糸魚川‐静岡構造線断層帯に関する重点的調査観測

平成20年度年次報告

課題番号:6016

(1)実施機関名:

 国土地理院

(2)研究課題(または観測項目)名:

 糸魚川‐静岡構造線断層帯に関する重点的調査観測

(3)最も関連の深い建議の項目:

 2.(2)エ.その他特定の地域

(4)その他関連する建議の項目:

(5)本課題の平成16年度からの5ヵ年の到達目標と、それに対する平成20年度実施計画の位置付け:

 糸魚川  静岡構造線断層帯(以下、糸静線と呼ぶ)周辺におけるGPS連続観測及びキャンペーン観測を継続する。また、SARによる面的地殻変動の検出を行い、この地域における地殻変動パターンを時空間的に詳細に把握する。
 この地域の地殻変動速度と、GPSの観測精度から詳細な地殻変動場を得るためには、数年以上の観測を継続して行なわなければならず、平成20年度も前年同様の一連の観測を行う。また、SARによる面的地殻変動の検出については、ENVISAT衛星を用いた断層周辺での微小な地殻変動調査に加えて、山間部での干渉性に優れた「だいち」のデータを用いて解析手法の検証、実証を行うとともに、広域地殻変動やGPSデータとの整合性について調査する。

(6)平成20年度実施計画の概要:

 引き続き糸静線断層帯北部・中部におけるGPSキャンペーン観測を年1回実施し、断層帯周辺の地殻変動場の詳細を明らかにする。また、SAR干渉解析においては、ENVISATおよび「だいち」を用いた干渉画像を作成する。

(7)平成20年度成果の概要:

 平成14年度にパイロット的重点観測で設置した観測点23箇所と、平成18年度に増設した観測点6箇所において、2008年9月30日から10月16日まで GPSキャンペーン観測を実施した。2007年に発生した能登半島地震と新潟県中越沖地震の理論的な変動量を差し引くことにより、2002‐2008年の平均的な糸静線北部・中部での詳細な地殻変動分布を明らかにした。得られた地殻変動分布を、断層の走行方向に領域分けし、断層に直交するような断面における地殻変動パターンを解析することにより、以下のような特徴が明らかになった。(1)断層帯の北部(白馬‐長野周辺)では、糸静線(神城断層)と長野盆地西縁断層周辺の2箇所に変形が集中する。断層に直交する短縮が顕著であり、断層運動がほぼ純粋な逆断層運動であることを示唆する。(2)中北部(大町‐上田周辺)では、糸静線付近の幅30kmに変形が集中しており、左横ずれを伴う逆断層運動を示唆する。(3)中部(松本周辺)及び中南部(諏訪周辺)では、変形域の幅が50km以上と広く、ほぼ純粋な左横ずれを示唆する変形が進行している。
 また、SAR干渉解析においては、CバンドのSAR センサーを搭載したERS‐1/2によるデータとLバンドのSARセンサーを搭載した「だいち」(ALOS)によるデータの解析を行い、詳細地殻変動速度の面的地殻変動検出を試み、一部の地域で変動速度の詳細パターンを得た。

(8)平成20年度の成果に関連の深いもので、平成20年度に公表された主な成果物(論文・報告書等):

 文部科学省研究開発局・国土交通省国土地理院・国立大学法人東京大学地震研究所,糸魚川‐静岡構造線断層帯に関する重点的な調査観測平成19年度成果報告書,131‐145,2008

(9)本課題の5ヵ年の成果の概要:

 糸静線周辺のGPS連続観測及びキャンペーン観測とSAR干渉解析による面的地殻変動の検出を行い、断層帯周辺の詳細地殻変動を得ることができた。糸静線北部から中部を対象に行ったGPS観測からは、断層帯の走行方向に異なる変動パターンが得られ、北部では、逆断層運動を示唆する変形が断層付近に集中しているのに対し、中部では、右横ずれを示唆する変形がやや広域に分布していること事がわかった。また、GPSキャンペーン観測を数年以上継続することにより、基盤観測網(GEONET)だけでは不足している断層周辺の詳細地殻変動解明が十分可能であることが示された。SAR干渉解析においては、ENVISATやERS‐1/2によるCバンドのSARセンサーを用いた解析では、断層帯周辺の盆地部においてGPSデータと調和的な地殻変動パターンを明らかにすることができた。LバンドのSARセンサーを搭載した「だいち」(ALOS)を用いた解析では、山間部においても良好な干渉が得られることが実証され、今後のデータの蓄積により詳細地殻変動の面的分布解明が期待できる。

(10)実施機関の参加者氏名または部署等名:

 地理地殻活動研究センター 地殻変動研究室
 他機関との共同研究の有無:有
 名古屋大学環境学研究科地震火山観測研究センター(鷺谷威)

(11)公開時にホームページに掲載する問い合わせ先:

 部署等名:地理地殻活動研究センター 研究管理課
 電話:029‐864‐5954
 e‐mail:eiss@gsi.go.jp
 URL:http://www.gsi.go.jp

図1 GPS観測によって得られた糸魚川  静岡構造線断層帯北部・中部周辺の詳細地殻変動分布。ベクトルは、臼田(USUD)観測点に対する2002‐2008年の水平変動速度を表す。

図1 GPS観測によって得られた糸魚川  静岡構造線断層帯北部・中部周辺の詳細地殻変動分布。ベクトルは、臼田(USUD)観測点に対する2002‐2008年の水平変動速度を表す。

図2 SAR干渉解析によって得られた視線方向変動速度の空間分布と断層を横切るプロファイル。 プロファイルの黒点は1km幅(図中白帯)、灰色は5km幅(図中灰色帯)で取り出した視線方向変動速度分布を示す。変動速度は、2003年4月から2005年10月までにENVISATによって得られたSAR干渉図(18ペア)のスタッキング処理による。解析比較に用いたGPS観測点については黄色枠内の観測点を抽出した。青はGEONET、赤はキャンペーン観測点の変動速度をSARの衛星視線方向に投影した速度を示す。ただし、キャンペーン観測点については上下変動速度を0と仮定して求めている。

図2 SAR干渉解析によって得られた視線方向変動速度の空間分布と断層を横切るプロファイル。
 プロファイルの黒点は1km幅(図中白帯)、灰色は5km幅(図中灰色帯)で取り出した視線方向変動速度分布を示す。変動速度は、2003年4月から2005年10月までにENVISATによって得られたSAR干渉図(18ペア)のスタッキング処理による。解析比較に用いたGPS観測点については黄色枠内の観測点を抽出した。青はGEONET、赤はキャンペーン観測点の変動速度をSARの衛星視線方向に投影した速度を示す。ただし、キャンペーン観測点については上下変動速度を0と仮定して求めている。

お問合せ先

研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)