1(1)地震・火山現象のモニタリングシステムの高度化

「地震・火山現象のモニタリングシステムの高度化」計画推進部会長 渡辺俊樹
(名古屋大学大学院環境学研究科)

 地震現象と火山噴火現象の理解を深めるとともに、それらの予測精度を向上させるために、これまでに日本列島全域に稠密な地震・地殻変動等の観測網、および全国の火山に地震・地殻変動・重力・全磁力等の火山活動観測網が整備されてきた。本計画においても、これらの既存の観測網を着実に維持・更新し、得られたデータを活用して地震活動・地殻変動及び火山活動を的確にモニターしていくことが必要である。さらに、諸観測網の高密度化および多項目化といった整備・強化、新たな観測手法・解析手法の導入、観測データの実時間処理システムの開発と整備といったモニタリングシステムの高度化を図ることが必要である。また、本計画では、地殻活動予測シミュレーションに基づく地殻活動の予測、および噴火シナリオに基づく火山現象の予測を指向しており、モニタリングシステムの出力の高度化、すなわち、定期的あるいは準リアルタイムでの各種の観測データのデータベースあるいはシミュレーションシステムへの提供について重点的に検討を行う必要がある。
 各種観測によって得られた成果は、随時、地震調査委員会や地震予知・火山噴火予知連絡会などに提供されているほか、各機関や関連のホームページで公開されている。特に顕著な地震や火山活動があった場合には集中的な観測が行われる。平成21年度には、2009 年8 月11 日の駿河湾の地震(M6.3)、2009年12 月の伊豆半島東方沖群発地震の際には集中的に観測が行われ、結果が迅速に公開された。

ア.日本列島域

(地震観測によるモニタリングシステムの高度化)

 日本列島全域に整備された稠密な地震観測網を用いて一元的な震源決定処理が気象庁により行われているが、震源決定精度の向上、地震活動異常を定量的に評価するシステムの構築、CMT解や震源過程解析の高精度化が図られた(気象庁[課題番号:7002, 7003, 7004, 7005])。
 地震データ流通システムについては、高速広域ネットワークであるJDXnet上のデータ相互交換システムの改良および多項目観測化について検討を進め、地震観測データのチャネル情報管理システム(CIMS; Channel Information Management System)をJDXnet上で運用する検討を始めた。また、衛星テレメタリングシステムの更新の更新を行い、低消費電力で帯域利用効率の高い新世代のVSATシステムがほぼ完成した。降雨などによる通信障害によって生じるデータ欠落を回復するための付加装置(Uehira, 2009) が開発された。地上通信回線や現地記録方式を有効に利用する機動観測機器が導入された(東京大学[課題番号:1401])。
 長周期波動場のモニタリング、即時的震源情報の提供とそれによる地殻活動・火山現象モニタリングの手法の開発・高度化が行われた。超低周波地震活動モニタリング(浅野, 2009)について、少数の広帯域地震記録から超低周波地震を検出する解析法を開発した(図1)。十勝沖を対象として試験を行い、既知イベントから約30 km 離れたイベントも本手法で検知可能であること、2 イベント間の到達時刻差からその相対的な位置の推定が可能であることを確認した。西南日本における深部低周波微動や深部超低周波地震(Obara, 2009, Obara and Sekine, 2009, Maeda and Obara, 2009)については、従来のエンベロープ相関を用いた方法に加え、振幅の空間分布を考慮したハイブリッド法を実装し、カタログの再構築を行った(図2)。短期的スロースリップイベントの自動検出システムを開発した。四国での過去データを用いて試験を行い、手動で検出との整合性を確認するとともに新たな繰り返し発生するスロースリップイベントを検出した。Hi‐net 自動処理システムによるイベント・トリガ情報を受けて相似地震を自動判定・抽出するシステムを構築し、高速化させた(防災科学技術研究所[課題番号:3001])。
 地震の発生・位置・メカニズム(モーメントテンソル)解を完全自動で決定するGRiD MT の改良を進めた(Tsuruoka et al., 2009)。2009 年8 月11 日に駿河湾で発生した地震では、地震発生後およそ3分でメカニズム決定、4分後にホームページに自動的に公開された(東京大学[課題番号:1401])。
 新しいモニタリング手法として、波形相関を利用した受動的モニタリングについて検討を開始した。文献調査から、常時微動やコーダ波の相互相関や自己相関からグリーン関数を合成し、そのコーダ波部分を解析するPassive Image Interferometry 法が最も有効であると考えられた。この手法を2004 年新潟県中越地震(Mj6.8)の震源域における本震発生の前後2 カ月間の観測データに適用した(Wegler et al., 2009)。 本震発生の直前に変化は見られなかったが、本震発生に伴いフェイズの顕著な遅れを検出し、震源域において地震波速度が最大で0.5 %低下したことがわかった。適用限界や信頼性については未だ解明されておらず、引き続き検討を行う(東北大学[課題番号:1201])。

(地殻変動観測などによるモニタリングシステムの高度化)

 全国のGPS 連続観測網(GEONET)による地殻変動連続観測、水準測量、高度地域基準点測量、絶対重力観測および地磁気連続観測を実施した(国土地理院[課題番号:6001, 6002, 6003, 6004, 6005, 6006]、気象庁[課題番号:7007]、 海上保安庁[課題番号:8002])。潮位連続観測を実施した(気象庁[課題番号:7001]、国土地理院[課題番号:6005]、海上保安庁[課題番号:8001])。
 GEONET による地殻変動連続観測によって、日本列島全域の地殻変動がモニタリングされている。解析ソフトウエアをバージョンアップするとともに、大気遅延勾配の推定やアンテナの絶対位相特性モデルの採用などの新しい解析戦略を適用した。これにより系統的な誤差の大幅な軽減が図られ、地殻変動の検出精度が向上した。なお、GEONET の観測データから得られる水蒸気データを気象庁メソ数値予報モデル(MSM)の初期値を作成するメソ解析に提供し、これによって降水の予報の精度が改善された。また、GEONETの1秒データのリアルタイム解析の試験運用を行い、M7程度の大地震が発生した場合に緊急地震速報を用いて地震時地殻変動の迅速な検出と断層モデル推定を行う手法を開発した。解析精度が極端に悪化する時間帯があるという問題点が明らかになったが、好条件下では地震時地殻変動の迅速な検出が可能であることがわかった(国土地理院[課題番号:6001])。
 衛星搭載SAR(合成開口レーダー)データを使用した干渉解析により、地震による地殻変動の面的分布の把握及び活火山地域における定常的な高精度地盤変動測量を実施した。ハイチ地震(2010年1月12日、M7.0)(図3)を含む国内外で発生した主な地震について緊急解析を実施し、その地殻変動の様相を明らかにし、解析結果を迅速に報告した(国土地理院[課題番号:6006])。

(火山におけるモニタリング)

 全国の活火山について、従来より地震計、空振計、GPS等により連続的な監視観測を行っているが、平成21年度は火山噴火予知連絡会で中長期的に観測体制の充実が必要とされた47 火山(うち13 火山は従来連続監視を行っていなかった火山)への地震計・傾斜計等の観測施設の整備を開始した。また、地震観測・GPS繰り返し観測、熱観測、火山ガス放出量の観測等の機動観測を計画的に実施した。12 月に地震活動が一次活発化し、地殻変動も観測された伊豆東部火山群については、GPSを増設し観測強化を図った(気象庁[課題番号:7006])。
 活動的な火山地域についてSAR干渉解析を実施し、有珠山、吾妻山、三宅島、硫黄島、九重連山(星生山)、霧島山(新燃岳)等の火山性地殻変動や局所的な火口の収縮・膨張を捉えた(国土地理院[課題番号:6006])。噴火の危険がある場合や噴火中は地球観測衛星の画像解析を実施する(産総研[課題番号:5001])。南方諸島及び南西諸島の海域火山の定期巡回監視を実施し、火山活動に伴う変色水等の状況を速やかに火山噴火予知連絡会へ報告した(海上保安庁[課題番号:8003])。
 なお、火山におけるモニタリングを促進するために、各機関の地震計・傾斜計・空振計等の観測データを共有化・流通させるための検討を進めている。

イ.地震発生・火山噴火の可能性の高い地域

(宮城県沖及び周辺地域)

 プレート境界型大地震が過去繰り返し発生している宮城県沖において、海底地震計による観測を実施した(東京大学[課題番号:1402]、気象庁[課題番号:7008]、東北大学[課題番号:1202])。各機関のデータを合わせて地震波形の検測と震源計算を実施した。従来の一元化処理データに海域での観測データを加えて堆積層補正や観測点補正値を検討することにより、一元化処理による震源よりも精度の高い震源を得ることができた。また、陸上観測点で捉えられなかった地震が多数観測され、宮城県沖地震の震源域での詳細な地震活動データが得られた(気象庁[課題番号:7008])。長期観測型海底地震計を用いた同一の観測点配置による繰り返し観測を2002 年から2009 年まで実施した。海底地震計を回収して、記録の整理および震源決定を行って過去の震源とまとめることにより、2002 年度から2009 年度までの8 年間における宮城県沖地震の震源域周辺のより正確な微小地震活動の分布が得られた(図4)(東京大学[課題番号:1402])。2005 年宮城県沖地震の余震分布ならびに発震機構解について詳細に調査した結果、本震のすべりによる応力擾乱により励起されたプレート内での地震活動と解釈できるクラスタが見いだされた(Suzuki et al., 2009)。また、プレート境界型地震に先行する非地震性の地殻変動を検出した(東北大学[課題番号:1202])。
 陸上GPS 連続観測点のデータを用いて、2005 年宮城県沖地震(M7.2)本震震源域の固着の回復過程について検証した。最大余震発生後のデータに対してプレート境界におけるすべりの時空間発展を推定した結果、 2007 年1 月末以降、本震震源域周辺での準静的すべりがほとんど見られなくなっており、海底地殻変動観測の結果と整合的であった。自動処理により抽出された小繰り返し地震の発生状況およびプレート間の準静的すべり状況のモニタリングを行った(Uchida et al., 2009a)。最近4 年間では、2008 年に始まる福島県、茨城県のはるか沖合での準静的すべりの加速が顕著であること、このすべりの大部分は2008 年5 月の茨城県沖M7.0 の地震後に発生していること、2009 年末頃においても同領域のすべり速度は以前よりも速い状況が続いていることなどが明らかとなった。2008 年以降の福島県、茨城県のはるか沖合を中心とする海溝近傍でのすべりの加速が、宮城県沖の北緯38.5 度付近まで達しているように見え、宮城県沖地震の震源域にも応力変化を与えている可能性がある(図5, 6)(東北大学[課題番号:1202]、Uchida et al., 2009b)。
 宮城県沖地震の前兆捕捉のため、深さ1000 m 前後の深井戸での水温・水位観測、および温泉施設でのラドン濃度・水温・炭酸ガス濃度観測からなる「深層地下水変動観測システム」を連続稼働させている。2008 年6 月14 日の岩手・宮城内陸地震では3観測点とも水位・水温のcoseismic な変動が明瞭であった。また、同年7 月19 日の福島県沖地震(M6.9)、7 月24 日の岩手県北部沿岸地震(M6.8)のcoseismic な変動が認められた(東北大学[課題番号:1202])。

(伊豆)

 伊東市周辺地域で延べ42 キロメートルの災害時緊急水準測量などを実施した。また、2009 年12 月17 日から21 日にかけて活発化した伊豆半島東方沖の群発地震活動においては、GEONETで検出された地殻変動がメカニズム解明に寄与した(図7)(国土地理院[課題番号:6001, 6002, 6003])。
 長基線地電位差連続観測においては、過去の群発地震活動時に地電位の高まりが観測されていたが、2009 年12 月の活動に対しても、2009 年11 月頃よりIKE‐YSD‐KWN をつなぐラインの北西側の各観測点で地電位が上昇していることが読み取れた。プロトン磁力計を用いた全磁力連続観測では、2009 年11 月頃より震央域直近の4観測点で数nT 程度の全磁力差の上昇が認められた。ただし、電磁場と地震活動、地殻変動との対応はあまり明瞭ではない(東京大学[課題番号:1402])。
 伊豆半島東部の産総研大室山北地下水位観測点は、これまでに伊豆半島東方沖群発地震前に水位の低下を何度も生じており、群発地震の原因であるダイク(岩脈)の地下深部からの貫入による体積ひずみ変化を、ダイクが群発地震を引き起こす前に検出していると考えられている。今回の活動でも群発地震に先立つ地下水位の変化を検出した。大室山北では水位の低下(体積膨張)に始まり、震源が浅くなり地震活動が活発化すると水位が上昇する(体積圧縮)傾向が認められている。今回の活動でも同様な地下水位の変化が認められ、気象庁の東伊豆体積歪観測点の挙動と合わせて、観測データを説明するマグマ貫入モデルを提示した(図8)(産総研[課題番号:5002])。
 伊豆半島東部の周辺における群発地震の震源を三次元速度構造を利用して再決定を行った結果、一元化震源と比べて明らかにばらつきが小さくなり、シャープな震源分布となった。また、一元化震源では深さが8~10km に決まっていた震源が三次元速度構造による震源計算では8km 以浅にまとまった(図9)(気象庁[課題番号:7002])。

(火山)

 活動的な火山において多項目観測によるモニタリングを継続するとともに強化した。樽前山、有珠山、北海道駒ヶ岳、伊豆大島、富士山、伊豆東部、浅間山において、GPS 火山変動観測装置(REGMOS)による連続観測、および伊豆大島においてAPS 観測を継続実施した。浅間山および草津白根山において水準測量、重力測量、草津白根山でGPS 測量を実施した(国土地理院6007)。雌阿寒岳、草津白根山、三宅島、伊豆大島、阿蘇山において地磁気全磁力連続観測を実施した(気象庁[課題番号:7009])。基盤的な火山観測施設の整備のため、有珠山(1 カ所)、岩手山(1 カ所)、浅間山(2 カ所)、阿蘇山(2 カ所)、霧島山(2 カ所)に観測地点を選定し、観測施設整備工事に着工した。これらの観測施設では、深度200m の観測井の孔底に孔井式地震傾斜観測装置、地表付近に広帯域地震計、GPS観測装置、データを伝送するためのテレメータが設置される(防災科学研究所[課題番号:3002])。
 比抵抗モニタリングの予備観測として阿蘇火山及び中岳火口周辺において高密度VLF 観測を実施し、火口周辺域における浅部電気伝導度分布の把握と地下水系の推定を試みた。この観測の結果、火口周辺の電気電導度分布の特徴が明らかになり、火口内浅部に高電導性を示す地下水が存在していること、火口直下の地下水が火口の北側の地下を通りながら流下していることが推察された(Fairleya et al., 2010)。中岳火口周辺で行われている地磁気観測の高度化に取り組み、無線LANシステムを利用したリアルタイムモニタリングシステムを構築した(京都大学[課題番号:1901])。

ウ.東海・東南海・南海地域

 本地域においては、全国に展開されている地震観測網、地殻変動観測網が特に密に配置されていることに加え、各機関の定常・臨時の観測網が整備され、重点的に観測が実施されている。また、レーザー式変位計、多成分歪計、体積歪計(気象庁[課題番号:7011])、地下水等総合観測(産総研[課題番号:5002])、海底地殻変動観測(名古屋大学[課題番号:1701])、精密制御震源(弾性波アクロス)(名古屋大学[課題番号:1701]、気象庁[課題番号:7011])、OBS(気象庁[課題番号:7010])、海底地形調査(海上保安庁[課題番号:8004])など多項目の観測が実施されている。
 紀伊半島沖に構築した広帯域海底地震計(3 台)と長期観測型海底地震計(6 台)を用いた海底地震観測網による観測を継続し、南海トラフ沿いで発生していると考えられる超低周波地震を捉えることができた。2009 年11 月からは広帯域海底地震計(3 台)と長期観測型海底地震計(5 台)を用いた海底地震観測を紀伊水道沖の海域で開始した(東京大学[課題番号:1403]、望月ほか, 2009)。東海地方に展開している50 点を超えるGPS 観測点網を用いたGPS 観測を継続して実施した。そのうち9 観測点において1 Hz サンプリングによるGPS 観測を導入した(東京大学[課題番号:1404])。
 新たに地下水等総合観測施設を2 地点(安濃、須崎)で整備し運用を開始した。これにより短期的スロースリップ検知能力が向上した(小泉ほか, 2009, 大谷ほか, 2009)。2009 年8 月の駿河湾地震時には、地下水観測データは東海地震発生可能性の議論の材料として用いられた(産総研[課題番号:5002])。
 2004 年1 月から2006 年12 月までのGPS データを用い、東海地域のひずみ解析を行った。東海スロースリップの発生時期には場所によって‐0.4~+0.4 μ strain/yr の範囲で変化するのに対し、2005 年8 月以降は‐0.3~+0.1 μ strain/yr と小さな範囲に収まり、スロースリップによってアスペリティ領域の歪の解放があった影響が示唆された。面積ひずみ速度の分布から想定東海地震の断層の領域内のアスペリティの検討を行い、静岡県中西部に3つのアスペリティの存在を示した(東京大学[課題番号:1404])。
 既存の電磁気観測点を用いた全磁力観測を継続した。新たに三成分変化計の増設、高サンプリング化を行い、磁場観測の時間・空間分解能を向上させた。御前崎および豊橋において絶対および相対重力観測を実施した。御前崎における絶対重力測定の結果、同地の沈降速度から期待される重力増加の半分以下の重力変化しか生じていないことが再確認された(東京大学[課題番号:1404])。
 駿河湾および熊野灘において海底地殻変動計測を実施した。熊野灘では4回の観測を行い、2005 年から継続している観測とあわせて海底の動きを明らかにした。駿河湾においては後述するように緊急の観測を行った。また、地震観測による固着すべりのモニタリングを行うため、愛知県新城市に地震計アレイを設置し中期的連続観測を開始した。精密制御震源(弾性波アクロス)によるプレート境界面のモニタリングについては、愛知県豊橋市(名古屋大学)、静岡県森町(気象研究所)、岐阜県土岐市(JAEA)の3箇所に設置されている震源が送信した信号を地震計アレイによって受信し、同じ周波数帯域で送信している3箇所からの信号が分離できること、後続波が認められることを確認した(名古屋大学[課題番号:1701])。精密制御震源(弾性波アクロス) からの信号とノイズレベルの関係から地震波速度の時間変化を調査する上で最適なスタッキング時間を求め、広域の観測点における走時時間変化を求めた。東海臨時稠密地震観測(Kato et al., 2009) のデータを解析し、精密制御震源からの信号と理論走時解析とを比較してプレート境界面からの反射波を判定した(気象庁[課題番号:7011])。
 紀伊半島下のフィリピン海プレートの形状とその周辺の上部マントルの三次元構造を推定するために、新たに臨時観測点を設置した。これまでに得られたデータからレシーバ関数イメージングを行い、低速度層である海洋地殻の上面(フィリピン海スラブの上面)、スラブ内の海洋性モホ面、島弧側の大陸性モホ面が明瞭にイメージされた。さらに、深部低周波イベント発生域のスラブ近傍とその陸側のマントルウェッジが強い低速度異常を示すことがわかった(図10)(京都大学[課題番号:1801]、澁谷ほか, 2009)。
 地球観測衛星による広域の地殻変動検出手法として、干渉性のよい短基線長のペアのみを用いて最小二乗法的に地殻変動の時系列変化を求める短基線長法(Small Baseline 法、SB 法)に基づき、さらにGPS データをコントロールポイントにして長波長ノイズを除去するInSAR 時系列解析手法を開発し、微小な地殻変動の検出に有効であることを示した(図11)(京都大学[課題番号:1801]、Hashimoto et al., 2009)。
 四国から紀伊半島付近までの観測点での到達時刻とP 波極性の検測値データから、1996 年1 月以降の地震のメカニズム解を決定した。また、比較的精度の高い解が得られている四国付近の地震について、上盤プレート、中間層(深さ20km付近)、沈み込むプレート内の3 つの地震発生層の応力逆解析を行い、上部地殻とプレート内の応力軸がほぼ直交していることが確認された。南海地震の発生に関する応力場の時空間分布に着目し、南海地震のサイクルでの変動をモニタリングできる可能性が高いと考えられるプレート境界面に近い上盤プレート内の中間層で発生する地震のメカニズム解と応力場について検討したが、地震数が少ないため今後も検討を要する(高知大学[課題番号:2101])。

(駿河湾の地震)

 2009 年8 月11 日に駿河湾内で発生したM6.3 の地震は沈み込むフィリピン海プレート内部で発生した地震であったと考えられている。GEONETおよび干渉SARのデータ解析によって得られた地殻変動は速やかに公表され、地震の発生メカニズムの解明に寄与した(国土地理院[課題番号:6001, 6002])。リアルタイム験潮データの集中監視により津波を検出した(海上保安庁[課題番号:8001])。この地震を受けて、御前崎および駿河湾地域で延べ131 キロメートルの災害時緊急水準測量を実施した(国土地理院[課題番号:6002])。駿河湾において緊急の海底地殻変動計測を観測を行い、海底局が南西に移動していることを確認した(図12)。一方、駿河‐南海トラフに沿ったひずみ計等にはとくに地震の前兆となるような変動は認められなかった(名古屋大学[課題番号:1701])。
 この地震による想定東海地震断層面上の応力変化を推定した。まず、東海地域のGPS 観測点(大学連合+GEONET)のデータ解析から地震時変位を算出し、これに基づいてインバージョン解析を行って断層すべり分布を算出した。さらに、推定した断層すべり分布から想定東海地震断層面上のΔ CFF 分布を算出した。この結果を先に明らかにした静岡県中西部の3つのアスペリティの分布と比較すると、最も震源に近いアスペリティの付近で数十KPa 程度のΔ CFF 変化があったと考えられる(図13)(東京大学[課題番号:1404])。

まとめ

 本年度は、既存の観測網の着実な維持・更新、諸観測網の高密度化および多項目化が図られた。また、2009 年8 月11 日の駿河湾の地震(M6.3)、2009年12 月の伊豆半島東方沖群発地震などに関する臨時観測が実施された。観測データの(準)実時間処理システムの開発と整備が着実に進行した。新たな観測手法・解析手法の導入は着手したばかりのものもあり、次年度以降の進展が期待される。一方で、得られたデータを活用して、様々な地震・地殻変動及び火山活動に関する科学的知見が得られた。モニタリングシステムの出力の高度化については、データベース部会、シミュレーション部会などと意見交換の場を持ち、進めていきたいと考える。

参考文献

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図1 2003年6月から2010年1月までの期間に検出された浅部超低周波地震の (a) 震央分布および (b) 時空間分布。期間内に発生したM7以上の地震を黄色星印で示す。2009年度中では、ほぼ定常的な十勝沖の活動のほか、2004年以来約4年ぶりに紀伊半島沖で活動が見られた(防災科学技術研究所[課題番号:3001])。

図1 2003年6月から2010年1月までの期間に検出された浅部超低周波地震の (a) 震央分布および (b) 時空間分布。期間内に発生したM7以上の地震を黄色星印で示す。2009年度中では、ほぼ定常的な十勝沖の活動のほか、2004年以来約4年ぶりに紀伊半島沖で活動が見られた(防災科学技術研究所[課題番号:3001])。

図2 ハイブリッド法により求められた2003年1月~2010年1月までの深部低周波微動(赤)及び深部超低周波地震(青菱形)の時空間分布。地域によって微動活動の再来間隔が異なることや微動源の移動の様子が明瞭に分かる。また、微動活動には一定のセグメント境界が存在している(防災科学技術研究所[課題番号:3001])。

図2 ハイブリッド法により求められた2003年1月~2010年1月までの深部低周波微動(赤)及び深部超低周波地震(青菱形)の時空間分布。地域によって微動活動の再来間隔が異なることや微動源の移動の様子が明瞭に分かる。また、微動活動には一定のセグメント境界が存在している(防災科学技術研究所[課題番号:3001])。

図3 ハイチ地震(2010/01/12、M7.0)における地殻変動(国土地理院[課題番号:6006])。

図3 ハイチ地震(2010/01/12、M7.0)における地殻変動(国土地理院[課題番号:6006])。

図4 宮城県沖地震の震源域及びその周辺の地震活動。2005年5月19日から2007年10月22日までで決定された3633個の地震の震央(黒丸)。気象庁の震源リストに対応した地震を再決定した。解析には、△でしめす観測点のデータを使用した。ピンクの線で囲まれた領域は、推定された過去の大地震のアスペリティ(東京大学[課題番号:1402])。

図4 宮城県沖地震の震源域及びその周辺の地震活動。2005年5月19日から2007年10月22日までで決定された3633個の地震の震央(黒丸)。気象庁の震源リストに対応した地震を再決定した。解析には、△でしめす観測点のデータを使用した。ピンクの線で囲まれた領域は、推定された過去の大地震のアスペリティ(東京大学[課題番号:1402])。

図5 小繰り返し地震データから推定したバックスリップレート。黄色星は2005年8月15日の宮城県沖地震 (M7.2)の震央、破線はIgarashi et al. (2000) による低角逆断層型地震の西縁を示す。2006年にはこの地震の周囲で若干固着が弱くなっている。茨城県沖地震(M7.0) および福島県沖地震 (M6.9) のプレート境界地震が発生した2008年以降は、宮城県 0茨城県の沖合の海溝に沿って固着が弱まっている(東北大学[課題番号:1202])。

図5 小繰り返し地震データから推定したバックスリップレート。黄色星は2005年8月15日の宮城県沖地震 (M7.2)の震央、破線はIgarashi et al. (2000) による低角逆断層型地震の西縁を示す。2006年にはこの地震の周囲で若干固着が弱くなっている。茨城県沖地震(M7.0) および福島県沖地震 (M6.9) のプレート境界地震が発生した2008年以降は、宮城県 0茨城県の沖合の海溝に沿って固着が弱まっている(東北大学[課題番号:1202])。

図6 図5のA‐Fの場所(緯度、経度方向に+/‐0.2度の矩形領域)での小繰り返し地震の積算すべり(範囲内に含まれる小繰り返し地震の積算すべりの平均)。MおよびIの縦線はそれぞれ2005年8月15日宮城県沖地震(M7.2) 、2008年5月8日茨城県沖地震(M7.0)の発生時を示す。宮城県沖地震後のA, B, Cと、2008年以降のBをのぞく全域ですべり加速が見られる(東北大学[課題番号:1202])。

図6 図5のA‐Fの場所(緯度、経度方向に+/‐0.2度の矩形領域)での小繰り返し地震の積算すべり(範囲内に含まれる小繰り返し地震の積算すべりの平均)。MおよびIの縦線はそれぞれ2005年8月15日宮城県沖地震(M7.2) 、2008年5月8日茨城県沖地震(M7.0)の発生時を示す。宮城県沖地震後のA, B, Cと、2008年以降のBをのぞく全域ですべり加速が見られる(東北大学[課題番号:1202])。

図7 2009年12月伊豆半島東部の地震で検出された地殻変動(水平変動ベクトル図)(国土地理院[課題番号:6001])

図7 2009年12月伊豆半島東部の地震で検出された地殻変動(水平変動ベクトル図)(国土地理院[課題番号:6001])

図8 2009年12月の伊豆半島東方沖群発地震前後の伊東市周辺における地下水位変化。伊豆半島東部の産総研大室山北地下水位観測点は、1994年10月の観測開始以来、伊豆半島東方沖群発地震前に水位の低下を何度も生じている。今回の活動でも過去の活動と同じような変化が認められ、地震の活動予測に有効であった(産総研[課題番号:5002])。

図8 2009年12月の伊豆半島東方沖群発地震前後の伊東市周辺における地下水位変化。伊豆半島東部の産総研大室山北地下水位観測点は、1994年10月の観測開始以来、伊豆半島東方沖群発地震前に水位の低下を何度も生じている。今回の活動でも過去の活動と同じような変化が認められ、地震の活動予測に有効であった(産総研[課題番号:5002])。

図9 三次元速度構造による震源と一元化震源の比較。2009年12月17日~21日の伊豆半島東方沖の地震(左:三次元速度構造による震源/右:一元化震源)(気象庁[課題番号:7002])。

図9 三次元速度構造による震源と一元化震源の比較。2009年12月17日~21日の伊豆半島東方沖の地震(左:三次元速度構造による震源/右:一元化震源)(気象庁[課題番号:7002])。

図10 尾鷲‐京丹後測線のレシーバ関数イメージ。レシーバ関数の正の振幅(赤)は高速度層の上面を、負の振幅(青)は低速度層の上面を表す。○は深部低周波イベントを、+は通常の地震を表す。(京都大学[課題番号:1801])。

図10 尾鷲‐京丹後測線のレシーバ関数イメージ。レシーバ関数の正の振幅(赤)は高速度層の上面を、負の振幅(青)は低速度層の上面を表す。○は深部低周波イベントを、+は通常の地震を表す。(京都大学[課題番号:1801])。

図11 紀伊半島~丹後半島の変動速度。InSAR時系列解析から求めた2006年10月から2009年8月の平均視線方向変動速度。長波長シグナルはGPSデータを用いて補正してある。色は変動速度を表す。赤線は活断層を示す(京都大学[課題番号:1801])。

図11 紀伊半島~丹後半島の変動速度。InSAR時系列解析から求めた2006年10月から2009年8月の平均視線方向変動速度。長波長シグナルはGPSデータを用いて補正してある。色は変動速度を表す。赤線は活断層を示す(京都大学[課題番号:1801])。

図12 駿河湾における海底地殻変動観測。2009年8月11日駿河湾の地震をはさんだ海底局の移動量を示した。震源に最も近い海底局が南西方向に7.6±6.5cm移動していることが明らかになった(名古屋大学[課題番号:1701])。

図12 駿河湾における海底地殻変動観測。2009年8月11日駿河湾の地震をはさんだ海底局の移動量を示した。震源に最も近い海底局が南西方向に7.6±6.5cm移動していることが明らかになった(名古屋大学[課題番号:1701])。

図13 (上)GPS観測データに基づく8月11日駿河湾の地震の推定すべり分布。(下)推定すべり分布に基づく想定東海地震震源域のΔCFF分布(東京大学[課題番号:1404])。

図13 (上)GPS観測データに基づく8月11日駿河湾の地震の推定すべり分布。(下)推定すべり分布に基づく想定東海地震震源域のΔCFF分布(東京大学[課題番号:1404])。

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