3.平成26年度の成果の概要

3-1.地震・火山現象の解明のための研究

過去の地震や火山噴火の事例,地震や火山噴火を引き起こす構造や応力場などの研究を進め,地震・火山現象の物理・化学過程を理解する。特に,発生すると甚大な被害をもたらす低頻度大規模の地震・火山現象は,発生間隔が長いことから史料・考古・地質データ等の収集から始め,近代的な観測データを統合して,その全体像を把握する。また,地震や火山噴火の予測に利用するため,地震や火山噴火の発生場,地震発生過程,火山活動,火山噴火過程のモデル化を進める。

(1)地震・火山現象に関する史料,考古データ,地質データ等の収集と整理

地震・火山噴火とそれに関連する諸現象とそれによる災害に関する史料,考古データ,地質データの収集と,近代的観測との対比・統合しやすいデータベースの構築に向けて,次のような研究を行った。

ア.史料の収集とデータベース化

史料から特定した1855年安政江戸地震による被害の発生場所を「江戸大絵図」の図上に表示し,地震やその後の火災などの被害の要因や傾向の分析を可能にした。既刊地震史料集に収録されている史料を中心に,多角的な検索機能を有し,史料本文全体も検索の対象とする「日本歴史地震関連史料データベース」を設計した。東アジアの地震関連史料のデータベース化を始め,代表的な地震カタログの一つである「世界の被害地震の表」にある東アジアの地震について,根拠となった文献史料を調査し,史料本文にある被害記述の検討を行った。

イ.考古データの収集・集成と分析

新潟県を中心に発掘調査事例を検討し,地震・火山噴火に関する災害痕跡を抽出し,データベースを構成する項目の選定など,データベースの構築に着手した。平城京跡地の発掘現場での災害痕跡調査では,異なる時期に発生した複数の噴砂痕跡が見つかった(図3)。これらは南海トラフにおける過去の巨大地震によるものである可能性があり,今後さらに調査を進める必要がある。

ウ.地質データ等の収集と整理

ロシア沿海州での津波堆積物調査から歴史記録がない古津波に関する知見が得られた。
約3万年前に発生した姶良カルデラ噴火の初期噴出物(大隅降下軽石と妻屋火砕流堆積物)を分析した結果,これらの噴出物が,従来考えられているマグマ溜まりの深さ(7-10 km)よりも浅い深さ(4-5 km)の状態を記録していることが分かった。

(2)低頻度大規模地震・火山現象の解明

近代観測データと史料・考古データ・地質データを総合して,東北地方太平洋沖地震のような低頻度大規模地震・火山噴火現象の特徴を抽出し,その理解を目指して,次のような研究を行った。

ア.史料,考古データ,地質データ及び近代的観測データ等に基づく低頻度大規模地震・火山現象の解明

北海道東部太平洋側では,巨大津波が過去約3,000年間に5回発生しており,こうした津波は根室海峡を越えて,北海道別海町や国後島南部でも遡上した痕跡が見つかった。また,1611年慶長三陸地震もしくは1454年享徳地震と1896年明治三陸沖地震とともに, 869年貞観地震による津波堆積物が岩手県沿岸北部で見つかり,これらの地震による津波が東北地方北部にも達していたことが示された。下北半島で見つけられた17世紀の巨大津波の痕跡は,千島弧沿いの巨大地震か1611年慶長三陸地震に対応する可能性が高い。これら2つの巨大地震は同一の地震であった可能性もある。
南海トラフ巨大地震に関連する史料として神社明細帳の調査などを行った。また,静岡県および高知県で実施した津波堆積物調査から,過去の津波によると思われる複数枚の砂層を検出した。また,房総半島九十九里浜における津波堆積物調査からは,これまで歴史上知られていない津波の痕跡が見いだされたほか,相模トラフ沿いの海岸の過去の隆起パターンから関東地震の多様性が検証された。
糸魚川-静岡構造線断層帯北部の神城断層と松本盆地東縁断層北部のセグメント境界付近で古地震調査を実施し,同地点の最新活動に伴う地震時変位量が約2mであることを明らかにした。一方,糸魚川-静岡構造線断層帯中部の諏訪湖周辺では,約1,200年前の最新活動時はこのセグメント境界での連動破壊は発生していないが,約3,000年前の活動においては連動破壊があったことが明らかとなった。
低頻度大規模現象であるカルデラ形成噴火に関しては,姶良カルデラでの約10万年間の噴出物の化学組成と岩石学的特徴を整理した結果,マグマ組成の異なる3つのサイクルから成ることがわかった。
渡島大島の寛保噴火によって生じた山体崩壊とマグマ活動について,全国の文書館/図書館などの史料保存機関で関連史料を収集・検討した結果,1741年以降,微量の火山灰噴火が約50年にわたり間欠的に複数回観測されるなど,渡島大島起源と考えられる小規模の降灰や臭気が頻繁に発生していたとする観測記録が新たに見つかった。

イ.プレート境界巨大地震

東北地方太平洋沖地震後の余効変動の観測とその解析が進められた(図4)。プレート形状など地下の不均質性を考慮した粘弾性構造モデルにより,粘性緩和の強い影響下にある余効変動場の特徴を説明可能なモデルが提案された。一方,プレート境界上の余効滑りの時空間分布が小繰り返し地震の活動に基づき推定され,東北地方太平洋沖地震震源域周辺のプレート境界での滑り速度は着実に減少してきていることがわかった。しかし,その減衰率は当初考えていたよりも遅く,単純な対数関数的な余効滑りの変化ではないようにも見えるので,測地観測データのみならず小繰り返し地震のデータも含めて,余効滑りと粘性緩和の影響を分離していくことが重要となっている。また,震源域北側で実施した人工地震探査からは,プレート境界面の状態が地震発生前後で異なっている可能性が示された。
日本海溝における科学掘削によりプレート境界断層から回収された試料を用いた室内実験により,断層に存在する遠洋性粘土の摩擦強度と破壊エネルギーが著しく小さいことが示された。また,実験から導かれた断層構成物質の摩擦特性を仮定したシミュレーションにより,浅部ゆっくり滑りの発生が再現された。海洋性地殻を構成する岩石の物性に基づいて東北地方太平洋沖地震震源域での破壊強度の深さ分布を推定し,日本海溝沿いでM7級の地震とM9級の地震の双方が発生する原因を考察した。
2014年にチリ北部のイキケ沖で発生したM8.2の地震の震源過程の解析から,断層深部側は短周期地震波の放射が卓越する一方,浅部側は長周期地震波の励起が卓越する特徴が示された。これは,東北地方太平洋沖地震のほか,2010年チリ地震(M8.8)や2007年ペルー地震(M8.0)および東北地方太平洋沖地震の最大余震の特徴と共通することから,プレート境界巨大地震の地震波輻射特性に共通性がある可能性が示された。
四国沖の南海トラフでは,海底面におけるプレート境界断層の位置が,内閣府が海底地形に基づいて想定した巨大地震震源域上限とほぼ一致することが示された。東海地域南部では,1707年宝永地震時に活動した可能性がある伏在断層の位置に,高電気伝導度の領域が存在することが判明した。

(3)地震・火山噴火の発生場の解明

地震・火山噴火の発生場における地下構造や応力場を明らかにし,断層上の摩擦特性や断層周辺の流体分布,地震と火山噴火の相互作用などを明らかにするため,以下のような観測・実験に基づく研究を実施した。

ア.プレート境界地震

プレート境界断層もしくは沈み込む海洋性プレートの形状に関する新しい知見が,南西諸島,南九州,伊勢湾周辺で得られた。南九州では上盤側プレート最前縁部にくさび形領域の地震波の低速度異常が見つかり,その直下のプレート境界が安定滑り特性をもつ可能性があることがわかった。紀伊半島の深部低周波微動発生域とその周辺では,地震波の低速度異常と高Vp/Vs比異常が認められ,海洋地殻内の含水鉱物の脱水分解に伴う流体の放出が示唆された。南海トラフにおける科学掘削の結果から地震性滑りによる摩擦発熱があったことが明らかとなった巨大分岐断層の断層構成物質の分析を進め,地震発生時の断層内部流体の到達温度が推定された。

イ.海洋プレート内部の地震

海洋プレート内地震の発生場である,北海道東部下に沈み込む海洋性地殻の地震波速度構造を推定したところ,期待されるよりも低いP波速度を示す領域が見いだされ,そこでは含水鉱物と水が共存している可能性が考えられる。東北・北海道と関東におけるスラブ形状を取り入れた3次元シミュレーションにより,海洋性プレートの脱水過程と密接に関連する上盤プレート内でのマントル対流パターンと温度構造の推定を行ない,火山配列やS波異方性パターンと対応する対流パターンが再現された。関東下のP波減衰構造を推定し,フィリピン海スラブのマントル東端部に地震波高減衰域が見いだされた。この高減衰域の広がりは蛇紋岩化していると解釈されている地震波低速度域とほぼ一致するが,その西縁で1921年と1987年に発生した2つのスラブ内地震(それぞれ,M7.1とM6.7)が発生していることから,スラブ内地震の発生には構造の不均質が密接に関係していることが示唆された。

ウ.内陸地震と火山噴火

東北日本の地温勾配データから推定した3次元粘弾性構造モデルを用いて応力緩和過程の数値シミュレーションを行ない,東北地方太平洋沖地震後の余効変動が火山フロント域で局所的に大きいのは,その直下で進行する粘性流動が主な原因である可能性が示された。東北地方太平洋沖地震後の誘発地震は上部地殻の高地震波速度・高比抵抗域内で発生し,その周囲は低地震波速度・低比抵抗異常域に囲まれていることが明らかとなった。これは,地殻深部に存在する流体が上部地殻の流体が少なかった領域に流入することで,地震が誘発されたと解釈された。また,誘発地震の活動域は時間とともに拡大する傾向を示し,これを水の拡散によるものと仮定すると,10-15 m2程度の浸透率で現象が説明できることがわかった。
余効変動により広域的には伸張ひずみが卓越する東北日本の中で,越後平野周辺では短縮変形が進行しており,ひずみ集中は遠方の外力に関係なく進行していると解釈される。また,過去の内陸大地震の余効変動の影響を数値シミュレーションにより評価したところ,過去の大地震による粘弾性変形がひずみ集中の主成因とは考えにくいことがわかった。
発震機構解から日本列島規模の広域応力場を推定した結果,応力場は第四紀以降のテクトニクスと整合的で,ほとんどの活断層は現在の応力場に対して滑り易い方向に形成されていることがわかった。しかし,山陰・九州・関東地方といった地域スケールでの解析からは,地殻内の大規模な不均質構造の近傍で応力場の局所的な擾乱が認められ,応力場の空間不均質性は強く,地殻応力の絶対値は大きくないことが示唆された。2008年岩手・宮城内陸地震の震源域では,間隙水圧が比較的高い場所で地震時の滑り量が大きい傾向にあることが示された。
西南日本のひずみ集中帯である山陰地方の地震帯の,活断層と内陸地震および定常地震活動の地域性を支配する要因を検討した結果,以下のことが明らかとなった。最近地震を起こした断層は,その両端を上部地殻の低地震波速度域ではさまれ,断層直下の下部地殻には低比抵抗異常が認められる。断層周辺では,下部地殻における断層面上での定常的な滑りが上部地殻に応力集中を生み出し,主圧縮軸の回転が見られる(図5)。一方,低地震波速度異常域での主圧縮軸の回転は,そこでの応力緩和を示唆し,大地震の破壊が上部地殻の低速度域に侵入できない原因と推察される。
西南日本における地殻変動データを解析した結果,山陰や南九州に明瞭なブロック運動の境界が見いだされるものの,それに対応する断層帯はみられないことがわかった。このことから,西南日本のひずみ集中帯は若く累積変位量が小さいことが示唆された。

(4)地震現象のモデル化

地震やプレート境界での滑りのシミュレーション等で利用するために,これまでの研究成果に基づく標準的構造モデルを構築するとともに,滑りや破壊過程を記述する断層の物理モデルの高度化を目指して,次のような研究を実施した。

ア.構造共通モデルの構築

構造共通モデルの構築の一環として, 北緯12°-54°,東経118°-164°の範囲で地形,地質,重力異常の500mメッシュデータを作成した。また,下部地殻・最上部マントルを構成すると考えられる岩石のP 波速度を鉱物化学組成と構成鉱物等に基づき計算し,西南日本のP 波速度構造と比較することにより,西南日本列島下の地殻構成岩石に関する初期モデルの構築を試みた。

イ.断層滑りと破壊の物理モデルの構築

野島断層で実施されたこれまでの注水実験やアクロス連続運転データを解析した結果,断層近傍でのクラック密度の減少による長期的な地震波速度の増加を示す結果が得られ,これは断層での強度回復を示唆する。
下部地殻の主要構成鉱物についてせん断変形実験を行い,その変形挙動が水の量に応じて変化することが明らかとなった。また,岩塩の粉末を模擬断層ガウジとした固着滑り実験から,断層に加わる応力の増加による岩石の変形様式の変化が断層の滑り挙動に大きな影響を与えることが示された。
地震サイクルにおけるプレート境界の固着の程度の変化を,プレート境界面からの弾性反射波の観測から検知できるか理論的検討を行った。地震サイクルシミュレーションの結果によると,地震発生前の滑り加速期に固着の程度が低下するが,これに伴う地震波の反射率の増加は少なくとも5%,大きい場合は50%程度となり(図6),反射法地震探査により検知可能な変化であると予測された。

(5)火山現象のモデル化

大規模な災害を引き起こす可能性があるマグマ噴火や,噴火規模は小さいものの火口付近での災害を引き起こす可能性のある水蒸気爆発や火山ガスの噴出の予測を実現できるよう,先行現象とそれに続く噴火現象を把握し,それら諸現象のモデル化を行うため,多項目観測および火山噴出物の解析を進めた。

ア.マグマ噴火を主体とする火山

地球物理学的,地球化学的,岩石学的手法を用いた多項目観測を,マグマ噴火を主体とする桜島,霧島,十勝岳等の火山で行った。桜島では,マグマ供給系が,姶良カルデラ下約10 km,北岳下 4 km,南岳下 1 km のマグマ溜まりと,それらをつなぐ径路および火道でモデル化されている。噴火活動期であった2009年10月~2010年5月および2011年11月~2012年2月にかけて,これらのマグマ溜まりへのマグマ供給や移動,そして,地表へのマグマ放出過程が定量化されるとともに,同時期に,マグマ貫入径路付近の北岳北東部深さ5 kmの地震波反射面の強度が増大したことがわかった。また,個々の爆発的噴火に伴う山体収縮現象は,これらのマグマ溜まりからのマグマ放出に伴う圧力変化モデルで説明された。2011年新燃岳噴火の噴出物の岩石の組織解析から,噴出物の結晶のサイズ分布はプリニー式やブルカノ式といった噴火様式によって異なり(図7),これはマグマ溜まりから火道浅部,地表へ上昇するマグマの減圧過程の違いによる可能性が高いことがわかった。

イ.熱水系の卓越する火山

水蒸気爆発など,比較的小規模な噴火の準備過程および先行現象の把握,およびそのモデル化を図るため,熱水系の卓越する火山で多項目観測や噴出物調査に基づく研究が進められた。口永良部島2014年8月の噴火では約1時間前から,御嶽山2014年9月の噴火では数分前から急速に山体が膨張した(図8)。また,2014年11月に約20年ぶりとなる噴火をした阿蘇山では,約1年前から二酸化硫黄の放出量が増加し,4ヶ月前に火口直下の膨張変動が観測された。約1ヶ月前からは火口極浅部の消磁や長周期微動活発化などの現象が検知された。このように比較的小規模な噴火ではこれまでほとんど得られなかった,噴火に先行する浅部マグマ/熱水挙動のモデル化のための基礎データを取得することができた。
十勝岳や草津白根山では,多項目観測のデータ解析が実施され,浅部熱水系による消磁や地震活動などが調べられた。また,これまでに報告のない小規模な水蒸気爆発による噴火堆積物が発見されるなど,過去の詳細な噴火活動が明らかとなった。箱根山の大涌谷では,CO2濃度の上昇と火山性地震の増加に相関があることがわかった。

3-2.地震・火山現象の予測のための研究

地震発生予測では,近年プレート境界の固着状況が明らかになり,観測と数値シミュレーションとの対比が可能になりつつあるプレート境界地震の長期評価に研究に重点を置く。中・短期的な予測を目指すため,観測データと数値シミュレーションの比較や統計学的な地震活動評価手法を開発する。また,地震に先行して発生した現象のうち,十分な精度を持つ観測から得られたものを統計的に評価し,その物理・化学過程の理解を進める。火山噴火予測では,幾つかの活動的な火山において,噴火履歴に基づいて,噴火事象系統樹を作成する。さらに,噴火規模・その推移の予測を目指して,観測や理論研究に基づき噴火事象の分岐過程と観測データの関係を明らかにし,事象分岐論理の構築を進めて,火山噴火の規模,推移,様式の予測を目指す。

(1)地震発生長期評価手法の高度化

地質データ等と近年の観測データとを統合して,同じ場所で繰り返し発生する地震の規模や発生間隔の不規則性の理解を深め,地震発生長期評価の高度化のための研究を実施した。
阿寺断層においてマルチコプターによる空中写真撮影と3次元計測技術を用いることにより,変動地形学的議論に耐えうる3次元地表データの取得が可能であることを明らかにした。

(2)モニタリングによる地震活動予測

物理モデルに基づく数値シミュレーションと地震活動や測地データ等の観測データを比較することにより,プレート境界滑りの時空間発展機構の包括的理解を目指す。さらに,プレート境界滑りを予測する手法を開発する。また,地殻ひずみ・応力の変動を,断層滑りや広域応力場を基に推定し,地震・火山現象に及ぼす影響を評価する。統計的モデルを用いて,地震活動の予測実験を行うとともに,その予測性能を評価する。

ア.プレート境界滑りの時空間発展

(釜石沖繰り返し地震
釜石沖の繰り返し地震が,東北地方太平洋沖地震後から頻発し,発生間隔のみならず規模や震源域の空間分布も揺らぐ現象について,摩擦構成則に基づく数値シミュレーションによって再現できることを示した。このモデルでは,通常発生している繰り返し地震は,不安定滑りが発生し得る摩擦特性の領域の中心付近のみを部分破壊しており,太平洋沖地震直後の応力変化が大きいときには,その全域が破壊し大きな地震になる。

(相似地震
東北地方太平洋沖地震発生前の相似地震カタログから東北沖プレート境界上の準静的滑りの時空間的変化を推定した結果,福島県沖における2008 年からの長期的ゆっくり滑りの滑り分布とその時間推移,東北地方太平洋沖地震の半年程前から震源より北側で発生した滑りの加速と,それが南へと伝播していく様子が捉えられた。

(余効滑り)
逐次データ同化により,摩擦構成則に基づく断層滑りのシミュレーションモデルの摩擦パラメータと滑り速度等の初期値を同時推定する手法を開発した。模擬観測データを用いた数値実験を行ったところ,余効滑りのみからモデルの全てのパラメータと初期値を拘束することは困難であることが分かった。

(豊後水道ゆっくり滑り)
豊後水道における次の長期的ゆっくり滑りの発生は2016年と予想されていたが,2014年に入ってから深部低周波微動の活動度が通常よりも高くなり,微小なゆっくり滑りが発生したと考えられる。GNSS観測でもMw6.6程度のエネルギーが放出されたと推定された。微動活動度や地殻変動量は2003年や2010年のゆっくり滑りに比べると小さいが,2006年後半の現象に比べるとやや大きい。

(房総ゆっくり滑り)
2013年12月から2014年1月にかけて房総半島沖で発生したゆっくり滑りとそれに伴う群発地震活動の関係を知るために,フィリピン海プレート上面における滑りの時空間発展を時間依存インバージョン解析により推定するとともに,地震波形の相関を利用した解析手法により地震の検出を行った。その結果,滑り速度と地震の発生個数及び滑りの伝播と震源の移動の間には強い相関が見られ,群発地震活動がゆっくり滑りによる応力変化によってトリガーされたことを示唆する。さらに,同様の手法により,東北地方太平洋沖地震直後の房総SSE発生域での地震の検出を行ったところ,東北地方太平洋沖地震発生の翌日から群発的な地震活動が始まり,地震活動域の移動と小繰り返し地震も検出された。このことから,GNSSデータからは検出されていなかったが,房総半島沖では東北地方太平洋沖地震の直後にゆっくり滑りが発生していたと考えられる。2007年,2011年11月,2014年の3つのゆっくり滑り発生期間中の地震活動についても同様の手法で再解析を行い,地震活動度・滑り量を比較した結果,2011年3月の房総ゆっくり滑りの規模は2014年のイベントと同程度もしくはそれよりも小さいと推定される。房総半島ではこれまで群発地震を伴うゆっくり滑りが約6年間隔で発生してきたが,太平洋沖地震以降,2011年3月,同年11月,2014年1月にゆっくり滑りが発生したと考えられ,その発生間隔は少しずつ延びており,この地域の準静的滑り速度の時間変化を示唆する(図9)。

(九州~南西諸島短期的ゆっくり滑り)
GNSSデータ単独での短期的ゆっくり滑りの断層モデル推定手法の改良を行い,九州から南西諸島での発生状況を初めて系統的に明らかにした(図10)。この結果,次のような地域的特徴がみられた。九州では四国のSSE発生域の南西部延長(深さ30~40km)で発生しているが,その数は南西ほど少なくなる。琉球海溝沿いでは,種子島沖,喜界島沖,沖縄本島南部沖,八重山諸島において短期的ゆっくり滑りの活発な領域が見られ,八重山諸島を除いた3領域の発生深度は10~30kmと浅い。

(地震サイクルのシミュレーション)
東北地方太平洋沖地震に関しては,高速滑り時の間隙流体圧上昇による摩擦強度低下などを考慮した数値シミュレーションを行い,普段は浅部でゆっくり滑りが生じていて,M9地震のときには大滑りが生じるという結果を得た。また,東北地方太平洋沖地震発生前のM7の地震活動をほぼ再現できるような数値シミュレーションを行い,次の1978年型の「宮城県沖地震」の発生時期について検討した。
南海トラフ全域について,地震サイクル間におけるゆっくり滑りの発生を再現する数値シミュレーションを行った結果,地震サイクル前半から中盤にかけては短期的ゆっくり滑りの発生間隔が減少するが,サイクル後半では,長期的ゆっくり滑り発生のために短期的ゆっくり滑りの発生間隔は大きな擾乱をうける結果が得られた。

(南海トラフ~南西諸島超低周波地震)
広帯域地震観測網F-netで得られた約11年分の記録を地震波形の相関を利用した手法で解析し,南海トラフおよび南西諸島海溝の近傍で発生する浅部の超低周波地震(VLF)を検出した。その結果,浅部VLF活動の発生頻度は紀伊半島沖~四国沖では低く,日向灘・南西諸島と南西に向かうにしたがって高くなることが分かった。この傾向は,相似地震から推定される準静的滑り速度の地域性と良い相関があり,大きな滑り速度が浅部VLF活動を活発化させている可能性がある。

イ.地殻ひずみ・応力の変動

地震活動予測は対象地域の地殻構造と応力・強度状態とその時間発展を把握することが重要である。高い空間分解能を有する地殻応力図を整備することを目指し,関東地方の詳細な地殻応力推定・活断層3次元構造解析を進めた。その結果,関東地方で応力方位の変化する境界は地質構造線と対応を示すことが明らかになった。また,微小地震の発震機構解に基づき上町断層帯周辺における詳細な応力場推定を行った。推定された応力場と断層深部形状をもとに活動性評価を行ったところ,断層帯北部の活動性が低いことが示された。

ウ.地震活動評価に基づく地震発生予測・検証実験

地震の規模別頻度分布のb値は応力の指標と考えられており,b値が小さいことは高応力に対応し,また,大地震発生前にb値が変化するとの報告がある。全世界の沈み込み帯においてb値の分布を調査したところ,スラブの浮力が高い地域ほどb値が小さいという傾向が認められた。また,各地域において,余震期間と平常時でほぼ同程度のb値が得られることが判明した。さらに,日本海溝から沈み込む太平洋プレート沿いに関しては深さ200km程度までのb値分布が求められ,大局的なテクトニクスを反映した結果が得られたが,それによって巨大地震の発生領域を事前に特定することは困難である。また,東北地方太平洋沖地震の滑り域の活動の時間変化をみると,地震後しばらく高くなっていたb値がほぼ平常値に近いレベルまで戻っている。
地震活動の統計モデルの予測性能を系統的に調べる研究を進めている。地震活動の特徴から前震である可能性の高いものを選別する手法を群発活動が特徴的な伊豆地域に事後適用し,予測性能について検討した。また,繰り返し性が明確である小繰り返し地震に対しての予測可能性を調査し,2010年までに限れば良好な予測成績が得られることが確認された。

(3)先行現象に基づく地震活動予測

日高地方の地震に先行して発生する傾向が指摘されているVHF帯電波伝搬異常現象について, 遠方のFM放送局からのえりも観測点での観測データを系統的に調べた。受信電波強度の時系列から,単純な閾値による異常判定を行い,それから一定期間内に地震が起こったかどうか調べたところ,対象をM4.5以上の地震に絞れば,地震がランダムに発生すると仮定した場合に比べて約2.5倍地震が発生しやすいという結果が得られた。今後対象時空間で予測マップを作成し有意性の評価を実施する必要がある。
地震活動の変化を定量的に解析する手法を国内のM7クラス以上の地震を対象に適用したところ,静穏化域の位置,大きさ,先行時間と地震規模の間に相関がみられた。また,別の地震活動解析手法を2004年スマトラ地震(M9.1)発生域のM5以上の地震に適用したところ,この地震発生の13年前から地震活動が静穏化していたことがわかった。この静穏化の原因は,本震震源域の深部延長が先行的に長期的ゆっくり滑りを起こしていたと考えると解釈できる。さらに,千島海溝沿いに発生したM5以上の地震を選択し同様の解析を行い,1994年北海道東方沖地震(Mw8.3)では13年間,2003年十勝沖地震(Mw8.3)では10年間,静穏化領域が本震震源域に見つかった。2006年中千島地震(Mw8.3)でも,10年間地震活動が静穏化していることが分かった。

(4) 事象系統樹の高度化による火山噴火予測

噴火史,古記録解析および地質学的調査に基づいて主に蔵王山を対象火山として事象系統樹作成を進めた。その結果,以下のことがわかった。蔵王山の最近の活動では,火口湖である御釜を中心として熱・熱水活動が長期にわたり断続的に継続する。熱水活動後に,中小規模( VEI=1~3 )の水蒸気爆発ないしマグマ水蒸気爆発に移行する。その際には火山泥流を伴うことが多い。また,数千年程度の時間軸で見れば,より規模の大きいマグマ噴火(VEI=3~4 )や山体崩壊が発生している。
火山噴火に至る重要な事象の分岐点における観測データの変化を,雲仙岳,モンセラート島(スーフリエール・ヒルズ),シナブン火山,伊豆大島,三宅島,霧島山新燃岳を対象としてこれまでの観測事例を再検討した結果,分岐には新たなマグマ供給が強く関与していることが明らかとなった。例えば,マグマ噴火開始前には中期的な全磁力等の異常,水蒸気爆発からマグマ噴火への分岐前には山体膨張および地震活動や火山ガスの活発化,火砕流発生(ドーム崩落)前には山体膨張および地震活動の活発化,山頂噴火から山腹噴火の前には地震活動の活発化および急激な山体変形,など重要な分岐事象において観測量の変化があることがわかった。

3-3.地震・火山噴火の災害誘因予測のための研究

地震・火山噴火という自然現象が引き起こす地震動,津波,火山灰や溶岩の噴出などの「災害誘因」が,自然・社会の「災害素因」に働きかけ,その作用・影響が顕在化して災害が発生するという視点から,災害誘因の自然素因への作用,社会素因への影響,社会的影響の波及効果を総合的に研究する。地震・火山噴火の災害事例の研究や,地震・火山噴火の災害発生機構の解明を進めるとともに,地震・火山噴火の災害誘因の事前評価手法や即時予測手法についても研究を進める。災害情報の高度化のために,関連する多くの研究分野の研究者や行政機関と連携し,地震・火山現象や災害の基礎情報の啓発や予測情報の利用方法に関する研究を行う。

(1)地震・火山噴火の災害事例の研究

史料データベースを解析しながら,江戸時代における地震対応について検討を開始した。
新潟地震50周年,焼山火山災害40周年,新潟県中越地震10周年を迎える年を契機として,地域における火山・地震災害の被害やその後の復旧状況を評価・検証した。特に中越地震については,10年間の復興の取組を総括し,企業の活動,地域の活動,日常生活等が時間とともにどのように復旧したかを比較した。

(2)地震・火山噴火の災害発生機構の解明

国内外の堆積平野・堆積盆地における強震記録;データベースの増強を開始した。地震被害と関連が深い周期1~2秒の地震波の卓越事例として諏訪盆地の観測記録の整理を行うと共に,地震波の増幅特性について検討を開始し,盆地の内部と外側にある近接距離のペア観測点の記録が地震動増幅特性の把握に効果的であることが分かった。国外においては,カトマンズ盆地(ネパール)において,マグニチュード5程度の地震の地震動記録を収集・解析し,既往の距離減衰式と調和的であること,盆地内サイトでのS波部分では岩盤サイトに対して最大で10倍程度の振幅を持ち明瞭なサイト特性を有することを確認した。
2011年霧島新燃岳噴火による火山灰の堆積の影響による交通量の初期低下率を把握するために,降灰量と道路における通行規制の有無の関係を機能的フラジリティ曲線で近似し,降灰量に対する通行規制の確率分布を求めた(図11)。これをもとに,地域の早期復旧を目指した最適な交通ネットワークの復旧分析を行った。

(3)地震・火山噴火の災害誘因の事前評価手法の高度化

地震動の事前評価に関しては,地震動の構成要素としての震源断層モデル及び地下構造モデルの高度化と強震動の評価手法の高度化を進めた。東北地方太平洋沖地震で指摘されている地震波放射特性の空間的な「棲み分け」に関して,強震動記録の周期帯別解析により,同じ場所での2回の破壊で震源特性が異なるなど「棲み分け」が単純ではないことがわかった。地下構造モデルの高度化では,同じ規模の地震が新潟県中越地方で発生した場合と福島県東部で発生した場合について地震波伝播の数値シミュレーションを行い,関東地域のやや長周期地震動生成は地震波の入射方向による違いがあることが示された(図12)。
大地震の震動による地滑り現象は大きな災害要因の一つであるが,首都圏では丘陵地帯を切り拓いて作った造成地に多くの住居があり,そのような地域の増幅特性を見積もった。人工的に改変された盛土では,S波の上下動成分の10Hz前後に顕著な増幅が見られ,揺れの大きさは地山に比べて約3倍に増幅することがわかった。地震による火山地域での地滑り被害研究のレビューを行い,最も甚大な被害は降下火砕物の崩落性地滑りによるものであることがわかった。すべった物質の地質調査から,広域に被害を及ぼす火山地域での地滑り領域を抽出できる可能性が示された。
火山灰や溶岩噴出の事前評価として,1914年の桜島大正噴火について気象場を考慮した移流拡散モデルに基づいた火山灰拡散・降灰の評価を行い,東北地方や北海道まで降灰が予測されることを確認した。気象条件による降灰地域の変化や成層圏内での火山灰の輸送過程評価の課題を整理した。

(4)地震・火山噴火の災害誘因の即時予測手法の高度化

地震動の即時予測に関して,現在の緊急地震速報で用いられている震源とマグニチュードの早期決定に基づく地震動評価に加えて,揺れの伝播を予測する方法を考案し,東北地方太平洋沖地震や2014年11月22日に発生した長野県北部の地震の実記録へ適用して予測精度等を検討した。近い未来の予測ならば概ね震度差1以内に収まる精度で行えること,また,実時間に比べてそれほど遅くない程度に計算が可能であること,ただし予測精度には観測点密度が重要であることが確認された。
数日以内程度の時定数を持つ地殻変動場を精密にとらえるため,GNSS解析の高精度化に関する研究開発を進め,全球数値気象モデルを電波伝搬遅延量の推定に利用することにより精度向上することがわかった。GNSSリアルタイム地殻変動データを用いた地震発生後の断層モデル早期推定手法を遠地地震記録に適用し,自動化のためのパラメータ設定の最適化を行い,多くの地震が適正に解析可能であることを確認した。
津波の即時予測に関しては,津波浸水予測を実施する地域に対して,あらかじめ多くの場合について数値計算した浸水域や浸水高のデータベースを利用するとともに,GNSSリアルタイム地殻変動データを用いて即時的に推定される震源モデルを利用して,リアルタイム浸水予測手法を高度化した。
桜島を対象火山として,噴火に伴う噴煙の早期検知を目的とした火山灰粒子密度推定等を行った。火山灰による電波の反射・散乱は,GNSS衛星からの電波では伝搬遅延として表れるが,搬送波位相残差を衛星と観測点の組み合わせに注目してみてみると,位相残差の大きい伝搬経路から火山灰粒子密度の推定が可能である。2012年7月24日に桜島南岳において発生したブルカノ式噴火について,火山灰粒子密度の時空間変動を推定し噴煙が移動する様子を把握することができた(図13)。

(5)地震・火山噴火の災害軽減のための情報の高度化

基盤地図情報,国土数値情報,国勢調査(小地域)データなどをベースとし,自治体が整備した津波浸水想定,避難場所,都市計画基礎調査などを統合した,現地調査用の携帯型地理情報システムをタブレット型PCに構築し,運用テストを行った。また,避難行動の移動履歴データなどをGISで分析する方法を開発した。このシステムを活用することにより避難訓練の行動情報を数値化しての保存することが可能になり,災害発生時等における情報提供のあり方を考察するためのツールとして使用が期待できる。

3-4.研究を推進するための体制の整備

地震・火山現象の解明と予測の研究のためには,観測で得られる膨大なデータや解析結果等を効率的に利用するための,データ流通システムやデータベースが必要であり,また,これまで得られなかったデータを取得し研究を進展させるために観測技術等の開発が重要である。地震火山現象に関する研究成果を災害軽減に活用するためには,研究者,技術者だけでなく,防災業務・防災対応に携わる人材の育成や,災害教育にも力を入れる。さらに,観測事例を増やすために国際的な共同研究を推進するとともに,開発途上国等における地震・火山災害の軽減に貢献する。

研究基盤の開発・整備

・地震・火山現象のデータベースとデータ流通
平成26年度に噴火が発生した口永良部島や御嶽山のほか火山活動の高まりがみられた十勝岳,吾妻山,草津白根山,霧島山において,緊急観測により収集した火山活動の詳細なデータを解析し,データベース化した。仙台平野における津波堆積物の情報およびそれに基づいた869年貞観地震の津波浸水シミュレーション結果をデータベース化し公開した。また,これまでに日本列島沿岸各地で実施した津波堆積物調査の実施地点の情報も併せて整備した。
これまでに作成された全国地震カタログでは震源の位置精度が不十分であった1955,1958,1975年について,再解析により震源の質・量が大幅に改善されたものがカタログに反映された。

・観測・解析技術の開発
底層流の影響を受けにくい自己埋設型の次世代型広帯域海底地震計を利用した広帯域地震・傾斜同時観測システムによる観測を房総沖で開始し,2014年1月のゆっくり滑りを含むほぼ1年間の傾斜変動記録を取得した。
GNSS観測・解析技術については,電子基準点観測データの誤差特性を分析し,GEONET定常解析で計算される電子基準点の座標時系列の誤差の有無について判断を支援する電子基準点誤差分析システムを構築した。また,電子基準点固有の誤差をモデル化し,位相残差マップとして整備するとともに,これを用いてGNSS観測データを補正するツールを開発した。衛星赤外画像を用いた噴火推移の観測については,2016年秋に打ち上げ予定である宇宙航空研究開発機構の次世代衛星GCOM-Cの画像データの処理解析システムの開発を進めた結果,画像から溶岩の噴出開始や火砕流堆積域,溶岩の噴出率変化の検出が可能であることが分かった。
レーザ技術を利用した広帯域地震計・傾斜計を観測井において設置可能にする改良を行い,200度の高温環境下での実証実験を行い,低周波(0.2-10Hz)においては良好な特性を示すことが示された。素粒子ミューオンを用いた火山透視技術については,カロリメータ方式によって霧島新燃岳の山頂から5km南において観測した結果,山頂火口付近において低密度領域が観測され,これまで観測が困難であった遠方(2km以上)の火山のミュオグラフィ観測が可能となった。また,装置のモジュール化を進めたことで機動性が格段に向上した。口永良部島,御嶽山の噴火に対応するため,二酸化硫黄簡易型測定装置の改良と高度化および解析ソフトの改良を行い,屋久島町営フェリーに実装され,口永良部島火山の二酸化硫黄放出率モニタリングに活用された。2014年8月3日以降のガス放出量増加がとらえられ,マグマ噴火への移行を判断する観測量として活用されている。

・社会との共通理解の醸成と災害教育
火山噴火予知研究についての一般向けセミナーを鹿児島市内において開催するとともに,研究成果が現状の避難計画を含めた防災対策にどのように活用できるかを検討した。また,100年前の桜島大正噴火にまつわる証言から大正噴火に至る過程を考察し,それに基づいたシナリオに沿って鹿児島県,鹿児島市など自治体の机上防災訓練が行われた(図14)。

・国際共同研究・国際協力
ニュージーランドのヒクランギ沈み込み帯における地殻活動解明のために,日本,ニュージーランド,米国が共同で海底観測機器を設置した。これまでに得られたデータの解析から,この地域で発生したゆっくり滑りと関係する地震活動を検知することができた。

3-5.優先度の高い地震・火山噴火

本計画実施期間に災害科学の発展に着実に貢献できることや,発生した場合の社会への影響の甚大さを考慮して,東北地方太平洋沖地震,南海トラフの巨大地震,首都直下地震,桜島火山噴火については,研究項目を横断する総合的な研究として推進している。ここでは,総合的な取り組みについてのみ記述し,それぞれの地震・火山噴火に関連する個別の研究成果は3-1から3-4に記述した。

・東北地方太平洋沖地震
東北地方太平洋沖地震(M9.0)については,地震発生の予知はおろか,発生ポテンシャルを正しく推定することすらできなかった。この地震を詳しく調べ,将来の巨大地震による災害軽減に役立てるとともに,この地震の発生により広域な場の変化が日本各地の地震や火山に及ぼす影響を詳細に調べる。この地震の余効変動の解明や浅部の大滑りの原因の研究が進展しており,これまでの成果を利用したモデルにより地震発生予測に関する研究も行われた。

・南海トラフの巨大地震
南海トラフ域では,昭和の東南海・南海地震から70年が経過し,次の巨大地震は着実に近づいている。南海トラフ巨大地震のリスク評価の精度向上ために,震源,地殻構造・波動伝播,強震動予測,地盤構造,被害予測(地震動・津波)等の各要素の不確定さの研究を,東京大学地震研究所と京都大学防災研究所の拠点間での連携共同研究として開始した。

・首都直下地震
様々なタイプの地震の発生が想定され,発生した場合の社会的影響が大きい首都直下地震のために,研究に必要な基盤となる観測網の維持・拡充を進め,データを継続的に取得すると共に,膨大なデータを効率的に流通させるためのシステムを構築してきた。このようなデータを利用して,この地域の構造とスラブ内地震の関係や,ゆっくり滑りの発生パターンの変化などの成果が得られた。

・桜島火山噴火
桜島火山では,近年,火山活動活発化の傾向が続いていると同時に,姶良カルデラ下ではマグマの蓄積が進行しており,マグマの100年間の蓄積量からみて,1914年大正噴火と同等の規模の噴火の発生が懸念されている。最近の観測データから,桜島火山のマグマ供給や移動などのモデル化が進んでいるほか,火山研究から明らかになった過去の噴火事例などに基づき防災訓練が行われた。

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研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)

-- 登録:平成29年07月 --