平成20年度年次報告
課題番号:3015
独立行政法人防災科学技術研究所
衛星搭載型合成開口レーダを利用した精密地表面変形把握に関する研究
3(4)宇宙技術等の利用の高度化
4(5)火山噴火予知研究等との連携
面的に詳細な地表面変形を捉えられるSAR干渉法は、地震・火山研究における精密地殻変動モデルを構築する上で欠かすことの出来ないツールとなりつつある。これまでにも、災害が発生する規模の地震が発生した場合にはSAR干渉法を適用し、それらに伴う地殻変動を明らかにしてきた。しかしながら、より細密な地震発生機構の解明が必要とされている今日では、より高精度な地殻変動情報が必要とされている。そこで、より高精度に地殻変動を検出することを目標とし、SAR干渉法の解析手法の高度化を試みる。また、災害が発生する規模の内陸地震発生時にはSAR干渉法による地殻変動検出を試みる。
平成19年度に開発したレーダ波の入射方向が異なる3つ以上の干渉画像から地表変位ベクトルの準上下成分と準東西成分の2成分を最小二乗法的に求める手法を時系列データにも適用できるように拡張し,地殻変動検出精度向上につかながる結果を得た.
陸域観測技術衛星「だいち」のPALSARデータを用いたSAR干渉解析を行い,2008年岩手・宮城内陸地震,vl川(四川)地震,キルギス地震,パキスタン地震に関する地殻変動を検出した.さらに,検出された地殻変動から断層モデルの推定を行った.
Ozawa, T., Coseismic deformation of the 2007 Chuetsu‐oki earthquake derived from PALSAR/InSAR and its fault model, Earth Planets Space, 60, 1099‐1104, 2008.
解析手法の高度化に関しては,主に火山活動に伴う地殻変動を対象として取り組んだ.この取り組みに関する例として,小笠原硫黄島における解析について述べる.
小笠原硫黄島の火山活動は活発な隆起活動を伴うことが特徴であり,2001年に開始した火山活動活発化においては1mを超える隆起が観測されている.それ以降,継続的な沈降が観測されていたが,2006年8月頃に隆起に転じる変化が観測された.このような火山活動の調査を目的として,PALSARによる緊急観測および継続的な高頻度の観測が行われている.これまで,5つの軌道パスからの観測が行われているが,それぞれの軌道パスに関する入射方向ベクトルは異なるため,それぞれ得られる地殻変動が異なるという問題があった.そこで,これらの入射方向ベクトルはほぼ1枚の面に含まれるという性質を利用し,2006年10月30日からの46日(「だいち」の回帰周期に等しい)ごとの地殻変動の準上下(垂直から南に9°傾く成分)と東西(東西成分からのずれは1°以下)成分の時間変化を同時に推定することにより,統一的に解釈できるデータへの変換を試みた.この解析においては,地殻変動量が時間的に滑らかに変化するという拘束を用い,その拘束の強さはGEONETによって観測された地殻変動の時系列を満たすように,時間的に変化する関数として与えた.
推定された2006年10月30日から2008年5月4日までに生じた地殻変動の準上下成分によると,島の南端付近の隆起量は10cm程度であるが,北端に近づくに連れて隆起量は大きくなり,北端付近の隆起量は1mを超えている.元山の南縁と西縁に位置する断層帯に沿って急勾配の隆起量変化が見られ,元山がブロック状に隆起していることを示している.また,元山の北および南西海岸においては,短波長の隆起パターンが重畳している.元山中心部における隆起の時間変化に着目すると,2007年1月頃までは30cm/46日を超える速度で隆起し,2007年中頃までは約5cm/46日の等速で隆起が継続していた.その後,徐々に静穏化する傾向にあったが,2008年2月頃から隆起が再加速した.一方,元山の北および東海岸における2007年1月頃までの隆起に着目すると,その時間変化はそれぞれ異なるように見えるが,それ以降における時間変化はほぼ同じように見える.このことは,これらの隆起を発生させている地殻変動力源が2007年1月頃まで拡大し,それ以降はその形状を大きく変化させずに膨張を続けた可能性を示している.次に,千鳥ヶ原における2007年1月頃までの水平変動に着目すると,東西に拡大するような地殻変動パターンが見られていたが,それ以降では,東海岸の東進成分が停滞する変化が見られた.これは,千鳥ヶ原の拡大が停滞したのではなく,他の地殻変動成分が重畳したためと考えられる.
2008年6月14日に発生した岩手・宮城内陸地震においては,PALSARによって複数の軌道パスからの緊急観測が行われたが,その後に衛星軌道を修正する面外軌道制御が実施されたため,余効変動を捉えられる干渉ペアにおいては精度の良い干渉画像が得られなかった.今後,このような観測が実施されれば,本手法を用いて詳細に余効変動を検出できると期待される.
SAR干渉法の適用研究としては,2004年新潟県中越地震,2005年福岡県西方沖地震,2007年能登半島地震,2007年新潟県中越沖地震,2008年岩手・宮城内陸地震や2008年vl川(四川)地震等の海外で発生した地震に関する地殻変動検出を行い,得られた地殻変動データから断層モデルの推定を行った.このような地殻変動検出においては,2006年1月24日に打ち上げられた日本の陸域観測技術衛星「だいち」の運用開始により,飛躍的に検出精度が向上した.それを示す適用例として,2004年新潟県中越地震と2007年新潟県中越沖地震における地殻変動検出について述べる.
2004年10月23日に新潟県中越地方においてM6.8の地震が発生した.この地震に伴う地殻変動を調査するため,カナダのRADARSAT衛星(C‐band
SAR搭載)によって10月1日と10月25日に東上空から観測されたSAR画像を用いてSAR干渉解析を行った.本解析から得られた干渉画像においては,震央の西に位置する小千谷市において,約40cmのスラントレンジ短縮,震央の東に位置する旧広神村周辺(現魚沼市)では,約20cmのスラントレンジ伸張を示す干渉縞が検出された.震央付近においてはより大きな地殻変動が生じていたと推測されるが,震央付近では干渉が得られなかった.精度良くSAR干渉法を適用するためには,干渉処理を行う2つの画像を観測した位置(軌道間距離)が近いという条件が必要となるが,この干渉ペアにおける軌道間距離は適用条件としてかなり悪い約770m
(Bperp)であったことが干渉性劣化の原因の1つと考えられる.また,干渉性劣化域は植生が多い領域であり,これも干渉性劣化の原因の1つと思われる.一方,10月25日と11月18日の干渉ペアにおいては,比較的良好な干渉性が得られた.得られた干渉画像においては,六日町盆地西縁断層に沿って急激な変位勾配が生じていたことを示す干渉縞パターンが検出された.このような有用な情報が得られた要因は,Bperpが適用条件として良い約170mであったことと,両画像とも植生の影響が少ない落葉の季節に取得されたためと考えられる.このように,C‐bandのSARを用いたSAR干渉解析においては,常に精度の良い干渉画像が得られるとは限らないという問題がある.
2006年に打ち上げられた陸域観測技術衛星「だいち」には,L‐bandのマイクロ波を用いて観測するSAR(センサ名:PALSAR)が搭載されている.L‐bandのレーダ波は植生に対する透過性が高く,SAR干渉法適用における植生の影響を受けにくいことが知られている.また,
回帰周期ごとの軌道間距離が短くなるように軌道制御が行われているため,精度の良い干渉画像が得られる頻度が高くなることが期待される.2007年7月16日に新潟県中越地震の震央から北西に約35kmの地点においてM6.8の地震が発生し,この地震の調査を目的としたPALSARによる緊急観測が2007年7月19日に行われた.この緊急観測データと2007年1月16日の観測データを用いたSAR干渉解析を行い,地殻変動を検出した.その結果,画像全体で良好な干渉性を得ることができ,地殻変動を面的に捉えることができた.得られた干渉画像においては,本震の震央に近い海岸付近において25cm程度のスラントレンジ短縮が求まった.その西方においては,より大きな地殻変動が生じていたと推測されるが,陸地がない西方においては地殻変動を得ることは出来なかった.一方,その南方においては,最大で15cm程度のスラントレンジ伸張が見られた.DD法による余震分布から推測される断層面(行竹,2008)を設定し,PALSAR干渉解析およびGEONETによって求められた地殻変動を用いて断層すべり分布を推定したところ,大きいすべりが推定された領域における余震の発生頻度は少なく,その周辺で余震発生頻度が高かったことを示唆する結果が得られた.
この他にも,陸域観測技術衛星「だいち」の運用開始後に日本で発生した地震に関して緊急観測が行われ,すべての地震において干渉度の高い干渉画像が得られている.これは,L‐bandのSARであるPALSARの有用性を示すものであり,今後の地殻変動調査にも期待される.
火山防災研究部
他機関との共同研究の有無:無
部署等名:防災科学技術研究所企画部研究企画チーム
電話:029‐863‐7782
e‐mail:plansec@bosai.go.jp
研究開発局地震・防災研究課