2(3)(3‐3)火山噴火過程

「火山噴火過程」計画推進部会長 西村太志
(東北大学大学院理学研究科)

 噴火規模や様式、噴火推移を支配する要因を理解するためには、火道浅部におけるマグマの挙動や火山体構造の状態を把握し、それらと噴火規模や様式との関係を明らかにすることが必要である。本火山噴火過程研究計画では「ア.噴火機構の解明とモデル化」と「イ.噴火の推移と多様性の把握」の研究を2つの柱とし、両者をあわせて考察することにより噴火シナリオの作成に資することを目的とする。このような観点から、本計画では発泡・脱ガス過程などの火道内マグマの挙動を調べるために、繰り返し発生する噴火を対象として集中的な地球物理学・物質化学的観測を行い、多量のデータをもとに噴火機構のモデル化を図る。また、噴火の推移と多様性を理解するために、噴火環境を支配する火山体浅部の熱水系や火道周辺構造を調べる。また、いくつかの火山を対象に、過去の噴火履歴に基づき、噴火の規模・様式などの発生頻度や推移を整理する。

ア.噴火機構の解明とモデル化

 諏訪之瀬島火山は小規模なブルカノ式噴火や火山灰噴出を頻繁に引き起こす。これらの小爆発や火山灰噴出と地下のマグマ上昇過程の関係を明らかにするため、火口から1km以内の距離に掘削した、深さ約4mの3孔井に高精度傾斜計を設置し、平成21年9月末より観測を開始した。これらの傾斜計のデータと京大防災研の既存地震観測のデータから、小爆発の約1分前から、灰噴出に伴う微動の停止にあわせて山体が膨脹することを明らかにした。この膨脹に伴う傾斜量は火口から約350、750、1000mの地点においてそれぞれ12、8、数nano radianであった。また、中・長期的な、より広域の山体変動を捉えるために同時に設置したGPSのデータ、および、InSARデータの解析結果は、観測開始から約半年を過ぎても顕著な地殻変動を示しておらず、この間の諏訪之瀬島の噴火活動が開口型火道で発生していたことを明らかにした(東北大学[課題番号:1213])。
 浅間山では特異な波形的特徴をもつ長周期パルス(VLP)が観測された。このVLPの活動と噴火様式との違いを調べる目的で、火口近傍に広帯域地震計を14台設置した。得られた地震データを用いて、傾斜変化も考慮したグリーン関数でモーメント・テンソル・インバージョン解析を行った。また、2点によるミューオン観測で火山体上部の密度測定を行った。その結果、VLPは深さ100~200mにおいて、急激な発泡(火山ガスの発生)によって火道浅部の割れ目や通路が膨脹し、それに続いて火山ガスが空隙率の高い媒質中を通過して収縮したものと推定された(図1)(東京大学[課題番号:1425])。また、新たに開発した、可搬型の噴煙中の二酸化硫黄可視化装置を用いた測定では、VLP発生の数十秒後に火山ガス(二酸化硫黄)が噴出し、その放出量と先行するVLPの規模とが正の相関関係にあることを明らかにした(東京大学[課題番号:1504])。
 これらの2火山における研究成果は、火口近傍に傾斜計や広帯域地震計を適切に設置すれば、規模の小さな噴火や火山ガス噴出の先行現象を捉えられることを示している。さらに浅間山では膨脹と火山ガスの噴出量に正の相関があることが認められており、先行する膨張現象と噴火現象を定量化することにより、噴火規模や爆発性を予測する上で重要な経験則が得られる可能性がある。
 以上のほか、桜島や諏訪之瀬島では、爆発的噴火が発生する約1秒前に火口底の隆起によって励起される空気振動を見つけ、噴火の映像記録や地震記録の解析結果と合わせて解読した結果、火口底下での膨張現象が火口底の隆起を誘引したことを明らかにした(東北大学[課題番号:1213])。浅間山では、記録された空振と地震の相互相関をとることにより、これまで難しかった微噴火活動を検知することに成功した(東京大学[課題番号:1425])。脱ガス過程のモデル化を図るため、改良した携帯型マルチセンサーシステム(Multi‐GAS)を用いて、雌阿寒岳・口永良部島・吾妻山で噴煙観測及び噴気採取分析を行い、火山ガス組成の分布や時間変動を検討した。三宅島では2000年8月噴火の玄武岩質マグマのメルト包有物中の水・二酸化炭素濃度比と火山ガスのその濃度比から、現在多量に放出されている火山ガスは未分化の玄武岩質マグマから供給されていることを明らかにした(産業技術総合研究所[課題番号:5009])。噴火直前に先行して起きる地殻浅部のマグマ上昇過程を理解するために、3次元応力場や物性値がマグマ貫入現象へ与える影響を、個別要素法を用いた数値計算で検討を行った(防災科学技術研究所[課題番号:3014])。

イ.噴火の推移と多様性の把握

 水蒸気・マグマ‐水蒸気爆発の発生環境を明らかにするために、有珠山周辺の地層および水環境を既存資料や温泉井のデータを検討した。特に、昭和新山南東麓の火山観測井の資料(図2)から、以下の興味深い知見を得た。この地域では、海面下約120m深に新第三系の地層が現れ、その上には帯水層となっている柳原層が約50m深まで分布している。さらにその上から地表付近までは高空隙率・難透水性の溶結凝灰岩が分布する。1943~1945年の噴火活動は泥流を伴う水蒸気爆発に始まり、引き続いて火砕流・火砕サージを伴うマグマ水蒸気爆発が発生した。今回明らかになった孔井地質を考慮すると、帯水層をマグマが上昇する際に水蒸気爆発が発生し、その後、不透水層である溶結凝灰岩層に達した頃からマグマ水蒸気爆発が発生したと推察できる(図2)。有珠山では、そのほかにも、2000年新山において実施した噴気観測から放熱量が2005年以降一定の割合で減少していることや、水準測量から新山の比高変化の沈降率の空間分布を明らかにした(北海道大学[課題研究:1007])。
 噴火シナリオの確率的検討をするために、国内の代表的な活火山において過去の火山活動の推移や噴火履歴を精査することが必要である。本年度は、2000年にカルデラ形成を伴う噴火を約2500年ぶりに引き起こした三宅島火山を対象とし、噴火前後の地震の発生時間、噴火継続時間などをもとに次の噴火事象が発生するまでのタイムスケールや継続時間をまとめ、噴出年代と噴出量積算の階段図を作成した(図3)。約2500年前の噴火で形成されたカルデラはその後約1300年間で埋め立てられたことを考慮すると、今後は一噴火あたりの噴出量が多いか、より短い時間間隔で噴火が発生する可能性が高いと推察した(東京大学[課題番号:1426])。

課題と展望

 多様な火山噴火を予測するためには、多数のデータをもとに、マグマが上昇する経路の媒質特性や噴火に先行する現象と、噴火規模や様式の関係を定量的、統計的に記述することが必要である。本年度の観測により、諏訪之瀬島や浅間山において規模の小さな噴火や火山ガス噴出でも山体膨脹現象を検知することができた。観測を今後も継続し規模のより大きな噴火のデータを取得するとともに、桜島などで頻発している爆発的噴火のデータとも比較することにより、噴火規模や様式によるマグマ上昇過程の違いを調べることが重要であろう。また、諏訪之瀬島火山の小爆発直前に同期して発現する微動停止と山体膨脹は、桜島火山における爆発直前の山体膨脹の加速や二酸化硫黄量の減少、赤熱現象の低温化など(東北大学[課題番号:1213])と類似している。今後も継続して山体変形、微動、空振や火山ガス噴出、映像などの多項目観測を実施し、次年度以降、これらの個々の火山について、得られた多量のデータを噴火の規模や様式ごとに整理し、噴火機構を支配する要因を調べていくことが必要である。その際、これらの火山で類似の先行現象が発現しているので比較研究を精力的に進めることが必要である。
 火山爆発機構の共通的な特徴および相違点を把握することにより、より一般的なモデル化を図ることができる。その際、火山噴火素過程研究計画推進部会と連携し、マグマの物性や上昇・貫入過程の物理化学的な理解をもとに予測手法を構築する必要がある。
 有珠山で指摘された1944~1945年にかけておきた水蒸気爆発からマグマ‐水蒸気爆発への推移と、帯水層と不透水層の位置関係は示唆に富む。次年度以降進められる2000年新山の浅部構造探査と熱水系の活動把握(北海道大学[課題番号:1007])、伊豆大島で行われている自然電位測定による熱水系活動の把握などをもとに、火山体浅部構造と噴火様式と推移の関係を明らかにすることが必要である。これらの研究は開始されたばかりなので、解析する火山や噴火事象に限りがある。従って、帯水層・不透水層などの空間分布、あるいは、熱水系の時間変化に対して、それぞれ予見される噴火様式や推移との関係を、マグマ貫入や火山ガス供給に対する応答の熱水系シミュレーション(産業総合技術研究所[課題番号:5009])などをもとにした知見と比較することが重要である。
 中長期的な噴火の規模や推移の予測は、過去の噴火履歴や地質情報を整理した上で系統的な特徴を見いだすことが必要である。浅部構造探査に基づく観測研究の場合と同じく、本研究計画中に解析できる火山には限りがある。三宅島の解析例があることから、まずは玄武岩火山を対象にすることが妥当であろう。また、噴火分岐の観点から規則性をまとめる際には、マグマ貫入のシミュレーション(防災科学技術研究所[課題研究:3014])との連携が求められる。

参考文献

Aoyama, H., Onizawa, S., Kobayashi, T., Tameguri, T., Hashimoto, T., Oshima, T., and Mori, H., 2009, Inter‐eruptive volcanism at Usu volcano: Micro‐earthquakes and dome subsidence.J. Volcanol. Geotherm. Res., 187, 203‐217, 2009.

Maeda, Y, 2010, Very‐Long‐Period pulses at Asama Volcano inferred from dense seismic observation, Ph.D Thesis, pp. 64, University of Tokyo, March 26, 2010.

Mori, T. and Burton, M. 2009, Quantification of the gas mass emitted during single explosions on Stromboli with the SO2 imaging camera, J. Volcanol. Geotherm. Res., 188, 395‐400.

Nishimura, T., Volcano deformation caused by magma ascent in an open conduit, J. Volcanol Geotherm. Res., 187, 178‐192, 2009.

Nakamichi, H., Kumagai, H., Nakano, M., Okubo, M., Kimata, F., Ito, Y. and Obara, K. 2009, Source mechanism of a very‐long‐period event at Mt Ontake, central Japan: Response of a hydrothermal system to magma intrusion beneath the summit. J. Volcanol. Geotherm. Res., 187, 167‐177, doi:10.1016/j.jvolgeores.2009.09.006.

Onizawa, S., Matsushima, N., Ishido, T., Hase, H., Takakura, S. and Nishi, Y. 2009, Self‐potential distribution on active volcano controlled by three‐dimensional resistivity structure in Izu‐Oshima, Japan, Geophys. J. Int., 178, 1164‐1181.

Yokoo, A. and Iguchi, M. 2010, Swelling of crater bottom as a part of eruption processes at Suwanosejima volcano, Japan: Using an alternative signal of infrasound wave recorded on eruption movie, submitted to J. Volcanol. Geotherm. Res., in press.

Yokoo, A., Tameguri, T. and Iguchi, M. 2009, Swelling of a lava plug associated with a Vulcanian eruption at Sakurajima volcano, Japan, as revealed by infrasound record: case study of the eruption on January 2, 2007, Bull. Volcanol., 71, 619‐630, doi 10.1007/s00445‐008‐0247‐5, 2009.

図1.浅間山山麓2 カ所に設置したミューオン観測点のデータから推定された火道浅部の密度分布と、VLP 発生源と考えられるクラックの位置を示した図。低密度領域が火口直下の北よりに位置する。VLP は低密度領域の中で発生しており、その上部にも低密度領域が広がっている。(東京大学[課題番号:1425])

図1.浅間山山麓2カ所に設置したミューオン観測点のデータから推定された火道浅部の密度分布と、VLP発生源と考えられるクラックの位置を示した図。低密度領域が火口直下の北よりに位置する。VLPは低密度領域の中で発生しており、その上部にも低密度領域が広がっている。(東京大学[課題番号:1425])

図2.1943~1945 年の噴火活動における水蒸気爆発の発生深度および推定される地質と観測井の孔井地質との比較。縦軸は深さを表す。孔井下部の灰色部分は凝灰岩角礫岩であることを示す。右下の枠内の図は、この観測井で得られたノーマル電極配置による電気検層で得られた見かけ比抵抗と偏差曲線との照合結果。横軸は電極間隔(AM) と掘削孔径(d) の比、グラフの縦軸は見かけ比抵抗。この照合結果から泥水比抵抗は11 Ω m 程度と推定される。(北海道大学[課題研究:1007])

図2.1943~1945 年の噴火活動における水蒸気爆発の発生深度および推定される地質と観測井の孔井地質との比較。縦軸は深さを表す。孔井下部の灰色部分は凝灰岩角礫岩であることを示す。右下の枠内の図は、この観測井で得られたノーマル電極配置による電気検層で得られた見かけ比抵抗と偏差曲線との照合結果。横軸は電極間隔(AM) と掘削孔径(d) の比、グラフの縦軸は見かけ比抵抗。この照合結果から泥水比抵抗は11 Ω m 程度と推定される。(北海道大学[課題研究:1007])

図3.三宅島火山における2500 年前以降の階段ダイアグラム。2500年前にできた八丁平カルデラの陥没量が2000 年に形成された雄山カルデラと同じ体積であると仮定し、それが9 世紀までにほぼ埋め尽くされたことを考慮すると、八丁平カルデラ形成後は噴出率が大きい(太破線)。津久井・他(2001)に加筆。(東京大学[課題番号:1426])

図3.三宅島火山における2500 年前以降の階段ダイアグラム。2500年前にできた八丁平カルデラの陥没量が2000 年に形成された雄山カルデラと同じ体積であると仮定し、それが9 世紀までにほぼ埋め尽くされたことを考慮すると、八丁平カルデラ形成後は噴出率が大きい(太破線)。津久井・他(2001)に加筆。(東京大学[課題番号:1426])

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