「第6次火山噴火予知計画の実施状況等のレビューについて(報告)」のポイント

2002/03/29
科学技術・学術審議会測地学分科会

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「第6次火山噴火予知計画の実施状況等のレビューについて(報告)」のポイント


第6次火山噴火予知計画の現状

[火山噴火予知の現状と成果]

火山噴火予知の現状

○年次計画による観測網の整備と実験観測の推進により,噴火の前駆現象の検知及びそれらに基づく噴火予知に関しては着実な成果が得られた。
○有珠山や三宅島の例のように,適切な観測体制を整え,信頼性のある観測データの蓄積を行えば,前兆現象をとらえ,噴火の発生時期をある程度予測できる例が増えているが,噴火開始前に噴火様式や活動推移を予測することや,噴火当初から活動終息時期を予測することは困難。

第6次火山噴火予知計画による主な成果(噴火予知に直接関係のあるもの)

○有珠山噴火では噴火前兆現象の推移を着実にとらえ,更に適切な情報発信が行われた結果,噴火前の住民避難につながった。また,三宅島噴火でも,噴火前兆をとらえるとともに,当初のマグマの移動については確実に把握することができた。しかし,噴火開始後の噴火推移の予測については依然として解決すべき問題が残されていることも明らかになった。
○地震計,傾斜計,歪計など火山体内の観測井への設置が,高品位のデータの取得を可能にし,火山活動の理解や前兆現象の把握に有効であることを確認。
○岩手山のように,静穏期の長い火山であっても,精密な観測を実施すれば微小な前兆現象を的確に把握できることを確認。


[火山噴火予知高度化のための基礎研究の推進]

構造探査

○火山構造探査実験による火山の浅部構造の情報が火山性地震の震源決定精度の向上に大きく寄与したが,現状の手法では探査深度が3km以浅に制限されており,マグマ溜まりの探査にまでは到達していない。

噴火発生機構の解明

○広帯域地震観測や地殻変動観測の活用により,火山性地震や微動の発震機構の解明が進み,火山流体の運動と関連させて議論できるようになったが,力学的取り扱いにとどまっている。


[火山噴火予知体制の整備]

○大学において地域センターの整備が完了し,地域センターと現地の観測施設で構成される全国ネットワークの形成が行われるとともに,気象庁において火山監視・情報センター(全国4カ所)を設置するなど,観測研究,監視のための組織整備が進展。

[火山噴火予知研究と地域社会]

○有珠山や岩手山では,研究者との交流やハザードマップの整備が地域の行政や住民の火山に対する理解を深め,有珠山の場合には噴火の前兆発現時の適切な行動につながった。



今後の課題と展望

[火山噴火予知計画の今後の課題]

○現状では,噴火開始前に噴火様式や活動推移を予測することや,噴火当初から活動終息時期を予測することは困難であり,また,噴火開始後に活動様式が大きく変化する場合の推移予測などについても容易ではないことを踏まえ,火山噴火予知高度化のためには基礎的研究の一層の推進が必要。


[監視体制の強化]

○いまだに監視観測が不十分な活火山も存在することから,火山噴火予知連絡会での活火山の見直し,ランク分けの検討結果を踏まえ,火山活動度,防災上の重要性に応じて,全国の活火山で順次監視体制の整備が必要。
○観測井を活用した高品位観測データは,活動的な火山の監視や長期間にわたって休止状態にある火山の活動再開の前兆把握にも有効であるので,監視体制の強化に当たっては,高品位観測データの取得を考慮した検討が必要。
○噴火の前兆期間が短かった有珠山や三宅島の教訓として,緊急時における的確な活動予測を行うには,常時監視観測に加えて,より迅速で機能的な移動・機動観測を可能とする機材の整備や緊急観測体制の在り方の検討が必要。
○三宅島噴火では,一時観測が中断する事態が生じたが,噴火時の観測データの取得は,現状の把握と推移予測に不可欠であるだけでなく,火山学を急速に進展させることにもなり,ひいては次の噴火の予測精度を高めることにもなる。このため,火山活動時の悪条件を想定した観測システムの開発が必要。


[火山噴火予知高度化のための基礎研究の推進]

構造探査

○今後とも対象火山を増やしていくとともに,深さ5~10km付近にその存在が予想されているマグマ溜りの探査には,人工地震の規模を含め探査実験に関した抜本的な改善策が不可欠。

噴火発生機構の解明

○火山流体の移動を把握するためには,地震学的手法や地殻変動解析などによる力学的解明に加え,脱ガス過程など物質的な変化も考慮した総合的な理解へと向かう必要があり,このためにはマグマ中への揮発性成分の溶解度の圧力依存性,組成依存性などについての研究を一層推進することが必要。

富士山での取組

○噴火ポテンシャル研究のテストフィールドとした富士山では,応急対応的観測網は整備されたが,低周波地震のメカニズム解明や深部でのマグマ活動の把握による適切な活動評価にむけて,更に高品質なデータを広域的に取得できる観測体制の構築と噴火ポテンシャル評価のための基礎研究が必要。


[火山噴火予知体制の整備]

○火山噴火予知計画で整備され,現地に根ざした観測を担ってきた各大学の観測研究施設等の存続は重要。また,火山噴火予知のための共同研究プロジェクトの効率的推進と,総合的観測研究の継続,人材育成のための教育等を全国的なネットワークの下で円滑に推進していく上で,大学の全国共同利用研究所機能の拡充・強化が必要。
○気象庁は火山情報の質的向上を図るため桜島火山などの火山活動のレベル化を部内試行しているが,早急に本格的試行に移行するとともに,今後対象火山の数を増やすための検討が必要。そのためにも,火山活動の的確な評価と適切な情報の公表・解説の機能を一層高める必要があり,研修や研究機関との交流を進めることが必要。


[火山噴火予知研究と地域社会]

○火山防災の観点からは,噴火予知に関する啓発活動等を現地自治体と協力して推進するなど,各地域との密接なコミュニケーションの確立が重要。