2(1)東北地方太平洋沖地震総合研究

「東北地方太平洋沖地震総合研究」グループリーダー
松澤 暢(東北大学大学院理学研究科)

 2011年東北地方太平洋沖地震(M9.0)は,日本の観測史上最大の地震であり,約40万戸の家屋が全半壊し,死者・行方不明者は1万8千人を超え,震災から5年以上が経過した2016年6月の時点でも,いまだ2千5百名以上の方々が行方不明のままである。これほどの大規模な地震にもかかわらず,我々はその地震の予知はおろか,その発生ポテンシャルを正しく推定することすらできなかった。今後,同じような失敗を繰り返さないためには,この地震のことを詳しく調べ,将来の巨大地震の際の災害軽減に役立てることが極めて重要である。特に,この地震の発生により,日本列島はこれまで我々の知っている日本列島とは別の状態になっている可能性があり,日本各地の地震や火山に及ぼす影響を詳細に調べる必要がある。
 平成26年度から始まった「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」では,地震や火山の災害軽減のために様々な観測研究が実施されている。ここでは,この中から,東北地方太平洋沖地震に関係の深い課題の成果を紹介し,それが災害軽減とどのように結びつくのかを論じることにする。

1.災害の予測のための研究

 新しい計画では,これまでの地震・火山噴火予知研究計画とは異なり,災害誘因の研究の推進に力を入れている。今回の地震はM9.0と特に巨大であったため,その災害誘因(ハザード)も,近代日本が経験したことのない規模となり,今後の災害軽減を考えるうえで,極めて重要と事例となる。
この地震の災害誘因としての,地震動や津波の特徴については,すでに数多くの研究がなされてきたが,本計画ではさらに災害誘因としての地滑りについても研究を進めている。この地震によって,非常に高速で流動的な崩壊が福島南部から栃木の北部で合計10か所程度発生した。このような崩壊の性質を調べるために1949年今市地震による降下火砕物の崩壊性地滑り等を詳細に調べた結果,特定の土層の自然含水量が多いために高速長距離地滑りを起こしやすいこと,このような崩壊性地滑りは,同じ場所でも大地震のたびに繰り返されること(京都大学防災研究所[課題番号:1912],図1)が明らかになった。
 大地震発生直後のハザードの推定は,災害軽減に極めて重要であり,様々な機関で開発が進められている。巨大地震の規模や震源断層の広がり,滑り分布及び地震動分布を把握するため,震源情報に頼らない早期の解析から地震波形を使った詳細解析までの様々な段階での解析手法の開発が進められている。
 具体的には,まず,規模の推定には,強震度域の広がりや,周期100秒までの様々な帯域での地震波形の最大振幅,100秒以上の長周期地震波のモニタリング等の手法を開発している(気象庁[課題番号:7009])。断層の広がりと滑り分布の推定においては,長周期波形のバックプロジェクション解析や,遠地実体波を用いた準自動的震源解析解析ができるようになった(気象庁[課題番号:7009])。また,1HzのGNSSデータを用いた規模とメカニズム解及び断層面形状の推定の技術開発が進められている(気象庁[課題番号:7009],国土地理院[課題番号:6004],東北大学[課題番号:1209])。
 一方,津波の予測の信頼度を向上させるために,沖合の津波観測データから,海岸における津波波形を高精度で予測する手法の開発も進められている(気象庁[課題番号:7011],東北大学[課題番号:1209])。本年度は,海底変動の時間発展を考慮することにより,東北地方太平洋沖地震時の岩手県海溝近くが遅れて変位して三陸海岸に高い津波をもたらした(Satake et al., 2013)ことを再現するモデルが構築され,これまでより高信頼度の津波波高予測ができる可能性が見えてきた(気象庁[課題番号:7011])。さらに,これらの緊急地震速報や津波警報の高度化のみならず,長周期地震情報,噴火警報や降灰予報等の高度化も進められている(気象庁[課題番号:7012])。
 本計画では,災害誘因までは研究対象としているが,災害素因については,基本的に対象としていない。ただし,災害誘因の研究を有効に社会に生かすためには,脆弱性についての知見は重要である。このような観点からいくつかの研究も行われている。前述の地震に伴う地滑りは,災害誘因でもあり,自然の中に潜む脆弱性でもある。社会の脆弱性の研究の一環として,東北地方の太平洋沿岸の都市化について詳細な調査が行われた。その結果,農地や未利用地が次第に都市的土地利用へと変化し,特に1960年のチリ地震以降,大きな津波が無かったこともあって土地利用の変化が進み,脆弱性と曝露性が増加したことが被害を大きくしたことが指摘された(名古屋大学[課題番号:1704])。

2.地震・火山噴火の予測

 東北地方太平洋沖地震の発生直後には,日本の広い領域で地震活動が一時的に活発化し,それは特に火山地域で顕著であった(Hirose et al., 2011)。この現象の一つの解釈としては,大振幅の地震波動によってマグマや深部高圧水が強制的に振動させられたために,地震が起こりやすくなったということが考えられる。特に東北地方の脊梁の火山周辺では,本震後に沈降が見られたり(Takada and Fukushima, 2013),地震波速度の低下が見られたりしており(Brenguier et al., 2014),東北地方太平洋沖地震の発生により,火山活動が活発化する可能性も考えられる。2004年スマトラ地震の後には火山活動が活発化しており(Walter and Amelung, 2007),同様の火山噴火の発生の可能性を見極めることは極めて重要である。
 蔵王山では,2012年頃から深部低周波地震が活発化し,2013年には浅部長周期地震が発生し始めるなど,火山活動がこのところ活発化している。火山体地震波速度構造及び熱水分布の推定といった火山活動の理解に必要な基礎データ取得を目的として,全国の大学と合同で人工地震構造探査を本年度実施した。初期解析の結果から,蔵王山中央部において基盤層の深さが数百m 程度であること,火口湖御釜から噴気活動域にかけての領域直下に高減衰域が存在することなどが判明した(東北大学[課題番号:1202])。
 一方,蔵王山周辺に臨時GNSS観測点を設置し,周辺のGEONET 観測点とあわせて解析した結果,2015年1月から5月までの地殻変動において,御釜北東を中心とする放射状の水平変動及び隆起傾向が見られた。球状圧力源を仮定すると深さ約5km,体積変化量は約3×106m3と推定された。この山体膨張傾向が見られた期間内の2015年4月13日から6月16 日までの間,火山性地震が多発したため噴火警報(火口周辺危険)が発表された。なお,同年6月以降のデータでは上記の膨張傾向は見られなかった(東北大学[課題番号:1202])。2014年6月及び10月に実施した繰り返し全磁力観測で得られたデータを用いて単双極子モデルを推定した結果,消磁源が振り子沢付近の深さ約1km付近に求められた。2014年度に引き続き2015年度も蔵王山周辺でハイブリッド重力観測を実施した結果,2014年度とはセンスの異なる観測結果が得られたが,広域の重力場がこの間に変化しているため,今後慎重な解析が必要である。1960年代活動時に温泉湧出が見られた領域(濁川と振子沢の合流地点近傍)において,2015年夏頃から温泉の再湧出が始まったことが明らかになった。温度も溶存物質濃度も1960年代に比べるとまだ低いが,丸山沢噴気地熱地帯でも噴気量が全体的に増えつつあるように見えるため,今後,継続的なモニタリングが重要である(東北大学[課題番号:1202])。
 大地震の前に地下水中や大気中のラドン濃度が増加するという報告が古くからある。ラドンは半減期が短いため,地下水中の場合にはごく近傍の地下から放出されたものを見ていることになるが,大気であれば遠くから流入してくるので,広い地域のモニタリングに使える可能性がある。広域な大気中ラドン濃度変動を把握することを目的として,大学及び研究機関の放射線管理施設のモニタリングネットワークが構築されて,ラドンガスと地殻活動との関係が調べられている。地殻活動に関連する大気中ラドン濃度の異常変動を抽出するためには,その正常なパターンを理解し,気象要素との関連を明らかにする必要がある。このような観点から様々な解析が行われた。一方,異常値を検知するためにはデータの統計的性質や気象要素との関係が既知であることが必要であるが,そのような知見なしに異常値を検出できる手法として,部分空間法(Ide and Inoue, 2005)を採用し,これとこれまでの検知方法との比較を行った。この手法は異常値検出に有効なだけでなく,データの背後にあるシステムの推定にも有効であることから,今後,異常値の発生原因の推定にも役立つと期待される(東北大学[課題番号:1207])。

3.地震・火山現象の理解

(プレート境界)
 北海道~関東地方の沖合のプレート境界断層の広い範囲で,周期的なゆっくり滑りが発生していることを相似地震及び地殻変動データから発見した(図2)。このゆっくり滑りは,地域によって異なり,1~6年の発生間隔を持つ場所が多かった。また,その発生に同期してその地域でのM5以上の規模の大きな地震の活動が活発化しており,東北地方太平洋沖地震が発生した時期にも,三陸沖ではゆっくり滑りが発生していた。周期的なゆっくり滑りが発生しているときに大地震が起こりやすくなる傾向を活用すれば,それを地震・地殻変動観測で検知することによって,大地震発生時期の予測の高度化に貢献できる可能性がある(東京大学地震研究所[課題番号:1510],Uchida et al., 2016)。
 東北地方太平洋沖の領域において,超低周波地震が発生していることがこれまでの研究によって明らかになっている(Matsuzawa et al., 2015)。本年度はさらに2014~2015 年について解析を行った。東北地方太平洋沖の超低周波地震活動は大きく分けて3つのクラスター状の領域で発生している。東北地方太平洋沖地震後,大滑り域における活動は引き続き検出されておらず,静穏化が継続している状況と見られる。一方で,福島・茨城沖や岩手沖では,超低周波地震の活動度は全体として徐々に減少しているものの,活動が活発化する時期と比較的低調な時期が見られる。東北地方太平洋沖地震後は,この活発化が顕著に見られるようになっている。前述の地殻変動や相似地震の研究結果と同様に,このような超低周波地震の活動もゆっくり滑りの発生を示している可能性がある(防災科学技術研究所[課題番号:3002])。
 東北沖の地震の特徴的発生様式を支配している繰り返し地震について,地震波エネルギーを推定し,その時空間的な変動を定量化して,これまで議論されていなかった地震の発生間隔と地震波エネルギーの関係について精査したところ,発生間隔と地震波エネルギーには弱い正の相関が存在することがわかった。これは時刻の対数関数として断層の強度が回復するというモデルと調和的であり,地震の階層性が時間と共に回復していく様子をエネルギーを基準にして観察できる可能性を示している(東京大学大学院理学系研究科[課題番号:1402])。
 Brownian Passage Time (BPT) 分布更新過程から拡張した時空間更新過程モデル(Nomura et al., 2014) を用いて,2011年東北地方太平洋沖地震までに観測された相似地震カタログからプレート境界上の準静的滑りの時空間的変化を推定した結果,東北太平洋沖では短期的な滑り加速が度々発生しており,本震マグニチュードに比べて余効滑りの規模が大きい場合や,マグニチュード6以上の地震を伴わない群発的活動時に滑り加速が見られる場合があるなど,場所による発生パターンの違いが見えつつあり,摩擦特性の時空間変化の解明に役立つと期待される(東京大学地震研究所[課題番号:1510])。
 日本海溝沿いに発生する相似地震について,繰り返し回数が少ないときの発生確率予測の精度検証のため,2008年の確率予測実験で使用した地震カタログを使い,4つの統計モデル(BPT 分布モデル,ベイズ統計対数正規分布モデル,小標本論対数正規分布モデル及び指数分布モデル)で発生確率を計算し,観測結果から求めた平均対数尤度の成績を異なる統計モデルや繰り返し回数で比較した結果,BPT 分布モデルの成績は他のモデルより劣ることがわかった(東京大学地震研究所[課題番号:1510])。
 海底下の地震活動と地震波速度構造の推定には,陸の観測だけでは限界があるため,東北地方太平洋沖地震の震源域において海底地震観測が行われ,高精度の震源分布と地震波速度構造の推定が行われた(東京大学地震研究所[課題番号:1503],気象庁[課題番号:7002])。
 日本海溝陸側斜面下では,北緯39度付近を境にして微小地震活動が急変することが,東北地方太平洋沖地震が発生する前は知られていて,微小地震活動が活発な領域ではプレート境界からの地震波反射強度が弱く,非活発な領域では反射強度が強いという結果が得られていた(Fujie et al., 2002,Mochizuki et al., 2005)。東北地方太平洋沖地震の発生を受けて,以前の構造探査実験と同一地点に海底地震計を設置し,同一測線においてエアガン発震を行った。これまでの解析の結果,東北地方太平洋沖地震前後において観測走時に差が無いことから,速度構造に大きな変化はないと推定されるが,プレート境界からの反射波の振幅が変化しており,プレート境界の特性変化が示唆される結果となった(東京大学地震研究所[課題番号:1503])。
 これらのプレート境界の滑りを理解するためには,広域の地殻の動きを把握する必要がある。このような目的のもと,GNSS観測(国土地理院[課題番号:6005, 6008]),海上保安庁[課題番号:8004])とその改良(国土地理院[課題番号:6012]),測量・潮位観測(国土地理院[課題番号:6006]),合成開口レーダー(SAR)(国土地理院[課題番号:6008]),VLBI(国土地理院[課題番号:6008]),人工衛星レーザー測距(SLR)観測(海上保安庁[課題番号:8002]),海底地殻変動観測(海上保安庁[課題番号:8001])等が行われている。
 東北地方太平洋沖地震発生後の平成23年3月から平成27年8月までの観測から得られた,電子基準点「福江」に対する累積変位量を,国土地理院のGNSS観測結果(F3解)とともに図3に示す。東北地方太平洋沖地震により,24m東南東へ移動した「宮城沖1」海底基準点で,地震後に62cm西北西に移動しているのをはじめとして,東北地方太平洋沖地震の主破壊域周辺では陸域のGEONETの観測結果とは整合しない複雑な変動を示しており,後述のとおり余効変動において粘性緩和が重大な寄与をなしていることがわかる。一方で,「福島沖」や「銚子沖」など震源域南部の海底基準点は,陸域と同様に東南東に向かって移動している(海上保安庁[課題番号:8001])。
 東北地方太平洋沖地震の最大滑り域付近の日本海溝において,2013年の先行観測に引き続き,2014年から2015年にかけて海溝軸を跨ぐ形での210日間の2回目の海底間音響測距観測を行い,先行研究の結果と比較した結果,先行観測と同様に,プレート収束速度に見合うような海溝軸を挟んでの明瞭な短縮は見られなかった(図4;東北大学[課題番号:1210])。このことは,少なくとも海溝軸近傍では,この時期には余効滑りは生じておらず,プレート境界の固着が回復していることを示唆する。
 日本海溝に沈み込む太平洋プレート表層部の想定試料を粉砕したガウジ試料を使用して,IODP 日本海溝緊急掘削により掘削されたプレート境界断層浅部の圧力・温度条件において,静水圧の間隙圧を仮定して三軸摩擦実験を行った。その結果,日本海溝に太平洋プレートが沈み込む場合,摩擦強度の最も小さい遠洋性粘土層にプレート境界断層が形成されやすいが地震発生に至るような断層運動は起こらないと考えられるのに対して,チャート層や玄武岩層中に形成されたプレート境界断層は強度が大きく,浅部でも地震発生に至るような断層運動が起こる可能性があることがわかった(東京大学地震研究所[課題番号:1503])。
 東北地方太平洋沖地震断層掘削で得られた断層物質の超低速摩擦実験の結果,プレート運動(年間8.5cm)という超低速において,不安定滑りを起こしていることが測定された。これは,この場所でゆっくり滑りが発生しうるということを示している。これまでに同試料を用いた別の室内実験により東北地方太平洋沖地震時の高速滑りが再現されていた(Ujiie et al., 2013) が,同じ場所でゆっくり滑りを起こしうるということが明らかになったことは,東北地方太平洋沖地震発生直前にゆっくり滑りが発生した場所が地震時にも大きく滑った(Ito et al., 2012)ことを説明する重要な成果である(海洋研究開発機構[課題番号:4001],Ikari et al., 2015)。
 房総半島において,過去に活動したOut-of-Sequence Thrust (OST) を初めて確認した。断層ガウジに摩擦熔融組織が確認され,2011年東北地方太平洋沖地震時のような,海底表層付近まで地震破壊が伝播していたことを明らかにした(海洋研究開発機構[課題番号:4001])。
沈み込みプレート境界に存在するスメクタイトを用いた実験結果により,日本海溝ではスメクタイトが40%以上の遠洋性堆積物が沈み込むため,低速でも摩擦強度が小さく地震時に大きな応力降下をもたらさないのに対し,スメクタイトが比較的少ない(<40%)半遠洋性堆積物が沈み込む南海トラフでは,大きな応力降下が発生する可能性が示唆された。また,スメクタイトに富むデコルマ帯の摩擦特性が深度によって顕著に変化している可能性があることも明らかになった(東京大学地震研究所[課題番号:1503])。
 東北地方太平洋沖地震の前の地震について,津波堆積物調査や古文書調査を継続してきた。2011年の一つ前のイベントとしては,1454年の享徳地震である可能性が高いと考えられる(行谷・矢田, 2014)。仙台平野などでは1454年享徳地震と考えられる津波堆積物が見つかり,Sawai et al. (2012) が貞観地震を説明するために提案したモデル(Mw8.4)で,享徳地震の津波堆積物の分布も説明できることがわかった(産業技術総合研究所[課題番号:5004],Sawai et al., 2015)。
 震源域に存在する沈み込む海山の影響で海溝近傍での大きな地震滑りをもたらした可能性が,動的破壊シミュレーションから示唆されている(Duan, 2012, Fukuyama and Hok, 2015)。そこで,こういった沈み込むプレート境界の起伏の影響が地震サイクルにどのように影響するのかを検証するために,円形の速度弱化領域(アスペリティ)内に2種類の形状(球・台形モデル)で海山を模した地震サイクルシミュレーションを行った(Ohtani,2015)。フラットのモデルでは法線応力変化は少ないが,海山を模したモデルでは凸部のエッジ部に大きな法線応力変化が現れる。アスペリティ内で地震滑りが発生すると滑り域深部を除き法線応力が上昇するが,地震間ではアスペリティは固着し法線応力は逆に浅部で下がり深部で上昇する。フラットなモデルでははっきりとこのパターンが現れるが,海山を模したモデルでは凸部のまわりでやや複雑で,凸部内の浅部と深部では地震サイクルを通じて法線応力が逆のセンスで変動する。地震発生により凸部内浅部では法線応力が上がり,深部では下がるが,地震間では逆になる。法線応力が下がると摩擦が下がり弱部となり破壊し易くなるが,上がると強部となり破壊のバリア部となる。全てのモデルで法線応力の低下した部分で非地震性滑りが発生し,地震滑りに発展する。凸部を置いたモデルのほうが法線応力低下が顕著とり,強度が下がり破壊しやすくなり,その結果繰り返し間隔が短くなる。海山のような凸部があると破壊のバリアになるという考えがあるが,上記のように凸部内部の浅部と深部で法線応力が逆の振る舞いを示し,単純ではない。このように,海山のような幾何学的形状だけでは必ずしもバリアにならず,海山がバリアになりうるとすれば,凸部が沈み込むことによる圧縮変形,及び海山による浮力や間隙流体圧の減少といった要因を考える必要があることがわかった(京都大学大学院理学研究科[課題番号:1801])。
 ゆっくり滑りや小繰り返し地震,及び地震活動には卓越した活動周期が存在すると報告されている。地球・海洋潮汐などの周期的外力が単独の繰り返し間隔を持つアスペリティの破壊に及ぼす影響について調べるため,1自由度のバネ・スライダーからなる固着滑り振動子への周期的外力の応答を調べた。その結果,滑りの繰り返し間隔To(自然周期)となる系に周期Teとなる外力を加えたときの系の繰り返し間隔をTcとすると,Tc:Te がm:n(m,n は互いに素の整数)となるように系の周期がシフトして同期する現象(m:n 同期現象)が生じることがわかった。このことから,地球・海洋潮汐が引き起こす応力レベルでも,数10~100kPa 程度の応力変化を伴うゆっくり滑りでは同期現象が生じる可能性があることがわかった(京都大学大学院理学研究科[課題番号:1801])。

(内陸)
 平成27年10月~11月(一部は7月から)に新潟県佐渡市から阿賀町におけるGNSS繰り返し観測を実施した。新潟県周辺では,東北地方太平洋沖地震の余効変動により東西方向の伸張が卓越していたが,時間と共に伸張は小さくなってきており,2014年10月から2015年10月の1年間では,一部の場所において北西-南東方向の短縮が卓越し,面積ひずみでは短縮になっている場所もあることがわかった(国土地理院[課題番号:6001])。
 東北地方太平洋沖地震の余効変動を明らかにするために,2013年から毎年東北全域及び北海道の太平洋岸の約60点でハイブリッド重力観測を実施している。2014~2015年の観測により,測定精度10マイクロガルを越える重力減少が,牡鹿半島先端で認められる。ただし,2014~2015 年の1年間で減少域は大きく縮小し,それを埋めるように重力増加域が徐々に進出しつつある。増加傾向は,関東地方の絶対重力観測点(筑波山,東京)でも見られている。実際,2011年4月以降2014年5月までの3年間,8~20マイクロガルの有意な重力減少が続いていたのが,2015年5月には変化が下げ止まり乃至増加に転じつつある。これらは,粘弾性効果が徐々に顕著になりつつあることを示していると考えられる(東北大学[課題番号:1203])。
 東北地方太平洋沖地震発生直後9時間のGNSSデータのキネマティック精密単独測位を行って本震直後のひずみの時空間分布を調べた(平田, 2015)。得られた座標値時系列について主成分分析を行った結果,第1,3,4成分が余効変動を反映していると判断された。岩手県太平洋側の大きな伸張ひずみは本震直後の余効滑りの影響と考えられるが,それ以外にも脊梁山地沿いや日本海側にも伸張ひずみが局在しており,Nakajima et al.(2001) による深さ10 kmのP 波低速度域との対応が見られる。さらに余効滑りの影響が支配的と考えられる第1成分を除き,第3,4成分のみで計算した面積ひずみ分布を求めたところ,Ozawa and Fujita (2013) が見出した火山周辺域における地震時に局所的な沈降域の極大域と本研究で求めた短波長の膨張ひずみ分布が相補的な位置関係にあることが明らかとなった(東北大学[課題番号:1203])。
 岩手・秋田の両県南部と山形・宮城の両県全域における長周期MT 観測により,最上部マントルから下部地殻の大局的比抵抗構造を明らかにし,さらに下部地殻の低比抵抗異常が顕著な宮城県北部地震,岩手宮城内陸地震付近では詳細な3次元地殻比抵抗構造を推定した。最上部マントルでは奥羽脊梁下に低比抵抗体が南北に縦断していたものが,下部地殻で分岐し月山付近と鳴子・宮城県北部付近に枝分かれする低比抵抗体が見られた。これらは流体の分布を示していると推察され,地殻内応力分布に影響を与えていると考えられる(東北大学[課題番号:1203])。
2011年(平成23 年)4月11日に発生した福島県浜通り地震の震源域での稠密地震観測網による2011年7月から2014年6月までに発生した地震の震源再決定を行った結果,約208,000個の高精度な震源が決定された。地震は大小様々なクラスターに分かれて分布し,多くの場合,傾斜角約45度の面状分布を呈する。断層の長さは,最短なものが約500m,一方,最長は約10kmにも及び,桁で変化する。本震源域の中央部付近では,1枚の薄い断層面が良く発達しているが,北部や南部では,共役構造や折れ曲がり構造が多数見られ,領域によって断層の分布が複雑に変わる。このように,本震源域では小断層と大断層の両者が動くことでひずみを解放していると考えられる(東北大学[課題番号:1203])。
 島弧地殻の粘弾性変形を含む流動-変形場の理解は本研究計画における一つの重要な課題である。巨大地震後の粘性緩和による変形場をより正しく理解するため,重力場下にある表層弾性-下層Maxwell粘弾性の半無限2層平行成層モデル内に沈み込み型のプレート境界を設定し,時刻ゼロにリソスフェア内のプレート境界に一様な断層滑り(変位の食い違い)を与えることにより巨大地震を表現した。計算には,半解析解の形式で得られている粘弾性の応答関数(Fukahata & Matsu'ura, 2005, 2006) を用いた。地震時変位及び地震後の粘性緩和の累積応答粘性緩和を調べたところ,粘性緩和完了後には,海洋プレートが単純に沈み込むほぼ完全なブロック運動が実現することがわかった。ただし,島弧の変形場は完全にはゼロではないため,沈み込みの経過と共に変形が累積していき,それが島弧-海溝系の大地形を作り出す基となる。ほぼ完全なブロック運動が実現するため,緩和時間の10倍程度の時間が経過すると,内陸では,地震時と地震直後の海溝向きの動きを打ち消すように,水平方向の速度が反転することがわかった。この時期は,粘性緩和による変位とプレート間固着による変位が同じセンスとなるため,両者の分離が重要な課題となる。また,各地点の変位の時間変化は定数項付きの指数関数でよく表すことができるものの,その見かけの緩和時間は場所によって異なり,また水平方向と上下方向でも異なることがわかった。さらに,定数項は長期的にはゼロにならざるを得ないため,特に新たな事象が発生しなくても,簡単な定数項付きの指数関数だけでは長期的な時間変化を表現できないことになる。このことは,地表の変形から将来を予測する際の関数フィッティングに際して注意する必要がある(京都大学防災研究所[課題番号:1905])。
 東北地方太平洋沖地震本震滑りの最大域を通る測線近傍の余効変動観測データを説明するようなレオロジーモデルを2次元FEMで構築した。鳴子カルデラ付近に東西幅10 km,上端深さ10kmの領域に粘性3x1018 Pas程度の低粘性領域を仮定とすると,この付近で観測されている局所的な沈降を再現できる。低粘性領域の形状は,鳴子周辺の稠密地震観測(Okada et al., 2014)やMT 観測(Ogawa et al., 2014)から見られる鳴子火山直下に垂直に存在する速度・比抵抗異常帯の形状とも一致し,鳴子火山の火道に存在するマグマなどの低粘性物質を見ている可能性がある。これらを含むレオロジーモデルで粘弾性緩和による地表変位を計算し,インバージョンにより余効滑りを推定した。本震の滑り域では逆断層の滑りが生じていないことが推定され,一方,その深部延長で0.5m程度の余効滑りが発生していることが示されており,小繰り返し地震による余効滑り分布の推定結果(Uchida and Matsuzawa, 2013)と整合的な結果が得られた。
 東北地方太平洋沖地震後の余効変動について,不均質な粘性構造を考慮した有限要素法によるモデル化により再現を試みた。滑り分布は初期の余効滑りも考慮して,図5aに示すように広域に与え,1年後から2年後における面積ひずみの計算を行った(図5b)。火山地帯で地殻深部における粘性係数が小さくなっている領域に対応して,ひずみ異常が生じており,Miura et al. (2014) により観測されているひずみ分布(図5c)をよく説明している(東北大学[課題番号:1203])。

(他の沈み込み帯との比較)
 国内で発生する巨大地震の頻度は低いため,巨大地震の研究を進め,減災のうえで何に注意すればよいのかを知るためには,国内の観測研究だけでは限界があり,海外の地震との比較研究が極めて重要となる。
 日本列島及び世界で発生した小・中規模の繰り返し地震(相似地震)活動を用いて,その空間分布・時間変化の特徴及び,各プレート境界における滑りの特徴を調べた結果,スマトラ,日本,千島列島で発生したプレート境界型巨大地震発生後,その余震発生域では繰り返し地震の再来間隔が短くなっており,余効滑りの発生が示唆された。一方,その影響がない地域・期間では,数年~十数年の再来間隔を持つ繰り返し地震活動が見られた。多くの領域では,プレート間の相対速度と同じかより小さい滑り速度が推定された一方,背弧拡大域では,プレートの沈み込みから想定される速度よりも速い滑り速度が推定された。このように繰り返し地震を広い領域で抽出し,活用することにより,世界各地のプレート間固着状態がモニタリング可能となることが期待される(東京大学地震研究所[課題番号:1510])。
 チリ北部の沈み込み帯域における繰り返し地震の解析を実施し,2014年4月に発生したIquique 地震(M8.1) 発生までの非地震性滑りの時空間発展を推定した結果,本震発生の約270 日前から,非地震性滑りが間欠的に増加し始め,その増分も時間ととともに大きくなり,本震発生に至ったことが明らかとなった。前震による地震性滑りに加えて非地震性滑りもプレート境界面上で同時に進行することで,本震破壊領域の端で固着が間欠的に緩み,破壊域への応力集中が生じることで本震の発生が促進されたと考えられる(東京大学地震研究所[課題番号:1510])。
 ALOS-2 衛星によるSAR 干渉解析により,2015年4月25日にネパールで発生したMw7.8 の地震に伴う地殻変動を検出した。滑り分布モデルの推定の結果,カトマンズの北東20-30km の領域の直下に,最大6m超の滑りが推定された。また,最大余震の西隣に極端に滑りが欠損している領域が見られることがわかった(国土地理院[課題番号:6001])。
 沈み込み帯の地震活動のa値に関連した定常地震発生率について,これまで考えられていなかったプレートの形状の効果を検討した。定常地震発生率は一次的にはプレートの相対運動速度に依存するが,さらにプレートが大きく屈曲していると地震発生率も大きくなることが判明した。これは沈み込み前後のプレート内部への水の輸送過程と関係していると見られる(東京大学大学院理学系研究科[課題番号:1402],Nishikawa and Ide, 2015)。
 日・NZ・米の三カ国の共同研究として,ニュージーランド北島Gisborne 沖合のヒクランギ沈み込み帯において,海底地球物理観測を2014年から2015年にかけて実施した。ニュージーランドでは,Gisborne 沖合において約2年の周期でゆっくり滑りが発生していることが知られていたが,本観測期間中の2014年9月から10月にかけて,これまでに観測されている中で2番目に大きい規模のゆっくり滑りが発生し,本海域観測網はこのゆっくり滑りの観測に成功した。暫定的な結果を見ると,ゆっくり滑りの滑り領域はほぼ観測網の海側全域を覆うように発生しており,また一部,北東側に飛んだ場所で滑りが起こっている。この境界部分には,これまでに行われている人工震源地震波構造調査で,海山が沈み込んでいることが明らかとなっており,プレート境界の構造がゆっくり滑りにおけるプレート境界面上の滑り運動に影響を与えている可能性があることがわかった。また海域地震観測から得られた2012年から2013年の期間の地震活動分布と比較すると,本海域下での地震活動はまさしくプレート境界面の凹凸形状にしたがった分布を示していることが明らかとなった。これらの結果と地震波反射断面から推測されるプレート境界面の形状や物性との比較検討を進めることによって,境界面上の滑り運動の物理モデル構築に貢献できると期待される(東京大学地震研究所[課題番号:1524])。

(災害軽減の基盤となるデータ・知見の流通・公開)
 災害軽減のためには,予測のみならず,過去に起こったことと現在起こっていることをわかりやすく社会に伝えることが重要である。そのような取組が様々な機関で進められている(気象庁[課題番号:7020])。
 また,災害軽減のための研究を効率よく,かつ多彩な視点から進めるためには,良質のデータが生産され,それが研究者に提供されることが重要であり,そのような取組も行われている(気象庁[課題番号:7014],国土地理院[課題番号:6005, 6006, 6008],防災科学技術研究所[課題番号:3004],東京大学地震研究所[課題番号:1518])。特に平成23年度から構築を進めている日本海溝海底地震津波観測網(S-net)が完成すれば,地震や津波の即時予測の迅速化と高度化ができ,さらに日本海溝沿いの地震・津波活動について重要な情報を提供してくれるものと期待される(防災科学技術研究所[課題番号:3004])。
 このような観測の一次データだけでなく,ある程度,成熟した研究領域については,一次データを加工して得られた二次データについても共有したほうが研究の進展を促すと期待される。例えば,東北地方太平洋沖地震後の日本列島の挙動の理解にむけた研究を推進するためには,日本列島の基本構造モデルが共有されていることが望ましく,そのような観点からのモデルの構築が進められている(東京大学地震研究所[課題番号:1505])。

4.これまでの課題と今後の展望

(「想定外」を無くすために)
 東北地方太平洋沖地震を研究者が事前に予見できなかったために,防災対策の上でいくつもの「想定外」が生まれてしまった。この地震が予見できなかった理由はいくつもあるが,「思い込み」が研究者の中にあったということが一番の原因であり,その「思い込み」が生まれた背景には,「単純なモデルでもかなりのことが説明できる」ということがあった。
 地球科学の世界は複雑であり,単純なモデルで80%のことが説明できれば,基本的にそれをベースにして論理を組み立て,細かい違いが不均質性やパラメータの時間変化で説明可能な場合,そのような「例外」は考慮の対象外としがちである。サイエンスとしてはシンプルなモデルほど美しいが,80%しか説明できないモデルでは,残りの20%は忘れ去られがちで,それが防災対策上の「想定外」を生み出してしまう。理学者としてシンプルで美しいモデルを探求しつつ,一方で,複雑で美しくないモデルあっても,それが99%の現象を説明できるようなら,それを探求していくことが,災害軽減のために必要であることを忘れてはならない。
 例えば,東北地方太平洋沖地震の前に海溝側でゆっくり滑りが発生していて,しかもそこが本震時には大きな地震性滑りを起こしたことが明らかになっている(Ito et al., 2012)。東北地方太平洋沖地震の前までは,ゆっくり滑りの発生域と地震性滑り域は「棲み分け」ると考えられていたので,仮に2011年2月の段階で,あの場所でゆっくり滑りが発生したことがただちに検知されていたとしても,そこが大きな地震性滑りをも起こすとは考えられなかったであろう。今回,同じ場所で得られた試料を用いた実験により,この場所では,高速滑りのみならずゆっくり滑りが発生しうることが明らかになった(海洋研究開発機構[課題番号:4001],Ikari et al., 2015)ことは,このような極めて低速な滑りの実験の重要性を示すとともに,思い込みを排して実験で確認することの大切さを示している。
 一方,「起こりうる」ことの証明はできても「起こり得ない」ということの証明は容易ではない。また,証明はされていなくても「当たり前」と考えられていることについては,それを検証するために莫大な予算と労力がかかる場合,その検証の研究計画を提案することも容易ではない。それでも,「当たり前」と思われていたことが,本当に証明されていることなのか,単なる「思い込み」なのかどうかに常に注意し,証明されていない場合には,あくまでも「当面の仮説」として取り扱い,その検証に努力することが必要である。
 今後,S-netのデータが入ってくれば,海域下の詳細な震源分布と地震波速度構造が得られ,また圧力計のデータにより,ゆっくり滑りがどこでどのくらいの頻度で発生しているのかが明らかになり,それと地震活動(特に小繰り返し地震の活動)との関係も明らかになると期待される。これまで「思い込み」や「当面の仮説」で済ませてきたものを,一つ一つ検証していくことが重要である。

(今後の超巨大地震災害の軽減のために)
 自然科学の研究者がもっとも減災に貢献できる,まず第一のことは,住民や防災関係者がどのような災害誘因(ハザード)に備えるべきかについて,情報を提供することであろう。それが過小評価になれば逆に害悪となりうることに留意しつつ,それでも,それぞれの場所で起こりうる災害誘因をなるべく的確に把握できるよう努力することが我々には求められている。そのためには,まず,超巨大地震が起こる可能性のある地域の同定が必要となる。このような同定を行うためには,過去の地震や津波の痕跡を探る研究や全世界の巨大地震の比較研究等が重要となる。これまでもこれらの研究は実施されてきて大きな成果を上げているが,国際協力のもと,さらに進める必要がある。
 超巨大地震の起こりうる場所や地震像が特定できたならば,その地震の発生時期の中期・短期予知が次に重要となる。東北地方太平洋沖地震の場合,直前にゆっくり滑りが生じていたことが明らかになり,そこで本震時にも大きな滑りを生じたことが明らかになり,今回,その摩擦特性が確認された。これまでは,大地震の震源域となりうる場所の同定や,大地震をトリガーしうるゆっくり滑りを起こしうる場所の同定が重要であったが,今後は,場合によってはどちらにもなりうるという視点で,危険度の高い場所を同定し,ゆっくり滑りが起こった場合には,それによってトリガーされうる大地震の震源域を見誤らないようにする必要がある。

(東北地方太平洋沖地震の後に控えている災害の軽減のために)
 東北地方太平洋沖地震はあまりにも巨大であったため,その影響は広域・長期にわたると予想される。今後起こりうるハザードとしてどのようのものがあり,それがどこでどのくらいの規模で起こりうるのか,研究を進め,社会に説明することが必要である。
 地震については,今回の震源域の北と南,及び海溝の外側で,最大余震が発生することが心配されている。すでに震災から5年が経過しているが,未だM8級の余震が発生しておらず,その発生は数十年後になることもありうるという前提のもと,長期的な展望のもとに研究を進める必要がある。特に,北側で大きな余震が生じた場合,それは,北海道の沖合の400-500年間隔で起こっていた超巨大地震の再来につながる危険性もあり,その観点からの検討も進める必要がある。
 また,内陸の地震についても活動が活発化しており,それについても研究と社会への発信が必要である。今回の地震の余効変動は北海道から中部地域までの広域に観測されており,それだけ広い範囲で地震活動が変化する可能性があり,それらの活動についての予測研究を推進する必要がある。また,このようなひずみ変化の激しい時期の内陸の活動の変化を調べることにより,内陸での地震発生過程の解明とそれに基づく地震発生予測の研究の推進に役立つと期待される。
 過去の超巨大地震の事例では,火山活動が活発になった例は多くある。東北地方太平洋沖地震の後も,吾妻山や蔵王山の活動が活発化し,また,遠く離れた御嶽山や箱根山の活動の活発化についても,東北地方太平洋沖地震との関係が疑われている。どのような火山が東北地方太平洋沖地震の影響を受けて活発化する可能性があるのか,基礎的な研究を進めるのと同時に,もし,活発化した場合に何が今後起こりうるのか,社会に対して適切に説明をしていくことが必要である。
 今回の地震で,東北地方の太平洋沿岸は最大1m程度沈降し,その後の余効変動で,本震前のレベルに戻りつつあるものの,本震の数十年前のレベルまでは戻りそうもないというのが現状である。これがいつ,どのように戻るのか,というのは被災地の復興のために重要な情報であり,その見通しを研究者が調べて社会に伝える必要がある。また,三陸海岸は,地質学的には少なくとも北部は隆起で南部も隆起ないしニュートラルと考えられており,もしこのまま戻らないのなら,将来,海岸線を隆起させるイベントが生じることを意味する。それが災害をもたらすような激しいイベントなのか,それともゆっくりとした変形となるのか,それを見極める研究の推進も必要である。

成果リスト

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