「地震予知のための新たな観測研究計画の実施状況等のレビューについて(報告)」のポイント

2002/04/02
科学技術・学術審議会測地学分科会

地震予知のための新たな観測研究計画の現状

[実用的な地震予知の現状]

 実用的な地震予知については、一定の場合に可能と考えられる想定東海地震を除き、プレート境界地震と内陸地震を問わず困難であり、また、地震予知の実用化のめどや道筋も単に観測体制やその精度の問題だけでなく、前兆現象が明確に現われない場合を含めて複雑多岐であり、信頼性のあるデータが蓄積されていないこと等から、現在においても立っていない。

[地震予知のための新たな観測研究計画の基本的考え方]

 「地震予知の実用化への目処は現段階においても立っていない」という平成9年度のレビューの指摘を踏まえ、本観測研究計画は、地震予知を狭く地震発生直前予測と位置付けるのではなく、"地震発生に至る全過程を理解することにより、その最終段階で発現が予想される現象の理解を通して、信頼性の高い地震発生予測への道筋を開くことを現実的課題とすべきである"との基本的認識に基づき策定している。具体的には、地震発生直後から次の地震発生に至る応力蓄積過程を地震発生準備過程と位置付け、その進行状況を把握する。次に、応力蓄積過程の把握に基づき、既に地震発生直前の状態にあると認定できる場所を検出し、応力再配分の過程を理解するための集中的観測研究が求められる。さらに、このような観測研究と連携して、地震発生準備過程のモデル化によるシミュレーション手法を確立していくという総合的かつ現実的アプローチを推進する。このようなアプローチによる研究の積み重ねにより、総合的地震予測システムを構築し、地震発生予測の高度化を進めていくことが新しい視点に立つ計画の目標となる。

[地震予知のための新たな観測研究計画による主な成果]

○ アスペリティー分布、非地震性すべり、固有地震、相似地震などにより、プレート境界域における固着状態の時空間変化の研究が進み、地震発生予測に向けて応力蓄積状況を把握できる見通しが付いた。このことは、大地震発生の長期予測だけでなく、強震動予測にとっても大変重要な成果である。

○ 断層面上でのすべり量が不均一であることは、内陸地震においても同様であることが分かり、非地震性すべりによるアスペリティーへの応力集中が内陸地震においてもやはり基本的な地震発生機構であろうと考えられるようになった。

○ 内陸地震に関しては、地震発生場としての地殻構造の解明など、幾つかの大きな成果はみられるものの、これらを統合し、プレート境界地震に対する地震像のような具体的イメージを描ける段階には至っていない。

○ モデル化及びシミュレーションにおいても、要素モデルの構築や、横ずれ型プレート境界での地震発生サイクルシミュレーションモデルの構築といった成果が出始めているが、観測研究の成果を取り込んだ統合化モデルの構築には至っていない。

[観測研究計画推進のための体制の整備]

○ 国の基盤的調査観測計画により、全国に高密度の地震観測網・GPS観測網が整備され、地震予知研究の基本となる地殻活動モニタリングシステムを構築するための基盤が整備。

○ データ公開・流通のためのシステム整備がなされ、これにより高感度地震観測データの一元化処理が始まるなど、業務機関と大学等の研究機関がそれぞれの機能に応じて適切な役割分担と連携・協力を行う体制が構築。

今後の課題と展望

[観測研究計画の今後の基本的な考え方]

 地震予知の現状を踏まえ、地震予知の実用化については、将来の課題としつつ、上記の観測研究計画の基本的な考え方に沿って、今後も推進する。

[観測研究計画の今後の課題]

○ プレート境界域では、大地震発生繰り返し間隔のゆらぎの時間幅(数十年程度)での長期予測ができるという現段階から、予測時間幅を更に小さくしていくことがこれからの具体的課題。 特に、以下に指摘する問題の解明が急がれる。(1)アスペリティーの実体。(2)地震の最終的な大きさ。(3)大地震発生前の非地震性すべりの時間変化。(4)アスペリティーと震源(破壊開始点)との関係。
 今後は、観測研究からの成果を取り入れた地殻活動・地震発生シミュレーションモデルを構築し、地震発生に至るアスペリティーでの応力蓄積過程のどの段階にあるかを知るという地震発生予測の次の段階に進むべきである。

○ 内陸地震は、一般に規模が小さく、繰り返し間隔が長い。地震発生サイクルの種々の段階にあると考えられる多くの地震を調査することにより、内陸地震の発生サイクルの一般性を抽出する。そのためには日本列島の代表的地域での事例の集積が必要。

[観測研究計画の推進]

地震発生に至る地殻活動解明のための基礎研究の推進

○ 強震動記録の解析結果から得られたアスペリティー分布は、地震発生及び強震動の予測にとって極めて重要であり、アスペリティーの実体を解明するためには、今後、テストフィールドを設定し、強震動記録解析と、構造探査、地殻変動解析、数値シミュレーション等を総合的に推進することが必要。

○ 海底における観測を強化することによってプレート境界におけるカップリング強度の空間分解能を上げ、プレート境界における固着‐すべり現象の実態の解明を図ることが必要。

○ 地震発生層の下に存在すると思われる地殻内流体が地震発生にどのようにかかわっているのかという重要な問題に対し、今後は、地震学的、電磁気学的、地球化学的手法により、地殻流体の分布をより詳細に調べるとともに、その時間変化の検出をも視野に入れた観測研究が必要。

○ 強震動の予測の精度を向上させるためには、不均質構造の影響についても研究を進めることが重要であり、今後は、震源過程、破壊の開始点とアスペリティー分布、震源断層の形状、3次元地殻不均質構造、表層地盤構造等を考慮した統合シミュレーターとして組み上げることが必要。

地殻活動モニタリングシステム高度化のための観測研究の推進

○ GPS広域地殻変動観測システムと地震観測システムを含めた多様な観測データを有機的に統合して、地殻活動の全体像を把握できるシステムの構築が必要。また、モニタリングシステムの高度化に向けて、地震発生に至る地殻活動解明のための観測研究の成果と、地殻活動シミュレーションの成果を取り入れることが必要。

○ モニタリングシステムから生み出される膨大なデータが、地殻活動の常時監視を含め、様々な要請に対応する形で迅速に処理・解析され、広く有効活用されるよう、データ処理・流通体制の一層の整備が必要。

地殻活動シミュレーション手法と観測技術の開発

○ プロトタイプの地殻活動統合シミュレーションモデルを地震予知への応用に向けて発展させていくためには、大学等の研究グループが中心となって、モデリング及びシミュレーション手法の高度化のための基礎研究を推進していくことが必要。

○ GPS観測技術については、データベースを拡張し幅広い研究者へ利用できるものとすること、準リアルタイム解析において精密解との一致を目指して精度を改善すること、リアルタイム化を推進するためのシステムの開発・拡充などを進めることが必要。

○ 海底地殻変動観測については、解析精度の向上など有効性が確立されてきたが、船上におけるキネマティックGPS測位や音響測距技術の一層の高度化を図るとともに、観測海域の拡充を進めることが重要。

[観測研究計画推進のための体制の整備]

○ 地震調査研究推進本部の発足により、地震予知連絡会が担ってきた地震・地殻活動の評価機能については、地震調査研究推進本部の地震調査委員会に引き継がれてきているが、地震予知研究に関する学術的情報及び意見交換の場としての地震予知連絡会の役割は重要であり、今後一層、その役割を明確にしてその機能を果たしていくことが必要。

○ 国立大学の法人化に伴う諸問題がある。法人化により、各大学の独自性が強まることが予想されるが、地震予知のための観測研究においては、これまでと同様、各大学の連携・協力は必須の条件である。これをいかに確保し、更に強固なものにしていくかが重要。

○ 現在、地震調査研究推進本部の発足により、国として政策的に必要な地震調査研究は、同本部の方針の下に行われている。地震予知のための観測研究は、同本部の「地震調査研究の推進について」(平成11年4月)において、当面推進すべき地震調査研究の一つとして位置付けられているが、今後、この観測研究計画の在り方や具体的な位置付けをどう考え、どのように推進していくかについては、十分検討を行っていくことが必要。

お問合せ先

研究開発局地震調査研究課