課題番号:1805
京都大学防災研究所・京都大学大学院理学研究科
日向灘の地震活動と南九州の火山活動の相互作用および応力伝播・物質移動過程のモデル化
2.(1)エ
京都大学防災研究所は桜島および宮崎観測所において,地震・地殻変動等の観測を30年以上にわたって継続している.その成果として,GEONET以前のスローイベントの検出,高密度のGPS連続観測やInSAR解析にもとづくマグマ溜りとその蓄積量の時間変化の推定など,重要な知見と多くのデータを蓄積している.特に,桜島北部の姶良カルデラ周辺の地盤は1993年以降隆起に転じ,1995年以降約1億立方メートルのマグマが新たに蓄積されていると推定した.さらに,スラブ内地震はダウンディップエクステンションが卓越するが,カルデラ直下では正断層型となり,応力場の変化を突き止めた.
GEONET等のデータを用いて日向灘のプレート間カップリングと内陸活断層帯におけるすべり欠損の推定モデルを提案した.
地震と火山は十分離れていれば独立の活動と考えられてきたが,その間に関係があることが分かった.特に,火山性微動の遠地地震波の通過に伴う活発化を発見している.
紀伊半島において,フィリピン海プレートの形状とマントルウェッジ内の低速度領域の分布をイメージングすることに成功した.また,後続波解析により,日向灘周辺部では沈み込む海洋性地殻内で地震が発生していることを明らかにした.防災研究所の地震観測網で得られた地震データを用いた予備的な3次元地震波速度構造解析により,桜島東側の深さ約60kmのスラブ折れ曲がり位置付近に顕著な低速度異常域を見出した.
紀伊半島や中国地方において,MT法により比抵抗構造を推定し,地殻内の流体の分布に関する情報を得た.
九州地域にはフィリピン海プレートが沈み込み,日向灘において20~30年間隔で大地震が繰り返し発生している.また,隣接する南九州には,桜島などの爆発的火山がある.いずれもプレートの沈み込みに起因する地震・火山活動であり,両者の間の相互作用は大きいと考えられる.特に地震発生に伴う応力擾乱が,火山に及ぼす影響の評価は,短期から長期にわたる火山噴火活動予測において極めて重要である.加えて,1914年桜島噴火の際に発生した大地震のように,火山噴火に伴う大地震発生の予測も重要な課題である.
上記の観点から,日向灘の地震活動と南九州の火山活動に関連する応力伝播・物質移動過程のモデル化を目指す.この目標に向けて,京都大学防災研究所および関係大学・機関により設置された南九州地方の地震・火山・地殻変動観測網を最大限活用して,地震活動および地殻変動の時間的推移を捉える.並行して,九州南部において,沈み込むフィリピン海プレートおよび陸側モホ面の形状およびマントルウェッジの地震波速度構造を明らかにし,マントルウェッジ内の流体分布とプレート間の固着域の推定を試みる.九州中南部において,広域電気比抵抗モデルを構築するとともに,詳細な火山体深部構造の推定を行う.さらに,これらの探査結果に基づいて数値構造モデルを作成し,シミュレーションを行い,日向灘からの応力伝播過程や火山体下深部からの物質移動過程を解明する.
京大常設地震・地殻変動観測網にHinet,GEONET等のデータを統合し,南九州の地震活動,地殻変動の時間的な推移を捉える.PS/SBInSAR解析を実施し,九州太平洋岸から火山フロントに至る地殻変動の空間パターンを把握する.
このため,既存観測網を用いた地震・地殻変動連続観測およびGPS連続観測を実施するとともに,地震,GPS連続観測点の新設も試みる.
フィリピン海プレートの沈み込む方向に海岸部から火山フロント付近までの複数の測線において高密度で地震観測点を展開する.これら臨時観測点のデータに加えて,測線近傍の既存観測点のデータも活用して,レシーバ関数解析等を行う。プレート境界面やモホ面などの地震波速度不連続面の3次元的構造を明らかにし,プレート境界付近やマントルウェッジ内の流体分布を推定する.
〔平成21年度〕数点で予備観測を行うとともに測線候補地の検討を行う。
〔平成22年度〕観測点の展開を行う。データ蓄積を開始する。
〔平成23年度〕観測点の拡充を行う。レシーバ関数解析を行い,測線下の速度不連続面のラフなイメージを作成する。
〔平成24年度〕観測を継続する。レシーバ関数解析を行い,測線下の速度不連続面のイメージを改善する。
〔平成25年度〕沈み込むフィリピン海プレートと陸側モホ面の形状およびマントルウェッジの地震波速度構造を明らかにし,マントルウェッジ内の流体分布とプレート間の固着域の推定を試みる.
九州地域で実施された種々の電磁気探査結果を包括的に再解析し,広域的な3次元比抵抗モデルの構築を行う.大局的な構造から,特定火山にクローズアップし,補充的に広帯域・長周期MT観測を実施し,その詳細な深部構造の推定につなげ,モデルの高度化を行う.
このため,平成23年度までの3年間で、九州の電磁気探査データを収集・コンパイルし,広域モデルを構築する.
上記の構造データおよび地震・地殻変動データを活用し,三次元構造モデルを構築し,粘弾性媒質あるいは粘性流体を仮定して計算を実行し,地震発生および火山噴火に至る応力伝播・物質移動過程のモデリングを行う.
このため,既存データの収集し,これに基づく暫定モデルを作成する.
橋本学,渋谷拓郎,大谷文夫,福島洋,寺石眞弘(防災研究所地震予知研究センター)
大志万直人,吉村令慧(防災研究所地震防災研究部門)
井口正人,山本圭吾,神田径,為栗健(防災研究所火山活動研究センター)
大倉敬宏,宇津木充,井上寛之(京都大学大学院理学研究科火山研究センター)
平原和朗(京都大学大学院理学研究科) 以上,16名
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研究開発局地震・防災研究課
-- 登録:平成22年02月 --