地下水総合観測による地殻活動モニタリングシステムの高度化

平成20年度年次報告

課題番号:5009

 

(1)実施機関名:

 独立行政法人産業技術総合研究所

(2)研究課題(または観測項目)名:

 地下水総合観測による地殻活動モニタリングシステムの高度化

(3)最も関連の深い建議の項目:

 2.(2)イ.東海地域

(4)その他関連する建議の項目:

 1.(2)イ.内陸地震発生域の不均質構造と歪・応力集中機構
 1.(2)ウ.地震発生直前の物理・化学過程
 2.(2)ウ.東南海・南海地域
 2.(2)エ.その他の地域
 2.(3)ア.日本列島地殻活動情報データベースの構築
 3.(2)ボアホールによる地下深部計測技術の開発と高度化

(5)本課題の平成16年度からの5ヵ年の到達目標と、それに対する平成20年度実施計画の位置付け:

 5ヶ年の到達目標としては下記5点を考えている。

 1)東海地域等で構築した地下水等の変動観測システムを用いて、地殻変動との関係を考慮しつつ地震前後の地下水変化メカニズム解明に努め、地下水等データの安定したモニタリングと関係機関への情報提供を引き続き行う。

 2)東南海・南海地震対象域や内陸断層地帯への同システムの適用、地震発生モデルの最新の成果の取り込み等によって、システムを評価し高度化する。

 3)最新の観測データだけでなく、地震に関連した地下水の過去の変化等を順次収集しデータベースを作成して公開する。

 4)台湾における震災軽減のための研究協力要請に応じて、前兆的地下水位変化検出システムの台湾への技術移転を実施し、当地での最適化のための助言を行う。

 5)野島断層で行われる繰り返し注水実験に引き続き参加し、透水性の変化に重点をおいて、内陸地震発生域における歪・応力集中機構や地震発生前後の物理・化学過程への理解を深める。

 5ヵ年計画の最終年度にあたる平成20年度は、1)と2)に関連して、東南海・南海地震対象域の12点の新規地下水等総合観測施設を設置と高度化された東海の既存地下水観測施設10点の観測データを用いて、深部低周波微動に伴う短期的スロースリップ(SSE)の高精度モニタリングを開始し、SSEに伴う地下水変化を評価する。3)に関連して、観測数値データの関係機関への提供を開始する。以上をもとに、東海・東南海・南海地震の予測精度向上を図る。4)に関しては、現状の台湾の地下水観測網の評価を行う。5)に関しては、過去の繰り返し注水実験の結果のとりまとめを行う。

(6)平成20年度実施計画の概要:

 1)東南海・南海地震対象域の新規地下水等総合観測施設(12点)および高度化した東海地震対象域の地下水観測施設(10点)の観測データを用いて短期的スロースリップに伴う変化を解析する。国の東海地震予知事業の一環として引き続き前兆的地下水位変化検出システムを運用する。

 2)平成16年新潟県中越地震、平成19年新潟県中越沖地震に伴った地下水変化について、新潟大学と協力して、そのメカニズムを検討する。

 3)野島断層における第5回注水実験までの結果のとりまとめを行う。

 4)地震に関する地下水観測データベースに東南海・南海地震対象域の10新規観測点のデータを加えて引き続き公開するとともに、数値データの関係機関への提供を行う。

 5)台湾成功大学との共同研究「台湾における水文学的・地球化学的手法による地震予知研究」を引き続き推進し、産総研において第7回ワークショップを開催し、現状の台湾の地下水観測網の評価を行う。

(7)平成20年度成果の概要:

 1) 東南海・南海地震対象域の新規地下水等総合観測施設(12点)および高度化した東海地震対象域の地下水観測施設(10点)の観測データを用いて短期的スロースリップに伴う地殻歪変化を検出した。紀伊半島南部でも、深部低周波微動に伴って短期的スロースリップが発生していることを確認した。短期的スロースリップに伴って、1946年南海地震前に報告されているような、極端に大きな地下水位の変化といったものは現状では確認されていない。国の東海地震予知事業の一環として引き続き前兆的地下水位変化検出システムを運用した。

 2)共に逆断層型で規模や場所も似ていた平成16年新潟県中越地震、平成19年新潟県中越沖地震について、新潟大学・新潟県と協力して、震央近傍の新潟県周辺と震央から離れた近畿・東海周辺の地下水位変化を解析した。地震前の異常な変化は特に検出されなかった。地震後の変化については、両方の地震で同様な地下水変化を生じていること、および、それらの変化が静的な体積歪変化ではなく地震動によって生じていることを見出した。

 3) 野島断層における第5回注水実験までの結果のとりまとめは行えなかった。第6回注水実験(平成21年1月~2月)における地下水変化を観測した。

 4)地震に関する地下水観測データベースに東南海・南海地震対象域の10新規観測点のデータを加えて公開した。紀伊半島周辺の6点の新規観測点について、東海地震予知の参考データとして気象庁へリアルタイムで数値データ提供を開始した。

 5)台湾成功大学との共同研究「台湾における水文学的・地球化学的手法による地震予知研究」を引き続き推進し、産総研において第7回ワークショップを開催した。2005年度までに構築された台湾の地震予知研究のための16点の地下水観測網のうち、観測機関の長い6点に関する評価作業を開始した。

(8)平成20年度の成果に関連の深いもので、平成20年度に公表された主な成果物(論文・報告書等):

 Itaba,S., N. Koizumi, T. Toyoshima, M. Kaneko, K. Sekiya and K. Ozawa, Groundwater changes associated with the 2004 Niigata‐Chuetsu and 2007 Chuetsu‐oki earthquakes, Earth Planets Space, 60, 1161  1168, 2008.
 板場 智史,小泉 尚嗣,高橋 誠,松本 則夫,佐藤 努,大谷 竜,北川 有一,東海・関東・伊豆地域における地下水等観測結果(2008年5月~2008年10月)(38),地震予知連絡会会報,81,印刷中
 北川 有一,小泉 尚嗣, 高橋 誠,佐藤 努,松本 則夫,大谷 竜,板場 智史,桑原 保人 ,佐藤 隆司 ,木口 努 ,長 郁夫,近畿地域の地下水位・歪観測結果(2007年11月~2008年4月),地震予知連絡会会報 ,80,462‐466,2008.
 北川 有一,小泉 尚嗣, 高橋 誠,佐藤 努,松本 則夫,大谷 竜,板場 智史,桑原 保人 ,佐藤 隆司 ,木口 努 ,長 郁夫,近畿地域の地下水位・歪観測結果(2008年5月~2008年10月),地震予知連絡会会報 ,81,印刷中.
 小泉尚嗣,新生「地震化学」への期待, 地震学会ニュースレター,20,5,28‐29,2009.
 小泉尚嗣,水文学的・地球化学的手法による地震予知研究についての第7回日台国際ワークショップ報告,地震学会ニュースレター,20,5,30‐31,2009.
 大谷 竜,小泉 尚嗣,高橋 誠,松本 則夫,佐藤 努,北川 有一,板場 智史,東海・関東・伊豆地域における地下水等観測結果(2007年11月~2008年4月)(37),地震予知連絡会会報,80,360‐368, 2008.
 大谷竜,板場智史,北川有一,佐藤努,松本則夫,高橋誠,小泉尚嗣,産総研地下水等総合観測網による東南海・南海地震の仮想的プレスリップの検出能力の評価,地質調査研究報告,2009,印刷中.
 地震に関連する地下水観測データベース(Well Web):http://riodb02.ibase.aist.go.jp /gxwell/GSJ/index.shtml,2009.

(9)本課題の5ヵ年の成果の概要:

(5)に示した5つの到達目標に対する成果は以下の通りである。

 1)東海地域で構築した地下水等の観測システムを高サンプリング化(サンプリング間隔が1秒以下)・リアルタイム化した。これらのデータを用いて、地下水等データの安定したモニタリングを行い、気象庁・地震防災対策強化地域判定会・地震予知連絡会・地震調査委員会等への情報提供を引き続き行った。2)の新規観測網のデータも用いて、遠地のいくつかの大地震に対する地下水変化の地震後の解析を行い、それらが、静的な体積歪変化ではなく、主に地震動によって生じることを示した。

 2)東南海・南海地震対象域である、四国~紀伊半島周辺に12点の新規地下水等観測施設を構築した(図1)。1つの観測点について、3深度(原則として、30、200、600m)の井戸を作成し、地下水だけでなく、地殻変動(歪・傾斜やGPS等)や地震の観測も行う施設である(図1)。この観測網は、四国~紀伊半島周辺直下のプレート境界で生じるM6‐6.5の短期的スロースリップを検出可能である(図2)。以上によって、東海で運用している前兆的地下水位検出システムを高度化しつつ適用できるようになった。内陸地震の物理モデルが未確立なこともあって、内陸大地震予測への同システムの適用は進まなかった。

 3)1970年代後半からの産総研(旧地質調査所)の地下水観測網で観測された地震に伴う地下水等の変化や1946年南海地震前後の地下水変化の情報を公開した。既存の観測点に加えて、2)の新規観測網のデータもデータベースに追加して公開した。

 4)産総研からの技術移転等によって、台湾では、2005年末までに16点の地震予知研究のための地下水等観測網が構築された。2002年から2008年まで毎年ワークショップを行うことにより、引き続き情報交換を行い助言を続けている。

 5)野島断層で行われた6回の注水実験に参加した。地震後の透水性の回復(低下)が、2003年前後にほぼ終了していることを見出した。

 以上をまとめると、本5ヵ年では、大規模な施設整備予算がついたことにより、既存の東海地下水等観測網の高度化と、四国・紀伊半島周辺の地下水等観測網整備が行え、東海・東南海・南海地震の連動性も考慮した上での予測精度向上を目指す準備ができた。次の5年間では、引き続き四国・紀伊半島周辺で観測網整備を行なう一方、関係機関と協力して南海~駿河トラフ沿いの深部低周波微動と短期的スロースリップのモニタリングを行い、観測結果とシミュレーションとを比較することで、東海・東南海・南海地震の中期予測への手がかりをつかみたい。
 野島断層における繰り返し注水試験に伴う地下水観測とデータ解析によって、同断層における最大規模の地震(1995年兵庫県南部地震)発生後、8年程度で透水性がほぼ回復(低下)したことが判明した。今後の活断層における地震発生サイクルと考える上で貴重な情報が得られたと考えられる。
 台湾に関しては、16点からなる地下水観測網が構築できデータの集積も進んでいる。日本以上に地震活動が活発で利用できる地下水データも豊富な台湾における共同研究をすすめることで、東海で運用中の前兆的地下水位変化検出システムの改良が見込める一方、同システムが、地震リスクは高いが観測インフラが不十分な東アジアにおける震災軽減にどの程度有効かについての評価もできると考えている。

(10)実施機関の参加者氏名または部署等名:

 地質情報研究部門地震地下水研究グループ
 他機関との共同研究の有無:有
 気象庁・防災科技研・名古屋大学・京都大学・鳥取大学・山口大学・新潟大学・神奈川県温泉地学研究所、台湾成功大学、参加者数は不明

(11)公開時にホームページに掲載する問い合わせ先:

 部署等名:活断層・地震研究センター地震地下水研究チーム
 電話:029‐861‐3656
 e‐mail:tectono‐h1@m.aist.go.jp
 URL: http://unit.aist.go.jp/igg/rg/tecto‐hydr‐rg/

図1:紀伊半島~四国周辺における新規観測網(左図)と観測施設の概念図(右図)。

図1:紀伊半島~四国周辺における新規観測網(左図)と観測施設の概念図(右図)。

図2:2006年~2008年に完成した12新規観測点による短期的スロースリップの検知能力(大谷・他、2009).右側の凡例の数字は検出可能な最小のスリップのモーメントマグニチュードを示す。

図2:2006年~2008年に完成した12新規観測点による短期的スロースリップの検知能力(大谷・他、2009).右側の凡例の数字は検出可能な最小のスリップのモーメントマグニチュードを示す。

お問合せ先

研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)