に金持ちであるという意味ではなく、研究費がいっぱいあるという話である。この話はたまたま教授ばかりだったのでそういう話になったが、助教授などはあまり研究費がない。そのような人間に産学連携をやらせるには、ここにもあるように、マッチングファンドの重要性というのがかなりある。我々がピアレビューをやり提案書を読んで金をつける、つけないとするよりも、むしろある企業がその先生に500万なら500万出すということがものすごいレビューになるのではないか。国が金を出す民間等との共同研究区分Aの補助率が最近下がっている状況にあるが、その辺を格段に金額的に拡充するのは良い手段ではないか。

【主査】
 博士課程の学生という問題の指摘は非常に大事であり、恐らく博士課程の学生を育成していくことが、将来企業を起こす自信のある自立型の人材育成に非常にプラスになるのではないか。

【委員】
 経済・社会ニーズに対応した大学等の研究開発の推進で一番大事なことは、自然に多くの企業との間の共同研究がキャンパスの中でどんどん行われていき、それが大学発ベンチャーになったり、いろいろな基になることである。今一番の問題は、企業が求めて共同研究をやりたいような研究をどこでやっているかについて知らないということである。それをどうそれぞれの大学が知らせるかということが施策として必要ではないかというのが一つ目の問題である。
 二番目は、これは医学部、特に附属病院での臨床試験関係でいろいろスキャンダルが出てくるが、産学協力の枠組を制度的にいくら整えても、結局は個人の倫理の話になる。産学協同をやるに当たって、大学の先生が共同研究をやるにしても、そのような場合の一種のコード・オブ・コンダクト(契約規範)みたいなものを考えることが必要ではないか。それを一々各大学の学部長の許可を取る、学長の許可を取るという煩わしいことではなくて、一般的なルールとして公表しておけば、企業側からも、どういうふうに先生にアプローチしたらいいか、どの程度付き合えばいいかということがよく分かるので、そのようなソフト面を考えてほしい。

【委員】
 博士課程の学生のこの問題への巻き込み方についてであるが、日本の大学の研究室においては、博士課程の学生は、研究を通じて教育されているというよりは、博士課程の教育を通じて研究をしているのが実状である。アメリカで10数箇所の研究所を回って、ブレークスルーを生み出した人の背景を調べたが、博士課程の学生の時に、広い領域についてその限界まで徹底的に深い知識を鍛えられた上で、研究プロポーザルの訓練を受けている。現在の人類の知においてどういう問題だったら突破できて、その突破というものは人類の知を積み上げる上でどういう意味を持つかという認識ができる人間がブレークスルーを生み出している。異分野のそのような人たちが交流したところにブレークスルーが生まれている。これに対して日本の博士課程は、いきなり指導教官の分野を専攻し、プロポーザルどころではなく先生がテーマを与え、それについてできるだけたくさん論文を書くよう指導される。結局、大学院博士課程学生の労働力化、あるいは徒弟教育化でしかない。これが、日本の博士課程の修了生が企業から評価されない、又は外へ出るときにいろいろと苦労することの根本的な原因だと思う。
 経済・社会ニーズという次元で、極めて浅薄なテーマに博士課程の学生を巻き込んでしまうと、もう10年後の日本はないという気がする。そこで、先ほど話のあったコード・オブ・コンダクトをパラフレーズするならば、博士課程の学生には広い領域で限界までの深い知識と、それから研究テーマをプロポーズする能力を身に付けさせた上でこれに巻き込むということが必要である。

【委員】
 ちょっと反論したい。私達はシステムLSIについて研究をしているが、アメリカの学生が人数的には非常に多い。先ほど言われた高邁な学問をさせようとする前に、日本人の学生が大学に残ってくれない。残ってくれないと、どんな高邁な理想を持っていても仕方がない。実は私がベンチャーをつくったのは学生に給料をやるためであり、私たちはほとんど給料をもらっていない。ティーチング・アシスタント(以下「TA」)、リサーチ・アシスタント(以下「RA」)という制度が大学院重点化で出来たが、そのTA、RAの金の配分の仕方がアメリカに比べて非常に少ない。実際に調べてみると、あるアメリカの州立大学では、年俸で1万ドル又は2万ドルをもらう二通りのTA、それから2万ドル又は3万ドルをもらう二通りのRAがある。日本のTA、RAで最大どれぐらいもらえるかというと、TAで40万円ぐらい、RAで大体30万円ちょっとぐらいである。そのような状況では、大学院に残って研究してもらいたくても、学生は修士課程修了で逃げてしまう。どうやって学生を残すかについては、やはりある意味でTA、RAに対する給料の出し方というものを作らないと、日本の研究能力は非常に落ちると思う。研究に巻き込む巻き込まないのどちらであろうとも、少なくとも共同研究費とか、あるいは委任経理金から、是非残ってほしい人材に対して給付金を定常的に出せるようなシステムを作ってほしい。

【委員】
 先ほど大学院ドクターコースの学生の研究労働力的な話があったが、そのような活動でお金をもらった場合には、大学院のドクターコースを例えばスタンダードな人が2年半でクリアできるとしたら3年半かけるとか、アメリカでは、きちんとルールが決まっているはずである。必要な教育をどれだけきちんと受けたかということと、そのプラスアルファ、つまりアルバイトをやったということがクリアになっている。ある意味では学生に選択肢がある。基本的にそのようなスカラーシップが足りないことが日本の場合の弱点だと思う。

【委員】
 大学の立場と企業の立場は明らかにカルチャーが違うので、この両者を必ずしも共同させること自体が良い成果を招くわけではないのではないか。重要なのは、TLOなどが、その間に立ってコーディネートをきちんとやることである。いたずらに短期的なニーズに迎合したような研究開発ばかりやっていたのでは長い目で見ると非常に大きな禍根を残すのではないか。実際、長期的な視点に立った基礎研究が思いがけないような用途に結びつくことは結構多いと思う。そのような面から、大学と企業がそれぞれの立場で研究等を行うことと、あとはその仲介役というか、それぞれの役割をうまくつなぎとめるような機能の整備等が重要であることを書いてほしい。

【委員】
 この資料3‐1の冒頭から経済・社会ニーズという言葉があり、経済・社会ニーズが明確にあるという前提に立っている。ところが、そうでない分野がものすごくある。私もかなり激論したことがあるが、そのとき大学からの研究成果はある意味ではあまり役に立たないのではないかという経済界、産業界からの批判があった。そこで、本当に必要な研究をやるために、産業界からニーズを出してほしいと言うと、何の答えも返ってこない場合があった。「そのような状態を見ると、産業界もニーズが分かっていない場合と、わかっていても出さない場合の二つの立場があると思うが、どちらか」と質問すると、何人かの企業の方が「その両方である」と答えた。この経済・社会ニーズには二通りある。今競争になっているニーズ、いわゆる競争的ニーズと、その先10年先、20年先の社会を見据えたニーズ、前競争的ニーズとがある。そのニーズについて全分野ではないが、重要なところがどうも分かっていないところがある。それは、日本がフロントランナーになった途端に先が見えなくなったからだと思う。そのニーズをだれが提示していくのかという問題については、産業界だけの責任でもないし、大学だけでは無理である。これは両方が、官も一緒になって議論しないと出てこないのではないか。将来の社会を見据えて、そのような議論をするインフラが日本には出来ていない。ここでいうインフラとは、そのような会議の場とか、そのようなムードなどである。資料には何かニーズが分かっているような書き方をしているが、決してそうではないという点があることを考慮してもらいたい。

【委員】
 先週、NSF、DOE、DARTAに行く機会があった。日本では今評価を強調しているが、向こうでは採択に全力を挙げており、あまり評価に対しては日本ほど取り組まず、NIH以外はほとんど評価を次の採択に生かすことを行っていないことが分かった。また、NSFでは、研究そのものに教育への統合の効果ということが非常に出ており、これが博士号(Ph.D.)の扱いなどと非常に密接に関係しているようなので、一つ付け加えておく。
 東京大学で研究内容のデータベースなど作っているが、こうしたものについては各研究者は当然の義務として、特に国立大学では作るべきであると思う。
 最後に、これだけ産学についていろいろと言っているにもかかわらず、大学にとって一番重要である科研費の審査に民間人がほとんど入っていないという問題がある。NEDOの研究助成では、民間人と大学の先生が半々で入っており、非常に面白い。「これは絶対できない」と民間人が言うものがあれば、大教授が○をつけたのが×になることがある。やはりそれぐらいの審査をしないと、現状から遊離してしまう。ここで一生懸命産学連携のことについて検討しても、一番大事な資金である科研費については大学の世界だから民間人を排除するという状況では、本当にやれるのかという心配がある。

【主査】
 委員の方々が言われている背景を少し整理する。大学には、長期的な研究をしている人、中期的な研究をしている人及び短期的な研究をしている人がいるが、全部が産学連携に関与できるわけではない。しかし、研究の成果が実ってきた研究者と産業界との連携がうまくいかなければいけないということと、そこで教育が行われているということが非常に重要な観点としてあるため、産学連携の推進が求められているという背景がある。また、今から30年ぐらい前のことを考えていただければ理解してもらえると思うが、当時は産学連携をやってはいけないという社会的風潮であり、やりたくてもやれない先生が数多くいたというもう一つの背景がある。そのように抑えられていた状況から今急に解禁になったというのが現状だと思う。そのため、大変摩擦が起きている。例えば国立大学で言うと、税金で給料をもらっている人が特定の企業を作ったり、特定の会社と一緒にやってはいけないという非常に大きな制約がかつてあった。今それが急に解除になって、そうしたことを行おうとしても、やはりいろいろな問題が起こる社会的風土が依然としてある。今でも恐らく普通の社会の人たちの潜在的背景の中にはそのような意識があると思うが、その意識があると、いくら大学の先生がやりたいと思ってもやれないという状況のままである。
 また、ニーズについては、大学と企業とが一緒になって作っていくことが重要である。ここでいうニーズとは、潜在的ニーズのことである。非常に重要な長期的な研究というのは、潜在的なニーズが顕在化するのに10年も20年もかかる。非常に複雑な、長期的、短期的なニーズやシーズの中で、産学官連携がよりよく行われるようすべきということが本日の委員の方々の指摘だと思う。

【委員】
 ドイツモデルに非常に興味がある。この話について説明してもらう機会はないのか。

【事務局】
 先生の都合を確認した上で、次回委員会に時間を設ける方向で検討したい。

5.今後の日程

 次回は6月末に開催する予定とし、各委員との日程調整の上、事務局から改めて連絡することとされた。

お問合せ先

研究振興局研究環境・産業連携課技術移転推進室

(研究振興局研究環境・産業連携課技術移転推進室)