有限要素法およびその拡張によるプレート境界域周辺の地殻変動シミュレーション

平成20年度年次報告

課題番号:6024

(1)実施機関名:

 国土地理院

(2)研究課題(または観測項目)名:

 有限要素法およびその拡張によるプレート境界域周辺の地殻変動シミュレーション

(3)最も関連の深い建議の項目:

 1.(1)ウ.予測シミュレーションモデルの高度化

(4)その他関連する建議の項目:

 2.(1)イ.特定の地域

(5)本課題の平成16年度からの5ヵ年の到達目標と、それに対する平成20年度実施計画の位置付け:

 余効変動のメカニズムとして、粘性緩和と余効すべりを想定し、それぞれのメカニズムの時間変化を定量的に明らかにする。

(6)平成20年度実施計画の概要:

 2003年9月26日に発生した十勝沖地震に関して、3次元有限要素法により粘性緩和による変動量を推定し、余効すべりの推定と合わせて余効変動モデルを構築する。

(7)平成20年度成果の概要:

 2003年9月26日に発生した十勝沖地震の余効変動に関して、これまで地震発生直後のデータを用いた解析では、プレート境界面上のゆっくりとしたすべり(余効すべり)によって説明がされてきた。地震直後は、余効すべりによる変動が支配的であると考えられるが、時間が経過するとともに余効すべりは小さくなり、徐々に粘性緩和の影響が支配的になっていくと考えられる。本研究では、地震発生後から5年間のデータを用いて,まず、粘性緩和による変動を数値シミュレーションにより推定し、観測データから粘性緩和による変動を取り除き、その後余効すべりのすべり分布の推定を行った。
 粘性緩和による変動は、水平成分は震源域に向かう方向に5年間で最大10cm程度と推定された。一方上下成分は、震源域周辺で沈降する結果が得られた。地震後1年程度は、観測されている余効変動量に対して粘性緩和の変動量は数%程度であり、ほとんどが余効すべりによる変動と考えられる。しかしながら、観測されている余効変動は、粘性緩和による変動に比べて急激に小さくなることから、粘性緩和の寄与は次第に大きくなり、地震後3年以降では、定量的にはその割合は50%を超える。そして、観測された余効変動から粘性緩和による変動を取り除き、余効すべりのすべり分布を推定した結果、地震後1年程度を見る限りは、粘性緩和による変動を取り除いた場合と取り除かない場合とで、余効すべりのすべり分布の違いはそれほど顕著ではないが、地震後5年間もしくは地震発生後2~3年以降で見ると、粘性緩和による変動を取り除くことで、余効すべりのすべり分布の推定は、地震時の震源域を取り囲むように発生していることがより顕著になった。

(8)平成20年度の成果に関連の深いもので、平成20年度に公表された主な成果物(論文・報告書等):

 水藤尚・小沢慎三郎(2009):東海地方の非定常地殻変動‐東海スロースリップと2004年紀伊半島南東沖の地震の余効変動‐,地震2,印刷中.

(9)本課題の5ヵ年の成果の概要:

 本研究課題(課題番号6024)は、H18年度より課題番号6005を引き継いで開始されたため、課題番号6005の成果も併せて記載している。

(課題番号6005:H16~17年度の2年間の成果の概要)

 不連続体解析プログラム、FESM(Finite Element Spring Model)を用いて東海地方の地震発生シミュレーションを2次元及び3次元で行い、地震発生現象を計算機上で再現することができるようになった。地下構造を考慮した地震発生のシミュレーションは、大規模な計算となるが、比較的小さなモデルならば、FESMプログラムを使用することによって、パーソナルコンピュータのレベルで計算ができる。
 東海地震の周期及びすべり速度を再現するRuina and Dieterichの摩擦係数に関するパラメータのうちA3‐A2は、本研究のモデルでは、0.0006‐0.0007の範囲が推定された。東海地域のゆっくり地震に関しては、摩擦係数A3‐A2が0.0006より小さい場合、地震1サイクルの間で発生する結果が得られている。実際にはゆっくり地震は、東海地震のアスペリティー内で発生したとは考えられないので、摩擦係数A3‐A2は0.0006以上と本モデルでは考えられる。
 また、計算機上で再現された東海地域の地震発生サイクルに2000年伊豆諸島地震の擾乱を与えて、その影響を調べた結果、伊豆諸島の活動は東海地震の周期を短くしたり、長くしたりする事が示された。また、定常的な地震サイクル中で、伊豆の活動に伴って、ゆっくり地震が起きることが示された。ただし、ゆっくり地震は、東海のアスペリティー領域で発生しており、今後の検討が必要と考えられる。次の東海地震の約10年前に、2000年の伊豆諸島地震を仮定した場合、東海地震の発生時期が伊豆諸島地震の直後に早まるという結果が推定された。実際にはそのような事は起きていないので、今後モデル及びパラメータの検討が必要と考えられる。

(課題番号6024:H18~20年度の3年間の成果の概要)

 本研究では、2003年十勝沖地震(M8.0)、2004年紀伊半島南東沖の地震(M7.4)の2つの大地震に関して、余効変動メカニズムの推定を行い、以下のことが分かった。地震の規模、粘性率の値にもよるが、大地震発生後には、数年~数十年に渡って粘性緩和による変動が継続することが改めて確かめられた。そして、粘性緩和による変動を考慮するかしないかで、2003年十勝沖地震では余効すべりのすべり分布の推定、2004年紀伊半島南東沖の地震では東海スロースリップのすべり分布の推定、に違いが生じることが分かった。これらの事例から、大地震が発生した後に、当該地域の地殻変動を解釈する際には、粘性緩和による変動を考慮しなければ、誤った解釈をしてしまう恐れがあることが分かった。

(10)実施機関の参加者氏名または部署等名:

 地理地殻活動研究センター 地殻変動研究室
 他機関との共同研究の有無:無

(11)公開時にホームページに掲載する問い合わせ先:

 部署等名:地理地殻活動研究センター 研究管理課
 電話:029‐864‐5954
 e‐mail:eiss@gsi.go.jp
 URL:http://www.gsi.go.jp

お問合せ先

研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)