課題番号1802
京都大学大学院理学研究科
阿蘇火山における水蒸気爆発の予測および火山災害軽減のための観測研究
1.(5)イ.熱水系の卓越する火山
2.(4)事象系統図の高度化による火山噴火予測
3.(5)地震・火山噴火の災害軽減のための情報の高度化
地震及び火山噴火予知のための観測研究計画(H21-25)で実施された課題において,平成23年度から中岳火口周辺におけるACTIVE繰り返し観測による比抵抗モニタリングを実施してきている。得られたデータの1次元解析から地下比抵抗分布を求めたところ,2011年5月に生じた小規模噴火に伴い地下深部(200〜300m)で比抵抗変化が検出された。また5月の噴火時、第一火口の火口湖はほぼ消失していたが、噴火活動終息後の7月には梅雨の豪雨により火口湖が再出現した。ACTIVE観測からは、この時期にも浅部における比抵抗変化が検出された。これらは火山活動の活発化に伴う火口地下の熱水の状態変化、及び火口湖再出現により表層付近に高伝導な熱水が分布するようになった事にそれぞれ対応するものと考えられる。
また、火口の南西800mに設置された伸縮計や傾斜計により,2013年9月および2014年1月には,地震活動活発化に先行する地殻変動が検出されている.
阿蘇火山において、浅部熱水系の状態把握を目的とした多項目観測を行ない、水蒸気爆発の事前評価の手法開発へと展開させ、地域の防災・減災計画に貢献する。
活動的火口湖(湯だまり)を有する阿蘇火山では、台風や集中豪雨などに関連して活動状況が変化する事態がしばしば観察されていることから、火山の活動状況を把握し水蒸気爆発の予測をするためには、火山体浅部の流体(熱水やガス)の移動やそれに伴う熱移動を捉える事が非常に重要である。
そこで、本研究では比抵抗観測手法の一つであるTDM法に基づいたACTIVE観測システムを用い、高時空間分解能の比抵抗モニタリングから火山活動の推移に伴う浅部熱水系の変化を直接観測する。また、熱水の流入による湯だまりの表面変動を検出するための空振観測網を構築する。さらに、短周期地震アレイや稠密広帯域地震観測により、浅部地震波速度構造の時間的・空間的変化を抽出する。そしてこれらを統合して、どの深さにどれだけの流体が存在し、それがどのように時間変化するのかを高精度で捉え、噴火発生場の理解を目指すとともに高度な火山活動のモニタリングシステムの構築を目指す。
近年の阿蘇火山では、1989年-1993年の噴火以来、マグマを放出するような噴火活動は生じていない。しかし、2005年、2009年および2011年に小規模噴火が発生し、また2013年9月および12月には噴火警戒レベルが1から2に引き上げられるなど、静穏期から本格的な活動期に移行する段階を迎えているとも考えられる。阿蘇では、火口近傍まで観光客が容易に立ち入れることから、小規模な水蒸気爆発でも大きな被害が生じる可能性が高い。浅部熱水系の状態を把握するとともに、その情報を気象庁や地元の防災機関と共有し、有効な防災・減災対策に結びつける。
地震及び火山噴火予知のための観測研究計画で構築されたACTIVEシステムを増強して、高時空間分解能での比抵抗モニタリングを行う。特に火口直下の熱水だまり周辺をターゲットとし、数ヶ月~年単位のタイムスケールで生じる熱水系の状態変化に伴う比抵抗値変化、領域の拡大・縮小を捉える。現在の観測網を増強し、2-3か月に1回の繰り返し観測を行う。
ACTIVEの観測に合わせ、年に1回、火口の西部および北部における短周期地震アレイあるいは火口近傍域における稠密広帯域地震観測を行なう。アレイ解析による微動の発生源推定をおこなうほか、散乱波解析やLOCADIFF法の適用により、浅部地震波速度構造の時間的・空間的変化を抽出する。
阿蘇中岳第一火口湯だまりへは、常時、火山性流体の流入が起きており、この流入量あるいは流入率が一定以上になると土砂噴出や水蒸気爆発が発生すると考えられる。水蒸気爆発の事前評価を行うために、湯だまり表面を変動させる程度の、規模が小さく発生頻度の高い流入現象のメカニズムを解明する。そのため、火口周辺に空振観測網を設置し、湯だまり表面の変動によって放射されるシグナルを捉え、その発生時刻と継続時間とを明らかにする。併行して実施する地震観測や火口熱赤外観測・湯だまり水位観測(別課題)の結果との比較から、火山性流体の物理量、移動プロセスについての定量的な検討を行う。湯だまり消失時には、突発的な水蒸気爆発を誘引する火口閉塞(微動停止)過程のモニタリングのためにも空振観測網が活用される。
こうして得られる結果から火口浅部熱水系の熱輸送・火山性流体移動モデルを構築するとともに、火口浅部の状態に関する情報を気象庁や地元の阿蘇火山防災会議協議会などと共有する。1990年代に頻発した水蒸気爆発の場合、前兆現象として数分前から小規模な地盤変動が観測されていた。このような観測結果を有効な防災・減災対策に結びつける方策を各機関と検討する。
年次進行を以下に示す。
26年度 リアルタイム空振観測網の構築、ACTIVEソース、レシーバー点の設置
27年度 ACTIVEを二ヶ月ごとに実施する。そのうちの1ないし2回は稠密広帯域地震観測も同時に実施する。
28年度 ACTIVEを二ヶ月ごとに実施する。そのうちの1ないし2回は地震アレイ観測も同時に実施する。気象庁と水蒸気爆発前兆現象について検討
29年度 ACTIVEを二ヶ月ごとに実施する。そのうちの1ないし2回は稠密広帯域地震観測も同時に実施する。
30年度 モデル化。気象庁や防災会議協議会と情報伝達方法についての検討
京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設火山研究センター
他機関との共同研究の有無:有
東北大学大学院理学研究科(山本希)
部署等名:京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設火山研究センター
電話:0967-67-0022
e-mail:
URL:http://www.aso.vgs.kyoto-u.ac.jp
氏名:大倉敬宏
所属:京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設火山研究センター
研究開発局地震・防災研究課
-- 登録:平成26年07月 --