東北地方太平洋沖地震震源域周辺における多項目・高精度モニタリングによる超巨大地震発生過程の解明

課題番号:1220

(1)実施機関名:

東北大学大学院理学研究科

(2)研究課題(または観測項目)名:

東北地方太平洋沖地震震源域周辺における多項目・高精度モニタリングによる超巨大地震発生過程の解明

(3)研究執行の形態

1.新規に研究課題を立ち上げる
2.従来ある研究課題の研究計画に修正を加えて実施する
(現研究課題番号:1205、 1205、 1206)

課題番号 1202(内容を変更して本研究課題に移行)
宮城県沖プレート境界の多項目・高精度モニタリングによる大地震発生過程の解明

課題番号 1205(一部を本課題に統合)
アスペリティの特性解明に向けた観測研究

課題番号 1206(一部を本課題に統合)
ゆっくり滑りの発生機構とアスペリティの相互作用の解明

(3)もっとも関連の深い建議の項目

5 超巨大地震に関する当面実施すべき観測研究の推進

(2) 超巨大地震とそれに起因する現象の予測のための観測研究

ア.超巨大地震の震源域における地殻活動のモニタリング

(4)その他関連する建議の項目:

見直し前の建議の項目番号
1.(1)イ.
2.(2)(2-1)ア、イ.

(5)これまでの関連する研究成果(または観測実績)の概要(もしも継続課題ならば):

本課題では、近い将来発生することが懸念されていた宮城県沖地震の震源域周辺における総合的なモニタリングを進めてきた。2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(M9.0)の破壊の開始点は、こうした重点観測が行われている宮城県沖の海底下にあったため、本震2日前の3月9日に発生したM7.3の前震を含め、本震とそれに至る過程が克明に記録された。
 前震とその余効すべりによる地殻変動が海陸の地殻変動観測により捉えられ、それに基づいてすべり分布が推定され、前震から本震にすべり域の移動が明らかとなった。本震に伴う地殻変動の観測データの解析により、地震時には50mを超える大きなすべりが発生し、その大部分が宮城県沖の海溝軸近傍に局在していることが明らかとなった。本震発生に引き続く余効変動の観測も継続中であるが、海溝近傍に1mを超えるようなすべりが、地震発生後半年経過しても引き続いている可能性が示されている。
 地震時に非常に大きなすべりがあった領域は、定常的には全く地震が発生していなかった部分と対応する。一方、この領域の上盤側は顕著な高Vpで特徴づけられており、巨大すべりの発生には、定常地震活動度に反映されるような摩擦特性が影響し、それが地殻構造不均質によっている可能性が指摘される。また、本震震源域深部においても、上盤側である前弧マントルの地震波速度不均質と地震時すべり量の分布との間に相関が見られる。
 また、前震活動がみられた地域ないしその海溝側の地域では、2008年にゆっくりすべりイベントが検知されており、同様のイベントが2011年の2月にも発生していた可能性がある。本震時に大きなすべりが見られた領域であることから、そこでの摩擦特性を理解する上で重要な観測事実である。
さらに、地球化学的なモニタリングとして進めてきた大気中ラドン濃度変動の観測の結果2010年6月頃からラドン濃度の年周変動のパターンが崩れるとともに増加傾向に転じており、東北地方太平洋沖地震の発生との関連について検討を進めている。
2011年4月11日にいわき市で発生した地震(M7)の10日後から約50日間、余震域内にある深度1000m前後の2本の孔井を借用して水位変動を臨時観測した。水位相当体積歪は約3×10-10/mmであった。観測期間中に27個の地震(M3.3~5.5、震源距離7.7~105km)に伴う水位変動を観測し、観測事例の92%に関しては食い違い弾性論による体積歪理論値で説明できることが分った。本震に伴う水位変化は8mと10mに達したことも判り、これも静的体積歪変化で説明できた。地震に先立つ20分から3時間の間に8mmに満たない水位変動が約30%の観測事例に認められた。変動は有意であるものの、前兆変動である証拠は無い(以上は地質学雑誌、118、695-708に掲載)。なお、宮城県内の地下水観測網による観測は継続している。

(6)本課題の平成25年度までの到達目標:

 宮城県沖の海底観測デーを活用して、2011年東北地方太平洋沖地震の確度の高い震源モデルを構築する。また、同地震発生前に宮城県沖地震で得られたモニタリングデータから東北地方太平洋沖地震発生に至る過程を明らかにする。さらに、モニタリング観測を継続して実施し、同地震の余効変動の推移を明らかにする。

(7)本課題の計画の概要:

1.東北地方太平洋沖地震の震源像の解明

東北地方太平洋沖地震の震源像を明らかにすることが、超巨大地震の発生過程を解明する上での出発点である。宮城県沖で始まった破壊がなぜ超巨大地震に成長したのか、なぜ破壊が日本海溝全域にまで拡大しなかったのか、など基本的な問題が未だに未解明である。そこで、地震時にえられた地震・測地学的データ(特に、震源域およびその周辺で取得されたもの)の再解析を通して、この地震の震源モデルの再検討を行う。

2.東北地方太平洋沖地震発生に至る過程の詳細解明

  ・東北地方太平洋沖地震が発生するまでの相似地震・海陸測地データの再解析を行い、サブテーマ1で明らかとなった震源モデルに従うような超巨大地震の発生につながると解釈できるようなプレート間固着・すべり過程があったか検討する(平成24、25年度)
 ・東北地方太平洋沖地震の発生直前の数ヶ月間に海陸の観測データで捉えられた微小地震活動・地殻変動に着目し、超巨大地震が発生するに至った過程を詳細に明らかにする。
 ・過去に宮城県沖で発生したプレート境界型地震にともなう非地震性すべり(主として余効すべり)と、東北地方太平洋沖地震の前震とそれに伴う余効すべりの特徴を比較することにより、超巨大地震発生に至る場合とそうでない場合とで、非地震性すべりの活動に相違が見られるかを検討する。
 ・東北地方太平洋沖地震発生前後での大気中ラドン濃度の時間変動に関するデータの収集をすすめて再解析を行うことにより、地震発生に伴う地球化学的観測データの異常検出を試みるとともに、異常が検知できた場合にはその特徴を詳細に明らかにし、その原因となる素過程解明も明らかにする。
 ・定常的な地下水変動観測を継続する。大地震が起こったなら、いわき地震の際と同様な臨時観測をより迅速に開始し、前兆変動の観測に努める。

3.余効すべりの時空間分布とそれに起因する地殻活動状況の総合モニタリング

 ・陸上観測に基づく小繰り返し地震解析によりプレート間すべり速度の時空間変化を推定する。それと同時に海陸において測地観測(GPS、GPS/A、海底水圧観測など)を行い、それに基づいてプレート間すべり速度の時空間分布を推定する。これには、小繰り返し地震のスケーリング則の高度化や、GPSデータを用いた逆解析手法の再検討などを含む。
 ・地震時すべりが大きかった宮城県沖から余効すべりが進行していると考えられる岩手県沖において海底地震観測を実施し、プレート境界に沿った地震活動度の時空間変化を明らかにする。地震時すべりが大きかった領域で低下したプレート境界近傍の地震活動の回復過程、その周囲の余効すべり域との境界域における地震活動の変化などから、断層の強度回復過程の解明を目指す。
 ・海底に露出した断層の近傍において海底ゆう水量観測を実施し、海底地震・地殻変動観測により検知されるゆっくりすべりイベントの発生と、ゆう水イベントの対応を明らかにすることにより、浅部プレート境界におけるゆっくりすべりイベントへの流体の関与の実態を明らかにする。
・大気中ラドン濃度の観測を継続し、今後発生しうる大地震に先行するあるいは発生に伴う大気中ラドン濃度変動現象の異常検出を試みる。異常が認識された場合、東北地方太平洋沖地震の発生時の変動との共通点・相違点の検討を行い、地球化学的異常の発生過程の理解を図る(平成24、25年度)。そのために、国内に存在する医科大薬科大放射線管理施設の放射線観測データを用いてモニタリングするためのネットワークを構築する。
・東北地方太平洋沖地震を挟んだ長期的地下水変動のデータを解析し、余効すべりなどとの対応を検討する。

(8)実施機関の参加者氏名または部署等名:

日野亮太・長濱裕幸・大槻憲四郎・木戸元之・伊藤喜宏・内田直希、他計10名程度
共同研究:有
 海底観測については、東京大学地震研究所、海洋研究開発機構、海上保安庁、気象庁地震火山部、仙台管区気象台との共同研究の一環として実施する。

(9)公開時にホームページに掲載する問い合わせ先

部署等名:東北大学大学院理学研究科 地震・噴火予知研究観測センター
電話:022-225-1950
e-mail:zisin-yoti@aob.geophys.tohoku.ac.jp

(10)この研究課題(または観測項目)の連絡担当者

氏名:日野亮太
所属:東北大学大学院理学研究科
電話:022-225-1950
FAX:022-264-3292
e-mail:hino@aob.gp.tohoku.ac.jp

お問合せ先

研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)

-- 登録:平成25年04月 --