海底地殻変動観測システムの高度化

平成20年度年次報告

課題番号:1207

(1)実施機関名:

 東北大学大学院理学研究科

(2)研究課題(または観測項目)名:

 海底地殻変動観測システムの高度化

(3)最も関連の深い建議の項目:

 3(1) 海底緒観測技術の高度化

(4)その他関連する建議の項目:

 1(2)ア プレート境界域における歪・応力集中機構

(5)本課題の平成16年度からの5ヵ年の到達目標と、それに対する平成20年度実施計画の位置付け:

平成16年度からの5ヶ年の到達目標:

 日本海溝周辺海域においてプレート境界におけるすべり・固着状況を解明するのに役立つ海底地殻変動観測を実現することを目的とする。海底の水平変動を検出するために、水中音響測距ならびに長基線GPSキネマティックス解析の技術革新をすすめ、海溝陸側で2cm、海側で3cm程度の繰り返し観測の再現性を達成することを具体的な技術開発の目標とする。一方、相対的な上下変動については、海底における長期圧力変動観測の技術革新を計り、1cmの検出分解能を達成することを目標とする。

20年度実施計画の位置付け:

 曳航ブイを用いたGPS音響結合方式の海底精密測位において、平成19年度に提案した手法を用いて観測を行い、従来の方法との比較で、観測時間と測位精度の関係を明らかにする。また宮城県沖において開始した長期圧力観測のデータを回収し、センサーのドリフトや海洋変動の影響を評価する。

(6)平成20年度実施計画の概要:

曳航ブイを用いたGPS音響結合方式の精密海底測位の繰り返し観測を進める。宮城県沖における繰り返し観測を進める中で、平成19年度に提案した手法を用いて観測を行い、従来の方法との比較で、観測時間と測位精度の関係を明らかにする。また、長期連続観測を目指して、係留ブイ用観測システムを用いた試験観測を行う。さらに、宮城県沖の陸側および海側のアスペリティの近傍における長期圧力観測を継続するとともに、長期圧力観測データを回収し、センサーのドリフトや海洋変動の影響を評価する。

(7)平成20年度成果の概要:

1. GPS音響結合方式の海底精密測位観測の効率化と精度向上に向けた取り組み:

 宮城県沖および熊野灘において、曳航ブイを用いたGPS音響結合方式の精密海底測位の繰り返し観測を進める中で、解析手法の高度化に向けた取り組みを行った。この観測における第一の問題は、海中の音速構造の変化である。そこでこの測位解析から推定された鉛直方向の音速の時間変化と海洋物理観測の結果を比較し、両者が一致することを確認した(Kido et al., 2008)。これはこの手法の測位解析の信頼性を示すものである。問題は、音速の水平勾配が海底の測位に直接影響するということであり、5台の音響測位用海底局を用いることにより、海底の測位とともに海中の音速構造の水平勾配を求める解析をおこなった。そのためには、ブイの動揺をより精密にモニターすることが必要なので、50Hzのモーションセンサー、10HzのGPSジャイロ、および1HzのGPS測位の統合解析ソフトを整備した(木戸・他,2008)。その上で観測データの解析を進めたが、海上のGPS鉛直測位誤差が影響していることが分かった。短時間の観測で2‐3cmの測位精度を達成するためには、今後この問題をクリアする必要がある。また、長期連続観測を目指して開発した縦長の係留ブイ方式の自動観測システムを用いて試験観測を行い、安定した測位解析ができることを確認した(藤本・他,2008)。

2. 海底圧力アレイ観測による相対的な上下変動の検出:

 宮城県沖の陸側および海側のアスペリティの近傍にGPS音響結合方式の海底精密測位観測点があり、平成19年度にその2点における長期圧力観測を開始した。20年度は、その観測データを回収して解析を行うとともに、2点における圧力観測を継続し、さらに陸側のアスペリティ周辺における観測を強化した。過去の圧力観測データも合わせて解析し、圧力センサーのドリフトは、少数の例外を除けば、ほぼ一定で、水深換算で年間10cm程度であることが分かった。また滑り込みプレート境界におけるゆっくり滑りを海底圧力観測により検出するために、数値実験を行い、望ましい観測アレイの配置や、検出感度を評価した。

(8)平成20年度の成果に関連の深いもので、平成20年度に公表された主な成果物(論文・報告書等):

 Kido, M., Y. Osada, and H. Fujimoto, Temporal variation of sound speed in ocean: a comparison between GPS/acoustic and in situ measurements, Earth Planet. Space, 60, 229‐234, 2008.
 Osada, Y., M. Kido, H. Fujimoto, and Y. Kaneda, Development of a seafloor acoustic ranging system toward the seafloor cable network system, Ocean Engineering, 35, 1401‐1405, doi: 10.1016/j.oceaneng.2008.07.007, 2008.

藤本博己・木戸元之・長田幸仁・金田義行,GPS/A方式海底地殻変動連続観測に向けた観測システムの開発,測地学会誌, 54 (3), 181‐187, 2008.

木戸元之・藤本博己・長田幸仁,過去の海底地殻変動観測における動揺センサーデータの有効利用について,測地学会誌, 54 (3), 163‐179, 2008.

長田幸仁, 水上知子, 木戸元之, 太田雄策, 対馬弘晃, 三浦哲, 藤本博己,10Hz GPS受信機導入による海底地殻変動観測高度化の試み,測地学会誌, 54 (3), 141‐151, 2008.

(9)本課題の5ヵ年の成果の概要:

1.GPS音響結合方式の海底精密測位観測による水平変位の検出

 平成17年6月に、福島県沖に海底局3台を設置するとともに、宮城県沖の海溝陸側の2サイトで測位観測を行った。宮城県沖のGJT4サイト(北緯38度24.4分、東経142度50.0分)ではプレート沈み込みに伴う上盤プレートの変形と解釈される地殻変動を検出した。
 熊野灘中央部における測位観測により、2004年9月の紀伊半島南東沖地震に伴う約30cmの海底地殻変動を確認した。これは大地震に伴う海底地殻変動を世界で初めて海底で捉えたものであり、図1に示すように、陸上と海底における観測結果を合わせて解析すると、北西に伸びる断層の位置が余震分布とよい一致を示すことが確認された。
 平成18年4月に海上保安庁および名古屋大学と共同で海洋研究開発機構の無人探査機ハイパードルフィンを用いた海底観測を行い、それぞれの機関が熊野灘に設置している海底局の設置状況の目視観察を行った。上記の紀伊半島沖地震の断層が観測点付近に延びているが、海底局の設置状態には異常がないことを確認できた。
 宮城県沖および熊野灘において、曳航ブイを用いたGPS音響結合方式の精密海底測位の繰り返し観測を進める中で、解析手法の高度化に向けた取り組みを行った。東北大学では、米国スクリップス研究所が行っている音速変化の影響をほとんど受けない定点観測方式の形態を採用している。しかし、曳航ブイの定点保持精度は100m程度であり、音速の補正が必要となってくる。そこで音響測距の走時残差から鉛直方向の音速の時間変化をモニターするアルゴリズムを開発し、独立した海洋物理観測データと一致することを示した。更なる測位精度の向上には、音速場の水平勾配もモニターする必要があり、5台の海底局を同時観測することによりこれが可能であることをシミュレーションにより示した。しかし実際の観測においては、GPS測位の上下成分の誤差が勾配の推定を困難にすることが判明し、これを解決するための、新たな観測形態を考案した。
 曳航ブイの正確な位置と姿勢をモニターするため、最終的に10HzのGPSジャイロを導入し、実用上問題のない精度で海面の音響送受波器の位置を追跡できることを示した。1HzのGPSジャイロを使っていた過去のデータについても、動揺センサーのデータと同化させるアルゴリズムを開発し、10Hzの場合と遜色のない精度を得た。
 また、長期連続観測を目指して開発した縦長の係留ブイ方式の自動観測システムを用いて試験観測を行い、安定した測位解析ができることを確認した。

図1. 海底地殻変動観測を考慮しない場合(a)、と考慮した場合(b)の、紀伊半島沖地震の推定断層モデル。赤矢印は東北大学が観測した地震前後の海底変位ベクトル。青矢印は断層モデルから計算される変位(Kido et al., 2006)。

図1. 海底地殻変動観測を考慮しない場合(a)、と考慮した場合(b)の、紀伊半島沖地震の推定断層モデル。赤矢印は東北大学が観測した地震前後の海底変位ベクトル。青矢印は断層モデルから計算される変位(Kido et al., 2006)。

2.海底圧力アレイ観測による相対的な上下変動の検出

 海水によるセンサーの腐食に対する対策を施した海底圧力計を襟裳岬沖、岩手県沖および宮城県沖に設置し、約1年間の観測を行って、対策の効果を調べた。その結果、腐食対策は非常に効果があり、また圧力観測にも影響がないことが確認できた。
 海底の上下変動の検出を目指す圧力観測にとって、海洋変動の潮汐成分および非潮汐成分の解析は極めて重要である。そこで海面高観測用衛星の軌道交点のうち三陸沖の2点の真下で長期間の海底圧力観測を行い、潮汐成分と非潮汐成分に分けて調べた。観測された8つの潮汐成分の和は、5つの世界の主要な海洋潮汐モデルと1.3cmの精度で一致した。非潮汐成分は、海面高から経験的に推定した結果とは合わず、風圧に基づくECCOモデルと水圧に基づく九州大学モデルとの比較では、後者の方が比較的よく合うが、両者の結合モデルが必要であり、特に周期30日以下の短周期成分についてその傾向が強いことが分かった。
 岩手県や宮城県沖等における過去の圧力観測データを解析し、圧力センサーのドリフトは、少数の例外を除けば、ほぼ一定で、水深換算で年間10cm程度であることが分かった。また滑り込みプレート境界におけるゆっくり滑りを海底圧力観測により検出するために、数値実験を行い、望ましい観測アレイの配置や、検出感度を評価した。

3.堆積層に覆われた海底の傾斜変動観測の研究

 長さ約5mの鉄パイプに海中測位装置を取り付け、そのパイプが海中を鉛直に落下するようにロープと小さな円盤を付けて海面から投下し、無人探査機でそのパイプを探して、傾斜計を設置することを試みた。最初の試みではパイプを観察できたが、その半分以上が海底の上に残ったので、次の試みでは円盤を小さくした。すると、パイプとともに測位装置も海底に埋まったらしく、パイプを見つけることはできなかった。測位装置が使えなくなったことと、上記2項目の研究で手一杯になったので、この項目に関する研究の続行は次期以降に延期することとした。

(10)実施機関の参加者氏名または部署等名:

 藤本博己・日野亮太・三浦哲・木戸元之・長田幸仁・対馬弘晃
 他機関との共同研究の有無:有
 東京大学地震研究所(2名)と共同で研究を進めた。また、海上保安庁海洋情報部(2名)、国土地理院(1名)、および海洋研究開発機構(2名)と研究協力を進めた。

(11)公開時にホームページに掲載する問い合わせ先:

 部署等名:東北大学大学院理学研究科 地震・噴火予知研究観測センター
 電話:022‐225‐1950
 e‐mail:zisin‐yoti@aob.geophys.tohoku.ac.jp
 URL:http://www.aob.geophys.tohoku.ac.jp/

お問合せ先

研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)