地震断層すべり物理モデルの構築

課題番号1204

(1)実施機関名:

東北大学

(2)研究課題(または観測項目)名:

地震断層すべり物理モデルの構築

(3)関連の深い建議の項目:

1.(4)イ.断層滑りと破壊の物理モデルの構築

(4)その他関連する建議の項目:

1.(3)ウ.内陸地震と火山噴火
1.(4)ア.構造共通モデルの構築

(5)優先度の高い地震・火山噴火との関連:

東北地方太平洋沖地震

(6)平成25年度までの関連する研究成果(または観測実績)の概要:

 素過程の課題である1214と1215により、シリカや方解石の析出条件や塩水の高温高圧下の誘電率等、高間隙圧を作り出す条件についての多くの知見が得られ、また断層すべりにおけるエネルギー散逸過程や断層の微細構造についても重要な知見が得られた。また、および東北地方太平洋沖地震の発生を受けて見直された建議に基づき新たに作られた課題である1219と1220では、地震発生域の強度が低いことを示す証拠が得られ、さらに地殻流体の拡散に起因すると考えられる地震活動の拡大を捉えることができた。

(7)本課題の5か年の到達目標:

 地震は、断層にかかっている応力が脆性破壊強度を上回った時に発生する。このような破壊現象である地震の発生を予測するためには、不均質性に起因する応力集中や流体等に起因する破壊強度の低下の状況を正確に理解しておかなければならない。本課題では、このような観点から、断層面や地殻微細構造の不均質性および流体の存在が地震の発生や規模、破壊過程の複雑性に及ぼす物理化学的影響について、野外観察、構造探査、自然地震観測、誘発地震観測、実験、シミュレーション等から明らかにすることを目的とする。

(8)本課題の5か年計画の概要:

地震観測

 東北地方の臨時観測網の再編成を行い(H26年度)、観測を継続する。ただし、観測点の移設・継続は、「地殻応答による断層への応力載荷過程の解明と予測」の課題にて実施することにより、経費の節減と観測データの有効利用を図る。地震活動域の拡大速度が流体の拡散で説明できるかどうかを検証し、また、メカニズム解データなどから得られる応力場の時空間変化から、背景となる絶対応力場と間隙流体圧の時空間変化を推定する(H26~30年度)。さらに、震源域の構造を詳細に推定するとともに、地震波干渉法や相似地震等を利用して、流体の移動に関わる構造の変化の検出を試みる(H26~30年度)。

電磁気観測

 過去に行われた電磁気観測のデータを解析することにより、臨時地震観測網によって詳細な震源分布が得られている地域での三次元比抵抗構造を推定し、地震活動域における比抵抗構造の特徴を抽出する(H26~30年度)

岩石の変形特性に及ぼす高間激水・フュガシティの効果

 内圧式岩石―水反応実験装置を用いて、地震発生帯の環境下での断層面の透水性と反応性を明らかにし、すべり挙動実験とフィールド観察を通じて検証を進める。特に、高間隙水圧下での破壊のパターンと透水特性との関係を明らかにし、地震発生帯での透水特性を調べる(H26~29年度)。また、固体圧変形試験機を用いて、地殻−上部マントル条件での岩石の流動強度に及ぼす水の効果を明らかにする(H26~29年度)。封圧を変化させることで、水のフュガシティを変化させ塑性流動強度に及ぼす水の効果を定量化する(H27~30年度)。

CT観察による地殻流体の実態の把握

 深部地殻・最上部マントルからもたらされた捕獲岩中に間隙流体が存在していた空隙の形態を探るために、捕獲岩のX線CT撮影と画像解析を進める。減圧時に生じるクラックを正確かつ効率的に分離するための画像処理方法の改良を行い、流体の体積分率(空隙率)・連結度・形状を定量化する(H26~27年度)。さらに、得られた結果を用いて、地下での弾性波速度と電気比抵抗を計算する(H27年度)。X線CT撮影を行った試料の研磨断面を作成し、電子線後方散乱回折法(EBSD)によって結晶定向配列を定量的に測定し、岩石の変形と流体分布との関係を明らかにする(H28~29年度)。流体の連結度に敏感な電気比抵抗分布と応力場とを比較し、実験から得られた岩石の変形と流体分布との関係がマクロスケールに影響しているかどうかを検証する(H29~30年度)。

地震発生帯における地殻流体の熱力学情報の精密化と実フィールドでの検証

 地震発生帯の温度圧力環境における岩石―水反応の熱力学データベースの改良と地熱流体の状態方程式の精密化、岩石―水反応に大きな影響を及ぼす誘電率に関する岩石実験とその定式化を行い、それらを組込んだ水–岩石相互作用シミュレータを作成する(H26~29年度)。これを用いて水–岩石相互作用による間隙水圧の上昇をシミュレートし、その結果と実フィールドでの地質学的観測結果との整合性についての検討を進める(H27~30年度)。

地熱流体と内陸地熱誘発地震

 地熱地帯の注水井を模した装置を用いて、地下の岩石中の流体の移動と破壊を同時に計測することにより、地熱地帯における誘発地震発生のモデル化を行う(H26~30年度)。さらに、実際の地熱地帯において地震観測データを用いて、注水状況と地震活動の時空間変化について比較検討する(H26~30年度)

断層面の不均質性と内陸地震の多様性の起源

 断層長さの広いスケール領域でエネルギー解放率と各階層のジョグの破壊エネルギーは等しいと期待されるが、この様な破壊エネルギーの実測値はほとんどないことから、これらを充実化させるための実験を行う(H26~29年度)。また断層運動は散逸系なので断層帯の不均質性は進化することになるため、様々なスケールの観察を通じて、この断層の不均質性の進化の過程と内陸地震の多様性の起源についてモデルを構築する(H27~30年度)。

地震断層すべり物理モデルの構築

 観測から得られた結果から、断層や地震活動域と流体の存在域との位置関係関係を把握し、実験結果に基づき、岩石の非弾性変形に起因する断層への応力集中機構をモデル化する。また、CTスキャンから得られた流体の流路の情報と水–岩石相互作用シミュレータにより高間隙水圧の生成をモデル化し、地熱地帯の誘発地震に関する実験・観測からそのモデルの妥当性を検証する。さらに、断層面の不均質性や強度について、進化の過程と流体の影響という観点からモデル化し、地震発生と流体との関係や地震の多様性の根本原因を解明することを目指す(H29~30年度)。

(9)実施機関の参加者氏名または部署等名:

岡田知己・中島淳一・松澤暢・市來雅啓・矢部康男・山本希・土屋範芳・武藤潤・
大槻憲四郎・中村美千彦・奥村聡・佐々木理・他計15名程度。
他機関との共同研究の有無:有
地震観測は北海道大学(勝俣啓・高橋浩晃)、弘前大学(小菅正裕・渡邉和俊)、名古屋大学(山中佳子)、京都大学防災研究所(片尾浩・飯尾能久)、九州大学(松島健・松本聡)、鹿児島大学(宮町宏樹・後藤和彦)をはじめとした全国連携の共同研究。
電磁気観測は秋田大学(坂中伸也)・東京工業大学(小川康雄)との共同研究。
流体の分布・挙動については広島大学(星野健一)との共同研究。

(10)公開時にホームページに掲載する問い合わせ先

部署等名:東北大学大学院理学研究科
電話:022-225-1950
e-mail:zisin-yoti@aob.gp.tohoku.ac.jp
URL:http://www.aob.gp.tohoku.ac.jp

(11)この研究課題(または観測項目)の連絡担当者

氏名:松澤暢
所属:東北大学大学院理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センター

お問合せ先

研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)

-- 登録:平成26年07月 --