平成24年9月28日
株式会社日立製作所 名誉顧問
福山 裕幸
はじめに
技術士制度の在り方を考える上での以下の問題意識、
(1)産業構造や技術者(エンジニア)と技術士制度との間でミスマッチが生じていないか。
(2)技術士資格の国際的同等性や通用性をどのように考えるか。
(3)技術士資格がより社会において評価され、その活用を促進するために何が必要か。
に対して、企業における現状認識と課題を提言する。
2011年8月19日に第4期科学技術基本計画が閣議決定され、本計画のローマ数字4の3.科学技術を担う人材の育成、その(1)多様な場で活躍できる人材の育成に関し、初めて技術士が取り上げられ、次のように説明されている。
『技術の高度化、競合化に伴い、技術者に求められる資質能力はますます高度化、多様化している。このため、国として、こうした変化に対応した技術者の育成と能力開発の取組を強化する。その取組方策として、国は、技術士など、技術者資格制度の普及、拡大と活用促進を図るとともに、制度の在り方についても、時代の要請に併せて見直しを行う。また。産業界は、技術士を積極的に評価し、その活躍を促進していくことが期待される。』
産業界で求められる技術者人材のニーズに対して、技術士への期待は高い。しかしながら、技術士資格制度の産業界での活用・普及への道のりは未だしであり、課題も多いという問題意識は共通の認識であると思われる。
一企業として、日立から見た以下の2点についての問題意識について述べてみたい。
1.企業における技術者・技術士(企業内技術士)の現状および課題
2.高度な技術者に期待される役割
1.日立における技術者・技術士(企業内技術士)の現状及び課題
(「技術士」の評価)
一部の業界を除き、多くの産業/企業においては、技術士の資格※を取得することが、技術士としての業務の始まりではなく、技術士としての仕事の到達点(「あがり」)になっていないだろうか。企業においては、技術士を取得することは、その業績と業務遂行能力の高さとして高く評価される要素になる場合もあるが、いわば技術者としての勲章(功労表彰)のようなものに近い。多忙の中、よく取ったと褒められることはあるが、技術士になったからといって業務の幅が広がるとか仕事が変わるとかいうことにはつながらないというのが現状である。※ 資格とは「何々をすることができる」「持っていなければ何々できない」
(「技術士」の活用)
一部の業務受託案件の引き合いや見積もりにおいて、技術士の参画が要件として指定されるものに対して、技術士が活用されることがあるが、全体的には多くはない。社内業務実施において、デザインレビューのレビュー責任者としてシニアのエキスパートが参画するが、技術士または、相当する上位の技術専門職(技師長、主管技師長、主管技師)がこれにあたることをレビュー成立条件とする事業部門もある。ただしシニアエキスパートのうちの技術士の割合は多いとは言えない。運用されている事業部門もまだ一部にとどまっている。
全般的には、技術士を評価するしくみはあるが、それを積極的に活用するしくみ(資格制度)が弱いと言わざるを得ない。
(技術士への支援)
日立では、日立グループの技術士の会として「日立技術士会」を設立し、次のような技術士の活動のサポートを行っている。
・会員メンバの生涯学習、自己・相互研鑽を支援する活動
・日立の技術士を増やすための活動
・会員への情報提供サービス
・日立技術士会及び技術士活動の社内外へのPR
・技術を必要とする団体等への技術士(特にOB会員)の紹介
また、昨年度実施した会員への技術士会への期待調査アンケート結果によると、「仕事を通じて技術士が活用される、活躍できる状況を整備すること」への要求が最も高く、また、大きな課題であることが分かっている。
2.高度な技術者に期待される役割
(産業構造の変化と必要な人財)
日本企業が直面している当面および将来的課題は、進展するグローバル化に対応して、地球環境の保全、エネルギや資源の安定調達、雇用・賃金・少子高齢化等を考慮した、マーケティング、研究開発、生産、販売、サービス等のバリューチェーンの強化と拠点戦略である。そのためには、国内と海外の事業の棲み分け及びその戦略に対応できる人財の確保が必須である。
このようなニーズに対して、現行の技術士法の定める一部門/専門分野だけの狭い範囲の知識だけでは十分とはいえない。世界で活動する技術者には、広い視野での見識と知識を持って、変化する社会ニーズに対応することが求められている。
(技術者として期待される能力)
技術士法によると、「技術士は、科学技術に関する高等の専門的応用能力を必要とする事項についての計画、研究、設計、分析、試験、評価またはこれらに関する指導の業務を行うもの」と規定されている。
本来、あるべき「技術士」像は、いわゆるT型、もしくはΠ型と呼ばれるような、深い専門技術とともに、技術横断的に広くシステムとして問題を捉える能力とを兼ね備えたものということができる。平成12年に総合技術監理部門が創設され、経済性管理、人的資源管理、情報管理、安全管理、社会環境管理に精通した技術資格が明確となった。
企業が期待するシステム思考に基づいた経営的観点に立って行動することのできる技術者像に照らし、(総合技術監理)技術士が具備すべき技術の範囲、深さ、専門性、有効性等について、再度見直し検証が必要である。それは、企業の中で、技術革新や製品イノベーションが求められるイノベーション人材やグローバル人材のニーズ(要求)に応えるものである。
(技術者に期待される役割)
技術士は、「信用失墜行為の禁止義務」「秘密保持の義務」「名称表示の場合の義務」の3つの義務と、「公益確保の責務」「資質向上の責務」の2つの責務を守ることが要件となっており、これらは、技術士が有する「高い倫理観」が大前提となっている。
近年増加する企業や技術者の不祥事の発生を防御するためにも、高い倫理観と総合技術監理的なシステム思考ができる技術士は、社会及び企業にとって必要な存在となるはずである。企業/事業において、システム思考で多角的・総合的にシステムの計画・設計を第3者的に、評価・監査することが義務付けられ、その評価・監査に、「技術士」が担うべき業務として制度化されることが望ましい。
3.提言
(技術士制度/技術士試験について)
科学技術を応用する製品の開発・製造・販売・サービス等を生業とする企業の技術者は、前述のごとく広い分野の見識と知識を有することが求められる。企業では長期にわたり同じ専門分野で業務に携わることは稀である。高度の技術者には専門分野の知識は勿論のこと、広い範囲での応用能力を有することが期待される。
現行制度における専門部門を掲げる技術士が、企業の期待する技術者とマッチしているかという点で見直しが必要である。
・技術者として現在および将来的力量を有することを証明する資格とするため、産業界の必要性にマッチした試験内容に改革すること
・専門知識+幅広い応用能力を有することの資格とするため、部門制を廃止するか、5部門程度に統合すること
・総合的、即ち経営的に判断・管理する能力であることを証明する資格とするため、総合技術監理部門の位置付けと他部門との差別化を図ること
一方、諸外国と比較した場合、飛躍的に資格者数を増加させ、社会に於ける存在力と発言力を向上させる必要がある。そのためには、挑戦意欲の湧く技術士制度と試験内容の改革、(産・官の中枢技術者向けの認定資格新制度)が必要である。
(産業界での活用の制度化ついて)
近年企業では、業務を遂行するに当たり監理すべき事項が増えかつその重要度が増している。産業界と連携し、総合技術監理技術士の活用について制度化されることが望まれる。実運用については、所轄する各省庁の権限に委ねることで改訂の道が開けるのではと期待する。
・企業において、技術士を積極的に活用する制度を構築することを義務付けることが望ましい。企業は、経営的課題を総合的かつ多角的に解決できる技術者を養成するための仕組みを構築する必要がある。
・企業に対し、経営的視点(システム思考)に基づき、第三者的に、多角的かつ総合的にシステムの計画・設計等を評価・監査することを義務付けるとともに、その評価・監査業務を技術士が行うべき業務として制度化することを義務付ける必要がある。
科学技術・学術政策局基盤政策課
-- 登録:平成24年10月 --