南アフリカ大深度金鉱山における微小破壊・微小地震観測

課題番号:2402

(1)実施機関名:

立命館大学総合理工学研究機構

(2)研究課題(または観測項目)名:

南アフリカ大深度金鉱山における微小破壊・微小地震観測

(3)最も関連の深い建議の項目:

2(4)ウ.摩擦・破壊現象の規模依存性

(4)その他関連する建議の項目:

2(3‐1)ア.観測データによる先行現象の評価
2(3‐1)イ.先行現象の発生機構の解明
2(3‐2)ア.断層面の不均質性と動的破壊特性

(5)平成20年度までの関連する研究成果(または観測実績)の概要:

 日本から遠く離れた南アフリカでの観測を効率的に推進するため,1992年に日本の地震関係者有志により南アフリカ半制御地震発生実験グループ(以下南アG) が組織された.以後,現地の研究機関の協力の下,ゆっくりすべりに先行する加速しない前駆すべり現象の発見などの成果を上げてきた.
 Mponeng金鉱山では,従来の地震や地殻変動の観測レンジよりも小規模,長周期側を対象としたひずみ観測が実施され,従来の地震のスケーリングと近年新たに提唱されたゆっくり地震のスケーリングのいずれにも当てはまらない新たなゆっくりすべり(M~‐1)が発見された.また,ドイツの地球物理学研究所(GFZ)と共同で展開されている,同鉱山にある別サイトの微小破壊(AE)・微小地震観測網では,最高200kHzまでの高周波を含む地震波の観測に成功した.2007年12月27日に,観測網内でM2.1の地震が発生し,地震後1日の間に1万個を超える余震を観測した.余震の震源は,数十m程度の広がりで,面状に分布していた.鉱山の観測網でとらえることのできるM‐1程度までの余震は同期間に数個しか記録されておらず,圧倒的に多数の小規模な余震が本観測により得られた.つまりM2程度の地震であっても,微小な余震源を数多く産み出すような複雑な破壊過程を有していたことを示唆した.また,cm級の微小破壊まで捉えることができる観測により,室内試験時に発生する微小破壊と従来観測されてきた自然地震の間を埋める規模の観測が実現され,微小地震と大地震の間に存在する破壊法則の共通点,相違点について議論できる環境が整い始めた.
 室内実験では,波形の信頼性が高い広帯域のAEセンサー用の耐圧アセンブリが作成され,100MPa程度の封圧下でも,波形解析に耐えうる波形を収録することに成功した.また,解析例は少ないものの,得られた波形を用いて,経験的に伝播特性を補正してAEの震源過程を解析した結果,数μ秒程度で終了するcm以下の小さな破壊であっても,その過程は単純ではないことが示された.

(6)本課題の5か年の到達目標:

 室内実験では,岩石の破壊に先行して,AEの発生が活発になることや,応力‐ひずみ関係の線形性が失われることが知られている.固着‐すべり実験においても,高速すべりに先行して,局所的なすべりが生じる(破壊核形成)ことが知られている.自然地震では,地震発生に先行して,このような現象が観測されたことはない.破壊核形成に伴うと思われる現象が観測されていない理由の一つとして,自然地震の破壊核がきわめて小さいことが考えられる.一般に,通常の観測網と震源断層は数十km以上離れているので,破壊核がきわめて小さい場合,その形成に伴う異常を検出することは困難であろう.南ア金鉱山では,震源断層から数m以内にセンサーを配置して断層の変形や微小破壊を観測することも,条件次第では可能である.そのため,破壊核が本当に存在するならば,たとえそれが小さくても検出できるはずである.そこで本課題では,南アフリカ大深度金鉱山における多項目観測と室内岩石破壊実験における高周波AE計測により,地震破壊現象の物理過程を明らかにし,そのスケーリング則の確立を目標とする.

(a:南アフリカ金鉱山)岩石実験により蓄積された破壊力学の知見を自然地震の発生過程に適応することの妥当性を検証するために,岩石実験と自然地震の中間的規模(cm級~数百m級)の破壊現象である鉱山地震を南アフリカ大深度金鉱山において観測する.同一サイトにおいて,ひずみ計や,AEセンサー,地震計をもちいた多項目広帯域観測をおこない,種々の地震破壊現象の規模と継続時間に関するスケーリングを確立する.同時に,高感度ひずみ観測やコア計測の結果に基づき,震源の物理的環境を推定し,地震破壊の物理モデルの構築を目指す.

 (b:室内実験)主たる地殻構成岩石である花崗岩などを用いた三軸圧縮破壊試験を行い,mm~cm程度の破壊現象の素過程を明らかにし,断層形成の物理モデルの構築を試みる.具体的には,微小破壊に伴うAEの高周波数帯域計測技術を利用し,大小さまざまなAEの広帯域波形を長時間連続収録により取得する.主として経験的グリーン関数法に準じた手法によってAEの相対規模とその継続時間を推定する.また,センサーの特性を明らかにし,記録を速度のような物理量に変換することにより,AEの絶対規模推定もおこなう.これらの実験・計測により,現象論や経験則ではなく,物理モデルに基づいた破壊・摩擦現象のスケーリング則の確率を目指す.

(7)本課題の5か年計画の概要:

(a:南アフリカ金鉱山)

平成21年度は,現在観測が実施されているサイトの維持につとめるとともに,得られた波形データの解析をおこなう.現在観測をおこなっているサイトでは,M > 2の比較的大きな地震とその前後に発生したAEが記録されている.AEの震源を決定し,その分布や活動度の評価をおこなうとともに,周辺で記録された地震記録をもとに本震の断層面解の推定もおこない,本震とAEの発生の関係を調べる.並行して新規に展開する観測サイトの候補地を現地調査し,サイトの構築に向けての準備を進める.
平成22年度は,既存のデータ解析を進めるとともに,現行観測サイトの維持,新規観測サイトの構築を開始する.
平成23年度は,既存のデータ解析をとりまとめるとともに,現行観測サイトの維持,新規観測サイトの構築を完了する.
平成24年度は,新規観測データに関し,AEの震源を決定し,その分布や活動度の評価をおこなうとともに,周辺で記録された地震記録をもとに本震の断層面解の推定もおこない,本震とAEの発生の関係を調べる.また観測サイトの維持をおこなう.
平成25年度は、データ解析を進めるとともに,観測サイトの維持をおこなう.また,研究成果のとりまとめをおこなう.

(b:室内実験)

平成21年度は,解析の際に収録波形を較正するために,広帯域AEセンサー用の耐圧アセンブリを用いて,広帯域AEセンサーの応答特性を推定する.収録される波形記録は膨大な量となるため,効率的なデータ処理方法について検討をおこなう.
平成22年度は,並行して実施するトリガー収録記録をもとにAEの発生を同定するとともにトリガー収録のためのノイズレベルを決定する.三軸圧縮試験下での広帯域AEの連続計測を実施する.
平成23年度は,トリガー収録データを用いた震源決定をおこない,震源パラメタの推定をおこなう.連続収録記録から,イベント波形の抽出をおこなう.
平成24年度は,主として経験的グリーン関数法に準じた手法によってAEの規模とその継続時間を推定し,AEのスケーリングについて検討をおこなう.
平成25年度は,データ解析を進めるとともに,研究成果のとりまとめをおこなう.

(8)実施機関の参加者氏名または部署等名:

立命館大学総合理工学研究機構    川方裕則・小笠原宏

他機関との共同研究の有無:
東京大学地震研究所 中谷正生・五十嵐俊博
東北大学大学院理学研究科 矢部康男
京都大学防災研究所 飯尾能久
東濃地震科学研究所 石井紘
産業技術総合研究所 佐藤隆司・雷興林 

(9)公開時にホームページに掲載する問い合わせ先

部署等名:立命館大学 研究部 理工リサーチオフィス
電話:077‐561‐2802
e‐mail:liaisonb@st.ritsumei.ac.jp
URL:http://www.ritsumei.jp/research/c05_03_14_j.html

お問合せ先

研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)

-- 登録:平成24年08月 --