プレート境界すべり現象モニタリングに基づくプレート間カップリングの解明

課題番号1509

(1) 実施機関名:

東京大学地震研究所

(2) 研究課題(または観測項目)名:

プレート境界すべり現象モニタリングに基づくプレート間カップリングの解明

(3)関連の深い建議の項目:

2.(2)ア.プレート境界滑りの時空間発展

(4)その他関連する建議の項目:

1.(2)イ.プレート境界巨大地震
1.(3)ア.プレート境界地震
1.(4)ア.構造共通モデルの構築
1.(4)イ.断層滑りと破壊の物理モデルの構築
3.(3)地震・火山噴火の災害誘因の事前評価手法の高度化
4.(2)ア.観測基盤の整備
4.(2)ウ.観測・解析技術の開発
4.(3)関連研究分野との連携の強化
4.(6)国際共同研究・国際協力

(5)優先度の高い地震・火山噴火との関連:

南海トラフの巨大地震,首都直下地震

(6)平成25年度までの関連する研究成果(または観測実績)の概要:

 プレート境界に発生する多様なすべり現象の活動特性や相互作用の存在を明らかにするなど,多くの研究成果が挙げられてきた.

(7)本課題の5か年の到達目標:

 プレート間カップリングの多様性と相互作用を詳細に把握し,そのメカニズムを明らかにすることは,巨大地震と他のプレート境界現象との相互作用の解明に資するとともに,プレート境界に対する理解を深めることで巨大地震の発生予測の高度化に貢献する.そのため,スロースリップイベントや深部低周波微動を含むスロー地震等の多様な滑り現象を高精度に把握し,それらの現象の時空間発展等の活動様式,とくに現象間の相互作用を明らかにするとともに,これらの多様なプレート間カップリングを規定する構造的要因を明らかする.また,相互作用によって発生する現象の誘発メカニズムを理解し,シミュレーションによって現象の再現を試み,巨大地震との関わり合いに関する知見を得る.特に,2016年に発生が予想される豊後水道の長期的スロースリップイベント(SSE)とそれに誘発される様々な滑り現象などについて,多項目のモニタリングを集中することにより,相互作用を含めた一連の現象のメカニズムを解明する.

(8)本課題の5か年計画の概要:

本研究計画は,以下のモニタリング,構造探査・シミュレーションから構成される. 

1.モニタリング精度向上とプレート境界すべり現象解明

1(1) 豊後水道における隣接すべり現象間の相互作用の解明

 豊後水道で2016年(平成28年度)に発生が予想される長期的SSEとそれによって誘発される多様なスロー地震群を正確に把握し,その時空間発展に基づいて相互作用を解明するため,豊後水道の周辺陸域に広帯域地震観測点,島嶼部にGPS観測点,海域に海底地震計・圧力計を設置し,長期的SSEの滑りパラメタや浅部超低周波地震の検出精度を向上させる.また地震波干渉法による地下構造の時間変化の抽出を試みるとともに,重力・電磁気観測の結果と比較し,すべりの時間発展と流体との相互作用を明らかにする.

[GPS観測]

(平成26年度)
 豊後水道周辺島嶼部の数か所に機動的GPS観測点を設置し,国土地理院GEONETのデータを加えて長期的SSEのすべり分布の時空間発展を推定するためのモニタリング体制を構築する.
(平成27~30年度)
 機動的GPS観測点によるモニタリングを継続し,長期的SSEが発生した場合には,国土地理院GEONETのデータを加えてすべり分布の時空間発展を推定する.

[陸域地震観測]

(平成26年度)
 浅部・深部超低周波地震等を把握するための機動的広帯域地震観測点や,地震波干渉法による長期的SSE震源域周辺の速度変化把握のための機動的短周期地震観測点の選定を行なう.
(平成27~30年度)
 機動的広帯域地震観測点を設置し,既存のデータ流通網を活用して防災科研にもデータ転送し,超低周波地震・深部低周波微動について従来の処理システムを活用したモニタリング体制を構築する.それに基づいて,長期的SSEの発生に伴う浅部超低周波地震や深部低周波微動・超低周波地震の検出を進める.また、地震波干渉法によるモニタリングを行なうとともに,過去データ解析を進める.

[海域観測]

(平成26~30年度)
海域に海底地震計や圧力計を数台設置して観測を実施し,海域観測機器を交換してモニタリングを継続するとともに,長期的SSE発生前の定常的活動及び長期的SSEに伴う地殻変動や超低周波地震を検出するためのデータ処理を行なう.

 機動的GPS・広帯域・短周期地震観測点については,長期的SSE終了後もその影響を見極めるためのモニタリングを継続する.長期的SSEが発生した場合には,海陸のデータを融合して各スロー地震の発生源の時空間発展を正確に推定し,現象間の相互作用を明らかにする.また,1(5)によって得られた重力変化や比抵抗変化,及び地震波干渉法による地下速度構造変化との比較から,すべりの時間発展と流体との相互作用を明らかにするとともに,シミュレーションモデルの構築に資するデータを提供する.

1(2) 東海地域における長期的・短期的SSEの時空間変化の 推定手法の高度化とプレート間すべりの解明

 東海地域は数年に及ぶ長期的SSEと一週間程度の短期的SSEが発生する場であり,これらの発生領域の特性を解明することが重要である.このため,東海地域に展開している大学連合によるGPS観測を維持・強化し,周期的に発生する短期的SSEを把握して滑りパラメタを高精度に推定し,当該地域における滑り収支を把握するとともに,長期的SSEの発生も期待されるため,発生した場合にはその滑りパラメタの高精度推定を行う.
(平成26年度)
 伊勢湾付近を中心として機動的GPS観測点を数か所設置し,既存の大学連合によるGPS観測点及び国土地理院GEONETのデータを加えて,東海長期的SSEや微動に伴って生じる短期的SSEのモニタリング体制を構築するとともに,短期的SSEを自動的に検出する手法の開発を進める.
(平成27~30年度)
 モニタリングを継続するとともに,周期的に発生する短期的SSEについて自動検出結果との比較に基づき,システムの改良を継続的に行う.長期的SSEが発生した場合にはその滑りパラメタの高精度推定を行う.前期の研究に基づき,短期的SSEと長期的SSEの特性を比較し,場の物理特性の違い等を解明する.

1(3) 房総SSEと群発地震活動との相互作用の解明

 房総半島に展開している機動的GPS・地震観測網や定常観測網を維持し,房総沖でこれまでも繰り返し発生しているSSEとそれによってトリガーされる小繰り返し地震を含む群発地震活動をモニタリングし,発生した場合にはその時空間発展に基づきこれらの相互作用を解明する.

[GPS観測]

(平成26~30年度)
 房総半島沿岸の機動的GPS観測点の維持を行なうとともに定常状態を把握し,房総SSEが発生した場合には,そのすべりの時間発展を正確に推定する.

[地震観測]

(平成26~28年度)
 委託研究で維持されている房総半島内のMeSO-net(大大特)の地震観測データを活用し,既存の地震観測データを含めて定常的な地震活動の把握を行なう.
(平成29~30年度)
 MeSO-net観測点を維持するとともに,房総沖SSEが発生した場合にはそれに伴う群発地震活動の高精度震源決定を行ない,SSEすべり域との時空間的関係を明らかにする.
 小繰り返し地震解析から準静的すべりのすべり量を推定し,測地学的推定結果との比較を行う.

1(4)西南日本スロー地震活動様式の解明

(平成26~30年度)
 深部低周波微動等のスロー地震カタログを用いて、セグメント構造・周期性・移動性・トリガリングなどのスロー地震活動様式の特徴を抽出し,巨大地震活動様式との類似性・相違性を明らかにし,活動予測モデルを構築する.

1(5) 重力・電磁気観測に基づくすべりの時間発展と流体との相互作用の解明

 南海トラフ等の長期的SSEの生じている地域において重力観測及び電磁気観測を実施し,摩擦構成則に関連する間隙流体圧の変動パターンを質量変化及び比抵抗変化を通じて捉えることにより,すべりの時間発展と流体との相互作用を明らかにする.

[重力観測]

(平成26~30年度)
 東海・四国・宮崎・房総等のSSE発生域において年1回程度の絶対重力観測を行う.平成29年度に豊後水道で絶対重力観測を連続観測に切り替え,SSEによる重力変化の常時監視を行う.平成30年度にSSEによる重力変化データをGPS,地震,電磁気データと統合し,流体とすべりとの相互作用をモデリングする.

[電磁気観測]

(平成26年度)
 1994-1995年,2000-2001年にわたって観測を実施した四国西部におけるネットワークMT法観測データをコンパイルし,四国西部広域深部3次元比抵抗構造を推定する.得られた構造に対して比抵抗構造の変化が予想される領域に対する地上電磁場観測点の感度を調べ,平成27年度からのモニター的観測の最適な観測点配置を検討するとともに,ネットワークMT・磁場観測点の選定,土地交渉等を行う.
(平成27年度)
 前年度に選定したネットワークMT・磁場観測点において,それぞれ長基線地電位差観測・磁場3成分観測を開始する.さらに,観測データの1次的解析(電磁場,磁場磁場間応答関数推定)を実施し,得られた応答関数が平成26年度で検討した感度を勘案して著しくデータの質が劣る観測点に関しては,観測の中止,ないしは移転を行う.
(平成28~30年度)
 電磁場モニター観測を継続し,豊後水道長期的SSEを含む応答関数変化の検出を試みるとともに,平成26年度における感度検定のために用いた従来のネットワークMT法データに,本研究で得られるネットワークMT法データをあわせて3次元構造解析を行う.
 得られた応答関数の変化について,3次元構造解析に基づいた感度行列から,応答関数変化を担う比抵抗変化領域と比抵抗変化値の決定を試みる.地震波速度構造の変化や,重力値変化から推定された密度構造変化をあわせ,SSEに流体移動の関与があったかどうかを定量的に検証し,SSEの時空間発展メカニズムを考察する.

1(6) 海域観測に基づくスロースリップと誘発現象との相互作用の解明

 既に沈み込み帯浅部においてSSEまたは低周波微動・超低周波地震が検出されている領域直上で,海底圧力計による上下変動観測をトラフ軸付近で実施し,浅部のSSE活動を詳細に調べて,それにより誘発される多様な地震活動を既設のケーブル式地震計記録などから検出する.さらに,観測されたSSEの時空間発展と誘発される地震活動の時空間的特徴を比較し,SSEによる誘発現象の物理プロセスを調べる.得られた知見に基づき,SSEにより誘発される地震活動の予測,特に発生時期に関する予測に向けた研究を行う.
(平成26~28年度)
 熊野灘や室戸沖の海底ケーブル式観測網の周辺に海底圧力計を設置し既存の観測データと併せて,特に沈み込み帯浅部で発生するSSEとそれに誘発される地震やスロー地震の活動を把握する.
(平成29~30年度)
 前年度からの観測を継続する. 熊野灘や室戸沖周辺で観測されたSSEと誘発される地震・スロー地震活動の時空間的特徴から,SSEによる周囲への応力の載荷速度の変化と誘発される地震・スロー地震活動との関係を明らかにする.また,東北日本や他地域で観測されたSSEとそれに誘発される現象も含めて,SSEとそれにより誘発される地震・スロー地震活動の予測モデルを構築する.

1(7) 余効すべりの物理モデルの構築と摩擦特性の推定

 速度・状態依存摩擦構成則に従う余効すべりと地震時・地震後のすべりによるマントルの粘弾性緩和の双方を考慮したプレート境界地震の余効変動の物理モデルを構築する.このモデルを2011年東北沖地震等のプレート境界地震後のGNSSデータに適用し,余効すべり発生領域の摩擦特性とマントルのレオロジーを推定する.また,観測された余効変動に対する余効すべり及び粘弾性緩和の寄与を分離することを試みる.
(平成26~30年度)
 弾性媒質を仮定して速度・状態依存摩擦構成則に従う余効すべりの物理モデルを構築する.このモデルを用いて,地震時のすべり分布や摩擦パラメータの分布が余効すべりに与える影響を調べる.このモデルを基に,地震時・地震後のすべりによるマントルの粘弾性緩和を取り入れたモデルを構築する.弾性・粘弾性モデルを用いて,東北沖地震等のプレート境界地震後のGPSデータを再現できるような余効すべり域の摩擦特性とマントルのレオロジーを推定する.

2.プレート境界すべり現象メカニズム解明のための地下構造異常の抽出とスロー地震・巨大地震の相互作用シミュレーション

 想定東南海地震・南海地震震源域の境界域の深部延長上を含む紀伊半島中央部や深部低周波微動活動が明瞭な北東部において,プレートの沈み込む方向に線状稠密アレイを展開し,地震波トモグラフィー解析・地震波干渉法解析・反射法解析等を実施することで巨大地震破壊域の広がりや様々な滑り現象を規定するプレートやマントルウエッジにおける構造不均質を抽出する.また,過去に実施された自然地震の稠密観測データの再解析に基づき,スロー地震の滑り特性の違いに対応する構造変化,深部スロー地震域セグメント境界・上端・活動様式の深さ依存性を規定する構造の抽出を行う.また,ここで得られた地下構造異常に関する情報に基づいて摩擦パラメタを設定してシミュレーションを行ない,1で得られた様々なプレート間すべり現象の発生様式や相互作用を説明するように,スロー地震活動様式を再現することを試みる.また,スロー地震と巨大地震の同時シミュレーションに基づき,巨大地震発生前後におけるスロー地震活動の長期的・短期的変化を抽出し,巨大地震の切迫度評価や発生予測に資する知見を得る.

2(1) プレート境界すべり現象メカニズム解明のための地下構造異常の抽出

(平成26年度)
紀伊半島で取得されている既存地震観測データの再解析を実施し,深部低周波微動の活動度が異なる紀伊半島北東部と中央部における地下構造の特徴を明らかにするのに最適な地震観測測線位置の検討を行う.既存地震観測データの再解析は,平成29年度に渡って実施し,微動発生域を含むプレートやマントルウエッジの詳細な構造を明らかにする.
(平成27年度)
 紀伊半島北東部の深部低周波微動が明瞭な領域を通る滋賀県甲賀市から三重県南伊勢町至る「甲賀‐南伊勢測線」(測線長 約90 km)で稠密自然地震観測を実施する.測線上の60か所に観測点を設置し,6か月間の連続観測を行う.
(平成28年度)
 「甲賀‐南伊勢測線」沿いで既に取得されている制御震源探査データと平成27年度に取得した自然地震観測データとの統合解析を実施し,深部低周波微動発生域を含むフィリピン海プレートやマントルウエッジの詳細な構造を明らかにする.
(平成29年度)
 紀伊半島中央部の低周波微動の活動が不明瞭な領域を通る測線(串本-橋本測線,測線長 約90km)に60か所の観測点を設置し,6か月間の自然地震観測を行う.また,測線下の詳細なP波速度構造を得る為に,測線上の3か所で発破を実施する.発破を実施する際には,既存研究で明らかになっている地殻深部の明瞭な反射面の,プレートの沈み込む方向における深度変化を明らかにする為に,450台のオフラインレコーダを設置する.
(平成30年度)
 平成29年度に取得した「串本-橋本測線」の制御震源・自然地震データの統合解析を実施すると共に「甲賀‐南伊勢測線」・「串本-橋本測線」と紀伊半島で既に取得されている観測データとの統合解析を実施することで,巨大地震破壊域の広がりを規定するプレートやマントルウエッジの地下構造異常を抽出し,地下構造異常が微動活動度に及ぼす影響を明らかにする.

2(2) スロー地震・巨大地震の相互作用シミュレーション

(平成26~30年度)
 深部低周波微動の分布や地下構造研究結果を考慮して長期的及び短期的SSE発生域における摩擦パラメータ(a-b)や有効法線応力を設定し,カットオフ速度を考慮したすべり速度・状態依存摩擦則を用いたシミュレーションを実施し,観測されるSSEを再現するようにパラメータを調節しつつSSE発生のモデル化を進めるとともに,巨大地震発生前後におけるスロー地震活動の発生間隔等の発生様式における長期的・短期的変化を抽出する.また,豊後水道長期的SSEに伴って発生する誘発現象についても,パラメータ調節によって観測された現象を再現可能なモデル化を進め,2016年に発生すると予想される長期的SSEの観測結果に基づいて,モデルの検証・改訂を行なう.

(9)実施機関の参加者氏名または部署等名:

小原一成・岩崎貴哉・酒井慎一・前田拓人・篠原雅尚・望月公廣・山田知朗・田中愛幸・今西祐一・大久保修平・

上嶋誠・加藤照之・福田淳一・五十嵐俊博・酒井慎一・飯高隆・蔵下英司・加藤尚之(東大地震研)

他機関との共同研究の有無:有
松島健(九大),田部井隆雄・村上英記(高知大),西村卓也・伊藤喜宏(京大防災研),廣瀬仁(神戸大),日野亮太・三浦哲(東北大),津村紀子(千葉大),伊藤武男・加藤愛太郎(名古屋大),生田領野(静岡大),原田靖・長尾年恭(東海大),浅野陽一・松澤孝紀・木村尚紀・武田哲也・汐見勝彦(防災科研),芝崎文一郎(建築研),木下正高・荒木英一郎(海洋研究開発機構)・鳥取大学(塩崎一郎)

(10)公開時にホームページに掲載する問い合わせ先

部署等名:東京大学地震研究所
電話:03-5841-5712
e-mail:yotikikaku@eri.u-tokyo.ac.jp
URL:

(11)この研究課題(または観測項目)の連絡担当者

氏名:小原一成
所属:東京大学地震研究所

お問合せ先

研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)

-- 登録:平成26年07月 --