キネマティックGPSによる時間~日周期の変動の検出方法の開発

平成20年度年次報告

課題番号:1811

(1)実施機関名:

 京都大学防災研究所

(2)研究課題(または観測項目)名:

 キネマティックGPSによる時間~日周期の変動の検出方法の開発

(3)最も関連の深い建議の項目:

 3(4)宇宙技術等の利用の高度化

(4)その他関連する建議の項目:

 2(2)
 ア.日本列島域
 イ.東海地域
 ウ.東南海・南海地域

(5)本課題の平成16年度からの5ヵ年の到達目標と、それに対する平成20年度実施計画の位置付け:

 1日より短い時定数を持つ変動を,面的に高密度に観測する手法を開発することを目標とする.特に,気象補正など観測手法および解析手法の高度化を図る.平成20年度は,宇治,白浜,潮岬および迫西川観測点を用いた連続観測を実施し,気象の影響等を評価する.また,並行して既存のデータへGPSToolsを用いたキネマティック解析手法を適用し,地震時の変位や余効変動などの検出を試みる.

(6)平成20年度実施計画の概要:

 宇治,白浜および潮岬観測点を用いた連続観測を実施する.このデータやスマトラ地震,能登半島地震など既存のデータにキネマティック精密単独測位法を適用し,地殻変動の抽出や気象等の影響評価を試みる.

(7)平成20年度成果の概要:

 宇治,白浜および潮岬における連続観測を継続した.潮岬は2007年5月の停電の影響で,2008年3月まで欠測していたが,データ回収用のPCを置き換えたところ,2009年1月までほぼ欠測なくデータを取得することが出来た.また,佐藤一敏氏(元京都大学防災研究所21世紀COE研究員,平成18年度まで本研究参画、現・日本GPSソリューションズ株式会社)の協力により,同氏が平成18年度までに整備したデータ収集システムを再整備していただき,潮岬と白浜のデータを準リアルタイムに宇治地区にて収録することが可能となった.現在は30秒サンプリングで観測しているが,1秒に変更する予定にしている.
 2008年5月12日に中国・四川地震(M8.0)が発生した.スマトラ・アンダマン地震の経験に基づき,この地震による地震波をタイのGPS連続観測局やIGS観測局で捉えられたかどうか調べた.幸運にもタイのGPS連続観測局のうち3ヶ所で,1秒サンプリングでの観測がなされている(うち1ヶ所は2008年3月末に1秒サンプリングに変更).IGS観測局の1秒サンプリングデータを収集し,あわせてGPSToolsで解析した.その結果を図1及び2に示す.Love波とRayleigh波と思われる波群を捉えており,この観測および解析手法が地震波の観測にも有効であることが示された.さらに,ノーマルモードの重ね合わせによる理論波形との比較も進めている.
 その他の計画は,筆頭担当者が研究所副所長業務と陸域観測衛星の防災利用実証実験・地震WGを中心とした業務を優先せざるを得なかったために,実施を見送った.

図1. 1秒サンプリングGPSデータの解析で得られた2008年5月12日中国・四川地震の地震波のtransverse成分.NNKI(ノンカイ),SIS2(シサムロン)およびPHIM(ピマーイ)がタイの観測点.SHAOは中国・上海,DAEJは韓国・太田,PIMOはフィリピン・ケソンシティー,POL2はキルギスタン・ビシュケク,USUDは日本の臼田.震央距離は1400kmから3300kmまで.ほぼ同じ震央距離でありながら,東のSHAOよりも南のPHIMの方が,振幅が倍程度大きい.速度と振動方向から考えて,Love波を捉えているものと思われる.また,きれいな分散が認められる.

図1. 1秒サンプリングGPSデータの解析で得られた2008年5月12日中国・四川地震の地震波のtransverse成分.NNKI(ノンカイ),SIS2(シサムロン)およびPHIM(ピマーイ)がタイの観測点.SHAOは中国・上海,DAEJは韓国・太田,PIMOはフィリピン・ケソンシティー,POL2はキルギスタン・ビシュケク,USUDは日本の臼田.震央距離は1400kmから3300kmまで.ほぼ同じ震央距離でありながら,東のSHAOよりも南のPHIMの方が,振幅が倍程度大きい.速度と振動方向から考えて,Love波を捉えているものと思われる.また,きれいな分散が認められる.

図2. 1秒サンプリングGPSデータの解析で得られた2008年5月12日中国・四川地震の地震波のradial成分.振幅の大きい波群はRayleigh波と考えられる.

図2. 1秒サンプリングGPSデータの解析で得られた2008年5月12日中国・四川地震の地震波のradial成分.振幅の大きい波群はRayleigh波と考えられる.

(8)平成20年度の成果に関連の深いもので、平成20年度に公表された主な成果物(論文・報告書等):

 京都大学防災研究所・京都大学大学院理学研究科・チュラロンコン大学理学部地質学科,高サンプリングGPS で捉えた2008 年5月12 日中国・四川省の地震の地震波形,地震予知連絡会会報,第80巻,539‐542,2008.

(9)本課題の5ヵ年の成果の概要:

 1日より短い時定数を持つ変動を、面的に高密度に観測する手法を開発することを目標とし,紀伊半島内に独自のGPS観測局の展開を図ってきた.平成19年度の奈良県十津川村迫西川観測点の運用開始により,白浜・潮岬をあわせて,紀伊半島内3ヶ所で連続観測を行い,白浜と潮岬に関してはデータを宇治にて収録するシステムの整備が完了した.現時点では,30秒サンプリングで観測を行っているが,今後1秒サンプリングに変更し,キネマティック解析による地殻変動検出の研究に役立てていく.
 高須氏開発のGPSToolsを用いたキネマティック解析手法を適用し,遠地の地震波の検出が可能となった.余効変動などの本研究課題の目標であるゆっくりとした変動の検出は,適当な地震が観測網近傍で発生しなかったこともあり,出来なかった.

(10)実施機関の参加者氏名または部署等名:

 京都大学防災研究所 橋本学,大谷文夫,細善信,佐藤一敏(平成18年度まで),加納靖之
 他機関との共同研究の有無:有り
 平原和朗(京大院理),高須知二(技術コンサルタント)

(11)公開時にホームページに掲載する問い合わせ先:

 部署等名:京都大学防災研究所
 電話:0774‐38‐4191

お問合せ先

研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)