東海地方における総合機動観測

平成20年度年次報告

課題番号:1414

(1)実施機関名:

 東京大学地震研究所

(2)研究課題(または観測項目)名:

 東海地方における総合機動観測

(3)最も関連の深い建議の項目:

 2.(2)イ.東海地域

(4)その他関連する建議の項目:

 2.(2)ア.日本列島域
 1.(2)ア.プレート境界域における歪・応力集中機構

(5)本課題の平成16年度からの5ヵ年の到達目標と、それに対する平成20年度実施計画の位置付け:

本観測研究計画では、以下の4点に重点をおいて研究を実施する;

1)GPSは地理院GEONET観測網と相補的になるように約80観測点を「GPS大学連合」独自に建設し、稠密アレイ観測を実施する。GEONETデータと統合処理解析を行い、東海地方の地殻変動を詳細に明らかにするとともに時空間インバージョンの手法を適用して、スローイベントの時空間変化を明らかにする。

2)重力のハイブリッド観測を実施し、御前崎で見出されている特異な重力変化をさらに追跡するとともに、その原因を解明する。また、重力ハイブリッド観測域を異常地殻変動が観測されている地域まで拡充する。

3)地磁気観測を継続して実施し、プレート運動に伴って生じる東海地方の応力変化を磁場変化に基づいて推定する。

4)ひずみ・傾斜観測や地震研以外の関連機関のデータ、さらには基盤観測網他、各種の観測データを取り込んで、地殻活動の総合的理解をすすめる。さらに、特定地域の予測シミュレーション(2(1)イ)と連携し、データ同化の手法を導入しつつ、来る想定東海地震の発生に関するより深い洞察を得る。

 以上の目標に対し、GPSは大学連合による観測網の建設が完了し,基線解析が進みつつあるので、平成19年度は基線解析をさらに進めると共に東海地方における沈み込み過程に関するモデル化について検討する。重力・地磁気及びひずみ・傾斜観測は前年と同様に実施する。

(6)平成20年度実施計画の概要:

 GPS観測は,前年度実現したテレメータ点と共に全点での観測を継続する.重力観測は,従来から行ってきた、重力繰り返し観測を、平成20年度にも伊豆、伊豆諸島、東海地方などで継続し、流体の移動に関連した物理現象を、重力観測でとらえ、地震発生に流体がどのように関与するかの定量化を目指す。地磁気観測グループでは地磁気観測を継続して実施し、プレート運動に伴って生じる東海地方の応力変化を磁場変化に基づいて推定する。ひずみ・傾斜観測は当初の年次計画に従って観測を実施し,取得したデータを用いてデータ解析を進める。
 5カ年計画の最終年度であることを踏まえ,結果のとりまとめを行う.

(7) 平成20年度成果の概要:

1)GPS観測

 テレメータ化した点を含む58観測点でのGPS観測を継続して実施した.テレメータ化した点では1‐Hzサンプリングによる収録も行っている.
 本課題では既にいくつかの研究成果が得られている.まず,我々の観測点のデータとGEONET観測点データを統合解析することにより,GEONETだけでは捕えられないような詳細なひずみ場が明らかとなり,この分布と,地震活動から推定されるひずみの大きな場が調和的であることがわかった(平成19年度年次報告参照).また,GPSデータを詳細に解析したところ,これまでGPSデータでは見えないとされていたいわゆる短期スローイベントに伴う変位も捉えることができた(平成19年度年次報告,及び本報告の課題1403を参照).また,課題1417で収集したGPSデータ及び水準測量データを活用し,東海地域の沈み込むプレート面上の固着分布を推定したところ,両者で結果が有意に異なることが明らかになった.どこに問題があるのか,どのように解決すべきか,課題は残されているが興味深い.

2)重力測定

 東海地域の重力変化の監視を目的として,豊橋市にある名古屋大学三河地殻変動観測所において繰り返し絶対重力測定を実施している.観測地点は珪質岩盤上にあり,地盤振動がきわめて小さく良好な測定環境にある.使用器械は,Micro‐g Solutions社製の絶対重力計FG5(シリアル番号は#109または#212)である.2004年3月上旬から,年2回の観測を繰り返している.図1に2008年11月の豊橋基準重力点における絶対重力測定結果‐セット分布を示す.図2に2004年3月以降の豊橋基準重力点における絶対重力変化を示す.これまでの5年間の結果によると,長期的な重力変化は‐2uGal/yearで減少している.この減少は,スロースリップによる観測点の隆起と調和的である.

 図1 (左)2008年11月の豊橋基準重力点における絶対重力測定結果‐セット分布;(右)2004年からの重力経年変化(エラーバーはセット重力の標準偏差を示す)

図1 (左)2008年11月の豊橋基準重力点における絶対重力測定結果‐セット分布;(右)2004年からの重力経年変化(エラーバーはセット重力の標準偏差を示す)

 同じように,東海地域の重力変化を監視するために,御前崎と豊橋の基準重力観測点に加え,菊川市にある名古屋大学菊川地殻変動観測所に新たな基準重力観測点を設置した.これまでに2008年2月と11月の2回,絶対重力測定を実施した.今後も、年2回の繰り返し重力測定を予定している.2回の測定結果からは,重力値が‐4.3 uGal/yearで減少していることが分かる.

3)電磁気観測

 電磁気観測に関しては、東海地方の5観測点(富士宮、俵峰、舟ヶ久保、相良、春野)で全磁力連続観測を継続した。詳細は1405を参照のこと。また、2007年11月より掛川・森で発生した群発地震や東海スロースリップが起きた地域の地殻比抵抗構造を求め、上記の活動と地殻内流体分布との関連を調べるため、相良から東栄に至る約70kmの測線で広帯域MT観測を行った。東海道線からの漏れ電流ノイズ等が著しく、現在もそのデータ解析が進行中である。

(8)平成20年度の成果に関連の深いもので、平成20年度に公表された主な成果物(論文・報告書等):

(9)本課題の5ヵ年の成果の概要:

1)GPS観測

 東海地方に58点のGPS連続観測網を構築した.GEONETと相補的な観測網を作ることで,平均的な基線距離が数km~10km程度等と世界に類を見ない高密度アレイ観測が実現した.この観測網のデータを用い,様々な研究を実施した.まず,統合処理によって詳細なひずみ場が算出され,得られたひずみ場のうち,面積歪の大きな領域と,地震活動から推定されるひずみの大きな領域等が調和的であることが判明した.このことは本課題で導入した高密度アレイの必要性を明らかにしている.また,これまで検出が難しいとされてきた深部低周波微動の発生域で発生している短期的スローイベントに伴う変位も検出することができ,スローイベントのより詳細なモデル化に寄与できると期待されている.また,一方,GPSデータと水準測量データを統合して処理することにより,沈み込むプレートの固着域が詳細に知られることになる.このための予備的な研究として,それぞれのデータを用いたインバージョン解析を行い,両者による推定固着域が有意に異なることが明らかとなった.この問題の解決は次期計画に残されているが,今後さらに研究をすすめ,東海地域のプレートの沈み込み過程をさらに詳細に明らかにしたいと考えている.

2)重力観測

東海スロースリップ域の監視のため,国土地理院及び名古屋大学と協力して,御前崎及び豊橋における絶対重力観測と,周辺での相対重力観測を実施した.特に,御前崎では,絶対・相対重力観測を1996年から継続している.12年間の重力経年変化を図2に示す.豊橋では2004年から観測を実施しており,絶対重力観測と周辺での相対重力観測をこれまでに9回実施している.その重力経年変化を図1(右)に示す.

図2 (上)御前崎OMZ及び豊橋TYHの観測点配置(下)1996年7月以降の御前崎基準重力点における重力変化

図2 (上)御前崎OMZ及び豊橋TYHの観測点配置(下)1996年7月以降の御前崎基準重力点における重力変化

図2 (上)御前崎OMZ及び豊橋TYHの観測点配置(下)1996年7月以降の御前崎基準重力点における重力変化

3)電磁気観測

 電磁気観測に関しては、東海地方の5観測点(富士宮、俵峰、舟ヶ久保、相良、春野)で5ヶ年にわたって全磁力連続観測を継続した。東海スロースリップに時間的に対応して、2000年頃に変化が停滞し2005年頃に再び変化が始まる磁場変動がとらえられ、定性的には磁場変動の原因を定常的な応力蓄積とスロースリップが起きたことによる応力蓄積の緩和で説明することが可能であった。しかし、定量的には、磁場変化の絶対値が大きすぎるという問題が残り、主磁場変動分布の吟味やローカルな磁気異常がもたらす効果についての吟味が必要である。詳細は1405を参照のこと。

(10)実施機関の参加者氏名または部署等名:

 加藤照之、宮崎真一、上嶋誠、小河勉、小山茂,山崎健一,大久保修平、孫文科
 他機関との共同研究の有無:有
 GPS大学連合:約5名
 国土地理院 2名
 名古屋大学大学院環境学研究科 1名

(11)公開時にホームページに掲載する問い合わせ先:

 部署等名:東京大学地震研究所 地震予知研究推進センター
 電話:03‐5841‐5712
 e‐mail:yotik@eri.u‐tokyo.ac.jp
 URL:http://www.eri.u‐tokyo.ac.jp/index‐j.html

お問合せ先

研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)