南アフリカ大深度金鉱山における準備期・直前期の地震破壊域近傍の岩盤挙動の観測

課題番号:2401

(1)実施機関名:

立命館大学総合理工学研究機構

(2)研究課題(または観測項目)名:

南アフリカ大深度金鉱山における準備期・直前期の地震破壊域近傍の岩盤挙動の観測

(3)最も関連の深い建議の項目:

2 地震・火山現象解明のための観測研究の推進
(3)地震発生先行・破壊過程と火山噴火過程
(3‐1)地震発生先行過程
 ア.観測データによる先行現象の評価

(4)その他関連する建議の項目:

2 地震・火山現象解明のための観測研究の推進
(2)地震・火山噴火に至る準備過程
(2‐1)地震準備過程
 イ.非地震性滑りの時空間変化とアスペリティの相互作用

(3)地震発生先行・破壊過程と火山噴火過程
(3‐1)地震発生先行過程
 イ.先行現象の発生機構の解明

(4)地震発生・火山噴火素過程
 ウ.摩擦・破壊現象の規模依存性

(5)平成20年度までの関連する研究成果(または観測実績)の概要:

 南アフリカ金鉱山(以下南ア金鉱山)の地下約2~4キロメートルにおいて、採掘に伴って発生する地震活動とそれに伴う岩盤挙動を、事前に埋設した計器によって、至近距離・高感度で観測することを「半制御地震発生実験」と呼び、これによって以下のような成果が得られた。
 地震性のイベントについては、次のようにまとめられる。
 Event trigger収録によるM>‐1の地震観測で、震源から200メートル以内の9つの3成分加速度計の15kHz(キロヘルツ)記録から、破壊の速度や複雑さ・応力降下量・見かけ応力において、M=約0‐1の鉱山地震でも自然の大規模地震と比べて大差がないことがわかった。
 Bambanani鉱山の地下2.4キロメートルの観測サイト、および、Mponeng鉱山の地下2.9キロメートルの観測サイトにおいて、それぞれ1台および2台の石井式歪計によって、約3年間にわたって25Hz(ヘルツ)連続観測が試みられた。そして歪計から300メートル以内で最大でM≒3の地震活動が発生し、2,000例を超える大小様々な歪ステップや余効変動などが観測された。少数の本震に対しては前震活動が観測され、前震の余効変動に続いて本震が発生した。しかし、前震を伴わなかった本震については、100μstrainに近い地震歪ステップの場合も、より小さな他の数百例の地震歪ステップの場合も、滑らかに加速する前駆変化は観測されなかった。
 非地震性のイベントについては、次のようにまとめられる。
 上記の2つの観測サイトにおいて、地震に比べると非常に遅い歪ステップで、最大で2μstrainに達するものが観測され、そのうちの最もゆっくりしたものの一部には明瞭な前駆が見られた。また、Bambanani鉱山では、遅い歪ステップ・イベントは、マグニチュード2級の地震による最大級の地震ステップ後に多発し、その時期には本震・余震域に、相似地震も集中して発生していることが明らかになった。小さな相似地震を、領域最大級の地震断層を透過する制御地震波源のように用いて物性変化を知る試みも行われた。
 Bambanani鉱山では1台の歪計による観測であったため、遅い歪ステップの規模やソース位置の拘束が困難であった。この問題を解決するため、Mponeng鉱山の地下2.9キロメートルの実験サイトでは、断層破砕帯のごく近くで、互いに13メートルの距離の2台の石井式歪計が隣接して埋設された。2台で異なる応答が記録された複数のSlow stepは、歪計から数メートル以内の断層上の異なる場所における、Mwがマイナス1程度の滑りによって説明できることがわかった。得られた歪スローイベントのMoと特徴的な継続時間との関係は、プレート境界などのスローイベントに対して提唱されているスケーリング則における両者の関係と傾向が大きく異なることがわかった。
 これらの成果の非常に重要な点は、今までに観測されたことのない規模や継続時間の非地震性の現象が観測されたことと、その現象にのみ前駆が観測されたことである。今後は観測事例を増やすことと、および、より多くの歪計によってより詳細な観測を行うことが必要である。この目標を達成するために、2点観測のための複数の新観測サイト候補と、多点観測をするための新観測サイト候補を見つけることができた。
 前震が多発している際の岩盤の歪変化を正確に観測するためには、高速に応答する歪計が必要である。その開発と試験観測を行い、設計通りの性能であることが確認できた。この歪計はドリリング工期が短い小口径孔に埋設することが可能で、ドリリング開始から観測開始までの工期が大幅に短縮されることがわかった。
 関連する他の課題によって、Mponeng鉱山の地下約3.5キロメートルのサイトでは、歪とAEとの同時観測が行われ、同時観測の重要性が確認された。サイトで発生したM2.1の直前にAE活動度の急増が見られなかったため、より前震が起きやすい条件の新観測サイトを探し、観測の下準備が完了した。
 約2~20MPa(メガパスカル)の間隙水の存在する場合の岩盤挙動を知るために、水没域の地震観測を始めることができた。

(6)本課題の5ヶ年の到達目標:

 震源核形成過程は、理論的・実験的に存在することが確認されている地震の直前過程の核心部分であり、それが実際に観測可能かどうかということが、短期的な予知の実現へ向けて解明すべき最重要課題であると考えられる。しかし、通常の自然地震を対象にする限り、大地震は滅多に発生しない。また、中小地震の震源から至近距離で観測することは難しい。したがって、南ア金鉱山における半制御地震発生実験によって、観測事例を増やすこと、および、より詳細像を得ることは非常に重要である。本課題では、主に高感度・広ダイナミック・レンジの石井式歪計の連続収録によって地震発生準備期の歪変化の詳細を観測する。次の5ケ年の目標は、観測周波数帯域において、また、観測ダイナミック・レンジで盲点がより少ない観測をより多くのサイトで行うことである。

(7)本課題の5ヵ年計画の概要:

 平成21年度では下記の活動を行う。
 Mponeng金鉱山地下3.5kmのサイト付近での採掘があと数ヶ月間続く予定で、この間は地震活動が比較的活発であり続けると予想される。AE・歪観測を継続しより多くの事例の解析を行う。
 水没金鉱山(Buffelsfontein鉱山地下2kmとERPM鉱山地下2.5~3.5km)の歪・地震観測を継続する。ERPM鉱山は閉山したため、採掘活動がない場合の比較的Dryな領域とWetな領域の地震活動を比較できると期待される。
 石井式歪計2台と複数の加速度計とによる観測を、複数の鉱山で新たに始める準備を行う。候補の鉱山はSouth Deep金鉱山, Driefontein金鉱山, Kloof金鉱山である。三次元配置でより多くの石井式歪計、AEセンサー、加速度計などからなる総合観測網を、2~3年の間にM>2の地震の発生が予測されている既存の断層の周囲に展開する準備を行う。候補の鉱山はMoab Khotsong鉱山である。
 平成22年度は、既存の観測を継続しつつ、新しい総合観測網の構築を開始する。
 平成23年度は、既存の観測を継続しつつ、年度の前半には新しい観測網の構築を完了し、データ解析を始める。
 平成24年度までには、新しい観測網の中で2~3個のM2級の地震発生を至近距離で収録できると予想され、その詳細を解析する。
 平成25年度は、成果をまとめる。

(8)実施機関の参加者氏名または部署等名:

立命館大学総合理工学研究機構 小笠原宏・川方裕則

他機関との共同研究の有無:
東濃地震科学研究所 石井紘・大久保慎人
東京大学地震研究所 中谷正生
東北大学大学院理学研究科 矢部康男・大槻憲四郎
鹿児島大学大学院理工学研究科 中尾茂
京都大学防災研究所 飯尾能久

(9)公開時にホームページに掲載する問い合わせ先

部署等名:立命館大学 研究部 理工リサーチオフィス
電話:077‐561‐2802
e‐mail:liaisonb@st.ritsumei.ac.jp
URL:http://www.ritsumei.jp/research/c05_03_14_j.html

お問合せ先

研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)

-- 登録:平成24年08月 --