技術士分科会/制度検討特別委員会における議論に関する私見

2013年5月13日
制度検討特別委員会委員
福山裕幸 

1.制度検討特別委員会(以下委員会と呼ぶ)の目的

 平成25年3月29日に開催された第27回技術士分科会において議論された「今後の技術士制度の在り方に関する論点整理」を出発点として、提起された8つの問題点に関し詳細な検討を行うことを目的とする。
 8つの問題点とは、1.技術士に求められる資質能力、2.技術士試験、3.総合技術監理部門、4.技術部門・選択科目、5.継続研さん(CPD)、6.普及拡大・活用促進、7.国際的通用性、8.大学教育との連携、をいう。 

2.技術士及び技術士制度を取り巻く環境の変化と課題

(1)「技術士法」が定める現在の技術士の定義

 技術士とは、科学技術に関する高等の専門的応用能力を必要とする事項についての計画、研究、設計、分析、試験、評価又はこれらに関する指導の業務を行う者、と規定されている。

(2)技術士に課せられた3つの義務と2つの責務

 技術士には、「信用失墜行為の禁止義務」「機密保持の義務」「名称表示の場合の義務」の3つの義務と「公益確保の責務」「資質向上の責務」の2つの責務が課せられており、「高い倫理観」を有することが技術士の特質となっている。

(3)企業が置かれている経営環境の変化への対応

 日本企業が直面している当面及び将来的課題は、グローバル化の進展、地球環境の保全、エネルギーや資源の安定調達、雇用・賃金・少子高齢化等、産業構造や経済構造、社会ニーズの変化等にいかに対応するかである。

(4)技術士及び技術士制度の課題

 現在の技術士制度が国内経済・産業社会の中で果たしてきた役割は大きいが、(3)項に鑑み、技術士制度がどうあるべきかを見直し、その課題解決を急がなければならない段階に来ていると言える。
 見直しのポイントは、1.産業構造や技術者の現状と技術士制度の間のミスマッチ、2.技術士資格の国際的同等性や通用性、3.技術士資格がより社会において評価され、その活用を促進するために必要なこと、の3点である。

3.課題解決のための基本的な考え方

(1)大学・高専卒業後の技術者のキャリア形成スキームの構築

 産業立国、即ち、産業技術・科学技術などを育成し、それらに基づいて国を発展・繁栄させていくことを目指す我が国の産業立国政策を実現させるための主役は、技術者及び技術士であり、これらの人材を有効に活用できないことは国家的損失であり、企業の競争力の著しい低下につながる。このためには、まず技術者及び技術士の卒業後のキャリア形成スキームを明確にし、それに基づいて技術者及び技術士を育成するという考え方を確立する必要がある。
以下、その基本的な考え方を述べる。
〇技術者が大学又は高専を卒業した後、継続的に技術や知識レベルを向上させ、技術者魂を磨き、真に社会に役立つ技術者として成長していくキャリア形成スキームを構築することが重要である。技術士の場合、卒業後適切な期間(例えば平均的に約7年)を経て技術士となり、その後適切な期間(例えば平均的に約7年)の研さんやOJTを積んで上位の技術士(以下、総合技術士と呼ぶ)となる。更にその後継続的な研さんや上級社員としてのOJTを通して、真に社会や企業に役立つより高度な総合技術士へと成長する。例えば、年令想定として、30~35歳で技術士、40~45歳で総合技術士となるような時間軸を目安とする。
〇到達すべき技術士、総合技術士としての実力を評価することを目的として、現行の技術士試験を見直し、新たな技術士試験を構築し実施する。
○技術士第一次試験は、工学系卒業生に対しては、JABEEとの整合性を勘案して基礎科目を廃止するなど簡便化を図る。
〇一方、工学課程修了でない者が技術士になる道を残す必要があり、これに対しては所要の第一次試験を実施する。
〇国は人財教育補助金制度を導入し、企業がこのスキームに積極的に賛同し、技術者の確保に努めるよう奨励する。特に、中小企業における技術士や女性技術士にこの制度を適用し、専門技術士の増員を目指す仕組みが必要である。

(2)技術士の再定義

〇技術士は、現在の「技術士法」に定められた技術士の要件を満足し、かつ所定の試験に合格した者とする。現在の技術部門は見直して適切な数に減らすか、又は20部門のままにするか検討する。総合技術監理部門は現在の部門区分から切り離し、新たに総合技術士を設け、技術士の上位に位置付ける。
〇技術士は一定の専門性と応用能力、倫理観を有する技術者の出発点である。
〇総合技術士は、当面、技術士の資格を有するもので、かつ、現在の「技術士法」に基づく「総合技術監理部門」の試験に合格した者とし、今後の議論を通して追加される「要件」を満足する者とする。総合技術士は部門を設けず1本に統一することが望ましいが、今後の議論を経て決定する。
〇特に、技術士が具備すべき資質能力の一つである国際的通用性は今後ますます重要性が増すことを勘案し、英語能力に加えて、IEAのPCを要求項目とするのが望ましいが、具現化については別委員会又は本委員会で検討する必要がある。

(3)国際的通用性の重要性

〇環太平洋経済連携(TPP)等を含む貿易自由化交渉における技術者資格の動向を注意深く見る必要がある。また、企業の海外進出が加速する中で、グローバルなビジネス環境において、技術・関連法令・国際規格・異文化知識・各種マネジメント力・語学力等が求められており、そのようなニーズに対応できる技術者の資質と能力を明確にする必要がある。

4.制度検討特別委員会での議論の進め方の順序

前述の3項を実現するために、「技術士制度の在り方に関する問題点」に関する詳細検討を下記の順番で行うことを提案する。 

(1)技術士のキャリア形成スキームの設計(新規に追加した課題)

〇高専及び大学教育との連携
〇卒業後の継続研さんや企業内OJT

(2)技術士に求められる資質能力の定義

〇技術士
〇総合技術士
〇国際的通用性

(3)技術士制度

〇技術士試験
〇技術部門・選択科目

(4)普及拡大・活用促進

5.検討の進め方

 前述の4項に挙げる問題点は、論点整理の中で、1.問題の概要、2.前期分科会での主な意見、3.今後の検討課題・論点について整理されている。
本委員会においては、技術士のキャリア形成スキームの設計及び3.今後の検討課題に焦点を絞り、詳細な検討を行うことを基本とする。この場合、事務局が実施した「技術士制度に関するヒアリング結果」(資料6)を考慮する。

6.個別課題

(1)大学教育との連携

〇JABEE認定課程修了者の第2次試験申込者は、平成24年度が約900名と低調であり、技術士受験の促進を図る必要がある。
〇企業の技術士及びOB技術士と大学との交流の場を創出する。

(2)継続研さん

〇日本技術士会へのCPD登録者数は技術士の約10%。他学協会へCPD登録している技術士も多い。現在CPDが努力義務のみで、CPD登録を確認する方法がないことも問題である。登録者数の拡大のため技術士は努力義務、総合技術士は必須義務とする。
〇受講機会について、地方や海外在住者向け受講機会の拡大、企業内若手技術者は時間数を減らすなどして受講機会を拡大する等の施策が必要である。
〇大学等の教育機関との連携で専門性や分野を拡大する。
〇講演会、セミナー、シンポジウム中心からOJTや自己学習などへ移行する。
〇商業的専門講座やeラーニングの活用と助成を行う。

(3)国際的通用性

〇3項(3)を参照。
〇APECエンジニアの活用拡大

(4)技術士試験

〇平成25年度の制度改正で数年間実施し、5年程度で見直す。法改正を必要としないものはできるだけ速やかに実施する。
〇総合技術士の資質についてPC以上の整理をするとともに、「技術士制度における総合技術監理部門の技術体系」(いわゆる「青本」)からの脱却を図る等、試験の在り方を検討する。

(5)技術部門・選択科目

〇選択科目については、日本技術士会特別委員会の答申を活用する。
〇総合技術士の制度構築後、技術士と総合技術士に分けて議論する必要がある。

(6)普及・拡大

〇公的活用の拡大と中小企業や女性技術士拡大への配慮・救済を行う。 

以上

お問合せ先

科学技術・学術政策局基盤政策課

(科学技術・学術政策局基盤政策課)