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3(2)南海トラフ巨大地震総合研究

「南海トラフ巨大地震総合研究」グループリーダー  澁谷拓郎(京都大学防災研究所)


南海トラフ域では,昭和の東南海・南海地震から70年が経過し,次の巨大地震は着実に近づいている。南海トラフ巨大地震の地震像を具象化し,それがもたらす強震動や津波の大きさを推定することは,この地震による災害の軽減において,非常に重要である。
本総合研究グループは,南海トラフ巨大地震に関する研究を,今期5か年の地震火山観測研究計画を横断する形でまとめ,総合的に推進することを目的とする。さらに,東京大学地震研究所と京都大学防災研究所の拠点間での連携共同研究における参加者募集型研究として実施される南海トラフ巨大地震のリスク評価についての研究とも連携を図る必要がある。
今期5か年の地震火山観測研究計画において,南海トラフ巨大地震に関する研究を含んでいる研究課題は45課題程度あり,全体の約3割を占める。部会別に整理すると,海溝型地震部会の課題が15(34%),データベース・データ流通部会の課題が9(20%),地震動・津波の事前予測・即時予測部会の課題が7(16%),史料・考古部会と地震・火山災害部会の課題が4(9%)ずつ,地震先行現象・地震活動評価部会と内陸地震部会の課題が3(7%)ずつとなる。このうち平成26年度(2014年度)の成果報告で,南海トラフ巨大地震に関する研究成果が記載されているものは,15課題程度で,1/3にとどまっている。たとえば,海溝型地震を研究テーマとする課題であって,東北地方太平洋沖地震と南海トラフ巨大地震をサブテーマとする課題にも,今年度は2011年東北地方太平洋沖地震のデータを解析した研究成果は出ているが,南海トラフ巨大地震までは言及していないものがまま見られた。5年計画における1年目の成果としては致し方ない面もあるが,次年度以降に2011年東北地方太平洋沖地震の成果を南海トラフ巨大地震に応用するような研究成果が出てくることを期待したい。
拠点間連携の参加者募集型研究では,南海トラフ巨大地震をターゲットとして,震源,地殻構造・波動伝播,強震動予測,地盤構造,被害予測(地震動・津波)等の各要素の不確定さが最終的な被害想定に及ぼす影響を理学や工学等の研究者で共有し,災害リスク評価の精度向上には何が必要かを探求する研究が平成27年度から開始される。本報告においても,このようなリスク評価の研究項目を参考にして,震源,地殻構造・波動伝播,強震動予測,地盤構造,被害予測および地震発生に関するシミュレーション研究という項目に分類して,今年度の研究成果をまとめる。

1.震源

(1)スロースリップ(SSE),超低周波地震,地殻変動

ア.東海

2004年からのGPS 大学連合のデータとGEONETデータを統合解析し,ひずみの時間変化を解析した(東京大学地震研究所[課題番号:1509])。東海地域の水準測量データ等の解析によりプレート間固着等の時空間変化を1980 年代まで遡って推定した(産業技術総合研究所[課題番号:5007])。2000年~2005年に発生したMw7.1のスロースリップの領域の南側で,2014年初頭からMw6.6 に達する非地震性のすべりが起きている可能性があることが判明した(国土地理院[課題番号:6003])。

イ.紀伊半島

短スパン伸縮計の開発と観測網の構築を行い,.2013年3月上旬に発生した低周波イベントの際の伸縮変化を観測した(京都大学防災研究所[課題番号:1910])。

ウ.四国

過去120年間の水準測量のデータに対して,エラーと考えられる変化の修正をして,モデリングに用いることのできる室戸岬の上下変動に関するデータを作成した(名古屋大学[課題番号:1703])。

エ.豊後水道

長期的SSEの発生間隔は6~7年であるので,次の発生は2016年と考えられていたが,2014年に小規模のものが発生した。これは,標準規模のSSEに発展する前駆的現象かもしれない。2011年東北地方太平洋沖地震の影響で長期的SSEの発生間隔が短くなる可能性もある(東京大学地震研究所[課題番号:1509])。2014年のSSEの規模はMw6.6程度である(国土地理院[課題番号:6003])。

オ.南西諸島

短期的SSE断層モデル推定手法を改良し,九州から南西諸島のGNSS(GEONET) データに適用して,この地域での短期的SSEの発生状況を初めて系統的に明らかにした。琉球海溝沿いでは,種子島沖,喜界島沖,沖縄本島南部沖,八重山諸島において短期的SSEの活発な領域が見られ,八重山諸島を除いた3領域のSSE発生深度は10~30kmと浅いことがわかった(京都大学防災研究所[課題番号:1910])。再決定震源から推定された稍深発地震面の傾斜角がトカラ海峡の北東領域の約60°に対して南西領域の50°で少し異なり,スラブ上面の形状の違いが示唆された。新しい知見として,奄美大島に設置された短周期臨時地震観測点(6点)において,低周波が卓越する波群が記録されていることが分かった(鹿児島大学[課題番号:2301])。防災科研の広帯域地震観測網(F-net)における約11 年分の記録を波形相関法で解析した。その結果,浅部低周波地震活動の発生頻度は紀伊半島沖~四国沖では低く,日向灘,南西諸島と南西に向かうにしたがって高くなることが分かった(防災科学技術研究所[課題番号:3002])。

(2)歴史・考古資料による南海トラフ巨大地震像

ア.古文書

名古屋大学所蔵の高木家文書の修復を行った。徳川林政史研究所,蓬左文庫,岐阜歴史博物館,佐賀県立図書館,唐津図書館や個人所蔵の新たな史料収集を行い,新しく見つかった史料については順次翻刻を行った。神社明細帳については高知県,和歌山県の調査を行い,海岸線沿いの市町村についてはほぼ完了した。また高知県,和歌山県,愛知県,三重県,岐阜県,静岡県,長野県の地方史の収集を行った(名古屋大学[課題番号:1701])。東海地方にあって長期間に亙る日記が残存する三河国田原藩(愛知県田原市)の「田原藩日記」の調査・撮影を実施した(東京大学史料編纂所[課題番号:2601])。

イ.津波堆積物

静岡県沿岸地域および高知県東洋町,四万十町,黒潮町でそれぞれ津波堆積物調査を実施し,過去の津波と思われる複数枚の砂層を検出した(産業技術総合研究所[課題番号:5004])。

(3)即時予測

ア.GNSSリアルタイム解析

GEONETリアルタイム解析から得られるリアルタイム地殻変動データを用いて,矩形断層モデル,プレート境界面上のすべり分布を即時推定する技術の開発を行った(国土地理院[課題番号:6004])。

2.地殻構造・波動伝播

(1)プレート形状・構造

ア.東海

変換波およびSP変換波について,先行研究を精査するとともに,過去のデータの整理を行った。プレート形状が静岡県の下でたわんでいることが明らかになりつつある(名古屋大学[課題番号:1703])。

イ.紀伊半島

紀伊半島東部の地震波トモグラフィ解析と震源再決定の結果,沈み込む海洋性地殻下の上部マントル内には,モホ面と平行な北傾斜の震源分布を確認でき,その近傍でVp/Vs値が大きくなる傾向が見られた。低周波地震は,沈み込むフィリピン海プレートが島弧下のマントルウエッジと接する近傍で発生している(東京大学地震研究所[課題番号:1509])。中西部では,スラブ上面の深さが30~40 kmになるあたりで深部低周波イベント(DLFE)が発生するが,この発生域とその周辺のP波速度(Vp)とS波速度(Vs)はともに-5 %程度の低速度異常を示した。Vp/Vs比は1.75~1.8とやや高い値を示した。海洋地殻内の含水鉱物の脱水分解が進み,流体が放出されたためと考えられる。和歌山県北部の,上部地殻に微小地震が多発する領域の下の下部地殻にVpとVsともに-10 %にも及ぶ非常に強い低速度異常域がやや東西に広がる形で存在することがわかった。ここに存在する流体が浅部の脆性領域に上昇し,岩石中の間隙水圧を上げ,摩擦力を下げるため,この地域で微小地震が多発すると考えられる(京都大学防災研究所[課題番号:1904])。

ウ.四国

地殻構造および地震発生履歴等についての調査観測により,室戸沖南海トラフの地震断層分布と新たな巨大地震想定震源域上限が概ね一致していることを確認した(海洋研究開発機構[課題番号:4002])。

エ.南九州

宮崎-阿久根測線と宮崎-桜島測線での稠密リニアアレイ観測で得られたデータを用いてレシーバ関数解析を行った。両測線のウェッジ部において大陸モホ面が不明瞭になるのは,ウェッジ部がスラブ起源流体の影響で低速度化し,モホ面が高速度層上面ではなくなっているためと考えられる。このウェッジ部には流体が存在するか,強度の弱い蛇紋岩に変成していると考えられ,ここに接するプレート境界面は安定すべり域である可能性が高い(京都大学防災研究所[課題番号:1904])。

オ.南西諸島

地殻構造および地震発生履歴等についての調査観測により,南西諸島海溝域地震発生帯モデルの構築に必要なプレート形状等について新たな知見を得た(海洋研究開発機構[課題番号:4002])。

(2)波動伝播

ア.Lg波

西南日本と東北日本のLg波伝播の特性の違いと,その原因とである地殻構造の違いを詳しく調べた。モホ面深度の空間変動や,モホ面直下の緩やかな正の速度勾配により,最上部マントルを伝わるS波エネルギーが地殻内に戻ることで振幅の大きなSn波が生成され,さらにモホ面の凹凸に対応してSn波が地域的に大きくなる特色がシミュレーションから良く再現された。さらに,短波長不均質構造を付加したハイブリッドモデルの利用により,S波が伝播過程で強い前方散乱を繰り返し起こし,Hi-net観測記録に特徴的に見られる紡錘形のLg 波群が良く再現できるようになった(東京大学地震研究所[課題番号:1516])。

3.強震動予測

(1)手法の改良

ア.広帯域震源モデルの改良

震源モデルの広帯域化において,すべり量と破壊伝播速度という2つの震源パラメータの空間分布に不均質を付加する方法について検討した。広帯域動力学震源モデルにおける両パラメータの相関を見たところ,破壊伝播速度の不均質分布は波数の逆数に比例するスペクトルとなり,破壊伝播速度とすべり量の間にはほとんど相関が見られないことがわかった。両パラメータの関係についてのこれらの知見は,広帯域震源モデルの改良に活かせると考えられる(京都大学防災研究所[課題番号:1911])。

4.地盤構造

(1)構造モデル

ア.関東平野

関東平野への地震波の入射方向による長周期地震動の増幅特性の違いの原因として,関東平野の基盤構造の非対称性が挙げられる。北東から入射する表面波に対しては強い増幅が見られないが,これは,関東平野の基盤深度の変化が北東方向に向けて緩やかになっているためと考えられる。その他の方角では,平野を取り囲む周囲の山地から平野内部にかけて基盤が落ち窪むように急激に深くなっており,表面波の増幅が起きやすいと考えられる(東京大学地震研究所[課題番号:1516])。

イ.大阪盆地

大阪堆積盆地構造モデルの検証を進めるため,大阪盆地北西部に位置する観測点での記録に現れる特徴的な後続波群についての分析を行った。後続波群の震動方向や波群間の時間差の変化に到来方向による系統的な差異があることがわかった(京都大学防災研究所[課題番号:1911])。

ウ.京都盆地

堆積盆地構造の地震応答を実測し,地盤構造モデルの改良に用いるため,既設強震観測点での観測を継続し,地震記録の収集を行った(京都大学防災研究所[課題番号:1911])。

5.被害予測

(1)津波

ア.津波即時解析

DONET 水圧計データを用いた津波増幅率による津波即時解析システムを開発し,実証試験を開始した(海洋研究開発機構[課題番号:4002])。沖合で観測された津波波形の逆解析に基づく津波の即時予測手法システムについて,2011年東北地方太平洋沖地震の津波観測データを用いて,その手法の改良を検討した(気象庁[課題番号:7011])。

イ.中京圏

湛水分布と経路復旧評価を行った(海洋研究開発機構[課題番号:4002])。

(2)地すべり

ア.発生ポテンシャル評価

地震によって火山地域で発生した地すべりの調査,およびレビューを行い,それらに共通な特徴を抽出した結果,もっとも甚大な被害を発生するのは,降下火砕物の崩壊性地すべりであることがわかった(京都大学防災研究所[課題番号:1912])。

6.シミュレーション

(1)地震サイクルシミュレーション

ア.スロースリップと巨大地震の相互作用

豊後水道で6~7年間隔で発生する長期的SSEに同期して,南海トラフ近傍の浅部超低周波地震活動も活発化することから,プレート境界面上における現象間の相互作用を理解する目的で,これらの現象の同時発生を数値的に再現することを試みた。長期的SSEと浅部VLFの震源域はいずれも有効法線法力を低く設定し,長期的SSE域のとなりに安定すべり域が存在するモデルにより,これらのスロー地震の同時発生の特徴が良く再現された(東京大学地震研究所[課題番号:1509])。
南海トラフ全域について,地震サイクル間におけるSSEの発生を再現する数値シミュレーションをおこなった。多くの地域では,地震サイクル前半から中盤にかけて,短期的SSEの発生間隔が減少した。ただし,地震サイクル後半においては,固着域と短期的SSEの間で発生する長期的SSEのために,発生間隔は大きな擾乱をうける結果がられた(防災科学技術研究所[課題番号:3001])。

イ.動的・準動的シミュレーション

動的・準動的シミュレーションにおけるin-plane問題の地震サイクルコードを開発した。動的・準動的計算では,地震の繰り返し間隔は4.02年となり,準動的の3.13年より長くなった。これは,動的・準動的計算では,地震時すべり速度およびすべり量が大きくなるためである。動的破壊も含む地震サイクルシミュレーションの重要性が確認された(京都大学[課題番号:1801])。

ウ.摩擦パラメータの推定

SSEの発生領域の摩擦パラメータ手法としてアンサンブルカルマンフィルタを採用し,適用可能性について,八重山SSEを模した数値実験を行った。逐次データ同化により速度・状態依存摩擦法則に基づく断層すべりのシミュレーションモデルの摩擦パラメータと初期条件(シミュレーションの変数)を同時推定する手法の開発を行った。地震活動に基づいて摩擦パラメータ推定を行うための手法開発をおこなった。(京都大学[課題番号:1803])

これまでの課題と今後の展望

今年度の成果報告を見ると,2011年東北地方太平洋沖地震の際に得られたデータを解析して,とても興味深い結果が多く出されている。今後は,このような成果を南海トラフ巨大地震の予測や災害の軽減に応用するような取り組みが必要と思う。
また,南海トラフ巨大地震のリスク評価における情報の流れに沿って,震源,地殻構造・波動伝播,強震動予測,地盤構造,被害予測という分類でまとめると,報告数は,それぞれ14,7,1,3,4であった。この数分布は,地震火山観測研究計画の各研究課題から想像されるものである。総合研究をすすめるにあたっては,研究課題の深化を行うとともに,地震火山観測研究計画の地震動,津波評価と被害予測に関する研究課題で必要としている震源や地殻構造情報の共有や,拠点間連携研究の南海トラフ巨大地震のリスク評価における地震発生,地震規模などの予測といった観点でのアウトプット情報を関係研究者が共有していくことが必要と考えられる。

成果リスト

千木良雅弘, 2014. 地震による深層崩壊. 地震ジャーナル, 58, 28-35.
Furumura, T., T.-K. Hong, and BLN Kennett, Lg wave propagation in the area around Japan: Observation and simulation, Progress of Earth. Planet. Sci., 1:10, doi:10.1186/2197-4284-1-10, 2014.
Kato, T., A. Fujita, M. Satomura, R. Ikuta, and Y. Harada, 2014, Analysis of detailed crustal strains due to the dense GNSS array in the Tokai region, central Japan, Abstract of the International Symposium on Geodesy for Earthquake and Natural Hazards, Miyagi, Japan, 22-26 July, 2014.
田中宏樹・岩田知孝・浅野公之,2014,阪神地域(尼崎~東灘)での地震記録に見られる特徴的な後続波, 日本地震学会講演予稿集, S16-P20.
Nishimura, T., 2014, Short-term slow slip events along the Ryukyu trench, southwestern Japan, observed by continuous GNSS, Prog. Earth Planet. Sci., 1:22, doi:10.1186/s40645-014-0022-5.
澁谷拓郎,南海トラフ巨大地震の予測高度化を目指したフィリピン海スラブ周辺域の構造研究,日本自然災害学会平成26 年度学術講演会(鹿児島大学,鹿児島市),III-5-1,2014.
Shimizu, H. and K. Hirahara, 2014, Two-dimensional spectral-element simulations of earthquake cycle at subduction zones, AGU 2014 Fall Meeting, S33B-4515, San Francisco, USA, 2014.
八木原寛, 平野舟一郎, 中尾茂, 馬越孝道, 中東和夫, 内田和也, 清水洋, 山下裕亮, 山田知朗, 篠原雅尚, 後藤和彦,2014,南西諸島北部の海域及び島嶼域における地震観測によるプレート境界面形状の推定(1),日本地震学会2014 年秋期大会講演予稿集,S09-P07.
Youichi Asano, Kazushige Obara, Takanori Matsuzawa, Hitoshi Hirose, and Yoshihiro Ito, 2015, Possible shallow slow slip events in Hyuga-nada, Nankai subduction zone, inferred from migration of very-lowfrequency earthquakes, Geophys. Res. Lett., 42, doi:10.1002/2014GL062165.

 

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(研究開発局地震・防災研究課)

-- 登録:平成29年07月 --