高温高圧環境下における地殻物質の物性と破壊・摩擦構成則に関する研究

平成20年度年次報告

課題番号:5008

(1)実施機関名:

 独立行政法人産業技術総合研究所

(2)研究課題(または観測項目)名:

 高温高圧環境下における地殻物質の物性と破壊・摩擦構成則に関する研究

(3)最も関連の深い建議の項目:

 1.(4)イ.地殻・上部マントルの物質・物性と破壊・摩擦構成パラメータ

(4)その他関連する建議の項目:

 1.(4)ア.摩擦・破壊現象の物理・化学的素過程

(5)本課題の平成16年度からの5ヵ年の到達目標と、それに対する平成20年度実施計画の位置付け:

 地殻深部物質の物性(弾性波速度、電気伝導度)を高温高圧下で測定し、物理探査データ等からえられている構造を参考に、断層帯構成物質の推定を行う。その後、推定した物質や状態の状況を考慮し、高温高圧下での破壊・摩擦構成パラメータ測定実験を実施し、より説得力のある数値シミュレーションに資するためのデータを得る。最終年度である平成20年度は今までの成果について取りまとめを実施するとともに、現在改良中の弾性波測定および電気伝導度測定システムを完成させ、今後の安定した物性測定に目途をつける。一方で脆性‐塑性遷移領域における摩擦構成パラメータを求めるため、岩石の高温・高圧下での摩擦実験をスタートさせる。

(6)平成20年度実施計画の概要:

1)測定システムの完成

 弾性波測定システムの改良を行い、高温・高圧条件で花崗岩にかかる差応力と弾性波速度との関係を明らかにする。また電気伝導度測定システムを完成させる。

2)脆性‐塑性遷移領域における岩石の摩擦挙動

 比較的低温でも塑性変形の挙動が観察される蛇紋石を用いて高温高圧下での変形実験を開始する。変形中に変形速度を急変させるステップテストを行いその後の遷移挙動を観測することで摩擦構成パラメータを得る。

(7)平成20年度成果の概要:

1)測定システムの完成

 高温高圧下における岩石試料の弾性波速度測定システムの改良を検討し、配線をシース管で保護する方法に目処が立ち、測定システム部分の設計と製造をおこなった。電気伝導度の測定については試料部と間隙水―配管部との絶縁を確保する方法を検討した。

2)脆性‐塑性遷移領域における岩石の摩擦挙動

 蛇紋岩は低温でも塑性変形的な挙動を示すことが知られており、塑性―脆性遷移挙動を観察できることが知られていたが、高温条件でも同じように遷移領域を捉えることが出来るかについての知見は得られていなかった。今年度は有効府圧70MPa、温度600℃までの条件で変形速度を急変させるステップテストを実施し、摩擦速度依存性を調べた。450℃で脆性―塑性遷移領域的な挙動が見られ、それ以上の高温では不安定滑りが観察された。過去の文献から想定したような顕著な塑性領域の挙動は観察できなかったものの、沈み込みに伴う海洋地殻の摩擦特性の変化を知る上で重要なデータを得た。

(8)平成20年度の成果に関連の深いもので、平成20年度に公表された主な成果物(論文・報告書等):

 Takahashi, M., K. Mizoguchi, and K. Masuda (2009),Potential of phyllosilicate dehydration and dehydroxylation reactions to trigger earthquakes, J. Geophys. Res., doi:10.1029/2008JB005630, in press.

(9)本課題の5ヵ年の成果の概要:

 5カ年の前半で、高温高圧下での弾性波速度測定システムを設計製作し、砂岩・泥岩の水に飽和した状態での弾性波速度を測定することに成功した。ただし、現在の手法では弾性波の受信信号がセンサー部分で弱まってしまうため、引き続き測定手法の改良に取り組んでいる。電気伝導度測定については既存の高温高圧変形試験装置の内部に組み込むため、試料部と間隙水―配管部との絶縁を確保する手法を検討した段階である。一方、断層ガウジの摩擦特性についての理解は進み、粘土鉱物の存在比に依存する摩擦強度・浸透率の変遷、水を内包する粘土鉱物・蛇紋岩などの脱水が断層内の間隙水圧を上昇させるプロセス、蛇紋岩の高温下での脆性―塑性遷移領域の現れる条件などが明らかになった。

(10)実施機関の参加者氏名または部署等名:

 地質情報研究部門 地震発生機構研究グループ
 他機関との共同研究の有無:無

(11)公開時にホームページに掲載する問い合わせ先:

 部署等名:地質情報研究部門地震発生機構研究グループ
 電話:029‐861‐3580
 e‐mail:miki.takahashi@aist.go.jp
 URL:http://unit.aist.go.jp/igg/rg/seisprocess‐rg/index.html

お問合せ先

研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)