東海地域でのプレート収束速度・カップリングのモニタリング

平成20年度年次報告

課題番号:1705

(1)実施機関名:

 名古屋大学大学院環境学研究科

(2)研究課題(または観測項目)名:

 東海地域でのプレート収束速度・カップリングのモニタリング

(3)最も関連の深い建議の項目:

 2.(2) イ.東海地域

(4)その他関連する建議の項目:

 3.(1) 海底諸観測技術開発と高度化

(5)本課題の平成16年度からの5ヵ年の到達目標と,それに対する平成20年度実施計画の位置付け:

 本研究課題では,駿河トラフでのプレートの収束速度やカップリング状態のモニタリングを行うために,以下の新たな地殻変動観測を行う:

1)海底地殻変動観測

 駿河湾内に4カ所(既設の3カ所を含む),御前崎沖に2カ所からなる海底地殻変動観測網(海底局網)を構築する.それぞれの海底局について年間3回程度のくり返し観測を実施し,5年間で駿河トラフでの詳細な変位速度場を明らかにする.
 平成20年度は,新規観測点の増設による観測網の構築と,変位速度場の検出を行う.

2)リアルタイム・キネマティックGPS観測

 御前崎,浜名期,三河湾に新たにGPS観測点を設け,10 km程度の基線でRTK観測を行う.これは,名古屋大学で約20年間続けていた光波測距をGPSに置き換えたもので,RTK観測により時間分解能を上げることができる.
 平成20年度は,RTK測位精度実験を長期間にわたって行い,その有効性を検討する.

3)銭洲岩礁および神津島でのGPSキャンペーン観測

 駿河トラフでの収束速度を議論する上で,最近その存在が示唆されている伊豆マイクロプレートを無視できない.そこで,銭洲岩礁と神津島で初年度から年2回のGPS観測を行い,銭洲海嶺周辺におけるプレート収束速度を実測し,5年間の観測結果から伊豆マイクロプレートが駿河トラフでのプレート収束速度に与える影響を評価する.
 平成20年度は,銭洲岩礁でのGPSキャンペーン観測を実施し,過去のデータと合わせて銭洲海嶺周辺におけるプレート収束速度を実測する.

(6)平成20年度実施計画の概要:

 駿河湾内に設置した海底局のくり返し観測を5回程度実施し,過去のデータと合わせて,プレート収束にともなう海底地殻変動の測定を目指す.
 平成20年度は,駿河湾内の2ヵ所の観測を2回ずつ行うとともに,御前崎沖に1ヵ所観測点を増設し,各観測点で2 03回の測定を行う.また,複数の基線長を設定し,陸上において長期(1週間 01ヵ月)のRTK精度実験を行う.さらに,銭洲岩礁では,GPSキャンペーン観測を1回実施する.過去のデータと合わせて,伊豆マイクロプレートが駿河トラフでのプレート収束速度に与える影響を評価する.

(7)平成20年度成果の概要:

 平成20年度は,駿河湾のSNW観測点において4回の繰り返し観測を行った.当初の計画では2ヵ所で2回ずつ実施する予定であったが,シップタイムの都合で,港から近いSNW1カ所のみの観測となった.当初計画では,御前崎沖に1ヵ所観測点を増設する予定であったが,用船先との協議の結果,本研究の対象地域外に設置することとした(課題番号1706で実施).過去のデータも含めて再解析した結果,図1に示したような変位速度ベクトルを推定することができた.
 陸上において,基線長別のRTK測位精度実験を行なった.実験は2008年4 06月に実施した(図2).名古屋大学にGPS移動観測点を設置し,基線長がそれぞれ約20km(犬山市),35km(瑞浪市),50km(恵那市),65km(中津川市)となるところにGPS基準観測点を設置した.受信機はiCGRSを使用し,0.5Hzサンプリングでデータの収録を行なった.使用したGPSアンテナはマルチパスの軽減のためチョークリングアンテナを使用し,またGPS受信機にはルビジウム原子時計を搭載した.GPS移動観測点は名古屋大学建物の屋上に長さ約7mの可動台を水平に設置し,GPSアンテナを毎秒約15cmの速さで往復運動するように設定した.アンテナが可動台の端に到達すると自動で反転する機構を設け,24時間実験が行えるようにした.RTK解析には,RTKNavソフトウェアを使用した.名古屋大学屋上には,さらにGPS移動アンテナから約7mのところに基準観測点を設け,この超短基線でキネマティック解析を行って得られた値を真値とした.各GPS基準観測点の座標値の決定にはBernese Ver.5.0を使用した.実験の結果,RTK測位によるバイアスは,基線長によらず各成分1 02cmであることが分かった(図2).また,ばらつきは,基線長20kmまでは2 03cm程度であるが,35kmを越えると6 010cmと急激に大きくなることも分かった(図2).
 2008年9月4 05日に銭洲岩礁において臨時GPS観測を行った.過去の解析結果も考慮し,アムールプレートに対する銭洲岩礁の変位速度を求めた(図1).銭洲岩礁の変動は,特に2005年以降の4年間は同じ傾向が続いている.これまでの駿河湾における海底地殻変動および銭洲岩礁でのキャンペーンGPS観測の結果により,東海地域でのプレート収束速度のモニタリング体制が整いつつある.

図1 駿河湾,銭洲岩礁周辺における変位速度ベクトル.アムールプレートに対する変動を示す.SNW,SNEは名古屋大学ほかの海底地殻変動観測による結果.ZENは銭洲岩礁でのGPS観測結果.陸上の矢印は,国土地理院GEONETによる観測結果(畑中ほか[2003]による).丸印は海底局設置地点.

図1 駿河湾,銭洲岩礁周辺における変位速度ベクトル.アムールプレートに対する変動を示す.SNW,SNEは名古屋大学ほかの海底地殻変動観測による結果.ZENは銭洲岩礁でのGPS観測結果.陸上の矢印は,国土地理院GEONETによる観測結果(畑中ほか[2003]による).丸印は海底局設置地点.

図2 (左)RTK‐GPS測位実験の様子と(右)その結果.全実験期間における基線長ごとのバイアスとばらつきを示す.上から順に南北,東西,上下成分.

図2 (左)RTK‐GPS測位実験の様子と(右)その結果.全実験期間における基線長ごとのバイアスとばらつきを示す.上から順に南北,東西,上下成分.

(8)平成20年度の成果に関連の深いもので,平成20年度に公表された主な成果物(論文・報告書等):

 田所敬一・杉本慎吾・武藤大介・渡部 豪・生田領野・安藤雅孝・奥田 隆・木元章典・佐柳敬造・久野正博,駿河 "南海トラフにおける海底地殻変動繰り返し観測,測地学会誌,54,127‐139,2008.

(9)本課題の5ヵ年の成果の概要:

 海底地殻変動観測については,駿河湾内に4カ所(既設の3カ所を含む)からなる海底地殻変動観測網を構築し,駿河湾内においては,本研究における当初予定通りの観測網が完成した.このうち, SNWおよびSNEの2カ所において5年間で各11回の観測を行った.その結果,図1のとおり駿河トラフの両側での変位速度場を明らかにすることができた.ただし,SNE観測点の誤差楕円が特に大きいため,継続した観測とさらなる精度向上のための開発研究が必須である.
 リアルタイム・キネマティック(RTK)GPS観測については,観測点を設置する予定であったが,基線長別の精度評価実験を実施するにとどまった.しかしながら,基線長が20kmまでならばRTK測位も十分利用できることなど,今後同様の観測を行う際の重要な知見が得られた.
 また,国土地理院GEONETの観測データを用いて伊豆諸島の動きを調べることで,伊豆マイクロプレートの南の境界がどこにあるかを推定した.神津島は伊豆半島と同じ動きをし,新島は房総半島などと同じ動きをしている.この傾向は固定点を変えても同じであった.このことから,伊豆マイクロプレートの境界は,神津島と新島の間を通っている可能性が高いことが示唆された.
 銭洲岩礁では,年に1回のGPSキャンペーン観測を実施し,変位速度を明らかにした(図1参照).銭洲岩礁の変動は,特に2005年以降の4年間は同じ傾向が続いている.南伊豆‐銭洲間に10^‐7/yr程度の短縮が認められるが,この間にマイクロプレートの境界といったDeformation Front の存在を支持するものではなく,南伊豆‐銭洲の動きは1枚のブロックの運動で表現可能である.

(10)実施機関の参加者氏名または部署等名:

 田所敬一,木股文昭,奥田隆
 他機関との共同研究の有無:有
 高知大学理学部 田部井隆雄
 東海大学海洋研究所:佐柳敬造,長尾年恭

(11)公開時にホームページに掲載する問い合わせ先:

 部署等名:名古屋大学環境学研究科 地震火山・防災研究センター
 電話:052‐789‐3046

お問合せ先

研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)