2(3)(3‐1)地震発生先行過程

「地震発生先行過程」計画推進部会長 中谷正生
(東京大学地震研究所)

 地震発生の予測の時間精度を高め、短期予測を可能にするためには、地震発生の直前に発生する非可逆的な物理・化学過程(直前過程)を理解して、予測シミュレーションモテルにそれらの知見を反映させ、直前過程に伴う現象を的確に捕捉して活動の推移を予測する必要がある。これまでの研究によって、地震に先行して発生する現象は多種多様であり、 地震発生準備過程から直前過程にまたがって発生する現象の理解を進める必要性が認識されてきた。このために、 1) 地震に先行する地殻等の諸過程を地震発生先行過程と位置付けて研究し、 2) そのメカニズムを明らかにして、 特定の先行過程が地震準備過程や直前過程のどの段階にあるかを評価し、 3) 数値モデルを作成し、 4) モデルを予測シミュレーションシステムに組み込む必要がある。地震発生予測システムの研究で行う3)と4)の研究に資するために、地震発生先行過程に関する研究では、上記のうち1)と2)を実施することとされている。

ア.観測データによる先行現象の評価

(電磁気学的現象)

 地震の発生に短期的に先行してVHF帯の電波が見通し外に伝播する異常(地震エコー)が観測されることが国内外で報告されている。北海道大学の2002年からの観測では、 地震エコー の継続時間が発生する地震の規模を反映することが示唆されている。この現象を理解し、地震発生予測の高度化を行うため、本年度は観測点を増設し1つの異常伝播イベントを複数の観測点で捉えることを行った(図1)。例えば、2009年の2月から4月にかけての5つのM5クラス地震の前には、これらの地震の前に震央に近い FM 放送局や地震観測用発信点(64MHz)からの地震エコーが、ほとんど同時に広域的に観測された。また、2月1日から弟子屈で観測された足寄、帯広、広尾FM放送局からの地震エコーについては、対応する地震が発生しなかったが、雌阿寒岳から阿寒温泉にかけて直径 6‐7kmに及ぶ広域的に 3‐4cm隆起する地殻変動が認められた。さらに、現象の詳細を探る新しい試みとして、観測点を高密度で配置したエリアを作った。えりも付近に FM 広尾局を主な目標局とした観測点 3か所を約 5km間隔で設置し、日高山脈南部で頻繁に起こる深さ 50kmの地震に伴うエコーを複数の観測点でほぼ同時に観測している。また、電磁気学的観測では、ノイズの弁別が重要であるが、この面で改善の手段として、ウェーブレット変換の有効性を検討したところ、ローカルなノイズである高周波成分を落とすと地震エコーの検出精度が上がることがわかった (北海道大学[課題番号:1005]、Moriya et al., 2010、山下・他, 2010)。
 DC‐ULF、 VLF帯における電磁気観測においては、東海大学を中心とした観測で、神津島・新島において地電位差異常が統計的に有意な地震先行現象であることが示唆されている。今年度は、新島・神津島において、地電位差観測点を再構築し、さらに、IP接続によるテレメータを導入した。これらの地域は、地震活動が活発で、過去の観測で統計的に有意な地震先行現象が観測されていることに加えて、人工ノイズレベルが非常に低いので、 DC‐ULF、 VLF帯地電位観測を中心とした、電磁気的地震先行現象のフィールドとして高い価値をもつと考えている。図2に示すように、これらの地電位差観測点では、電極間の距離、方位を複数組み合わせることによって、人工ノイズや地磁気誘導成分と、それ以外(その多くは地震の短期的先行現象とおもわれる)のものが明確に識別できる(東海大学 [課題番号:2501]、 Orihara et al.、2009)。また、気象庁は伊豆半島東部地域において地磁気全磁力および伏角測定を継続的に実施しているが、今年度は、御石ヶ沢付近の自然電位観測において環境ノイズの大きさは数mVしかないことが分かり、ほぼ補正の必要がないことが示唆された (気象庁 [課題番号:7020])。
 地震エコーは、電離圏の乱れであるし、また、DC‐ULF、 VLF帯での地震に関連した電磁気的異常に関して提案されているいくつかの物理メカニズムも、電離圏への擾乱を伴いうる。フランスCNRSでは、全地球的観測が行える人工衛星によってこれらの問題の検証をするために、電離圏パラメータを測定するために複数のセンサーを搭載した衛星 DEMETER を運用している。東京学芸大では、センサー開発と解析を担当 しているグループ (フランス LATMOS)と協力して、計測された電圧値等の生データの段階から、測定品質の評価を行った(図3)。イオン密度に関しては、わずかであるが太陽光と連動するようなノイズ的変化が見受けられており、 同レベルの微小強度を解析対象とする場合には十分注意が必要であることが分かった。現在はノイズ除去の方法を検討中である。電子密度および温度は計測されたデータにおいて絶対値が大きいため電極汚染による誤測定も考えられるが、相対変動に着目し複数の他の衛星 (FORMOSAT3/COSMIC 等) のデータと比較 したところある強度以上の相対値変動ならばおおむねデータとして利用可能な品質であることが分かった (東京学芸大学[課題番号:2908])。

(地球化学的現象)

 地球化学的な先行現象研究では地下水を井戸から採取して分析することが多いが、個々の井戸には強い個性があることがしられている。そのために、多数の井戸のデータを観測することが一つの方策であると考えられる。東京大学理学系研究科では、観測の省力化・機動化にも資するような、地下水溶存ガスの連続観測装置の改良を行った。ガス精製ラインを簡素化し、4つのラインに分けることで、効率よい除湿に成功した。また、全てのバルブを自動で開閉させるための制御プログラムを開発することで、最適なステップで分析を実施できるようになった。これらの結果、ガス組成の分析精度が向上したと同時に、装置の体積を 1/3 に減らすことができたため、機動観測にも適用できるようになった(東京大学理学系研究科 [課題番号:1502]、 Tsunomori, 2009)。
 地下水溶存ガス濃度の変動は帯水層の物理パラメタを反映するため、同時並行で観測することが望ましいが技術的に困難であった。そこで、地上と帯水層の間で地下水を循環させ、瞬間的な地下水のサンプリングを定期的に行う方式にすることで、水位の回復から観測井のごく近傍の透水係数と、サンプリング時の地下水溶存ガス組成を、同時に取得できることができるようになった (東京大学理学系研究科 [課題番号:1502]、 Tsunomori、 2009)。
 また、ラドン濃度については大気中での濃度変動にも、地震や地殻歪みに関連する変化がみられることがあり、東北大学理学系研究科においては、兵庫県南部地震前後の観測データの再解釈を行うとともに、牡鹿半島のデータを使って気象要素等の影響を調べはじめた (東北大学理[課題番号:2906]、 Omori et al., 2009a、b、 Yasuoka et al., 2009)。

(載荷と地震活動)

 東北大学では、プレート境界での滑りモニタリングの自動化への入力データとして利用可能な、GPSによるリアル タイムに地殻変動を検出するためのシステム開発を行った。またGEONETと東北大学のGPSデータを自動的に併合処理するシステム開発も併せて行った。小繰り返し地震によるすべりモニタリングでは、これを継続し、茨城・福島県沖の海溝近くのすべり速度が2009年も2008年のM7.0の地震以前よりも速い状態にあることを確認した。また、過去のデータの比較の結果、2003年宮城県沖の地震 (M7.2)の後の小規模な余効すべりが、GPSと小繰り返し地震の両方のデータで確認された。これらは、準静的滑りの時空間変化に基づく地震発生切迫度評価のための要素技術の高度化と位置付けられる(東北大学 [課題番号:1210]、太田・他,2009、Matsuzawa et al., 2009、Uchida et al., 2009、Ito et al., 2009a、b、Uchida et al., 2009)。
 南アフリカの大深度鉱山では、大規模な採掘により短期間で大きな載荷変化が期待でき、また、あきらかにその載荷に関連した激しい地震活動がおこる。立命館大学では、そのような採掘部の近くに歪計を埋設して、載荷とそれに対する岩盤・断層系の反応を観察する研究を行っている。過去の記録を精査した結果、2台の歪計から25m以内で発生したMw0.3の地震の6.5時間前から顕著な非地震性の変化が見出された。変化が最大のものは約4×10‐7におよび、それはMw0.3の最大のcoseismic変化(3.6×10‐6)が見られた成分で観測された。過去に、1台の歪計だけで観測されたときにくらべれば、このようなイベントの大きさと位置が少しでも拘束できるようになったわけだが、現在は、広帯域地震計、加速度計、AEセンサーなどとともに、8~9台の歪計からなる総合観測網を、既存の断層の周囲に3次元配置で展開する準備を始めている (立命館大学 [課題番号:2401]、Ogasawara et al., 2009、桂・他,2009、直井,2010、小笠原・他,2009、Yabe et al., 2009、Durrheim et al., 2009)。

(地殻構造)

 かねてから、地震発生に先行して、地殻の弾性・非弾性構造が変化したのではないかという例が報告されている。最近、 雑微動信号を利用して、地殻構造をモニターする地震波干渉法がさまざまな方面で注目されているが、京大防災研[課題番号:1810]では、このなかでも、データが豊富に得られ、将来の実用展開での利便性が高い単独微小地震観測点の雑微動の自己相関関数(ACF)を用いる方法を研究している。今年度は、これまでに、地震イベントとの関連がみつかった個別フェイズのラグタイムに加えて、ACF の減衰定数を求め(図4)、それぞれが大地震の発生に関して同様の情報をもっているかさぐっている。

イ.先行現象の発生機構の解明

(電磁気学的現象)

 地震エコー現象は、大気中に電波の散乱体があらわれたことを観測していることは間違いないとおもわれるが、その発生機構についてそれ以上具体的なことはわかっておらず、地震との関係も、統計的な議論にとどまっている。北海道大学は、このような段階においては、観測エンド側から、どういった物理過程をみているのかを順次追っていくことが有効であると考え、フィールドミルを用いた大気電場計測を 2009 年 1 月 23 日から、VHF 帯電波伝播異常も観測しているえりも地域冬島観測点において開始した (図5)。通常の大気電場強度は数100V/m であるのに対し、用いているフィールドミルのダイナミックレンジ は‐20 kV/m から+20 kV/m までと広い。16bit の A/D 変換器を内蔵したデータロガーを用いているため、分解能は 0.6 V/m であり十分といえる。 2009 年 3 月 24 日の 13:30頃から地震に先行すると考えられる VHF 帯電波異常が冬島観測点とえりも観測点において共に観測された。継続時間は冬島観測点において約1.5時間であった。このときフィールドミルデータは、24日13:30ごろから 22:00頃まで電場強度が非常に強い擾乱を 受けていることを示している. 前後の23日と25日は比較的静穏な電場強度波形を示しているが、この期間に限り特異な擾乱を受けていたことが判明した。このときの気象データから、降雨や風による影響でフィールドミルの擾乱が引き起こされた可能性は低いといえる。しかし、24日の天候は曇りであったため、フィールドミル上空を通過する雲の雲内電荷が擾乱を引き起こした可能性、また、大気中のイオン濃度の変化により引き起こされた可能性も考えられ、このような擾乱が地震に関連していたことをはっきりさせるためには、冬島よりやや離れた場所でフィールドミルの同時観測を行うとともに、天気監視カメラ・イオン計測装置を用いた観測を並行して実施する必要がある(北海道大学[課題番号:1005])。
 DC‐ULF、 VLF帯における地電位差異常においては、先行現象の発生場所が震央(震源)であるような電磁気的現象の候補はいくつも提案されており(東北大学理[課題番号:2906]、川田・他,2009、武藤・他,印刷中、東海大学 [課題番号:2501]、京大防災研[課題番号:2907])、電磁気的現象のなかでも、先行現象と発生した地震との物理的関連が理解しやすいのではないかと期待される。そのためには、仮定した電磁気現象ソースによって地表近くの各観測点で期待される観測値(東北大学理[課題番号:2906]、Takahara et al., 2010)を定量的に計算できる必要があるが、地殻の電磁気的物性は、不均質性・非等方性が強いためにグリーン関数は非常に複雑であることが一般的である。過去に神津島で観測された人工ノイズ等も含むデータについての詳細な解析の結果、神津島の電気的構造に大きな異方性が存在している事が示唆され (Orihara et al., 2009)、その確認のためにVLF‐MT探査を実施した( 図6 ) (東海大学 [課題番号:2501])。

(地球化学的現象)

 地震に先行して観測されてきた地下水中のラドン濃度異常の約 20%は濃度の減少であり、帯水層中で亀裂が生成することでラドン放出量が増加する、というシナリオだけでは説明がつかない。そこで、東京大学理学系研究科では、帯水層中に生成する新たな亀裂の量、帯水層中の空隙率と飽和度、ラドンガスの気液平衡を考慮することにより、ラドン濃度の減少を定量的に説明することに成功した (東京大学理学系研究科 [課題番号:1502]、Tsunomori and Kuo, 2009、2010)。先行現象は、観測される異常の振幅が単純な物理的モデルからの考察に比して「大きすぎる」ことがしばしば問題とされるが、その点についてしっかりとした物理的な定量的考察がなされたことは重要な進歩である。

(載荷と地震活動)

 東北日本沈み込み帯においては、地震活動をおこせるはずの温度範囲にあっても、プレート境界の地震カップリングが有意に1を下回っている領域があり、そこでは、プレート境界で発生するスローイベントや余効すべりが地震や低周波微動の発生を促していることがアスペリティモデルで定性的に説明されている。さらに、同地域では、小繰り返し地震やGPSデータによってプレート境界でのすべりモニタリングができることが示されている。東北大学では、そのような手法によるモニタリングの高度化と、アスペリティモデルの定量化による、地震の切迫度評価への取りくみを始めた。
 理論的な側面から、巨大地震サイクルに伴って、その周辺でのプレート収束速度の揺らぎが小繰り返し地震に及ぼす影響を調べるために、10‐5の計算誤差で地震性すべり量の定量的議論をすることが可能な、極めて高い時間分解能を有する数値シミュレーションに着手した。その結果、小繰り返し地震の発生間隔は、プレート収束速度が速いほど短くなることに加えて、Time‐Predictable 的な傾向がみられることが示された。今後様々なケースを検討しなくてはならないが、このような研究によって、切迫度の情報をどこから得るのがより信頼度が高いのかを検討していくことは有効であるとおもわれる(東北大学 [課題番号:1210]、Ariyoshi et al., 2009a、b、Ito et al., 2009a、b、Uchida et al., 2009)。 また、 東京大学地震研究所では、 地震サイクルのモデリングにおいて根本的な役割を担う摩擦法則の最新の知見をとりこんだ、 1次元バネーブロックモデルの計算コードを開発した。摩擦法則の微妙な差が、震源核の形成等の予測に重要な影響を与えることがかねてから指摘されており、これまで知られていた摩擦法則と実験の不一致が解消された新しい摩擦法則でのシミュレーションを行なうことは、地震発生の数値モデルの基礎付けとして不可欠な作業である(東京大学地震研究所 [課題番号:1210]、永田他、2009a、b、Nakatani et al.、2009、Nagata et al.、2009)。さらに、地震活動からの地震サイクル中の現位置情報をとりだすための新たなアプローチとして、JAMSTECは、離散要素法で表現した、付加体中での大小の断層形成・活動モデルを応用する試みをはじめている(東京大学地震研究所 [課題番号:1210]、阪口・堀,2009、堀・阪口,2009a、b)。
 また、陸上および海底地震観測網で精度よく求めた地震のメカニズム解を用いて、宮城沖の2003年M7.2の地震の余震データの解析を行った。本年度は特に、応力テンソルインバージョンにより応力場の推定を行った。その結果、本震すべり域の東端附近に、広域応力場からのずれが大きく、本震のすべりによる応力変化の影響を受けているとみられる地震クラスターがあることが分かった(図7)。このことは、プレート境界地震が、その周辺のプレート内地震の起こり方に与える影響に関しても、DCFFによる考え方が有効であることを示唆している(東北大学[課題番号:1210]、鈴木・他,2009a、b)。
 さらに、大地震と小地震の間にどのような相互作用があるかは、地震予知の根幹にかかわる問題であるが、東北日本の沈み込み帯では、プレート境界での大小地震が入り混じった地震クラスターがあることが最近わかってきており、これは、スケール間の相互作用の検証にふさわしいデータであると考えられる。そこで、岩手県釜石沖のM4.8の繰り返し地震を含む地震クラスターにおいて正確に推定したイベント間距離、断層サイズデータを用い、比較的大きな地震にも適用できる繰り返し地震抽出方法の検討を行った。その結果、2つの地震のうち小さい方の地震のコーナー周波数付近のコヒーレンスを用いると、地震の規模によらず繰り返し地震とそうでないものの区別が明瞭にできること分かった。さらにイベント間の距離(重なり具合)やサイズの違いと波形のコヒーレンスの関係を調べ(図8)、 新たな繰り返し地震抽出基準の策定準備に取り掛かった(東北大学 [課題番号:1210])。
 北近畿の丹波山地では、これまで兵庫県南部地震や昭和南海地震の前後に微小地震活動度が大きく変化した例が指摘されている. この地域はそもそも、定常的に微小地震活動度が異常に高く、 所々の観測データで示唆される丹波山地下の地下流体の存在が地震活動に大きな影響を与えていると考えられている。京大防災研では、この地域での非常に高密度な多項目観測を開始し、順次観測点を展開している。高感度であるため、小さな地震まで初動メカニズム解が決定でき、絶対応力場の情報がえられる。一方、高密度の面的な測線で比抵抗構造探査(図9)を行うことで、3次元的に地殻流体の分布がおさえられることが期待され、さらに、新型の密閉ボアホール式測定での広帯域・高SN比の間隙圧モニター(図10)などのデータも得られるので、地下流体の挙動と、微小地震活動、 地震サイクルとの関連の総合的な理解が、これまでとは全く違うレベルで進展すると期待される(京都大学防災研究所 [課題番号:1811]、藤野・片尾,2009、Yoshimura et al., 2009)。また、 東京大学地震研究所では、南アフリカ金鉱山内において、より発生頻度の高い地震を、至近距離・高周波観測をおこない、地震波形情報から得るさまざまな応力パラメタと、既知の採掘応力を比較する試みをおこなってきた。本年度は、2008年度に完成した、25 kHz加速度計ネットワークの維持とデータの品質チェックをするとともに、これから採掘応力の上昇期を迎える他の鉱山での観測網構築の準備を行った (東京大学地震研究所[課題番号:1420]、和田・他,2009、小笠原・他,2009、Durrheim et al., 2009、Ogasawara et al., 2009)。

展望と課題

 直前予知にも関連する「先行過程」に焦点をあてた研究は、「前兆さがし」を繰り返すべきでないとする、旧地震予知計画への反省から、新地震予知研究計画ではそれほど行われなかった。しかし、今回、課題を募集して、実際にはじまった研究の内容をみてみると、90年代以降急速に一般化した地震発生の力学的物理モデルに準拠することで、やみくもな経験主義ではないアプローチによって先行過程を研究する機運が熟していたことがみてとれよう。

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図1. 2009年11月現在での地震エコー観測点(丸)と目標局(三角:FM放送局、 菱形:64 MHz発信局) (北海道大学 [課題番号:1005])。

図1. 2009年11月現在での地震エコー観測点(丸)と目標局(三角:FM放送局、 菱形:64 MHz発信局) (北海道大学 [課題番号:1005])。

図2. 新島の新規地電位差観測点。旧若郷小学校といきいき広場間はNTTの専用回線で接続。地電位差観測は1Hzで実施している(東海大学 [課題番号:2501])。

図2. 新島の新規地電位差観測点。旧若郷小学校といきいき広場間はNTTの専用回線で接続。地電位差観測は1Hzで実施している(東海大学 [課題番号:2501])。

図3. Demeter衛星でえられた2008 年 8~9 月におけるイオン密度空間分布。代表的な例として O+ 密度 (cm "3 ) をプロットした。電離圏研究で知られている4波構造が見られる(東京学芸大学 [課題番号:2908])。

図3. Demeter衛星でえられた2008 年 8~9 月におけるイオン密度空間分布。代表的な例として O+ 密度 (cm -3 ) をプロットした。電離圏研究で知られている4波構造が見られる(東京学芸大学 [課題番号:2908])。

図4. DP.NNJ 観測点での、2006 年 1 月から2009 年 7 月までの期間の ACF の特定のフェイズのラグタイムと ACF‐Q の 時間変化。点線は2007年能登半島地震の発生時を示す。上 2 枚が、特定のふたつのフェイズのラグタイムの時間変化を、最下段の図が ACF‐Q の時間変化を示す。ACF‐Q の図において、緑の点は日々の値を、赤い線はそれらの 10 日間の移動平均を示す(京大防災研[課題番号:1810])。

図4. DP.NNJ観測点での、2006年1月から2009年7月までの期間のACFの特定のフェイズのラグタイムと ACF‐Qの 時間変化。点線は2007年能登半島地震の発生時を示す。上2枚が、特定のふたつのフェイズのラグタイムの時間変化を、最下段の図がACF‐Qの時間変化を示す。ACF‐Q の図において、緑の点は日々の値を、赤い線はそれらの10日間の移動平均を示す(京大防災研[課題番号:1810])。

図5. 2009年3月24日のえりも地域冬島観測点での地震エコーと大気電場変動記録(北海道大学[課題番号:1005])。

図5. 2009年3月24日のえりも地域冬島観測点での地震エコーと大気電場変動記録(北海道大学[課題番号:1005])。

図6. 神津島におけるVLF‐MT探査の結果。左図は地形。右図が測定された見掛け比抵抗分布。海岸付近の10Ωmから神津島で最も標高の高い天上山では10kΩmに達する値となった(東海大学 [課題番号:2501])。

図6. 神津島におけるVLF‐MT探査の結果。左図は地形。右図が測定された見掛け比抵抗分布。海岸付近の10Ωmから神津島で最も標高の高い天上山では10kΩmに達する値となった(東海大学 [課題番号:2501])。

図7. 本震のすべりによるΔ CFF 分布。応力変化の影響を受けていると考えられる地震クラスター内の地震において計算されたΔ CFF を示す。(a) Δ CFF の空間分布。ドットでΔ CFF の計算を行った地震を、カラースケールでそのΔ CFF の値を示す。十字は震源が推定された地震を表す。矩形はΔ CFF の計算を行う際に仮定した本震断層を示す。(b) 左図中のドットで示された地震におけるΔ CFF の頻度分布。多くの地震はΔ CFF が正となる断層で地震が発生しており、本震のすべりによる応力変化の影響を受けたと考えられる(東北大学[課題番号:1210])。

図7. 本震のすべりによるΔ CFF 分布。応力変化の影響を受けていると考えられる地震クラスター内の地震において計算されたΔ CFF を示す。(a) Δ CFF の空間分布。ドットでΔ CFF の計算を行った地震を、カラースケールでそのΔ CFF の値を示す。十字は震源が推定された地震を表す。矩形はΔ CFF の計算を行う際に仮定した本震断層を示す。(b) 左図中のドットで示された地震におけるΔ CFF の頻度分布。多くの地震はΔ CFF が正となる断層で地震が発生しており、本震のすべりによる応力変化の影響を受けたと考えられる(東北大学[課題番号:1210])。

8. 釜石沖地震クラスターにおける規格化距離( イベント間距離/ 2 つのイベントの半径の和、0 は完全に重なり、1 は 2 つのイベントが接する)と 2 つのイベントのうち小さい方の地震のコーナー周波数の 1/2~2 倍の周波数領域 でのコヒーレンスの関係。すべての地震の組み合わせについて、20 個の観測点での値をそれぞれシンボルで示す。 色は S/N 比を示し、星は半径の大きさが 2 倍以上異なるものを示す。重なる場所が存在する規格化距離が 1 以下でのみコヒーレンスが高い組み合わせがある (東北大学 [課題番号:1210])。

図8. 釜石沖地震クラスターにおける規格化距離( イベント間距離/ 2 つのイベントの半径の和、0 は完全に重なり、1 は 2 つのイベントが接する)と 2 つのイベントのうち小さい方の地震のコーナー周波数の 1/2~2 倍の周波数領域 でのコヒーレンスの関係。すべての地震の組み合わせについて、20 個の観測点での値をそれぞれシンボルで示す。 色は S/N 比を示し、星は半径の大きさが 2 倍以上異なるものを示す。重なる場所が存在する規格化距離が 1 以下でのみコヒーレンスが高い組み合わせがある (東北大学 [課題番号:1210])。

図9. 比抵抗構造探査の観測点(京都大学防災研究所 [課題番号:1811])。

図9. 比抵抗構造探査の観測点(京都大学防災研究所 [課題番号:1811])。

図10. 間隙水圧観測で得られた地震波形(京都大学防災研究所 [課題番号:1811])。

図10. 間隙水圧観測で得られた地震波形(京都大学防災研究所 [課題番号:1811])。

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研究開発局地震・防災研究課

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