2.平成27年度に発生した顕著な火山活動及び平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震に関して得られた重要な成果

2-1.口永良部島・桜島

 口永良部島では,2014年と2015年に相次いで火山噴火が発生した。2015年5月29日の噴火では,火砕流が火口から2㎞以上の距離まで到達した。それを受けて,気象庁は運用開始後初めて噴火警戒レベル5を発表し,全島民が島外へ避難した。継続的な観測研究によって,この噴火の先行現象が明らかにされ,噴火後には機動的な多項目観測・調査により推移の把握が行われた。一方,桜島では,2006年に活動が再開して以来,南岳山麓昭和火口を中心とする噴火活動が頻発し,重点的に研究が進められていたところ,2015年8月15日には,これまでと全く異なったマグマ貫入イベントが発生した。顕著な地震活動や地盤変動があり,噴火警戒レベルが3から4(避難準備)へ引き上げられ,鹿児島市による避難勧告を受けて77名が避難した。両火山において,住民や行政機関等への聞き取り調査等も行われ,火山災害による避難行動や避難計画に活かすべき情報を抽出するため,解析が進められている。
 口永良部島について,2014年と2015年の噴火の先行現象を抽出し,これらの比較を行った。一連の噴火活動は,約15年前の1999年7月に発生した火山性地震活動活発化に始まると考えられる。これ以降,地震活動は新岳火口直下500m以浅に集中し,地震活動活発期には火口直下浅部を増圧源とする地盤変動速度が急増した。2001年頃からは,地下浅部の高温化が全磁力の変化として検出され,地表面の温度変化や噴気の活発化も徐々に顕著となった。2008年10月以降は,マグマの上昇を示唆する二酸化硫黄放出量も300トン/日に達した。009年以降は火山性地震活動が活発な状態が続き,山体の膨張も継続していた。2014年8月の噴火の際は,その約1時間前からごく浅部を膨張源とする山体膨張が始まり,20分前に急加速したことが火口ごく近くの傾斜計で捉えられた。この噴火は,同じく2014年に発生し多数の被害者を出した御嶽山噴火と同じ水蒸気噴火であった。先行現象について比較すると,直前の急激な山体膨張は両火山で類似しているが,御嶽山で観測された約1ヶ月からの地震活動の活発化のような中期的な先行現象は,口永良部島では観測点が充実していたにも拘わらず検出されなかった。2014年の噴火により口永良部島内の定常観測点が機能不全に陥ったため,無人ヘリコプターによる火口近傍への地震計設置や,船舶を利用した二酸化硫黄ガス放出量の観測など,多項目の機動的観測が行われた。2014年噴火以降,二酸化硫黄放出量は多い状態が続き,2014年11月末の観測では桜島や阿蘇山のマグマ性噴火に伴う放出量レベルにまで増加し,島全体の膨張が検知された。その後も,地震活動や地熱活動の活発化が段階的に進行するなど,2015年噴火前には2014年噴火の場合よりも顕著な中期的な先行現象が見られた(図1)。2015年噴火では,噴火直前に高温であったマグマの痕跡が噴出物に見られ,マグマ性の活動に移行したと考えられた。2014年8月の噴火以降に実施された多項目機動的観測は,2015年噴火前後の諸現象を捉えた科学的意義だけでなく,規制区域の確定や噴火警戒レベルの引き下げの判断にも有効に利用された。
 桜島では,2009年以降,年間1000回近くの頻度でブルカノ式噴火が発生している。1年強の周期で発生する噴火活動の特に活発な時期に同期して,地盤の隆起・膨張が観測され,増圧源を姶良カルデラ中央部の深さ10㎞付近と,北岳直下の深さ3~4㎞に,また,減圧源を南岳直下の1㎞以浅に求めることができた。この結果を過去の活動に照らし合わせると,桜島のマグマ供給系は,姶良カルデラ中央部の深さ10㎞付近と北岳直下の深さ3~6㎞に位置するマグマ溜まりと,南岳直下の4㎞付近から南岳及び昭和火口へ伸びる火道からなっていると考えられる(図2)。昭和火口の噴火活動活発期においては,姶良カルデラ及び北岳直下のマグマ溜まりは膨張しているが,火道浅部は活発な噴火活動を反映して収縮していると解釈できる。これは,マグマの貫入と同時に火道最上部までマグマが移動・噴出していることを意味し,開口型火道系の特徴を示すものである。一方,2015年8月15日に発生した群発地震活動とそれに伴う地盤変動は,新しい火道を形成するマグマ貫入であると考えられる。火山性地震活動は,15日の午前7時ごろから始まり,1日の内に900回近く発生した。また,地震活動に伴う傾斜及びひずみ変化は地震活動に同期して加速した。そのひずみ変化量は,通常のブルカノ式噴火に前後して観測される大きさの100倍以上に達しており,変動速度も極めて大きかった。この地盤変動は,GNSS,干渉SAR等の解析から,昭和火口下深さ1㎞程度の北東-南西方向の割れ目に貫入したマグマによるものと推定された。このマグマ貫入イベントを含めた桜島の噴火事象系統樹を作成し,1日当たりのマグマ貫入量と地震活動に注目して想定される避難行動を整理した(図2)。

2-2.平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震に関する5年目の成果

 平成23年(2011年)3月11日に発生した平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震(以下「東北地方太平洋沖地震」)(マグニチュード(M)9.0)は,日本の災害史の中でも未曾有の東日本大震災をもたらした。その発生直後には様々な科学的研究が集中的に行われ,東日本大震災の災害誘因のメカニズムについて理解が進められた。一方で5年経った今でも,東北地方太平洋沖地震に伴う余震・誘発地震活動や余効変動等の地殻活動は,東北地方太平洋沖地震直後に比べれば低下しているものの依然として広範囲に亘り続いている。そのため引き続き東北地方太平洋沖地震の震源域やその周辺では,海域・陸域における調査観測と解析が進められ,また室内実験や数値シミュレーションを通じて東北地方太平洋沖地震を引き起こした断層の研究も行われてきた。ここでは東日本大震災以降,継続的な観測や実験,調査等の研究から新たに明らかとなった東北地方太平洋沖地震に関する平成27年度の代表的な研究成果について報告する。

(調査及び観測に基づく研究成果)

 相似地震と陸域の地殻変動データの解析から,北海道から関東地方の太平洋下にあるプレート境界の広い範囲で年単位の周期的なゆっくり滑りが発生していることが発見された。その発生と同期してM5以上の地震活動が活発化していることから,ゆっくり滑りを海陸の地震・地殻変動観測で検知することによって,大地震の発生時期の予測の高度化に貢献できる可能性がある(図3)。
 東北地方太平洋沖地震発生後の2011年3月から2015年8月までGNSS-音響測距結合方式により海底地殻変動を観測した結果,福島県沖や銚子沖では陸域のGNSS観測結果と整合的な東南東向きに移動が見られたのに対し,宮城県沖では陸域観測とは整合しない西北西向きの移動が観測されるなど,複雑な変動が観測された。
 東北地方太平洋沖地震発生領域において発生している超低周波地震の活動を2014~2015年の期間で調べた結果,東北地方太平洋沖地震で大滑りを起こした領域では静穏な状態が続いており,岩手,福島,茨城各県の沖では一時的な活発化が見られ,ゆっくり滑りが発生している可能性があることがわかった。
 東北地方太平洋沖地震の発生後の東北地方内陸での変形に関する研究も進められた(3-1(3)ウ参照)。
 津波堆積物調査や古文書調査により,1454年享徳地震は東北地方太平洋沖地震の一つ前の巨大地震である可能性が高いと考えられているが,享徳地震によるものと考えられる津波堆積物が仙台平野などで見つかった。

(室内実験及び数値シミュレーションによる研究成果)

 海底掘削で得られた東北地方太平洋沖地震の断層物質の超低速摩擦実験の結果,年間10cm 程度というプレート運動に相当する極めてゆっくりとした相対運動において,断層物質が地震性の高速滑りを起こすことが測定された。また沈み込むプレート表層部を模した室内実験からは,遠洋性粘土層は摩擦の強度が小さく地震を発生せずに滑るプレート境界断層を形成しやすいが,チャート層や玄武岩層中に形成されたプレート境界断層は強度が大きく,海溝付近のような浅部でも地震発生に至るような断層運動を起こす可能性があることが示された。
 東北地方太平洋沖地震の震源域を念頭に,海山の様な膨らみのあるプレート境界モデルを設定した数値シミュレーションの結果,東北地方太平洋沖地震と同様に海溝付近における大きな滑りが再現された。また,地震発生サイクルに及ぼす影響を調べたところ,地震の繰り返し発生間隔が短くなることもわかった。これらの他に,東北地方太平洋沖地震前後の観測を再現する数値シミュレーションを行った(3-2(1)参照)。

(社会の脆弱性に関する研究成果)

 東北地方の太平洋沿岸の都市化について詳細な調査を行った結果,農地や未利用地が次第に都市的土地利用へと変化し,1960年チリ地震以降大きな津波被害が無かったこともあって,災害に対する脆弱性と曝露性が増加したことが,東日本大震災で被害を大きくしたことが指摘された。

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研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)

-- 登録:平成29年07月 --