2.今後の火山観測研究の在り方

(1)御嶽山における観測研究体制

(当面の対応)

○ 過去には、水蒸気噴火からマグマ噴火に移行した他の火山の事例もあり、当面の間、水蒸気噴火からマグマ噴火への移行を捉えるための観測研究体制の整備が早急に必要である。その際、全国的な体制で観測研究を強化する必要がある。
○ 御嶽山においては、噴火の先行過程のシグナルが必ずしも大きくない水蒸気噴火を直前に予測することは難しかったが、どのような準備過程を経て噴火に至ったかを明らかにすることが重要である。
○ 当面実施するべき内容としては、「地形変化と噴出物調査」、「火山体周辺の地震観測及び地殻変動観測による火山活動の詳細調査」、「火山灰・火山ガス等の調査による噴出物成分調査」、「火山情報の発信の在り方」が挙げられるが、科学研究費補助金(特別研究促進費)などを活用して、全国的な研究体制で推進する。

(今後の対応)

○ 御嶽山に関しては、今後もしばらくの間、水蒸気噴火が繰り返し発生する可能性やマグマ噴火へ移行する可能性があることに加え、以下の(2)に記すとおり、水蒸気噴火に関する研究の対象火山として、引き続き、前述の研究が継続的に実施できるよう、観測研究体制の充実を図る必要がある。

(2)火山観測研究全体の方向性

(現行5か年計画との関係)

○ 現行の5か年計画では、マグマ噴火を主体とする火山と、水蒸気噴火が発生しやすい熱水系の卓越する火山に区別し、それぞれの噴火特性に応じて、適切な方法で研究を進めることとしている。
○ その中で、水蒸気噴火に関する研究に関しては、「火口近傍を含む火山体周辺における地震観測、地殻変動観測や地球電磁気観測、物質科学的分析」を行うことと明記されており、この方向に沿って更に充実強化を図る必要があるかどうかという観点から、今回検討を行った。

(充実強化の方向性)

○ 今般の御嶽山の噴火を踏まえ、水蒸気噴火が起こる前の先行現象に関する研究を強化し、水蒸気噴火をより早期に把握できるようにすることを目指す必要がある。熱水系の卓越する火山としては、御嶽山以外に、十勝岳、蔵王山、吾妻山、草津白根山、阿蘇山、口永良部島などがある。
○ 今般の御嶽山の噴火では、噴火に先行する地震活動が見られたことから、火山周辺の地震活動と火山噴火の関係を明らかにするため、地殻流体の挙動に着目した、高密度な地震観測、地殻変動観測、電磁気観測等を実施し、研究を更に加速化する必要がある。
○ また、今般の御嶽山や本年8月に噴火した口永良部島等の事例から、水蒸気噴火においても噴火の直前に顕著な山体変形が起きる場合があることが分かってきている。火口付近の傾斜観測等により、これらの現象を解明する研究を強化する必要がある。
○ さらに、水蒸気噴火からマグマ噴火への移行には、初期の噴火活動へのマグマの関与の有無を捉える必要がある。このため、マグマ上昇活動をGNSSや観測衛星等を利用した地殻変動観測データ解析により捉えるほか、遠隔からの観測も含めた火山ガスや火山灰等の分析等の地球化学・地質学的な調査・観測や地熱の状態把握が重要であり、これらの調査・観測の充実を図る必要がある。
○ 噴火現象の理解や火山活動の推移を予測するには、山体変形を及ぼす火山性圧力源やマグマ起源の熱消磁源の位置と火山体構造との関係を明らかにすることが重要である。このため、マグマだまりや熱水だまりの位置を規定する火山体の構造に関して、地震学的・電磁気学的手法による探査の他、宇宙線(ミューオン)を利用した火口直下の浅部構造の把握調査を進めることが必要である。

(今後の課題)

○ 以上の取組により水蒸気噴火の先行現象の解明を進め、短期的な火山噴火予測のための精度の向上を目指すとともに、中長期的な噴火の可能性の評価手法の開発を進めることによって、減災・防災に資する噴火予測手法の確立を追求する必要がある。
○ また、観測点設置上の課題としては、冬期間や火口近傍といった過酷環境下で安定的・継続的に観測するために、大学等において観測機器の耐久性の向上や安全に観測機器を設置するための技術の高度化など観測技術の画期的な進展をもたらすような技術革新を目指すことが必要である。
○ さらに、将来的には、火山学に関係する大学、研究機関や自治体等の研究者や技術者の知見や技術を結集し、それを共有して社会に正しく伝える仕組みや体制の在り方について検討する必要がある。

(3)戦略的な火山観測研究体制

(重点火山の考え方)

○ 現在、全国の大学及び防災科学技術研究所が観測研究の対象としている火山は45火山ある。このうち、学術的な研究を進める上で、活動度が高い火山や、現時点では活動度が低いものの潜在的爆発力の大きい火山など、「選択と集中」の考え方の下に、平成20年に測地学分科会火山部会で、火山噴火予測の高度化に資する研究を進める価値の大きい16火山(重点火山)を選択し、それらの火山を中心に、重点的に観測研究を実施している。
○ しかしながら、今般の御嶽山の噴火を踏まえると、水蒸気噴火を引き起こす火山に関しては、必ずしも現時点で活動度が高いと評価されていなくとも、大きな災害につながる可能性がある。火山災害の軽減を目指す5か年計画の目標を考慮すると、このような火山についても研究を強く進める必要がある。このため、これまでの重点火山の考え方を広げ、研究的価値の大きい観測データの蓄積を一層図るために、16火山のほかに、原則として、平成21年以降に火山情報が出された火山や、比較的最近に噴火が発生し、噴気活動が継続している火山についても火山観測研究体制の状況に応じた観測研究を実施することが重要となる。このような火山の例として、御嶽山をはじめ、雌阿寒岳、十和田、蔵王山、吾妻山、那須岳、弥陀ヶ原、焼岳、九重山が挙げられる。なお、十和田、弥陀ヶ原等の定常観測点が少ない火山については、当面、関係機関からの提供データ等も活用する。(参考資料参照)

(集中的な機動観測研究体制の構築の検討)

○  限られた研究リソースで対象となる火山について効率的に観測研究をしていくためには、「選択と集中」により研究対象とする火山を絞り込む必要がある一方で、噴火としての規模が小さいものの、被害が甚大となる噴火についても、研究的価値の大きい観測データを蓄積していくことは研究上極めて重要である。このため、全国の研究機関の研究者が共同し、集中的に多項目の観測研究を行う体制を構築することを検討する必要がある。
○ また、こうした体制の構築により、例えば、重点研究の対象以外の火山も含めて、火山性地震の増加、地殻変動や熱消磁の加速など、平常と異なった活動が見つけられた際にも、全国の研究機関の研究者による機動的な観測網を即座に展開し、緊急観測研究の実施が実現できるようにする必要がある。

(計画的な観測研究施設の更新)

○ さらに、「選択と集中」の下にこれまで観測研究を行ってきた火山に関しても、継続的に観測研究を実施し、火山噴火のメカニズムの解明や噴火予測に関する知見を蓄積していくことが重要である。このため、故障、老朽化した観測機器等の計画的な更新を着実に進めていく必要がある。また、例えば大規模な火山噴火が想定される桜島では、観測機器及び観測坑道の整備等を着実に進めていく必要がある。

(地震の基盤的観測網の活用)

○ 平成7年の阪神・淡路大震災以降に整備してきた高感度地震計やGNSS連続観測点等の地震に関する基盤的観測網で火山性地震や火山性微動、地殻変動を検出・分析することにより、例えば、霧島新燃岳の噴火の際に、噴火活動の検知や火山活動の評価等に活用することができた。
○ このように、重点的に観測研究を進めている火山以外で突発的に火山活動が高まった際、火口付近の微小地震活動や山体変形を捉えるには限界があるものの、必要最低限の基礎的データ収集を行うために、既存の高感度地震観測網等が活用できる。このため、こうした基盤的観測施設の整備を進めていくことも重要である。

(火山観測データの一元的な流通と共同研究の推進)

○ 火山の観測データのうち地震計のデータに関して、気象庁や防災科学技術研究所のデータは流通しているが、大学間でのデータ流通はあまり進んでいない実態にある。観測データがリアルタイムで一元的に流通すれば、より多くの専門家による研究が可能となるため、データ流通を一層積極的に進め、研究機関の枠を超えた共同研究を一層推進する必要がある。これにより、火山の研究に携わる人材が増えることも期待できる。その際、傾斜計等のデータについても流通を進めるように努める必要がある。また、地方自治体等へのデータ流通に関しても促進方策を検討する必要がある。

(4)火山研究人材の育成

(研究人材の現状)

○ 近年の観測研究計画においては、共通する地球科学的な背景を持つ地震及び火山現象の観測研究を並行して進めることが効果的であるとされ、火山の研究においても地震学を専門とする研究者の参画を積極的に進めてきた。その結果、火山噴火予測研究に資する研究への貢献の濃淡はあるものの、火山関連研究者数は約330人となる。
○ 一方、実際に火山の観測点の維持・管理にも携わり、観測を基盤として火山噴火現象の解明や火山噴火予測研究を実施している火山研究者は約80人(うち、大学47人)と横ばい傾向にあり、単純に平均すると、1火山当たり1~2名の研究者が観測研究にあたっているとの計算となるが、多くの研究者が複数の火山を研究対象としながら、観測研究を担っているという実態にある。
○ 次代を担う若手研究者が少ない中で、将来的に観測研究を担う火山研究者の減少が懸念される状況にある。火山研究者の人材育成・確保は喫緊の課題であるが、当面の取組と中長期的な取組に分けて考える必要がある。

(他の分野領域との連携)

○ 当面の取組としては、地震研究者との一層の連携のほか、計算科学や人文・社会科学分野との連携を強化する必要がある。具体的には、今後の研究計画については、例えば災害誘因予測研究などで文理連携型の研究課題を着実に増やしていく必要がある。

(国際交流の促進)

○ 若手研究者が世界の多様な噴火様式を持つ火山の研究を経験出来るようにするためにも、各機関は、既存制度等を最大限活用しながら、海外からの研究者の招聘、共同研究、若手人材の海外研修・派遣等を更に推進していく必要がある。
○ 例えば、火山ガスや地球化学の研究者は国内的には極めて少人数であるが、欧米では火山研究の分野に一つとして確固たる位置を占めている。国際的な火山研究機関と連携して国際交流を進めることにより、火山学の裾野を広げ、国内火山研究コミュニティを活性化する必要がある。

(若手人材の確保・育成)

○ 研究人材は、研究の実施を通じて養成していくことが基本である。このため、中長期的には、プロジェクト研究等を通じて、特にポスドク人材の涵養を図るとともに、更に彼らが若い世代の教育にも関与していくことで、人材育成システムの好循環を構築していく必要がある。
○ また、火山学を志す学生をより多く集め、若手研究者を増やしていく必要があり、大学の枠を超えて、火山学コミュニティ全体で真剣にその方策を検討する必要がある。     
例えば、観測調査実習を含んだ大学間での共同集中講義の実施、火山学を学ぶための統合化カリキュラムの採用などの方策が考えられ、今後、関係者間で更に具体的な制度設計や行動計画の検討を進めていく必要がある。
○ さらに、大学や研究機関等においては、観測研究に携わる研究者のキャリアパスを確保するため、若手の准教授、助教等のポストの確保や、ポストドクターの年齢制限等採用要件の柔軟な運用、民間企業等との共同研究を通じた就職先支援等の具体策を講じるよう更に努力する。また、防災科学技術研究所や気象庁等の関係機関と、大学側との人材交流を更に押し進め、研究者の活躍の場を広げていくとともに、火山学を学んだ学生がその専門を活かして活躍できる就職先を多く用意できるようにする必要がある。
○ 以上のような取組をできる限り一体的に進め、プロジェクト研究等を伴う総合的な人材育成プログラムの構築を目指す必要がある。

(5)防災・減災対策への貢献

(顔の見える関係の構築)

○ 火山研究者が火山防災対策に貢献できる場として、火山防災協議会等への参画が挙げられるが、国の機関、地方公共団体、研究者間で「顔の見える関係」が構築されている例は一部の火山にとどまっている。このため、こうした場への積極的な参画等が必要であり、関係者間で調整し、環境条件を整えていく必要がある。
○ このような取組の下、火山研究者は地域に根ざした防災コミュニティのネットワークの中で、科学的な知見を助言する専門家としての役割が期待される。その際、それぞれの火山における実情に即した役割を果たすことが望まれる。とりわけ、地域防災への貢献を目指している地元大学の研究者等の更なる積極的な参画が期待される。

(火山観測データの社会への公開の促進)

○ 火山の観測データのうち、気象庁、防災科学技術研究所の地震計のデータは、広く一般にも公開されている。広く国民に情報を知らせることにより、火山防災に対する理解が一層進むことが期待できる。このため、原則として、関係する全ての機関がデータを公開することが重要である。

(不確実な情報についての提供の在り方)

○ 現行の観測研究計画から、火山噴火予測のような不確実性を含む情報をどのように社会に活用していくかなどについての研究が始まったところであり、社会科学との連携を一層強化し、情報の発信等に関して研究を進めることが重要である。
○ 具体的には、地元関係者や登山者等に伝える様々な段階での火山情報の内容や伝達方法に関して、社会科学の研究者と連携して研究を進める必要があり、今後の研究計画に、そのような研究課題を増やしていく必要がある。

お問合せ先

研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)