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当面の富士山の観測研究の強化について(報告)

2001年7月25日
科学技術・学術審議会測地学分科会

当面の富士山の観測研究の強化について

(報告)
平成13年6月
科学技術・学術審議会
測地学分科会火山部会

目次
   
1. はじめに
   
2. 観測研究の経緯
     
  (1) 第6次火山噴火予知計画以前の主な取組
     
  (2) 第6次火山噴火予知計画における取組
   
3. 観測研究の現状と課題
     
  (1) 富士山の活動を評価するための火山観測体制の強化
     
  (2) 富士山の活動機構を解明するための基礎研究の推進
     
  (3) 関係機関の連携・協力と研究成果による社会への貢献
   
4. 関係各機関における当面の観測研究実施計画

 


 

1. はじめに
     測地学分科会(当時測地学審議会)は,平成10年8月に「第6次火山噴火予知計画」(平成11年度〜平成15年度)を関係大臣に建議したが,現在,これに基づき関係機関において,火山についての観測研究の推進が図られているところである。
   平成12年10月以降,富士山の地下10〜20kmにおいて,低周波地震(以下,深部低周波地震という。)が急増し,その後,一旦減少したものの平成13年4月末に再び増加するなど,通常と比べて多い状態が続いている。
   深部低周波地震が急増した富士山について,地殻変動などに異常なデータは今のところなく,直ちに噴火する兆候は観測されていない(平成13年6月現在)が,国内外の研究事例から見て,深部低周波地震は,何らかの深部マグマ活動に関連して発生していると考えられる。今後の活動の推移について,注意を払っていく必要があり,また,国民の関心も高まっているところである。
   測地学分科会火山部会(以下,本部会という。)としては,極めて異例のことではあるが,次の理由から,「当面の富士山の観測研究の強化について」の取りまとめを緊急に行った。
     
     富士山については,第6次火山噴火予知計画において休止期間の長い火山(富士山については1707年[宝永4年]の噴火以来,噴火活動はない。)の噴火ポテンシャル研究の対象としているが,何らかのマグマ活動と関連して発生していると考えられる深部低周波地震が増加していることから,早急に観測研究を強化し,活動の変化を的確に把握できるようにする必要があること。
     
     富士山は,「2.観測研究の経緯」に記したように,一定の観測研究は行われているものの,休止期が長かったことや山体も大きいことから,火山活動を的確に評価するための観測の体制が,なお不十分であり,また,噴火メカニズムの解明のための基礎研究も十分に行われていないこと。特に,マグマ活動に何らかの関連があると考えられ,世界的に見ても重要な研究対象である深部低周波地震の発生メカニズムやマグマ溜まりなど地下のマグマ供給系について,基礎研究を進める必要があること。
     
     富士山のように休止期間の長い火山については,世界的にも本格的に取り組んだ例がほとんどなく,火山噴火予知の分野で先導的役割を果たしてきた我が国が取り組むべき重要な研究課題であり,富士山の観測研究は,学術的な重要性も高いと考えられるが,これに取り組むに当たっては,その方針について関係機関や火山学者の間で十分な検討が必要であること。
     
     山体も大きく,かつ地質学,地球物理学,地球化学など多分野にわたる多項目の観測研究が必要となる富士山について,観測研究を的確に実施するためには,当面行うべき観測研究を明確にするとともに,関係機関の適切な連携・協力を図る必要があること。
   
     本部会では,富士山の観測研究の経緯や現状を分析し,第6次火山噴火予知計画を踏まえて,富士山についての課題と当面(3年程度)の観測研究の強化について,以下のとおり,取りまとめた。
   本部会としては,この報告書に基づき,関係行政機関を含む関係機関が,適切かつ早急にこの課題に取り組むことを期待している。
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2. 観測研究の経緯
  (1) 第6次火山噴火予知計画以前の主な取組
       第3次火山噴火予知計画(昭和58年)において,富士山は「活動的火山及び潜在的爆発活力を有する火山」の一つとして位置付けられ,大学,気象庁及び防災科学技術研究所による地震,傾斜の観測強化を開始した。また,大学による集中総合観測を昭和54年及び61年に,気象庁による基礎調査観測を昭和57年,63年及び平成6年に,国土地理院による重力測定を昭和62年,水準測量を昭和63年に実施した。
     
  (2) 第6次火山噴火予知計画における取組
       第6次火山噴火予知計画(平成11年度〜15年度)においても,引き続き「活動的火山及び潜在的爆発活力を有する火山」の一つとして位置付け,観測研究を実施することとした。
       特に,第6次火山噴火予知計画では,「火山噴火予知高度化のための基礎研究の推進」を重要な課題としたが,その課題の一つとして,休止期間の長い火山の噴火ポテンシャル評価に向けて,噴火の長期予測を含め,規模,様式,推移の予測手法を確立するための研究を行うこととしている。具体的には,富士山等をテストフィールドとして,ボーリング等を用いた火山体の3次元的な地質・岩石学的解析及び噴出物の年代推定を行い,噴火史を定量的に解明することとしたが,現在,本格的な着手には至っていない。
       平成12年10月以降,富士山深部の地震活動,特に深部低周波地震の活動度が,それ以前に比べて高い状態にある。地殻変動観測及び浅い火山性地震の活動度からは噴火が間近に迫っている兆候は認められないものの,深部低周波地震は何らかの深部マグマ活動に関連があると考えられることから,緊急の措置として,大学,防災科学技術研究所,国土地理院,産業技術総合研究所地質調査総合センター(以下,地質調査総合センターという。)により,観測点を増設し,観測研究の強化を図った。
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3. 観測研究の現状と課題
  (1) 富士山の活動を評価するための火山観測体制の強化
  (地震観測の強化)
       富士山周辺では,大学,気象庁及び防災科学技術研究所による既設10個所での地震観測に加えて,深部低周波地震の急増以降に,大学及び防災科学技術研究所による広帯域地震計等による地震観測の強化を行った。しかし,火山体の大きさを考慮すると,観測点密度がなお低い状況にある。特に,中腹から山頂域の観測点が不足していて,浅い火山性地震の検知能力が十分ではなく,その震源と発生メカニズム,深部低周波地震活動との関連などの解明を困難にしている。また,マグマ活動に何らかの関連があると考えられる深部低周波地震についても,その発生メカニズムを解明するには,なお不十分である。火山活動を的確に評価するためには,浅い地震及び深部低周波地震の活動状況並びにそれらの発生メカニズムを解明することが重要であり,山頂域を含め稠密な地震観測網の整備を行うとともに,深部低周波地震の震源域近傍の富士山中腹域に観測井を設置するなど,高品位の地震データを取得するための観測点の整備も必要である。
   
  (地殻変動観測の強化)
       富士山周辺では,GPS,水準測量,光波測量,傾斜観測等の地殻変動観測や重力測定,地磁気観測を,防災科学技術研究所,国土地理院,地質調査総合センター等によって実施している。また,深部低周波地震の急増以降,大学により,中腹を中心として,GPS,傾斜観測,磁力観測の観測点を増設した。しかし,なお,中腹以上での観測点が不足しており,地震観測網の整備と併せて,地殻変動観測等の強化を図り,噴火の準備としてのマグマ蓄積過程やマグマ移動・上昇を捕捉することが重要である。
     
  (2) 富士山の活動機構を解明するための基礎研究の推進
  (噴火履歴の調査)
       富士山の噴火史については,大学や地質調査総合センター等による地質調査や文献資料に関する研究からその概略については分かっているが,歴史時代の小規模な噴火を含めて過去1万年の噴火活動の詳細は分かっていない。噴火の長期予測を含め,規模,場所,様式,推移についての予測手法を確立していくためには,過去1万年の噴火活動について,規模,様式,活動の推移を定量的に把握しておくことが不可欠であり,そのために噴出物の分布等のトレンチ調査と併せて,ボーリングやピストンコアを用いた噴出物の地質学的,岩石学的及び年代学的解析を推進する必要がある。
   
  (構造探査)
       深部低周波地震等,火山性地震の発生メカニズムの解明と噴火の規模,様式などの予測には,富士山の浅部から深部の地下構造を探査し,地震発生場の性質及びマグマ供給系(マグマ溜まりやマグマ貫入領域など)について理解を深めることが不可欠である。そのためには,火山体浅部構造や基盤構造を調べるための,人工震源を用いた探査や重力・電磁気探査などを実施する必要がある。また,深部低周波地震の発生領域及びマグマ溜まりなどを含む富士山の深部構造を解明するため,自然地震等の高密度観測による深部構造探査が必要である。
   
  (集中総合観測等)
       富士山の活動の現状を総合的に評価するために,各大学は協力して集中総合観測を実施する必要がある。さらに,火山活動に伴う地形変動を広域に把握するために,航空機搭載合成開口レーダ等の測定技術の開発を進めつつ,富士山を対象に観測を実施し,基礎的なデータの蓄積を図る必要がある。
     
  (3) 関係機関の連携・協力と研究成果による社会への貢献
       観測研究を的確に進めるためには,関係機関の連携・協力が必要であり,特に,以下の点について配慮する必要がある。
       火山活動の的確な評価と迅速な火山情報発信,また,火山性地震の発生メカニズム等の研究の効率的な進展を実現するには,大学,気象庁,国土地理院,防災科学技術研究所等の間で,研究成果の交換及び必要に応じた観測データの共有等を一層図る必要がある。
       噴火史の解明に関する研究の効率的な進展を図るには,大学,地質調査総合センター等の関係機関が,これまでの成果の活用を含めて,連携して,調査研究の実施に当たる必要がある。
       火山性地震の発生メカニズムや深部低周波地震の震源域を含む富士山の深部構造の研究の迅速な進展を図るには,他の火山における研究成果や経験の活用を含め,関係機関が協力して取り組むことが必要である。特に,関係大学が連携して解析研究を実施するとともに,富士山周辺のテクトニクスの解析研究に当たっては,地震調査研究機関との連携が必要である。
       大学が協力して行う集中総合観測の目的の一つは,将来,各種の観測調査により得られるであろう多項目の観測データと比較し,活動を的確かつ総合的に評価するための基礎データを得ることである。集中総合観測により得られるデータが将来の活動評価及び研究に有効に活用されるよう,関係機関が実施する各種観測調査との連携を図りつつ,実施計画を策定する必要がある。
       関係機関や研究者が富士山における観測研究を効率的に実施するために,また,行政機関や社会が活用できる富士山の基礎資料として,地形図,地質図等の整備が必要である。
     
       以上の観測研究に基づく研究成果については,関係機関の研究及び火山噴火予知連絡会における富士山に関する火山活動の総合評価や噴火様式や規模等の推定に活かすことはもちろんのこと,速やかに研究成果を公開し,分かりやすい火山情報の発表,ハザードマップの作成・活用や大学等における教育など,広く社会に活かしていくことが重要である。また,シンポジウムを開催することなどを通じて,地方公共団体や地域住民に成果の普及を図っていくことも重要である。
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4. 関係各機関における当面の観測研究実施計画
     以上を踏まえ,当面(3年程度をめどに),関係各機関が実施する観測研究及び火山噴火予知連絡会の取組は以下のとおりである。
  気象庁
    1    火山機動観測の一環として,富士山の中腹域以上での地震観測を強化し,浅部の火山性地震の検知能力を向上させるとともに,中腹域以上で地殻変動観測を新たに開始する。
    2    以上のデータに加え,大学,防災科学技術研究所,国土地理院等からのデータ提供を受け,これらのデータを火山監視・情報センターで集中監視し,火山活動監視能力の強化を図る。
    3    富士山ワーキンググループの検討結果を踏まえ,火山情報の高度化を図る。
     
  国土地理院
    1    富士山の地殻変動監視のため,GPS連続観測点の整備を行い,観測を強化する。また,水準測量,重力測量,光波測距等の地殻変動観測及び地磁気観測を実施する。
    2    富士山の観測研究,ハザードマップ等の基礎資料として,富士山の火山基本図及び火山土地条件図の整備を行う。
    3    GPS観測等により得られたデータを基に,富士山周辺のテクトニクスに関する研究を行う。
     
  大学
    1    各大学は協力して,富士山の活動評価の基礎資料を得るために,地震,地殻変動,重力,電磁気,火山ガスなどの集中総合観測を緊急に実施する。また,人工地震等による火山体浅部構造探査に加えて,富士山とその周囲で長期間高密度地震観測を実施し,自然地震による深部構造解明のための調査研究を行う。
    2    富士山における,過去1万年の火山活動史の解明を目的に,地質調査総合センターと連携して,富士山北東部において,ボーリング,トレンチ,ピストンコア等による噴出物調査を行い,長期予測や噴火の規模,様式,推移の予測に関する研究を行う。
    3    既設の観測点,臨時観測点と併せて,高品位の地震,地殻変動等のデータを得るための複数の観測井で構成される立体アレー観測網を中腹域に設置する。それらのデータを用いて深部低周波地震の発生メカニズム等の研究の進展を図る。
     
  防災科学技術研究所
    1    既設の富士火山活動観測網に,観測井を用いた地震・傾斜観測点を富士山中腹に増設し,火山活動と地震活動・地殻変動の関連についての研究,深部低周波地震の発生機構についての研究及び富士山の地震波速度構造についての研究を推進する。
    2    富士山において火山専用空中赤外映像装置による温度観測を実施し,大学の集中総合観測等と併せて,富士山の活動評価の基礎資料を得る。
    3    他機関の研究者の協力も得て,所有するボーリングコアを解析し,噴火活動史解明の研究を行う。
     
  通信総合研究所
    1    火山活動に伴う地形変動を広域に把握するための手法開発を目的として,航空機搭載合成開口レーダによる観測を,富士山を対象に実施する。
     
  産業技術総合研究所地質調査総合センター
    1    富士山南西部について5万分の1地質図幅「富士宮」を作成するとともに,北西部の「富士山」作成に着手し,噴火活動史に関する研究を実施する。さらに大学と連携し,山体北部を中心にトレンチ等による噴出物調査を実施する。
    2    富士山体の地下構造を解析するために,重力の測定を行い,その構造解析を行うとともに,富士山のように高い火山体における空中磁気探査及び電気探査手法を開発する。
    3    既設GPS観測点による山体変動観測を継続し,テレメータ化を図る。
     
  火山噴火予知連絡会
    1    関係機関の研究成果に関する情報収集を行い,それを基に富士山の火山活動についての総合評価を行う。
    2    富士山ワーキンググループにおいて,富士山の過去の噴火資料等の収集・整理,それに基づく噴火様式や規模等の推定,監視のあり方及び火山情報についての検討を行う。
    3    関係機関相互の連携のため,富士山の観測研究に関する情報交換を行う。