特定地域の地殻活動モニタリングシステムの高度化

平成20年度年次報告

課題番号:1416

(1)実施機関名:

 東京大学地震研究所

(2)研究課題(または観測項目)名:

 特定地域の地殻活動モニタリングシステムの高度化
 サブテーマ1:宮城県沖地震の震源域及びその周辺の地殻活動モニタリングシステムの高度化
 サブテーマ2:糸魚川‐静岡構造線の震源域及びその周辺の地殻活動モニタリングシステムの高度化
 サブテーマ3:南関東とその周辺域の地殻活動モニタリングシステムの高度化
 サブテーマ4:伊豆半島東部及び伊豆諸島の地殻活動モニタリングシステムの高度化

(3)最も関連の深い建議の項目:

 2.(2)エ.その他特定の地域

(4)その他関連する建議の項目:

 1.(2)ウ.地震発生直前の物理・化学過程
 1.(4)イ.地殻・上部マントルの物質・物性と破壊・摩擦構成則パラメータ

(5)本課題の平成16年度からの5ヵ年の到達目標と、それに対する平成20年度実施計画の位置付け:

 地震予知のための次期観測研究計画では、「地殻活動モニタリングシステムの高度化」として、大地震発生が想定される特定の地域における地殻活動のモニタリングの高度化が必要であるとされている。本計画では、このうち、政府の地震調査推進本部・地震調査委員会による長期評価で地震発生の確率が高いとされた、宮城沖と糸魚川‐静岡構造線地域における各種観測、さらに、地震発生の可能性が高まっているとされている南関東とその周辺域での観測研究を行いモニタリングの高度化に資するデータを提供する。また、伊豆半島・伊豆諸島域で地殻活動の特徴を明らかにしてモニタリングシステムの高度化に貢献する観測研究を継続する。

(6)平成20年度実施計画の概要:

・サブテーマ1:宮城県沖地震の震源域及びその周辺の地殻活動モニタリングシステムの高度化
 (海底地震観測による詳細な地震活動把握と地殻構造との対比)
平成17年度から5カ年計画で、推進本部の選定する「重点的調査観測」の一環として実施されている。この成果を、地震予知研究に活用する。地震予知研究としては、地震発生確率の高い地域で、地殻活動をモニタリングする手法の開発を行い、プロトタイプモデルを作成する。

・サブテーマ2:糸魚川‐静岡構造線の震源域及びその周辺の地殻活動モニタリングシステムの高度化(地震観測による詳細な地震活動把握と精密な震源・発震機構解の決定)
平成17年度から5カ年計画で、推進本部の選定する「重点的調査観測」の一環として糸魚川‐静岡構造線周辺の調査観測が実施されている。この成果を、地震予知研究に活用する。地震予知研究としては、地震発生確率の高い地域で、地殻活動をモニタリングする手法の開発を行い、プロトタイプモデルを作成する。

・サブテーマ3:南関東とその周辺域の地殻活動モニタリングシステムの高度化
首都圏の震源断層のモデル化に基づいてモニタリングシステムの高度化を図る。フィリピン海プレート内部(スラブ内)地震のモニタリングを行う手法を開発する。

・サブテーマ4:伊豆半島東部及び伊豆諸島での地殻活動モニタリングシステムの高度化
(GPS観測・重力測量・光波測距・地磁気観測等の実施)
群発地震の活動と多項目観測データとの関連の把握を即時的に実施して地殻活動をモニタリングするシステムの高度化を図る。

(7)平成20年度成果の概要:

・サブテーマ1:宮城県沖地震の震源域及びその周辺の地殻活動モニタリングシステムの高度化
(海底地震観測による詳細な地震活動把握と地殻構造との対比)
 長期観測型海底地震計による繰り返し観測を「重点的調査観測」として引き続いて実施し、想定震源域および周辺の詳細な地震活動の把握をすすめた。この観測は、宮城県沖地震の想定震源域周辺の地震活動が示す空間的な特徴を把握するために、長期観測型海底地震計を繰り返して、空間的に同一の観測点に設置することにより、観測を長期間継続する。繰り返し観測は、平成14年7月から開始された。平成20年度は,5月と11月に平成19年度に設置した地震計の回収を行った.また,5月に6台,11月に9台の地震計を再設置した.これらの地震計は平成21年度中に回収の予定である.これまでの観測により、平成16年度「パイロット的な重点的調査観測」で実施した大規模人工地震構造調査から求められた沈み込む太平洋プレートの形状を含む地震学的構造(Shinohara et al., 2007)と、地震活動の対応関係が明らかになりつつある。また、長期間のデータが蓄積されつつあり、想定震源域周辺の地震活動の時間変化を検出できる可能性がある。

・サブテーマ2:糸魚川‐静岡構造線の震源域及びその周辺の地殻活動モニタリングシステムの高度化(地震観測による詳細な地震活動把握と精密な震源・発震機構解の決定)
 平成20年度の「糸魚川‐静岡構造線断層帯の重点的調査観測」プロジェクトによって、糸魚川‐静岡構造線北部の大町測線(21観測点)と豊科測線(23観測点)8月下旬から11月上旬まで3ヶ月間の稠密自然地震観測が行われた。このデータとこれまでの観測データを用いた地震トモグラフィー解析を行い、深さ10 kmまでの糸魚川‐静岡構造線断層帯の北部,中部,南部の地殻構造の特徴が明らかになった(Panayotopoulos, 2008a,b, 2009)。この構造を用いると震源はJMA一元化震源より平均で2km浅く決まることが分かった。

図.南部糸魚川-静岡断層帯周辺の震源分布。3次元速度構造と観測点補正値を考慮した震源(再決定震源)と気象庁一元化震源を比較した。黒の菱形印は気象庁一元化震源で、白い線で対応する再決定震源を結んだ。再決定震源は、一元化震源より平均で約2km浅くなった。

図.南部糸魚川-静岡断層帯周辺の震源分布。3次元速度構造と観測点補正値を考慮した震源(再決定震源)と気象庁一元化震源を比較した。黒の菱形印は気象庁一元化震源で、白い線で対応する再決定震源を結んだ。再決定震源は、一元化震源より平均で約2km浅くなった。

・サブテーマ3:南関東とその周辺域の地殻活動モニタリングシステムの高度化
 平成15年度に「大都市圏地殻構造調査研プロジェクト」によって整備された房総アレイによって、房総半島周辺の地震活動をモニターした。さらに、平成19年度より始められた「首都直下地震防災・減災特別プロジェクト『サブプロジェクト1.首都圏周辺でのプレート構造調査、震源断層モデル等の構築等』」によって設置されている首都圏地震観測網(MeSO‐net)の平成19年度と平成20年度設置分のデータを用いた南関東とその周辺域の地震活動のモニタリングシステムの検討を行った。MeSO‐netは、首都圏の人工的なノイズの高い地域での簡易ボアホール(20m深度)による観測であるが、マグニチュード3程度の地震より大きな地震については、ほぼ全観測点で、震源を決めるために必要な信号対雑音比のデータを得ることが出来ることが示された(平田, 2008a,b)。また、稠密な多点観測を行うことにより、マグニチュード2.8程度までの小地震でも、複数の観測点で解析可能なデータが得られることが示された。また、加速度計をセンサーに用いることにより、広い周波数帯域での観測が可能となり、周期数十秒の長周期震動も十分な信号対雑音比で記録された。

・サブテーマ4:伊豆半島東部及び伊豆諸島での地殻活動モニタリングシステムの高度化
(GPS観測・重力測量・光波測距・地磁気観測等の実施)
 伊豆半島東部では、地電位差、全磁力連続観測を実施している。このうち、全磁力観測について、2008年は全観測点で全磁力が八ヶ岳を基準としておおむね増加傾向にある中で、2006年に観測を再開した与望島(YOB)、手石島(TIS)において、南北に対をなしてYOB(南側)におけては増加、TIS(北側)においては全磁力変化の停滞がみられた。また、伊豆大島では3成分磁場観測、長基線地電位差観測を継続した(詳細は1405参照)。

(8)平成20年度の成果に関連の深いもので平成20年度に公表された主な成果物(論文・報告書等):

・サブテーマ1:宮城県沖地震の震源域及びその周辺の地殻活動モニタリングシステムの高度化
 Yamamoto, Y., R. Hino, K. Suzuki, Y. Ito, T. Yamada, M. Shinohara, T. Kanazawa, G. Aoki, M. Tanaka, K. Uehira, G. Fujie, Y. Kaneda, T. Takanami, and T. Sato, Spatial heterogeneity of the mantle wedge structure and interplate coupling in the NE Japan forearc region, Geophys. Res. Lett., 35, L23304, doi:10.1029/2008GL036100, 2008.
 篠原雅尚・大久保忠博・渡邊いづみ・中東和夫・望月公廣・山田知朗・金沢敏彦・日野亮太・高波鐵夫・佐藤利典・植平賢司、制御震源と海底地震計を用いた日本海溝陸側斜面下のP波速度構造 ‐三陸沖から茨城沖にかけての島弧下マントル構造の空間変化‐、日本地球惑星科学連合2008年大会,J163‐007,幕張,2008.

・サブテーマ2:糸魚川‐静岡構造線の震源域及びその周辺の地殻活動モニタリングシステムの高度化(地震観測による詳細な地震活動把握と精密な震源・発震機構解の決定)
 Panayotopoulos, Y., N. Hirata, H. Sato, T. Iwasaki, A. Kato, K. Imanishi, Y. Kuwahara, I. Cho, P‐ and S‐ wave velocity structure in and around the Itoigawa‐Shizuoka Tectonic Line (ISTL) fault system, ASC‐SSJ Joint Meeting, Tsukuba, Nov.24‐27, 2008a.
 Panayotopoulos, Y., Hirata, N., Sato, H., T. Iwasaki, A. Kato, K. Imanishi,, Y. Kuwahara, I. Cho, P‐ and S‐ wave velocity structure in and around the Itoigawa‐Shizuoka Tectonic Line (ISTL) fault system revealed by dense seismic array observations, 2008 AGU Joint meeting, San Francisco, USA, Dec. 15‐19, 2008b.
 Panayotopoulos, Y., N. Hirata, H. Sato, T. Iwasaki, A. Kato, K. Imanishi, Y. Kuwahara, I. Cho, Seismicity and crustal structure in the southern Itoigawa‐Shizuoka Tectonic Line, submitted to EPS, 2009.

・サブテーマ3:南関東とその周辺域の地殻活動モニタリングシステムの高度化
 平田直、首都直下地震防災・減災特別プロジェクト ―首都圏における超高密度地震観測網―、なゐふる、No.67, May, 2‐3, 2008a.
 平田直、首都直下地震防災・減災特別プロジェクト ― その2「サブプロジェクト1.首都圏周辺でのプレート構造調査、震源断層モデル等の構築等」、世界でも例を見ない、首都圏での高密度地震観測網を構築、地震本部ニュース、平成20年8月号、8‐9,2008b.

・サブテーマ4:伊豆半島東部及び伊豆諸島での地殻活動モニタリングシステムの高度化
(GPS観測・重力測量・光波測距・地磁気観測等の実施)
 なし

(9)本課題の5ヵ年の成果の概要:

・サブテーマ1:宮城県沖地震の震源域及びその周辺の地殻活動モニタリングシステムの高度化
 プレート境界型大地震が過去繰り返し発生している宮城県沖において、長期観測型海底地震計を用いた繰り返し観測を2002年から、現在まで実施している。この観測では、同一の観測点配置による観測を長期間継続して実施することにより、データの蓄積を図るとともに、地震活動の時間変化を検出することが目的である。この観測より、宮城県沖地震の震源域周辺の詳細な微小地震分布が求まった。また、長期間のデータを用いて、地震活動の時間的推移も明らかにされつつある。また、2005年8月に発生した宮城県沖の地震については、展開された海底地震観測網により、本震および余震が観測され、詳細な活動が明らかになった。平成16年度に実施した宮城県沖地震の想定震源域とその周辺における発破による海底地震計を用いた広角反射・屈折法探査により求められた構造および平成18年度に実施した福島県・茨城県沖における発破による海底地震計を用いた広角反射・屈折法探査により求められた構造と、本業務で得られた地震活動の空間分布の比較を行った。その結果、宮城県沖地震の想定震源域周辺では、プレート境界付近における地震活動が高く、さらに、沈み込む海洋プレート内でも微小地震が多く発生していることと解釈される。

・サブテーマ2:糸魚川‐静岡構造線の震源域及びその周辺の地殻活動モニタリングシステムの高度化(地震観測による詳細な地震活動把握と精密な震源・発震機構解の決定)
 「パイロット的な重点的調査観測」プロジェクト(平成14‐16年度)によって、糸魚川‐静岡構造線の構造が、諏訪湖を挟んで北と南で大きく異なることが明らかになった。平成17年度から5ヵ年計画で、「重点的調査観測」が行われている。これらのプロジェクトのデータを活用して、断層周辺の地震活動を調査する手法を開発して、糸魚川‐静岡構造線断層帯周辺の地震活動をモニターした。その結果、水平方向に大きく速度分布が異なる地域での地震活動の把握の方法に関する知見が得られた。本研究によって、観測点間隔2‐3kmの稠密な線状配列した観測点(観測線)を、断層に直交するように約30km程度の測線長で配置し、数か月間の観測を毎年繰り返す方法により、5か年間で南北の差し渡し300km程度、東西方向約30kmの地域の深さ10km程度までの三次元的な速度構造が明らかになった。この構造を使うと震源はJMA一元化震源より平均で3km浅く決まるが、それでも活断層より5 kmから10 km下方に存在する。断層帯の北部に比べて,中・南部では数km震源が深い。このことから、活動度の高い活断層の周辺でも、断層活動に直接関係付けられる微小地震活は少ないことが分かった。
 これらの研究によって、水平方向に速度分布の大きく変わる地域で、適切な観測点補正値と3次元速度構造を用いると、既存テレメータ観測点のデータによっても精度良く震源がきめられることが分かった。この結果、活動的に活断層帯である糸魚川‐静岡断層帯では、断層面付近の活動の他に、断層面から離れた下方に地震活動が活発であることが分かった。断層面の活動と、断層面の下方の活動を適切に分離してモニターすることが重要であることが分かった。

・サブテーマ3:南関東とその周辺域の地殻活動モニタリングシステムの高度化
 南関東は、首都圏を含み、都市部での地震観測が必要な地域であり、従来地震観測は難しいと地域と考えられてきた。地表設置の観測点では高感度の地震観測は困難であるため、深井戸(1000mを越える)での観測が不可欠であると考えられている。これは、究極の方法としては成果が上がるが、多大な経費と設置工事期間が長い等の理由で、多点の観測点の設置は難しい。これに対して、首都圏地震観測網(MeSO‐net)で用いられた方法は、浅い観測孔を用いた簡易ボアホール観測点を多点配置して、観測網全体として信号対雑音比を向上させるものである。MeSO‐netの整備は未だ全体の半分以下であるが、得られたデータの解析結果から、M3程度の地震の記録は20m程度の簡易ボアホール観測でも良好であること、加速度計をセンサーとして用いることにより周期10秒程度の長周期地震動を確実に記録できること、稠密な観測点配置により観測点近傍の地震動の増幅特性(サイトの影響)の違いが大きく、これを適切に考慮することが必要であることが分かった。これらの知見は、南関東とその周辺域の地殻活動のモニタリングに貢献した。

・サブテーマ4:伊豆半島東部及び伊豆諸島での地殻活動モニタリングシステムの高度化
(GPS観測・重力測量・光波測距・地磁気観測等の実施)
 1) 伊豆半島において、全磁力、比抵抗、長基線地電位差モニタリング観測を継続した。この期間、あまり顕著な地殻変動はなかったが、奥野におけるみかけ比抵抗が1994年の活動的であった時期に比べて数%高くなっていたことが確認された。また、2006年に手石島での観測を再開することで手石島‐与望島間の消帯磁を示唆する全磁力変化が捉えられた(詳細は1405参照)。
2) 伊豆大島において、長基線地電位差観測や絶対重力繰り返し観測を実施した。(詳細は1405参照)

(10)実施機関の参加者氏名または部署等名:

  1. 宮城県沖地震の震源域及びその周辺の地殻活動モニタリングシステムの高度化(金沢敏彦他5名)
  2. 糸魚川‐静岡構造線の震源域及びその周辺の地殻活動モニタリングシステムの高度化(岩崎貴哉他4名)
  3. 南関東とその周辺域の地殻活動モニタリングシステムの高度化(平田直、佐藤比呂志、纐纈一起他約10名)

伊豆半島東部及び伊豆諸島の地殻活動モニタリングシステムの高度化(上嶋誠他数名)
他機関との共同研究の有無:

  1. 宮城県沖地震の震源域及びその周辺の地殻活動モニタリングシステムの高度化(金沢敏彦他5名、東北大学等との共同研究)
  2. 糸魚川‐静岡構造線の震源域及びその周辺の地殻活動モニタリングシステムの高度化(岩崎貴哉他4名、千葉大学等との共同研究)
  3. 南関東とその周辺域の地殻活動モニタリングシステムの高度化(平田直、佐藤比呂志、纐纈一起他約10名、京大防災研、防災科研等との共同研究、特定共同研究A)
  4. 伊豆半島東部及び伊豆諸島の地殻活動モニタリングシステムの高度化(上嶋誠他数名、東工大、京都大学等との共同研究)

(11)公開時にホームページに掲載する問い合わせ先:

 部署等名:東京大学地震研究所 地震予知研究推進センター
 電話:03‐5841‐5712
 e‐mail:yotik@eri.u‐tokyo.ac.jp
 URL:http://www.eri.u‐tokyo.ac.jp/index‐j.html

お問合せ先

研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)