マルチスケール・アスペリティモデルの構築と拡張

課題番号:1211

(1)実施機関名:

東北大学大学院理学研究科

(2)研究課題(または観測項目)名:

マルチスケール・アスペリティモデルの構築と拡張

(3)最も関連の深い建議の項目:

2(3)(3‐2)ア.断層面の不均質性と動的破壊特性

(4)その他関連する建議の項目:

1(1)イ.地震発生・火山噴火の可能性の高い地域
2(2)(2‐1)ア.アスペリティの実体
2(2)(2‐1)イ.非地震性滑りの時空間変化とアスペリティの相互作用
2(2)(2‐1)ウ.ひずみ集中帯の成因と内陸地震発生の準備過程
2(2)(2‐1)エ.スラブ内地震の発生機構
2(3)(3‐2)イ.強震動・津波の生成過程
2(4)ア.岩石の変形・破壊の物理的・化学的素過程

(5)平成20年度までの関連する研究成果(または観測実績)の概要:

 プレート境界からスラブ内の地震について震源再決定を行い、相似地震はプレート境界付近に発生すること、2003年宮城県沖地震の震源域では地震発生前から顕著な地震活動が見られていたことを明らかにした.
 DDトモグラフィー法により,2003年宮城県北部地震・2000年鳥取県西部地震・1995年兵庫県南部地震・2004年新潟県中越地震・2001年芸予地震・1997年鹿児島県北西部地震の震源断層およびアスペリティ周辺の地震波速度構造を詳細に求めた.その結果、それらの地震について、アスペリティの領域が断層面上の高速度域に対応する可能性を示した.このことは、速度構造からアスペリティの位置を事前に同定できる可能性を示唆する.
 2005年8月16日に発生した宮城県沖の地震(マグニチュード7.2)と1978年宮城県沖地震(マグニチュード7.4)の余震分布・地震時すべり量分布を比較し,2005年の地震が1978年の地震のアスペリティの一部の破壊である可能性を示すとともに,1930年代に発生した地震の余震分布より,宮城県沖にあるアスペリティが,1930年代は時間をかけて順番に破壊していったのに対して,1978年には全体を一気に壊れたという仮説を提示した。2003年10月31日に発生した福島県沖の地震(マグニチュード6.8)のすべり分布を推定し,この地震を起こしたアスペリティの原因として沈み込んだ海山が原因である可能性を検討した.
 2008年1月11日に発生した岩手県釜石沖の地震(マグニチュード4.7)が1995年,2001年の地震と同一のアスペリティのすべりにより生じたことを確認した.さらに高周波数帯域における解析から周囲で発生した相似地震により地震時すべりのわずかな相違が生じた可能性を指摘した.
 これらの事例から,複数のアスペリティが隣接している場合には,破壊過程が毎回同一とはならず,釜石沖のような一見単純に見える場合でも,詳細に見ると破壊過程は単純ではなく周囲の一回り小さなアスペリティの破壊の履歴に支配されていると考えられる.個々のアスペリティでのすべりの履歴を詳細に調べれば,本震時の破壊過程を予測できる可能性があり,強震動予測の高度化に繋がると期待される.

(6)本課題の5ヶ年の到達目標:

 本研究においては,プレート境界地震について地震時すべり分布・断層サイズの推定や高精度震源決定等によるアスペリティ領域のマッピングを行うとともに,アスペリティの階層構造や複合破壊の条件を明らかにする.また,内陸地震・スラブ内地震については,アスペリティモデルに基づく破壊過程・強震動生成域の理解が可能かどうか検討を進め,アスペリティモデルの拡張を行う.このような研究を行うことで,上記方針を実現化し,地震・火山噴火予知研究上不可欠である,破壊過程・地震発生過程の理解をすすめるものである.
 本研究で狙いとするアスペリティモデルに基づく震源モデルの高度化のためには,実際に発生した地震について震源解析の研究が必要であるが,そのためには,より多くの事例を取り扱うとともに,幅広い空間スケールでアスペリティを捉え,どのような階層構造をなしているのかを明らかにすることが重要である.また,これまでの研究から,プレート境界地震については,アスペリティモデルが成り立つことが強く示唆されているが,内陸・スラブ内地震についても,アスペリティモデルの成否の検討を引き続きすすめる必要がある.そこで本研究では,微小地震から大地震にいたる幅広いスケールの地震を対象とし,下記のような研究を実施する.

  1. 地震波形インバージョン・地殻変動インバージョン・高精度震源決定による,プレート境界に発生した中~大地震の震源過程の推定
  2. プレート境界およびその周囲における微小地震活動によるアスペリティマッピング
  3. プレート境界に発生する小地震の断層サイズの推定と高精度震源決定による小アスペリティ分布および活動の推定
  4. 上記の観測・研究に基づく,プレート境界・内陸・スラブ内地震のアスペリティモデルの構築

(7)本課題の5ヵ年計画の概要:

 平成21年度は関係するこれまでの研究成果に基づきそれぞれの研究を実施する.

1.地震波形インバージョン・地殻変動インバージョン・高精度震源決定による,プレート境界に発生した中~大地震の震源過程の推定

 東北地方を中心として,プレート境界に発生した中~大地震を対象に,地震波形インバージョン・地殻変動インバージョンにより地震時のすべり量分布を求める.本年度は,繰り返し地震の可能性について指摘されているいくつかの中規模地震について,波形・震源位置の検討および地震波形インバージョンによる地震時すべり分布の推定を行い,繰り返し地震の可能性についての検討を行う.

2.プレート境界およびその周囲における微小地震活動によるアスペリティマッピング

 宮城県沖における海底繰り返し地震観測の結果,プレート内部で発生する中小の地震の分布とプレート境界におけるすべり分布との間に相関があることがわかりつつある.このことは,精度良く決定できる中小の地震の震源分布を用いることでプレート境界面上のすべり特性のマッピングが可能になることを示している.本項目では,こうした相関関係が成り立つかどうかを複数の事例において検証するとともに,中小の地震の震源分布を利用した高空間分解能のアスペリティ(すべり特性)マッピングも試みる.

3.プレート境界に発生する小地震の断層サイズの推定と高精度震源決定による小アスペリティ分布および活動の推定.

 地震クラスターに含まれる小地震については,コーナー周波数を高精度で推定して断層サイズを求め,DD法による震源決定ともあわせて,小アスペリティの相対的位置と地震活動の特徴の関係についても抽出する.さらに,小繰り返し地震の破壊域や応力降下量等の推定をもとに,アスペリティの繰り返し破壊の同一性・非同一性の程度とその原因について調べる.

4.上記の観測・研究に基づく,プレート境界・内陸・スラブ内地震のアスペリティモデルの構築

 1~3.の研究により推定したプレート境界型地震のアスペリティ領域を比較し,アスペリティの階層構造について検討する.得られたアスペリティ領域と余震分布・地震前(先駆的)地震分布や地震波速度構造との比較を行い,アスペリティ・非アスペリティ領域の特徴を抽出する.同様の比較研究を内陸・スラブ内地震に対しても行い,プレート境界地震と同様な,アスペリティモデルに基づく破壊過程・強震動生成域の理解が可能かどうか検討を進める.このような研究を通じ,アスペリティモデルの構築・深化を目指す.

 本課題の目標達成のためにはできるだけ多くの事例について研究を行うことが必要である.そこで平成22年度以降についても,実施期間内に発生した地震などを対象とし,同様の研究を継続実施する.

(8)実施機関の参加者氏名または部署等名:

海野徳仁・松澤暢・日野亮太・伊藤喜宏・内田直希・太田雄策・岡田知己・他 計10名程度(大学院生含む)
他機関との共同研究の有無:有
共同研究:東京大学 三浦哲、筑波大学 八木勇治、気象庁  中村雅基・山田安之、内閣府  高木康伸、仙台管区気象台  丹下豪

(9)公開時にホームページに掲載する問い合わせ先

部署等名:東北大学大学院理学研究科 地震・噴火予知研究観測センター
電話:022‐225‐1950
e‐mail:zisin‐yoti@aob.geophys.tohoku.ac.jp
URL:http://www.aob.geophys.tohoku.ac.jp/

お問合せ先

研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)

-- 登録:平成24年08月 --